医療法人のM&Aの方法(手法)!

  • 2020年1月20日
  • 2024年10月8日
  • M&A

医療法人は大きく分けて「持分ありの医療法人」と「持分なしの医療法人」の2つの種類があり、どちらに該当するかによってM&A手法が変わります。

M&Aを検討する医療法人がどちらに該当するのか判断し、違いを踏まえた上で最良のM&A方法の検討や計画立案を行うことが重要になります。

今回の記事では、医療法人のM&A方法(手法)について、医療法人が知っておきたい基礎知識をまとめました。

  • 医療法人のM&Aの特徴
  • 医療法人の種類とは?
  • 医療法人のM&A手法
  • M&A手法ごとのメリットや注意点

以上のポイントをM&A弁護士が解説します。

M&Aを検討している医療法人は、参考になさってください。

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医療法人のM&Aの特徴とは

通常の企業の場合、M&A手法は多岐に渡ります。株式譲渡などの株式を使う方法もありますし、事業譲渡のように事業を売却する方法も検討すべき手法のひとつです。

医療法人についてもM&A自体は可能ですが、通常の企業と同じようなM&Aは難しくなっています。なぜなら、医療法人には種類などの特色があるからです。

医療法人のM&Aは、医療法人の種類などの特色を踏まえた上で手法を検討する必要がある。

この点が医療法人のM&Aの大きな特徴になります。

まずは、医療法人の2つの種類について見て行きましょう。医療法人のM&A手法を理解する上での起点となる知識です。

医療法人の2つの種類

医療法人は、大きく分けて2つの種類があります。

  1. 持分ありの医療法人
  2. 持分なしの医療法人

どちらの医療法人に該当するかで、M&A手法が変わってきます。M&Aを検討し、計画を立案する上での注意点なども変わってくるのです。

持分ありの医療法人とは

平成19年3月31日までに設立されている医療法人で、医療法人の財産について医者などが持分を持つタイプの医療法人になります。

M&Aをしている多くの医療法人が、この出資持分ありの医療法人なのが現状です。そのため、出資持分ありの医療法人のM&A手法が、医療法人のM&A手法として一般的な手法だと認識されています。

持分ありの医療法人とは、簡単に説明すると「払い戻しをしてもらえるタイプの医療法人」です。たとえば、医師Aが1,000万円を出資して医療法人を設立したとします。医療法人は年々大きくなり、やがて大病院かつ大医療法人へと成長しました。

医療法人や病院の規模が大きくなったところで、医師が医療法人を解散したらどうでしょう。ここまで育った医療法人の財産は誰のものになるでしょうか。この場合、医療法人の財産は出資をした医師のものになります。なぜなら、医療法人の財産に対して持分があるからです。持分を持つからこそ、財産が戻されるという理屈になります。

では、こちらはどうでしょう。A医師とB医師がそれぞれ1,000万円ずつ出して医療法人を設立しました。医療法人が育ってかなりの財産になった頃に、A医師とB医師が反目。B医師の方が医療法人を去ることになりました。この場合、医療法人の財産はどうなるでしょう。

結論は持分ありの医療法人という種類の名前に、そのまま表れています。B医師とA医師は半分ずつ資金を出している計算になるので、医療法人を去るB医師は持分に応じて財産を受け取ることができるのです。

持分ありの医療法人の場合、医療法人の財産に持分があるので、持分の財産が相続の対象になるという特徴もあります。医療法人に出資して持分を持っている医師の相続人は、持分に応じた財産を相続し、医療法人から払い戻しを受けることが可能です。

持分なしの医療法人とは

持分なしの医療法人は、平成19年4月1日以降に設立された医療法人になります。持分ありの医療法人の問題点を踏まえて医療法が改正(第5次医療法改正)されたことにより、設立されるようになった医療法人の種類です。

持分ありの医療法人は一見すると財産的なメリットがあるように思われますが、デメリットも非常に多いという問題点がありました。

たとえば、A医師とB医師のケース。A医師とB医師が半分ずつ出資して医療法人を設立していた場合、B医師が医療法人を去るときは、持分に応じて払い戻しを受けることができます。1,000万円ずつ出資していて、医療法人が20億円規模に育っていたら、単純計算で10億円はB医師の持分です。医療法人の持分に応じた払い戻しをする場合、医療法人の運営に大打撃になります。

相続があったケースも同じです。医療法人の持分を相続人が相続すると、多くの場合、相続税が課税されます。相続税は基本的に金銭で支払う必要があるため、相続人は医療法人に対して金銭での払い戻しを求めることでしょう。医療法人からの払い戻し分を相続税の支払いに充てるためです。

医療法人にとって、持分の払い戻しは大事になります。急に「持分の財産をよこせ」という話になると、病院の運営にも大きな影響が出るはずです。影響が大きすぎて経営難に陥り、最終的に廃業する可能性だってあります。病院の運営に支障をきたし、地域の医療が停滞。すると、結果的に、一般市民が困ることになります。そこで登場したのが、持分なしの医療法人です。

持分なしの医療法人は、財産に対しての持分がありません。よって、払い戻しの必要がないのです。医療法人が解散すると、財産は国または他の医療法人のものになります。途中で出資をしている医師が病院を去っても、持分そのものがないので、払い戻しする必要も生じないのです。持分がないため、相続もできません。

持分ありの医療法人と持分なしの医療法人のまとめ

「持分ありの医療法人」と「持分なしの医療法人」という2つの種類の違いを総括すると、次のようになります。

  1. 持分ありの医療法人は医療法人の財産に持分があるから、持分に応じて払い戻しなどを受けられる。持分のない医療法人は、払い戻しはない。
  2. 持分のある医療法人が解散した場合、財産は出資した医師など(持分を持つ人)のもの。持分のない医療法人が解散すると、財産は国や他の医療法人のもの。
  3. 持分のある医療法人は持分の権利が相続対象になるが、持分のない医療法人は相続対象にならない。そもそも持分という権利がないから。ないものを相続できない。

医療法人がどちらの種類に属すのかによって、M&A手法が変わってきます。

医療法人の区分による管轄の違い

医療法人についてもうひとつおさえておきたいのは、医療法人4つの区分です。

  1. 社会医療法人
  2. 特定医療法人
  3. 拠出型医療法人
  4. 経過措置型医療法人

医療法人が4つの区分のどれに該当するかによって管轄する官公庁が変わります。M&A手続きで許可申請が必要になったときに必要となる知識です。

社会医療法人とは

社会医療法人に属す医療法人は、都道府県が管轄しています。

社会医療法人は、利益追求タイプではなく、公共性の極めて高い医療法人のことです。夜間診療や救命救急などの部門を設置している医療法人が、社会医療法人に該当します。

特定医療法人とは

特定医療法人を管轄するのは国税庁になります。

各医療法人の中でも、社会福祉に貢献し、公的な運営がなされていることが特定医療法人認定の条件です。特定医療法人は公共や福祉への貢献により、税金の優遇措置を受けることができます。税金面の優遇があるため、税金を統括する国税庁が管轄になるのです。

拠出型医療法人とは

拠出型医療法人は、都道府県または厚生労働省が管轄になります。ひとつの都道府県で運営される拠出型医療法人は各都道府県が管轄し、2つ以上の都道府県で運営される場合は厚生労働省の管轄です。

拠出型医療法人の最大の特徴は、資金の拠出になります。医師や基金などから出資を受け、医療法人として運営されているところが拠出型医療法人の特徴です。

経過措置型医療法人とは

経過措置型医療法人とは、持分ありの医療法人の別名のようなものです。医療法が改正(第5次医療法改正)により、持分なしの医療法人へとシフトチェンジが行われています。税金での優遇措置などを打ち出し、移行を進めているのが現状です。医療法改正後のかたちへの移行する途中だからこそ、経過措置型医療法人と呼ばれます。

4つの区分の中で最も数が多いのが経過措置型医療法人です。管轄は都道府県または厚生労働省。管轄の考え方は拠出型医療法人と同様です。ひとつの都道府県の場合は都道府県が管轄し、2つ以上の都道府県の場合は厚生労働省が管轄省庁になります。

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医療法人のM&A手法とは

医療法人のM&Aは、医療法人が持分のある医療法人か、それとも持分のない医療法人かを判断した上で進めます。医療法人の持分の有無によって使われるM&A手法が異なるためです。

医療法人のM&A手法としては、次の2つのパターンがあります。

  1. 持分ありの医療法人としてM&Aをする
  2. 持分なしの医療法人としてM&Aをする

持分ありの医療法人が持分なしの医療法人へ移行することも可能になっています。ただし、持分なしの医療法人が持分ありの医療法人に変わることはできません。医療法人の中には以前と現在では、医療法人としての種類が変わっているケースがあります。

かつて持分ありの医療法人だったが、現在は持分なしの医療法人に移行しているという場合は、持分なしの医療法人のM&A手法を参考にしてください。

持分ありの医療法人のM&A手法

日本の多くの医療法人は、持分ありの医療法人です。厚生労働省などは、地方医療を考えて持分なしの医療法人への移行を推奨していますが、多くの医療法人は移行に慎重になっています。

持分なしの医療法人になってしまえば、医療法人の解散などで財産を受け取ることができなくなるからです。子供などの相続人に病院財産を残すこともできなくなります。出資した以上は「財産という恩恵を受け取りたい」「自分が受け取らない場合は相続人に」という想いがあるため、なかなか移行に踏み切れないのです。結果、日本の多くの医療法人は持分ありの医療法人であり、持分ありの医療法人のM&A手法を採用することが可能になっています。

持分ありの医療法人の基本的なM&A手法は、持分譲渡です。出資による持分を譲渡するかたちでM&Aを行います。持分譲渡以外には、事業譲渡などを使うことも可能です。

持分なしの医療法人のM&A手法

持分なしの医療法人のM&Aでは、医療法人のM&Aで最も一般的な手法である持分譲渡が使えません。持分のない医療法人なので、譲渡すべき持分が根本的に存在しないのです。したがって、持分なしの医療法人は持分譲渡をM&A手法として選択することが不可能になります。

持分なしの医療法人のM&A手法と、持分ありの医療法人のM&A手法では、持分譲渡の可否だけが異なります。

医療法人のM&A|具体的な4つの手法

医療法人の具体的なM&Aの方法は主に4つ考えられます。それぞれの具体的な手法と合わせて、手法ごとのメリットや注意点も見ていきましょう

  1. 持分譲渡
  2. 事業譲渡
  3. 経営権譲渡
  4. 合併

医療法人のM&A手法①持分譲渡

医療法人の最も一般的なM&A手法が「持分譲渡」になります。医療法人の持分(財産)を売却希望先に譲り渡す(売却する)ことで完結するため、手法として非常に簡便です。

通常の株式会社に例えると、株式譲渡に該当します。持分を株式に読み直すと、分かりやすいのではないでしょうか。

持分譲渡のメリットや注意点

持分譲渡のメリットは、何といっても手続きが簡単なところです。株式会社の株式譲渡のように持分を譲り渡す、要は売却するだけなので、持分譲渡側と持分譲受側が納得していれば、手続きが短期間かつスムーズに完結します。理事などの変更登記で基本的な手続きも完了するため、手続き自体が分かりやすく、面倒さがないという点もメリットです。

医療法人の運営においてもメリットがあります。譲渡対象の持分はそのまま受け継がれるため、医療法人の運営自体が劇的に変わるわけではありません。医療法人の病院はそのままのかたちで運営でき、医師の異動といった人事も基本的に発生しません。医療法人や病院をそのままのかたちで運営したいときにメリットのある方法が持分譲渡です。

医療法人のM&A手法②事業譲渡

事業譲渡とは、医療法人の一部の事業を他に売却(譲渡)することです。

たとえば、A医療法人のA病院にはいくつかの診療科がありました。その中の皮膚科を別の医療法人に譲渡することになりました。これが医療法人のM&A手法のひとつである事業譲渡です。

事業譲渡と持分譲渡は、名前が似ているため勘違いされがちな手法になります。ですが、まったく別のM&A手法です。持分譲渡は持分を譲渡しますが、事業譲渡は医療法人の事業(診療科など)を譲渡するところに違いがあります。同じ「譲渡」ですが、混同しないように注意してください。

一般の会社の事業譲渡は、比較的自由に行うことが可能です。A業種の会社が異なるB業種の会社へ事業譲渡することもあります。医療法人の事業譲渡には、譲渡先(事業の買主)も医療法人でなければいけません。医療法人の事業譲渡は、普通の会社より厳しい制約があるのです。

事業譲渡のメリットや注意点

事業譲渡は、医療法人の事業整理や不採算事業の切り離しなどに利用できます。たとえば、医療法人内の事業が増え続け、現場の事務作業負担や混乱が増えていました。事業譲渡で事業を取捨選択の上で譲渡すれば、医療法人の事業を仕分け可能です。事務効率や事業内容もスマート化することでしょう。

不採算事業整理にも、事業譲渡が使えます。どうしても採算が取れず、医師の確保も難しい。こんなときに事業譲渡で人材確保や資金確保が難しい事業を他の医療法人に譲渡すれば、事業の切り離しができます。事業譲渡先の医療法人が譲渡された事業を得手としているなら、事業の譲渡側にとっても、譲受側にとっても、大きなメリットが期待できることでしょう。

ただし、事業譲渡には注意点もあります。事業譲渡の注意点は「許可」「雇用」「手続き」の3つです。

事業譲渡をするためには、管轄の官公庁や都道府県の許可が必要になります。管轄の官公庁や都道府県を確認した上で、事前に許可申請を行う必要があるのです。また、事業譲渡の場合は病床の引き継ぎが基本的にないため、別途申請手続きをする必要があります。病床数の管轄先は都道府県です。

事業譲渡の場合は、雇用契約は自動的に引き継ぎされません。医師などと個別に再度雇用契約を結ぶ必要があります。その他、引き継がれない契約について別途手続きをする必要があるため、事業譲渡は手続き的な面で時間や労力を多大に要するのです。

契約や手続きに時間がかかるため、結果的に営業再開まで時間がかかることも注意点になります。事業譲渡をするときは、事前に雇用などの各種契約や許可申請について、計画を立てて行うことが重要です。

医療法人のM&A手法③経営権譲渡

経営権譲渡とは、医療法人の中身を入れ換える方法です。法人の理事や社員、評議員などにすべて退任してもらって、新たに選任し直すことになります。

持分譲渡では特定の持分だけ譲渡するので、理事や社員などの中身はほぼ残っていました。事業譲渡も、特定の事業だけ譲渡するため、譲渡対象にならなかった事業などはそのまま医療法人の中に残っています。経営譲渡の場合は、中身の入れ替えのようなものです。一部を切り取る事業譲渡や、持分だけ譲渡する持分譲渡と比較してみてください。

医療法人の理事や社員、評議員などの中身(医療法人内の人)を空っぽにし、入れ換えてしまうのです。入れ替え前の箱(医療法人)を残して、そこに新しい中身を詰める。中身を交換するかたちで譲渡を行います。

経営権譲渡のメリットや注意点

経営権譲渡によって箱の中身を入れ換えてしまうことで、再起や過去のイメージの払しょくなどが期待できるというメリットがあります。

経営権譲渡の注意点は、退職金です。中身を入れ換えるということは、退職や退任が発生するということ。職を退く際に退職金が発生することや、退職金の額をどうするかが大きな問題です。

退職金の額があまりに巨額だと、税金の問題が出てきます。勤続年数や退職の事情、功績を考えて額を検討することが重要です。同程度の医療法人の退職金なども参考にすることが大切になります。

退職金の額の検討は、慎重に行いましょう。事前に経営権譲渡の綿密な計画を立て、問題点や懸念点を洗い出し、対策を立てる必要があります。

医療法人のM&A手法④合併

合併とは、2つ以上の病院がひとつになることです。基本は病院単位で行い、合併する病院の負債や従業員を引き継ぐことになります。会社のM&Aでもよく使われる手法ですが、病院などの医療分野でも使われるM&A手法です。

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合併のメリットや注意点

合併によって2つの病院の機能が集約されるため、病院自体の機能や利便性、充実に繋がります。合併は内部の見直しの絶好の機会なので、人員配置や予算削減など、院内のスマート化や効率化をはかることも可能です。合併では引き継ぎが基本になるため、病床の手続きが不要な点もメリットになります。

注意点は「手続き」と「負債」です。

合併は事業譲渡と異なり、一部を切り抜く手続きではありません。マイナスも包括的に引き継ぎます。そのため、合併により予想外の負債を引き受けてしまうリスクがあるのです。

負債の確認は合併前にしっかりと行う必要があります。マイナスを軽く考えていると、合併後に心機一転スタートと思いきや、いきなり病院の運営が苦境に立たされかねません。

合併は事業譲渡の同じく管轄する都道府県や官公庁の許可も必要になります。さらに、医療審議会で合併についての審議を受ける必要があるのです。

病院は公共性が高く、地元住民にとっては重要な施設になります。医療審議会から「合併しても問題なし」と認められなければいけません。合併は手続き的な面で労力が大きく、合併後のことなど、細部の調整も必要になります。

最後に

医療法人のM&Aは、医療法人の種類によって選択できる手法が変わってきます。医療法人は持分ありの医療法人と持分なしの医療法人の2種類。「持分」が方法選びの上で重要になります。

医療法人のM&Aは複雑で、深い法的知識や経験が必要です。税金などの注意すべき点が多いところも特徴になります。M&Aの計画は慎重に立てて手続きを進めましょう。

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