建設業の事業譲渡と建設業許可の問題

建設業の事業譲渡では、取得済みの許可・施行中の工事のそれぞれをスムーズに継続できるかが問題です。事業再編によるプロジェクト進行への影響を最低限にするには、各種審査や許可取得についてしっかりとスケジュール管理する必要があるでしょう。

競業や商号使用をどのように扱うべきかという問題を含め、建設業の事業譲渡・M&Aで気を付けたいポイントを6点紹介します。

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ポイント1:建設業許可の引き継ぎ

最初に必ず押さえなければならないのは「事業譲渡の際、建設業許可を譲受側に移転させることが出来ない」という点です。国内で得られる許認可は、すべて1つの企業または事業主に帰属するものと考えられるためです。

譲受側が許認可を取得するまでの日数

前項の軽微な建設工事に当てはまらない工事を請け負っている場合は、事業の譲受側が建設業許可を取得するまで施工を再開できません。

そこで「許可取得までにどのくらいの期間がかかるか」という点が重要です。

建設業許可の申請先から大別すると知事免許・大臣許可の2種類に分かれ、それぞれ以下のような標準処理期間(許可がおりるまでの期間の目安)が設けられています。

知事免許

対象事業者:1つの都道府県の区域内のみに営業所を設けて営業する事業者

標準処理期間:約30日程度(東京都の場合/参考リンク

大臣許可

対象事業者:2以上の都道府県の区域内に営業所を設けて営業しようする事業者

標準処理期間:約120日程度(国土交通省公式サイトより/参考リンク

建設業許可の要件

事業譲渡後も譲渡側の役員・専任技術者が同じポジションで留任するのなら、譲受側で建設業許可を取得するのは難しくありません。しかし「経営陣や技術者をすっかり入れ替える」という場合には、より迅速に下記許可の要件を満たす必要があるでしょう。

【参考】建設業許可の要件

  • 常勤の役員のうち最低1人が経営業務の管理責任者としての経験を有していること
  • 専任技術者を設置していること※
  • 財務が正常で誠実性があること※
  • 欠格要件に当てはまらなにこと

※一般建築業・特定建築業で細かく用件が異なるため、譲渡したい事業内容に応じて確認を取る必要があります。

ポイント2:建設業許可と施工中の建設工事

許可を引き継げないとなると「事業譲渡時に施行中の工事をどう扱うべきか」という懸案事項が浮上します。また、請負契約の発注元との協議についても検討しなければなりません。

軽微な工事については許可を必要としない

事業譲渡により、施行中の工事は原則として中断してしまいます。しかし、以下基準を満たす「軽微な建設工事」については、中断せずにそのまま続けられます。

【建設業許可なしで施工できる工事の種類(=軽微な建設工事)】

建築一式工事:以下①・②のいずれか

  • 1件あたりの請負代金が1,500万円未満
  • 延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事※

建築一式工事以外の建設工事の場合:1件あたりの請負代金が500万円未満のもの

※「木造住宅工事」とは

…建築基準法第2条第5号に定める「主要構造部が木造であるもの」かつ、住宅・共同住宅・店舗等との併用住宅で延べ面積が1/2以上を居住の用に供するもの

 参考:国土交通省(リンク

発注者との協議は必須

事業譲渡を行う前に、請負契約の変更(譲渡先を請負企業とする内容)について、発注元と協議を行わなければなりません。これは施行中の工事が「軽微な建設工事」に該当する場合であっても同様です。

法的には、譲渡側に建設業許可があるうちに締結された請負契約なら、事業を譲り受ける会社に請負契約が引き継がれます(建設業法第29条3項)。

問題は建設業法で定められる「通知義務」です。

譲渡側が許可を失った場合の通知義務

同条文により、譲渡側に建設業許可の停止・取消を受けた場合、その処分のあと2週間以内に請負契約の発注元へ通知しなればならない義務が課せられています。

【請負契約の発注元への通知義務が生じる条件】

  • 建設業許可の更新要件を満たさず停止された場合
  • 営業の禁止を命じられた場合
  • 許可を取り消された場合

発注元は「上記通知を受けた日」もしくは「譲渡側の建設業許可の効力が失われた日」から30日以内に契約解除してもよいとされています。

しかし、生じる損失の大きさ等を考慮すると、余程の事態でない限り解除されることはないでしょう。まずは通知義務を期限内にしっかりと果たすことが大切です。

ポイント3:建設業許可と競争入札参加資格の承継

公共事業を行うための競争入札参加資格は、事業譲渡による譲受側への承継が認められています。

ただし、自動的に承継が起こるわけではありません。自治体や国に「承継申請届」を提出し、後述の経営事項審査を受ける必要があります。申請届の提出には通常5カ月の期間が定められているため、事業譲渡前に申請先に確認をとりながら遅滞なく進める必要があるでしょう。

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ポイント4:建設業許可と経営事項審査

公共事業を請け負うための「経営事項審査」は、事業譲渡の日を起点として譲受側が受けることになります。企業に関する客観的事項のスコア(総合評定値)を算出してもらうため、許可行政庁に申請を行わなければなりません。

経営事項審査の算出方法

経営事項審査の算出方法
評点対象となる項目 審査内容
①経営規模X1完成工事高
X2・自己資本額

・利払い前税引前償却前利益額

②技術力Z・技術職員数

・元請完成工事高

③その他の審査項目W・労働福祉の状況

・建設業の営業継続の状況

・防災活動への貢献度

・法令遵守の状況

・建設業の経理の状態

・研究開発の状況

・建設機械の保有状況

・ISOの取得状況

④経営状況Y・負債抵抗力

・収益性・効率性

・財務健全性

・絶対的力量

総合評定値=0.25(X1)+0.15(X2)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)

評点は入札ランク(格付け)にも影響する

経営事項審査で算出された評点は、さらに担当官庁・地方自治体ごとの審査が行われた上で、入札ランク(3~4段階)を決定する資料となります。

【注意】譲渡側も受審する

事業譲渡に伴う経審では、譲渡側・譲受側が同時に受審します。譲渡側がまだ前回の審査の有効期限内(1年7ヵ月以内)であったとしても、譲渡時に改めて審査を受けなければなりません。

総合評点地の算出方法と合わせて考慮すると、高評点・高格付けのために譲渡当事者企業それぞれが経営状態を再度チェックするべきでしょう。

税理士・公認会計士などのプロの力が必要となる局面です。

審査基準日

通常、経営事項審査の審査基準日=その事業年度の終了日となります。

しかし事業譲渡する場合は、譲受側での事業年度終了を待つ必要はありません。その譲渡日(譲受側企業が設立された日もしくは実質的に事業譲渡が行われた日)審査基準日となります。

申請先・申請全体の流れ

実際に事業譲渡に伴う経審を申請する場合、許可の種類により申請先が異なる点に注意しましょう。

【経営事項審査の申請先】

大臣許可:本店所在地管轄の地方整備局長等

知事免許:建設業の許可を受けている都道府県知事

参考:許可行政庁一覧/国土交通省(リンク

国土交通省や各都道府県では、公共事業を入札しようとするタイミングの約4カ月前に申請を行うよう呼びかけられています。下記の手続きの流れに留意し、譲渡当事者企業のあいだでフローを共有しておく必要があるでしょう。

【経営事項審査の申請の流れ(特殊審査)】

  • 許可行政庁へ事前相談・確認
  • 「事前確認書類」の提出
  • 経営状況分析機関への分析申請
  • 受審日の予約
  • 経営事項審査(特殊審査)の真正
  • 内部確認・審査の実施
  • 結果通知書の受領

→①~③は事業譲渡前/④~⑦は事業譲渡後に行う。

ポイント5:建設業許可と競業避止義務

競業避止義務(会社法第21条)とは、事業譲渡での譲渡側に課せられる義務です。

いったん事業譲渡をすると、譲受側と同一または隣接する市町村において、譲渡日から20年間(特約があれば30年間)同一の事業が禁止されます。

譲渡側が今後も事業を継続する予定なら、事業譲渡契約に「競業避止義務の排除」を忘れず盛り込む必要があります。

ポイント6:建設業許可と商号使用

最後のポイントは商号使用の問題です。

譲渡側が使用していた商号を譲受側が引き続き使う場合、債務も一緒に譲受側へ移転します(会社法22条1項)。この点について譲渡側・譲受側で認識をすり合わせておくか、ケースにより債務を引き継がなくても良い手法を取る必要があるでしょう。

譲受側に債務を移転せずに済む要件

以下の要件を満たせば「商号使用は譲受側に移転・債務弁済の義務は譲渡側のまま」とすることが出来ます。

【譲受側が債務を負わずに商号使用するための条件】

  • 譲受側:本店の所在地で「債務の弁済を負わないこと」を登記する
  • 譲渡側&譲受側:第三者に債務の弁済を負わないことを通知する

参考:会社法22条2項

以上の登記・通知義務は「遅滞なく行うこと」が条件とされています。事業譲渡の前から準備を整え、適切に進めなければなりません。

建設業の事業譲渡の要点

建設業の事業譲渡では、譲受側でのスムーズな施工・受注再開を心がける必要があります。公共行事の入札予定等の年間スケジュールを確認しながら、最初に譲渡フローを詳細にわたって練るべきです。

必要な建設業許可の種類を伝達しておく

最も重要なのは、譲受側にどのような種類の建設業許可が必要なのか伝えておくことです。

建設業許可は「一般建設業許可」と「特定建設業許可」の大きく2つに分類されています。下請だけ受注するなら前者・元請なら後者とのように、許可種類ごとに受注できる契約内容が異なります。さらに特定建設業許可は29種類に細分化され、今後の事業展開しだいでは譲渡側が保有していない許可も取得する必要があるでしょう。

新設される事前認可制度とは(2020年下旬予定)

建設業の事業譲渡(あるいは承継)を巡っては、事業再開までの空白期間が生じて発注者・事業者ともに不利益を被ることが指摘されていました。

この問題を解決するため、2020年下旬ごろから「事前認可制度」の施行が予定されています。その内容は、譲受側が下記要件を満たして事前認可を得ることで、事業譲渡の日から建設業者として施工・受注できるものです。

【譲渡側の事前認可の要件】(予定されている内容)

事業譲渡の場合

  • 大臣許可

→譲渡人・譲受人のうち一方が大臣許可を受けている

  • 知事免許
  • →譲受人・譲渡人がそれぞれ別の知事免許を得ている

合併の場合

  • 大臣許可

→消滅法人・存続法人のうち一方が大臣許可を受けている

  • 知事免許
  • →消滅法人・存続法人がそれぞれ別の知事免許を得ている

※合併消滅法人が複数に及ぶ場合、いずれか1法人が許可を受けていれば要件を満たせます。

参考:国土交通省(リンク

  • 上記に加えて、国土交通省または都道府県による標準処理期間も短縮が検討されています。

事前認可を受けても商号利用・経営事項審査の問題は残る

建設業法改正により事前認可制度を利用できる状態になっても、商号利用に伴う債務の扱いや、公共事業の入札を行うための審査の問題は生じます。

事業譲渡に伴う処理全体を見渡しながら、適切にスケジュールを作成する必要があるでしょう。

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まとめ

事業譲渡にあたり、建設業許可を譲受側に移転させることはできません。譲受側が許可取得までにどのくらいの期間がかかるかという問題を含め、以下6点に注意して譲渡スケジュールを作成する必要があります。

ポイント1:譲受側での許可取得

→国土交通省または都道府県での標準処理期間・建設業許可の要件に注意。譲受側で譲渡側の経営陣・専任技術者が留任しないなら、より早い段階で許可取得の準備が必要。

ポイント2:施行中の建設工事

→軽微な工事は許可不要で施工継続できる。施工継続の可・不可に関わらず、発注者と協議する必要あり。

ポイント3:競争入札参加資格

→自治体や国に「承継申請届」を提出し、譲受側は経営事項審査を受ける必要がある。

ポイント4:経営事項審査

→譲受側の経営について客観的事項が厳格に審査されるため、専門家の力を借りて見直しを行うのが望ましい。

ポイント5:競業避止義務

→譲渡側が譲受側と同一or隣接市区町村で事業継続するつもりなら、排除の契約を結んでおく。

ポイント6:商号使用に伴う債務の扱い

→商号だけを譲渡して債務は譲渡側企業が弁済するなら、登記・通知を行う。

建設業には許可を巡る特有の問題があり、事業譲渡に専門家のサポートが欠かせません。事業そのものや発注者に不利益を与えないよう、事前にロードマップ作りを入念に行いましょう。

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