組織再編とは
組織再編とは、一般的には、企業やグループの組織体制を現在の状態から大きく変えることを言います。すなわち、企業やグループの組織や体制、形態を抜本的に大幅に変更し、編成し直すことです。その方法を例示すると、複数の企業を統合したり、企業を分離したりすることが挙げられます。
よく似た用語で組織変更がありますが、こちらは企業の組織自体は同一性を保ちつつ、株式会社から合同会社、合資会社、合名会社のいわゆる持分会社に、またはその逆に持分会社から株式会社に変更することを言います。
この組織変更とは違って、実際に複数の会社組織をくっつけたり、企業の一部を分離したりして、企業内部の組織体制や形態を実際に変えてしまうことを組織再編と言います。
このように、組織再編は企業やグループ組織にとって大きな経営判断となるため、経営者としては、組織再編の実施をするかどうか、また、どの手法を取るかなどの判断を的確にする必要があります。
よって、組織再編の判断を誤ると、企業の存亡にも関わるというリスクがある一方で、これまで閉塞していた企業やグループ経営が、大きく飛躍するきっかけになるという可能性もあります。
組織再編の種類
一般的に組織再編というのは、単なる部署の再編なども含めた広い意味での組織の変更です。しかし、会社法でいう組織再編の種類は次の4つが定められています。その4つの種類は、「合併」「会社分割」「株式交換」、「株式移転」です。これら4つの種類の手法には、それぞれ特徴があり、効果の違いや、メリット、デメリットがあります。これらの種類について、よく理解をしたうえで、経営者は企業やグループの組織再編の種類の選択を行う必要があります。
合併
合併は、2つ以上の企業が1つの企業になることです。複数の企業が統合して新しい別の企業になることもあれば、いずれかの企業に他の会社が吸収されることもあります。合併が他の組織再編の種類と大きく違うのは、完全に1つの会社に統合されるということです。
後から説明する、株式交換や株式移転では、元にあったそれぞれの企業はそれぞれ存続し続けます。しかし、合併の場合には、吸収合併で存続会社になる企業以外は、なくなってしまって、完全に1つの会社に統合されるというのが大きな違いです。
合併のメリットは、上記のとおり、元に合った企業が1つの企業に完全に統合されるので、シナジー効果を得ることができやすいということです。
株式交換や株式移転では、組織自体は変わらずそれぞれ存在するので、一体となって得られるシナジー効果は得にくいです。一方で完全に統合される合併になれば、同じ企業として同じような部署は統合されるので、それぞれの企業の特性が融合されることが期待できます。
また、2つ以上の企業が1つになるのが合併ですから、事業規模としては、当然大きくなります。このことによって、その企業が所属するマーケットでの存在感は当然増しますし、人材や資産も集約されるので、それらの規模的にも大きくなることができます。
さらに、仕入れなどにおいても、規模が大きくなるので、スケールメリットを得られるということもメリットとして挙げられます。
一方で、合併のデメリットは、まず、統合作業が非常に煩雑であるということが挙げられます。会社の方針から、給与体系、組織体制、使っているシステムなど、ありとあらゆるものが違っているものを、1つの企業として統一するというのは、かなりの労力を要します。
また、それぞれの会社の風土が一度に融合することは難しく、合併後、実質的にも1つの会社となるのには時間を要するということがデメリットと言えます。
さて、合併の種類には2種類があります。その2種類とは、「吸収合併」と「新設合併」です。これから、これら2つの合併の種類について解説します。
吸収合併
吸収合併というのは、1つの会社が存続会社として法人格が残り、もう1つの会社の法人格は消滅させ、存続会社に資産や権利関係のすべてが移って、存続会社が包括的に承継するというものです。
一般的には、資本の大きい方の企業が資本の小さい方の企業を吸収合併したり、親会社が子会社を合併したりするなど、吸収合併をする場合には、主従関係がはっきりしている場合が多いのが特徴です。
ただし、許認可権を持っている会社の方を存続会社として残して吸収合併したり、ブランド力が強くて名前の通っている方の会社を残したりするなど、必ずしも、規模の大きな企業が規模の小さな企業を吸収するということばかりではありません。
吸収合併は既存の会社が存続することになるので、次に説明する新設合併に比べて手続きが格段に少なくて済みます。このことは、吸収合併が新設合併と比較してメリットがあると言える部分です。
一方で、吸収合併の場合には、前述のとおり、合併する企業間に上下関係があるように見えてしまいます。よって、存続する企業の方に消滅する企業側が取り込まれてしまう感じがあって、消滅する企業の従業員のモチベーションが下がってしまうなどのデメリットも考えられます。
新設合併
新設合併というのは、既存の企業がすべて解散して、それらすべての企業の資産や負債、契約などを新設会社が引き継ぐという形の合併を言います。
新設合併のメリットは、吸収合併のデメリットの裏返しで、関係するすべての企業が同じ扱いで合併されるというイメージを持つことができるという点です。
しかし、実際に会社を設立するための手続きや、許認可を取り直したり、上場している企業であれば、新しい企業として上場をし直したりするなど、吸収合併に比べて明らかに手続きや費用がかかるということがデメリットとして挙げられます。
詳しく理解するためには、「合併のメリット・デメリットと手続の流れ」を参照してください。
適格合併と非適格合併
合併は、一つの会社が他の会社の権利義務を承継するM&A取引ですので、資産は時価評価で引き継ぐこととなり、その相手方会社の含み損益は顕在化し課税がされることとなります。さらに、被合併会社の繰越欠損金を引き継ぐこともできません。
ただし、企業における組織再編の一環として合併を行う場合についてはM&A取引ではなく、企業内部における再編にすぎませんので、そのような場合にまで、資産の含み益に課税がされるようでは企業の組織再編が進まなくなってしまいます。そこで、適格合併という制度があり、適格合併については、資産を簿価で引き継ぐことができ、合併時に法人税が課されないということとなります。また基本的に被合併会社の繰越欠損金も引き継ぐことができます。
この適格要件としては、全部で次の7つがあります。①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件、⑤事業関連性要件、⑥事業規模要件または経営参画要件(選択要件)、⑦株式継続保有要件です。
①金銭不交付要件というは、合併の対価として被合併会社の株主に合併会社の株式以外の対価が交付されないという要件です。
➁支配関係の継続性は、合併前にあった支配関係が、合併後も続く見込みがあるということです。
③事業移転要件というのは、合併直前の従業員のおおむね80%以上が、合併後の法人に深くかかわる見込みがあるということを言います。
④事業継続要件というのは、合併直前の主な事業が、合併後の企業でも引き続き行われることです。
⑤事業関連性要件とは、合併前の被合併企業と合併企業が相互に関連する事業であることという要件です。
⑥の事業規模要件は、合併企業と被合併企業の売上高、従業者数、資本金などのいずれか一つの差が、おおむね5倍を超えないことという要件、経営参画要件というのは、合併前の被合併企業の特定役員のうち1名以上と、合併企業の特定役員のうち1名以上が、それぞれ合併企業の特定役員となる見込みがあることという要件です。これらの事業規模要件又は経営参画要件のうち1つを満たすことが必要です。
⑦株式継続保有要件は、被合併企業の株式のうち、支配株主に交付される株式の全てが支配株主により継続的に保有されることが見込まれること。
これら7つの要件のうち、被合併企業と合併企業の関係性によって、必要とされる適格要件が違ってきます。
被合併企業と合併企業が100%の支配関係がある場合には、適格合併となるために必要となる適格要件は、①金銭不交付要件、➁支配関係(支配関係)の継続性の2つの要件です。
次に、被合併企業と合併企業が50%超100%未満の支配関係にある場合に、適格合併となるために必要となる適格要件は、①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件の4つです。
最後に、50%以下の支配関係の場合の適格合併となるために必要となる適格要件は、①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件、⑤事業関連性要件、⑥事業規模要件または経営参画要件(選択要件)、⑦株式継続保有要件のすべての要件です。
会社分割
会社分割は、企業の一部または全部の事業を切り離して、他の企業に移転させるというM&Aの1つ方法です。企業グループ内再編や事業再編を行う際に会社分割の手法を用いることは一般的です。
会社分割の方法には、分社型分割と分割型分割の2つの方法があり、それぞれについて、分割した事業を既存の企業が引き継ぐか、新たに会社を設立して承継させるかで、吸収分割と新設分割があります。すなわち、分社型分割の吸収分割と分社型分割の新設分割、分割型分割の吸収分割と分割型分割の新設分割の4つの方法があります。では、ここからは、これらについて、説明します。
分社型分割
分社型分割とは、会社分割において、分割する前の会社(分割会社)が分割後の承継会社の株式の交付を受けうるという方法の会社分割のことを言います。
分割型分割
分割型分割とは、会社分割において、分割する前の会社(分割会社)の株主が分割会社の株式の割合に応じて、分割後の承継会社または、分割後に設立する会社から分割対価として株式の交付を受けるという方法の会社分割のことを言います。
分社型分割と分割型分割の違い
よって、分割型分割も分社型分割も会社分割の方式としては変りません。
分割型分割と分社型分割の主な違いは、分社をした場合の承継会社(分社された側の会社)の株式を誰に交付するかということにあります。
分割型分割の場合には、承継会社(分社された側の会社)の株式は、分割会社(会社を分割する側の元からある会社)の株主に交付されます。
一方、分社型分割の場合には、承継会社の株式は、分割会社自体に交付されます。ここに分割型分割と分社型分割の大きな違いがあります。
吸収分割
吸収分割は、会社分割によって切り分けた事業を既に存在する別企業に承継させる方法のことを言います。すでに存在する会社と統合することにより、スケールメリットが出たり、その業種でのシェアが拡大したりするなど、存在感が増すというなどのメリットが考えられます。
一方で、これまで違う会社であったルールの一本化や経営陣の変更など、既存の会社が統合することによるデメリットは考えられます。
新設分割
新設分割は、会社分割によって切り分けた事業を、新たに企業を作って承継させる方法のことを言います。
単に、事業を切り分けるだけでもできる方法なので、吸収分割に比べると簡単で、その事業の体制自体は変更がないということがメリットと考えられます。
一方で、他の企業の部門と統合することによって得られるメリットは得られないというデメリットがあります。また、許認可などについては、取り直すことが必要になるなど、逆に手間がかかることも考えられます。
会社分割のメリット、デメリット
会社分割のメリットは、企業の事業を分割することによって、事業への集中と選択ができるということがあげられます。重要度が低かったり、あまり得意でなかったりする事業を、他の企業に分割して承継することによって、重要で得意な事業に集中して効率を上げることができます。
また、企業の重複業務の統廃合を行うことによって、意思決定の迅速化を図ることも期待できます。
包括的に事業を継承するため、取引自体が消費税の課税対象とみなされないなど、税負担も軽く、対価は株式の交付で済むので、資金も必要としません。
一方でデメリットとしては、包括的に事業を承継することになるので、簿外債務や不要な資産も引き継がなければならない可能性があります。
また、会社分割を行う場合は、会社の株主による特別決議が必要となります。よって、株主の3分の2の賛成を得る必要があるという、高いハードルを越えて初めて取れる手段ということができます。
また、手続きに時間がかかるということも、デメリットとして挙げられます。
会社分割を行うことのメリット・デメリット詳細については、「会社分割のメリット・デメリットと手続の流れ!」を参照してください。
適格会社分割と非適格会社分割
被分割吸収分割は、一つの会社が他の会社も権利義務を承継するM&A取引であり、新設分割も他の会社に権利義務を承継させることを想定したM&A取引の一部ですので、資産は時価評価で引き継ぐこととなり、その相手方会社の含み損益は顕在化し課税がされることとなります。ただし、企業における組織再編の一環として会社分割を行う場合についてはM&A取引ではなく、企業内部における再編にすぎませんので、そのような場合にまで、資産の含み益に課税がされるようでは企業の組織再編が進まなくなってしまいます。そこで、適格合併と同様の適格会社分割という制度があります。
適格会社分割になるための要件は、被分割①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件、⑤事業関連性要件、⑥事業規模要件または経営参画要件(選択要件)、⑦株式継続保有要件です。
分割会社と被分割会社が100%の支配関係の場合には、①の金銭不交付要件と➁の支配関係の継続性の要件が必要となります。
さらに、分割型分割の場合には、分割会社の株式の持分に応じた株式の割り当てがされるという、案分型要件という要件も追加されます。
次に、分割会社と被分割会社が50%超100%未満の支配関係の場合には、①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件の4つの要件が満たされる場合に適格会社分割と認められます。
最後に、分割会社と被分割会社が50%未満の共同事業関係にある場合には、①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件、⑤事業関連性要件、⑥事業規模要件または経営参画要件(選択要件)、⑦株式継続保有要件のすべての要件が必要となります。
これらの適格会社分割の場合にのみ、企業内部における組織再編という考え方に基づき、税法上の優遇を受けることができます。
また、同様に、企業内部の組織再編であると考えられるので、被分割会社の欠損金を引き継ぐということもできます。
株式交換
株式交換とは、対象企業の発行済み株式を、すべて親会社となる既存の企業が取得することによって、対象企業と親子会社関係を作るという組織再編の方法です。親会社となる企業は、対象企業の発行済み株式の100%の株式を保有することになるので、対象企業は、株式交換後には完全子会社化されることになります。
株式交換の対価として、対象企業の株主には親会社の株式を交付するというのが一般的ですが、完全親会社になる企業のそのまた親会社の企業の株式を交付したり、現金を交付したりするという方法がとられる場合もあります。
株式交換による組織再編のメリットは、親会社などの株式を交付する場合、買収資金が不要であるということとがまず挙げられます。前述のとおり、対象企業の株主に現金を交付するという方法も取ることができますが、親会社になる企業の株式を交付するという方法を取れば、買収資金は不要です。
このことは、資金調達を考慮する必要がないということで、株式交換による会社再編を選択するうえでのメリットと考えられます。
また、株式交換する際に、完全子会社化の対象企業の株主の3分の2以上の賛成が得られれば、少数株主を排除して、親会社になる企業の完全子会社化することができるということも、この手法を取るメリットとして挙げられます。
さらに、株式交換によって、対象企業を完全子会社化したとしても、あくまで法人としては別法人なので、急いで統合などをする必要はなく、そのまま存続させておくこともできます。
株式交換のデメリットとしては、親会社になる企業が上場企業の場合、その企業の株式を新たに発行するなどして完全子会社となる企業の株主に交付するので、株価が下落する可能性があるということと、完全子会社化するということは、株主構成が変わってしまうということが挙げられます。
また、完全子会社化される企業側の従業員は、他の企業の完全傘下に入るということなので、完全に親会社のコントロールや経営支配下になってしまうことから、モチベーションが低下してしまう可能性があります。
株式交換の詳しい内容については、「株式交換の手続きをする流れや期間、メリット・デメリットを事例付きで解説」を参照してください。
適格株式交換と非適格株式交換
株式交換は、一つの会社が他の会社を完全子会社化するM&A取引ですので、資産は時価評価で引き継ぐこととなり、その相手方会社の含み損益は顕在化し課税がされることとなります。ただし、企業における組織再編の一環として会社分割を行う場合についてはM&A取引ではなく、企業内部における再編にすぎませんので、そのような場合にまで、資産の含み益に課税がされるようでは企業の組織再編が進まなくなってしまいます。そこで、適格合併や適格会社分割と同様の適格株式交換という制度があります。
適格株式交換が認められるためには、①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件、⑤事業関連性要件、⑥事業規模要件または経営参画要件(選択要件)、⑦株式継続保有要件のうち必要となる要件の数が異なってきます。
まず、株式交換によって親会社となる株式交換親会社が株式交換によって子会社となる株式交換子会社の100%の株式を持つ場合には、適格株式交換とされるためには、①金銭不交付要件と➁の支配関係の継続性が要求されます。
そもそも100%の株式を持っている会社間の株式交換というのは、親子関係の逆転させる場合が考えられます。
次に、株式交換親会社が株式交換子会社に対して50%超、100%未満の支配関係の場合には、①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件を満たしている場合にのみ、適格株式交換と認められます。
さらに、株式交換親会社が株式交換子会社に対して、50%未満の支配関係しかない、いわゆる共同事業の場合には、①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件、⑤事業関連性要件、⑥事業規模要件または経営参画要件(選択要件)、⑦株式継続保有要件のすべての要件が満たされないと適格株式交換は認められません。
上記で説明した適格株式交換と認められた場合にのみ、企業の組織再編という税務上の扱いを受けることができ、株式交換親会社は取得する株式交換子会社の株式を簿価で計上できたり、株式交換子会社も資産や負債を簿価で引き継いだり、含み益や含み損を引き継いだりすることができます。
株式移転
株式移転とは、既に存在する単独または複数の企業が、完全親会社を設立し、そのそれぞれの企業の保有する株式すべてを新設した完全親会社に移転して、もともとの企業の株主に完全親会社になる株式を割り当てる方法の組織再編のことを言います。
株式移転は、持ち株会社を設立する際によく使われる方法です。会社名に「~ホールディングス」という名前をつけた会社の場合、この株式移転によって設立された企業の可能性が高いです。
株式移転のメリットは、株式交換とよく似ています。まず、株式移転のメリットとしては、買収資金が不要であるということが挙げられます。完全子会社になるすでに存在していた企業の株主に対しては、新設する完全親会社の株式を交付すればよいので、資金調達をする必要がありません。
また、完全子会社化する既存の企業の株主の3分の2以上の賛成があれば、株式移転ができるということも、株式交換と同様なため、少数株主を排除して、完全子会社化できるということもメリットであることも同様です。
デメリットも基本的には株式交換と同様で、完全子会社となるすでに存在していた企業が上場企業であった場合、完全親会社も上場することが多いですが、完全子会社化する企業の中に赤字会社などが存在すると、株価が下がる可能性があります。
また、完全親会社の株式比率がすでに存在していた企業の関係によって変わるということも、デメリットとして挙げられます。
では、株式交換と株式移転の違いは何かというと、ごく簡単に説明すると、既に存在していた企業が、他の企業の完全親会社になる場合が株式交換、既に存在していた複数の企業が新しい完全親会社を設立し、その傘下に入るというのが株式移転ということです。
すなわち、株式交換の場合には、既に存在していた企業同士の間に完全親会社と完全子会社という上下関係が生れるのに対し、株式移転では、既に存在していた企業間に上下関係はなく、既に存在していた企業は、同列に新たに設立した新会社の完全子会社になるということです。
このため、株式移転の株式交換と比較してのメリットとしては、既に存在する企業間に上下関係が発生をすることがないので、既に存在する企業の従業員などには受け入れやすいということが言えます。
株式移転に関する詳しい内容については、「株式移転とは?親会社設立のメリット・デメリット、手続きや株式交換との違いを解説」を参照してください。
適格株式移転と非適格株式移転
株式移転は、完全親会社を設立して完全子会社の権利義務を承継させることを想定したM&A取引の一部ですし、共同株式移転は共同持株会社を設立して他社の権利義務を承継するM&A取引ですので、資産は時価評価で引き継ぐこととなり、その相手方会社の含み損益は顕在化し課税がされることとなります。ただし、企業における組織再編の一環として株式移転を行う場合についてはM&A取引ではなく、企業内部における再編にすぎませんので、そのような場合にまで、資産の含み益に課税がされるようでは企業の組織再編が進まなくなってしまいます。そこで、適格合併や適格会社分割や適格株式交換と同様の適格株式移転という制度があります。
適格株式移転が認められるための要件は、他の場合と同様、株式移転をする会社間の関係に応じて、①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件、⑤事業関連性要件、⑥事業規模要件または経営参画要件(選択要件)、⑦株式継続保有要件があり、必要となる要件が異なってきます。
まず、株式移転によって親会社となる新設される株式移転親会社が株式交換によって子会社となる既存会社である株式移転子会社の100%の株式を持つ場合には、適格株式移転とされるためには、①金銭不交付要件と➁の支配関係の継続性だけが要求されます。
次に、株式移転親会社が株式移転子会社に対して50%超、100%未満の支配関係の場合には、適格株式移転と認められるためには、①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件を満たすことが求められます。
さらに、株式移転親会社が株式移転子会社に対して、50%未満の共同支配関係の場合には、①金銭不交付要件、➁支配関係の継続性、③事業移転要件、④事業継続要件、⑤事業関連性要件、⑥事業規模要件または経営参画要件(選択要件)、⑦株式継続保有要件のすべての要件が必要となります。
適格株式移転が認められる場合にのみ、税務上も企業の組織再編としての株式移転だと考えられることとなり、この場合には、株式移転親会社は、移転して取得する株式移転子会社の株式を簿価計上できます。一方で、非適格株式移転の場合には、株式移転は、M&A取引とみられますので、取得する株式移転子会社の株式は会社設立時の時価で算定されます。
また、適格株式移転が認められた場合は、株式移転子会社には必要な税務処理は何もないのに対し、適格株式移転が認められない場合には、資産の一部は時価評価し直す必要があり、それによって出た損益は税務上の損益参入をする必要があります。
組織再編の目的
組織再編は、法人格の同一性を維持しない形で、その企業やグループの組織体制を組み替えることです。
よって、その目的は、組織体制やグループ体制を組み替えることによって、競争力の強化を図ることです。
そのために、同業他社の同一事業を買収、経営権を取得することによって、その事業のシェアや影響力を拡大して競争力を強化することが多く、一方で、不採算事業から撤退したり、売却したりして、自社の強い事業に集中して、企業の競争力を強化するということもあります。このようなことが、組織再編の目的となることが多いです。
組織再編は、通常の社内部署の再編とはレベルが違います。その企業やグループの組織体や株主、経営陣も含めた抜本的な体制変更が必要だと考えられるときに有効な手法となります。
組織再編を行う際には、前述した組織再編の種類の中から、メリットやデメリットをよく考えた上で、その企業やグループの状況で最も適切な手法を用いて組織再編を選択して実行する必要があります。
組織再編のメリット
組織再編のメリットは、まず、その企業やグループがその時点で持っている問題点を一気に変えることができるということです。しかも、人事異動や社内の部署の体制といういわば小手先の手法ではなく、抜本的に体制を変えることができます。
これによって、得意分野への選択と集中、不採算部門の切り出し、非効率な部門の効率化などを一気に解決できる可能性があります。
前述したとおり、同じ組織再編でもどの手法を取るかによって、得られるメリットは違ってきますが、その企業やグループ全体を見たときに、経営体制なども含めた最も適正であると考えられる組織体制に大きく変更ができるということが、組織再編のメリットであると言えます。
すなわち、うまく組織再編ができれば、さまざまなしがらみや制限を考えることなく、企業やグループ全体を思いどおりの形に変えることができる可能性があります。
組織再編のデメリット
組織再編のデメリットは、良くも悪くも現状を変更するということです。変化を好まない安定志向の考え方には反することを行うイメージがあります。よって、このことに伴う弊害が起こる可能性があるということです。
まず、現状を大きく変更することから、さまざまな手続きが必要となります。取る手法によっては、許認可の取り直し、株式の再上場、特別株主総会開催など、数多くの手続きを経る必要があります。
それ以前にも、実際にその企業やグループのさまざまな人がかかわることになるので、通常業務に加えて、組織再編を行うための業務が増えることになります。
また、株式交換や株式移転などの方法を取ることにした場合には、新たに株式を発行することによって、株式の価値の下落が起こる可能性があるということも、デメリットと言えます。
さらに、企業やグループ全体の組織を大きく変えることになりますので、安定を志向する従業員などが動揺するということも実際上の問題として起こる可能性があります。
自分が所属する会社が、別の企業と一緒になったり、別の企業の傘下に入ってしまったりすることもあるので、そのようなことを好まない従業員などが、企業を離れるということも起こる可能性があります。
組織再編を行う際に、どの手法を取るかによって、前述のとおり、それぞれの手法を取ることでのデメリットもあるので、それについては、実際の企業やグループの状況に応じた適切な手法を取る必要があります。
組織再編の主な手続き
組織再編で必要とされる手続きは、会社法上ではほぼ共通のものとなっています。債権者保護の手続きを必要とする組織再編を行う場合には、日数を要することがあるので、注意が必要です。
契約書の作成と締結及び計画書などの作成
取締役会などの業務執行機関の決定に基づいて、組織再編によって吸収会社と統合するような場合には、吸収合併契約、吸収分割契約などの締結を行う必要があります。また、新設会社を設立する場合には、新設会社の新設分割計画書の作成を行う必要があります。
事前開示書類の備置
組織再編を行う場合には、組織再編に関係する会社は、下記の内容などについての書面等を作成して、それぞれの本店に備置する必要があります。 備置する期間は、『所定の備置開始日から効力発生日の後6ヶ月経過日』と定められています。主な内容は次の通りです。
- 契約内容
- 対価の相当性についての事項
- 計算書類等についての事項
- 効力発生日以降、承継会社の債務履行見込みについての事項
債権者への手続き
組織再編後に債務履行が請求できないような組織再編を行う場合には、債権者に対して、『官報による公告』や『個別での催告』を行わなければなりません。これを債権者異議催告と言います。組織再編後に債務履行が請求できないような場合、債権者は、『組織再編について異議を述べる権利』を保有しています。この状況になる債権者を保護する手続きとして、債権者異議催告は存在しています。
しかし、分割型分割のように組織再編後であっても分割会社に債務履行が請求できてしまうような場合は、債権者保護の手続きは必要ありません。ただし、請求先が変わるということについては、通知をしておくことが望ましいと考えられます。主な通知内容は、以下のようなものが考えられます。
- 組織再編を行う旨
- 組織再編を行う相手会社の商号・住所
- 計算書類の要旨
株主総会の特別決議
組織再編の各種の手続きを行う場合には、株主総会の特別決議を得る必要があります。また、株主に対しては、効力発生日の20日前までに『組織再編を行う旨』について通知しなければなりません。さらに、組織再編に反対する株主には、『株式買取請求権』の行使が認められています。
企業が組織再編のために、合併、会社分割、株式交換、株式移転をする場合には、株主は、自己の所有する株式を公正な価格で企業に買取るように請求できる権利を『株式買取請求権』と言います。
登記申請
組織再編が終了した後、関係各社は必要な登記を申請することになります。
組織再編の効力が発生する日は、吸収合併、吸収分割、株式移転の場合には、契約に定めた日、新設合併、新設分割、株式移転の場合には、設立会社の設立登記申請の日になります。
事後開示書類の備置
最後に、組織再編を行い、手続きが完了した場合は、関係する会社は、一定の事項について記した書面等を作成して、それぞれの本店に備置する必要があります。 備置する期間は、『効力発生日から6ヶ月間』と定められています。主な記載事項については以下の通りです。
- 効力発生日
- 債権者保護手続き、株式買取請求手続きなどの経過
- 関係会社の重要な権利義務にかかる事項
- 変更登記を行った日
- その他重要な事項
組織再編の事例
実際に組織再編を行った企業の実例をいくつか見ていきたいと思います。
メガバンク
いわゆるメガバンクと言われる、「みずほフィナンシャルグループ」「三菱UFJフィナンシャルグループ」「三井住友フィナンシャルグループ」は、みずほ銀行が第一勧業銀行と富士銀行と日本興業銀行が合併し、三菱UFJ銀行が東京三菱銀行とUFJ銀行が合併し、三井住友銀行が、さくら銀行と住友銀行が合併してできたように、1990年代以降、合併によって誕生したということが有名です。
しかし、合併した当初は、システムの統合や、旧銀行間での襷掛け人事などで問題が指摘されたり、旧銀行間の派閥争いなどがささやかれたりするなど、なかなか融合することが難しいと言われていました。
メガバンクはそれぞれその後、ホールディンググループ化されることになり、それぞれの銀行は、それぞれのフィナンシャルグループの持ち株会社の100%子会社化されています。
東急不動産ホールディングス
東急不動産、東急リバブル、東急コミュニティーなどの会社が2013年10月に東急不動産ホールディングスを共同株式移転方式により新設し、新設する東急不動産ホールディングス社が上場会社となり、それまでの上場3社(東急不動産、東急リバブル、東急コミュニティー)は非上場会社化され、ホールディングス社の100%子会社となりました。
東急不動産、東急リバブル、東急コミュニティー株主に対しては、新設された東急不動産ホールディングス社の株式を割り当てる手法が用いられました。
その他にもホールディングス体制を取っている企業グループは株式移転方式を使って、ホールディングス会社を設立し、その傘下に100%子会社として入ることが多いです。
パナソニック
パナソニック株式会社は、2022年4月に会社分割をし、8つの事業会社に事業を承継させました。そしてグループ全体としては、持株会社制度を導入するという体制をとっています。
まとめ
今回は、組織再編の概要について見てきました。
組織再編は、企業やグループの体制を抜本的に変えて、一気に効率的にできる反面、それぞれの具体的な方法にメリット、デメリットがあります。
また、取る手法によっては、手続きに手間がかかったり、実際の統合作業に時間がとられたりすることもあります。
しかし、小手先の人事異動や部署の組み換えだけでは得られない、大きな効果も見込めますので、適正な手法を選択することによって、組織としての問題点を抜本的に解決できる可能性があります。
よって、経営者としては、それぞれの手法の効果を良く理解したうえで、大きな経営改善の手段の一つの選択肢として、組織再編を考慮に入れておきたいところです。