売買代金の額は決まり、買主から株式譲渡契約書の案文も届きました。ところが、御自身の会社の定款を開いてみると、株式の譲渡には取締役会の承認を要する旨の定めが置かれています。承認をどの機関に、どのような書面で求めればよいのか、承認が得られなかったときに何が起きるのか、株主名簿はいつ書き換えればよいのか。ここで手が止まってしまう売主様と買主様が数多くいらっしゃいます。
日本の中小企業の大半は、その発行する全部の株式について譲渡制限の定めを置いています。望まない第三者が株主として入り込むことを防ぐための仕組みですが、実際に株式を動かす場面になると、当事者の合意だけでは越えられない関門として立ち現れます。加えて、株主名簿が長年更新されていない会社、定款の写しが手元にない会社、株券を発行する旨の定めだけが残っていて現物が存在しない会社が多く、手続の入口で足止めを受けることになります。
結論から申し上げます。株式は、売買の合意と代金の支払だけでは会社に対して主張することができず、譲渡承認の決定と株主名簿の書換えを経て、初めて株主として扱われる状態になります。この二つの段取りを設計しないまま決済日を迎えることが、最も多い事故です。以下、順に御説明します。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
株式の移転に関する御相談は、手続の局面ごとに検討すべき事項が異なりますので、次のとおり整理しています。
- 会社法上の譲渡承認手続と株主名簿の書換えを進める場面……本記事
- 売却の価格と条件を交渉する場面……株式の売却交渉を弁護士に依頼するとき オーナーが価格と条件を守るための交渉の組み立て
- 契約書の条項を精査する場面……株式譲渡契約書の確認を弁護士に依頼するとき 署名の前に見ておくべき条項と依頼の時期
- 散らばった株式を買い集める場面……分散した自社株式の集約を弁護士に依頼するとき M&Aの前に株主を整理する手順と期間
価格の合意ができても、株式は当然には移りません
株式の売買は、当事者の意思表示によって成立します。しかし、それが会社に対して効力を持つかどうかは別の問題です。会社法第130条第1項は、株式の譲渡は、取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、会社その他の第三者に対抗することができない旨を定めています。同条第2項により、株券発行会社では、この規定は会社に対する関係でのみ適用されます。
さらに、定款に株券を発行する旨の定めが置かれている会社では、会社法第128条第1項が、株券の交付をしなければ譲渡の効力を生じないと定めています。株券発行会社における株式の譲渡は、意思表示だけでは当事者の間においてすら効力を生じません。
代金の送金と契約書の取り交わしだけを済ませ、承認と名簿の処理を後日に回した結果、買主が株主総会を招集することも役員を交代させることもできない状態が数箇月続く。代金を支払う日と、株主として扱われる日とを一致させる設計が必要です。
譲渡制限の有無は、定款と登記のどちらで確かめるか
会社法第107条第1項第1号は、会社がその発行する全部の株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について会社の承認を要する旨を定めることができるとしています。種類株式として一部の株式にのみ譲渡制限を付す場合は、同法第108条第1項第4号によります。
定めの有無そのものは、登記事項証明書の「株式の譲渡制限に関する規定」の欄で確認することができます。手続の第一歩としては、法務局で登記事項証明書を取得することが最も確実です。
もっとも、登記では分からない事項が二つあります。一つは承認をする機関です。会社法第139条第1項本文は、承認をするか否かの決定は株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によるとしつつ、同項ただし書で定款に別段の定めを置くことを認めており、代表取締役の決定によるとする定款も存在します。もう一つは、回答期間を短縮する定款の定めです。いずれも現行の定款の全文を見なければ判明しません。定款の写しが見当たらない場合には、原始定款とその後の株主総会議事録をたどって現行の内容を復元する作業から始めます。
譲渡承認の請求は、誰が誰に対して行うのか
会社法第136条は、譲渡制限株式の株主が、その有する譲渡制限株式を他人に譲り渡そうとするときは、会社に対し、その他人が当該株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる旨を定めています。売る側からの請求です。
これに対し、同法第137条第1項は、譲渡制限株式を取得した株式取得者が、会社に対し、取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができるとしています。買った側からの請求であり、同条第2項により、この請求は、原則として株主名簿上の株主又はその一般承継人と共同してしなければなりません。
請求の方式は同法第138条が定めます。譲り渡そうとする株式の数と譲り受ける者の氏名又は名称に加え、同条第1号ハは、会社が承認をしない旨の決定をする場合において会社又は指定買取人が買い取ることを請求するときはその旨を明らかにしなければならないとしています。実務上、この買取請求の記載を落とした請求書が少なくありません。記載がなければ、不承認となった場合に会社の買取義務は生じず、株式を手放す道が閉ざされます。請求書の起案は、この一行の有無で結果が変わります。
会社が承認しない場合に動き出す買取りの手続と、価格の決め方
会社は、承認をするか否かの決定をしたときは、会社法第139条第2項により、譲渡等承認請求をした者に対して決定の内容を通知しなければなりません。同法第145条第1号は、請求の日から2週間(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間)以内にこの通知をしなかった場合には、承認をする旨の決定をしたものとみなす旨を定めています。会社が黙っていれば承認になるという仕組みです。
不承認の決定がされ、かつ前記の買取請求の記載があるときは、同法第140条により、会社は対象株式を買い取らなければならず、又は指定買取人を指定することになります。会社が買い取る場合、同法第141条第1項の通知を行い、同条第2項により、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額を本店の所在地の供託所に供託し、その供託を証する書面を請求者に交付しなければなりません。
売買価格は、同法第144条第1項により当事者の協議で定めます。協議が調わない場合、同条第2項は、会社又は譲渡等承認請求者は、第141条第1項の通知があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができるとしています。この20日を徒過すると、同条第5項により、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じた額が売買価格となります。なお、組織再編等に反対する株主の買取請求では、同法第117条第2項により申立期間は30日とされ、起算点も異なります。同じ「買取り」でも制度ごとに日数が違いますので、混同は禁物です。
株主名簿の書換えを請求できる時期と、拒まれた場合の手段
承認が得られたら、次は名簿です。会社法第133条第1項は、株式を会社以外の者から取得した者は、会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる旨を定めています。同条第2項により、この請求は、法務省令で定める場合を除き、株主名簿上の株主又はその一般承継人と共同してしなければなりません。売主の協力が必要ですので、売主が所在不明となった後では手続が滞ります。
会社が承認の決定をしながら書換えに応じないという事態も、旧経営陣と買主の関係が悪化した場合に起こります。承認済みでありながら書換えを拒むことは第133条第1項に反する取扱いですので、配達証明付内容証明郵便による請求を先に行い、応答がなければ名義書換えを求める訴えの提起を検討します。
そこで、株式譲渡契約書に、売主が名義書換えの請求に共同して署名する義務と、会社が決済日に名簿の記載を完了する義務を書き込み、名簿の写しの交付を代金支払の条件とすることが有効です。書類の交付と送金を同じ場で行う設計にしておけば、後から協力を求める必要がなくなります。
株券を発行する旨の定めが残っている会社で生ずる問題
登記に株券を発行する旨の定めが残っているのに、現物がどこにも存在しない会社が多く見られます。会社法第215条第1項は、株券発行会社は株式を発行した日以後遅滞なく株券を発行しなければならないと定めますが、同条第4項は、公開会社でない株券発行会社は、株主から請求がある時までは株券を発行しないことができるとしています。この規定により、発行しないまま今日に至った会社が生じています。
対処の道は二つです。第一に、株券を発行する旨の定款の定めを廃止する方法です。会社法第218条第1項は、この定款変更をしようとするときは、効力発生日の2週間前までに、定めを廃止する旨、効力発生日、その日に株券が無効となる旨を公告し、かつ株主及び登録株式質権者に各別に通知しなければならないとしています。株式の全部について株券を発行していない会社では、同条第3項により公告を要しません。第二に、株券を現に発行して交付する方法です。紛失している場合には同法第221条以下の株券喪失登録を経ることになり、相応の期間を要します。
いずれの道を選ぶかは決済日から逆算して決めます。定款変更を選ぶ場合、2週間を確保できなければ決済日が動きます。なお、不承認となって会社が買い取る場面では、同法第141条第3項により、譲渡等承認請求者は通知を受けた日から1週間以内に株券を供託所に供託しなければなりません。
なぜ会社は、譲渡の承認を先延ばしにするのか
承認の請求を出したのに、会社から何の連絡も来ない。この状況には典型的な事情があります。譲受人が同業他社である場合、取締役会の中で情報の流出を懸念する意見が出ます。他の少数株主との間に過去の紛争がある場合、承認によって株主構成が変わることを避けようとします。オーナーの親族が役員に就いている会社では、家族の間の感情が決議を遅らせます。
しかし、先延ばしは会社側にとって有利な戦術ではありません。前記のとおり、会社法第145条第1号により、請求の日から2週間で承認とみなされるからです。不承認とするのであれば、期間内に決議して通知し、買取りの手当てまで進める必要があります。この点を請求書に明記しておくことで、会社の対応が動く場合があります。
してはならないのは、回答がないことを理由に、名簿の書換えを求めないまま議決権を行使しようとすることです。期間の経過を書面で確認し、みなし承認を前提として書換えを請求するという順序を守ってください。
弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期
当事務所が引き受ける作業は次のとおりです。登記事項証明書と定款と株主名簿を突き合わせ、承認機関と回答期間を確定すること。会社法第138条の記載事項を落とさない譲渡承認請求書を起案し、配達証明付内容証明郵便で発送すること。会社側に立つ場合は、取締役会議事録及び第139条第2項の通知書を作成すること。不承認の場合には、供託、価格の協議、第144条第2項の申立ての要否を判断すること。承認後は、名義書換請求書と株主名簿を整えることです。
依頼の時期は、株式譲渡契約書の案文が固まる前です。承認と名簿の段取りが決まらなければ、前提条件やクロージングの日付を書くことができません。既に請求書を発送した後でも、回答期間の管理は可能です。
いま確認していただきたいこと
最初に、法務局で登記事項証明書を取得し、株式の譲渡制限に関する規定の有無と、株券を発行する旨の定めの有無を確認してください。次に、現行の定款の全文を探し、承認機関と、回答期間を短縮する定めの有無を確認してください。定款が見当たらない場合は、その事実自体を把握しておくことが出発点になります。
あわせて、株主名簿の現物を確認してください。会社法第121条は、会社は株主名簿を作成し、株主の氏名又は名称及び住所、その株主の有する株式の数、株式を取得した日、株券発行会社では株券の番号を記載し、又は記録しなければならないと定めています。この記載を満たさない一覧表を株主名簿として使っている会社が少なくありません。過去の相続や譲渡が反映されているかを、決済日の前に確かめてください。
よくあるご質問
株主が2名だけの会社です。全員が同意していれば、承認の手続を省略してよいですか
定款に譲渡制限の定めがある以上、省略することは適切ではありません。全員の同意があるのであれば、株主総会又は取締役会の決議として承認の決定を行い、議事録を残すことが容易にできるはずです。後日、株式の帰属が争われた際に、承認の決定を示す書面がないことが弱点となります。
譲渡承認請求書に、買取りを求める旨を書き忘れました。やり直すことはできますか
会社がまだ会社法第139条第2項の通知をしていない段階であれば、記載を補充した請求書を改めて提出することを検討します。ただし、同法第145条第1号の2週間は請求の日から起算されますので、再提出により期間が動きます。既に不承認の通知が届いている場合、その請求について会社の買取義務を生じさせることは困難です。
請求から2週間を過ぎましたが、会社から何の連絡もありません
会社法第145条第1号により、会社は承認をする旨の決定をしたものとみなされます。ただし、同条ただし書は、会社と譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしたときはこの限りでないとしています。回答を待つ旨の合意をしていないかを確認した上で、みなし承認を前提として株主名簿の書換えを請求する段階に進みます。
父が亡くなり、株式を相続しました。譲渡承認の請求は必要ですか
相続は一般承継ですので、会社法第136条又は第137条第1項の承認の請求は要しません。もっとも、株主名簿の書換えは必要です。また、定款に会社法第174条に基づく売渡請求の定めが置かれている場合、会社が相続人に対して株式を会社に売り渡すよう請求してくることがあります。定款の確認を先に行ってください。
株主名簿が作られていない会社です。何から始めればよいですか
設立時の定款、法人税確定申告書別表二、過去の株主総会議事録、株式の払込みに関する書面を集め、株主の変遷を復元します。復元した内容について現在の株主から確認書を取得し、これを基礎に新たな株主名簿を調製します。
おわりに
譲渡承認と株主名簿は、地味な手続に見えますが、株式が本当に移ったかどうかを決める中心部分です。ここを飛ばした取引は、後になって必ず問題として戻ってきます。定款、登記、名簿の三つを突き合わせるところから始めれば、必要な段取りと日数は見えてきます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
株式譲渡の承認手続に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
- 会社法第107条第1項第1号、第108条第1項第4号
- 会社法第121条、第128条第1項
- 会社法第130条第1項及び第2項
- 会社法第133条第1項及び第2項
- 会社法第136条、第137条第1項及び第2項、第138条第1号
- 会社法第139条第1項及び第2項、第140条
- 会社法第141条第1項、第2項及び第3項
- 会社法第144条第1項、第2項及び第5項、第145条第1号
- 会社法第117条第2項、第174条
- 会社法第215条第1項及び第4項、第218条第1項及び第3項、第221条
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