EV/EBITDA倍率とは?計算方法や目安などをわかりやすく解説

  • 2022年8月16日
  • 2023年7月1日
  • M&A

M&Aで企業買収を決断する際は、その判断をするためにいろいろな指標を計算し、対象となる企業の企業価値や事業価値の評価を行います。

これらの指標は、M&Aで買収する企業の経営状況や、その企業価値や事業価値を客観的に判断するために用いられます。

また、指標を用いることによって、同業他社や同規模の他業種の企業と比較して、対象となる企業の企業価値や事業価値を評価し、買収企業側は、その企業をM&Aで買収を実行するのかどうかの判断をする判断材料にします。

企業評価の方法としては、大きく分けて、評価対象の企業の企業価値や事業価値を、それを構築するためのコストで評価するコストアプローチ、企業の企業価値や事業価値を将来の収益やキャッシュフロー予測で評価するインカムアプローチ、そして、企業の企業価値や事業価値を市場において成立する価格をもとに算定をするマーケットアプローチがあります。

これら3つの方法は、コストアプローチはそれまで築き上げてきた資産などのためのコストに注目することから過去の評価、インカムアプローチは将来の収益やキャッシュフロー予測に注目することから未来の評価、マーケットアプローチは市場での価値に注目することから現在の評価ということができます。

これらは、それぞれM&Aや企業買収を行う上では、重要な判断の参考になる指標であり、注目する視点が違うことから、総合的に判断することが多いです。

また、どれか1つだけの指標での判断をすると、実績が見逃されたり、将来性を見ていなかったり、現在価値が考慮されないというような、謝った判断を行う原因になってしまいます。

よって、実際のM&Aや企業買収の際は、適切に様々な指標で判断することが、正しい判断に結びつくことになります。

今回は、それらの指標のうちM&Aを行う際には、マーケットアプローチの指標として最初に行われることが多い、EV/EBITDA倍率での評価を取り上げ、EV/EBITDA倍率による評価とは何か、その計算方法や判断基準の目安などを解説していきます。

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EV/EBITDA倍率とは

EV/EBITDA倍率とは、「Enterprise Value:事業価値」を「Earnings Before Interest Taxes, Depreciation, and Amortization:利払い前、税引き前、減価償却前、その他償却前の利益」で割った数値のことです。

M&Aで企業を買収する際にその企業の企業価値や事業価値を算定するのに一般的に使われています。

EV/EBITDA倍率の結果を見ることで、対象となる企業の事業価値が、どれくらいなのかということを数値的に明確に把握することができます。

企業価値評価の意味と目的

M&Aで企業買収を行う際に、買収する企業側としては、その買収する企業のやっている事業がどれぐらいの企業価値や事業価値があるのかという評価をして、その事業の買収をするかどうかの判断をします。

また、その企業価値や事業価値が、同じ業界の他の企業と比較して、どれぐらいのちがいがあるのかということも比較して判断をする必要があります。

適正なM&Aで企業買収をするためには、その対象企業や他の企業の企業価値や事業価値を適正に評価して初めて適正な判断ができます。

そのためには、対象となる企業も比較する企業も、同じ基準で比較する必要があり、比較をするための指標が必要となります。その代表的な指標のひとつがEV/EBITDA倍率による評価指標です。

このEV/EBITDA倍率による評価指標を計算することによって、M&Aで買収する企業の企業価値を判断することができ、同業他社との比較も可能になります。

EVとは

EVは英語で「Enterprise Value」のことで、正確には「事業価値」ということができます。同じような言葉で「企業価値」という言葉がありますが、似て非なるものです。

「企業価値」というのは、英語で「Corporate Value」で、CVと言われることもあります。CVは「株式時価総額+有利子負債」で計算されます。

一方で、「事業価値」は企業が行っている事業について、市場、マーケットから見た価値のことを言います。市場、マーケットから見た価値というのは、その事業が将来稼ぐキャッシュフローの現在価値という風にも言えます。

よって、EVは「株式時価総額+ネット有利子負債」で計算されます。

ネット有利子負債というのは、「ネット有利子負債=有利子負債-非事業性資産」で計算されます。

非事業性資産というのは、事業のキャッシュフローとは直接関係のない売りやすい資産のことで、現金や預金、売買目的有価証券、遊休土地などがあげられます。

現金や預金、売買目的有価証券、遊休土地などは、すぐに有利子負債の返済に回すことができるため、有利子負債からは減額し、それをネット有利子負債として、EVの指標の算出要素としています。

すなわち、EVは「株式時価総額+有利子負債-非事業性資産」の式で算出できるということになります。

このEVが、純粋に企業が行っている事業の市場、マーケットから見た現在価値を表すということになります。

EBITDAとは

EBITDAは、「イービットディーエー」、または「イービットダー」と呼ばれます。英語で表記した“Earnings Before Interest Taxes, Depreciation, and Amortization”の頭文字の略です。
直訳すると「利払い前、税引き前、減価償却前、その他償却前の利益」となります。

EBITDAは、財務指標の一つで、具体的には、①営業利益に減価償却費を足す、➁税引き前利益に特別損益、支払利息、減価償却費を足す、などの方法で割り出すことができます。

EBITDAを割り出して企業価値や事業価値の指標とする理由は、例えば、国によって違う税率や財務諸表への特別損益の反映の仕方や、企業によって違う負債の大きさによる支払い利息の違い、設備投資の時期などで違ってくる減価償却費といったものの影響を排除して、どのような国の企業同士でも、事業の現在価値そのものの違いを比較できるようにするためです。

このようにEBITDAを割り出せば、近年行われることも多くなった、国をまたいだM&Aなどを行う際でも、同じ価値基準で買収対象事業の価値を比較検討し、適切に把握することが可能になります。

EV/EBITDA倍率とは

EV/EBITDA倍率とは、これまで見てきた通り、EV(Enterprise Value:事業価値)をEBITDA(Earnings Before Interest Taxes, Depreciation, and Amortization:利払い前、税引き前、減価償却前、その他償却前の利益)で割ったものです。

これの意味するところは、M&Aで買収の対象となる事業の価値を何年で賄えるか、すなわちM&Aで買い入れる事業を現在と同じ状況で経営すれば、何年でペイすることができるか、ということを表すということになります。

簡易的に算出すことが可能なため、世界的にM&Aの際の事業価値の比較のための指標として広く使われています。

M&Aを行う際の、検討当初の最大の興味は、その対象となる事業の価値が、現在どれぐらいであるかということです。

EV/EBITDA倍率は、企業の基本的な情報である株価の時価総額と財務諸表の項目で算出できることから、M&Aの比較的初期の段階で利用される指標です。

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EV/EBITDA倍率の計算方法

前述のとおり、EV(Enterprise Value:事業価値)は「株式時価総額+ネット有利子負債」すなわち、「株式時価総額+有利子負債-非事業性資産(現金や売買目的有価証券など)」で算出されます。

また、EBITDA(Earnings Before Interest Taxes, Depreciation, and Amortization:利払い前、税引き前、減価償却前、その他償却前の利益)は、最も簡便な方法としては、「営業利益+減価償却費」で算出されます。

よって、EV/EBITDA倍率は、「(株式時価総額+有利子負債-非事業性資産(現金や売買目的有価証券など)/(営業利益+減価償却費)」で算出することができます。

具体的な算出方法を、例を挙げて提示してみようと思います。

例えば、M&Aによる買収対象の事業が株式時価総額5億円、有利子負債が3,000万円、現預金が5,000万円、経常利益が6,000万円、減価償却費が2,000万円だったのであれば、

EV=5億円+3,000万円-5,000万円=4億8,000万円

EBITDA=6,000万円+2,000万円=8,000万円

EV/EBITDA倍率=4億8,000万円÷8,000万円=6年

となり、M&Aの買収企業が、この事業を買収した場合、EV/EBITDA倍率は6となります。

すなわち、買収企業は、買収した企業価値の回収に6年かかるということが計算できます。

EV/EBITDA倍率の目安

これまで見てきたように、EV/EBITDA倍率は、M&Aによる企業買収を行う際に、まず、初期の段階で、買収を考える企業の事業価値を把握するために用いられます。

比較的簡単に算出することができ、算出された数値も明確であることから、M&Aを検討する際に、まず対象企業を大まかに把握するための指標として、よく用いられます。

また、他の企業との比較も簡便なことから、買収を考える対象となる企業の事業価値が、例えば、同業他社や同規模の他業種の企業と比較してどの程度の価値と評価できるのか?ということも比較的クリアに把握することができます。

では、企業の事業価値の指標であるEV/EBITDA倍率はどのくらいが、一般的であると言われているのでしょうか?具体的な数値を見ていきたいと思います。

一般的な企業の事業価値の指標であるEV/EBITDA倍率は、6倍から7倍が目安だと言われています。ただ、業種によって平均的なEV/EBITDA倍率は、幅があるため、M&Aを行う場合の相場は、約3倍から約8倍程度の範囲というのが一般的です。

さらに、成長企業または、外国の企業などの場合は幅がさらに広くなり、スタートアップの事業や新興国の企業の事業などの場合であれば、成長率が高いということも考慮してEV/EBITDA倍率が10倍を超えても妥当だと考えられる場合もあります。

逆に成熟している企業の事業をM&Aで買収する場合は、EV/EBITDA倍率が一般的な目安である8倍よりも低い倍率であればあるほど、比較的割安で買収できると考えることができます。

EV/EBITDA倍率を用いた企業価値の評価方法

企業の事業評価をする方法は、大きく分けて、コストアプローチとインカムアプローチ、マーケットアプローチの3つがあります。EV/EBITDA倍率を用いた企業評価というのは、このうちのマーケットアプローチにあたります。

このことは、EV/EBITDA倍率の算定式が、前述のとおり、「Enterprise Value:事業価値」が「株式時価総額+ネット有利子負債」すなわち、「株式時価総額+有利子負債-非事業性資産(現金や売買目的有価証券など)」で算出され、株式時価総額というマーケットでの評価価値から算出されるということからも明らかです。

EV/EBITDA倍率での企業価値や事業価値の評価が、このようにマーケットでの価値から導き出されるマーケットアプローチでの評価であることからすれば、買い手側とすれば、他の上場企業などとの比較をすることで、M&Aで買収しようとする企業の企業価値の評価を行うことができます。

このように、企業の財務諸表のデータや株価などを使って、同様の企業と比較して企業価値や事業価値の評価をすることをマルチプル法と言います。

EV/EBITDA倍率を用いて会社の企業価値や事業価値を評価するというのは、マルチプル法の一種です。

かつ、M&Aの現場においては、EV/EBITDA倍率での評価は、M&Aを行う際の最初の段階で一般的に行われることでも知られています。

上場企業のデータであれば、会社四季報や有価証券報告書でEV/EBITDA倍率を算出するためのデータを入手することは比較的容易です。

しかし、一方で、同様の上場企業がないような場合には、EV/EBITDA倍率での評価は難しくなってしまいます。これは、上場企業とは逆で、一般的に会社の財務状況や株式の評価額などが公開されていない、またはわからないからです。

とは言え、企業の状況などを見て仮置きをして算定するなどしてEV/EBITDA倍率を算出し、企業価値の評価をしたうえで比較衡量するということも、効果的になることもあります。

EV/EBITDA倍率での評価のメリット

EV/EBITDA倍率での企業価値や事業価値の評価のメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

全体的に言えば、EV/EBITDA倍率で評価することのメリットは、上場企業であれば入手が容易な数値による、決まった計算方法で算出できるということです。

すなわち、対象となる企業の企業価値や事業価値、比較対象となる企業の企業価値や事業価値を算出し、比較しやすいということが言えます。

計算が簡単で分かりやすい

まず、計算が簡単であるということが挙げられます。前述したとおり、EV/EBITDA倍率は、株式時価総額と財務諸表に載っている項目で算出することができます。よって、誰にでも簡単に算出することができます。

また、同様に他社のEV/EBITDA倍率も上場企業であれば、公開されている情報から算出できるので、比較して評価することも容易です。

この点は、EV/EBITDA倍率での評価の1つ目のメリットとして挙げられます。

市場評価を反映できる

EV/EBITDA倍率のEVの算出では、株式の時価総額を用います。よって、買収する企業のマーケットでの評価を反映した評価ができます。

同様に比較対象の企業の株式時価総額も、上場企業の場合は計算式に反映されますから、EV/EBITDA倍率での評価は市場評価を反映した評価だと言えます。

客観性が高い

これは、計算が容易だということにも関連しますが、誰が行っても同じ結果になるということで、客観性が高いと言えます。

将来性の評価や資産価値などの評価を含む算定方法などを導入して企業価値や事業価値の評価をすると、評価者の恣意的な考えが入ってしまう可能性があります。

しかし、EV/EBITDA倍率での企業価値や事業価値の評価では、すべて公開されている情報のみでの算出になるので、主観的な要素が入り込む余地が低いものになります。

よって、客観性が高い指標ということができます。

ある程度将来価値も見越した評価ができる

市場評価の反映とも関連しますが、マーケットの株価の時価というのは、その企業の将来性も見込んだ価格となっています。

よって、EV/EBITDA倍率では、株価の時価総額を構成要素とするEVの指標を用いていることから、その企業の事業の将来性の価値も含んだうえでの評価をしているということができます。

キャッシュフローの創出力を評価できている

EV/EBITDA倍率での評価では、EBITDAを算式で使っています。

EBITDAは「営業利益+減価償却費」で算出されますので、実際にはキャッシュとしては減ることがない、減価償却費の額を戻した数値を基に算定した評価になります。

よって、EV/EBITDA倍率での企業価値や事業価値の評価は、その事業のキャッシュフローの創出力を加味した評価ができていると評価できます。

事業ごとの評価ができる

複数の事業を行っている企業について企業価値の評価をする場合、事業ごとのEV/EBITDA倍率での事業価値の評価を行うことによって、より的確に事業価値の評価をすることができます。

それらの集合体である複数事業を行っている企業の企業価値は、それら事業ごとのEV/EBITDA倍率での事業価値の評価の集合体と考えるということもできます。

特別損益の影響を受けない

特別損益は、ある年度に特有の事情で生じた事由によって起こる利益や損失を計上したものです。よって、通常の事業を行って算出される利益や損失とは異なるものとなります。

M&Aで企業の事業を買収する場合、これらの特有の事情による損益は、事業自体の収益とは本来関係がないので、これらを除いた要素で算出されるEV/EBITDA倍率での評価は、通常の状況下での企業価値や事業価値を反映する指標として相応しいものだと言えます。

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EV/EBITDA倍率での評価のデメリット

EV/EBITDA倍率で評価を行うことのデメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

概して、EV/EBITDA倍率で評価を行うことのデメリットは、その評価を出す数値を出すための指標となる、EVやEBITDAでは測ることのできない価値を反映した評価にはならないということが言えます。

類似企業を探すのが難しい

一般的にEV/EBITDA倍率での評価をするためには、事業内容は当然のこと、規模や成長段階などが似たような条件である類似企業を探して比較することが望ましいことは言うまでもありません。

しかし、当然のことながら、全く同じような条件である企業が存在することはなく、場合によっては、類似した上場企業がないなど、EV/EBITDA倍率での比較をするのにふさわしい企業が見つからないというようなことが起こることもあります。

このような場合には、EV/EBITDA倍率による企業価値や事業価値を比較することが困難になります。

その企業の固有の性質の反映が難しい

EV/EBITDA倍率での企業価値や事業価値の評価の場合、評価を行った時点での株価の時価総額や財務諸表の状況などを用いての評価になるので、その企業の成長度や成熟度合、個別のさまざまな環境の状況は全く反映されないということになります。

当該企業が将来生み出すフリーキャッシュフローを考慮に入れるDCF法などに比べると、EV/EBITDA倍率での企業価値や事業価値の評価は、企業の将来性などは加味されない評価がされていることになります。

市場環境が特殊な状況下であった場合には比較が難しい

市場の評価が反映されることと裏腹な関係ではありますが、評価がされたときにマーケットが特殊な環境であった場合などには、正確な評価をすることが難しくなります。

M&Aで買収の対象となる企業の地域や国、周辺環境が特殊な状況であった場合、通常の状況で算出される指標とは異なった結果になる可能性があります。

複数事業を行う企業の事業ごとの算定の場合に手間がかかる

EV/EBITDA倍率での評価は、メリットでも述べた通り、比較的簡便な計算方法で算定できる方法ではありますが、複数の事業を持つ企業の特定の事業のEV/EBITDA倍率での企業価値や事業価値の評価を出すような場合、それを切り分けるためには、単純に株価と当期純利益などだけで評価を行うPER法や株価総額と純資産総額だけで評価を行うPBR法に比べると算定に手間がかかることはデメリットだと言えます。

長期的にはEBITDAよりもEBITの方が相応しいと考えられる場合がある

EV/EBITDA倍率での評価のうちEBITDAは、前述のとおり、「営業利益+減価償却費」で算定されます。

これは、実際にキャッシュとしては減らない減価償却費を戻すことによって、キャッシュフローの創出力を反映している一方で、長期的には、同様の資産投資が必要となることが見込まれていない評価になってしまっています。

このことを考えると、長期的な企業価値や事業価値の評価としては、EBIT(営業利益)を用いて評価を行う方がより適切な評価である場合もあります。

当該企業や類似企業のEBITDAがマイナスの場合に比較ができない

当該企業や比較対象となる類似企業のEBITDAがマイナスになった場合には、パーセンテージなどでの比較が不可能になってしまうため、数値での比較が難しくなってしまいます。

まとめ

今回は、M&Aで企業買収を行う際に、買収企業の企業価値や事業価値を評価する方法として一般的なEV/EBITDA倍率での評価について見てきました。

上場会社であれば公開されている情報を基に算定でき、類似の同業他社などがある場合には、比較評価もしやすい評価である一方、あくまで、マーケットアプローチでの評価ですから、過去の実績や未来の収益性などを必ずしも適正に評価に反映していない要素もあると言えます。

このことから、実際のM&Aの場面では、最初に記述したとおり、コストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチなどのさまざまな指標を使って、正しく適正に企業評価をする必要があると考えられます。

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