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▶ M&Aを弁護士に依頼するのはどの段階か 基本合意書の署名前に相談しなければ失われるもの
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出資を受けることが決まり、投資家から株主間契約書の案文が届きました。20頁を超える英文交じりの書面には、取締役の指名、事前承諾を要する事項、株式の処分の制限、そして出口に関する条項が並んでいます。資金は早く必要ですし、条件のほとんどは定型的なものだと説明されています。しかし、この一通の署名によって、経営者が自社について単独で決められる範囲は大きく変わります。
株主間契約は、会社の登記にも定款にも現れません。外からは見えないところで、誰が取締役を選ぶのか、どの決定に他の株主の同意が要るのか、株式をいつ誰に売ることができるのかが決まっています。合弁事業の設立時、投資家からの出資の受入れ時、親族や役員に株式を分けるときなど、複数の株主が並び立つ場面では必ず登場します。
結論から申し上げます。株主間契約で決定的なのは、拒否権の対象範囲と、出口の条件の二つです。この二つは、署名の後に変更することが極めて困難ですので、案文の段階で徹底して詰める必要があります。以下、順にご説明します。
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株式に関する契約は種類が異なると検討事項も変わりますので、次のとおり分けて解説しています。
- 株主の間の権利義務を定める契約を確認する場面……本記事
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- 既に分散した株式を集約する場面……分散した自社株式の集約を弁護士に依頼するとき M&Aの前に株主を整理する手順と期間
株主間契約は、定款とは別に効力を持ちます
株主間契約は、株主となる者の間で締結される契約です。当事者を拘束する債権契約であり、会社の組織そのものを定める定款とは、性質も効力の及ぶ範囲も異なります。
定款について、会社法第29条は、同法第27条各号及び第28条各号に掲げる事項のほか、会社法の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項及びその他の事項でこの法律の規定に違反しないものを記載し、又は記録することができると定めています。すなわち、定款に書ける事項には法律上の枠があります。他方、株主間契約は当事者の合意ですので、法令に反しない限り、より柔軟な内容を定めることができます。
この柔軟さが利点であると同時に、限界でもあります。契約は当事者を拘束するにとどまり、契約に加わっていない者や、会社そのものを当然には拘束しません。したがって、実務では、会社を契約の当事者に加えるか、あるいは重要な事項については定款や種類株式に落とし込むという設計を併せて検討します。
取締役の指名権と、拒否権を要する事項の範囲
株主間契約の中心は、経営に関与する仕組みです。まず、各株主が指名することができる取締役の人数と、指名された者を選任するために他の株主が議決権を行使する義務が定められます。会社法第329条第1項は、役員及び会計監査人は株主総会の決議によって選任すると定めていますので、契約上の指名権は、株主が総会でどう議決権を行使するかという義務として構成されます。
次に、一定の事項について、あらかじめ特定の株主の書面による同意を要するという条項が置かれます。対象として挙げられるのは、定款の変更、新株の発行、剰余金の配当、事業の譲渡、合併や会社分割、多額の借入れ、一定額を超える設備投資、代表取締役の変更、子会社の設立などです。
この一覧が長いほど、経営者は自らの判断で動けなくなります。検討すべきは、項目そのものの当否よりも、絞り込みの方法です。金額の基準を設けて少額の取引を除く、日常の業務執行に属する事項を除く、事前の事業計画に沿った行為を除く、といった限定を入れることで、実務が回る範囲に収めることができます。同意を求めたのに回答が得られない場合の取扱いを定めておくことも忘れないでください。
株式の処分を制限する条項の種類と、その強さ
株式の処分に関する制限には、いくつかの段階があります。最も強いのが、一定の期間、株式を一切処分しない旨の約束です。次に、処分するには他の株主の事前の書面による承諾を要するという定めがあります。さらに緩やかなものとして、処分をする場合に事前に通知することのみを求める定めがあります。
これらは、定款による譲渡制限とは別のものです。会社法第107条第1項第1号は、会社が発行する全部の株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について会社の承認を要する旨を定めることができるとしています。定款による制限は会社との関係で働くのに対し、契約による制限は当事者の間で働きます。
ここが実務上の要点になります。契約に違反して株式が譲渡された場合、違反した株主は契約上の責任を負いますが、譲渡そのものの効力は別の問題として扱われます。譲受人が契約の当事者でない以上、その者に契約の効力を及ぼすことは容易ではありません。したがって、確実に処分を防ぎたい場合には、契約による制限に加えて、定款による譲渡制限を置き、さらに違反に対する金銭の制裁を定めるという重ね方が必要になります。
先買権、共同売却権及び強制売却権の使われ方
株式の処分に関しては、三つの仕組みが組み合わされます。第一が先買権です。株主が株式を第三者に譲渡しようとする場合に、他の株主が同じ条件で優先的に買い取ることができるという定めです。買い取る意思の表明の期間、価格の決め方、一部だけを買い取ることの可否を明確にしておかなければ、実際の場面で機能しません。
第二が共同売却権です。多数を持つ株主が第三者に売却する場合に、少数の株主も同じ条件で一緒に売ることができるという定めです。少数株主が取り残されることを防ぐための仕組みであり、少数側にとって重要な条項になります。
第三が強制売却権です。一定の要件を満たす売却の機会が生じた場合に、多数を持つ株主が、他の株主に対しても同一の条件で売却することを強制できるという定めです。買主が全部の株式の取得を求める場面で用いられます。少数側から見ると、意思に反して株式を手放すことになりますので、発動の要件、最低の価格、対象となる買主の範囲を限定することが交渉の中心になります。この条項の有無は、将来の売却の可否を左右します。
出口の条件を定めないまま合意することの危険
出資を受ける側にとって最も見落とされやすいのが、出口に関する条項です。出資者は、投下した資金をいつか回収しなければなりません。回収の道は、上場、第三者への売却、会社又は経営者による買戻しに限られます。
この道が契約に書かれていない場合、時間が経つほど関係は苦しくなります。出資者は回収を求め、経営者は資金を出す余裕がなく、株式の売却先も見つからないという状態が続きます。株主総会は形式的なものとなり、追加の出資も受けられません。10年以上この状態が続いている会社が現に存在します。
したがって、出資を受ける段階で、一定の時期までに上場に至らない場合の取扱いを決めておく必要があります。買戻しの義務を負う主体を会社とするか経営者個人とするか、価格をどのように算定するか、支払を分割することができるかを定めます。会社が自己の株式を取得する方法による場合には、分配可能額による財源の制限がありますので、会社の財務状況によっては実行できないことにも留意してください。経営者個人が買い戻す義務を負う条項は、後に個人の破産に至る原因ともなり得ますので、慎重な検討が必要です。
契約に違反された場合に、何を請求することができるのか
株主間契約に違反があった場合、まず考えられるのは損害賠償です。民法第415条第1項は、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者はこれによって生じた損害の賠償を請求することができる旨を定めています。もっとも、議決権の行使に関する義務の違反について、損害の額を立証することは容易ではありません。
そこで、民法第420条第1項が定める賠償額の予定が用いられます。同項は、当事者は債務の不履行について損害賠償の額を予定することができるとしており、同条第3項は、違約金は賠償額の予定と推定するとしています。あらかじめ金額を定めておけば、損害の立証を要せずに請求することができます。
履行そのものを求める道もあります。民法第414条第1項は、債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができるとし、ただし債務の性質がこれを許さないときはこの限りでないとしています。株式の譲渡義務のように給付の内容が明確なものについては、この規定による強制が考えられます。他方、議決権を一定の内容で行使する義務については、事後の救済に頼るよりも、次に述べる仕組みによってあらかじめ担保しておく方が確実です。
定款の定めと矛盾した場合に、どちらが優先するのか
株主間契約に定めた内容と、定款の定めや会社法の規律とが食い違うことがあります。株主総会の決議は、定款と会社法に従って効力が判断されますので、契約に違反する内容の議決権行使がされた場合であっても、その決議が当然に無効となるわけではありません。契約に違反した株主が契約上の責任を負うにとどまるのが原則です。
この限界を補うために用いられるのが、種類株式と定款の定めです。会社法第108条第1項第8号は、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、その種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするものについて、内容の異なる種類の株式を発行することができるとしています。拒否権を会社の組織に組み込む方法です。
同項第9号は、その種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任することについて定めることができるとしており、ただし書により、指名委員会等設置会社及び公開会社はこの定めがある種類の株式を発行することができません。また、同法第109条第2項は、公開会社でない株式会社は、同法第105条第1項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができるとしています。契約で守りたい事項のうち中核をなすものは、これらの仕組みによって定款に落とし込むことを検討してください。なお、定款の変更には、同法第309条第2項による特別決議が必要です。
なぜ出資者は、拒否権の範囲を広く求めるのか
出資者の側から見ると、株式を取得しても、会社の意思決定を左右できるとは限りません。持株比率が過半数に達しなければ、通常の決議を単独で成立させることはできず、会社法第309条第2項の特別決議を要する事項については、3分の1を超える持株がなければ阻止することもできません。
加えて、出資者は日常の業務執行に関与しませんので、情報の面でも不利な立場に置かれます。会計帳簿の閲覧や取締役の派遣といった手段はありますが、いずれも事後的なものです。事前に同意を求める仕組みは、この不利を補うために求められます。
この理由を理解すれば、交渉の方向が見えます。すべての項目に反対するのではなく、出資者が本当に懸念している事項、すなわち持株比率の希釈、会社の財産の流出、経営者の交代に関わる事項については同意を要するものとし、その他の日常的な事項については報告の義務にとどめるという整理が現実的です。情報提供の充実と引換えに拒否権の範囲を狭めるという交渉は、双方にとって受け入れやすい解決になります。
弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期
当事務所が行う作業は、次のとおりです。提示された案文の逐条の検討と、経営に与える影響の説明。拒否権の対象範囲の絞り込みに関する修正案の作成。株式の処分に関する各条項の要件と手続の明確化。出口に関する条項の設計と、買戻しの主体及び価格算定方法の検討。契約の内容のうち定款又は種類株式に落とし込むべき事項の選別と、そのための定款変更の議案の作成。違反があった場合の救済手段の設計です。
依頼の時期は、案文を受け取った直後です。出資の実行日が決まっている案件では、検討の時間が限られますので、条件を交渉できる期間は実質的に数週間しかありません。既に締結してしまった契約についても、更新の時期、追加の出資の機会、当事者の変動の機会をとらえて、条件を見直すことができる場合があります。内容に不安がある場合は、その時期を待たずにご相談ください。
いま確認していただきたいこと
まず、手元の案文から、事前の同意を要する事項を書き出し、それぞれについて、直近3年の間に実際に発生した回数を書き添えてください。頻繁に発生する事項が含まれていれば、その条項は日常の業務を止めます。金額の基準を入れるべき項目が、この作業で明らかになります。
次に、株式の処分に関する条項を読み、ご自身が株式を売りたくなった場合に、誰の同意が必要で、どのような手順を経ることになるのかを図に書き出してください。あわせて、出資者が回収を求めてきた場合に、誰が、いつまでに、いくらで買い取ることになるのかを確認してください。この二つの経路が書かれていない契約は、将来の紛争の原因になります。
よくあるご質問
投資家から、これは標準的な内容だから修正はできないと言われました
雛形として広く用いられている条項が含まれていることは事実ですが、金額の基準、期間、対象の範囲は、案件ごとに交渉されているのが実務です。全体を書き換えることを求めるのではなく、経営に支障が生じる項目を特定し、その理由を示して限定を求めるという進め方であれば、応じられることが多くあります。
親族の間で株式を分ける場合にも、株主間契約は必要ですか
必要です。むしろ、親族間の方が、後の世代で相続によって株主が増え、意思の統一が困難になります。相続が生じた場合の株式の取扱い、議決権の行使の方法、会社を売却する場合の手続を、当事者の関係が良好なうちに定めておくことをお勧めします。
強制売却権の条項は、絶対に受け入れられませんか
そのようなことはありません。発動の要件を、一定の価格を上回る場合に限る、一定の期間の経過後に限る、経営者の同意を要するものとするといった限定を加えることで、受け入れられる形にすることができます。買主が全部の株式の取得を求める場面では、この条項があることが売却の実現に役立つ面もあります。
契約に違反して株式が第三者に売られてしまいました
まず、定款に譲渡制限の定めがあるかを確認します。定めがあり、会社の承認を経ていないのであれば、会社との関係での取扱いを検討することができます。あわせて、違反した株主に対し、契約に定められた違約金又は損害賠償の請求を行います。譲受人が契約の存在を知っていた事情がある場合には、その点も含めて主張を組み立てます。
株主間契約は、登記や公告が必要ですか
不要です。当事者の間の契約ですので、外部に公示されることはありません。そのため、後に会社を売却する際、買主から契約書の提出を求められて初めて、拒否権や処分の制限の存在が問題になることがあります。契約書は原本を確実に保管し、当事者の変動があった場合には書面で承継の手当てをしてください。
おわりに
株主間契約は、締結した時点では誰も困りません。困るのは、株主の間で意見が分かれたときと、株式を手放したくなったときです。その二つの場面を想定して条項を読み直せば、いま直すべき箇所が見えてきます。署名の前であれば、まだ十分に間に合います。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
株主間契約書の確認に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
- 会社法第29条
- 会社法第107条第1項第1号
- 会社法第108条第1項第8号及び第9号
- 会社法第109条第2項
- 会社法第309条第2項
- 会社法第329条第1項
- 会社法第339条第1項
- 民法第414条第1項
- 民法第415条第1項
- 民法第420条第1項及び第3項
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