買主から株式譲渡契約書の案文が届きました。分量が多く、来週には署名したいと言われております。どの程度の時間をかけて検討すべきものなのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。株式譲渡契約書の検討には、案文の受領から署名までに少なくとも2週間から3週間を確保することが望まれます。理由は、条項の検討そのものに要する時間のほか、開示別紙の作成、対象会社の事実関係の確認、修正の申入れと相手方の回答という往復に時間を要するためです。とりわけ開示別紙の作成は、資料の精査を伴いますので、期間を要します。本記事では、期間の目安と作業の内容を整理いたします。
第1節 検討に要する作業
表1 案文の受領から署名までの作業
| 作業 | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 1 条項の検討 | 表明保証、補償、前提条件、競業の禁止等を検討いたします | 数日 |
| 2 事実関係の確認 | 表明保証の各項目について、対象会社の実際と一致するかを確認いたします | 1週間程度 |
| 3 開示別紙の作成 | 一致しない事項を特定して記載いたします | 数日から1週間 |
| 4 修正の申入れ | 修正案を作成し、相手方に提示いたします | 数日 |
| 5 往復及び調整 | 相手方の回答を受けて調整いたします | 1週間程度 |
| 6 最終の確認 | 合意した内容が反映されているかを照合いたします | 1日から2日 |
1 最も時間を要するのは事実関係の確認です
条項の文言を検討すること自体は、比較的短い時間で行うことができます。時間を要するのは、表明保証の各項目について、対象会社の実際と一致するかを確認する作業です。
この作業には、計算書類、契約書、就業規則、許認可に関する書類、係属中の紛争に関する資料の精査を伴います。項目の数が多く、また事業の各分野にわたりますので、相応の期間を要します。
2 開示別紙の作成
確認の結果、表明保証の内容と一致しない事項が判明した場合には、これを開示別紙に記載いたします。記載にあたっては、具体性が求められます。抽象的な記載では、後に判明した事実がその記載の範囲に含まれるかが争われます。
開示別紙は、売主が負う責任の範囲を画する重要な書面です。作成に十分な時間を確保することが、後の紛争を避けることにつながります。
3 往復の時間
修正を申し入れた後、相手方において検討し、回答を得るまでに時間を要します。相手方の社内における承認の手続を要する場合には、さらに時間がかかります。この往復を1回から2回想定して、日程を組み立てます。
第2節 期間を確保するための工夫
1 案文の提示を早期に求めます
基本合意の段階で、最終契約の案文をいつ提示するかを取り決めておく方法があります。デューデリジェンスの終了と同時に案文を提示することとすれば、検討の期間を確保することができます。
2 準備を先行させます
案文の受領を待たずに、開示別紙に記載すべき事項の整理を開始することができます。デューデリジェンスにおける質問と回答の記録、指摘を受けた事項、社内で把握している懸案を、あらかじめ一覧としておきます。
この準備を行っておくことにより、案文の受領後の作業が大幅に短縮されます。
3 署名の日を先に定めない
署名の日を早期に確定させますと、そこから逆算して検討の期間が圧縮されます。決済の日を目標としつつ、署名の日には幅を持たせておくことが望まれます。
第3節 時間が確保できない場合
相手方の事情により期間を確保することができない場合には、優先順位を付けて検討いたします。優先すべきは、次の事項です。
第一に、表明保証の範囲及び開示別紙です。責任の発生の要件に関わるためです。第二に、補償の上限額及び請求期間です。責任の総量に関わるためです。第三に、決済の前提条件です。決済の可否に関わるためです。第四に、競業の禁止に関する条項です。譲渡の後の売主の活動を制約するためです。
これらに絞ることにより、限られた時間の中でも一定の検討を行うことができます。もっとも、十分な検討を経ないまま署名することの危険は残りますので、可能な限り期間の確保を申し入れることが望まれます。
第4節 弁護士に相談する意味
株式譲渡契約書の検討において弁護士が行う業務は、条項を読むことにとどまりません。第一に、表明保証の各項目について、対象会社の事実関係と照合することです。第二に、一致しない事項について、限定の付し方と開示別紙への記載のいずれによるかを判断することです。第三に、補償の上限額及び請求期間と併せて、売主が負う責任の総量を確定させることです。第四に、修正の申入れを具体的な文言として提示することです。
これらの作業には期間を要します。案文の受領後にご相談いただくよりも、デューデリジェンスの段階からご相談いただく方が、準備を先行させることができます。
具体的な検討の進め方は、案文の内容、対象会社の状況、交渉の段階等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 2週間も待ってもらえるでしょうか。
専門家の確認を経たいという申入れは、取引の相手方にとって不自然なものではありません。買主の側でも同様の作業を行っておりますので、理解が得られることが多いといえます。
質問2 修正を申し入れると、印象が悪くなりませんか。
そのようなことはありません。契約の内容について協議することは、当然のことです。むしろ、内容を確認せずに署名する当事者の方が、後の紛争の原因となります。
質問3 どの条項が最も重要ですか。
売主にとっては、表明保証の範囲、開示別紙、補償の上限額及び請求期間が重要です。これらが、譲渡の後に負う責任の範囲を定めるためです。
質問4 開示別紙は誰が作成しますか。
売主が作成いたします。対象会社の事実関係を把握しているのは売主であるためです。作成には資料の精査を伴いますので、期間を要します。
質問5 署名した後に修正できますか。
相手方の同意を要しますので、容易ではありません。署名の前の検討が重要です。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、株式譲渡契約書に関するご相談を、売主側及び買主側の双方からお受けしております。
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ご相談の際に、株式譲渡契約書の案文、デューデリジェンスにおける質問と回答の記録、直近3期分の計算書類、就業規則、主要な契約書をご用意いただけますと、検討が早く進みます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第416条(損害賠償の範囲)、第521条第2項(契約の内容の自由)
会社法 第136条以下(譲渡制限株式の承認)、第130条第1項(株主名簿の名義書換えの対抗要件)
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