
法務デューデリジェンス(法務DD)は、M&Aの対象会社が抱える法的リスクを調べ、その結果を取引条件へ反映するために行う調査です。契約・許認可・労務・知的財産・訴訟などの分野を対象に、買収を実行するかどうかの判断だけでなく、買収価格・最終契約の条項・クロージングまでに求める対応・買収後の統合にも関係します。
ただし、限られた期間と開示資料をもとに行う調査であるため、すべてのリスクを発見できるとは限りません。この記事では、法務デューデリジェンスの目的・調査項目・進め方・実施時期・費用・依頼先の選び方に加えて、2026年の法改正で確認事項が変わった分野についても解説します。
法務デューデリジェンスを検討している方へ
対象会社の規模・業種・M&Aの手法により、必要な調査範囲は異なります。調査範囲の設定から契約条項への反映まで相談したい方は、当事務所へお問い合わせください。
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- 1 法務デューデリジェンス(法務DD)とは
- 2 M&Aで法務デューデリジェンス(DD)が重要な理由
- 3 調査が届かなかった場合に表面化する問題と事例
- 4 法務デューデリジェンス(法務DD)の調査項目チェックリスト
- 5 2026年の法改正で確認事項が変わった項目
- 6 法務デューデリジェンスの進め方
- 7 法務デューデリジェンスを行う時期と期間
- 8 法務デューデリジェンスの費用と当事務所の料金目安
- 9 法務デューデリジェンスの結果を契約へ反映する方法
- 10 売り手側の準備とベンダーデューデリジェンス
- 11 法務デューデリジェンスを依頼できる専門家
- 12 当事務所の法務デューデリジェンス
- 13 法務デューデリジェンスに関するよくある質問
- 14 法務デューデリジェンスのご相談は当事務所へ
法務デューデリジェンス(法務DD)とは
法務デューデリジェンスとは、M&A・出資・組織再編などの取引に先立ち、対象会社または対象事業に関する法的リスクを調査・検討する手続です。英語では「Legal Due Diligence」と表記され、法務DDと略されます。
対象となるのは、会社組織・株式・契約・許認可・労務・知的財産・資産・負債・訴訟・コンプライアンスなどです。調査結果は、取引の可否、買収価格、最終契約の内容、クロージング前後に行う対応を決める材料になります。M&Aで行われる調査全体の位置づけについては、M&Aのデューデリジェンス(DD)もあわせてご覧ください。
法務デューデリジェンスの意味と英語表記
「Due Diligence」は、一般に「相当な注意」などの意味を持つ言葉です。M&Aで行われるデューデリジェンスは、対象会社の状況を調査・検証し、取引判断に必要な情報を得るための手続を指します。
法務デューデリジェンスでは、対象会社が適法に設立・運営されているか、株式の帰属に問題がないか、重要な契約を継続できるか、必要な許認可が維持されているか、訴訟・労務問題・法令違反がないかなどを確認します。
上場会社では法定開示・適時開示などから得られる情報が比較的多いものの、契約内容・労務管理・紛争・許認可の運用状況などは公開されていないことがあります。非上場会社でも上場会社でも、公開情報だけで法務デューデリジェンスを代替することはできません。
法務デューデリジェンスの目的
法務デューデリジェンスの主な目的は、次の3点です。
- 対象会社が抱える法的リスクと、その発生可能性・影響を把握する
- 発見事項を買収価格・最終契約・クロージング条件などに反映する
- 買収後に対応すべき事項を把握し、統合後の対応につなげる
重大な法令違反・許認可の欠缺・株式の帰属に関する争いなどが判明した場合は、取引の中止も選択肢になります。一方、問題の内容が把握できれば、クロージング前の是正・価格調整・表明保証・補償によって対応できる場合もあります。
財務・税務・ビジネスデューデリジェンスとの違い
M&Aでは、法務以外の分野でもデューデリジェンスが行われます。各分野の主な調査対象は次のとおりです。
| 種類 | 主な調査対象 |
|---|---|
| 法務デューデリジェンス(法務DD) | 会社組織・株式・契約・許認可・労務・知的財産・訴訟・法令遵守など |
| 財務デューデリジェンス(財務DD) | 財務状況・収益力・運転資本・有利子負債・簿外債務など |
| 税務デューデリジェンス(税務DD) | 過年度の税務申告・税務処理・潜在的な追徴課税リスクなど |
| ビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD) | 市場環境・競合・顧客・事業計画・収益構造など |
各分野の調査結果は相互に関係します。たとえば、財務デューデリジェンスで簿外債務の可能性が見つかった場合は、その法的根拠・責任主体・契約上の対応を法務面から検討しなければなりません。反対に、法務デューデリジェンスで未払い賃金・損害賠償請求・契約解除の可能性が判明すれば、財務面で金額を見積もることになります。
買い手・売り手から見た法務デューデリジェンス
買い手にとっての法務デューデリジェンスは、対象会社の法的リスクを把握し、取引条件へ反映するための調査です。資料の確認だけでなく、追加質問・経営陣へのインタビュー・必要に応じた現地確認などを通じて、書面と運用状況の違いも確認します。
売り手は、買い手から求められた資料を開示し、質問に回答する立場です。開示漏れや説明不足があると、交渉の停滞だけでなく、最終契約締結後の表明保証違反・補償請求などにつながる可能性があります。
M&Aで法務デューデリジェンス(DD)が重要な理由
法務デューデリジェンスは、法的リスクの存在を確認するだけの作業ではありません。発見事項を取引の可否・買収価格・最終契約・買収後の対応へつなげるために行われます。
買収後に生じる負担を減らす
対象会社に訴訟・許認可の不備・未払い賃金・契約違反・知的財産権の帰属問題などがあると、買収後に損害賠償・行政処分・取引停止・追加支出などが生じる可能性があります。
法務デューデリジェンスを行っても、すべての問題を発見できるわけではありません。しかし、重要資料の確認・追加質問・インタビューなどを行えば、リスクの発生可能性と影響を把握し、取引を実行するかどうかを判断しやすくなります。
買収価格や契約条件へ反映する
未払い賃金・確定債務・修繕費用など、金額を合理的に見積もれる問題については、買収価格の調整を検討できます。ただし、発見事項が必ず買収価格から直接控除されるわけではありません。問題の性質に応じて、クロージング前の是正・エスクロー(代金の一部を第三者に一定期間預けておく仕組み)・特別補償・誓約事項を選ぶ場合もあります。
将来の紛争・法令違反・第三者からの請求など、金額や発生時期を確定しにくい問題については、表明保証条項・補償条項・前提条件による対応を検討します。
取締役の善管注意義務・忠実義務に関係する
取締役は、会社との委任関係に基づく善管注意義務と、会社のために忠実に職務を行う義務を負います。M&Aの判断で損失が生じたという結果だけで、直ちに取締役の責任が認められるわけではありません。一方で、必要な情報を収集せず、検討過程や判断内容が著しく不合理であった場合は、任務懈怠が問題となる可能性があります。
法務デューデリジェンスは、取締役がM&Aの判断に必要な情報を得る手段の一つです。調査を行ったという事実だけで責任を免れるものではなく、調査範囲・発見事項・専門家の助言を踏まえて判断した過程が問われます。
買収後の統合に必要な対応を把握する
法務デューデリジェンスで判明した事項は、PMI(Post Merger Integration。M&A成立後の統合プロセス)にも引き継がれます。
買収後に必要となる対応には、次のようなものがあります。
- 取引先・金融機関からの同意取得
- 契約条件の変更・契約書の再締結
- 許認可の変更届・承継手続・新規取得
- 就業規則・賃金制度・労働時間管理の見直し
- 個人情報・営業秘密・情報セキュリティの管理体制の変更
- 株主総会・取締役会・社内規程に関する不備の是正
必要な対応は、株式譲渡・事業譲渡・会社分割などのM&Aの手法によって異なります。たとえば、株式譲渡では対象会社自体は存続しますが、事業譲渡では契約・許認可・労働契約などを個別に承継できるか検討しなければなりません。
調査が届かなかった場合に表面化する問題と事例
法務デューデリジェンスで確認しきれなかった事項は、クロージング後に費用や責任という形で表に出ます。その負担を買い手が引き受けることになるのか、契約に基づいて売り手へ請求できるのかは、調査の時点でその事項を把握していたかどうかと、最終契約の定め方によって変わります。
買収後に表面化しやすい4つの問題
買収後に表に出る問題は、金銭の支払いにとどまりません。事業そのものを続けられなくなる場合もあり、どの分野の確認が届かなかったかによって影響の性質が変わります。
| 表面化する問題 | 表に出る場面 | 買い手が負う負担 |
|---|---|---|
| 簿外債務の発覚 | クロージング後の請求・訴訟 | 想定外の支出・のれんの減損 |
| 許認可を承継できない | 承継手続や変更届の段階 | 事業を継続できず取得の目的を果たせない |
| 主要取引先からの契約解除 | 支配権の変更を通知した後 | 売上の減少・取引条件の悪化 |
| 未払い賃金など労務の法令違反 | 従業員からの請求・労働基準監督署の指導 | 過去分の一括支払い |
いずれも、資料の記載と運用の状況が食い違っていた場合に起こります。開示資料に問題が表れていなくても、担当者への質問や現地での確認によって把握できることがあります。
公表されている事例
買収後に問題が表面化した例として、公表されている情報から経緯をたどれるものを2件取り上げます。いずれも法務デューデリジェンスの不足だけが原因と言い切れるものではありませんが、調査の段階で何をどこまで確認できるかを考える手がかりになります。
ディー・エヌ・エーのキュレーションメディア買収
ディー・エヌ・エーは2014年10月、キュレーションメディアを運営する2社を子会社化しました。買収額の内訳は公表されていないものの、報道では2社合計で約50億円とされています。
その後、同社が運営していた医療情報サイトの記事内容と、複数の媒体における記事の無断転載の疑いが問題となり、運営していた10のサイトはすべて休止に至りました。著作権侵害の可能性・記事制作の管理体制・医療情報の正確性など複数の問題が重なったもので、買収した媒体を含む複数の媒体で掲載記事の権利処理を確認できていなかったことも、その一つに数えられます。
著作物は、契約によって権利が移転していなければ、制作した側に権利が残ります。買収先がコンテンツを主な資産とする場合、その来歴をたどれるかどうかが調査の要点になります。詳しい経緯は、当事務所のM&Aトラブル専用サイトのDeNAのM&A失敗事例に掲載しています。
第一三共のランバクシー買収
第一三共は2008年、インドの後発医薬品メーカーであるランバクシー・ラボラトリーズの株式63.9%を4,883億円で取得しました。
ところが買収合意の直後にあたる同年9月、米国食品医薬品局(FDA)は同社のDewas工場とPaonta Sahib工場で製造された複数の医薬品についてImport Alertを発出し、米国への輸入時に原則として留置の対象とします。米国市場向け製品の一部に重大な供給制約が生じ、ランバクシーの株価も下落しました。
第一三共は2009年3月期にランバクシー関連ののれんの減損3,513億円を計上し、連結当期純損失は2,155億円となりました(同社の2008年度決算補足資料による)。
対象会社が買収前から規制当局の指摘を受けていた場合、その指摘の内容・是正の進み具合・再発の可能性をどこまで確認できるかが、許認可と法令遵守に関する調査の分かれ目になります。海外拠点を含む案件では、現地法令と当局の運用まで確認できる体制を組めるかどうかも検討事項です。国内外のM&A事例は、M&Aの成功・失敗事例でも取り上げています。
中小企業のM&Aで起こりやすい問題
たとえば、機械メーカーが部品メーカーを買収した後に、買収先が商品の品質や規格の数値を実際より良く見せる表示を行っており、消費者からクレームや訴訟提起を受けていた、という事態が考えられます。買収先のブランドの毀損は、買い手側の評価にも及びます。
運送業を営む会社が同業他社を買収し、調査の段階では未払い残業代などの法令違反はないと説明を受けていたにもかかわらず、クロージング後に従業員から未払い分の請求を受けるケースもあり得ます。労働時間の記録と賃金台帳を突き合わせていれば、調査の段階で把握できた可能性があります。
説明の内容をそのまま受け取るのではなく、根拠となる資料を照合することが、こうした問題への備えになります。照合しても把握できない事項が残る場合は、表明保証・補償・前提条件によって契約上の手当てを検討します。
法務デューデリジェンス(法務DD)の調査項目チェックリスト
法務デューデリジェンスの対象は広範囲に及びます。すべての案件で同じ項目を同じ深さまで調べるのではなく、対象会社の業種・規模・M&Aの手法・買収目的などに応じて、調査範囲を設定します。
以下にまとめたのは、法務デューデリジェンスで扱われることの多い項目です。実際にどこまで確認するかは、依頼の範囲と対象会社の状況によって決まるため、すべての案件でこの一覧を網羅するわけではありません。挙げている資料も代表的なもので、対象会社に存在しない場合や、別の資料で内容を確かめる場合もあります。
会社組織・株式に関する調査
会社組織・株式に関する調査では、対象会社が適法に設立・運営され、売り手が対象株式を有効に保有しているかを確認します。
| 調査項目 | 確認されること | 確認する主な資料 |
|---|---|---|
| 設立と登記 | 適法に設立され、登記の記載と実態が一致しているか | 定款・登記事項証明書・社内規程 |
| 株式の発行状況 | 発行済株式数・種類株式・新株予約権その他の潜在株式の内容 | 株主名簿・株式発行に関する議事録・新株予約権原簿 |
| 株主の構成 | 名義株の有無、名義上の株主と実質的な権利者の関係 | 過去の株式譲渡契約書・株主間契約・投資契約 |
| 株式の移動 | 譲渡制限株式の有無、過去の増資・譲渡・相続に必要な承認その他の手続がとられているか | 譲渡承認に関する議事録・相続関係を示す書類 |
| 機関の運営 | 株主総会・取締役会が適法に開催・決議されているか | 株主総会議事録・取締役会議事録・招集通知 |
| 株券の取扱い | 株券発行の有無と株券の所在 | 定款・株券・株券不所持の申出に関する記録 |
過去の増資・株式譲渡・相続に必要な手続が行われていない場合、対象株式の帰属や売り手の処分権限が争われる可能性があります。株主構成が複雑な会社では、設立時から現在までの株式の移動を一つずつたどることになります。
契約・取引に関する調査
契約に関する調査では、買収後も事業に必要な契約を継続できるか、対象会社に過大な義務や違約責任がないかを確認します。
| 調査項目 | 確認されること | 確認する主な資料 |
|---|---|---|
| 主要取引契約 | 取引の継続性・不利な条件の有無・解除事由 | 売買契約書・業務委託契約書・代理店契約書 |
| チェンジ・オブ・コントロール条項 | 支配権の変更時に事前承諾・通知・解除が必要か | 主要契約書一式・過去の承諾書の控え |
| 賃貸借・リース | 契約期間・解除条件・賃貸人の承諾の要否 | 賃貸借契約書・リース契約書 |
| 借入・担保・保証 | 財務制限条項・期限の利益喪失事由・保証の範囲 | 金銭消費貸借契約書・担保契約書・保証契約書 |
| 取引を制限する条項 | 独占取引・競業避止・最低購入義務・最恵待遇の有無 | 取引基本契約書・覚書・付属合意書 |
| 書面によらない合意 | 口頭合意・慣行・契約書と異なる運用の有無 | 担当者への質問票・過去の発注書や請求書 |
チェンジ・オブ・コントロール条項の効果は契約ごとに異なり、株式譲渡が行われたからといって必ず契約が解除されるわけではありません。契約書の記載だけでは取引の運用状況を把握できない場合もあるため、主要取引先への依存度や契約更新の見込みは、財務デューデリジェンス・ビジネスデューデリジェンスとも情報を共有して確認します。
人事労務に関する調査
人事労務では、買収後に未払い賃金・労働紛争・行政対応などが生じる可能性を確認します。
| 調査項目 | 確認されること | 確認する主な資料 |
|---|---|---|
| 労働条件と社内規程 | 就業規則が法令に沿い、実際に運用されているか | 就業規則・賃金規程・退職金規程・雇用契約書 |
| 労働時間と割増賃金 | 未払い残業代の有無、固定残業代・管理監督者の運用 | 労働時間の記録・賃金台帳・給与明細・36協定 |
| 将来の人件費・退職給付等の負担 | 年次有給休暇の付与・取得・残日数、退職給付に関する負担 | 有給休暇の取得記録・退職給付の計算資料 |
| 労使関係と紛争 | 労働組合・団体交渉・労働審判・ハラスメント相談の状況 | 労使協定・団体交渉の記録・内部通報の記録 |
| 行政からの指導 | 労働基準監督署・年金事務所などからの指摘と是正状況 | 是正勧告書・改善報告書の控え |
| 雇用以外の就労 | 業務委託・派遣・出向の適法性 | 業務委託契約書・労働者派遣契約書・出向契約書 |
未払い賃金の金額を見積もる場合は、弁護士・社会保険労務士・公認会計士が役割に応じて連携することがあります。役員や重要な従業員が退職する見込み、他社からの引抜きの有無も、買収後の事業運営に影響します。
知的財産・情報管理に関する調査
知的財産に関する調査では、事業に必要な権利を対象会社が保有または適法に利用しているか、第三者の権利を侵害していないかを確認します。
| 調査項目 | 確認されること | 確認する主な資料 |
|---|---|---|
| 産業財産権 | 特許権・実用新案権・意匠権・商標権の登録・存続・帰属 | 登録原簿・登録証・年金納付の記録 |
| 出願中の権利 | 出願の状況・共同出願・共有持分の扱い | 出願書類・共同出願契約書 |
| 職務発明 | 職務発明規程の有無、従業者等への相当の利益の付与内容と手続の合理性 | 職務発明規程・協議や意見聴取の記録・相当の利益の付与記録 |
| 著作物 | 誰が創作し、契約によって権利が移転しているか | 制作委託契約書・譲渡契約書・利用許諾契約書 |
| ソフトウェア | 開発委託の条件・ライセンス・オープンソースの利用状況 | 開発委託契約書・ライセンス契約書・利用一覧 |
| 営業秘密と情報管理 | 顧客情報・技術情報の管理方法と持出しの制限 | 情報管理規程・秘密保持誓約書・アクセス権限の記録 |
| 第三者との紛争 | 警告・異議・無効審判・侵害訴訟の有無 | 警告書・審判関係書類・訴訟記録 |
著作権は、原則として著作物を創作した時点で発生し、権利取得のための登録を必要としません。そのため、著作権については登録の有無だけでなく、誰が創作し、契約によって対象会社へ権利が移転しているかを確認する必要があります。詳しくは、文化庁の著作権の登録手続も参考になります。
資産・負債・訴訟・紛争に関する調査
資産については、対象会社が所有権・使用権を有しているか、担保権・差押え・第三者の権利が設定されていないかを確認します。負債については、貸借対照表に計上された債務だけでなく、帳簿に計上されていない簿外債務、一定の事象の発生により負担が具体化し得る偶発債務、その他の潜在的な経済的負担も対象になります。
| 調査項目 | 確認されること | 確認する主な資料 |
|---|---|---|
| 不動産 | 所有権の登記、抵当権・差押えなどの設定の有無 | 不動産登記事項証明書・固定資産税の課税明細 |
| 動産・在庫・債権 | 所有権の帰属、譲渡担保・所有権留保の有無 | 資産台帳・売掛金元帳・担保設定に関する契約書 |
| 簿外債務・偶発債務 | 債務保証・製品保証・原状回復義務などの潜在的な負担 | 保証契約書・賃貸借契約書・製品保証の条件 |
| 係属中の紛争 | 請求額・争点・手続の進行状況・見通し | 訴状・答弁書・準備書面・顧問弁護士の意見書 |
| 過去の紛争 | 和解の条件と、同種の問題が再発する可能性 | 和解調書・示談書・クレーム対応の記録 |
| 行政上の手続 | 行政調査・行政処分・課徴金・改善命令の有無 | 行政からの通知書・改善報告書の控え |
訴訟の結果や損害額を確定的に予測できない場合もあります。そのときは、発生の可能性・想定される影響・契約上の対応を検討することになります。内容証明郵便や警告書が届いているだけの段階でも、将来の紛争につながる事実として扱います。
許認可・コンプライアンス・独占禁止法・環境に関する調査
許認可に関する調査では、対象会社が事業に必要な許可・認可・登録・届出を適法に取得・更新しているかを確認します。株式譲渡では対象会社が存続するため許認可が維持される場合がありますが、支配権の変更に伴う届出・承認が必要になることがあります。事業譲渡では、許認可を個別に承継できず、買い手が新たに取得しなければならない場合もあります。
| 調査項目 | 確認されること | 確認する主な資料 |
|---|---|---|
| 許認可の取得と維持 | 必要な許認可が揃い、更新期限と維持要件を満たしているか | 許認可証・登録証・届出書の控え・定期報告書 |
| M&Aの手法との関係 | 支配権の変更に伴う届出、事業譲渡での再取得の要否 | 関係官庁への事前相談の記録・弁護士等の見解書 |
| 業法・取引規制の遵守 | 業法・消費者法・表示規制・取適法などの遵守状況 | 社内マニュアル・広告審査の記録・取引の基本契約書 |
| 情報の管理 | 個人情報・営業秘密・サイバーセキュリティの管理体制 | 個人情報保護方針・情報管理規程・認証の取得状況 |
| 不正の防止 | 贈収賄・利益相反・反社会的勢力との関係の排除 | 内部通報規程・反社チェックの記録・誓約書の控え |
| 会計上の不正 | 不正会計・横領・私的流用・利益供与の有無 | 内部監査の報告書・稟議書・経費精算の記録 |
一定の企業結合では、独占禁止法に基づく公正取引委員会への事前届出が必要です。株式取得では、原則として、買い手側の企業結合集団の国内売上高合計が200億円を超え、対象会社とその子会社の国内売上高合計が50億円を超え、かつ取得後の議決権保有割合が新たに20%または50%を超える場合が対象になります。具体的な要否は、公正取引委員会の株式取得の届出制度で確認できます。
工場・事業所・土地などを取得する案件では、土壌汚染対策法・大気汚染防止法・水質汚濁防止法・廃棄物処理法などへの対応も確認します。必要に応じて、環境デューデリジェンスを別に行います。
法務DDの調査項目を案件に合わせて決めたい方へ
すべての項目を同じ深さで調べると、期間と費用が増えます。当事務所では、対象会社の業種・規模・取引の目的を踏まえ、法務デューデリジェンスの対象範囲をご相談いただけます。
2026年の法改正で確認事項が変わった項目
調査する分野そのものは大きく変わっていません。ただし2024年から2026年にかけて、取引先との契約・業務委託・内部通報の各分野で根拠となる法令が改正されました。対象会社の契約書や社内規程が改正前の内容のままになっている場合、クロージング後の是正事項として引き継ぐことになります。
下請法から中小受託取引適正化法へ
2026年1月1日、下請法が改正され、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)として施行されました。法律の名称だけでなく、「親事業者」は「委託事業者」へ、「下請事業者」は「中小受託事業者」へと用語も変わっています。あわせて、協議に応じない一方的な代金決定の禁止・手形払の禁止等・特定運送委託の追加・従業員数による基準の追加なども盛り込まれました(政府広報オンライン)。
対象会社が発注する側にあたる場合は、取引の基本契約書・発注書・支払条件が改正後の内容に沿っているかを確認します。資本金による基準に加えて従業員数による基準が設けられたため、これまで適用対象外だった会社が新たに対象へ入る場合もあります。
公益通報者保護法の改正と内部通報体制
公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)は、2026年12月1日に施行されます。正当な理由のない通報妨害行為・通報者の探索の禁止が明文化され、公益通報から1年以内の解雇・懲戒を公益通報を理由とするものと推定する規定も新設されました。フリーランスも保護の対象に加わり、公益通報対応業務従事者(以下「従事者」)の指定義務に違反した場合の命令・罰則・立入検査の権限が設けられています。
内部通報体制の整備と従事者の指定が義務となるのは、常時使用する労働者が300人を超える事業者です。300人以下の事業者では努力義務にとどまります。対象会社の従業員規模と義務の有無を確かめたうえで、内部通報窓口の設置状況・従事者の指定・過去の通報への対応記録を確認し、必要に応じてクロージング前後の対応事項として検討します。過去の通報の中に、労務・会計・品質などの問題を示す内容が含まれていることもあります。
フリーランス法と業務委託契約
2024年11月1日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行されました。対象となるのは、従業員を使用しない個人や、代表者1名以外に役員がおらず従業員を使用しない法人などの「特定受託事業者」への業務委託です。発注する側の属性や委託期間に応じて、取引条件の明示・報酬支払期日の設定・一定の禁止行為・ハラスメント相談体制の整備などの義務が課されます(政府広報オンライン)。
業務委託を多く用いる会社では、契約書の有無だけでなく、条件を明示する方法・支払期日の設定・相談窓口の運用まで確認します。委託先が実態として労働者にあたらないかという論点とあわせて見ることで、労務に関する潜在的な負担も把握しやすくなります。
法務デューデリジェンスの進め方
法務デューデリジェンスは、調査範囲の決定、資料開示、資料の確認と質問、インタビュー、報告という順序で進むのが一般的です。案件の規模・入札手続の有無・開示期間などにより、各段階の進め方は変わります。
調査範囲と体制を決める
最初に、買い手・弁護士・他分野の専門家が協議し、調査対象と重要性の基準を決めます。ここでの決め方が期間と費用の大半を左右するため、買収の目的に照らして優先順位をつけることになります。
協議では、次の事項を決めます。
- 対象会社・子会社・関連会社のうち、どこまで調べるか
- 国内拠点・海外拠点をどこまで含めるか
- どの金額・影響度以上の問題を報告対象とするか
- 契約・労務・知的財産など、重点を置く分野
- 報告書・サマリー・Q&Aシートなどの報告形式
- 調査期間・予算・担当者・連絡方法
グループ会社ごとに事業内容・管理体制・保有資料が異なるため、対象会社の重要性と取引への影響を踏まえて範囲を決めます。
資料開示請求とバーチャルデータルームの準備
調査範囲に基づき、買い手側から売り手側へ資料請求リストを提示します。売り手は、定款・議事録・契約書・就業規則・許認可証・訴訟資料などを開示します。
資料共有には、バーチャルデータルーム(VDR。閲覧権限を設定できるオンライン上の資料共有環境)が利用されることがあります。VDRでは、閲覧権限・アクセスログ・ダウンロード制限・透かしなどを設定でき、遠隔地の関係者も同じ資料を確認できます。ただし、設定・利用者管理・端末管理が不十分であれば、情報漏えいの危険は残ります。
資料名・フォルダ構成・差替え履歴を明確にし、最新版と旧版を区別できる状態にしておきます。契約書から特定の条項を抽出したり、文書を比較したりするAIツールを併用する場合は、機密情報を外部サービスへ入力してよいか、入力データが保存・学習に使われないか、対象資料が漏れなく取り込まれているかを確認します。出力だけで法的リスクを確定するのではなく、契約内容・取引の背景・他の資料との関係を弁護士が確認する必要があります。
開示資料の確認とQ&A
買い手側の弁護士は、開示資料を法的な観点から確認します。単独の資料だけで判断せず、登記事項証明書と議事録、契約書と請求書、就業規則と勤怠記録などを照合し、記載内容と運用状況の違いを確かめます。
開示された資料が完全・正確であるとは限りません。必要な資料が社内に存在しない場合、古い版が提出される場合、担当者が問題を把握していない場合もあります。資料だけでは判断できない事項はQ&Aシートを通じて質問し、回答に不足があれば追加資料の開示または追加回答を求めます。
Q&Aでは、質問と回答だけでなく、回答日・根拠資料・未回答事項・追加確認の要否を記録しておくと、発見事項を追跡しやすくなります。
マネジメントインタビューと現地確認
開示資料・Q&Aだけでは確認できない事項について、対象会社の経営陣・担当者へのインタビューを行います。書面に表れない運用の状況や、経営陣が把握している懸念を聞き取ることが目的です。
主な確認内容は、次のとおりです。
- 開示資料の内容と会社運営の状況
- 既知の法令違反・紛争・行政対応
- 主要契約の更新・解約・取引先との関係
- 労務管理・内部通報・ハラスメント対応
- 知的財産・営業秘密・情報セキュリティの管理
- 買収後に必要となる契約同意・許認可手続
工場・店舗・倉庫などが重要な案件では、現地確認を行うこともあります。現地で保管されている資料、設備の状況、法令上必要な掲示・管理、危険物・廃棄物の保管などを確かめます。
他分野のデューデリジェンスとの連携
法務・財務・税務・ビジネス・ITなどの調査は、別々に完結するものではありません。法務デューデリジェンスで長期契約の解除の可能性が判明すれば収益予測に影響しますし、財務デューデリジェンスで不自然な支出が見つかれば、関連当事者取引・横領・贈収賄などの法的問題を確認する必要が生じます。
各担当者が重要な発見事項を共有し、重複する質問を減らしながら、取引への影響を検討できる体制を組みます。売り手側から見ても、法務と財務で回答が食い違わないよう社内で確認しておくことが求められます。
中間報告・最終報告・報告書の作成
重大な問題が早期に判明した場合は、最終報告を待たずに買い手へ共有します。取引の中止・価格交渉・追加調査に影響する事項は、速やかな報告が必要だからです。
最終段階では、主な発見事項・リスクの内容・取引への影響・推奨される対応を報告します。報告形式は、詳細な報告書・経営者向けサマリー・Q&Aシートへの追記・口頭報告など、依頼内容によって異なります。
当事務所でも、案件に応じて報告の形式を変えています。詳細な報告書をお渡しする場合もあれば、費用・対象範囲・作業方法によっては、Q&Aシートに指摘事項を付記し、別途報告書を作成しない簡易な方法をとることもあります。ご依頼の前に調査対象と報告形式をすり合わせておくと、認識の違いを避けられます。
法務デューデリジェンスを行う時期と期間
法務デューデリジェンスは、最終契約を締結する前に行い、調査結果を価格・契約条項・クロージング条件へ反映できる日程を確保する必要があります。
行うタイミング
多くの案件では、秘密保持契約の締結後、基本合意書の締結前後から最終契約締結前までに法務デューデリジェンスを行います。
基本合意書には、取引の基本条件・調査への協力・独占交渉・秘密保持・今後の日程などが定められることがあります。ただし、基本合意書を締結しただけで当然に独占交渉権が発生するわけではありません。独占交渉権を設ける場合は、対象範囲・期間・違反時の扱いを条項で定めます。
入札案件では、第一次入札前に限定的な調査を行い、買い手候補が絞られた後に追加資料の開示を受ける場合もあります。最終契約の直前に調査を始めると、重大な問題が見つかった際に追加調査や条件交渉の時間を確保しにくくなります。
かかる期間
法務デューデリジェンスの期間は一律ではありません。対象会社の規模・契約数・従業員数・子会社・海外拠点・資料の開示状況などにより、数週間から数か月程度まで幅があります。
| 案件の規模 | 期間の目安 | 主な変動要因 |
|---|---|---|
| 小規模(拠点1か所・契約数が少ない) | 1〜2週間程度 | 資料の開示の速さ |
| 中規模(一般的な中小企業) | 2週間〜1か月程度 | 契約数・従業員数・許認可の数 |
| 大規模(子会社や海外拠点あり) | 1〜2か月以上 | 拠点数・外国語資料・現地法令の確認 |
上記は案件を通じて把握している一般的な目安であり、公的に定められた標準期間ではありません。対象会社の状況と調査範囲によって変わります。限られた期間で行う場合は、次のような対応が考えられます。
- 重要な契約・許認可・労務・訴訟を優先する
- 金額・影響度に基づく重要性基準を設ける
- 子会社・拠点のうち重要なものを対象にする
- 速報・中間報告を利用する
- 詳細報告書ではなく、Q&Aシートなどの簡易な報告方法を選ぶ
短期間の調査では、対象範囲が限られ、見落としの可能性が高まります。納期だけでなく、何をどこまで調べるかを確認しておくことが欠かせません。
期間を左右する主な要因
法務デューデリジェンスの期間に影響する主な要因は次のとおりです。
- 対象会社・子会社・拠点の数
- 契約書・議事録・労務資料などの量
- 海外法令・外国語資料の確認の有無
- 資料開示の速さと不足資料の多さ
- Q&Aの回数と回答内容
- 訴訟・許認可・知的財産など専門性の高い問題の有無
- 売り手・買い手・専門家の連絡体制
取引全体の日程には、追加資料の開示・問題への対応・最終契約の交渉に必要な時間も含めておく必要があります。
法務デューデリジェンスの費用と当事務所の料金目安
法務デューデリジェンスの費用は、対象会社の売上・資産・取引先・従業員数・拠点・調査範囲・納期などによって異なります。一般的な相場だけで必要な費用を判断するのではなく、調査対象・報告方法・追加費用の条件を確かめたうえで検討します。
費用を左右する要因
費用に影響する主な要因は次のとおりです。
- 対象会社・子会社・海外拠点の数
- 重要契約・従業員・許認可の数
- 調査対象とする期間
- 知的財産・環境・独占禁止法など個別分野の有無
- インタビュー・現地確認の有無
- 報告書の形式・言語・納期
- 追加資料・追加質問への対応回数
同じ売上規模の会社でも、契約数や従業員数、業種固有の許認可によって作業量は変わります。
当事務所の法務デューデリジェンスの料金目安
当事務所の法務デューデリジェンスの料金目安は、次のとおりです(2026年7月時点)。実際の費用は、企業規模・調査内容・納期などをうかがったうえでお見積りします。
法務デューデリジェンスのうち労務以外の部分
| 対象会社の規模 | 料金目安 |
|---|---|
| 売上3,000万円以下かつ取引先10社以下 | 150万円 |
| 売上1億円以下かつ取引先15社以下 | 300万円 |
| 売上5億円以下かつ取引先25社以下 | 500万円 |
| 売上10億円以下かつ取引先50社以下 | 750万円 |
| 売上10億円以上または取引先50社以上 | 750万円〜 |
法務デューデリジェンスのうち労務部分
| 対象会社の従業員数 | 料金目安 |
|---|---|
| 15名以下 | 100万円 |
| 30名以下 | 150万円 |
| 45名以下 | 200万円 |
| 60名以下 | 250万円 |
| 80名以下 | 300万円 |
| 100名以下 | 350万円 |
| 100名以上 | 350万円〜 |
いずれも目安です。売上10億円・取引先50社・従業員100名のように区分の境目に当たる場合は、お問い合わせの際に個別にご案内します。想定を超えて作業量が増えたときは、費用が加算されることがあります。交通費・宿泊費・通信費・郵便代・印刷代・登記事項証明書の取得費用などが生じた場合は、別途実費をご負担いただきます。消費税の扱いを含む最新の条件は、デューデリジェンスの料金ページもあわせてご覧ください。
費用を抑える場合の注意点
予算に応じて調査範囲・作業方法・報告方法を限定することは可能です。ただし、調査対象を減らせば、問題を発見できない可能性も高まります。
当事務所でも、費用や対象範囲に応じて、Q&Aシートへの指摘事項の付記を中心とし、社内規程・契約書・関連資料の検討範囲を限定したり、別途報告書を作成しなかったりする簡易な方法をとることがあります。
費用を比較する際は、金額だけでなく、次の点を確認してください。
- 調査する会社・拠点・分野
- 確認する資料の範囲
- Q&A・インタビュー・現地確認の有無
- 報告書を作成するか
- 追加作業が生じた場合の料金
- 契約書への反映が費用に含まれるか
費用を負担する当事者
買い手が対象会社を調べる法務デューデリジェンスでは、通常、買い手が依頼する弁護士などの費用を負担します。売り手が自社を調査する場合は、売り手が費用を負担します。当事者間の契約や入札条件により異なる取り決めが行われることもあるため、費用負担は案件ごとに確認してください。
法務DDの費用・調査範囲を確認したい方へ
費用は、対象会社の規模だけでなく、契約数・従業員数・許認可・納期・報告方法によって変わります。必要な範囲と料金については、デューデリジェンスのご相談ページからお問い合わせください。
法務デューデリジェンスの結果を契約へ反映する方法
法務デューデリジェンスで問題を発見しても、報告を受けるだけでは買い手の負担を減らせません。問題の内容に応じて、価格・表明保証・補償・前提条件・誓約事項へ反映します。
買収価格を調整する
金額を合理的に見積もれる債務・費用については、買収価格の調整を検討します。未払い賃金・未納税金・修繕費用・確定した損害賠償債務などが例です。
価格調整の方法には、当初の価格を減額する方法だけでなく、クロージング時の純有利子負債・運転資本に応じて価格を変える方法、一定額を留保する方法などがあります。発見事項の性質・金額・発生可能性に応じて選択します。
表明保証条項・補償条項へ反映する
表明保証条項は、対象会社などに関する一定の事実・状態が、契約で定めた時点において真実かつ正確である旨を、売り手が表明し保証する条項です。
主な対象には、次の事項があります。
- 株式の有効な発行・売り手の権利
- 財務諸表・簿外債務
- 重要契約・許認可
- 税務・労務・知的財産
- 訴訟・法令違反・反社会的勢力との関係
- 開示資料の正確性・重要事実の不開示がないこと
補償条項では、表明保証違反・契約上の義務違反・特定の既知リスクなどによって損害が生じた場合に、誰がどの範囲で負担するかを定めます。責任上限・免責額・請求期間・通知方法・損害の範囲・開示事項による例外などが交渉事項になります。
表明保証に反する事実があったとしても、契約の文言・開示資料・知識限定・重大性の限定・損害との因果関係・請求期間などにより、請求の可否は変わります。
補償の実効性は、売り手が支払える資力を持っているかにも左右されます。売り手が個人である場合や、対価を受け取った後に資金を分配する予定がある場合は、表明保証保険(W&I保険。M&A契約の表明保証違反により生じる経済的損失や補償責任を、買い手側または売り手側でカバーする保険)の利用を検討することがあります。売り手が補償責任を負う期間を短くしたい場合にも用いられます。もっとも、付保の可否・保険料・免責額・対象外となる事項は案件ごとに異なり、調査で既に判明している問題は対象から外れるのが通常です。利用する場合は、最終契約の交渉と並行して早い段階で条件を確認します。
クロージングの前提条件と誓約事項を定める
クロージングまでに対応すべき問題は、前提条件または売り手の誓約事項として最終契約に定めます。
例として、次のものがあります。
- 重要取引先・金融機関からの同意取得
- 必要な許認可・届出・承認の取得
- 株式の帰属・担保権・差押えに関する問題の解消
- 未締結契約の締結・不利な契約の変更
- 未払い賃金・社会保険・税務上の問題への対応
- 役員・重要従業員との契約締結
- 訴訟・紛争の解決または一定の対応
前提条件が満たされない場合にクロージングを実行しないのか、期限を延長するのか、条件を放棄できるのかも、あわせて定めておきます。
重大な問題が見つかった場合の対応
重大な問題が判明した場合は、次の対応を検討します。
- クロージング前に是正を求める
- 買収価格・支払方法・取引範囲を変更する
- 株式譲渡から事業譲渡などへM&Aの手法を変更する
- 表明保証・特別補償・エスクローなどを設ける
- 問題のある事業・資産・負債を取引対象から除外する
- 取引を中止する
取引を進めるかどうかは、問題の重大性だけでなく、是正の可能性・買収目的への影響・契約で負担を限定できるかを踏まえて判断します。
調査結果をM&A契約書へ反映したい方へ
当事務所では、法務デューデリジェンスで発見した問題について、株式譲渡契約その他のM&A契約書への反映にも対応しています。
売り手側の準備とベンダーデューデリジェンス
売り手にとっての法務デューデリジェンスは、買い手から求められた資料を開示し、質問に答える手続です。求められる資料は数十から数百項目に及ぶことがあり、社内のどこに何があるかを把握していないと、回答の遅れが交渉全体の遅れにつながります。
開示を求められる主な資料
資料請求リストの中身は案件ごとに異なりますが、分野の枠組みは共通しています。基本合意の前に所在を確認しておけば、開示の段階で慌てずに済みます。
| 分野 | 準備しておく資料 |
|---|---|
| 会社組織・株式 | 定款・登記事項証明書・株主名簿・株主総会議事録・取締役会議事録 |
| 契約・取引 | 主要取引先との契約書・賃貸借契約書・借入契約書・保証契約書 |
| 人事労務 | 就業規則・賃金規程・雇用契約書・賃金台帳・労働時間の記録・36協定 |
| 知的財産 | 権利の登録証・出願書類・職務発明規程・ライセンス契約書 |
| 許認可・訴訟 | 許認可証・届出の控え・行政からの指導文書・訴訟関係書類 |
最新版と旧版が混在していると、買い手側で照合したときに食い違いとして扱われます。開示の前に、版・作成日・適用期間を確認しておくとよいでしょう。
不利な情報を先に開示する判断
売り手は、買い手が求めた資料と質問に対し、重要な情報を正確に開示する必要があります。不利な情報を開示しないまま最終契約を締結すると、表明保証違反・開示義務違反・詐欺などが問題となり、補償請求・損害賠償請求・契約解除・紛争につながる可能性があります。
不利な問題があっても、早い段階で開示し、是正の状況・再発を防ぐための対応・契約上どう扱うかの案をあわせて示すことで、交渉を続けられる場合があります。調査の途中で未開示の問題が判明した場合、金額の交渉にとどまらず、買い手が取引そのものを見直すこともあります。
開示と表明保証の例外の関係
開示資料に含めた事項が、表明保証の例外として扱われるかどうかは、最終契約の文言と開示の方法によって異なります。データルームに資料を置くだけで、すべての責任を免れるとは限りません。
例外として扱う事項は、別紙(ディスクロージャー・スケジュール)に個別に記載し、どの表明保証のどの部分に対する例外かを対応づけておくと、後の争いを避けやすくなります。
秘密保持と情報管理
M&Aでは、取引条件・顧客情報・従業員情報・技術情報など、機密性の高い情報を扱います。機密情報を開示する前に秘密保持契約を締結し、開示対象者・利用目的・複製・返却・廃棄・取引中止後の扱いなどを定めます。
競合会社が買い手候補となる場合は、価格・顧客別売上・技術情報などの開示により競争上の問題が生じる可能性があります。必要に応じて、競争法上センシティブな情報へのアクセスを外部の専門家などに限定するクリーンチームを設けます。個人情報を含む資料を開示する場合は、個人情報保護法・社内規程・契約上の秘密保持義務にも注意が必要です。
ベンダーデューデリジェンス
売り手が事前に自社を調査する場合、ベンダーデューデリジェンスまたはセルサイドデューデリジェンスと呼ばれます。株式の帰属・未払い賃金・許認可・主要契約といった、取引の可否に関わりやすい分野を先に確認しておけば、開示の準備と是正を並行して進められます。費用は売り手が負担します。
入札案件では、売り手が作成した報告書を買い手候補へ提供する場合もあります。その場合は、報告書の利用範囲・責任の所在・買い手側で行う追加調査の範囲を、あらかじめ定めておきます。
法務デューデリジェンスを依頼できる専門家
法務デューデリジェンス(DD)は、会社法・契約法・労働法・知的財産法・業法・訴訟など、複数の法分野に関係します。中心となるのは弁護士ですが、案件に応じて公認会計士・税理士・社会保険労務士・弁理士・司法書士などと連携します。
弁護士が担う主な役割
弁護士は、主に次の業務を担います。
- 調査範囲・重要性基準の設定
- 契約・会社組織・株式・許認可・訴訟などの確認
- 法的リスクの内容と取引への影響の検討
- Q&A・インタビュー・追加資料請求
- 発見事項の報告
- 買収価格・表明保証・補償・前提条件への反映
- 最終契約書の作成・確認・交渉支援
労務・税務・企業価値・知的財産など、他の専門分野に関する問題は、各専門家と連携して検討します。
他の専門家が関与する場面
対象会社の状況によっては、法務以外の分野を並行して調べることになります。誰がどこまでを担当するかを事前に決めておくと、質問の重複や確認漏れを防げます。
| 専門家 | 主な対応分野 |
|---|---|
| 公認会計士 | 財務状況・収益力・運転資本・簿外債務・企業価値など |
| 税理士 | 過年度申告・税務処理・追徴課税リスクなど |
| 社会保険労務士 | 就業規則・労働時間・賃金計算・社会保険手続など |
| 弁理士 | 特許・商標などの権利状況・出願・侵害可能性など |
| 司法書士 | 商業・法人登記の確認・登記申請手続など |
弁護士以外の専門家が関与する範囲は、案件の内容と各資格の業務範囲によって異なります。法的紛争・契約解釈・最終的な法的評価は、弁護士が担当します。
M&Aに関する経験を確認する
法務デューデリジェンスを依頼する際は、次の点を確認してください。
- M&A・企業法務案件の取扱経験
- 対象会社の業種・許認可への対応経験
- 労務・知的財産・海外案件などへの対応体制
- 調査範囲と重要性基準の決め方
- 報告書・速報・Q&Aシートなどの報告形式
- 短納期への対応可否
- 発見事項をM&A契約書へ反映できるか
- 費用と追加料金の条件
依頼時に、調査だけを依頼するのか、最終契約の作成・交渉まで依頼するのかを明確にしておくと、担当範囲を確認しやすくなります。
中小企業のM&Aについては、中小企業庁が中小M&Aガイドラインを策定しており、2026年7月時点では2024年8月に策定された第3版が最新です。支援機関へ依頼する際に確認すべき業務内容や手数料の説明などが示されており、弁護士へ法務デューデリジェンスを依頼する場合にも、支援内容・費用・担当範囲を明確にするという点で参考になります。
また、2021年8月に運用が始まったM&A支援機関登録制度には、2026年3月時点で約3,400者が登録しています。中小企業庁は中小M&A資格試験の概要を示したうえで、2026年3月に試験実施事業の委託先を公募し、同年5月1日に実施事業者を決定しています。試験日程などは今後の公表を確認する必要があります。ただしこれらは仲介者やフィナンシャルアドバイザーを主な対象とする制度であり、法務デューデリジェンスを担う弁護士の選び方とは分けて考える必要があります。
当事務所の法務デューデリジェンス
当事務所では、法務デューデリジェンスの調査だけでなく、発見事項のM&A契約書への反映、買収後に生じた紛争への対応も取り扱っています。
法務・財務・税務・労務・知的財産などに対応
当事務所は、M&A総合会計事務所や社会保険労務士・弁理士などと連携し、法務・財務・会計・税務・労務・知的財産・不動産などのデューデリジェンスに対応しています。
すべての分野を一括して依頼するだけでなく、法務デューデリジェンスのみ、または法務のうち特定分野のみを依頼することも可能です。必要な分野は、対象会社の業種・規模・買収目的に応じて決まります。
報告書と短納期への対応
当事務所は、ページ数を増やすことを目的とせず、必要な事項を簡潔に記載したレポートを作成しています。緊急の案件や短納期の案件では、ご依頼から1〜2週間以内でのレポート提出にも対応しています。
ただし、調査範囲・資料量・納期・料金によっては、Q&Aシートへの指摘事項の付記を中心とし、別途報告書を作成しない簡易な方法をとる場合があります。報告書の有無・内容・納期は、ご相談の際にお確かめください。
調査結果をM&A契約書へ反映する
当事務所では、法務デューデリジェンスで発見した事項を、株式譲渡契約その他のM&A契約書へ反映する対応を行っています。
問題の内容に応じて、次の条項を検討します。
- 買収価格・価格調整
- 表明保証
- 補償
- クロージングの前提条件
- クロージング前後の誓約事項
- 解除・取引中止
- 責任上限・免責額・請求期間
調査担当者と契約担当者が情報を共有することで、発見事項と契約条項の関係を確認しながら対応できます。
買収後のM&Aトラブルにも対応
法務デューデリジェンスと契約上の対応を行っても、開示されなかった事情・契約違反・買収後の状況変化などにより、紛争が生じることがあります。
当事務所では、次のような問題を取り扱っています。
- 表明保証違反・補償請求
- コベナンツ違反
- 重要事実の不開示・虚偽説明
- M&A対価の不払い
- 簿外債務・粉飾決算・使途不明金
- 競業避止義務違反・従業員の引抜き
- 株式譲渡後の損害賠償請求
- 役員退職慰労金をめぐる問題
買収後に問題が判明した場合は、最終契約の請求期間・通知方法・証拠の確保を早期に確認する必要があります。
M&Aトラブル・表明保証違反でお困りの方へ
買収後に簿外債務・粉飾決算・許認可の不備・重要事実の不開示などが判明した方は、M&Aトラブル専用サイトをご覧ください。
法務デューデリジェンスに関するよくある質問
法務デューデリジェンスについて、買い手・売り手の双方から寄せられることの多い質問をまとめました。個別の案件では、対象会社の業種・規模・M&Aの手法によって答えが変わる場合があります。
財務デューデリジェンスとの違いは何ですか?
法務デューデリジェンスは、契約・許認可・労務・知的財産・訴訟などの法的リスクを対象とします。財務デューデリジェンスは、収益力・運転資本・有利子負債・簿外債務など、財務面の実態を対象とします。
両者は重なる部分もあります。たとえば未払い賃金は、法務面では労働関係法令への適合が問題となり、財務面では金額の見積もりが問題になります。分野ごとに担当者が分かれる場合は、重要な発見事項を共有できる体制を設けておくと、確認漏れを減らせます。
売り手も法務デューデリジェンスの準備が必要ですか?
売り手は、買い手から求められた資料を開示し、Q&A・インタビューに対応します。資料の所在・最新版・不足資料を早めに確認し、重要な問題がある場合は弁護士と対応を検討しておきます。準備の進め方は、本記事の「売り手側の準備とベンダーデューデリジェンス」で詳しく説明しています。
小規模なM&Aでも法務デューデリジェンスは必要ですか?
小規模なM&Aでも、株式の帰属・未払い賃金・許認可・重要契約などに問題があれば、取引金額に対して大きな負担となる可能性があります。
ただし、すべての項目を同じ深さで調べる必要があるとは限りません。取引金額・業種・従業員数・許認可・主要契約を踏まえ、対象を絞った法務デューデリジェンスを検討できます。
短納期でも依頼できますか?
緊急の案件や短納期の案件については、ご依頼から1〜2週間以内でのレポート提出にも対応しています。ただし、対応できる範囲・調査方法・報告形式は案件ごとに異なります。
期間が限られる場合は、重要な契約・許認可・労務・訴訟を優先し、金額や影響度に基づく重要性基準を設けたうえで進めることになります。対象範囲が狭まる分、見落としの可能性が高まる点は理解しておく必要があります。
法務デューデリジェンスだけを依頼できますか?
当事務所では、法務デューデリジェンスのみ、または法務のうち特定分野のみの依頼にも対応しています。財務・税務などを別の専門家へ依頼する場合は、重要事項を共有できる連絡体制を設けることが大切です。
法務デューデリジェンスでリスクをすべて発見できますか?
法務デューデリジェンスで、すべてのリスクを発見できるとは限りません。調査は、売り手から開示された資料・回答・公開情報などをもとに、決められた期間と対象範囲で行われます。
未開示の事実・資料に表れない運用・将来の法改正や状況変化などは、調査時点で把握できない場合があります。そのため、表明保証・補償・前提条件・買収後の対応も組み合わせます。
法務デューデリジェンスのご相談は当事務所へ
法務デューデリジェンス(法務DD)は、対象会社の法的リスクを把握し、買収の可否・価格・契約条件・買収後の対応を検討するための調査です。調査対象は、会社組織・株式・契約・許認可・労務・知的財産・資産・負債・訴訟・コンプライアンスなど多岐にわたります。
大切なのは、資料を確認して報告を受けることだけではありません。発見事項を価格・表明保証・補償・前提条件・誓約事項へ反映し、クロージング後に必要な対応まで確認することです。2026年に施行された取適法や、2026年12月に施行が予定されている改正公益通報者保護法のように、確認すべき法令が変わる分野もあります。
当事務所では、次の業務を取り扱っています。
- 法務デューデリジェンス
- 財務・税務・労務・知的財産などのデューデリジェンス
- 株式譲渡契約その他のM&A契約書の作成・確認
- 表明保証違反・コベナンツ違反などのM&Aトラブルへの対応
法務デューデリジェンスの対象範囲・期間・費用は、対象会社と取引内容によって異なります。調査範囲の設定から契約条項への反映まで相談したい方は、お問い合わせください。

