ショートリストは、M&Aに優れた相手先を見つけるために作成します。
M&Aの候補となる企業を網羅的に選び出したリストをロングリストと呼びます。その中から条件をさらに絞って選別したリストがショートリストです。
そこで今回は、ショートリストとロングリストの違いや役割、作成方法、注意点を解説します。この記事を読めば、ショートリストの作成方法が理解できるため、ぜひ参考にしてください。
ショートリストとは
ショートリストとは、M&Aの相手先として有力な企業を厳選してまとめた候補リストのことです。
まずはロングリストで幅広く候補企業を洗い出し、その中から自社の目的や条件に合致する企業だけを選定して作られるのがショートリストです。
M&Aは、これまで直接の取引や接点がなかった企業同士で行われるケースが多いため、相手選びの精度が成功の鍵を握ります。
感覚的に候補を決めてしまったり、十分な検討を経ずに複数の企業へ打診すると、交渉が長引くだけでなく、M&Aの検討情報が外部に漏れるリスクも生じます。
こうしたトラブルを防ぐためには、交渉に入る前の段階でしっかりとショートリストを作成し、実際に成約の可能性が高い企業に絞ってアプローチすることが重要です。
ショートリストとロングリストとの関係性
ロングリストの意味とショートリストとの違いをそれぞれ解説します。
ロングリストとは
ロングリストとは、M&Aの候補になる可能性がある企業をすべてリストアップしたものです。
ロングリストを作成することで、候補企業が明確になり、効率よく優れた企業を見つけられるようになります。
ショートリストとロングリストの違い
ロングリストとショートリストはいずれも、M&Aで検討対象となる企業を整理した一覧ですが、それぞれ役割と目的が異なります。
| 項目 | ロングリスト | ショートリスト |
| 目的 | M&Aの候補企業を網羅的に抽出し、可能性のある企業を漏れなくリスト化すること | ロングリストの中から、実際に交渉・打診する有力候補を絞り込むこと |
| 作成段階 | M&A初期(候補探索フェーズ) | M&A中盤(交渉・打診フェーズ前) |
| 記載内容 | 企業名、所在地、代表者、業種、売上高、従業員数などの基本情報 | 財務状況、シナジー効果、技術力、取引先、ブランド力など分析を踏まえた詳細情報 |
| 情報の深さ | 公開情報を中心とした表面的データ | 財務分析・ヒアリング・独自調査を加味した深い内容 |
| リストの規模 | 数十社〜数百社規模の広い候補群 | 数社〜十数社程度の厳選候補 |
| 主な用途 | 市場調査・候補抽出・業界全体の把握 | 実際のM&A打診・交渉対象の確定 |
| 特徴 | 「漏れなく拾う」ことを重視 | 「最も適した相手を選ぶ」ことを重視 |
以下では、その違いをわかりやすく説明します。
作る目的
まずロングリストは、M&Aの候補になり得る企業をできる限り漏れなく洗い出すことを目的としています。少しでも可能性のある企業をリストアップし、その後に条件に合わない企業を除外していく、いわば“候補の出発点”となるリストです。
一方でショートリストは、ロングリストの中から実際に交渉の可能性が高い企業を厳選する段階で作成されます。自社の目的やシナジー効果を重視しながら、「より実現性が高い」「自社に合いそうな」候補企業だけを絞り込むことで、精度の高い検討を行うことが目的です。
このように、ロングリストは“広く網羅するためのリスト”、ショートリストは“有望企業を精選するためのリスト”として役割が明確に異なります。
記載される内容
ロングリストには主に企業の基本的な外形情報が並びますが、ショートリストではM&A判断に関わる深い分析情報が中心となります。
| ロングリストの主な項目 | ショートリストの主な項目 |
| 会社名 | 事業の強み・弱み |
| 代表者名 | ブランド力 |
| 所在地 | 技術力 |
| 主力事業・製品 | 想定されるシナジー効果 |
| 資本金 | 過去3年程度の財務状況 |
| 売上高・利益 | 主要取引先・取引銀行 |
| 従業員数 | 株主構成・経営陣の体制 |
ロングリストはあくまで“客観的な情報を並べた一覧”ですが、ショートリストでは分析や評価を加えた判断材料が記載されます。つまり、ショートリストは単なる情報集ではなく、「M&Aの交渉に進むべき企業を見極めるための資料」として位置づけられます。
ロングリストに加えてショートリストを作成する理由
ロングリストに加えてショートリストを作成する理由は、M&Aに適切な企業を特定できるからです。ショートリストを作成することで、対象企業をより詳しく評価したり、比較したりできます。
財務的な側面や自社との適合性などを評価すれば、将来のシナジー効果や成果を判断できるでしょう。また、プロセスの効率化やリスク管理にも繋がります。
ショートリストの役割
ショートリストの役割は主に以下の3つです。
- 候補企業の選別
- 候補企業の評価と比較
- デューディリジェンスの準備
それぞれ詳しく解説します。
候補企業の選別
ショートリストの役割は、潜在的な候補企業を選別することです。
業界の動向や市場状況などを考慮して特定の基準を満たしている企業を絞り込みます。ショートリストで絞り込むことで、候補企業をより深く調べられるため、時間とリソースの効率的な活用が可能です。
候補企業の評価と比較
ショートリストで候補企業を絞り込むことで、さまざまな観点から評価と比較できます。
財務データや業績・事業戦略・市場ポジションなどの要素を考慮して各企業の利点や課題が明確になります。これにより、リスクやシナジー効果などを把握でき、最終的な優先順位を決定しやすくなるでしょう。
ショートリストを作成して評価や比較をすることで、戦略的な意思決定を行うための客観的な判断材料となります。
デューディリジェンスの準備
ショートリストで絞り込んだ候補企業に対しては、より詳細にデューディリジェンスを行います。
デューディリジェンスは、候補企業の資産や負債・契約・人的資源などを調査し、評価やリスクに基づいた意思決定を行うプロセスです。
ショートリストを作成すれば、デューディリジェンスの範囲や優先順位を明確にでき、効率的に進められます。
ショートリストを絞り込む基準
ショートリストを絞り込むときの基準は主に以下の7つです。
- 企業の実績
- 自社との適合性
- 技術や知識の補完性
- 企業文化の適合性
- 財務評価
- M&Aに対する姿勢
- M&Aによる相乗効果
それぞれ詳しく解説します。
企業の実績
ショートリストを絞り込むときには、企業の実績を確認しましょう。
候補者の実績や直近の売上・従業員数など細かい部分まで確認すべきです。売上実績や業績の優れた企業であれば、将来の成果も期待できます。
そのため、ショートリストを絞り込むときは、過去の実績や業績を評価して選択しましょう。
自社との適合性
自社との適合性も重要なポイントです。
どれだけ候補者の企業が優秀だとしても自社と適合しなければ、M&Aにしても成功しません。そのため、自社の状況に合わせて適切な企業を選別する必要があります。
M&Aをする目的を明確にしたうえで、条件に合う候補者を絞り込むようにしましょう。
技術や知識の補完性
ショートリストの基準には、自社の技術や知識を補完できるかどうかも重要です。
競争率を高めるために候補企業の技術や知識がどのような役割を果たすかを評価します。特許や独自の技術・専門知識の有無などが、M&Aの成功に影響する可能性もあります。
企業文化の適合性
ショートリストの基準には、候補企業の組織文化が自社と合致するかどうかも重要なポイントです。
企業文化の相違が統合プロセスに悪い影響を与える可能性もあるため、企業文化の違いを理解したうえで、調整できるかを判断しましょう。
財務評価
ショートリストを絞り込む際は、候補企業の財務状況を精査しましょう。
収益性や成長率・資産の品質・債務水準などを確認し、企業の安定性や成長ポテンシャルを評価します。財務的なリスクを抑えるためにも、財務評価は慎重に行いましょう。
M&Aに対する姿勢
ショートリストを絞り込むときには、M&Aに対する姿勢も重要なポイントです。
どれだけ候補企業と自社の適合性が高かったとしてもM&Aに消極的であれば、成功確率は低くなります。自社とのM&Aに前向きな姿勢の企業を選ぶことで、スムーズに進めていくことができるでしょう。
M&Aによる相乗効果
M&Aを行うことで、どのような相乗効果があるかを予測します。
相乗効果を得られなければ、M&Aを行うメリットはありません。そのため、どのくらいの相乗効果があるかはある程度予測した上で候補企業を絞り込みましょう。具体的にはどのくらいの収益が増加するかを予測して判断します。
ショートリストの作り方
ショートリストの作り方は、主に以下の6つです。
- 目的や基準を明確にする
- 業界の調査をする
- 適切な企業を選定する
- 優先順位を付ける
- デューディリジェンスを実施する
- 候補のリストを絞る
それぞれ詳しく解説します。
目的や基準を明確にする
ショートリストを作成するときは、まず目的や基準を明確にしましょう。
なぜM&Aを行いたいのか、どのような戦略的目標を達成したいのかなどを定義する必要があります。
新たな技術や知識の獲得や競合他社の排除などの明確な目的を設定することで、M&A候補の選定や評価がしやすくなります。
業界の調査をする
M&Aの目的や戦略が明確になったら、候補企業の業界を調査しましょう。
市場のトレンドや成長のポテンシャル・競合状況を調べてデータ収集をします。市場規模や市場シェア・収益性などを分析することで、成果を期待できる業界を特定できます。また、業界の将来性やリスクも考慮しておきましょう。
適切な企業を選定する
M&Aを行いたい業界内で候補になる企業を選定します。主に以下4つの要素が重要です。
- 補完性:自社の事業と相互補完的な企業を選べば、シナジー効果を高められます。
- 経営資源:候補企業の資産や技術・人材・ブランド価値などを評価します。
- 財務評価:候補企業の経済的な持続性や収益性を確認します。
- 企業文化:企業文化が一致していると統合を円滑に進めやすくなります。
これらを意識して適切な企業を選定しましょう。
優先順位を付ける
選定した候補企業に優先順位を付ける必要があります。
事業価値や成長ポテンシャル・リスク要因・企業文化の適合性などから判断します。また、評価指標や評価モデルを活用するのも良いでしょう。
デューディリジェンスを実施する
優先順位を付けたうえで、順位の高い候補企業に対しては、デューディリジェンスを実施します。財務や法務・人事・環境などから候補企業を評価しましょう。
デューディリジェンスを実施することで、候補企業の情報やリスクなどを把握できるため、M&Aの成功確率を高められます。
候補企業のリストを絞る
デューディリジェンスの結果を踏まえて、最終的なショートリストを作成します。
最終的に候補企業は2〜5社程度までリストを絞りましょう。ここまでリストを絞り込めれば、ショートリストの作成は完了です。
ショートリストの作成は実績のある専門家に依頼する
ショートリストの作成は、専門家に依頼すると良いでしょう。
自分だけで作成すると、不要な企業を入れてしまったり、必要な企業を入れ忘れてしまったりする可能性があります。そのため、実績のある専門家にサポートしてもらいながら進めるのがおすすめです。
これからM&Aを検討している場合は、ロングリストの作成段階からサポートしてもらうと効率的に進めていけるでしょう。早い段階から専門家のサポートを受けることで、M&Aをスムーズに進められるため、専門家に依頼してショートリストを作成してください。
まとめ
今回は、ショートリストとロングリストの違いや役割、作成方法を解説しました。
ショートリストは、ロングリストの中からさらに絞り込んだ候補企業のことです。ショートリストを作成することで、候補企業の比較や評価をさまざまな観点から行えます。
これにより、最終的な候補企業を特定でき、M&Aのプロセスをより戦略的な方法で進められます。
自分だけでショートリストを作成すると不要な企業を入れたり、必要な企業を入れ忘れたりする可能性もあるため、専門家にサポートしてもらうと良いでしょう。ショートリストの絞り込み基準や作成方法を理解して、M&Aの候補企業を見つけてください。

