法務デューデリジェンス(DD)とは?実施するタイミングや進める流れをわかりやすく解説 

  • 2024年3月29日
  • 2024年12月6日
  • M&A

M&Aを行うにあたって、買収対象企業を調査し、買収後のリスクを確認するデューデリジェンス(DD)が重要となります。 

あらゆる側面から買収対象企業を調査する必要がありますが、その中でも法的観点からリスクを洗い出すのが「法務デューデリジェンス(DD)」です。 

この記事では、法務デューデリジェンス(DD)について解説します。 

法務デューデリジェンス(DD)の詳しい内容や実施するタイミング、手続きの流れや注意点についても詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。 

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法務デューデリジェンス(DD)とは 

法務デューデリジェンス(DD)とは、M&Aで買い手側が買収する対象企業を法律の面から調査や分析をすることです。 

買収対象企業の株式、契約、債務、労務状況、訴訟リスクなどを確認し、法的問題の有無やリスクの調査を行います。 

法務デューデリジェンス(DD)の調査結果は、買収価格などのM&Aの条件やM&A実行の可否に深く関わります。 

仮に、法務デューデリジェンス(DD)で法的リスクが発覚した場合は、買収価格が引き下げられたり、M&Aの中止となったりすることがあります。 

法務デューデリジェンス(DD)の目的 

法務デューデリジェンス(DD)の目的は、M&Aを進めるにあたって、買収対象企業に法的なリスクがないかを洗い出すことです。 

例えば、買収対象企業の価値を低減させるリスクはないか、買収対象企業の事業を中断されるリスクは無いか、M&Aを阻害するようなリスクが無いかなどを確認します。 

法務デューデリジェンス(DD)は、M&A実行の可否や買収価格などを決定するための重要な指針になると言えます。 

法務デューデリジェンス(DD)の内容 

具体的に法務デューデリジェンス(DD)で調査する内容として、以下の7つが挙げられます。 

  • 株主・株式の状況
  • 資産・債務状況
  • 契約状況
  • 訴訟・紛争
  • 人事や労務の状況
  • 法令遵守
  • 許認可状況
  • 知的財産権
  • 環境問題 

ここからは、それぞれの内容について詳しく解説します。 

株主・株式の状況 

法務デューデリジェンス(DD)では買収対象企業の株主や株式の内容、運用状況などを詳しく調べます。 

会社の定款や登記事項証明書、株主名簿などで発行済株式数やその帰属先、会社設立時から現在に至るまでの株式の発行・消却・株式譲渡などを網羅的に把握します。 

また、株式譲渡の方法でM&Aを行うケースが多いため、株式が有効に発行されたものであるかを確認しておくことも非常に重要となるのです。 

資産・債務状況 

法務デューデリジェンス(DD)では、買収対象企業の資産状況や債権債務の状況を把握します。 

資産の主な種類としては、現金や預貯金などの金融資産、不動産・動産、知的財産権などが挙げられ、買収対象企業が所有する資産の種類や金額などの確認を行います。 

また、債務状況に関しても調査を行い、担保の有無や、債務が時効になっていないか、M&Aの財務制限条項に抵触しないかなどを確認する必要があります 

契約状況 

法務デューデリジェンス(DD)では、買収対象企業がこれまでに交わした契約の状況を調査し、買収後に契約関係が存続できるかどうかを確認します。 

例えば、契約内容に「買収などによる組織編成があった場合は本契約を解除する」などの条項があれば、M&A後に取引ができなくなる可能性があるでしょう。 

買収後の事業運営を考慮するためにも契約状況の確認は非常に重要となるのです。 

訴訟・紛争 

買収対象企業において、係争中の訴訟案件は無いかを調査します。 

係争中の訴訟紛争があれば、予測される勝敗や請求されている金額などを確認し、買収後のリスクの大きさを評価する必要があります。 

また、今後訴訟紛争が引き起される潜在的なリスクや、過去に裁判となった案件など細部にわたって調べます。特に過去の訴訟案件に関しては、今後関連する事項で再発する可能性がないかも十分に調べる必要があります。 

人事や労務の状況 

人事・労務に関しては、人事デューデリジェンス(DD)の対象ですが、法務デューデリジェンス(DD)では、時間外労働やパワハラ・セクハラ、解雇などの労働の法的問題を調査します。 

M&A後も従業員の雇用は継続することから、事前に人事・労務の状況について把握しておくことが非常に重要です。時間外の過重労働や未払いの残業代があるとコンプライアンス違反になる可能性もあるため、慎重な調査が求められると言えます。 

法令遵守 

M&Aでは、買収対象企業が法令を遵守できているかも重要な指標となります。 

仮に法令に違反している場合、買収後に社会的信用を失墜したり経済的損失を招くリスクがあります。そのため、法令遵守に関しては、法務デューデリジェンス(DD)の中でも重要な位置づけとなるのです。 

主に、反社会的勢力との関わりが無いか、事業運営にあたって必要な許可・認可を得ているか、労働関係法や税法、下請法などの法令を遵守できているかなどを確認します。  

許認可状況 

買収対象企業の許可・認可の取得状況についても調査します。 

買収対象企業が事業運営に必要な許可や認可を取得している場合、M&A後にそのまま許認可を引き継ぐことができるのか、それともM&A後に再度取得する必要があるのかなどを確認します。 

また、再取得が必要な場合は、満たすべき条件や必要書類、許認可が下りるまでにかかる期間などを事前に把握しておくことで、M&A後に支障なく事業運営を行うことができるでしょう。

知的財産権 

買収対象企業が特許や商標などの知的財産権を保有している場合は、特許登録や商標登録の原簿を確認し、状況を把握します。 

M&A後に知的財産権を引き継ぐことができるのか、必要な権利移転の手続きがないかなど、十分に確認しておく必要があります。 

環境問題 

法務デューデリジェンス(DD)では、環境問題についても調査します。 

買収対象企業が所有する土地に土壌汚染がないか、大気汚染防止法などの法律に違反していないかなどを確認する必要があります。 

仮に買収後、所有地に土壌汚染が発覚すれば、浄化に必要な資金を負担する必要が生じ、法令違反があれば行政処分を課される可能性があります。 

法務デューデリジェンス(DD)を行うタイミング 

法務デューデリジェンス(DD)を実施するタイミングについて、特に法的なルールはありませんが、一般的に売主側と買主側でM&Aの基本合意書を締結してから、最終合意契約書を締結するまでの間に行われます。 

つまり、法務デューデリジェンス(DD)の結果次第では、最終合意に至らない可能性もあるということです。 

また、法務デューデリジェンス(DD)は約12ヵ月程度かかることが多いので、なるべく早い段階で取り掛かることをお勧めします。 

法務デューデリジェンス(DD)を行う方法と流れ全6ステップ 

法務デューデリジェンス(DD)の手順は、主に以下の6つです。 

  •  調査体制の検討
  • 資料の開示請求
  • 開示資料の分析
  • マネジメント・面談
  • 現地調査
  • 報告書作成・最終報告 

 ここから法務デューデリジェンス(DD)の流れを詳しく解説します。 

調査体制の検討 

法務デューデリジェンス(DD)を実施する際、まずは調査体制を構築する必要があります。 

買主側の社員が行うケースもありますが、法務デューデリジェンス(DD)には法的な知識を要するため、弁護士などの専門家に依頼するのが一般的です。 

特にM&Aの分野を専門とし、デューデリジェンス(DD)の経験が豊富な弁護士に依頼することをお勧めします。  

また、このタイミングで調査範囲を検討し、調査にかかる実施期間や費用なども検討します  

資料の開示請求 

調査体制や調査範囲などが決まったら、買収対象企業に対して、調査に必要な資料の開示請求を行います。 

買収対象企業は、出来るだけ自社を高額で売却したいと考えるのが一般的です。そのため、自社の評価を下げるような資料を積極的に提出しないケースが考えられるのです。買い手側はそのことを理解したうえで、必要な資料を適切に開示請求する必要があります。 

また、必要資料の開示請求の漏れを防ぐためにも、弁護士などの専門家からチェックリストを作成してもらい、それに従って請求するのがお勧めです。 

開示資料の分析 

必要資料が開示されたら、それをもとに分析・精査を行います。 

この分析は、M&A取引を中止せざるを得ないような重大な問題がないかの把握と、M&A後の事業継続の影響を考慮するために行われます。 

具体的には、買収対象企業の組織構成やガバナンス、事業計画、必要許認可の取得状況などをチェックします。 

検討する資料が膨大となることがほとんどなので、弁護士などの専門家が手分けして検討・精査します。 

分析作業を行う中で追加で資料が必要になった場合は、買収対象企業に開示請求を行います。  

マネジメントインタビュー・面談 

開示資料の分析が終わったタイミングで、買収対象企業の経営者、役員に対してインタビューや面談を実施します。 

開示された資料を検討する中で見つかった不明点や疑問などについて聴取したり、開示資料から得られなかった詳しい情報を得て理解を深めることが目的です。 

特に、M&Aの意思決定者である経営者へのインタビューは非常に重要となります。 

現地調査 

買収対象企業へ直接訪問し、現地調査を行います。 

先述したマネジメントインタビューと同時に行われることが多く、持ち出し禁止で現地で調査しなければならない秘密情報を確認します。 

現地調査を実施することで、開示請求の段階で提出された資料では見つからなかった問題点を発見できる可能性があります。 

報告書作成・最終報告 

ここまでの調査内容を踏まえて法律上の問題点を検討し、結果を報告書にまとめ、各関係者に対して報告を行います。 

基本合意の時点では発覚しなかった法的リスクがあれば、当初予定していた買収金額や買収条件、買収後の対応などを検討する必要があります。 

法務デューデリジェンス(DD)を行わなかったことにより起こる問題

仮に法務デューデリジェンス(DD)を行わずにM&Aを実施した場合、どのような問題が生じ得るのでしょうか。 

ここからは、法務デューデリジェンス(DD)を行わなかったことによる失敗例を4つ紹介します。 

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M&A実行後に簿外債務が発覚する 

1つ目は、買収実行後に簿外債務の存在が発覚したケースです。 

簿外債務とは、会社の帳簿に計上されていない債務のことであり、例えば未計上の買掛金や債務保証、未払い残業代などが挙げられます。 

これらの存在は、法務デューデリジェンス(DD)を適切に行っていれば発見できた可能性があり、発覚した時点で買収条件やM&A実行の可否を検討できたと考えられます。 

簿外債務を有する企業を買収した場合、将来的に買主側が負担しなければならず、仮に簿外債務の金額が大きかった場合は、買収後すぐに破綻してしまうリスクもあるでしょう。 

必要な許認可を得られず事業を引き継げなかった 

2つ目は、買収後に事業運営に必要な許認可を得ることができず、事業引き継ぎができないケースです。 

この場合も、きちんと法務デューデリジェンス(DD)を行っていれば、現在の許認可が買収後も利用可能か、許認可取得のためにどのような手続きが必要かを事前に確認でき、適切に対処できた可能性があります。 

重要な取引先との契約が解除される 

3つ目は、主要取引先との契約が打ち切られるケースです。 

取引先の契約内容では、株式譲渡などのM&Aによって経営権が移転した際に契約解除できる旨のいわゆるチェンジオブコントロール条項を定めている場合があります。そのため、取引先によっては、買収があったと分かって契約解除を切り出される可能性があるのでしょう。 

取引先との関係を継続する前提でM&Aを行う場合は、法務デューデリジェンス(DD)を行い、契約内容を十分に確認しておく必要があるのです。 

労務に関するコンプライアンス違反が発覚した 

4つ目が、法務デューデリジェンス(DD)を行わなかった結果、労務関連のコンプライアンス違反があることに気付かず、買収後に顕在化するケースです。 

未払い残業代の存在やハラスメント問題、労働基準法違反などのコンプライアンス違反が世間に公表されると、企業のイメージダウンにつながります。 

また、トラブルに発展すると、従業員から訴訟を起こされ財務面でも大きな影響を受けるリスクがあるでしょう。 

法務デューデリジェンス(DD)の不足による具体的な失敗事例 

法務デューデリジェンス(DD)の不足によって生じる問題を解説してきましたが、ここからは実際に起こった企業の具体的な失敗事例を4つ紹介します。 

DeNAM&A失敗事例 

2014年、大手のインターネット関連企業であるDeNAは、キュレーションサイトを運営するiemoと、女性のファッション情報サイトを運営するペロリを50億円で買収し、キュレーションメディア事業に参入しました。 

しかし、買収企業の運営サイトに著作権侵害コンテンツや不正確な医療情報が大量に使用されていることが発覚しました。 

このことが原因でDeNAの企業イメージは低下し、結果的に運営していたサイトを10個も閉鎖することになり、現存損失を計上することになりました。 

第一三共のM&A失敗事例 

2008年に大手製薬会社である第一三共は、インドの医薬品メーカーであるランクバシーを5,000億円で買収しました。 

しかし、米食品医療品局という政府機関から、ランクバシーの工場における生産管理や品質管理に関する問題を指摘され、30種類もの医薬品のアメリカへの輸入が禁止されてしまいました。 

ランクバシーの売上の約30%を米国市場が占めていたため、ランクバシーの株価は大暴落し、最終的に第一三共は2154億円の赤字を計上することとなりました。 

A製造株式会社のM&A失敗事例 

機械メーカーであるA製造株式会社が部品メーカーであるB興業株式会社を買収しました。 

両社はM&A契約を締結しましたが、その後、法務デューデリジェンス(DD)の時点では知らなかったB興業株式会社の不正行為が発覚しました。 

B興業株式会社は、自社商品を宣伝する際、品質や規格の数値を偽り、実際よりも過大に宣伝を行っていたため、消費者から訴訟提起やクレームを受けていたのです。 

結果的に、B興業株式会社のイメージダウンにより、A製造株式会社のブランドイメージも損なわれることとなりました。 

C運送株式会社のM&A失敗事例 

運送業を営むC運送株式会社が、D運輸株式会社を買収しました。 

C運送株式会社は、法務デューデリジェンス(DD)の時点で、D運輸株式会社に残業代の未払いなどのコンプライアンス違反は無く問題ないと説明を受けていました。 

しかし、M&A後、D運輸株式会社の従業員に対して残業代の未払いがあることが発覚しました。 

結果的にC運送株式会社はその従業員から未払いの残業代を請求され、予想外の損失を被ることになりました。 

法務デューデリジェンス(DD)を任せるべき人 

法務デューデリジェンス(DD)を行う際は、M&Aを専門的に手掛ける弁護士に依頼することをお勧めします。 

先述したとおり、法務デューデリジェンス(DD)には法的知識や専門性、経験が求められます。買い手側が専門知識を有しておらず経験もないのであれば、依頼せずに進めるのは現実的に難しいと言えます。 

M&Aに精通した弁護士に依頼することで、スムーズに手続きが進められるとともに、法務デューデリジェンス(DD)で発覚した事象に関して的確なアドバイスをもらうことができます。 

法務デューデリジェンス(DD)を行う時の注意点やリスク 

法務デューデリジェンス(DD)を行う際は、以下の2点に注意する必要があります。 

  • 提出資料だけで判断しない
  • 情報漏洩に注意する 

ここからは、それぞれの注意点について詳しく解説します。 

提出資料だけで判断しない 

1つ目は、あらかじめ買収対象企業から提出された資料だけで判断しないことです。 

一般的に、売り手側は少しでも有利な条件でM&Aを実行したいと考えるため、自社に不利になるような資料をあえて提出しない可能性があります。 

必要資料をリスト化し開示請求を行い、資料に対して少しでも疑問や不足を感じた際は経営陣へのインタビューや現地調査を行う必要があるのです。 

情報漏洩に注意する 

2つ目に注意すべきなのが情報漏洩です。 

基本的に、M&Aの情報は限られた人物にしか共有されず、外部はもちろん内部への情報漏洩にも注意しなければなりません。つまり法務デューデリジェンス(DD)で取り扱われる資料は重大な秘密情報であり、厳重な管理が必要となるのです。 

買収対象企業の競合他社にM&Aに関する重要な情報が漏れるようなことがあれば、買収後の事業運営に影響を及ぼしかねません。 

仮に不注意で情報漏洩してしまった場合、M&Aの契約自体が破棄になる可能性があるでしょう。 

このような事態を防ぐためにも、法務デューデリジェンス(DD)では、十分に注意して情報を取り扱う必要があるのです。 

法務デューデリジェンス(DD)のまとめ 

M&Aにおいて法務デューデリジェンス(DD)は非常に重要な手続きと言えます。 

また、先述したとおり法務デューデリジェンス(DD)には専門的な知識や豊富な経験が必要なので、M&Aを専門に手掛ける弁護士に依頼することをお勧めします。 

弁護士に依頼することで、手続きをスムーズに進めることができ、後々起こり得るリスクを最小限に抑えられるでしょう。 

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