新株発行の手続きと流れを徹底解説!メリットや発行方法の種類をわかりやすく比較 

  • 2024年4月17日
  • 2024年11月6日
  • M&A

新株発行は株式会社における資金調達手段の一つで、株式会社の財務体質を強化できる等の様々なメリットがあります。 

新株発行以外にも、社債の発行や融資(借入)など、資金調達手段はたくさんありますが、新株発行は、調達した資金の返済義務がなく、資本に組み入れられる点が優れています。 

ただ、新株発行は、既存の株主の権利に大きな影響を及ぼすこともあるため、会社法で定められた適正な手続きに則って行わなければ、株主から訴えを提起されてしまい、無効になることもあります。 

新株発行の手続きやメリットや発行方法の種類等を徹底的に解説します。 

目次

新株発行とは 

新株発行とは、株式会社が株式を発行することで、株式会社における資金調達手段の一つです。 

資金調達を目的としない特殊の新株発行と呼ばれる手続きもあります。例えば、株式分割、株式の無償割り当て、会社の合併などの際に株式を発行する場合です。 

しかし、一般的には、新株発行という場合、資金調達を目的とするものだけを意味します。 

新株発行以外の資金調達手段との比較 

株式会社が資金を調達する手段は、新株発行以外にも様々な方法があります。 

まず、新株発行による資金調達は金融用語で、エクイティファイナンスと言います。 

そのほか、次のような資金調達手段があります。 

  • 社債発行、融資(借入)といった資金を借り入れる形で資金調達を行う方法(デットファイナンス) 
  • 株式会社が有している売掛金をファクタリングなどにより回収るといった会社の資産からの現金調達方法(アセットファイナンス) 
  • 補助金や助成金により資金を調達する方法 
  • クラウドファンディングを活用する方法 

このように、様々な資金調達手段がありますが、新株発行手続による資金調達とどう異なるのか。以下、見ていきましょう。 

新株発行と社債発行の違い 

新株発行と社債発行の大きな違いは、次の通りです。 

  • 新株発行により調達した資金は、株式会社の資本となり返済義務が生じない。 
  • 社債発行により調達した資金は、株式会社の負債となり返済義務が生じる。 

また、会社経営の面でみると、新株発行では新たな株主に株式数に応じて、株主総会での議決権が付与されるなどの経営参加権や経営監督権が与えられる一方で、社債の場合は、債権者としての権利はあるものの経営に関与されることはないという違いがあります。 

新株発行と融資(借入)の違い 

新株発行で調達した資金は、株式会社の資本になるため、返済義務はありません。一方、融資(借入)は金融機関からの借金なので社債と同様に返済義務が生じます。 

新株発行は融資(借入)に比べて資金調達コストが高くなりがちです。新株発行手続きのために一定のコストがかかりますし、株主への配当も必要です。 

また、新たな株主の株式数によっては、経営参加権や経営監督権が行使されて、経営方針に大きな変革がもたらされることもあります。 

一方、融資(借入)のコストは金利の支払いだけで済みますし、基本的に金融機関から会社の経営方針について、口出しされることはありません。 

ただ、担保を用意できない場合は、融資(借入)を受けられませんし、金融機関も経営方針について、一定の助言は行いますし、融資を実行する際の参考材料にされることもあります。 

新株発行とアセットファイナンスの違い 

 新株発行による資金調達方法は、エクイティファイナンスと呼ばれています。投資家から新たに資金を受け入れるため、株式資本は増加しますが、株式保有数に変化がもたらされることから、経営権の変動が起きる可能性があります。 

それに対して、アセットファイナンスという資金調達方法がありますが、こちらは、会社が所有する資産を売却して資金を調達する方法です。 

具体的には、会社の所有する不動産などの有形資産や商標権などの無形資産の売却、売掛債権の回収などにより資金を確保します。売掛債権の回収手段としては、期限の到来した債権を回収する方法のほか、ファクタリングサービスを利用する方法もあります。 

いずれの手段でも、株式保有数に変化はなく、会社の経営権に影響はありません。 

また、新株発行には様々な手続きが必要になりますが、アセットファイナンスならば、複雑な手続きは必要なく、迅速な資金調達も可能です。  

新株発行のメリット 

株式会社が新株発行を行う場合は、調達した資金を返済する必要がない財務体質を強化できるといったメリットがあります。詳しく見ていきましょう。 

新株発行なら返済しなくてよい 

新株発行により資金を調達した場合は、返済する必要がない点がメリットとして挙げられます。新株を購入した株主が株式を購入した資金を取り戻す場合も基本的には、他の株主への売却となるため、会社が出費する必要はありません。 

新株発行により調達した資金は、株式会社が事業拡張のために自由に使うことができますし、月々の返済に追われることもないため、資金繰りもよくなり、事業の安定性が高まります。  

新株発行により財務体質を強化できる 

新株発行により調達した資金は、会社の資本になるため、社債や融資(借入)の場合と異なり、自己資本比率が高くなります。財務体質を強化できるため、安定した経営ができるようになりますし、対外的な信用が高まり、取引が有利になるうえ、金融機関から融資を引き出しやすくなります。 

新株発行のデメリット 

 新株発行にもデメリットがあります。例えば、次のような事態になる可能性があります。 

  • 経営権を奪われる 
  • 株価が低下する 
  • 法人税が増える 

それぞれ見ていきましょう。 

新株発行により経営権を奪われる可能性がある 

新株発行により、株式を得た人は株主として株主総会で議決権を行使できるようになります。そのため、新たな株主が得た株式総数によっては、株主総会での発言権が高まり、新たな取締役の選任を求められてしまうといった形で、会社の経営権を奪われてしまう可能性があります。 

新株発行により株価が低下する可能性がある 

新株発行により、発行済み株式総数が増えるため、既存の株主の持株比率が低くなり、さらに、株価の低下を招く恐れがあります。 

持株比率とは、発行済み株式総数に対する所有株式数の割合のことです。持株比率が低くなると既存株主の会社に対する発言権が下がるため、そのことを快く思わない株主が株式の売却を行うこともあります。その結果、株価の下落を招く恐れもあります。 

新株発行により法人税が増える可能性がある 

新株発行により、株式会社の資本金が増加し、財務体質が強化されますが、これに伴い、法人税が増額されてしまうこともあります。 

具体的には、資本金が1億円以下であれば、年800万円以下の利益に関する法人税率を原則15%とする軽減税率を適用できます。 

一方、資本金が1億円超になると、この軽減税率が適用されず、一律23.2%の法人税が課税されてしまいます。 

そのほか、資本金1億円以下ならば、様々な税法上のメリットを享受できることから、あえて、資本金を1億円以下に抑えている企業もたくさんあります。 

※参考法人税
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm 

新株発行の種類 

新株発行以外にも様々な資金調達方法があり、新株発行にはメリットもデメリットもあることをご理解いただけたと思います。ここからは、新株発行の手続きについて見ていきましょう。 

まず、新株発行の方法には、誰に対して株式を発行するのかにより、株主割当、第三者割当、公募発行の3種類があります。それぞれどのような方法なのか見ていきましょう。 

新株発行を第三者割当で行う方法 

新株発行の第三者割当とは、既存の株主以外の第三者を対象として株式を発行することです。特定の第三者に交渉して出資して貰う方法のため、機動的な資金調達が可能です。 

ただ、新たに株主を迎え入れる形になるため、既存の株主の権利に大きな影響を及ぼします。既存株主の持株比率が低下することから、株主総会における議決権、配当などを受ける権利が相対的に低下します。 

新株発行を公募発行で行う方法 

新株発行の公募発行とは、不特定多数の人を対象として株式を発行することです。公開会社が新株を発行する場合の一般的な方法です。 

公募発行により、既存株主の利益が損なわれないように会社法に様々な定めが設けられています。 

株主を広く募ることができるため、多額の資金を調達しやすいですが、発行済み株式数が多くなることで、1株あたりの価値が下がったり、株価が下落することもあります。 

また、持ち株数の少ない株主が多数現われてしまい、管理コストが上昇することもあります。 

新株発行を株主割当で行う方法 

新株発行の株主割当とは、既存の株主を対象とし、持株数に応じて株式を発行することです。既存株主の持株比率が変わらないため、株主総会における議決権にも変化はありません。 

既存の株主全員に追加の出資を求める方法なので、株主の合意が得られれば、迅速に資金調達を行うことができます。ただ、株主の資金力に依存するため、多額の資金調達は難しいこともあります。 

新株発行の手続きと流れ 

新株発行の手続きと流れを見ていきましょう。まず、大まかな流れとしては、次のようになります。  

  1. 募集事項の決定 
  2. 募集株式の引き受け 
  3. 出資の履行 
  4. 変更登記 

 新株発行の細かい手続きは、株式会社の規模や形態により異なります。 

募集事項の決定 

新株発行にあたって、発行する株式数などを決定します。 

募集事項の決定は、非公開会社ならば、株主総会の特別決議で行います。非公開会社の場合、新株発行により個々の株主の権利が大きく影響を受ける可能性があるためです。ただ、資金調達の便宜を図るために、取締役や取締役会に募集事項の決定を委任することもできます。 

一方、公開会社の場合は、資金調達の便宜を優先し、委任がなくても取締役会で決定できることになっています。 

具体的な募集事項の内容は、第三者割当、公募発行と株主割当とで異なります。以下確認しましょう。 

※非公開会社とは、株主が株式を譲渡するにあたっては、株式会社の承認を受けなければならない旨(株式の譲渡制限)が定款に定められている会社のことです。非上場会社と同義ではないので注意してください。 

第三者割当、公募発行の募集事項 

第三者割当、公募発行による新株発行に際して決定すべき募集事項は次の5つです。 

  1. 募集株式の数 
  2. 募集株式の払込金額又はその算定方法 
  3. 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額 
  4. 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は財産の給付の期日又はその期間 
  5. 増加する資本金及び資本準備金に関する事項 

株主割当の募集事項 

 株主割当による新株発行に際して、上記5つの募集事項に加えて、次の事項も決定します。  

  1. 株主に対し株式会社の募集株式の割当てを受ける権利を与える旨 
  2. 募集株式の引受けの申込みの期日 

取締役会で募集事項を決定した場合は株主への通知か公告が必要 

公開会社では、取締役会で新株発行の募集事項を決定することができますが、株主にも新株発行を行うことを知らせる必要があります。 

そこで、公開会社は、取締役会の決議によって募集事項を定めたときは、払込期日の2週間前までに、株主に対し、当該募集事項を株主に通知しなければならないことになっています。なお、この通知は、公告により代えることもできます。 

これにより、株主に新株発行差止請求権行使の機会を与えることになるため、重要な意味があります。 

募集株式の割当て方法 

株式会社は、募集株式を誰にどれだけ割り当てるかを自由に決定することができます。 募集株式の割当て方法としては、申込割当による方法と、総数引受契約を締結する方法があります。 

申込割当による方法の場合は、株式会社が株式を募集する旨を公表し、株式を引き受けようとする人が、一定の事項を記載した申込書を株式会社に送ります。 

株式会社は、申込者の中から、株式を割り当てる人と割り当てる株式数を決定します。 

このとき、申込数よりも多い株式を割り当てることはできませんが、少ない株式を割り当てることはできます。公募発行による新株発行ではこちらの方法が用いられます。 

一方、総数引受契約を締結する方法は、株式を引き受ける人が決まっている場合に、その人との間で総数引受契約を締結するだけで完結する方法です。 

募集株式の申込みと割り当ての手続きを省略することができ、その分、時間とコストを削減することができます。 

新株発行を第三者割当で行う場合は、こちらの方法が用いられます。 

出資の履行 

株式会社が株式を割り当てる人とその株式数を決定した場合は、その人に通知します。通知を受けた人は、株式の引受人となりますが、まだ正式な株主になったわけではありません。 

募集事項で定められた払込期日までに出資の履行を行わなければなりません。 

株式の引受人は出資を行うことで正式に株主となります。 

なお、払込期日までに出資の履行を行わないと、株式の引受人は株主となる権利を失います。 

変更登記 

新株発行手続の仕上げとして、払込期日から2週間以内に、株式会社の本店所在地を管轄する法務局で、会社の商業登記の変更登記手続を行います。 

新株発行の必要書類と登録免許税 

新株発行の手続きは、上記に解説したとおりですが、新株発行手続きの過程で様々な書類が必要になります。また、商業登記申請の際に添付しなければならない書類もあります。 

取締役会議事録 

新株発行の募集事項を取締役会で決定する場合は、取締役会議事録を作成します。 

作成すべき議題は次の4件です。 

  • 募集株式の発行 
  • 定款変更(必要に応じて) 
  • 募集株式の発行についての株主総会付議事項の決定
  • 株主総会の招集 

株主総会招集通知、委任状 

新株発行の募集事項の決定を株主総会の特別決議で行う場合には、株主総会を招集しなければなりません。そのための通知状と議決権を委任する株主のための委任状の雛形を全株主に送付します。 

株主総会議事録 

新株発行の募集事項を株主総会の特別決議で決定する場合は、株主総会議事録を作成します。 

作成すべき議題は次の2件です。 

  • 募集株式の発行 
  • 定款変更(必要に応じて) 

株式申込証 

募集株式の割当てを申込割当による方法で行う場合は、株式申込証を作成します。銀行又は信託会社等の株式申込取扱証明書で代用することもできます。 

総数引受契約書 

募集株式の割当てを総数引受契約を締結する方法により行う場合は、総数引受契約書を作成します。 

出資金の払込みに関する証明書 

株式の引受人が出資を行ったことを預金通帳の写しを添付したうえで株式会社が証明する形で払込証明書を作成します。 

また、新株発行に伴い、株式の引受人が払い込んだ金銭が株式会社の資本金に組み込まれたことを株式会社が証明する形で資本金の額の計上に関する証明書を作成します。 

登記申請書 

株式会社の商業登記事項のうち、発行済株式総数と資本金の額に変更があったため、株式会社変更登記申請書を作成します。登記すべき事項は次のように記載します。 

 「発行済株式の総数並びに種類及び数」 

「発行済株式の総数」○○○株 

「原因年月日」令和○年○月○日変更 

「資本金の額」金○○○万円 

「原因年月日」令和○年○月○日変更 

 また、発行可能株式総数を変更した場合もその旨も合わせて、登記事項に反映させます。 

株主リスト 

新株発行を株主総会の特別決議により決定した場合は、株主リストを作成します。 

株主リストには、氏名又は名称、住所、株式数、議決権数、議決権数の割合について、議決権割合が2/3に達するまでの株主の分を作成します。株主が10名を超える場合は10名まで記載します。 

新株発行の登録免許税 

新株発行に伴い、株式会社変更登記申請を行う際は、国に登録免許税を納税します。 

登録免許税は、3万円または、「増加した資本金の額 × 1000分の7」のどちらか大きい方です。 

増加した資本金の額が約450万円以上ならば、3万円以上の登録免許税がかかります。 

新株発行で資金調達を行った時の仕訳 

新株発行は、会社の資本金を増やすために行われますが、これを増資といいます。増資には、有償増資と無償増資の2種類があります。 

有償増資と無償増資の違い 

有償増資とは、募集株式の発行のことで、上記までに述べてきた新株発行のことを意味します。増資には、第三者割当増資、公募増資、株主割当増資の3つの方法があります。 

一方、無償増資は、株式会社の純資産項目を資本金に振り替えることです。借方のその他資本剰余金やその他利益剰余金を貸方の資本金に振り替える形で仕訳します。 

新株発行は有償増資 

新株発行により出資を受け、資本金に組み入れる場合の仕訳の流れは次のようになります。 

400万円分の新株発行を行い、400万円の出資を受ける場合で見てみましょう。 

新株式の申し込み時から払込期日まで 

払込期日前までに払い込まれた資金は、株式会社の資本として確定していない状態です。 

そのため、現金預金勘定ではなく、別段預金勘定を利用します。また、貸方の勘定科目も新株式申込証拠金とします。 

仕訳例 

(借方)別段預金 4,000,000 (貸方)新株式申込証拠金 4,000,000 

払込期日 

払込期日が到来したら、払い込まれた資金を株式会社の資本に組み入れることができます。 

まず、別段預金勘定を現金預金勘定に振り替えます。 

仕訳例 

(借方)現金預金 4,000,000 (貸方)別段預金 4,000,000 

払込金は、全額を資本金として計上することもできますが、半分までは資本金に組み入れないこともできます。 

全額を資本金に計上する場合の仕訳は次のとおりです。貸方に計上していた新株式申込証拠金が借方に移動します。 

仕訳例 

(借方)新株式申込証拠金 4,000,000 (貸方)資本金 4,000,000 

資本金に組み入れない場合は資本準備金として計上します。半分を資本準備金とする場合の仕訳は次のようになります。 

仕訳例 

(借方)新株式申込証拠金 4,000,000 (貸方) 資本金 2,000,000 

    資本準備金 2,000,000 

新株発行で注意すべきポイント 

新株発行により、新たな株主が増えたり、持株比率の変動が生じることもあるなど、既存の株主は、大きな影響を受けます。そのため、新株発行では、既存の株主の権利に配慮しなければ、株主から訴訟を起こされてしまうリスクがあります。 

以下、既存の株主の権利についてどのような点を配慮すべきなのか見ていきましょう。 

新株発行により公開会社の支配株主の異動を伴う場合 

公開会社では、取締役会決議により新株発行を行うことができますが、支配株主の異動を伴う場合は、払込期日の2週間前までに新株の引受人に関する情報を株主に公告しなければならないことになっています(会社法206条の2) 

支配株主が変わることにより、会社の経営に大きな影響を与えることになるため、株主への情報公開を徹底することで株主の意思を確認するためにこのような規定が置かれています。 

そして、通知・公告の日から2週間以内に総株主の議決権の10分の1以上を有する株主が反対する意思を株式会社に示した場合は、株主総会を開催し、普通決議による承認を得なければならないことになっています。 

株式会社の財産状況が著しく悪化していて緊急の必要がある場合などを除き、この決議を省略することはできません。 

新株発行を株主割当増資で行う場合 

既存の株主に対して、持株比率に応じて新株を発行する場合は、株主の権利に変動がないため、株主割当増資を行うことを取締役会で決定することもできます(会社法202条) 

しかし、新株を引き受けるかどうかは株主が判断することなので、追加出資する資金がない等の理由により引き受けない場合は、引き受けた株主よりも持株比率が低下してしまいます。 

全株主が引き受けに応じれば問題ありませんが、引受ができない株主や新株発行に反対する株主からはクレームが入る可能性もあります。 

新株発行が有利発行規制に抵触する場合 

新株発行の際に、新株の引受人が支払うべき払込金額が「募集株式を引き受ける者に特に有利な金額」の場合が有利発行とされています。 

有利発行に該当する場合は、公開会社でも新株発行の募集事項を株主総会の特別決議で決めなければなりませんし、この株主総会において、取締役には「当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由」を説明する義務が課せられています(会社法199条) 

問題は、「募集株式を引き受ける者に特に有利な金額」に該当するのはどのような金額かです。 

上場会社の場合は、株式の時価に0.9を乗じた価格以上の価格であれば、有利発行には当たらないとされています。つまり、時価を10%程度下回る場合は有利発行になります。 

一方、非上場会社の場合は、明確な基準が確立されているわけではありませんが、「客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合」は有利発行に当たらないと解されています(最判平成27年2月19日 民集 第69巻1号51頁) 

一般的には、上場会社に準じて判断するため、時価を10%程度下回る場合は有利発行に当たると判断されて、株主から訴訟を起こされてしまうリスクがあります。 

新株発行に際しての金融商品取引法の手続き 

第三者割当増資を行う場合には、金融商品取引法に基づく以下のような届出義務が生じることがあります。  

  • 50名以上の者を相手方として株式の取得の申し込みの勧誘をする場合は、「有価証券の募集」に該当するため、財務局に有価証券届出書の提出義務がある。 
  • 株式の発行総額が1000万円以上1億円未満の場合、有価証券通知書を財務局に提出する義務がある。 
  • 募集する株式の発行総額が1億円以上で有価証券届出書の提出を必要とする募集又は売り出しを行う場合は目論見書を作成し、募集の際に交付する義務が生じる。 

上場会社では、第三者割当増資の際、こうした届出や義務を履行するのが一般的ですが、非上場会社の場合は、一旦有価証券届出書を提出してしまうと、継続して提出する義務が生じてしまうため、新株発行に際して上記の規制に抵触しない範囲に留める事が多いです。 

新株発行に際しての外国為替及び外国貿易法の手続き 

外国投資家が対内直接投資等を行う際は、事業目的、金額、実行の時期その他の政令で定める事項を財務大臣等に届け出なければならない場合があります。届け出を行った場合、30日間は、その対内直接投資等を行うことができません。 

この届出に際して、財務大臣等が国の安全等に係る対内直接投資等に当たるかどうか審査する必要がある場合は、対内直接投資等を行うことができない期間が4ヶ月延長されます。審査の結果、対内直接投資等の内容の変更又は中止を勧告されることもあります。 

新株発行により株主から訴訟を起こされるリスク 

新株発行により株主に不測の損害が生じる場合は、株主から訴訟を起こされるリスクがあります。 

募集株式の発行差止請求 

新株発行が、定款に違反する場合や、著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し新株発行をやめることを請求することができます(会社法210条) 

新株発行が著しく不公正な方法により行われる場合とは 

典型的な例は、特定の株主の持株比率を低下させることを主な目的として新株発行が行われる場合です。 

株式会社の経営権を巡って争われている状況で、現経営陣が経営権を維持するために、特定の株主の持株比率を低下させる目的で第三者割当が行われた事例において、募集株式の発行差止請求が行われたことがあります。 

裁判所は、新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、不正発行に当たると認定しました(東京地決平成元年7月25日・忠実屋・いなげや事件) 

忠実屋・いなげや事件は、かつて、中堅スーパーマーケット経営していた忠実屋といなげやをめぐる企業買収(M&A)に関する紛争事例です。 

不動産会社S社が忠実屋の株式を約30%、いなげやの株式を約20%取得したうえで、両社に対して、S社の関連会社との合併を持ち掛けました。 

これに対して、忠実屋といなげやの経営陣が、S社による企業買収に対抗するため業務提携交渉を行い、相互に新株発行(第三者割当増資)を行うことを決議しました。S社の持ち株比率を下げて、企業買収を防ごうとしたわけです。 

そこで、S社が新株発行の差止請求を申し立て、東京地裁が主要目的ルールを示したうえで、本件新株発行は、不公正発行に該当するとの決定を下しました。 

 また、忠実屋といなげやの経営陣は、お互いの株式を市場価格よりも低額で発行していたため、特に有利な発行価額に当たるのではないかという点も争点となりました。 

当時、忠実屋といなげやの株式は、S社による株式の大量取得を受けて、投機の対象となり、高騰していた事情がありました。そこで、忠実屋といなげやの経営陣は、高騰する前の価格が適正と考えてその価格での新株発行を試みました。 

この点についても、東京地裁は、市場における株価の高騰が一定期間継続している状況では、市場価格から著しく乖離した価格で新株発行を行うことは、特に有利な発行価額に当たるとの決定を下しました。 

新株発行無効の訴え 

新株発行に無効原因がある場合は、新株発行無効の訴えを提起することができます(会社法828条) 

ただ、新株発行がすでに効力を生じていて、株式会社が活動を始めている場合に、新株発行を無効とすると、新株主はもちろんのこと、取引先などの第三者にも不測の損害を与える恐れがあります。 

そこで、新株発行無効の訴えにおける無効原因は、新株発行手続に重大な法令、定款違反がある場合に限られています。 

新株発行無効の訴えを提起できる人は、株主、取締役、清算人などです。また、訴えを提起できる期間は、公開会社の場合は、株式の発行の効力が生じた日から6か月以内、非公開会社では1年以内とされています。 

新株発行に無効原因がある例 

新株発行に無効な原因がある例は次の通りです。 

株主総会の特別決議を欠く新株発行 

非公開会社において、株主総会の特別決議を経ないままに、株主割り当て以外の方法による新株発行がなされた事案で、新株発行無効の訴えが提起されましたが、裁判所は、その発行手続きには、重大な法令違反があり、この瑕疵は新株発行の無効原因になると認定しています(最判平成24年4月24日 民集 第66巻6号2908頁)

この事例では、株主総会において、取締役にストックオプションを付与するために、新株予約権を取締役に無償で付与する旨の特別決議がいったんなされていました。ただし、新株予約権の行使条件として、上場後6か月経過後に限るとの上場条件が設けられていました。 

その後、当該株式会社の株式公開が困難になったことから、取締役会が開催されて、上場条件を撤廃する旨の決議がなされ、取締役らが新株予約権を行使して株式の交付を受けました。 

最高裁は、新株予約権の行使条件を変更するには、株主総会決議が必要であるとし、取締役会決議で変更したことは無効だと判示しました。 

そのため、取締役が新株予約権を行使するにしても、株主総会の特別決議を経なければならないところ、株主総会の特別決議を経ずに新株発行が行われたことになるため、その発行手続きには、重大な法令違反があり、この瑕疵は新株発行の無効原因になると判示しました。 

募集事項の通知・公告を欠く新株発行 

新株発行の際の募集事項の通知・公告は、既存の株主に募集株式の発行差止請求を行う機会を保障するために義務付けられた手続きです。 

そのため、通知・公告を欠いた新株発行は、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、無効原因となると解されています(最判平成9年1月28日 民集 第51巻1号71頁) 

この事例では、株式のほとんどを経営者の親族が握る同族会社において、実権を握っていた一族の長の死去を機に経営権をめぐる紛争が勃発しました。 

筆頭株主Aとこれに次ぐ株主Bが争う中で、Aの主導で会社が新株を発行することになり、その新株をAとAに同調する株主がすべて引き受けました。これにより、会社の経営権を確固たるものにしようとしたわけです。 

そして、この新株発行の際、Bに対して、募集事項の通知・公告がなされていませんでした。Bが募集株式の発行差止請求を行う機会を得られなかったわけです。 

そのため、最高裁は、募集事項の公示の欠缺は、原則として新株発行の無効原因になると判示しました。 

新株発行不存在の訴え 

新株発行の手続きが全くなされていない。払い込みもないのに新株発行の変更登記がなされている。といった新株発行の実態がない場合は、新株発行不存在の訴えを提起することができます(会社法829条) 

新株発行無効の訴えと異なり、出訴期間の制限はなく、誰でも提起することができます。 

新株発行手続きのまとめ 

新株発行により、株式会社は財務体質を強化できる等の様々なメリットを享受できますが、そのためには、新株発行手続を会社法の規定等に則って、適正に行うことが大切です。 

新株発行は、既存の株主の権利に重大な影響を及ぼしますから、既存の株主への配慮も必要ですし、既存の株主の権利を侵害するような形で新株発行を行ってしまうと、株主から新株発行無効の訴え等の訴訟を起こされてしまうこともあります。 

新株発行の手続きに関して、不安なことや分からないことがある場合は、新株発行手続きに詳しい弁護士に相談することが大切です。 

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