
会社の譲渡を進めていくと、取引先との契約書に「支配権が変わったときは契約を解除できる」といった条項が見つかることがあります。株式を譲渡するだけで会社そのものは変わらないのに、取引を打ち切られてしまうのか。伝えるとしても、いつ誰にどう伝えればよいのか。判断に迷いやすいところです。
この記事では、チェンジオブコントロール条項の効果と、置かれやすい契約、取引先から承諾を得る進め方、M&A契約書での備え方をご紹介します。
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チェンジオブコントロール条項とは?条文例で見る4つの効果
チェンジオブコントロール条項(Change of Control。以下「COC条項」といいます)は、契約当事者の支配権が変わったことを契機として、通知・事前承諾・解除・期限の利益の喪失といった効果を定める契約条項です。契約の相手方を保護するために置かれる条項であり、会社を譲渡する立場からは、自社の取引を制限する条項として読む必要があります。
効果は契約ごとに大きく異なります。通知を求めるだけで済むものもあれば、催告なしに契約を打ち切れるものもあり、融資契約では返済期限そのものが失われる定めも見受けられます。
取引先への通知を義務づける効果
効果が軽いのは、支配権の変動を取引先に知らせる義務にとどまる定めです。COC条項が通知義務だけを定めている場合、その条項自体を理由として契約が終了することはありません。
甲について、合併・株式交換・株式移転その他の組織再編または総株主の議決権の過半数を保有する者の変更が予定される場合、甲は、当該組織再編または変更が効力を生ずる日の30日前までに、乙に対し書面によりその旨を通知するものとする。
注意したいのは、通知の時期が「事前」と定められている場合です。効力発生日の30日前という定めがあれば、クロージング日から逆算して取引先に伝える期限が決まります。通知を怠ったこと自体が契約違反となり、損害賠償の対象になる定め方もあります。
事前の承諾を必要とする効果
通知よりも重いのが、支配権を動かす前に取引先の承諾を得ることを求める定めです。承諾が得られなければ、譲渡を実行した時点で契約違反となります。
甲の株主による株式譲渡その他の事由により、第三者が甲の総株主の議決権の3分の1を超える議決権を新たに保有することとなる場合、甲は、当該変更の前に、乙の書面による承諾を得なければならない。
この型では、承諾を得られるかどうかがM&Aの実行可否そのものを左右します。承諾するかどうかの基準まで契約書に書かれているとは限りません。基準がない場合、拒絶できるかどうかは契約の目的・条項の文言・信義則などを踏まえて判断されます。
契約の解除を認める効果
取引先に解除権を与える定めは、M&Aへの影響が大きい効果です。支配権の変更が無催告解除の事由として定められていれば、取引先は催告なしに契約を終わらせることができます。
乙は、甲について次の各号のいずれかに該当する事由が生じたときは、何らの催告を要することなく、本契約を解除することができる。
一 合併・会社分割・株式交換・株式移転その他の組織再編
二 総株主の議決権の過半数を保有する者の変更
三 事業の全部または重要な一部の譲渡
解除権が定められていても、取引先が必ず解除するとは限りません。取引先の側にも代替先を探す負担が生じるためです。ただし買い手が取引先の競合にあたる場合は、情報の流出を避けるために解除が選ばれることがあります。
期限の利益を失わせる効果
金融機関との契約に置かれるのが、支配権の変動を期限の利益の喪失事由とする定めです。融資契約でいう期限の利益とは、返済期限が到来するまで弁済を猶予される借主側の利益を指します。喪失したときの効果は契約の定めによります。次の条文例のように残債務の全額について期限が到来する内容であれば、直ちに全額を弁済しなければなりません。
借主について、総株主の議決権の過半数を保有する者に変更が生じた場合、借主は、貸主からの通知または催告を要することなく期限の利益を喪失し、直ちに本契約に基づく債務の全額を弁済しなければならない。
株式譲渡では、買主が支払う代金を受け取るのは株主である売主であり、対象会社に資金が入るわけではありません。一括弁済を求められても対象会社に返済資金がなければ、譲渡直後の資金繰りに直接影響します。
COC条項が置かれやすい契約
契約書は数が多く、すべてを同じ深さで読む時間はありません。優先順位は契約の本数ではなく、失ったときの打撃の大きさで決めていきます。売上に占める割合が高い取引・代替が利かない設備や立地・返済期限が残っている借入の順に見ると、限られた時間でも重い論点から押さえられます。
なお、COC条項は契約書の末尾にある一般条項のなかに置かれることもあれば、解除条項の一号として紛れていることもあります。条項名で検索しても見つからない場合があるため、解除事由と通知義務の定めを条文単位で読む必要があります。
基幹システムなどのクラウドサービスは、個別の契約書がなく利用規約の側に定めが置かれています。点検の対象から特に漏れやすい部類です。
取引基本契約・販売代理店契約
継続的な取引を定めた契約は、COC条項が置かれる代表例です。取引先からすれば、経営体制が変わった相手と取引を続けるかどうかを判断したい場面であり、解除権を留保しておく動機があります。売上に占める割合が高い取引先ほど、契約が切れたときの影響が企業価値に直結します。
ライセンス契約・業務提携契約
技術やブランドの使用を許諾する契約では、許諾先が誰の支配下にあるかが許諾者にとって重大な関心事です。買い手が許諾者の競合にあたる場合、技術情報が競合に渡ることを避けるため、解除権が行使される可能性が高まります。共同開発契約や販売提携契約でも、提携相手の経営陣との関係を前提に結ばれた契約ほど、同じ構造が生じます。
不動産賃貸借契約
店舗・工場・倉庫の賃貸借契約にCOC条項が入っていると、立地そのものを失う可能性が出てきます。飲食業・小売業・製造業では、立地や設備が企業価値の中心にあるため、影響は売上の一部にとどまりません。
賃貸人が個人や資産管理会社である場合、契約の存続は認めつつ条件の見直しを求められることもあります。契約に違約金の定めが置かれていれば、その支払いも論点になってきます。
金融機関との融資契約
融資契約や金銭消費貸借契約では、支配権の変動が期限の利益の喪失事由として定められていることがあります。シンジケートローンにも同種の条項が置かれることがあります。私募債を含む社債では、発行条件によって支配権の変動時の償還請求権が定められる場合もあるため、あわせて確認しておきましょう。
金融機関には、事前に説明したうえで承諾を得ておく対応が考えられます。問題になるのは、譲渡後に登記や決算書から支配権の変動を知られる場合です。
M&Aのスキーム別に見るCOC条項の効き方
同じCOC条項でも、株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割のどれを選ぶかで結論が変わります。契約が引き継がれるかどうかは法律のルールで決まり、引き継がれた契約を解除できるかどうかは契約書の文言で決まるためです。
たとえば条項に「合併の場合」としか書かれていなければ、株式譲渡では発動しません。逆に「支配権に変動が生じた場合」と広く書かれていても、すべてのスキームに当然に及ぶわけではありません。条項の定義・対象として挙げられた取引・契約の目的から判断します。
株式譲渡の場合
株式譲渡では、株主が入れ替わるだけで会社の法人格は変わりません。契約の当事者も変わらないため、契約上の終了事由などがない限り、既存の契約関係はそのまま続きます。COC条項が問題になるのは、まさにこの場面です。契約は残るにもかかわらず、株主が変わったという事実を理由に、取引先が解除権を行使できてしまいます。
条文が「議決権の過半数を保有する株主の変更」と定めている場合は、譲渡後に議決権の過半数を持つ者が変わるかどうかを見ます。無議決権株式があると株式数と議決権数がずれるため、発行済株式の51%を譲渡しただけで常に該当するとは限りません。「3分の1を超える株式の譲渡」という定め方であれば、一部譲渡や段階的な取得も対象に入ります。
事業譲渡の場合
事業譲渡では、契約は自動的には引き継がれません。契約上の地位を移転するには、民法第539条の2により、契約の相手方の承諾が必要です。同条は「契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する」と定めています(e-Gov法令検索)。
つまり事業譲渡では、COC条項があるかどうかを問う前に、そもそも取引先の承諾を得なければ契約が移りません。これとは別に、契約条項が事業譲渡や契約上の地位の移転を解除の事由に含めている場合は、その効果もあわせて確認します。
合併の場合
吸収合併では、消滅会社の権利義務が存続会社に法定承継されます。会社法第750条第1項は「吸収合併存続株式会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継する」と定めており、契約上の地位の移転について相手方の個別の承諾を得る必要は原則としてありません(e-Gov法令検索)。
もっとも、契約が引き継がれることと、契約が解除されないことは別の話です。COC条項が合併を解除事由として挙げていれば、承継された契約について取引先が解除権を行使できます。
会社分割の場合
会社分割では、合併のように会社の権利義務の全部が移るわけではなく、吸収分割契約の定めに従って対象となる権利義務が承継されます。会社法第759条第1項は「吸収分割承継株式会社は、効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い、吸収分割会社の権利義務を承継する」と定めています。
会社分割とCOC条項の関係が問われるのは、条項が会社分割を対象に含んでいるかどうかです。「合併」「株式の譲渡」とだけ書かれている条項については、条項全体の文言・列挙のしかた・契約の目的から適用の有無を判断します。
参考になるのが、最高裁平成29年12月19日決定です。賃貸借契約に、賃借人が契約当事者を実質的に変更したときは賃貸人が違約金を請求できるという定めが置かれていた事案です。賃借人はこの事業を吸収分割で承継させたうえ、分割後は自分が責任を負わないと主張しました。
最高裁は、賃借人が業績不振の事業を切り離して違約金債務を免れる一方、賃貸人は支払能力を欠く承継会社にしか請求できなくなる点を重くみました。そのうえで、この主張は信義則に反し許されないと判断しています(裁判所)。
スキームごとの違いは次のとおりです。
| スキーム | 契約の承継 | 取引先の承諾 | COC条項の主な論点 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 契約当事者が変わらず存続 | 不要 | 株主変更を理由とする解除権 |
| 事業譲渡 | 個別に移転 | 必要(民法539条の2) | 承諾交渉に解除権が上乗せされる |
| 合併 | 権利義務を法定承継 | 原則不要 | 合併が解除事由に挙げられているか |
| 会社分割 | 分割契約の定めに従って承継 | 原則不要 | 条項が会社分割を対象に含むか |
契約書の文言とスキームの組み合わせについてご不明な点がありましたら、お問い合わせフォームからご相談ください。
COC条項を見落としたときに生じる不利益
見落としの影響は、契約が一本切れて終わるものではありません。売上・資金繰り・譲渡価額という、それぞれ別の場所に及びます。発覚するのが譲渡の話が動き出してからであれば、対応にかけられる時間は限られます。
不利益の生じる時期も一様ではありません。クロージング前に判明すれば価額交渉の材料になり、クロージング後に判明すれば売主への補償請求という形をとります。
主要な取引先を失う
売上の柱となっている取引先との契約が解除されると、対象会社の収益力そのものが落ちます。買い手が想定していた事業計画が前提から崩れるため、影響は解除された取引一件の金額にとどまりません。売上構成が特定の数社に集中している会社では、一社を失うだけで企業価値の評価が変わります。
借入金の一括返済を求められる
融資契約の期限の利益が失われると、残債務の全額について直ちに返済を求められます。株式譲渡では、代金を受け取るのは売主です。対象会社に資金が入るわけではないため、手元資金で対応できる金額を超えることがあります。
譲渡価額を引き下げられる
法務デューデリジェンスでCOC条項が見つかると、買い手はその取引が失われる可能性を織り込んで価額を検討します。解除される確率と、失われる利益の大きさを見積もったうえで、減額を求めてきます。
買い手に見つけられる前に、売主から開示して承諾取得の見通しを説明しておく方法もあります。
法務デューデリジェンスでのCOC条項の洗い出し
契約書の点検は、買い手が行う法務デューデリジェンスの一部と思われがちです。売り手が先に自社の契約書を確認しておけば、COC条項の有無と必要な対応を早い段階で把握できます。中小企業庁の中小M&Aガイドライン(2024年8月改訂の第3版)でも、譲り渡し側の開示資料の作成支援やデューデリジェンスへの対応がM&A支援の項目として示されています。
点検は、契約書を集める段階と、集めた契約書を読む段階に分かれます。集める段階で漏れがあると、その後どれだけ丁寧に読んでも見落としが残ります。
契約書を集める範囲を決める
対象は、対象会社が当事者となっている契約に限りません。子会社が結んでいる契約・代表者個人の名義で結ばれている賃貸借契約や保証契約も、事業の継続に関わるものは対象に含めます。
紙の契約書だけでなく、発注書と請書のやりとりで成立している取引・電子契約サービス上にある契約・クラウドサービスの利用規約も集めます。契約書という形をとっていない合意ほど、点検から漏れやすいためです。
優先して読む契約を選ぶ
集めた契約をすべて同じ深さで読む必要はありません。取引額の大きさ・代替の利きにくさ・契約の残存期間という3つの観点で順位をつけると、限られた時間を重い契約に配分できます。売上上位の取引先・事業所や工場の賃貸借・借入残高のある融資契約は、いずれの観点でも上位に来ます。
支配権の変動の定義を読み取る
同じCOC条項でも、何をもって支配権の変動とするかは契約ごとに違います。議決権の過半数の移転だけを指すのか、3分の1を超える変動を含むのか、役員構成の変更まで含むのかによって、該当するかどうかの結論が変わります。
見落としやすいのが、親会社の支配権が動いた場合を含める定めです。対象会社の株主構成が変わらなくても、その親会社の株主が変わったことで条項が発動する定めになっていることがあります。グループ内に持株会社がある場合には、この点も確認しておきましょう。
条項の効果と期限を読み取る
定義に該当すると分かったら、次に条項の効果を見ます。通知だけでよいのか、承諾が必要なのか、解除権が生じるのか、期限の利益が失われるのかで、対応の重さが変わるためです。
あわせて、通知の期限・承諾の回答までの期間・解除権を行使できる期間を読み取り、クロージングまでの日程に組み込みます。
似た条項と見分ける
COC条項と混同されやすいのが、契約譲渡制限条項です。これは契約上の地位や権利義務を第三者に譲渡することを禁じる定めであり、支配権の変動ではなく契約そのものの移転を対象にします。
株式譲渡では契約当事者が変わらないため、通常は直接問題になりません。事業譲渡では契約上の地位を個別に移転するため、相手方の承諾が問題になります。会社分割は会社法上の承継であるため、譲渡制限条項が及ぶかどうかは条項の文言と契約の性質から判断します。
一般的な解除条項のなかにCOC条項の内容が紛れている場合もあります。「著しい経営環境の変化が生じた場合」といった抽象的な文言のなかに、組織再編や株主の変更が列挙されている例も見られます。
法務デューデリジェンスの進め方については、法務デューデリジェンス(DD)の解説もあわせてご覧ください。当事務所の法務デューデリジェンス業務についてもご案内しています。
取引先から承諾を得るまでの進め方
承諾の取得で難しいのは、伝える時期の判断です。早く伝えれば譲渡の話が広まり、従業員や他の取引先に伝わって取引条件の見直しを持ちかけられることがあります。遅く伝えると、クロージングに間に合わず取引そのものが止まってしまいます。
相手との関係の深さ・相手の社内手続にかかる期間・情報が漏れたときの影響を見ながら、契約ごとに時期を決めていくことになります。
承諾を求める相手を絞り込む
COC条項が入っているすべての契約で、同じ対応が必要になるわけではありません。条項の型によって、やるべきことが変わります。
通知義務だけを定めた条項であれば通知で足ります。事前承諾型であれば、取引の大小にかかわらず、条項の定めに従って承諾を得ます。解除権型については、取引の重要性や相手方の意向を踏まえ、事前に説明して解除権を行使しない旨の確認を得ておくかどうかを判断します。
優先順位の目安になるのは、その取引を失ったときに買い手が価額を見直すかどうかです。買い手が事業計画の前提として重視している取引先には、早い段階から時間をかけて対応します。
切り出す時期を決める
承諾の打診をいつ始めるかは、秘密保持の必要性・相手方の社内手続にかかる期間・クロージングの前提条件になっているかどうかを踏まえて決めます。基本合意の前では取引の実現性が低く、相手に伝える段階としては早すぎます。
金融機関には比較的早い時期に、事業上の取引先はクロージングに近い時期に伝える、という順序が考えられます。相手の社内決裁に要する期間を確認したうえで、クロージング日から逆算して打診の時期を決めます。秘密保持契約を結んだうえで伝える方法もありますが、相手が応じるとは限りません。
説明に出る人を決める
承諾を求める場面に、売主だけで臨むか、買い手にも同席してもらうかは、相手の懸念によって選びます。相手の不安が新しい経営体制の内容にある場合は、買い手が直接説明したほうが承諾を得やすくなります。
一方で、買い手を早い段階で表に出すと、譲渡先が特定されて情報が広がりやすくなる点には注意が必要です。まず売主が単独で打診し、相手が具体的な懸念を示した段階で買い手に同席してもらう、という二段構えをとることもあります。
承諾書を取り交わす
口頭の了解だけで進めると、後になって承諾の有無や範囲が争われます。承諾を得たら、書面またはメールで記録に残します。
承諾書には、承諾の対象となる取引の内容と、条件が付く場合はその条件を記載します。承諾を撤回しない旨を入れるかどうかは、相手方との交渉によります。取り交わした承諾書は、クロージング書類の一部として保管しておきましょう。
承諾が得られないときに切り替える
承諾が得られない場合の対応は、一つではありません。いったん契約を終了し、M&Aの方法に応じて対象会社または譲受会社が取引先と契約を結び直す方法があります。取引先を別の会社に切り替える、その取引を譲渡の対象から外すことも考えられます。
譲渡価額の側で調整する方法もあります。いずれを選ぶにしても、契約書の条項として書いておきましょう。
M&A契約書でCOC条項に備える条項
承諾がすべて取れる前提でM&Aを進めることはできません。取れなかったときに誰がその損失を負うのかを、契約書のなかで先に決めておく必要があります。株式譲渡契約書では、前提条件・表明保証・誓約・補償・価額調整という複数の条項がこの役割を分担します。
どの条項をどこまで使うかは、売主と買主のどちらの立場かによって変わります。買主は前提条件と補償を厚くしたいと考え、売主は補償の範囲と期間を限定したいと考えるためです。契約書全体の記載事項は、株式譲渡契約書の解説にまとめています。
クロージングの前提条件
前提条件とは、それが満たされなければクロージングを実行しなくてよい、と定めるものです。主要な取引先からの承諾取得を前提条件に据えると、買主は承諾が取れないまま代金を支払う事態を避けられます。
対象とする取引先は、契約書の別紙で個別に列挙するのが確実です。「重要な取引先」といった書き方では、どこまでが該当するかで争いになります。あわせて、条件が満たされない場合に買主が条件を放棄してクロージングできるのか、実行日を延期できるのか、契約を解除できるのかも定めておきます。
売主の表明保証
表明保証は、一定の事実が真実であることを当事者が相手方に対して表明し保証する条項です。COC条項については、対象会社の主要な契約にCOC条項が存在しないこと、または存在する場合は別紙のとおりであることを売主に保証させます。
表明保証に違反があった場合の効果は、株式譲渡契約書の補償・解除などの定めによって決まります。売主の立場では、開示した契約書の範囲で保証する、認識している限りで保証するといった限定を検討します。詳しくは表明保証とは?違反時の損害賠償・補償・解除と裁判例をわかりやすく解説をご覧ください。
承諾取得を求める誓約条項
誓約条項は、当事者が一定の行為を行うこと、または行わないことを約束する条項です。COC条項への対応では、契約締結からクロージングまでの間の承諾取得義務や協力義務を定めることがあります。承諾取得については、誰がいつまでにどの相手から承諾を得るかを書きます。
売主が単独で交渉するのか、買主が協力するのかも定めておきます。買主の説明が必要な場面で協力義務がないと、承諾が取れない責任の所在があいまいになります。誓約条項の全体像については、コベナンツとは?M&A契約での違反リスクとトラブル対応まで弁護士が解説をご覧ください。
補償条項と上限額
補償条項は、表明保証違反や誓約違反などによって生じた損失・損害・費用について、契約上どの範囲で補償するかを定める条項です。COC条項に関する損失としては、取引が終了したことによる逸失利益が問題になる場面があります。対象となる範囲は、補償条項の文言・因果関係・逸失利益を除外する定めの有無によって変わります。
売主の立場では、補償の上限額と請求できる期間に加えて、デミニミス条項とバスケット条項を検討します。デミニミス条項は一件あたりの損害が一定額に満たない場合に補償の対象から除く定め、バスケット条項は損害の合計が一定額を超えた場合に請求できるとする定めです。
買主の立場では、逸失利益を補償の対象に含めるかどうかを明確にしておきます。この点を書かずに済ませると、損害の範囲をめぐって後から争いになります。
譲渡価額の調整と条件付きの追加対価
承諾が取れるかどうかがクロージング時点で確定しない場合、価額の側で調整する方法があります。承諾が得られなかった取引の利益相当額をあらかじめ減額しておき、譲渡後に承諾が得られたときに追加で支払う、という取り決めです。
この仕組みでは、追加支払の条件と算定方法を数値で定めます。「取引が継続した場合」といった書き方では、何をもって継続とするかで解釈が分かれます。対象となる取引先・判定の時期・支払額の計算式を、契約書に具体的に書いておきます。なお、クロージング後の業績など一定の条件の達成に連動して追加の対価を支払う仕組みは、一般にアーンアウトと呼ばれます。
当事務所によるM&A契約書の作成・チェック
COC条項への対応は、その条項だけを読んで決められるものではありません。取引先の承諾が得られる見通しと、前提条件・表明保証・補償の組み合わせをあわせて考える必要があります。
当事務所は、M&Aの契約書の作成・チェックをご依頼いただける法律事務所です。譲渡側・譲受側のいずれの立場でもお受けしています。
対応する弁護士
当事務所には、大手法律事務所において20年来M&Aを取り扱ってきた弁護士が在籍し、これまでに400件以上のM&A案件に関与してきました。M&A法務のほか、M&A仲介業務・M&Aアドバイザリー業務・株式譲渡価格算定業務・M&A交渉業務にも対応しています。
公認会計士・税理士・社会保険労務士・弁理士などの専門家と緊密に連携し、法務以外の論点にもワンストップで対応できる体制をとっています。日本語・英語・中国語の3言語によるドキュメンテーション・契約交渉にも対応しています(国際M&A(クロスボーダーM&A))。
ご依頼いただける業務
お受けしている業務は次のとおりです。
- 基本合意書や株式譲渡契約書のファースト・ドラフトの作成
- 相手方が作成した案文へのコメントと修正案のやりとり
- クロージング書類の作成とレビュー
このほか、契約書のなかのCOC条項の確認や、取引先向けの書面の作成については、ご依頼の内容に応じて対応の範囲をご案内します。
弁護士費用のお見積もり
弁護士費用は、ご依頼いただく範囲と案件の内容を伺ったうえでご案内します。タイムチャージによるご依頼と、中堅・中小企業のM&Aを対象とした固定費用のいずれかをお選びいただけます。お見積もりの取扱いを含む費用体系は、M&A契約書の作成・チェックの費用体系のページをご確認ください。ご不明な点は、お問い合わせフォームまたはお電話(03-6435-8418)でお気軽にご相談ください。
契約書以外のご相談
当事務所では、M&A契約書の作成・チェックのほか、法務デューデリジェンス・M&Aトラブル・非上場株式や少数株主に関する問題・仲介契約書の確認などもお受けしています。譲渡後に取引先との紛争が生じた場合や、表明保証違反をめぐって相手方と争いになった場合のご相談も承ります。
チェンジオブコントロール条項についてよくある質問
COC条項をめぐって判断に迷いやすい点をまとめました。個別の契約書の文言によって結論が変わる論点も含まれますので、実際の判断にあたっては条項の全文をご確認いただくのが確実です。
チェンジオブコントロールリスクとは何を指しますか?
支配権が動いたことを理由に、取引先が契約を解除したり条件の見直しを求めたりすることで、事業価値が損なわれる可能性を指します。契約が解除される可能性そのものだけでなく、その可能性を織り込んで譲渡価額が引き下げられることや、承諾取得が間に合わずクロージングが遅れることも含めて用いられます。
COC条項があると必ず契約を解除されるのですか?
条項があることと、解除されることは別です。解除権が定められていても、行使するかどうかは取引先の判断であり、取引先の側にも代替先を探す負担が生じます。事前に説明して理解を得られれば、取引が続く場合もあります。ただし買い手が取引先の競合にあたる場合は、情報の流出を避けるために解除が選ばれやすくなる点には注意が必要です。
取引先の承諾は口頭でも有効ですか?
契約書が「書面による承諾」を求めている場合、口頭の了解だけでは条項の要件を満たさない可能性があります。契約書が指定する方法に従い、書面または電子メールで承諾を取得しておきましょう。方式の定めがない契約でも、後から承諾の有無や範囲が争いになったときに備えて記録に残しておくことをおすすめします。買主から、承諾書の提出をクロージングの前提条件として求められることもあります。
譲渡した後にCOC条項が見つかった場合はどうなりますか?
まず、取引先が解除権を行使するかどうかを確認し、必要に応じて取引継続の交渉を行います。あわせて、株式譲渡契約書の表明保証条項の内容も確認しておきましょう。売主が主要な契約にCOC条項が存在しないことを保証していた場合、買主は表明保証違反として補償を請求できる可能性があります。請求できる期間や上限額が契約書に定められている場合があるため、早い段階で条項を確認しておきましょう。
チェンジオブコントロール条項への対応は、契約書を読む作業と、取引先との交渉と、M&A契約書の作り込みが組み合わさるものです。譲渡を検討し始めた段階でご相談いただければ、承諾取得に必要な期間を織り込んだ日程を組むことができます。
当事務所へのご相談は、お問い合わせフォームまたはお電話(03-6435-8418・受付8:00〜21:00、土日祝を含む)で承っております。
本記事は、公開日時点の法令と裁判例をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の事案についての法的助言ではなく、実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載内容の適用によって生じた結果について、当事務所は責任を負いかねます。

