M&A(企業の合併・買収)を検討する際に避けて通れないのが「税金」の問題です。株式譲渡、事業譲渡、合併など、取引の形によって課税される内容や金額は大きく異なります。
また、同じ取引でも「買い手」と「売り手」では負担する税金が違うため、事前の理解と対策が欠かせません。
そこで今回は、M&Aにかかる税金の種類と買い手と売り手の違いも詳しく解説します。
M&Aでかかる税金の種類とは?
M&Aでは、取引の形態によって課税される税金の種類が異なります。主に「株式譲渡」「事業譲渡」「合併・会社分割などの組織再編」の3つがあり、それぞれで税務上の扱いが大きく変わります。
税金 | 税率 | |
株式譲渡 | 法人税 | 29.74% |
事業譲渡 | 法人税・消費税 など | 29.74% 10% |
また、買い手と売り手の立場によって課税される対象や税率にも差があるため、事前にどのような税負担が発生するのかを理解しておくことが重要です。M&Aの成否は税務戦略に左右されることも多いため、各取引類型における課税ポイントを把握しておきましょう。
株式譲渡にかかる税金(M&Aでの売買時)
ここからは、株式譲渡にかかる税金を買い手と売り手に分けて解説して行きます。
買い手側
株式譲渡型M&Aにおいて、買い手側が負担する税金は基本的に限定的です。原則として、取得した株式に対して消費税や登録免許税は課されません。
ただし、株式取得にかかる費用(例えば仲介手数料やデューデリ費用)は経費として処理できるかを判断する必要があります。
また、のれん(営業権)に該当する価値がある場合には、会計・税務上の処理が発生する点にも注意が必要です。買収後の税務リスクを把握し、適切なスキームを設計することが求められます。
売り手側
売り手側には、株式を売却することによって「譲渡所得税」が発生します。個人であれば、譲渡益に対して約20%(所得税+住民税)の税率が適用されます。
法人が売却する場合は、法人税の課税対象となり、実効税率はおよそ30%前後となるケースもあります。
保有期間や売却価格によっては大きな税負担になるため、節税対策としての持株会社設立や事前の評価見直しが有効です。M&A前の段階でしっかりと税務面の検討を行いましょう。
事業譲渡にかかる税金(M&Aでの一部売却)
ここからは、事業譲渡にかかる税金を買い手と売り手に分けて解説して行きます。
買い手側
事業譲渡においては、資産や負債、契約などを個別に引き継ぐため、それぞれに課税関係が発生します。
たとえば、土地や建物を取得する場合は不動産取得税、機械設備や車両には消費税がかかります。
また、対象事業に営業権(のれん)を付けてM&Aをした場合は、営業権価格が5年間で均等償却し、法人税の算定上損金に算入できます。全体の取引構造を見ながら、税負担のバランスを考えるべきです。
売り手側
売り手にとっての事業譲渡では、譲渡益が発生する部分に法人税や消費税が課税される可能性があります。
とくに、資産ごとに異なる課税ルールが適用されるため、売却対象の選定や評価方法が税額に大きく影響します。また、事業譲渡は会社そのものを売却するわけではないため、従業員や取引先との関係継続に注意が必要です。
税務面だけでなく、実務面での調整も重要となるため、総合的なスキーム設計が求められます。
合併・会社分割などの組織再編にかかる税金
ここからは、合併・会社分割などの組織再編にかかる税金を買い手と売り手に分けて解説して行きます。
買い手側
合併や会社分割といった組織再編においては、適格要件を満たすか否かによって課税関係が大きく変わります。
適格再編に該当すれば、資産や負債の移転に伴う課税が繰り延べられ、税負担を軽減できます。一方で、非適格再編となると、取得資産への課税やのれんの認識などが必要になり、買い手の負担が増加します。
税制適格性の判断は複雑なため、事前に税務アドバイザーの関与を得て慎重に進めることが重要です。
売り手側
売り手側にとっても、組織再編時の課税関係は再編の形態と適格性の有無によって左右されます。
たとえば、合併によって自社が消滅する場合、その資産評価に伴う法人税がかかることがあります。適格合併であれば原則として課税繰延が認められますが、要件を逸脱すると大きな税負担を抱えるリスクがあります。
再編の目的と将来的な経営戦略を見据え、課税の影響を最小限に抑えるための準備が必要です。
M&Aにおける税金対策とは
M&Aを行う際には、税金の影響を最小限に抑えるための対策が極めて重要です。
取引形態によって課税の仕組みが異なるため、事前のスキーム設計や専門家のサポートが成功の鍵です。
たとえば、株式譲渡や事業譲渡、合併といった形態ごとに、買い手と売り手それぞれが負担する税金が異なり、何も対策をしないまま進めると想定以上の税負担が発生する可能性があります。
M&Aは金額規模も大きく、税務面でのミスは大きな損失につながるため、適切な準備と戦略が不可欠です。
事前のスキーム設計
税金対策の第一歩は、取引スキームの選定と設計です。たとえば、株式譲渡は比較的シンプルでスピーディーに進めやすい一方、売り手に譲渡所得税がかかります。
事業譲渡の場合は資産ごとに課税対象が異なり、消費税や不動産取得税が発生する可能性があります。さらに、合併や会社分割などの組織再編では、「適格要件」を満たすことで課税を繰り延べることも可能です。
どのスキームが自社にとって最適かを見極め、税負担を抑えながら目的を達成できる構成を作ることが、実務上の重要なポイントとなります。
税理士・専門家の活用
M&Aの税務は複雑で、社内リソースだけでは対応しきれないケースが多いため、早い段階で税理士や会計士などの専門家に相談することが推奨されます。
税務リスクの洗い出しや最適な取引構造の提案、税法の適用判断など、プロの知見があることで、将来的なトラブルや過大な税負担を回避することができます。また、組織再編の適格・非適格の判断や、繰越欠損金の活用可否など、制度面の確認にも専門家の関与が不可欠です。
とくに中小企業のM&Aでは、税理士の選定が成否を左右する場面も少なくありません。
M&Aでは株式譲渡の方が事業譲渡よりも税金が軽いのか?
そうしますと、株式譲渡益課税が20.315%であり、事業譲渡益課税が29%~42%であるとすると、株式譲渡の方が有利なのか、と言うと必ずしもそうではありません。
事業譲渡益課税を計算する際に、対象事業の構成資産の資産取得原価が高いような場合は事業譲渡益自体が非常に小さくなりますので、株式譲渡益課税よりも低くなる可能性があります。株式譲渡益課税も、株式取得原価が非常に低い場合など税金が高くなります。
いずれが税金が安いのかについては、やはり詳細に検討してみる他はなさそうです。
ただ、M&A会社売却のスキームとして、株式譲渡と事業譲渡は大きな違いがあります。しっかり検討した上でどちらのスキームを採用するか決定する必要があると思われます。
役員退職慰労金には税金がかかるが役員貸付金には税金はかからない
その他、M&A会社売却において、株式譲渡代金の一部を役員退職慰労金として払ってもらうこともあります。その場合は、所得税の退職金課税として、所得税が課税されます。ただ、役員退職慰労金の退職金課税の税率は所得税率の2分の1の軽減税率が適用されますし、勤務年数に応じた多額の控除もありますので、大きな課税がかかることはあまりありません。
また、M&A会社売却に伴い、役員貸付金を返済してもらうことも多いと思いますが、返済については特段課税されるものではありません。買主候補企業に対して、役員貸付金を債権として売却した場合、時価より高く売却した場合は、課税される可能性があるということになるものと思われます。
すなわち、具体的会社について、どのようなM&A手法を採用すべきか、その場合、どのようなメリットが生ずるか、どのようなデメリットが生ずるかについて、これらの諸般の事情を考慮して、検討することが重要です。
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まとめ
M&Aにおける税金は、取引の形態や立場によって大きく異なります。株式譲渡では売り手に譲渡所得税がかかり、事業譲渡では売買資産ごとの課税、組織再編では適格性による課税の繰延が焦点となります。
買い手は直接的な税負担は少ないものの、会計処理や将来的な税務影響に注意が必要です。一方、売り手は譲渡益課税や資産評価により、大きな税負担が生じることもあります。
取引前の段階で専門家と連携し、最適なスキームを設計することが、M&Aの成功と税負担の最小化を両立する鍵です。