食品会社のM&A 許認可の承継と衛生管理のデュー・ディリジェンスの要点

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食品会社のM&Aに関するメインのページです。本ページは、許認可の承継の方法と、M&Aの調査における衛生管理及び労務の着眼点をご説明します。他の業種のM&Aはそれぞれのページをご参照ください。

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食品会社の譲受けの話が進み、決算書の数字には問題が見当たらない。しかし、譲り受けた後も同じ工場で同じ製品を作り続けられるのか、営業許可や衛生管理、表示の根拠に見えない問題が潜んでいないかが気にかかる。

本記事は、食品の製造・卸売を営む会社の譲受けを検討している買主の方、及び食品会社の譲渡を検討している経営者の方に向けたものです。

食品会社のM&Aは、他の業種のM&Aと比べて、許認可の承継と衛生管理の適正性の調査が結論を大きく左右する類型です。製造業であり、小売業であり、かつ規制業種でもあるという三つの性格を併せ持つため、株式の価値の算定に先立って、そもそも譲り受けた後に同じ形で営業を続けられるのかどうかを確かめる作業が欠かせません。本ページでは、食品会社のM&Aについて、業界再編の背景から、手法の選択と許認可の承継、デュー・ディリジェンスの着眼点、表明保証条項の設計、そして実際に生じたトラブルの実例までを、順を追って解説いたします。

食品会社のM&Aの相談をお受けしていて痛感いたしますのは、財務の数字は綺麗であっても、法令の遵守の状況に大きな穴が空いているという事例が少なくないという点です。食品衛生法に基づく営業許可の有効期間が満了していた、食品表示法に基づく表示の根拠となる資料が保存されていなかった、外国人の従業員の在留資格が実態と合っていなかったという事例は、いずれも実際に生じています。これらは、決算書を何度読み込んでも見えてまいりません。食品会社のM&Aにおいて弁護士による法務デュー・ディリジェンスが特に重要とされるのは、このためです。

食品会社のM&Aが増加している背景

経営者の高齢化と後継者の不在

食品の製造業及び卸売業は、戦後の早い時期に創業した会社が多く、創業者又はその子の世代が既に高齢に達しています。地域の食文化を支えてきた味噌、醤油、漬物、水産加工、製麺、和菓子といった分野では、技能の承継と経営の承継とを同時に果たさなければならないという難しさがあり、親族内での承継が成立しにくい構造になっています。子の世代が既に他の職業に就いており、深夜及び早朝の稼働を伴う製造業を継ぐことをためらうという例も、しばしば見受けられます。

その結果として、廃業ではなく第三者への譲渡によって事業と雇用を残すという選択が、現実的な解決として選ばれるようになりました。買主の側から見ましても、既に稼働している製造設備、取得済みの営業許可、既存の取引先との納入の枠は、新たに立ち上げる場合に比べて時間の短縮の効果が極めて大きく、許認可と販路を一体として取得できる点が食品会社のM&Aの最大の魅力となっています。

原材料価格の高騰と価格転嫁の困難

小麦、大豆、食用油、砂糖、乳製品といった基礎的な原材料の価格は、為替の変動と国際的な需給の影響を強く受けます。加えて、包装資材、燃料及び電力の費用も上昇しています。ところが食品は、消費者の価格への感応度が高く、また量販店との年間の取引の枠組みの中で価格が定められる場合が多いため、上昇した費用を速やかに販売価格に反映させることが構造的に難しいという事情があります。

この価格転嫁の困難は、単独では吸収しきれない規模の会社にとって深刻です。原材料の共同購買、製造の集約、物流の共同化によって費用を引き下げる必要が生じ、それが同業者間の統合、すなわちM&Aを促す力として働いています。買主の側でも、稼働率に余裕のある工場を取得して生産を集約することにより、単位当たりの製造原価を引き下げるという狙いを持って検討が進められます。

人手不足と物流の制約

食品の製造の現場は、早朝からの仕込み、深夜における洗浄及び段取りの替えなど、時間帯の面で負担の大きい労働を伴います。労働力人口の減少に加え、こうした勤務の形態が敬遠される傾向が重なり、製造の現場における人員の確保は年々難しくなっています。外国人の技能実習生及び特定技能の在留資格を有する労働者に依存する度合いが高まっているのも、この事情の裏返しです。

物流についても、自動車運転の業務に対する時間外労働の上限規制が適用されたことにより、長距離の配送の便が減り、また配送の費用が上昇いたしました。冷蔵及び冷凍を要する食品では、温度帯の管理を伴う輸送の確保がいっそう難しく、配送の網を持つ会社と持たない会社との間で収益力の差が広がっています。物流の機能を取り込むことを目的として、卸売業者が製造業者を、あるいは製造業者が配送業者を譲り受けるという垂直方向の統合も見られるようになりました。

衛生管理の制度化に伴う負担の増加

平成30年の食品衛生法の改正により、原則として全ての食品等事業者に対して、HACCP(危害要因分析及び重要管理点)の考え方を取り入れた衛生管理が義務付けられました。小規模な事業者については手引書に沿った簡略な取扱いが認められていますが、いずれにしても記録の作成と保存を伴う継続的な管理の体制が求められることに変わりはありません。取引先である量販店及び外食の事業者からは、これに加えて独自の監査への対応が求められます。

この制度化に伴う事務の負担は、専任の品質管理の担当者を置けない規模の会社にとって重いものです。管理の体制を整えている買主の傘下に入ることによって、この負担を分散させるという判断が、譲渡の動機となる場合も少なくありません。

手法の選択と許認可の承継

食品会社のM&Aにおいて、株式譲渡、事業譲渡及び会社分割のいずれの手法を選ぶかは、税務及び簿外の債務の遮断という一般的な観点だけで決めることができません。手法の選択が、営業の許可を承継できるかどうかを直接に左右するからです。この点を見落としたまま契約の交渉が進み、決済の直前になって許可の取り直しが必要であると判明する事例が、現に生じています。

株式譲渡の場合における営業許可の取扱い

株式譲渡は、会社の株主が交替するのみであり、法人格そのものには変動が生じません。したがって、食品衛生法に基づく営業許可の名義人である法人は同一のままであり、許可は当然に維持されます。営業の許可を取り直す必要はありません。食品会社のM&Aにおいて株式譲渡が選好される最も大きな理由が、ここにあります。

もっとも、株式譲渡であっても注意を要する点があります。第一に、営業許可には有効期間があり、期間の満了の前に更新の手続を行わなければなりません。第二に、食品衛生責任者は施設ごとに設置しなければならず、その責任者が譲渡を機に退職してしまえば、設置の要件を満たさなくなります。第三に、許可を受けた施設の構造又は設備に変更を加える場合には、変更の届出又は新たな許可が必要となる場合があります。株式譲渡の後に工場のレイアウトを大きく変更する計画があるのであれば、あらかじめ保健所への確認を済ませておくべきです。

事業譲渡及び会社分割の場合における営業許可の取扱い

これに対して事業譲渡は、個々の資産及び契約上の地位を個別に移転する取引です。営業の許可は、許可を受けた者に与えられた公法上の地位でありますから、事業譲渡によって当然に譲受人へ移転するものではありません。譲受人は、原則として自らの名で新たに営業の許可を取得しなければなりません。会社分割につきましても、包括承継であるとはいえ、行政上の許認可については個別の法令に承継を認める規定がある場合を除き、原則として承継されないものと考えるべきです。

そこで実務では、決済の日から新たな許可が下りる日までの間に営業が中断しないよう、事前に申請を行い、決済の日に許可が有効となるように工程を組むことが必要となります。保健所の審査には施設の実地の検査が含まれ、数週間を要する場合もありますから、契約の交渉の初期の段階から所轄の保健所と相談を始めておくべきです。

地位の承継の届出が認められる場合

もっとも、食品衛生法は、営業者について相続、合併又は分割があった場合に、相続人、合併後存続する法人若しくは合併により設立される法人又は分割により営業を承継した法人が、営業者の地位を承継する旨を定めています。この場合には、承継した者が遅滞なくその旨を届け出ることによって、許可を取り直すことなく営業を継続することができます。

したがいまして、会社分割の手法を用いる場合には、この地位の承継の届出の制度を利用できるかどうかが、実務上の重要な分岐点となります。他方で、単なる事業譲渡はこの規定の対象に含まれませんので、混同してはなりません。同じ「事業を移す」という言葉で語られていても、法的な構成の違いによって結論が正反対になるという点を、当事者双方が正しく理解しておく必要があります。なお、食品衛生法以外にも、酒類の販売業免許、飼料の製造業の登録、と畜場又は食鳥処理場の許可、医薬品医療機器等法に基づく製造販売業の許可など、取り扱う品目によっては別途の許認可が関係いたしますので、対象会社の営業の内容に応じて漏れなく洗い出すことが不可欠です。

食品会社のデュー・ディリジェンスにおける着眼点

食品会社のデュー・ディリジェンスでは、一般的な会社法上の手続の適法性、株式の帰属、重要な契約の内容、訴訟及び紛争の有無といった項目に加えて、食品を扱う会社に特有の項目を体系的に調査する必要があります。以下では、当事務所が実際の案件で重点を置いている項目を順に説明いたします。

営業許可及び施設基準への適合の確認

まず、対象会社が保有する営業許可の一覧を作成し、許可証の原本と施設の現況とを突き合わせます。確認すべきは、許可の業種の区分が現に行っている営業の実態と一致しているか、有効期間が満了していないか、許可を受けた施設の所在地及び構造が届出の内容と一致しているか、食品衛生責任者が現に在籍しているか、という四点です。惣菜の製造の許可のみを受けている施設で、実際には菓子の製造も行っていたという事例は、決して珍しくありません。

また、過去に保健所から受けた指導、改善の命令、営業の停止の処分の履歴も確認いたします。処分の履歴は将来の再発の可能性を推し量る材料となるだけでなく、取引先との契約において解除の事由として定められている場合があるためです。

HACCPに沿った衛生管理の実施状況

HACCP(危害要因分析及び重要管理点)に沿った衛生管理については、衛生管理計画が作成されているか、危害要因の分析が対象会社の製造の工程に即して行われているか、重要管理点における管理の基準が具体的な数値によって定められているか、そして日々の記録が現に作成され、保存されているかを確認いたします。書類の体裁だけが整えられ、記録が後からまとめて作成されていたという事例もありますので、現場の担当者への聴取と記録の筆跡及び記載の粒度の確認を併せて行うことが有効です。

加えて、取引先である量販店又は外食の事業者による監査の結果、第三者認証の取得の状況、直近の自主検査の成績も確認いたします。主要な取引先の監査で低い評価を受けている場合には、譲渡の後に取引が縮小される危険がありますから、価格の交渉においてこれを織り込む必要があります。

食品表示法に基づく表示の適正性とアレルゲンの管理

食品表示法に基づく表示は、名称、原材料名、添加物、内容量、賞味期限又は消費期限、保存の方法、製造者又は販売者、栄養成分の表示、原料原産地名など、多数の項目から成り立っています。デュー・ディリジェンスでは、主力の商品について表示の一つ一つに根拠となる資料が存在するかを確かめます。栄養成分の表示について、分析の結果ではなく類似の商品の数値を流用していたという事例は、実際に見受けられます。

アレルゲンの管理は、とりわけ重大です。特定原材料の表示の欠落は、健康被害に直結し、回収と損害賠償の双方を招きます。製造の工程において、アレルゲンを含む原材料と含まない原材料との交差接触を防ぐ仕組みが設けられているか、洗浄の手順とその記録があるか、原材料の仕様書がすべての品目について取得され、更新されているかを確認いたします。仕入先が原材料の配合を変更したにもかかわらず、その連絡が製造の現場に届いていなかったために表示が実態と食い違うという事故は、繰り返し起きています。

異物の混入及び回収の履歴

過去の異物の混入の申出、苦情の件数とその内容、回収を実施した事案の有無及びその処理の経過は、必ず確認いたします。回収の履歴は、対象会社が自ら開示しない限り外部からは把握しにくい情報ですので、苦情の受付の台帳、保険の求償の記録、返品の伝票といった周辺の資料から裏付けを取ることが有効です。金属の検出機及びエックス線の検査装置の設置の状況、その感度の設定と日々の作動の確認の記録も、併せて確認いたします。

また、回収を要する事態が生じた場合に備えた生産物賠償責任保険及び回収費用保険の加入の有無、その補償の限度額と免責の事由も調査の対象です。保険の対象から自社製品そのものの損害が除外されていることは多く、回収に要する費用の大半が自己負担となる場合がありますので、限度額の妥当性を検討する必要があります。

賞味期限及び消費期限の設定の根拠

賞味期限及び消費期限は、製造者が自ら設定するものですが、その設定には理化学試験、微生物試験及び官能検査に基づく客観的な根拠が求められます。デュー・ディリジェンスでは、主力の商品について試験の成績書が保存されているか、安全係数の設定が合理的か、原材料又は製造の方法を変更した際に期限の再設定が行われているかを確認いたします。根拠となる資料が存在しないまま、長年の経験のみによって期限が定められていたという事例は、中小の食品会社では珍しくありません。

期限の設定に根拠がないことは、直ちに違法とされるわけではありませんが、事故が生じた場合の責任の判断に大きく影響します。また、量販店との取引においては期限の三分の一を経過した商品の納入を認めないという商慣行が広く行われていますので、期限の長短が販売の機会そのものを左右する点にも留意が必要です。

原材料の調達先との継続的な取引の安定性

食品会社の収益力は、原材料をどのような条件で調達できるかによって大きく変わります。主要な原材料について、供給者との間に書面による基本契約が存在するか、価格の改定の条項がどのように定められているか、供給の数量の保証があるか、代替の供給者を確保できるかを確認いたします。特定の産地又は特定の生産者に依存している場合には、気象の変動又は疾病の発生によって供給が途絶する危険を評価しなければなりません。

また、長年の関係に基づいて書面を作成しないまま取引が継続している例が多く見られます。この場合、支配権の移転を機に供給者が条件の見直しを求めてくることがありますので、譲渡の前に主要な供給者への説明の段取りを定めておくことが望まれます。

製造委託契約及びプライベートブランド供給契約の変更の条項

食品会社の売上の相当の部分が、量販店又は外食の事業者に対するプライベートブランド商品の供給によって構成されている場合があります。これらの契約には、支配権の変動を解除の事由とする条項又は事前の承諾を要する旨の条項が置かれていることが少なくありません。契約書の全文を精査し、支配権の変動に関する条項の有無、通知の要否、承諾を得るべき時期を確認いたします。

加えて、製造の委託を受ける側の立場では、委託者の指示に従って製造した商品に瑕疵が生じた場合の責任の分担、原材料の支給の条件、金型及び包装資材の費用の負担、最低の発注の数量の保証といった条項が、収益に直接に影響いたします。最低の発注の数量の保証がない長期の専用ラインへの投資が行われている場合には、その回収の見込みを慎重に検討しなければなりません。

労務に関するデュー・ディリジェンス

外国人の技能実習生及び特定技能の在留資格の承継

食品の製造の現場では、技能実習生及び特定技能の在留資格を有する外国人の労働者が重要な戦力となっています。株式譲渡の場合には雇用の主体である法人に変動がありませんので、在留資格そのものに直ちに影響は生じません。もっとも、受入れの機関に関する届出、実習の実施者としての届出、支援の計画の変更の届出などが必要となる場合がありますので、出入国在留管理庁及び外国人技能実習機構への手続の要否を確認する必要があります。

事業譲渡又は会社分割の場合には、雇用の主体が変わりますので、在留資格に係る手続を改めて行わなければならないことがあります。手続が整わないまま就労させれば、不法就労助長罪に問われる危険があり、また受入れの資格そのものを失う危険もあります。技能実習の計画の認定、特定技能の雇用契約及び支援の計画の内容が、譲受人の下でも維持できるかを事前に検討することが不可欠です。加えて、寄宿舎の設置の届出、住環境の基準への適合、賃金の支払の実態が計画の内容と一致しているかについても確認いたします。

深夜労働及び未払いの割増賃金の危険

食品の製造の現場は、早朝及び深夜の労働を伴います。デュー・ディリジェンスでは、時間外労働及び休日労働に関する協定が適法に締結され、届け出られているか、深夜の割増賃金が正しく計算され支払われているか、労働時間の把握の方法が客観的な記録によっているかを確認いたします。始業の前の準備の時間、着替え及び手洗いの時間、清掃の時間が労働時間として計上されていない事例は、極めて多く見受けられます。

割増賃金の未払いは、退職した従業員からの請求という形で譲渡の後に顕在化いたします。賃金請求権の消滅時効の期間が延長されたことにより、請求され得る金額の規模は以前より大きくなっています。デュー・ディリジェンスの段階で概算の額を算定し、価格の調整又は特別補償の対象とする取扱いを検討すべきです。固定残業代の制度を設けている場合には、その対価性及び判別の可能性が認められるかという観点から、制度の有効性そのものを検証する必要があります。

不動産及び設備に関するデュー・ディリジェンス

工場の建築基準法及び消防法への適合

食品の工場は、増築及び改築が繰り返されている例が多く、建築確認を受けないまま増築された部分が存在することがあります。検査済証の有無、建蔽率及び容積率への適合、用途地域の制限への適合を確認いたします。既存の不適格の状態にとどまる場合と、違法な建築である場合とでは、将来の建て替え及び増築の可否に大きな違いが生じます。

消防法については、消防用設備等の設置及び点検の報告の状況、危険物の貯蔵及び取扱いの許可の有無、防火管理者の選任の届出を確認いたします。冷凍設備に用いられる冷媒に関する高圧ガス保安法上の届出、廃水の処理に関する水質汚濁防止法上の届出、廃棄物の処理の委託の状況も、食品の工場では見落とされやすい項目です。

老朽化した設備の更新のための投資

帳簿の上では既に償却が終わっている設備が、現に稼働の中核を担っているという状況は、食品の工場では日常的です。デュー・ディリジェンスでは、主要な設備の設置の年、直近の大規模な修繕の履歴、部品の供給が継続しているか、故障した場合に代替の生産が可能かを確認いたします。冷凍機、殺菌の設備、充填の機械、包装の機械については、停止が直ちに生産の停止に直結いたします。

これらの更新に要する投資の額は、譲渡の価格の交渉において重要な要素となります。譲り受けた直後に多額の設備の投資を強いられるのであれば、その額を価格に反映させるのが公平です。当事務所では、技術の面の評価を行う専門家と連携し、法務の調査の結果と設備の状況とを併せて依頼者に報告する方法を採っています。

表明保証の条項における食品会社に特有の手当て

デュー・ディリジェンスによって明らかにならなかった事項に備えるのが、表明保証の条項です。食品会社のM&Aでは、一般的な表明保証に加えて、食品を扱う会社に固有の事項を個別に列挙することが有効です。抽象的に「法令を遵守している」とのみ定めた場合、後に紛争となったときに保証の範囲が争われ、回収が困難になるためです。

具体的には、次の各項目を条項として明記することが考えられます。第一に、営業に必要な許可及び登録をすべて取得し、これらが有効に存続しており、取消し又は停止の事由が存在しないこと。第二に、HACCPに沿った衛生管理を実施し、法令に基づく記録を作成し保存していること。第三に、製造し又は販売した商品の表示が食品表示法その他の法令に適合しており、特定原材料に関する表示に欠落又は誤りが存在しないこと。第四に、過去の一定の期間において回収を実施した事実がなく、又は開示された事案のほかに存在しないこと。

さらに、第五に、賞味期限及び消費期限の設定について客観的な根拠となる資料を保有していること。第六に、主要な取引先との契約に支配権の変動に関する条項が存在せず、又は存在する場合には開示されていること。第七に、従業員に対する賃金の支払に不足がなく、未払いの割増賃金が存在しないこと。第八に、外国人の労働者の受入れが法令に適合しており、必要な届出が行われていること。これらを列挙しておくことにより、事後に紛争が生じた際の主張の組み立てが格段に容易になります。

加えて、デュー・ディリジェンスの過程で危険の所在が判明した事項については、表明保証とは別に特別補償の条項を設けて、金額の上限及び期間の制限を外すという取扱いを検討すべきです。表明保証の違反に基づく補償には、請求の期間の制限、一件当たりの下限、総額の上限が定められるのが通例ですので、既に判明している危険をこの枠の中に閉じ込めてしまうと、実際には回収できないという結果になりかねません。

食品会社のM&Aで実際に生じたトラブルの実例

譲渡の直後に回収を要する事態が生じた事例

ある水産の加工の会社の株式を譲り受けた買主が、決済からわずか二か月の後に、譲渡の前に製造された商品について微生物の基準を超える結果が判明し、回収を実施せざるを得なくなった事例があります。回収に要した費用、廃棄の費用、取引先に対する補償の額は、合計で譲渡の代金の相当の割合に達しました。売主は、自主検査の結果に異常はなかったと主張して補償を拒みましたが、デュー・ディリジェンスの段階で検査の記録の一部が欠落していたことが判明していたため、これを特別補償の対象として明記していたことにより、買主は補償を受けることができました。

原料原産地の表示が実態と異なっていた事例

惣菜の製造の会社を譲り受けた後、主力の商品の原料原産地の表示が、仕入先の変更にもかかわらず更新されていなかったことが判明した事例があります。表示の是正と包装資材の刷り直しに費用を要したうえ、量販店との取引において一定の期間にわたり新規の商品の提案が受け付けられなくなるという取引上の不利益が生じました。この事例では、表示の適正性に関する表明保証の条項を詳細に定めていたため、損害の賠償を受けることができましたが、失われた取引の機会そのものは回復いたしませんでした。

簿外の返品調整金が判明した事例

食品の業界では、量販店との間で、期の末に販売の実績に応じた協賛金又は返品の調整金を精算するという慣行が残っている場合があります。ある菓子の製造の会社の案件では、この精算の額が帳簿にも契約書にも一切現れておらず、担当者の口頭の了解のみで運用されていました。譲渡の後に量販店から請求を受けて初めて存在が判明し、買主は予期しない支出を負担することとなりました。

この種の負担は、決算書及び契約書の調査だけでは発見できません。営業の担当者への聴取、取引先ごとの入出金の推移の分析、返品及び値引きの伝票の抽出といった、実態に踏み込んだ調査によって初めて浮かび上がります。食品会社のデュー・ディリジェンスにおいて、書面の確認にとどまらない現場の調査が重視されるのは、このためです。

食品会社のM&Aを進める上での実務上の留意点

以上を踏まえますと、食品会社のM&Aを進めるにあたっては、次の順序で検討を進めることが合理的です。まず、対象会社が保有する許認可を洗い出し、その承継の可否から逆算して手法を選択すること。次に、衛生管理、表示、期限の設定、原材料の調達、労務、設備という順に、現場に立ち入った調査を行うこと。そのうえで、判明した危険を、価格の調整、実行の前提条件、表明保証、特別補償のいずれによって手当てするかを振り分けることです。

売主の側におかれましても、譲渡を検討し始めた段階で、許可証の有効期間、衛生管理の記録、表示の根拠となる資料、労働時間の記録を整えておくことが、結果として譲渡の価格を維持することにつながります。整理がなされていない状態でデュー・ディリジェンスを迎えますと、買主は不確実性を価格の減額によって吸収しようといたしますので、本来受け取れたはずの対価を失うことになりかねません。

また、従業員及び取引先への説明の時期と方法も、食品会社では特に慎重な検討を要します。製造の技能を有する従業員の離職は生産の停止に直結し、量販店との取引の枠は一度失えば回復が容易ではありません。情報の管理と説明の段取りを、契約の交渉と並行して設計しておくことが望まれます。

弁護士法人M&A総合法律事務所の強み

弁護士法人M&A総合法律事務所では、これまでに数多くのM&A案件・株式譲渡・合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡・資本業務提携・グループ内組織再編案件を取り扱っており、M&Aに関する高い専門性と豊富な経験があります。

また、M&A総合アドバイザーズには、M&A総合法律事務所・M&A総合会計事務所が併設されています。弁護士・公認会計士・税理士とも協働してM&Aに対応いたしますので、ここでも信頼と安心が違います。

食品会社のM&Aにおいては、営業許可の承継、衛生管理の体制、表示の適正性、外国人の労働者の受入れといった、規制業種に特有の論点を漏れなく検討することが不可欠です。当事務所は、これらの論点を織り込んだデュー・ディリジェンスと契約書の設計により、譲渡の後に生じる紛争を未然に防ぐことを重視しています。食品会社のM&Aをお考えの皆様は、ぜひ当事務所にご相談ください。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍の後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻いたしました。不動産投資信託の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する裁判において逆転判決を得ております。主として取り扱う分野は、M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務であります。詳しくは執筆者紹介を御覧ください。

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