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表明保証(レプワラ)とは?違反時の損害賠償・補償・解除と裁判例まで解説

公開 2026年8月2日更新 2026年11月4日

表明保証とは、M&Aの最終契約書で、売主などの契約当事者が、対象会社の財務・税務・労務などに関する事実が真実かつ正確であることを表明し、相手方に保証することです。対象となるのは契約締結日や取引実行日といった一定の時点の事実で、英語の“representations and warranties”から「レプワラ」「レップ」「R&W」とも呼ばれます。

表明保証の内容が事実と異なる場合、取引実行前であれば前提条件や解除の可否が、取引実行後であれば補償や損害賠償が問題になります。ただし、違反があれば当然に請求が認められるわけではなく、請求できる内容は表明保証条項・補償条項・解除条項・責任制限条項などの記載によって異なります。

この記事では、表明保証の意味と役割、条項に定められる内容と条文例、違反した場合の補償・損害賠償・解除、参考となる裁判例、条項を定める際の注意点、表明保証保険について解説します。

M&Aの表明保証トラブルでお困りの皆様へ

「表明保証違反に当たるのか確認したい」「売主へ補償を請求したい」「買主から請求を受けている」など、表明保証をめぐる問題は契約書の文言と証拠によって対応が変わります。当事務所では、請求する側・請求を受けた側のいずれにも対応しています。

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表明保証(レプワラ)とは?

表明保証は、株式譲渡契約書などM&Aの最終契約書に置かれる条項です。主に売主が対象会社の状態について表明保証し、買主も契約締結の権限や対価を支払う能力などについて表明保証する場合があります。

表明保証は英米法の下で発展した考え方で、日本法には表明保証一般の効果を定めた規定がありません。そのため、内容が事実と異なっていた場合の責任は、表明保証条項だけでなく補償条項・解除条項・取引実行の前提条件などを合わせて判断します。

表明と保証の違いと英語表記

「表明保証」は英語の“representations and warranties”の訳語で、M&Aの場面では略して「レプワラ」「レップ」、または「R&W」と呼ばれます。もっとも、日本法上、「表明」と「保証」に一律に異なる法的効果が認められているわけではありません。

したがって、名称だけで責任が決まるものではなく、表明保証の対象となる事実・基準時・限定の有無・違反時の補償や解除などを含め、契約書全体の記載から判断します。

表明保証が問題となりやすいM&Aの方法

表明保証が特に重要となるのは、対象会社の株式を取得する株式譲渡です。株式譲渡では対象会社の資産・負債・契約関係がそのまま残るため、簿外債務や未開示の紛争があれば、買主は株式価値の低下などを通じて影響を受けます。

これに対して事業譲渡では、譲渡対象を契約で定めるため、表明保証の対象と違反による影響が株式譲渡とは異なり、選択した方法に応じた条項が必要になります。M&A契約書の主要条項については、M&A契約書に関する総合案内もご覧ください。

M&Aで表明保証が果たす役割

一般に、対象会社・その経営陣・売主側は買主よりも対象会社に関する情報を多く持っており、買主は売主から提供された資料・説明やデューデリジェンス(買収前調査)の結果を基に、譲渡価格や契約条件を判断します。ただし、デューデリジェンスには調査期間・費用・開示資料の範囲などの制約があり、すべての債務や法的問題を契約前に発見できるとは限りません。

リスクの分担

表明保証条項には、取引価格の前提となる事実を明確にするとともに、契約時に判明していなかったリスクを売主と買主のどちらが負担するかを定める役割があります。

表明保証した事項が基準時において不正確であり、契約上の補償の要件を満たす場合は、売主が損害を負担します。一方、表明保証の対象外とした事項や、契約に従って例外として開示した事項についても、開示されたことだけで当然に買主がすべてのリスクを負うわけではありません。デューデリジェンスで具体的な問題が確認された場合は、譲渡価格への反映や個別の補償条項(特別補償)も含めて、当事者間の負担を定めます。

取引実行の前提条件

株式譲渡契約などでは、取引実行日に表明保証が正確であることを、買主が代金を支払う前提条件の一つとして定めます。

取引実行前に表明保証違反が判明した場合、買主は前提条件が満たされないことを理由に取引の実行を見合わせたり、契約の定めに従って解除したりできる場合があります。

違反時の補償の根拠

取引実行後に表明保証と異なる事実が判明した場合、契約に補償条項があれば、買主はその要件に従って損害の補償を求めることができます。表明保証は、どの事実について売主が責任を負うのかを特定するものであり、補償を請求する根拠になります。

売主による情報開示の促進

売主が表明保証の対象から除外したい事実は、契約で定めた方法に従い、開示スケジュールなどで具体的に開示しておく必要があります。そのため表明保証条項には、売主に対象会社の問題を自ら開示するよう促し、デューデリジェンスを補う働きもあります。

表明保証条項に定められる主な内容

表明保証条項には、売主・買主などの契約当事者に関する事項と対象会社に関する事項が定められ、具体的な項目や限定の仕方は、取引の方法・対象会社の業種・デューデリジェンスで確認された問題などによって異なります。

代表的な項目は次のとおりです。

区分 主な項目の例
契約当事者に関する事項 法人である当事者が適法に設立・存続していること・契約締結および履行に必要な権限や社内承認があること・他の契約や法令に抵触しないこと・反社会的勢力との関係がないこと
株式・持分に関する事項 売主が対象株式を適法に保有していること・質権その他の担保権や第三者の権利が設定されていないこと・発行済株式数などが正確であること
財務に関する事項 計算書類その他の財務情報が正確であること・未開示の債務や偶発債務がないこと・基準日後に重大な悪化がないこと
税務に関する事項 税務申告・納付が適正に行われていること・未納税金がないこと・税務調査や税務争訟が適切に開示されていること
人事・労務に関する事項 未払賃金(時間外・休日・深夜労働の割増賃金を含む)がないこと・社会保険への未加入・適用漏れまたは保険料の未納がないこと・重大な労働紛争がないこと
知的財産に関する事項 事業に必要な知的財産権を保有または適法に利用していること・第三者の権利を侵害していないこと・重大な紛争がないこと
許認可・法令遵守に関する事項 事業に必要な許認可を取得・維持していること・重大な法令違反や行政処分がないこと
環境に関する事項 土壌汚染・廃棄物の処理・有害物質の使用などについて法令違反や是正が必要な状態がないこと
契約・紛争に関する事項 重要な契約が有効に存続していること・株主の変更を理由に解除や条件変更ができる定めの有無が開示されていること・重大な債務不履行がないこと・訴訟・仲裁その他の紛争が適切に開示されていること
開示情報に関する事項 買主へ提供した資料や質問への回答に重要な誤りがないこと・判断に必要な事項が開示されていること

買主に関する表明保証は売主側より項目が限られ、「契約当事者に関する事項」が中心です。買主の資金調達が取引実行の前提となる場合は、対価を支払うための資金に関する事項が加わることもあります。

表明保証の基準時

表明保証が正確でなければならない時点は契約書で定められ、契約締結日のみを基準とする場合もあれば、契約締結日と取引実行日(クロージング日)の双方を基準とする場合もあります。

取引実行後に新たに発生した事象は、通常、取引実行日を基準時とする表明保証の対象にはなりません。ただし、取引実行後に発覚した問題でも、基準時に既に存在していた事実であれば表明保証違反となり得ます。取引実行後の行為については、誓約事項や別の契約上の義務が問題になります。

開示スケジュールと限定表現

売主がすべての事項を例外なく表明保証することは困難であるため、表明保証の例外となる事実を開示スケジュール(ディスクロージャー・スケジュール)に記載し、対応する表明保証の例外として扱うことがあります。ただし、資料を買主に渡していたことや、開示スケジュールに短い記載を置いたことだけで、必ず表明保証の例外になるとは限りません。

また、「売主が知る限り」「重要な点において」「通常の事業の過程を除き」などの限定表現を使用することがあります。こうした限定は責任の範囲を大きく変えるため、定義条項も合わせて確認します。

表明保証条項の条文例

表明保証条項は、保証する旨を定める柱書と、保証の対象となる事実を並べた各号で構成されます。以下は一般的な条文の例です。

売主は、買主に対し、本契約締結日及び取引実行日において(個別に基準時を定めた事項については当該基準時において)、別紙●記載の各事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する。

保証の対象となる事実には、限定表現や開示スケジュールによる例外が付されることがあります。

別紙●(開示スケジュール)のうち本号に対応する項目に具体的に記載された事項を除き、売主の知る限り、対象会社には、買主に開示されていない重要な債務は存在しない。

違反があった場合の効果は、補償条項で定めます。請求できる期間や通知の方法が併せて定められることもあります。

売主は、前条の表明保証に違反したことに起因して買主に生じた損害・損失・費用(対象会社に生じた損害等により買主が被るものを含み、合理的な範囲の弁護士費用を含む。)を買主に補償する。ただし、買主は、取引実行日から●か月以内に、売主に対し、対象となる表明保証違反の内容及び判明している損害の概要を書面で通知した場合に限り、当該補償を請求することができる。

条項の書き方は、取引の方法・デューデリジェンスで確認された問題・当事者の交渉によって変わります。ひな形をそのまま使用すると、保証の範囲・基準時・限定表現が取引の内容と合わないまま契約を締結することになりかねないため、条項ごとに対象会社の状況に合わせて確認します。株式譲渡の契約書全体の構成は、株式譲渡契約書(SPA)に関する記事でも解説しています。

表明保証違反とは?誓約事項・特別補償との違い

表明保証の基準時において、表明された事実が真実または正確でなかった場合、表明保証違反が問題になります。たとえば、取引実行日現在に未開示の債務が存在していたにもかかわらず、「未開示の債務は存在しない」と表明保証していた場合です。

誓約事項(コベナンツ)との違い

表明保証が一定時点の事実の状態に関する条項であるのに対し、誓約事項(コベナンツ)は、契約締結後に一定の行為をする義務または一定の行為をしない義務を定める条項です。たとえば、「取引実行日まで通常の事業の範囲を超える資産処分をしない」という定めが誓約事項に当たります。

表明保証違反が債務不履行に当たるか、補償条項に基づく独自の責任として扱われるかは、条項の記載や契約全体の内容によって判断されます。

特別補償との違い

M&Aの契約では、デューデリジェンスなどで判明した特定のリスクについて、表明保証違反の有無とは切り離して補償の対象とする条項を置くことがあり、「特別補償」「個別補償」などと呼ばれます。税務上の懸念・係属中の訴訟・未払賃金など、契約で個別に特定した事由が対象です。

表明保証では買主が既に認識していた事項の扱いが問題になるのに対し、特別補償は問題の存在を当事者が把握していることを前提に置くため、認識の有無が争点になりにくいという違いがあります。補償条項の内容については、M&A契約書の補償条項に関する記事もご覧ください。

売主の故意・過失がなくても責任を負う?

補償条項が、表明保証の客観的な不正確さを補償事由として定めている場合、買主が売主の故意・過失を立証しなくても補償を請求できるよう定められていることがあります。

一方、「売主が知る限り」とする知識限定がある場合は売主の認識が問題となり、責任の成否や範囲も、表明保証の記載・補償条項・知識の定義・開示スケジュールなどによって変わります。そのため、「表明保証違反は常に無過失責任である」と一律に判断することはできません。

表明保証違反が問題になりやすい主な事項

表明保証違反は、契約で保証された内容と異なる事実が、契約締結後または取引実行後に判明することで問題になります。単に情報が開示されていなかったというだけで違反になるわけではないため、どの表明保証に反するのか、開示スケジュールによって除外されていないかを確認します。

未開示の債務・偶発債務

未開示の債務は表明保証違反で争われやすい事項の一つであり、貸借対照表に計上されていない借入金・保証債務・未払賃金(時間外・休日・深夜労働の割増賃金を含む)・未納税金などが問題になることがあります。

偶発債務とは、訴訟の結果によって発生する損害賠償債務など、将来の一定の事象によって現実化する可能性がある債務を指します。買主が取引価格を判断するために重要な内容であれば、財務・紛争・法令遵守などの表明保証との関係を確認します。

財務情報の不正確さ

売上の架空計上や前倒し計上、費用・損失・引当金の過少計上、売掛金や在庫の過大計上などにより、対象会社の財政状態や経営成績が実態より良く表示されている場合があります。

財務情報が譲渡価格の算定に使われていた場合、その不正確さは損害額の算定にも影響しますが、修正後の企業価値と実際の譲渡価格との差額がそのまま損害として認められるとは限りません。

人事・労務、知的財産、許認可の問題

人事・労務では、未払賃金・労働時間管理・社会保険への未加入や適用漏れ・保険料の未納・労働災害・ハラスメント・従業員との紛争などが問題になることがあります。

知的財産では、事業に必要な特許権・商標権・著作権・営業秘密を適法に保有または利用しているか、第三者の権利を侵害していないかが問題になります。許認可については、取得や更新の状況・行政処分の有無のほか、株主の変更や組織再編による影響も確認します。

表明保証違反があった場合の補償・損害賠償・解除

表明保証違反が疑われる場合、まず取引実行前か取引実行後かを確認します。取引実行前であれば前提条件や解除事由に当たるかを、取引実行後は補償条項に基づく補償請求を中心に検討します。

補償(インデムニティ)の請求

M&A契約では、表明保証違反または契約上の義務違反によって相手方に生じた損害・損失・費用などを補償する条項(インデムニティ条項)が置かれることがあります。

補償請求では、次の事項を確認します。

  • 対象となる表明保証条項と違反の基準時
  • 補償の対象となる損害・損失・費用の範囲
  • 違反と損害との因果関係
  • 補償額の上限と一件当たりの基準額
  • 請求できる期間と通知方法
  • 補償を唯一の救済手段とする条項の有無

補償の支払方法は、売主からの直接支払いのほか、契約で認められていればエスクローや留保された譲渡代金からの支払い・相殺も利用されます。

損害賠償の請求

補償条項の対象外となる場合や、売主による虚偽説明・情報の隠蔽などがある場合には、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求、詐欺を理由とする意思表示の取消しなどの可否を、契約条項と個別の事情に応じて検討します。もっとも、補償条項を唯一の救済手段とする定めがある場合は、その効力と適用範囲が問題になります。

債務不履行に基づく損害賠償の範囲は、民法416条が定める通常生ずべき損害と特別の事情によって生じた損害の区別に従って判断されます。一方、契約上の補償請求では、補償条項にある損害の定義や、逸失利益・間接損害などの除外、補償上限額などの定めを確認します。

契約の解除

表明保証違反があっても当然に契約を解除できるわけではなく、解除の可否は、契約に定められた解除事由・違反の重大性・是正の可否・民法上の解除要件などを踏まえて判断します。

取引実行後は、株式の移転や代金の支払いが既に行われているため、契約で解除を制限し、補償を主な対応方法としていることもあります。取引を元に戻せるかどうかは、契約条項と個別の事情から判断します。

補償の上限・期間・デミニミス条項・バスケット条項

補償条項には、責任の範囲を定めるため、次のような制限が置かれることがあります。

  • 補償上限額(キャップ):補償額を譲渡価格の一定割合または一定額に制限する定め
  • 存続期間・請求通知期間:一定の期限までに補償請求の通知をするよう求める定め
  • デミニミス条項:一件当たりの損害が一定額に満たない場合、その損害を補償の対象から除外する定め
  • バスケット条項:対象となる損害の合計が一定額を超えた場合に補償を請求できるとする定め

バスケット条項には、基準額を超えた場合に対象損害の全額を請求できる方式と、基準額を超えた部分だけを請求できる方式があります。契約上の期間とは別に、法律上の消滅時効も確認します。

買主が違反を知っていた場合(サンドバッギング)

表明保証の内容と異なる事実を買主が認識しながら取引を実行し、その後に補償を請求できるかという問題は、サンドバッギングと呼ばれます。買主の認識にかかわらず請求を認める定めをプロ・サンドバッギング条項、買主が認識していた事項について請求を制限する定めをアンチ・サンドバッギング条項といいます。

契約書に定めがない場合に、どちらが当然の原則となるかは明確に確立していません。買主が違反を知らなかったことに重大な過失がある場合には売主が免責される余地があると述べた裁判例もありますが、その事案では買主の重大な過失は否定されています。買主の認識が争点になる場合に備え、買主側は問題を認識した時期と資料を、売主側は開示した事実・時期・方法を確認しておきます。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

表明保証違反をめぐる裁判例

表明保証違反については、違反の有無・買主の認識・損害額などが裁判で争われた例があります。結論は対象となる条項・当事者の説明・開示資料などによって異なるため、自社の案件にそのまま当てはまるとは限りません。

財務情報の不正確さと買主の認識が争われた裁判例

東京地方裁判所平成18年1月17日判決は、株式譲渡契約に添付された貸借対照表の正確性や簿外債務等の不存在などが表明保証されていた事案です。

対象会社では、元本への入金を利息への入金として処理するなどの会計処理が行われ、必要な貸倒引当金が計上されていませんでした。これについて裁判所は、財務諸表の正確性などに関する表明保証違反を認め、当該処理による不正確な計上額に基づく補償責任を認めています。

売主側は、買主が違反を知っていた、または重大な過失によって知らなかったとして免責を主張し、裁判所も、買主が違反を知らなかったことに重大な過失がある場合には悪意の場合と同様に扱う余地があるとの考え方を示しました。一方で、デューデリジェンスは買主の権利であって義務ではないとし、限られた期間と売主から提供された資料を基に行われることなどを踏まえ、当該事案では買主の重大な過失を否定しています。

開示の内容から売主の責任が否定された裁判例

東京地方裁判所平成23年4月19日判決は、対象会社の事業に重大な悪影響を及ぼす債務不履行の通知を受領していないことなどが表明保証されていた事案です。取引先との契約が解除されて対象会社に損失が生じたとして、買主が表明保証違反を主張しました。

裁判所は、買主が取引を実行するかどうかを判断するために必要な客観的情報が正確に提供されていたかという観点から検討し、売主が重要な点について不実の情報を開示し、または開示すべき情報を開示しなかったとは認められないとして、表明保証に基づく責任を否定しています。

設備の不備の改修費用が損害として認められた裁判例

東京地方裁判所平成24年1月27日判決は、対象会社の工場設備に消防署の立入検査で指摘を受ける不備があり、事業に必要な資産が良好な状態で稼働している旨の表明保証に違反するかが争われた事案です。裁判所は、設備の不備は契約時から存在していたとして表明保証違反を肯定し、設備の改修費用などを損害として認めました。

このほか、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)で再計算した株式価値と譲渡価格との差額を損害とする主張を認めず、未開示債務などに対応する金額について損害を認めた裁判例もあります(東京地方裁判所平成23年4月15日判決)。違反の有無と損害額は、契約条項だけでなく、開示された資料の内容・買主が把握できた事実・譲渡価格の決め方などに基づいて判断されます。

M&Aの後に表明保証違反が判明した場合の補償請求と、損害額の算定は、次のページでご案内しています。

表明保証条項を定める際の注意点

補償や解除を請求できるかどうかは、契約締結時の文言によって決まります。デューデリジェンスの結果をどの条項に反映し、責任の範囲をどこまで限定するかは、契約を締結する前に決めておく必要があります。

売主側の注意点

売主側で問題になるのは、保証する範囲と責任の限度、開示した事実が例外として扱われる形になっているかという点です。

  • 開示スケジュールに記載する事実と記載の具体性
  • 知識・重要性による限定の範囲と定義
  • 補償の上限額・期間・デミニミス条項・バスケット条項
  • 経営者個人が当事者または保証人となっていないか

これらの条件は個別に交渉されるため、上限額だけで判断せず、補償に関する定め全体として見比べます。

買主側の注意点

買主側では、判明したリスクの処理方法と、違反が後から分かった場合に請求できる形になっているかを確認します。

  • デューデリジェンスで判明した問題の手当ての方法
  • 表明保証の基準時が契約締結日と取引実行日の双方か
  • 買主の認識による制限に関する定めの有無
  • 補償の上限額と請求できる期間

税務や労務の問題は取引実行から相当期間が経過した後に表面化することがあるため、請求できる期間の定め方と、エスクローや譲渡代金の一部留保を利用するかどうかを併せて検討します。

表明保証違反が判明したときの対応

表明保証違反が疑われる場合は、契約書と証拠の確認から始めます。契約上の通知期限が迫っているときは、証拠の保全と通知の準備を並行して進め、交渉で解決しなければ、契約書の合意管轄条項や仲裁条項に従って訴訟や仲裁を検討します。

契約書と証拠の確認

まず、次の資料を確認します。

  • 最終契約書と開示スケジュール
  • デューデリジェンスの依頼資料・回答資料・報告書
  • 売主と買主の電子メール・議事録・交渉記録
  • 損害または是正費用を示す資料
  • 表明保証保険の保険証券・約款・引受時の資料

契約書では、対象となる表明保証・補償条項・通知期限・損害の定義・責任の制限に関する定めを確認します。

補償請求の通知

契約書に補償請求の通知方法が定められている場合は、その要件に従って通知します。契約によっては、通知先・送付方法・対象条項・違反内容・損害の概要・請求額または算定方法などの記載が求められます。

通知期限内に書面を送っても、契約が求める事項を欠いていれば通知の有効性が争われることがあります。あわせて、更正通知書・未払賃金の計算資料・是正工事の請求書など、損害の発生と金額を示す資料を確保します。

請求を受けた売主側の確認事項

買主から補償や損害賠償を請求された場合は、直ちに認めたり拒絶したりせず、問題の事実をいつ・どの資料で開示したかと、違反の基準時・通知期限・補償の対象・上限額などの要件を満たしているかを確認します。

オーナー経営者個人が売主である場合や、経営者個人が連帯保証などの責任を負っている場合は、請求が個人に向けられることもあるため、契約書の当事者と保証条項も確認します。請求を受けた売主側の回答・交渉・訴訟にも対応しており、M&Aトラブルに関する対応分野はM&Aトラブルに関する総合案内でもご案内しています。

表明保証保険とは?買主用と売主用の違い

表明保証保険(R&W保険)は、表明保証違反によって生じた損害を、保険契約で定めた範囲内で補償する保険です。契約者・被保険者・補償の対象は、商品や取引によって異なります。

買主用・売主用それぞれが補う損害

表明保証保険には買主用と売主用があり、中小M&Aガイドライン(第3版)でも、売主用は売主が被る損害を、買主用は買主が被る損害を補償する保険として説明されています。

売主用の保険は、買主から補償を請求された売主の負担を補うものです。買主用の保険では、買主が保険会社に対して保険金を請求することになるため、売主に対する補償の上限額や期間を抑える交渉につながることがあります。

保険で補えない損害

保険に加入していても、表明保証をめぐる問題がすべて保険で解決するとは限りません。デューデリジェンスなどで既に判明していた事項や、被保険者が引受時に認識していた表明保証違反は、支払の対象外とされることがあります。引受時に個別に除外された事項・免責金額を下回る損害・支払限度額を超える損害も対象外となることがあり、その範囲は保険証券や約款ごとに異なるため、加入時の書面で確認が必要です。

また、M&A契約上の通知期限とは別に、保険会社への通知期限が定められていたり、責任の承認や和解などを行う際に保険会社への事前の通知や承諾が必要とされていたりする場合があります。保険で補えない部分は、M&A契約に基づいて売主へ請求できるかを確認します。

表明保証の問題を弁護士に相談するタイミングと費用

表明保証の問題は、契約締結前・取引実行前・取引実行後のどの段階でも生じます。契約締結前であれば表明保証条項・開示スケジュール・補償条項の作成や確認について、違反が疑われる段階であれば請求や通知の要否について、契約書と判明している事実を基に検討できます。相談が遅れると、契約上の通知期限を過ぎたり証拠が失われたりすることがあります。

当事務所は、これまでに400件超のM&A案件に関与し、M&Aの契約作成・デューデリジェンスだけでなく、M&Aトラブルや訴訟・紛争にも対応しています。財務情報や税務・労務が争点となる場合は、必要に応じて公認会計士・税理士・社会保険労務士等と連携します。取扱分野については、取扱業務一覧をご覧ください。

弁護士費用は、ご相談の内容と対応する業務の範囲に応じて、個別にお見積りをご案内します。業務ごとの着手金・月次報酬・連動報酬などの料金体系は、弁護士費用一覧に掲載しています。

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表明保証違反について請求したい買主、請求を受けた売主、取引実行前に問題が見つかった当事者のいずれにも対応しています。契約書、開示スケジュール、相手方から届いた通知書などをお持ちの場合は、ご相談時にご用意ください。

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表明保証に関するよくある質問

表明保証違反の請求には期限がありますか?

契約書には表明保証の存続期間や補償請求の通知期限が定められていることがあり、その期間は契約ごと・表明保証の項目ごとに異なります。契約上の期限を過ぎた場合に補償請求がどの範囲で制限されるかも、条項の記載によって異なります。

契約上の期間とは別に、法律上の消滅時効も確認します。民法166条1項は、債権は、権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき、または権利を行使できる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅すると定めています。不法行為に基づく損害賠償請求には民法724条などの別の定めが適用されるなど、時効の起算点や期間は請求の法的根拠ごとに異なるため、個別に確認します。

デューデリジェンスを実施していても請求できますか?

デューデリジェンスを実施していても、表明保証の内容が不正確で、契約上の請求要件を満たす場合は、補償請求を検討できます。

デューデリジェンスで問題を発見できた可能性があったという理由だけで、直ちに請求できなくなるわけではありません。契約書のサンドバッギング条項・売主の開示・買主が実際に認識していた内容を確認します。

表明保証書とは何ですか?

表明保証書は、表明保証の内容を契約書とは別の書面にまとめたものを指して使われることがあります。M&Aでは最終契約書の中に表明保証条項を置くのが一般的で、「表明保証」はこうした条項や書面による表明・保証の総称として使われます。

別の書面で表明保証を行う場合も、契約書との関係や違反時の効果がどこに定められているかを確認します。

知る限りと知り得る限りの違いは何ですか?

一般に、「売主が知る限り」は、売主が現に認識している事実を基準とする限定です。これに対して「売主が知り得る限り」は、合理的な調査によって認識できた事実まで含める趣旨で使われ、売主の責任の範囲は広くなります。

もっとも、実際の範囲は契約の定義によって異なり、誰の認識を基準とするか(役員・担当者など)や求められる調査の程度も、定義条項の書き方によって変わります。

本記事は、公開日時点の法令と裁判例をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の事案についての法的助言ではなく、実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載内容の適用によって生じた結果について、当事務所は責任を負いかねます。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。

この記事の著者

弁護士 土屋勝裕(弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士)

弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件超のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応。

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