M&Aにより法人などが合併する場合、通常は合併される側の被合併法人から合併する側の合併法人へ移転される資産の譲渡益に対して、課税が行われます。
また、M&Aによって被合併法人が保有していた繰越欠損金についても、合併法人へ引き継がれずに消滅するのが原則です。
但し、例外として被合併法人が保有していた繰越欠損金を合併法人へ引き継ぎ、移転資産の譲渡益を繰り延べできる適格合併という制度があります。
今回は、この適格合併における繰越欠損金の扱いや、要件などについて見ていきます。
繰越欠損金とはどんな制度?
繰越欠損金とは、法人税法の規定に基づき繰り越された過去の欠損金のことです。
法人税を計算する上において、法人などの所得が赤字だった場合の赤字金額のことを欠損金といいます。
法人税法では、青色申告の承認を受けている場合、一定の期間は欠損金の繰越が可能とされていて、その一定期間に発生した黒字の所得と相殺できるのです。
この法人税法に定められた規定に基づいて、繰越された欠損金のことを繰越欠損金といいます。
繰越欠損金の制度を利用することで、黒字の所得と欠損金を相殺できますので、納めるべき法人税を少なくできるメリットがあります。
但し、欠損金を繰越しても次年度以降も赤字では意味がありませんので、次年度以降は所得が黒字になる必要があるのです。
黒字の所得と繰越された欠損金を相殺できる繰越欠損金の制度が利用できる期間は、2018年4月1日以後に開始する事業年度からは10年間です。2018年4月1日前に開始した事業年度の場合は、9年間になっています。
もっとも、繰越欠損金は、金額が大きければその分だけ将来の法人税を必ず減らせるという単純な制度ではありません。繰越欠損金は、将来の黒字と相殺できる一方で、会社規模や状況により控除できる金額に上限が設けられる場合があるためです。
M&Aの検討段階では、繰越欠損金の“金額そのもの”だけでなく、「いつまで使えるか」「どの程度使えるか」「使えなくなる要因がないか」を併せて確認することが重要です。
また、繰越欠損金には「使える期限」だけでなく、「その年に使える上限(控除限度額)」が問題になることがあります。
たとえば、一定の法人では、当期の黒字(所得)の全額を繰越欠損金で相殺できず、一定割合までしか控除できない場合があります。
そのため、欠損金が大きくても、黒字が出た年に“全額”が一気に消えるとは限りません。M&A後の事業計画(黒字化の時期・利益水準)とセットで、節税効果がどの程度・どの期間で発現するかを見積もることが大切です。
なお、繰越欠損金の利用には、原則として青色申告の継続や期限内申告など、所定の手続を満たしていることが前提となります。
M&Aにおける繰越欠損金の扱い
繰越欠損金を利用している法人などをM&Aによる買収や合併をした場合、買収側企業はその関係により対象会社から繰越欠損金を引き継ぐことはできるのでしょうか。
以前は買収側企業が対象会社の繰越欠損金を引き継ぐことができたため、事業を目的としたM&Aではなく、繰越欠損金を引き継ぎ黒字の所得と相殺することによる節税を目的としたM&Aによる買収や合併が頻繁に行われていました。
しかし、節税だけが目的のため、実際に対象会社の事業を引き継がないような事象が多発したのです。
そのため、現在では法改正が行われて、M&Aによる買収や合併により対象会社から繰越欠損金を引き継ぐには、限られた方法しかありません。
この記事では、法人の買収や合併などのM&Aにおいて、対象会社から買収側企業へ繰越欠損金が引き継がれるケースについて見ていきます。
なお、繰越欠損金は税務上の論点であり、M&Aのスキーム(株式譲渡・合併・会社分割など)や、M&A後の組織再編の予定によって結論が大きく変わります。
特に、買収後に合併や清算、事業の大幅な入替えを予定している場合、欠損金の“使い勝手”が変化しやすいため、最初のスキーム選択の段階から税務面の設計を行うことが重要です。
買収によるM&Aにおける繰越欠損金の扱い
買収によるM&Aの場合は、買収側企業が売却の対象会社を子会社化したとしても、買収側企業が対象会社の繰越欠損金を引き継げるわけではありません。
しかし、M&Aの効果により対象会社の業績がよくなり黒字化した場合、対象会社自身で繰越欠損金を利用し節税ができます。
繰越欠損金を利用して節税できるのが対象会社だけであったとしても、その支配関係から買収側企業にとっても大きなメリットになるのです。
但し、買収によるM&Aの場合は、支配関係が生じた日以後5年間において、以下の一定の事由に該当しないことが、対象会社における繰越欠損金の利用が制限されないための条件です。
- 休眠会社が支配関係が発生した日以降に新規に事業を開始した場合
- M&A以前の事業を支配関係が発生した日以降に廃止して、支配関係前の売上規模より約5倍超の借入や出資受入や資産の受入などを行う場合
- 株式の50%超を保有する個人や関連企業などの特定株主が、欠損など法人に対する特定の債権を保有している場合
- 対象会社が適格合併などにより解散する場合、または残余財産が確定した場合
- 対象会社の役員の全員が退任、且つ社員の20%以上が退職して、非従来事業の事業規模が旧事業の事業規模の5倍を超えた場合
実務上は、上記のような「制限事由に該当しないか」を机上で判断するだけでなく、M&Aの契約・PMI(買収後の統合)まで含めて“踏まない設計”をすることが大切です。
たとえば、買収後に予定している資金注入、事業の統廃合、人員整理、役員体制の刷新などが、結果として制限事由に近い動きに見えてしまうことがあります。
そのため、繰越欠損金を価値として織り込む場合には、税務デューデリジェンスで少なくとも次の点を確認しておくのが安全です。
- 欠損金の発生年度と残存期間(失効が近い欠損金が多くないか)
- 欠損金の内訳(どの事業で生じた赤字か、将来利益と対応関係があるか)
- 過年度申告の適正性(期限内申告、青色申告の状況、税務調査リスク)
- 買収後に計画する組織再編(合併・清算・会社分割等)との整合性
M&Aで買収した企業を清算させることによる繰越欠損金の扱い
M&Aで買収した企業を清算させる場合は、100%出資の支配関係から5年超経過した後に企業を清算すれば、対象会社の全額の繰越欠損金を引き継ぐことが可能です。
一方、100%出資の支配関係がない場合や、100%出資の支配関係から5年経過していない場合には、対象会社の繰越欠損金の引き継ぎに制限がかかります。
なお、清算を前提とする場合でも、手続のタイミング次第では想定どおりに欠損金を使い切れない可能性があります。
清算までの期間に黒字が十分に出ない、控除限度額の制約がある、想定外の課税所得が発生する(資産売却・債務免除益など)といった事情で、欠損金の消化計画が崩れることもあるため、キャッシュフロー計画と一体で検討する必要があります。
合併によるM&Aにおける繰越欠損金の扱い
中小企業におけるM&Aの場合は、対象会社の株式を買収することにより子会社化することが多く、合併によるM&Aは多くはありません。
なぜなら、原則として対象会社の資産や負債が組織再編による移転の場合には、組織再編税制による課税対象となるからです。
しかし、組織再編の前後で実質的に経済実態に変更がないと認められる場合には、適格組織再編成として、合併における移転資産などの譲渡損益や、株式の譲渡損益の計上を繰り延べることができます。
このような、組織再編税制で定められた要件を満たした合併のことを適格合併といい、適格合併に限り対象会社から繰越欠損金を引き継げることがあるのです。
また、組織再編税制の論点は合併だけではありません。実務では、会社分割・株式交換・株式移転など、別の組織再編手法が選択されることも多く、その場合も繰越欠損金の引継ぎ可否や制限の考え方が問題になります。
したがって「今回は合併を中心に解説する」場合でも、M&A全体像としては、スキーム選択により税務上の結論が変わる点を押さえておくと理解がスムーズです。
適格合併の場合の繰越欠損金の扱い
合併には、適格合併と非適格合併の2種類があります。
適格合併とは、合併法人と被合併法人の関係性が法人税法に定義された要件に対して適格であるということです。
合併法人(合併における存続法人)が被合併法人(合併における消滅法人)の繰越欠損金を引き継ぐためには、適格合併でありさらに引き継ぎ制限が適用されない場合です。
この記事では、適格合併の要件や、どのような場合に引き継ぎ制限が適用されずに繰越欠損金が引き継げるのか について見ていきます。
ここで重要なのは、「適格合併=常に欠損金を自由に使える」ではなく、適格合併は“入口”にすぎない点です。
適格合併と認められても、その後に説明する引き継ぎ制限により、引き継げる金額が制限されたり、実質的に使えないケースがあります。
適格合併の要件
適格合併と認められるためには、合併法人と被合併法人の間に以下の関係を満たす必要があります。
- 持株100%の完全支配関係にある企業グループ内の合併
- 持株50%超の支配関係にある企業グループ内の合併
- 共同事業を行うための合併
さらに、合併法人と被合併法人の2社間の関係ごとに、それぞれ以下に挙げる要件の中のいくつかを満たさなければなりません。
金銭等不交付要件
被合併法人の株主に対し、合併の対価として合併法人や完全親法人の株式以外の資産を交付してはいけません。
即ち、金銭などの交付をした場合は、以下の例外を除き金銭等不交付要件は満たせないことになります。
- 剰余金の配当などとして交付される金銭
- 合併法人に対して、反対株主などが買取請求した時の買取代金
- 合併法人が被合併法人の発行済株式総数の3分の2以上を保有する場合の少数株主に交付する金銭など
- 1株未満の端数の金銭による支払い
完全支配関係(支配関係)継続要件
合併前の完全支配関係(支配関係)が、合併後も継続して続かなければなりません。
従業者引継要件
下請け先や他社への派遣なども含む被合併法人の合併直前の従業者の内、おおむね80%以上の従業者が、合併後も引き続き合併法人の業務に従事していなければなりません。
事業継続要件
被合併法人の合併前の主要となる事業が、合併後も合併法人において、引き続き行われなければいけません。
事業関連性要件
合併する直前の被合併法人の主要な事業と合併法人の事業が、相互に関連する事業でなければなりません。
事業規模要件
合併する直前の被合併法人の主要な事業と関連する合併法人の事業の売上高、従業者数、資本金の額などの内、いずれかのひとつの差がおおむね5倍を超えてはいけません。
経営参画要件
合併前における被合併法人の社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役、常務取締役などの特定役員の内1名以上と、合併法人の特定役員の1名以上が、それぞれ合併法人の特定役員になる必要があります。
株式継続保有要件
被合併法人の株式の内50%超保有している支配株主がいる場合、合併にあたり支配株主に交付される合併法人の株式の全てを、支配株主が継続して保有しなければなりません。
但し、被合併法人の株式の内50%超保有している支配株主がいない場合は、不要です。
持株100%の完全支配関係における適格合併の要件
持株100%の完全支配関係にある企業グループ内の合併の場合は、完全支配関係にあることから最も適格要件が緩和されていて、以下の要件を満たせば適格合併とされます。
- 金銭等不交付要件
- 完全支配関係(支配関係)継続要件
持株50%超の支配関係における適格合併の要件
持株50%超の支配関係にある企業グループ内の合併の場合は、以下の4つの要件を満たせば適格合併とされます。
- 金銭等不交付要件
- 完全支配関係(支配関係)継続要件
- 従業者引継要件
- 事業継続要件
共同事業を行うための合併における適格合併の要件
合併法人と被合併法人の2社間に支配関係がない状態であった場合でも、共同で事業を行うための合併と認められれば適格合併になります。
この場合は、2社間に支配関係がない分多くの要件を満たす必要があり、以下の要件を満たせば適格合併とされます。
- 金銭等不交付要件
- 事業関連性要件
- 事業規模要件または経営参画要件のどちらか
- 従業者引継要件
- 事業継続要件
- 株式継続保有要件
適格合併における繰越欠損金の引き継ぎ制限
適格合併と認められた場合であっても、合併法人が被合併法人の繰越欠損金を引き継げるとは限りません。
繰越欠損金を引き継げるのは、以下の引き継ぎ制限が適用されない場合です。
共同事業以外の適格合併
引き継ぎ制限の対象となるのは、合併法人と被合併法人の間の関係が持株100%の完全支配関係にある企業グループ内の合併と持株50%超の支配関係にある企業グループ内の合併です。
共同事業を行うための合併は引き継ぎ制限が適用されないため、被合併法人の繰越欠損金を引き継げます。
5年超の支配関係がない
共同事業以外の適格合併の場合は、合併法人の適格合併があった合併事業年度開始日から5年超の支配関係がある場合に、被合併法人の繰越欠損金を引き継げます。
一方、合併事業年度開始日から5年超の支配関係がない場合には、引き継ぎ制限が適用されます。
みなし共同事業要件を満たしていない
共同事業以外の適格合併で、5年超の支配関係がない場合は、みなし共同事業要件を満たすことにより被合併法人の繰越欠損金を引き継げます。
みなし共同事業要件とは、以下のどちらかの組み合わせで適格合併の要件を満たした場合です。
- 事業関連性要件 + 事業規模要件 + 事業規模継続要件
- 事業関連性要件 + 経営参画要件
時価純資産超過額が繰越欠損金額以上でない
共同事業以外の適格合併で、5年超の支配関係がなく、みなし共同事業要件を満たしていない場合は、支配関係が始まった日の直前年度末の時価純資産超過額が繰越欠損金額以上であれば、繰越欠損金を引き継げます。
時価純資産超過額とは、時価評価した資産と負債の差による含み益の部分です。
時価純資産超過額が繰越欠損金額以上でない場合は、繰越欠損金の引き継ぎ制限が適用されます。
加えて、M&A後の税務実務では「繰越欠損金が本当に使えるか」を毎期の申告で丁寧に積み上げていく必要があります。
繰越欠損金は会計上も重要で、将来の節税見込みとして繰延税金資産に計上されることがありますが、将来利益の見込みが弱いと評価性引当の対象となり、会計上の見え方(利益・純資産)にも影響します。
そのため、繰越欠損金をM&Aの価値に織り込む場合は、
- 税務(実際に控除できるか)
- 会計(繰延税金資産として認識できるか)
- 事業計画(黒字化の確度と時期)
をセットで整合させることが、後日のトラブル防止につながります。
まとめ
繰越欠損金は、法人が過去の赤字を将来の黒字と相殺できる制度であり、単体では大きな節税効果を持ち得ます。しかし、M&Aにおいては、繰越欠損金が自動的に引き継がれるわけではなく、原則として消滅する点に注意が必要です。
株式取得によるM&Aでは、繰越欠損金は対象会社に残り、一定の制限事由に該当しない限り、対象会社自身が将来の黒字と相殺する形でのみ利用できます。一方、合併によるM&Aでは、適格合併に該当する場合に限り、被合併法人の繰越欠損金を合併法人が引き継げる可能性があります。
もっとも、適格合併であっても、支配関係の継続期間や共同事業性の有無、時価純資産超過額などにより、繰越欠損金の引き継ぎには厳しい制限が設けられています。そのため、繰越欠損金を目的としてM&Aを行うことは、実務上リスクが高いといえます。
M&Aにおいて繰越欠損金を検討する際には、適格合併の可否や引き継ぎ制限といった制度上の要件だけでなく、
繰越欠損金の残存期間、控除限度額、買収後の事業計画や組織再編の予定、税務・会計上の実務まで含めて判断することが重要です。

