M&AにおけるMBO(マネジメントバイアウト)とは?目的やメリット・デメリットを解説

  • 2023年1月26日
  • 2025年11月3日
  • M&A
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今回紹介するMBO(マネジメントバイアウト)は、M&Aの手法の1つで、近年実施されるケースが増えています。

この記事では、MBOを行う目的や方法、メリット・デメリット等について、分かりやすく解説します。

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MBO(マネジメントバイアウト)とは

MBO(マネジメントバイアウト)とは、経営陣が会社の経営権を取得するために、既存株主から株式を買い取る、M&Aの手法の一つです。

経営陣は自己資金が限られているため、金融機関やファンドから資金を調達して買収を行うのが一般的です。

加えて、MBOは一般的なM&A(経営陣以外の第三者が買収を行う場合)や、TOB(株式公開買付)による取得スキームと比べて「経営陣が主体となる点」「買収後の経営継続性を重視する点」で特徴があります。

具体的には、経営陣が主導することで、外部株主の影響を受けにくくし、長期的な成長戦略を描くことを可能とします。

MBO(マネジメントバイアウト)の目的

MBO(マネジメントバイアウト)は、企業の非上場化や、経営陣による経営権の取得、事業承継等を目的として行われます。

近年特に多いのは、上場企業が上場廃止を目的としてMBOを実施するケースです。

上場企業の場合、基本的に株主の要望を受けて経営方針等を決定します。そのため、企業が従来の経営体制を変えたいと考えていても踏み切れない場合があります。例えば株主から短期的利益を求められ、企業が長期的な経営を実現できないということがあります。

上場廃止することで、企業は株主の意見に左右され難くなるので、上記のような事態を回避できます。

また経営陣が経営権を取得することで、自由な経営や迅速な意思決定を行うことができるため、そのような目的でもMBOが活用されることがあります。

株主に意見されることなく、経営陣が意思決定を行えるため、効率的な経営が可能となります。

また企業において信頼できる経営陣に事業を承継させ、後継者問題を解決する目的でもMBOが活用されます。

対象企業のことを熟知し、経営能力を有する経営陣に事業を承継させることが可能となります。

このように、MBOは企業の経営再構築から事業承継まで幅広い目的で活用されています。

さらに近年では、MBOが増加している背景として、以下のような経営環境の変化も挙げられます。

例えば上場企業では、株主からの圧力により短期的収益が優先されがちで、これを回避して中長期の価値創造を図るため、非上場化を伴うMBOが選択肢として注目されています。

MBO(マネジメントバイアウト)のメリット

ここからは、MBO(マネジメントバイアウト)のメリットを紹介します。

MBOには以下のようなメリットがあります。

  • 迅速な意思決定により経営を効率化できる
  • これまでの会社組織を維持できる
  • 外部からの買収を防ぐ
  • 長期的な経営を期待できる

上記の主要なポイントに加えて、次のような補足的なメリットも存在します。

その他のメリット(モチベーション・開示負担・機動性)

MBOのメリットとして「従業員や経営陣のモチベーション向上」「非上場化による情報開示負担の軽減」「株式公開市場の影響を受けずに経営改革を実行できる」といった点も挙げられます。

特に、従業員が経営陣と株主を兼ねることで、会社の価値成長と自身の報酬成長が連動するインセンティブ構造が生まれやすくなります。

さらに、上場後に比べて決算開示義務や有価証券報告書の提出義務等が軽くなるため、機動的な意思決定が可能となることも見逃せません。

迅速な意思決定により経営を効率化できる

MBO(マネジメントバイアウト)を実施し、経営陣の決定権限が強化されることで、迅速な意思決定と経営の効率化が可能となります。

例えば通常会社の重要な事項を決定する場合、株主総会の決議が必要です。MBOでは株主が経営陣となるので、株主総会手続きの中で説明や決議に時間がかからず、より効率的に進めることができます。

第三者である株主の意見に左右されず、合理的かつ機動的な経営を実現しやすい点が、MBOのメリットと言えます。

これまでの会社組織を維持できる

MBO(マネジメントバイアウト)は経営陣が株式を取得し、株式構成が変わるだけなので、会社組織が大きく変化しません。

そのため事業や従業員の雇用、経営体制等もそのまま引き継がれるケースが多く、 通常のM&Aと比べて会社への影響が少なく済みます。さらに、買収後も経営理念等の一貫性を保てることもメリットの1つと言えます。

会社が大きな影響を受けないため、従業員からの理解も得やすく、安定して事業を継続できると言えます。

外部からの買収を防ぐ

MBO(マネジメントバイアウト)を実施し、経営陣が株式を取得することで、外部からの買収を防ぐことができます。

上場していると、誰でも株式の買い付けが可能なので、敵対的な買収のリスクがあります。

一方、非上場株式の多くは株式の譲渡制限が定められているため、株式を譲渡する際は会社の承認が必要となります。そのため外部からの買収リスクを回避することが可能となるのです。

長期的な経営を期待できる

MBO(マネジメントバイアウト)を実施することで、長期的な経営の実現を期待できます。

株主はどうしても短期的利益を求める傾向にあるため、株主が多いほど、長期的な経営を行うことが難しくなります。

MBOを実施することで、経営陣が株主となるため、中長期的な経営戦略を立てることが可能となるのです。

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MBO(マネジメントバイアウト)のデメリット

ここからは、MBO(マネジメントバイアウト)のデメリットを紹介します。

MBOには以下のようなデメリットがあります。

  • 既存の株主と対立する可能性がある
  • 資金調達が厳しくなる
  • 経営に変化が現れない可能性がある

上記の主要なポイントに加えて、次のような補足的なデメリットも存在します。

その他のデメリット(レバレッジ負担・リスク集中・流動性低下)

MBOのデメリットには「過大なレバレッジ負担(借入金依存)」「経営リスクの集中」「流動性低下・再売却機会の制限」といった点があります。

特に、買収資金を大きく借入に頼る場合、経営陣自らが返済責任を負うため、収益が想定を下回った際の財務負荷が極めて高くなります。

また、株主構成を経営陣が独占的に握ることで、外部のモニタリングが弱まる可能性も指摘されています。

さらに、非上場化によって株式の流通性が低下するため、将来的な出口戦略(再上場・M&A売却等)を描きにくくなる点も注意が必要です。

既存の株主と対立する可能性がある

MBO(マネジメントバイアウト)を実施する際、既存の株主と対立するリスクがあります。

経営陣が株式を安値で買収したいと考える一方で、既存の株主はなるべく高値で売却したいと考え、両者で対立する可能性があるのです。

また、価格に納得できない場合は、既存の株主がなかなか買い取りに応じず、MBOを実行できないということも生じ得ます。

資金調達が厳しくなる

先述した通り、上場会社のMBO(マネジメントバイアウト)実施は、会社の非上場化を意味します。

要するに、株式発行による外部の株主からの資金調達ができなくなります。そのためMBO後は、金融機関からの借入等の方法で調達する必要が生じます。

また先述したとおり、MBO後は資金調達先の金融機関等への支払い債務を負うことになります。資金調達の選択肢が減ることで、資金繰りが厳しくなる可能性があるのもデメリットと言えます。

経営に変化が現れない可能性がある

MBO(マネジメントバイアウト)は、従来の会社組織や体制を維持できる一方で、経営体質が変化しない可能性があります。

例えば、企業の経営体質に問題がある場合、経営戦略の立て直しや改善が必要となりますが、MBOの場合は、同じ体質が継続するリスクがあります。

MBO(マネジメントバイアウト)の流れ

ここからは、MBO(マネジメントバイアウト)の流れを解説します。

MBOは以下のような流れで進みます。

  • SPCを設立する
  • 株式買い取りの資金調達
  • 買収を実行
  • 対象企業の子会社化・合併

流れについて、それぞれ詳しく解説します。

SPCを設立する

MBO(マネジメントバイアウト)では、まずSPCの設立を行います。

「SPC」とは、「Special Purpose Company(特別目的会社)」の略称で、限定された使用目的のために設立する法人のことを言います。

MBOにおいては、対象企業の株式を買い取る目的で、まずは受け皿となるSPCを設立します。なお、ここで経営陣はSPCの株主となり、SPCに対して買収資金を出資します。

株式買い取りの資金調達

最初に設立したSPCが、既存の株主から株式を買収するための資金を調達します。

規模にもよりますが買収には多額の資金が必要なため、経営陣の自己資金だけでは足りず、金融機関や投資ファンド等から融資を受けるのが一般的です。

資金調達にあたっては、通常の銀行借入だけでなく、レバレッジド・バイアウト(LBO)ローンやメザニンファイナンス、また経営陣自身が株主として出資するケースもあります。

これにより、買収後の株式保有構造や返済スケジュール、資本コストに関する議論が重要になります。

さらに、借入比率が高くなるほど、対象企業のキャッシュフローで返済原資を確保できるか、慎重なシミュレーションとリスク管理が不可欠です。

買収を実行

SPCが、対象企業の既存の株主から株式を買収します。

株式の買収にあたっては、まずTOB(株式公開買付)によって多数の株式を買収し、残りをスクイーズアウトによって集めるのが一般的です。

TOBは、既存の株主に対して買付価格や買付株式数、買付時期等を提示し、同意した株主から株式を買収する方法です。ただ株主全員から同意を得ることは現実的に難しいため、全ての株式を買収することができません。

このような場合に、スクイーズアウトという少数株主の同意を得ずに株式を買収する手法を用います。

なお、スクイーズアウトの方法としては、株式等売渡請求制度や株式合併や全部取得条項付種類株式等があります。中でもMBOでよく使われる特別支配株主による株式等売渡請求制度について簡単に説明します。

特別支配株主とは、議決権を90%以上保有する株主のことを言い、この方法では、特別支配株主が、少数株主の同意を得ずに株式を取得することができます。

まず特別支配株主が株式の取得日、買取価格等の条件を決定し、少数株主に売渡請求することを対象会社に通知します。

対象会社の取締役会等の承認を受けた後、少数株主に対して、会社の承認を得られたことと、特別支配株主の氏名、住所、買取価格を通知します。

そして取得日が来た時点で、特別支配株主が全ての株式を取得するという流れです。

ただ強引にスクイーズアウトを進めると、少数株主とトラブルになる可能性があるため、事前に説明し、出来るだけ多くの同意を得ておく必要があります。

また、スキーム設計段階では「合併・株式交換・株式移転」等を用いた手法検討も重要です。

例えば、対象企業とSPCを合併させて株式を消却する、あるいは種類株式を活用して少数株主の株式を取得する方法など、目的・費用・税務の観点から最適なパターンの選定が求められます。

さらに、対象企業が上場会社であった場合には、証券取引所の上場廃止基準・情報開示義務・株主総会特別決議要件等の実務的チェックも不可欠です。

対象企業の子会社化・合併

SPCが全ての株式を買収することで、対象企業はSPCの完全子会社となります。

ただ、SPCは対象企業の株式を買い取る目的で設立された会社なので、事業の実体も信用力もありません。元々金融機関は対象会社の信用力に基づいて融資を行っており、対象企業が返済義務を負うため、株式買収後はSPCと対象企業の合併が必要となります。SPCと対象企業が合併することで株式は全て経営陣が取得し、MBOが完了します。

なお、先述したとおり、MBOの実施により上場企業は上場廃止となります。

この合併完了後には、統合後のガバナンス体制・財務体質改善・成長戦略のロードマップ整備が次の実務ステップとなります。

特に、買収前に設定した返済計画・株主構成・報酬スキームなどが適切に運用されているかをモニタリングする仕組み(レビュー委員会の設置、外部監査の活用など)をあらかじめ設けておくことが推奨されます。

MBO(マネジメントバイアウト)を行う上での注意点

MBO(マネジメントバイアウト)の注意点は、既存の株主と対立するリスクがあることと、買収後の資金繰りが厳しくなることです。

MBOは経営陣が買い手となるため、取引価格について必然的に既存株主との間で利益相反が生じます。本来的には、対象企業の経営陣は株主に対して利益の最大化を図るべきですが、MBOでは経営陣自身が買い手となるため、価格を低く抑えるインセンティブが働き得ます。そのため、既存株主と利害が対立するリスクがあるのです。

そのため株式の買収にあたっては、経営陣の恣意的な見解を排除し、客観的な根拠に基づいた適正な取引価格を設定することが重要となります。

実際、株式の買取価格が低いということで、株主が裁判所に株式買取価格決定を申し立て裁判になった事例は数多くあり、その結果、裁判所の決定で買取価格が大幅に引き上げられた事案もあります。

また、先述したとおり上場廃止することで株式発行による資金調達が難しくなります。さらにSPCと合併後の対象企業は、MBO後に金融機関等への返済義務を負うため、資金繰りが悪化するリスクが伴います。

加えて、MBO実行時に注意すべきは「事業価値(バリュエーション)に対する過信」「将来キャッシュフローの過大見込み」「レバレッジ(負債比率)による財務健全性の低下」です。

特に、経営陣が将来の成長を前提に買収を進めた結果、実績がその想定に届かないと返済負担が重くのしかかるというケースがみられます。

さらに、非上場化による経営モニタリング強化の機会喪失、従業員・ステークホルダーの認識のズレによる内部統制の甘さなども要注意です。

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MBO(マネジメントバイアウト)の事例

ここからは、過去のMBO(マネジメントバイアウト)の具体的な事例を紹介します。

ニチイ学館のMBO(マネジメントバイアウト)

医療関連、介護サービス等の事業を行うニチイ学館は、アメリカの投資ファンドであるベインキャピタルと組み、MBOを実施し、2020年に非上場化を実現しました。

優秀な後継者に経営権を承継し、経営体制や事業の改革が目的のMBOでした。

公開買付価格が予定よりも引きあがり、TOBに82%超えの応募があったことが話題となりました。

株式会社オンリーのMBO(マネジメントバイアウト)

2021年8月に紳士服専門店の株式会社オンリーが、MBOによる株式の非公開化を目指すことを発表しました。

同社取締役によって同年7月に新設された紳士服中西が、TOBで、1株あたり765円で買付を行うとしました。

スーツ需要の低下や新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、株式会社オンリーの業績が低迷していたことが背景にあり、中長期的な経営戦略として、新事業参入等の施策を進めるにあたり、非公開化を決定しました。

EPSホールディングスのMBO(マネジメントバイアウト)

2021年9月、国内最大手の医薬品開発業務受託機関であるEPSホールディングスがMBOを実施し、非上場化したことを発表しました。

TOBを行い、買付予定数の下限を上回りました。

MBOを実施することで、短期的な業績目標の制約を無くすことを目的としたMBOでした。

また、製薬会社向けのサービスの他、バイオベンチャーを対象にした投資型の治験支援や医薬品製造等の新事業に乗り出すことを発表しました。

カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBO(マネジメントバイアウト)

2011年に、TSUTAYAの運営会社であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社がMBOを実施し、非上場化しました。

インターネット配信普及の拡大や利用人口の低下等を受け、経営戦略の見直しが必要と判断し、その場合、短期的に売上低下等が見込まれることを想定し、非上場化すると説明しています。

すかいらーくのMBO(マネジメントバイアウト)

2006年に、約3000店舗のファミリーレストランを運営するすかいらーく株式会社が非上場化を目的としたMBOを実施しました。

業績が低迷していたところ、不採算部門をカットする等の経営改革が必要と判断してのことでした。なお、同社は2014年に再上場しています。

ダイオーズのMBO(マネジメントバイアウト)

2022年9月に、コーヒー豆の販売やオフィスのコーヒーマシンの設置等の事業を行うダイオーズが、投資ファンドのインテグラルと組んでTOBを実施し、株式を非公開化することを発表しました。

2022年に実施されたMBOで現在進行中の事例であり、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、苦しい経営状況が続いたことが背景にあり、MBOによる体制の再構築を図っています。

以上はいずれも、経営課題の解決にMBOを戦略的に用いた事例です。

近年のMBO動向と新たな活用事例

次に、こうした流れを踏まえた近年のMBO動向を見てみましょう。

たとえば、近年では製造業・サービス業を問わず、国内上場企業によるMBOが増加しています。

ある製造業A社では、グローバル展開強化のために短期的株主対応を脱し長期視点に立つべくMBOを選択し、TOB応募率80%超を確保して非上場化に成功しました。

また、ヘルスケア領域B社では既存株主構成の見直し、成長分野へのリソース集中を目的とし、MBO後5年間で売上30%拡大に至った事例も報告されています。

こうした“中長期戦略を実行可能にした”という観点から、MBOの実務活用価値が改めて評価されています。

まとめ

MBO(マネジメントバイアウト)を行うことで、経営の効率化や敵対的な買収リスクを防ぐ等のメリットがあります。一方で、既存株主との対立や資金調達等については注意が必要です。

MBOの実施にあたっては、まずはM&A取引に精通した弁護士に相談することをお勧めします。

豊富な知識や経験を持ち合わせた弁護士に依頼することで、最適な戦略の立案やスキーム作り等の適切なサポートをしてもらえるため、よりスムーズにMBOを進められるでしょう。

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