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法務デューデリジェンス(法務DD)とは?M&Aでの目的・調査項目・進め方をくわしく解説

公開 2026年7月18日更新 2026年11月2日

法務デューデリジェンス(法務DD)は、M&Aの対象会社が抱える法的リスクを調べ、その結果を取引条件へ反映するために行う調査です。契約・許認可・労務・知的財産・訴訟などの分野を対象に、買収を実行するかどうかの判断だけでなく、買収価格・最終契約の条項・クロージングまでに求める対応・買収後の統合にも関係します。

ただし、限られた期間と開示資料をもとに行う調査であるため、すべてのリスクを発見できるとは限りません。この記事では、法務デューデリジェンスの目的・調査項目・進め方・注意点・費用・依頼先の選び方を解説します。
法務デューデリジェンスを検討している方々へ

対象会社の規模・業種・M&Aの手法により、必要な調査範囲は異なります。調査範囲の設定から契約条項への反映まで相談したい方は、当事務所へお問い合わせください。

法務デューデリジェンス(法務DD)とは

法務デューデリジェンスとは、M&A・出資・組織再編などの取引に先立ち、対象会社または対象事業に関する法的リスクを調査・検討する手続です。英語では「Legal Due Diligence」と表記され、法務DDと略されます。

対象となるのは、会社組織・株式・契約・許認可・労務・知的財産・資産・負債・訴訟・コンプライアンスなどです。調査結果は、取引の可否・買収価格・最終契約の内容・クロージング前後に行う対応を決める材料になります。

買い手は資料の確認・追加質問・インタビューを行い、売り手は求められた資料を開示して質問に回答する立場になります。M&Aで行われる調査全体の位置づけについては、M&Aのデューデリジェンス(DD)もあわせてご覧ください。

法務デューデリジェンスの目的

調査では、対象会社が適法に設立・運営されているか、株式の帰属に問題がないか、重要な契約を継続できるか、必要な許認可が維持されているかなどを確認します。主な目的は次の3点です。

  • 対象会社が抱える法的リスクと、その発生可能性・影響を把握する
  • 発見事項を買収価格・最終契約・クロージング条件などに反映する
  • 買収後に対応すべき事項を把握し、統合後の対応につなげる

他のデューデリジェンスとの違い

M&Aでは、法務以外の分野でもデューデリジェンスが行われます。各分野の主な調査対象は次のとおりです。

種類 主な調査対象
法務デューデリジェンス(法務DD) 会社組織・株式・契約・許認可・労務・知的財産・訴訟・法令遵守など
財務デューデリジェンス(財務DD) 財務状況・収益力・運転資本・有利子負債・簿外債務など
税務デューデリジェンス(税務DD) 過年度の税務申告・税務処理・潜在的な追徴課税リスクなど
ビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD) 市場環境・競合・顧客・事業計画・収益構造など
人事労務デューデリジェンス(労務DD) 労働時間・賃金・社会保険・労使紛争・人事制度など
ITデューデリジェンス(IT DD) 情報システム・データ管理・情報セキュリティ・統合の可否など
環境デューデリジェンス(環境DD) 土壌・水質・大気・廃棄物・アスベストなどの汚染と法令対応

人事労務・知的財産・環境は、法務デューデリジェンスの一部として調べる場合と、担当する専門家を分けて別に行う場合があります。

M&Aで法務デューデリジェンス(DD)が重要な理由

法務デューデリジェンスは、法的リスクの存在を確認するだけの作業ではありません。発見事項を取引の可否・買収価格・最終契約・買収後の対応へつなげるために行われます。

買収後に生じる負担を減らす

法務デューデリジェンスを行ってもすべての問題を発見できるわけではありませんが、重要資料の確認・追加質問・インタビューを行えば、リスクの発生可能性と影響を把握しやすくなります。確認しきれなかった問題は、クロージング後に次のような形で表に出ます。

表面化する問題 表に出る場面 買い手が負う負担
簿外債務の発覚 クロージング後の請求・訴訟 想定外の支出・のれんの減損
許認可を承継できない 承継手続や変更届の段階 事業を継続できず取得の目的を果たせない
主要取引先からの契約解除 支配権の変更を通知した後 売上の減少・取引条件の悪化
未払い賃金など労務の法令違反 従業員からの請求・労働基準監督署の指導 過去分の一括支払い

簿外債務や労務の法令違反は、資料の記載と運用の状況が食い違っている場合に表面化します。一方、許認可の承継やチェンジ・オブ・コントロール条項のように、資料から把握できる事項であっても、M&Aを実行したこと自体によって問題が生じるものもあります。

公表されている事例もあります。

ディー・エヌ・エーのキュレーションメディア事業では、買収した媒体を含む複数の媒体で記事・画像の権利処理などが問題となり、2016年に運営する10サイトの全記事を非公開としました。

第一三共によるランバクシーの買収では、2008年6月の買収合意後、同年9月に米国食品医薬品局(FDA)がランバクシーのインド国内2工場に係る医薬品・原薬をImport Alertの対象としました。第一三共は2009年3月期にランバクシーに係るのれんの減損3,513億円を計上しており、同社の2008年度決算補足資料では、株価の下落を減損の理由として説明しています。

経緯は、当事務所のM&Aトラブル専用サイトのDeNAのM&A失敗事例とM&Aの成功・失敗事例で取り上げています。

中小企業のM&Aでも、未払い残業代はないと説明を受けていたのに、クロージング後に従業員から請求を受けるといった事態は起こり得ます。指摘されやすい項目は、法務デューデリジェンスで指摘されやすい中小企業の懸案で取り上げています。

買い手企業の取締役は、会社に対して善管注意義務を負います。必要な情報を収集せず、検討過程や判断内容が著しく不合理なまま買収を決めた場合は任務懈怠が問題となる可能性があり、法務デューデリジェンスは判断に必要な情報を得る手段にもなります。

買収価格や契約条件へ反映する

法務デューデリジェンスの結果は、買収価格の交渉や最終契約の条項を決める材料になります。問題の内容が契約前に分かっていれば、価格の調整・表明保証・補償・クロージングの前提条件のうち、どの手段で手当てするかを売り手と交渉できます。

買収後の統合に必要な対応を把握する

法務デューデリジェンスで判明した事項は、PMI(Post Merger Integration。M&A成立後の統合プロセス)にも引き継がれます。クロージング前または買収後に必要になる対応には、次のようなものがあります。

  • 取引先・金融機関からの同意取得
  • 契約条件の変更
  • 許認可の変更届・承継手続
  • 就業規則・賃金制度の見直し
  • 情報管理体制の変更
  • 株主総会・取締役会に関する不備の是正

必要な対応は、株式譲渡・事業譲渡・会社分割などのM&Aの手法によって異なります。株式譲渡では対象会社自体は存続しますが、事業譲渡では契約上の地位や許認可を個別に承継できるかを確認します。事業譲渡で労働契約を買い手へ移す場合は、原則として労働者一人ひとりの承諾が必要です。

法務デューデリジェンス(法務DD)の調査項目チェックリスト

法務デューデリジェンスの対象は広範囲に及びます。すべての案件で同じ項目を同じ深さまで調べるのではなく、対象会社の業種・規模・M&Aの手法・買収目的などに応じて調査範囲を設定します。主な調査項目は次のとおりです。

会社組織・株式に関する調査

会社組織・株式に関する調査では、対象会社が適法に設立・運営され、売り手が対象株式を有効に保有しているかを確認します。

調査項目 確認されること 確認する主な資料
設立と登記 適法に設立され、登記の記載と実態が一致しているか 定款・登記事項証明書・社内規程
株式の発行状況 発行済株式数・種類株式・新株予約権その他の潜在株式の内容 株主名簿・株式発行に関する議事録・新株予約権原簿
株主の構成 名義株の有無、名義上の株主と実質的な権利者の関係 過去の株式譲渡契約書・株主間契約・投資契約
株式の移動 譲渡制限株式の有無、過去の増資・株式譲渡に必要な承認その他の手続、相続その他の一般承継に伴う株主名簿の記載、定款に基づく売渡請求の有無 譲渡承認に関する議事録・相続関係を示す書類
機関の運営 株主総会・取締役会が適法に開催・決議されているか 株主総会議事録・取締役会議事録・招集通知
株券の取扱い 株券発行の有無と株券の所在 定款・株券・株券不所持の申出に関する記録
役員と会社の関係 役員の選任手続、役員と会社の間の取引・貸付金・借入金、兼任や競業の有無 役員名簿・取締役会議事録・利益相反取引の承認記録・勘定科目内訳明細書

過去の増資や株式譲渡に必要な手続が行われていない場合、対象株式の帰属や売り手の処分権限が争われる可能性があります。役員と会社の間の貸付金・借入金は、クロージングまでに清算するかどうかを決める対象です。

契約・取引に関する調査

契約に関する調査では、買収後も事業に必要な契約を継続できるか、対象会社に過大な義務や違約責任がないかを確認します。

調査項目 確認されること 確認する主な資料
主要取引契約 取引の継続性・不利な条件の有無・解除事由 売買契約書・業務委託契約書・代理店契約書
チェンジ・オブ・コントロール条項 支配権の変更時に事前承諾・通知・解除が必要か 主要契約書一式・過去の承諾書の控え
賃貸借・リース 契約期間・解除条件・賃貸人の承諾の要否 賃貸借契約書・リース契約書
借入・担保・保証 財務制限条項・期限の利益喪失事由・保証の範囲 金銭消費貸借契約書・担保契約書・保証契約書
取引を制限する条項 独占取引・競業避止・最低購入義務・最恵待遇条項の有無 取引基本契約書・覚書・付属合意書
書面によらない合意 口頭合意・慣行・契約書と異なる運用の有無 担当者への質問票・過去の発注書や請求書

チェンジ・オブ・コントロール条項の効果は契約ごとに異なり、株式譲渡が行われたからといって必ず契約が解除されるわけではありません。

人事労務に関する調査

人事労務では、買収後に未払い賃金・労働紛争・行政対応などが生じる可能性を確認します。

調査項目 確認されること 確認する主な資料
労働条件と社内規程 就業規則が法令に沿い、実際に運用されているか 就業規則・賃金規程・退職金規程・雇用契約書
労働時間と割増賃金 未払い残業代の有無、固定残業代・管理監督者の運用 労働時間の記録・賃金台帳・給与明細・36協定
将来の人件費・退職給付等の負担 年次有給休暇の付与・取得・残日数、退職給付に関する負担 有給休暇の取得記録・退職給付の計算資料
労使関係と紛争 労働組合・団体交渉・労働審判・解雇や労災をめぐる紛争・ハラスメント相談の状況 労使協定・団体交渉の記録・労働災害の報告記録・内部通報の記録
社会保険・労働保険 加入対象となる従業員の範囲、資格取得・喪失の手続、保険料の算定 社会保険・労働保険の加入記録・算定基礎届・保険料の納付記録
行政からの指導 労働基準監督署・年金事務所などからの指摘と是正状況 是正勧告書・改善報告書の控え
雇用以外の就労 業務委託・派遣・出向の適法性 業務委託契約書・労働者派遣契約書・出向契約書

未払い賃金の金額を見積もる場合は、弁護士・社会保険労務士・公認会計士が役割に応じて連携することがあります。

知的財産・情報管理に関する調査

知的財産に関する調査では、事業に必要な権利を対象会社が保有または適法に利用しているか、第三者の権利を侵害していないかを確認します。

調査項目 確認されること 確認する主な資料
産業財産権 特許権・実用新案権・意匠権・商標権の登録・存続・帰属 登録原簿・登録証・年金納付の記録
出願中の権利 出願の状況・共同出願・共有持分の扱い 出願書類・共同出願契約書
職務発明 職務発明規程の有無、従業者等への相当の利益の付与内容と手続の合理性 職務発明規程・協議や意見聴取の記録・相当の利益の付与記録
著作物 誰が創作し、契約によって権利が移転しているか 制作委託契約書・譲渡契約書・利用許諾契約書
ソフトウェア 開発委託の条件・ライセンス・オープンソースの利用状況 開発委託契約書・ライセンス契約書・利用一覧
営業秘密と情報管理 顧客情報・技術情報の管理方法と持出しの制限 情報管理規程・秘密保持誓約書・アクセス権限の記録
第三者との紛争 警告・異議・無効審判・侵害訴訟の有無 警告書・審判関係書類・訴訟記録

著作権は、原則として著作物を創作した時点で発生し、権利取得のための登録を必要としません(文化庁の著作権登録制度)。登録の有無から権利の帰属を判断できない点が、特許権や商標権との違いです。

資産・負債・訴訟・紛争に関する調査

資産については所有権・使用権の有無や担保権・差押えの設定を、負債については貸借対照表に計上された債務だけでなく、簿外債務・偶発債務その他の潜在的な負担も確認します。

調査項目 確認されること 確認する主な資料
不動産 所有権の登記、抵当権・差押えなどの設定の有無 不動産登記事項証明書・固定資産税の課税明細
動産・在庫・債権 動産・在庫の所有権、債権の帰属、譲渡担保・所有権留保の有無 資産台帳・売掛金元帳・担保設定に関する契約書
簿外債務・偶発債務 債務保証・製品保証・原状回復義務などの潜在的な負担 保証契約書・賃貸借契約書・製品保証の条件
係属中の紛争 請求額・争点・手続の進行状況・見通し 訴状・答弁書・準備書面・顧問弁護士の意見書
過去の紛争 和解の条件と、同種の問題が再発する可能性 和解調書・示談書・クレーム対応の記録
行政上の手続 行政調査・行政処分・課徴金・改善命令の有無 行政からの通知書・改善報告書の控え

訴訟の結果や損害額を確定的に予測できない場合は、発生の可能性・想定される影響・契約上の対応を検討します。

許認可・コンプライアンス・独占禁止法・環境に関する調査

許認可に関する調査では、対象会社が事業に必要な許可・認可・登録・届出を適法に取得・更新しているかを確認します。株式譲渡では許認可が維持される場合がありますが、支配権の変更に伴う届出・承認が必要になることがあり、事業譲渡では買い手が新たに取得しなければならない場合もあります。

調査項目 確認されること 確認する主な資料
許認可の取得と維持 必要な許認可が揃い、更新期限と維持要件を満たしているか 許認可証・登録証・届出書の控え・定期報告書
M&Aの手法との関係 支配権の変更に伴う届出、事業譲渡での再取得の要否 関係官庁への事前相談の記録・弁護士等の見解書
業法・取引規制の遵守 業法・消費者法・表示規制・中小受託取引適正化法などの遵守状況 社内マニュアル・広告審査の記録・取引の基本契約書
情報の管理 個人情報・営業秘密・サイバーセキュリティの管理体制 個人情報保護方針・情報管理規程・認証の取得状況
不正の防止 贈収賄・利益相反・反社会的勢力との関係の排除 内部通報規程・反社チェックの記録・誓約書の控え
会計上の不正 不正会計・横領・私的流用・利益供与の有無 内部監査の報告書・稟議書・経費精算の記録

買い手側・対象会社側の国内売上高や、取得後の議決権保有割合が一定の要件を満たす株式取得では、独占禁止法に基づき、公正取引委員会への事前届出が必要です。届出の要否は、公正取引委員会の株式取得の届出制度で確認できます。工場・事業所・土地などを取得する案件では、土壌汚染・アスベスト・PCB(ポリ塩化ビフェニル)などに関する法令への対応も確認の対象です。
法務DDの調査項目を案件に合わせて決めたい方々へ

すべての項目を同じ深さで調べると、期間と費用が増えます。当事務所では、対象会社の業種・規模・取引の目的を踏まえ、法務デューデリジェンスの対象範囲をご相談いただけます。

法務デューデリジェンスについて相談する

許認可のある事業のM&Aと、M&Aの前の社内の懸案の整理は、次のページでご案内しています。

法務デューデリジェンス(DD)の進め方と期間

買い手側が行う法務デューデリジェンスでは、通常、買い手が依頼した弁護士が、売り手から開示を受けた資料と回答をもとに調査を進めます。期間と各段階の進め方は、案件の規模・入札手続の有無・資料を開示できる期間などによって変わります。

行う時期と期間

多くの案件では、秘密保持契約の締結後、基本合意書の締結前後から最終契約締結前までに法務デューデリジェンスを行います。最終契約の直前に調査を始めると、重大な問題が見つかった際に追加調査や条件交渉の時間を確保しにくくなります。期間は、対象会社の規模・契約数・従業員数・子会社・海外拠点・資料の開示状況などにより、数週間から数か月程度まで幅があります。

案件の規模 期間の目安 主な変動要因
小規模(調査範囲を限定し、資料が揃っている案件) 1〜2週間程度 資料の開示の速さ
中規模(一般的な中小企業) 2週間〜1か月程度 契約数・従業員数・許認可の数
大規模(子会社や海外拠点あり) 1〜2か月以上 拠点数・外国語資料・現地法令の確認

上記は調査範囲や資料の開示状況によって変わる参考値であり、公的に定められた標準期間ではありません。限られた期間で行う場合は、重要な契約・許認可・労務・訴訟を優先し、重要性基準を設けたうえで簡易な報告方法を選ぶことになります。ただし、対象範囲が狭まる分、見落としの可能性は高まります。

調査範囲と体制を決める

最初に、買い手・弁護士・他分野の専門家が協議し、調査対象と重要性の基準を決めます。ここでの決め方が期間と費用に影響するため、買収の目的に照らして優先順位をつけます。協議では、次の事項を決めます。

  • 対象会社・子会社・関連会社のうち、どこまで調べるか
  • 国内拠点・海外拠点をどこまで含めるか
  • どの金額・影響度以上の問題を報告対象とするか
  • 契約・労務・知的財産など、重点を置く分野
  • 報告書・サマリー・Q&Aシートなどの報告形式
  • 調査期間・予算・担当者・連絡方法

協議に入る前に、登記事項証明書・対象会社のウェブサイト・報道といった公開情報を確認しておくと、開示を求める資料を絞り込めます。

資料開示請求とデータルームの準備

調査範囲に基づき、買い手側から売り手側へ資料請求リストを提示します。売り手は、定款・議事録・契約書・就業規則・許認可証・訴訟資料などを開示します。

資料共有には、バーチャルデータルーム(VDR。閲覧権限を設定できるオンライン上の資料共有環境)が利用されることがあります。資料名・フォルダ構成・差替え履歴を明確にし、最新版と旧版を区別できる状態にしておきます。

開示資料の確認とQ&A

買い手側の弁護士は、開示資料を法的な観点から確認し、資料だけでは判断できない事項をQ&Aシートを通じて質問します。回答に不足があれば、追加資料の開示または追加回答を求めます。

資料が出てこない場合は、存在しないのか、所在が分からないのか、売り手が開示を控えているのかによって契約上の取扱いが変わるため、まず理由の確認が必要です。確認できなかった事実は、表明保証・特別補償・買収価格の減額・クロージングの前提条件のいずれで手当てするかを決めます。資料の未提出や追加質問の記録は、後日、表明保証違反の有無を争う際に、どの事項が開示・確認されていたかを示す資料となり得ます。開示を求められる範囲については、デューデリジェンスの資料の提出はどこまで求められるのかで扱っています。

マネジメントインタビューと現地確認

開示資料・Q&Aだけでは確認できない事項について、対象会社の経営陣・担当者へのインタビューを行います。書面に表れない運用の状況や、経営陣が把握している懸念を聞き取ることが目的です。主に確認するのは次の事項です。

  • 既知の法令違反・紛争
  • 主要契約の更新と取引先との関係
  • 労務管理・内部通報の状況
  • 知的財産・営業秘密の管理
  • M&Aに伴い必要な契約同意・許認可手続

工場・店舗・倉庫などが重要な案件では、現地で保管されている資料や設備の状況、法令上必要な掲示や管理、危険物や廃棄物の保管を確かめることもあります。

中間報告・最終報告と報告書の内容

取引の中止・価格交渉・追加調査に影響する重大な問題が早期に判明した場合は、最終報告を待たずに買い手へ共有します。詳細な報告書を作成する場合、記載されるのは次のような事項です。

  • 調査の対象範囲と前提条件
  • 重要な発見事項の要約
  • 分野別の発見事項と根拠資料
  • 取引への影響と対応の案
  • 資料や回答が得られず確認できなかった事項

発見事項には、影響の大きさと発生の可能性を組み合わせた重要度を付けることがあります。重要度が分かれば、買収価格の交渉で扱う事項・契約条項で手当てする事項・クロージング後の対応に回す事項を分けられます。報告の形式は、詳細な報告書・経営者向けサマリー・Q&Aシートへの追記など、依頼内容によって異なります。

法務デューデリジェンスの注意点

法務デューデリジェンスは、売り手が開示した資料と回答を前提に、限られた期間で行う調査です。得られる結果は、開示される情報の正確さと、それを受け取る側の確認の仕方によって変わります。

提出資料だけで判断しない

開示された資料が完全・正確であるとは限りません。必要な資料が社内に存在しない場合、古い版が提出される場合、担当者が問題を把握していない場合もあります。

そのため、単独の資料だけで判断せず、登記事項証明書と議事録、契約書と請求書、就業規則と勤怠記録などを照合し、記載内容と運用状況の違いを確かめます。経営陣から問題はないと説明を受けた事項も、根拠となる資料と突き合わせて確認します。

情報漏えいに注意する

M&Aでは、取引条件・顧客情報・従業員情報・技術情報など、機密性の高い情報を扱います。機密情報を開示する前に秘密保持契約(NDA)を締結し、開示対象者・利用目的・複製・返却・廃棄・取引中止後の扱いなどを定めます。

バーチャルデータルームは閲覧権限やアクセスログを設定できる一方、利用者管理や端末管理が不十分であれば情報漏えいの危険は残ります。競合会社が買い手候補となる場合は、価格・顧客別売上などの情報へのアクセスを外部の専門家などに限定するクリーンチームを設けることもあります。

他分野のデューデリジェンスの結果とあわせて判断する

法務・財務・税務・ビジネス・ITなどの調査は、別々に完結するものではありません。法務デューデリジェンスで長期契約の解除の可能性が判明すれば収益予測に影響しますし、財務デューデリジェンスで不自然な支出が見つかれば、関連当事者取引・横領・贈収賄などの法的問題を確認する必要が生じます。

売り手は正確な情報を開示する

売り手は、買い手から具体的に求められた資料・質問や、最終契約の表明保証・開示条項の対象となる事項について、正確に情報を提供します。求められていない事項まで無条件に開示する義務があるわけではありません。ただし、重要な事項について事実と異なる説明をした場合や、契約上の開示義務・表明保証に違反した場合のほか、重要な事実を秘匿した態様によっても、補償請求・損害賠償請求・契約解除・詐欺などが問題となる可能性があります。不利な問題があっても、早い段階で開示し、是正の状況や契約上どう扱うかの案をあわせて示すことで、交渉を続けられる場合があります。

売り手が事前に自社を調査することを、ベンダーデューデリジェンスまたはセルサイドデューデリジェンスと呼びます。株式の帰属・未払い賃金・許認可・主要契約といった、取引の可否に関わりやすい分野を先に確認しておけば、開示の準備と是正を並行して進められます。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

法務デューデリジェンスで問題が見つかった場合の対応

法務デューデリジェンスで問題を発見しても、報告を受けるだけでは買い手の負担は減りません。どの手段で手当てするかは、金額を見積もれる問題か、発生するかどうかや金額が分からない問題か、クロージングまでに解消できる問題かによって変わります。

買収価格を調整する

未払い賃金・未納税金・修繕費用・確定した損害賠償債務など、金額を合理的に見積もれるものは、買収価格の調整を検討します。方法には、当初の価格を減額するほか、クロージング時の純有利子負債・運転資本に応じて価格を変える方法、一定額を留保する方法もあります。

ただし、発見事項が必ず価格から直接控除されるわけではなく、問題の性質に応じて、クロージング前の是正・エスクロー(代金の一部を第三者に一定期間預けておく仕組み)・特別補償・誓約事項を選ぶこともあります。どの指摘が価格に反映され、どの指摘が契約条項で扱われるかは、デューデリジェンスの指摘事項が価格に反映される場合と反映されない場合で取り上げています。

表明保証条項・補償条項で手当てする

将来の紛争や第三者からの請求など、金額や発生時期を確定しにくい問題は、表明保証条項・補償条項で手当てします。表明保証条項は、対象会社などに関する一定の事実・状態が、契約で定めた時点において真実かつ正確である旨を、売り手が表明し保証する条項です。主な対象は次のとおりです。

  • 株式の有効な発行と売り手の権利
  • 財務諸表と簿外債務
  • 重要契約と許認可
  • 税務・労務・知的財産
  • 訴訟・法令違反・反社会的勢力との関係
  • 開示資料の正確性と重要事実の不開示がないこと

補償条項では、表明保証違反・契約上の義務違反・特定の既知リスクなどによって損害が生じた場合に、誰がどの範囲で負担するかを定めます。責任上限・免責額・請求期間・損害の範囲・開示事項による例外などが交渉事項となり、表明保証に反する事実があっても、契約の文言や開示資料によって請求の可否は変わります。

前提条件の設定や取引の見直し

クロージングまでに対応すべき問題は、その是正を売り手の誓約事項とし、必要に応じて実施をクロージングの前提条件として最終契約に定めます。例としては次のようなものがあります。

  • 重要取引先・金融機関からの同意取得
  • 必要な許認可・届出・承認の取得
  • 株式の帰属や担保権に関する問題の解消
  • 未払い賃金・社会保険・税務上の問題への対応

重大な問題が判明した場合は、株式譲渡から事業譲渡などへ手法を変える、問題のある事業・資産・負債を取引から除外する、取引を中止するといった選択肢も検討します。判断の材料になるのは、問題の重大性・是正の可能性・買収目的への影響・契約で負担を限定できるかどうかです。
調査結果をM&A契約書へ反映したい方々へ

当事務所では、法務デューデリジェンスで発見した問題について、株式譲渡契約その他のM&A契約書への反映にも対応しています。

調査結果の契約への反映について相談する

見つかった問題を価格・表明保証・前提条件に反映するM&A契約書の確認は、次のページでご案内しています。

法務デューデリジェンス(DD)の費用

法務デューデリジェンスの費用は、対象会社の規模だけでなく、調べる範囲と報告の方法によって変わります。買い手が対象会社を調べる場合は買い手が、売り手が自社を調査する場合は売り手が、依頼する弁護士などの費用を負担するのが通常です。費用に影響する主な要因は次のとおりです。

  • 対象会社・子会社・海外拠点の数
  • 重要契約・従業員・許認可の数
  • 調査対象とする期間
  • 知的財産・環境など個別分野の有無
  • インタビュー・現地確認の有無
  • 報告書の形式・言語・納期

同じ売上規模の会社でも、契約数・従業員数・業種固有の許認可によって作業量に差が出ます。報酬は、調査範囲を定めたうえで金額を決める方法と、作業時間に単価を乗じて計算する方法に分かれます。予算に応じて調査範囲や報告方法を限定することもできますが、調査対象を減らせば、問題を発見できない可能性も高まります。
法務DDの費用・調査範囲を確認したい方々へ

必要な調査範囲と料金については、デューデリジェンスのご相談ページからお問い合わせください。

法務デューデリジェンスを依頼できる専門家

法務デューデリジェンス(DD)は、会社法・契約法・労働法・知的財産法・業法・訴訟など、複数の法分野に関係します。中心となるのは弁護士ですが、案件に応じて公認会計士・税理士・社会保険労務士・弁理士・司法書士などと連携します。

弁護士が担う主な役割

弁護士は、主に次の業務を担います。

  • 調査範囲・重要性基準の設定
  • 契約・会社組織・株式・許認可・訴訟などの確認
  • 法的リスクの内容と取引への影響の検討
  • Q&A・インタビュー・追加資料請求
  • 発見事項の報告
  • 買収価格・表明保証・補償・前提条件への反映
  • 最終契約書の作成・確認・交渉支援

労務・税務・企業価値・知的財産など、他の専門分野に関する問題は、各専門家と連携して検討します。

他の専門家が関与する場面

対象会社の状況によっては、法務以外の分野を並行して調べることになります。誰がどこまでを担当するかを事前に決めておくと、質問の重複や確認漏れを防げます。

専門家 主な対応分野
公認会計士 財務状況・収益力・運転資本・簿外債務・企業価値など
税理士 過年度申告・税務処理・追徴課税リスクなど
社会保険労務士 就業規則・労働時間・賃金計算・社会保険手続など
弁理士 特許・商標などの権利状況・出願・侵害可能性など
司法書士 商業・法人登記の確認・登記申請手続など

弁護士以外の専門家が関与する範囲は、案件の内容と各資格の業務範囲によって異なります。法的紛争・契約解釈・最終的な法的評価は、弁護士が担当します。

依頼する前に確認すること

同じ「法務デューデリジェンス一式」という見積もりでも、対象に子会社を含めるか、報告書を作成するかによって作業量は変わります。依頼の前に確認しておく点は、次のとおりです。

  • M&A・企業法務案件の取扱経験
  • 対象会社の業種・許認可への対応経験
  • 調査する会社・拠点・分野と資料の範囲
  • Q&A・インタビュー・現地確認の有無
  • 報告書・速報・Q&Aシートなどの報告形式
  • 発見事項をM&A契約書へ反映できるか
  • 報酬の決め方・追加料金・支払の時期

調査だけを依頼するのか、最終契約の作成・交渉まで依頼するのかもあわせて明確にし、書面で確認しておくと、調査の途中で範囲が広がったときの扱いも決めやすくなります。

法務デューデリジェンスに関するよくある質問

ここでの回答は一般的な考え方を示したものです。個別の案件では、対象会社の業種・規模・M&Aの手法によって答えが変わる場合があります。

DDとは何の略ですか?

DDは、英語の「Due Diligence(デューデリジェンス)」の略です。M&Aでは、取引の前に対象会社の状況を調べる手続を指し、法務の分野を対象とするものを法務DD、財務の分野を対象とするものを財務DDと呼びます。

労務デューデリジェンスとは何ですか?

労務デューデリジェンスは、労働時間・賃金・社会保険・労使紛争・人事制度などを対象とする調査です。法務デューデリジェンスの人事労務の分野として行う場合と、社会保険労務士などと連携して切り分けて行う場合があります。

小規模なM&Aでも法務デューデリジェンスは必要ですか?

小規模なM&Aでも、株式の帰属・未払い賃金・許認可・重要契約などに問題があれば、取引金額に対して大きな負担となる可能性があります。ただし、すべての項目を同じ深さで調べる必要があるとは限りません。取引金額・業種・従業員数・許認可・主要契約を踏まえ、対象を絞った法務デューデリジェンスを検討できます。

費用はどのくらいかかりますか?

法務デューデリジェンスの費用は、対象会社の売上・取引先数・従業員数・拠点・調査範囲・納期によって変わるため、一律の金額はありません。調査する会社と分野、報告の方法を決めたうえで見積もりを取ると、金額を比較できます。当事務所の費用は、デューデリジェンスのご相談ページからお問い合わせください。

法務デューデリジェンスでリスクをすべて発見できますか?

法務デューデリジェンスで、すべてのリスクを発見できるとは限りません。調査は、売り手から開示された資料・回答・公開情報などをもとに、決められた期間と対象範囲で行われます。未開示の事実・資料に表れない運用・将来の法改正や状況変化などは、調査時点で把握できない場合があります。そのため、表明保証・補償・前提条件・買収後の対応も組み合わせます。

当事務所の法務デューデリジェンスとご相談

当事務所は、M&A総合会計事務所や社会保険労務士・弁理士などと連携し、法務・財務・会計・税務・労務・知的財産・不動産などのデューデリジェンスに対応しています。すべての分野を一括して依頼するだけでなく、法務デューデリジェンスのみ、または法務のうち特定分野のみのご依頼も承ります。

報告書は、ページ数を増やすことを目的とせず、必要な事項を簡潔に記載しています。緊急の案件や短納期の案件では、ご依頼から1〜2週間以内でのレポート提出にも対応しています。ただし、調査範囲・資料量・納期・料金によっては、Q&Aシートへの指摘事項の付記を中心とし、別途報告書を作成しない簡易な方法をとる場合があります。報告書の有無・内容・納期は、ご相談の際にお確かめください。

発見した事項については、株式譲渡契約その他のM&A契約書への反映にも対応しています。買収後に表明保証違反・コベナンツ違反・簿外債務・重要事実の不開示などが判明した場合の紛争も取り扱っており、その場合は最終契約の請求期間・通知方法・証拠の確保を早い段階で確かめます。
M&Aトラブル・表明保証違反でお困りの皆様へ

買収後に簿外債務・粉飾決算・許認可の不備・重要事実の不開示などが判明した方は、M&Aトラブル専用サイトをご覧ください。

M&Aトラブル・表明保証違反のご相談

法務デューデリジェンスの対象範囲・期間・費用は、対象会社と取引内容によって異なります。調査範囲の設定から契約条項への反映まで相談したい方は、お問い合わせください。

本記事は、公開日時点の法令と裁判例をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の事案についての法的助言ではなく、実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載内容の適用によって生じた結果について、当事務所は責任を負いかねます。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページにまとめています。あわせてご覧ください。

この記事の著者

弁護士 土屋勝裕(弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士)

弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件超のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応。

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