経営統合とは?持株会社と合併の違いや、流れ、事例について解説

  • 2022年4月19日
  • 2024年10月8日
  • M&A

経営統合は、会社を取り巻く経営環境の変化への適応や、事業承継を実現するために重要な手法です。

この記事では、経営統合のために用いられる手続きや、主要な手続きの流れなどについて解説していきます。

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目次

経営統合とは?

経営統合とは、複数の企業の経営を結合し一体化させることを意味します。

それでは、なぜ経営統合が必要になるのでしょうか。

現代社会では、常に市場に目まぐるしい変動が生じていて、イノベーションが起こるスピードも非常に早くなっています。

また、商品のライフサイクルは短くなり、消費者のニーズも多様化して頻繁に変化するため、従来の方法を繰り返すだけでは対応できなくなっています。

そのような不確実性がある現代市場の中で競争優位性を維持するためには、ひとつの企業が単独で取り組むのでは困難です。

そこで、経営統合により複数の会社が有する経営資源を融合させ、シナジー効果を生み出すことで対応していく必要性が生じます。

シナジー効果とは、複数の企業や事業が結合することにより、単純な合計を超えた大きな価値が生じることを意味しています。

シナジー効果には大きく分けて、事業シナジー、財務シナジー、組織シナジーの3つがあります。

事業シナジーとは、事業の推進に関わるもので、効率化によるコスト削減、規模の拡大によるスケールメリットの増大、ノウハウや情報の統合による付加価値の向上、優秀な人材の獲得といったことが含まれます。

財務シナジーは、資金や税金に関わるもので、経営統合により生じた余剰資金のベンチャー企業への投資など、資金の有効活用が可能になることや、繰越欠損金の承継による節税などがあります。

組織シナジーとは、組織に関するものであり、従業員が相互に連携することで生産性が向上したり、切磋琢磨できる環境になることで従業員のモチベーションが向上したりすることなどが含まれています。

経営統合を行うと、自社にない技術や事業、人材、ノウハウ等を得ることができるので、シナジー効果が生まれやすくなり、企業価値の増大と競争力の強化が期待できます。

経営統合は、企業を成長させ発展させていくために必要であると言えます。

経営統合を行うことのメリットは、どのようにして現れるのでしょうか。

まず、事業規模が拡大することで、コストの削減が期待できるようになります。

大量仕入れを行うことで仕入れコストを削減できたり、生産量を増やせることで生産コストを低くしたりできることが期待できます。

新規事業の立ち上げや必要な人材の獲得・育成にかかる時間を短縮できることも、メリットとして挙げられます。

新たな事業を興して軌道に乗せるためには、時間も労力もかかります。

また、必要な人材を獲得して育成することにも時間と労力がかかります。

しかし、求める事業や人材を有する企業と経営統合を行えば、大幅に時間を節約できるというメリットがあります。

販路の拡大もメリットの1つです。

経営統合を行うことにより、新たな販路を獲得することができれば、売上の増加も期待できるようになります。

知識やノウハウの結合もメリットです。

経営統合により、それぞれの会社が有していた知識やノウハウが結合されることで、新たな商品やサービスの開発につながることが考えられます。

このように、経営統合は、企業の成長のためには欠かせない手法です。

さらに、経営統合は、事業承継のためにも重要です。

後継者がいない場合や、株式を取得するための資金を用意できない場合など、事業承継が困難な場面は少なくありません。

このような場合でも、経営統合を行うことで会社を引き継ぐことが可能になります。

以上のように、経営統合は、会社の成長と存続の双方を実現させることができる手法であると言えます。

持株会社による経営統合

持株会社とは、株式を保有することで他の会社を傘下に置いている会社です。

持株会社を利用することで、傘下の会社を含めたグループ会社の経営を統合することができます。

持株会社の種類について

持株会社には、純粋持株会社と事業持株会社の2種類があります。

純粋持株会社とは、自らは製造や販売等の事業を行わず、株式の保有を通じて傘下の会社を支配することのみを目的としている会社を言います。

事業持株会社とは、自らの本業を行う他に他の会社の支配も行う会社を言います。

持株会社を作る方法とは?

持株会社を作る方法は、大きく分けて4つあると言えます。

1つ目は、株式譲渡により株式を取得することで持株会社を作る方法です。

2つ目は、株式移転を行い新たに設立する会社を持株会社とする方法です。

3つ目は、株式交換により既存の会社を持株会社にする方法です。

4つ目は、既存の会社の事業を譲渡したり分割したりしながら持株会社へと移行する方法で、抜け殻方式と呼ばれます。

株式譲渡方式

株式譲渡方式では、株式譲渡によって目的の会社の株式を取得していきます。

取得すべき株式の数は、過半数や100%など、求める支配の程度により異なってきます。

株式移転方式

株式移転とは、会社が発行する株式のすべてを、新規に設立する会社に取得させる手続きです。

株式移転は、単独の会社で行うことも、複数の会社が共同で行うことも可能です。

株式移転を行うことにより、新設される会社が完全親会社になり、完全子会社の株式の100%を保有する持株会社となります。

一般的に、複数の会社が共同で株式移転を行う場合を指して、経営統合と呼ぶことがあります。

株式交換方式

株式交換とは、会社が発行する株式のすべてを、既存の会社に取得させる手法です。

株式交換は、株式移転とは異なり、既存の会社が完全親会社になります。

株式交換により、完全親会社は、完全子会社の株式の100%を保有する持株会社になります。

抜け殻方式

抜け殻方式は、既存の会社を純粋持株会社にするためによく用いられる方法です。

既存の会社が営んでいる事業を事業譲渡や会社分割により切り離し、抜け殻のようになった会社が持株会社になります。

会社分割と株式交換の併用

会社分割により抜け殻となった会社を親会社として、株式交換を行うことで純粋持株会社を作ることができます。

この方法では、親会社になる会社を会社分割し、それまで営んでいた事業を新設する会社に引き継がせて抜け殻になります。

そして、抜け殻となった会社を親会社とする株式交換を行うことにより、その会社は純粋持株会社になることができます。

会社分割と合併の併用

複数の会社が会社分割を行って抜け殻となった後に、合併をして純粋持株会社になる方法があります。

この方法では、まず、統合を目指す複数の会社がそれぞれに会社分割を行い、新設する会社に従来の事業を承継させて抜け殻となります。

その後、抜け殻となった会社同士で合併を行うことで、純粋持株会社が生まれることになります。

合併による経営統合

合併をすることで、複数の会社を一体化させる形で経営統合をすることができます。

吸収合併とは?

吸収合併とは、既存の会社同士が当事者になり、一方の会社が合併により消滅し、他方の会社が消滅する会社の権利義務のすべてを包括的に承継する合併を言います。

吸収合併では、存続する会社に消滅する会社が統合されることになります。

実際には、合併の多くが吸収合併で行われています。

新設合併とは?

新設合併とは、複数の会社が新設する会社に合併することで、権利義務のすべてを包括的に承継させて消滅する形の合併を言います。

新設合併では、新設する会社に対して複数の会社が統合されます。

持株会社による経営統合と合併による経営統合の違い

持株会社による経営統合と合併による経営統合では違いが存在します。

ここではその違いについて見ていきましょう。

持株会社方式では会社が消滅しない

持株会社により経営を統合する場合は、子会社の株主が変わるだけであり、法人格は影響を受けずに存続します。

一方、合併が行われる場合は、消滅会社の法人格が消滅し、存続会社のみが残ることになります。

持株会社方式では社内システム等を統一しなくてよい

持株会社方式では、子会社が存続するので、社内システムや人事制度等が異なっていてもそのまま維持することが可能です。

これに対して、合併の場合は、必ず消滅する会社があるので、消滅する会社のシステムや制度を存続する会社に統一するための作業が必要になります。

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部分的な経営統合

経営統合を実現する方法は、持株会社や合併のような会社を単位とする手法の他に、事業を単位とする手法もあります。

ここでは、事業単位で部分的に経営統合をする方法を解説していきます。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を他の会社に譲渡して承継させることを言います。

事業譲渡では、譲渡の対象になる資産や負債は契約で個別に選択することができます。

事業譲渡により、他の会社から必要な事業を譲り受け、自社に統合することが可能になります。

会社分割

会社分割とは、会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を、既存の会社に承継させたり、分割により設立される会社に引き継がせたりする方法です。

会社分割も事業譲渡と同様の目的で使用されることが多くなっています。

しかし、会社分割は包括承継であり権利義務をまとめて承継できるのに対し、事業譲渡では個別に承継していく必要がある点に大きな違いがあります。

合弁

合弁会社とは、複数の会社が共同して、特定の事業を遂行するために設立または取得した会社を言います。

合弁会社では、複数の会社の経営資源が目的事業の遂行のために融合するので、対象となる事業の範囲で経営統合が可能になると言えます。

株式譲渡による経営統合のメリット・デメリット

株式譲渡のメリット・デメリットを解説していきます。

メリット1 手続きが簡易である

株式譲渡は比較的簡易な手続きで行うことが可能です。

株式譲渡では100%の株式を取得する場合でも株主総会を開く必要がありません。

株主総会を開催せずに取締役会の決定のみで行える株式譲渡は、手続きの面での負担が軽いと言えます。

メリット2 株式の売却益に対する税率が低い

株主が個人の場合には、株式の譲渡所得への税率は約20%になります。

一方で、例えば、事業譲渡の場合には、譲渡対価が買い手の会社から売り手の会社に支払われますが、この売却益に対しては約35%もの法人税が課されます。

また、事業を譲渡した会社が譲渡益を配当の形で株主に還元した場合には、その配当所得は所得税の累進課税の対象になり、最大で約55%の課税がされることになります。

メリット3 会社組織に与える影響が小さい

株式譲渡を行っても、株主が変更されるだけで、会社組織には大きな影響を与えません。

従来の取引先や、従業員の雇用契約も株式譲渡による影響を受けることなくそのまま存続するのが原則です。

また、営業に必要な許認可も原則として承継することができます。

ただし、取引先との契約や賃貸借契約にCOC条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が含まれている場合には、主要な株主が変更した場合に契約解除できるようになるので注意を要します。

メリット4 会社の完全な支配権を獲得できる

株式の100%を取得することができれば、対象の会社を完全に支配することが可能です。

他の株主が存在しなければ、経営方針に反対されることもなく、スムーズに会社経営の意思決定を行うことが可能になります。

デメリット1 簿外債務を承継する可能性がある

株式譲渡では、承継する資産を個別に選択することができません。

そのため、対象となる会社に簿外債務が存在する場合に承継してしまうおそれがあります。

このリスクを低減するためには、入念なデューデリジェンス(DD)や売り手による表明保証が重要となります。

デメリット2 株主が多数の場合は全株式を取得するのが困難

株主が多数存在する場合には、100%の株式を取得するのが難しいことがあります。

株式をすべて取得できないと、経営方針について他の株主と対立するおそれがあります。

株式交換・株式移転による経営統合のメリット・デメリット

株式交換・株式移転のメリット・デメリットを見ていきましょう。

メリット1 資金の用意が不要

株式交換・株式移転の対価として親会社の株式を発行する場合には、親会社になる会社では多額の資金を調達する必要がありません。

メリット2 少数株主を強制的に排除できる

株式交換・株式移転では、原則として株主総会の特別決議を得ることで、反対する株主の株式も強制的に親会社側に移行します。

これにより、少数株主を強制的に排除して完全子会社を作ることができます。

例えば株式譲渡では、複数の株主がいるときにすべての株式を取得するのが困難な場合があり、少数株主が残存するおそれがありますので、株式交換・株式移転には大きな利点があると言えます。

デメリット1 親会社側の株主構成が変わることがある

株式交換・株式移転の対価として親会社の株式を交付すると、親会社側の株主が変動することになります。

そのため、経営陣や既存株主にとって好ましくない株主が現れるおそれもあります。

デメリット2 株価の下落を招くおそれがある

株式交換・株式移転の対価として株式を発行する場合には、発行済株式総数が増加するため、1株の持つ価値が低下する可能性があります。

これを株式の希薄化といいますが、このような株式の希薄化が生じる場合には、株価の下落が起きるリスクがあります。

デメリット3 手続きに時間がかかる

株式交換・株式移転は、株式譲渡などに比べると、必要とされる手続きが複雑になっているため、完了までに時間がかかります。

合併による経営統合のメリット・デメリット

合併のメリット・デメリットを簡単に説明します。

メリット1 資金の準備が不要

合併を行う場合にも、対価として存続会社の株式を交付することが可能です。

株式を対価にする場合には、合併のために資金を調達する必要がなくなります。

メリット2 資産を包括的に承継できる

合併では、消滅会社の権利義務や資産を、包括的に存続会社が承継します。

そのため、雇用契約や、取引先との契約なども個別に承認を取ることなく、まとめて存続会社が受け継ぐことができます。

メリット3 シナジー効果を生みやすくなる

合併を行うと、複数の会社が1つに統合されることになります。

複数の会社が1つに融合することで、それぞれの事業が持つ強みを単純に合計するよりも大きな価値が生まれやすくなります。

メリット4 対等な立場を印象づけられる

合併を行う際に、合併比率を同じにすることなどにより、対等な立場の合併であることを印象づけることが可能になります。

デメリット1 手続きが複雑

合併を行うためには、他の手法に比べて複雑で時間のかかる手続きをする必要があるのがデメリットと言えます。

デメリット2 株価が下落するリスクがある

合併の対価として株式を発行する場合には、株式の希薄化が起こり、株価が低下するおそれがあります。

デメリット3 合併後の負担が大きい

合併を行うと、複数の会社が1つになります。

合併前にそれぞれの会社で異なる制度やシステムを採用していた場合には、合併後に統合する必要があるため、統合作業の負担が重くなる可能性があります。

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会社分割による経営統合のメリット・デメリット

会社分割にもメリット・デメリットがあります。

メリット1 資金の用意がなくても行える

会社分割の際にも、対価として株式を交付することが可能です。

そのため、多額の資金を準備することなく会社分割を行うことができます。

メリット2 資産や権利義務を包括的に承継できる

会社分割では、分割会社の資産や権利義務を包括的に承継させることができます。

労働契約や許認可も、原則としてそのまま承継することが可能です。

メリット3 特定の事業のみを取得できる

会社分割では、一部の事業のみを取得することが可能です。

不要な事業は会社分割の対象から外すことで、承継する会社は必要な事業のみを柔軟に取得できます。

また、分割を行う会社にとっても、必要な事業を残して不要な事業のみを分離できるという利点があります。

メリット4 不採算な事業を分離できる

分割会社が複数の事業を営んでいる場合には、不採算事業が存在することもあります。

会社分割によって不採算事業を切り離すことで、経営リスクを回避することができます。

デメリット1 簿外債務を承継するリスクがある

会社分割では包括承継が行われるため、簿外債務や不要な資産まで承継してしまうおそれがあります。

デメリット2 手続きに時間がかかる

会社分割を行う際にも、株主総会の承認手続きや債権者異議の手続き、登記手続き等が必要になるため、手続きに時間がかかります。

事業譲渡による経営統合のメリット・デメリット

事業譲渡のメリット・デメリットを解説します。

メリット1 会社を存続させたまま一部の事業のみを譲渡できる

事業譲渡は、会社全体を売却するのではなく、特定の事業を譲渡する手法です。

そのため、事業譲渡を行っても会社は存続しますので、事業譲渡で得た利益をもとに新たな事業に挑戦したりすることが可能です。

また、買い手から見れば、必要とする事業だけを取得できるという利点があります。

メリット2 重要な資産や従業員を残すことができる

事業譲渡の対象は、買い手との契約で定められます。

重要な資産や人材を譲渡せずに残しておきたい場合には、事業譲渡契約に含めないことで譲渡の対象としないことができます。

メリット3 会社に負債があっても譲渡することができる

事業譲渡は、合併や株式譲渡などの会社全体が対象となる手法と異なり、承継対象の資産は個別に選択することができます。

そのため、会社に負債がある場合でも負債を承継しないことができるので、譲渡がしやすくなると言えます。

デメリット1 従業員や取引先を個別に引き継ぐ必要がある

事業譲渡は、包括承継ではありませんので、従業員との雇用契約や取引先等を個別に引き継ぐ必要があり、時間と手間がかかります。

デメリット2 20年間は同一事業を行えないことがある

事業を譲渡した会社は、同一の市町村の区域内と隣接する市町村の区域内において、事業譲渡の日から二十年間は同一の事業を行ってはならないことが会社法で定められています(競業避止義務)。

競業避止義務は事業譲渡契約で適用を排除することができますが、合意ができない場合もあるため留意が必要です。

合弁による経営統合のメリット・デメリット

合弁会社のメリット・デメリットについて見ていきます。

メリット1 リスクの分散ができる

合弁では、複数の会社が出資することになりますので、単独で行うよりも出資額が低くなり、リスクを分散させることが可能になります。

メリット2 相手先が持つ強みを利用できる

合弁を行う場合には、相手となる会社が有する独自技術やノウハウ、ブランド等を利用できることがあります。

メリット3 海外への進出がしやすくなる

海外の現地法人と合弁を行えば、海外の実情に応じたノウハウを有する現地法人の強みを活用できるようになります。

また、外資規制が行われている国では、現地法人と合弁することで規制の対象から外れることが可能になります。

デメリット1 自社のノウハウや技術が流出する危険がある

合弁により、自社のノウハウや技術、情報等を提供する必要が生じる場合があります。

その場合には、相手先の会社にノウハウや技術が流出するリスクがあります。

デメリット2 経営方針を巡ってトラブルが生じる可能性がある

合弁では、複数の会社が利害関係者になるため、経営方針を統一することができずにトラブルになるおそれもあります。

株式譲渡の手続きの流れ

株式譲渡をする際に、株式に譲渡制限がある場合は、会社による譲渡の承認が必要になります。

ここでは、譲渡制限がある株式の譲渡の流れを簡単に解説していきます。

なお、譲渡制限がない場合は、譲渡の承認に関する手続きは不要です。

株式譲渡承認請求

譲渡制限がある株式を譲渡するには、会社による承認を得る必要があります。

会社に株式譲渡の承認をしてもらうためには、株式譲渡承認請求書を提出します。

会社は、株式譲渡承認請求書が提出されたら、譲渡承認機関により承認に関する決定をします。

譲渡の承認は、原則として、取締役会設置会社では取締役会が行い、取締役会を設置していない会社では株主総会で行います。

株式譲渡承認通知

株式譲渡の承認または不承認の決定は、承認請求の日から2週間以内に、承認請求をした者に対して通知する必要があります。

2週間以内に通知がない場合は、譲渡の承認があったものとみなされます。

株式譲渡契約の締結・株式譲渡の実行

譲渡を承認する旨の通知がされた場合は、株式譲渡契約を締結し、株式の譲渡を実行します。

株券発行会社では、株式を譲渡するために株券の交付が必要ですので、譲渡の実行に際して株券を交付できるように準備しておきます。

株主名簿の名義書換請求

株式譲渡契約を締結したら、株主名簿の名義書換を請求します。

株式譲渡の効力を会社に対して主張するためには、株主名簿の書換えが必要です。

さらに、株券を発行していない会社では、第三者に株式譲渡の効力を主張するためにも株主名簿の名義書換が必要となります。

株主名簿の名義書換

会社は、株主名簿の名義書換請求を受けて、株主名簿の書換えを行います。

株主名簿の名義書換をもって、株式譲渡の一連の流れは終了します。

名義書換が完了したら、株式の譲受人は、株主名簿記載事項証明書の交付を請求することができます。

この株主名簿記載事項証明書により、譲受人が株式となったことが証明されます。

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組織再編による経営統合の手続きの流れ

組織再編とは、合併・会社分割・株式交換・株式移転の総称です。

これらは会社法に規定されているものであり、要求される手続きは多くが共通しています。

ここでは、組織再編の手続きの流れについて、まとめて説明していきます。

組織再編契約の締結・組織再編計画の作成

会社が組織再編を行う際には、まず、組織再編契約を締結するか、組織再編計画を作成することが必要です。

契約の締結が必要になるのは、吸収合併・新設合併・吸収分割・株式交換を行う場合です。

具体的には、それぞれ、吸収合併契約・新設合併契約・吸収分割契約・株式交換契約を締結することになります。

計画を作成する必要があるのは、新設分割と株式移転を行うときです。

それぞれ、新設分割計画と株式移転計画を作成します。

組織再編契約・計画では、当事会社の他に、組織再編の対価に関する事項や、組織再編の効力発生日など、これから行おうとする組織再編の内容を定めることになります。

事前開示書類の備置

組織再編契約・計画、その他の会社法所定の書類を、会社の本店に備え置いて株主等が閲覧できるようにする手続きです。

組織再編の当事会社は、備置開始日から、組織再編の効力が発生する日の後6ヶ月を経過する日までの間、事前開示書類を本店に備え置かなければなりません。

備え置きの開始日は、以下のうちで最も早い日からになります。

  • 株主総会の日の2週間前
  • 反対株主の株式買取請求の通知日または公告日
  • 新株予約権者への通知日または公告日
  • 債権者保護手続に関する通知日または公告日

承認決議

組織再編を行うためには、効力発生日の前日までに、組織再編契約・計画について、原則として当事会社の双方で株主総会の特別決議による承認を得る必要があります。

株主総会の特別決議は、原則として議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です

なお、簡易組織再編や略式組織再編に該当する場合には、承認決議を省略することができます。

一方、特別決議よりも決議要件が重くなる場合もあります。

消滅会社等の譲渡制限株式でない株式の株主に対し、組織再編の対価として譲渡制限株式等を交付する場合には、消滅会社等で特殊決議が必要になります。

また、消滅会社等が種類株式発行会社であり、譲渡制限株式でない種類株式の株主に対し、組織再編の対価として譲渡制限株式等を交付する場合には、消滅会社等において、株主総会の特別決議に加えて、譲渡制限株式等の割当てを受ける種類株主を構成員とする種類株主総会の特殊決議が必要になります。

消滅会社等の株主に対し、対価として持分会社の持分が交付される場合には、消滅会社等の株主全員の同意が必要です。

消滅会社等が種類株式発行会社で、種類株主に対価として持分会社の持分等が交付される場合には、消滅会社等の株主総会の特別決議の他に、持分等の割当てを受ける種類株主全員の同意が必要になります。

存続会社等においては、種類株式発行会社が対価として譲渡制限株式を交付する場合は、株主総会の特別決議の他に、交付される譲渡制限株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の特別決議が、原則として必要になります。

その他、種類株式発行会社で、組織再編によりある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある場合には、種類株主総会の特別決議が必要になることがあります。

反対株主の株式買取請求等

組織再編に反対する少数株主を保護するため、会社法では反対株主に株式買取請求権が認められています。

会社は、株式買取請求権がある株主に対し、吸収合併・吸収分割・株式交換の場合は効力発生日の20日前までに通知または公告を行う必要があります。

新設合併・新設分割・株式移転の場合は、承認決議の日から2週間以内に通知または公告をしなければなりません。

買取請求権を行使できる期間は、吸収合併・吸収分割・株式交換の場合は効力発生日の20日前から効力発生日の前日までとなっています。

新設合併・新設分割・株式移転の場合は、通知または公告の日から20日以内に行使します。

買取請求ができる反対株主とは、以下の株主を指します。

  • 承認を行う株主総会に先立って反対する旨の通知をし、かつ、株主総会で組織再編に反対の議決権を行使した株主
  • 承認を行う株主総会において、議決権を行使することができない株主

買取請求ができない場合は以下の通りです。

  • 簡易組織再編の場合
  • 略式組織再編の特別支配会社
  • 総株主の同意が必要になる場合

株式の買取請求は、当事会社の双方の反対株主に認められていますので、消滅会社等と存続会社等の反対株主が行使できます。

新株予約権についても一定の場合に買取請求権が認められています。

新株予約権の買取請求ができるのは、新株予約権の内容として定められた対価が交付されなかった場合など、新株予約権の内容と合致しない処理をされた消滅会社等の新株予約権者です。

債権者の異議手続

組織再編を行うと、会社財産が変動したり債務者となる会社が変更されたりして、債権者に大きな影響を与える場合があります。

そのため、会社法では、債権者に組織再編を行う旨を知らせて異議を述べる機会を与える手続きが定められています。

債権者の異議手続が必要になる場合は、組織再編の類型により異なります。

  • 合併

合併を行うと、当事会社双方の債権者に影響を与えるため、当事会社の両方において、すべての債権者について異議手続きを行う必要があります。

  • 会社分割

吸収分割の場合、吸収分割承継会社は、分割会社から事業を承継することで会社財産が変動するので、すべての債権者について異議手続きを行う必要があります。

分割会社について見ると、会社分割により分割会社の債務が承継会社に移転する場合は、債務者が変更されることになるので、原則として移転する債務の債権者に対して異議手続きを行う必要があります。

一方で、債務の移転がない場合や、分割会社から承継会社に債務が移転しても分割会社が重畳的債務引受を行う場合には、債権者は分割会社に対して会社分割前と変わらず履行を請求することができるので、異議手続きは必要なくなります。

ただし、人的分割に当たる場合には、分割会社の財産が配当として流出し減少するため、債権者異議手続を行う必要があります。

  • 株式交換・株式移転

株式交換・株式移転は、会社がそのまま存続するため、原則として債権者の地位に大きな影響を与えませんので、債権者の異議手続きを行う場面は限られています。

株式交換・株式移転により完全子会社になるべき会社が債権者異議手続を行うのは、新株予約権付社債が完全親会社に承継される場合です。

新株予約権付社債が承継されると、債権者は、完全子会社の債権者から完全親会社の債権者に移行するため、異議手続きが必要になります。

完全親会社になるべき会社が債権者異議手続を行うのは、株式交換の対価が株式以外の場合です。

対価として株式以外の財産を交付すると、会社の財産状態が悪化する可能性があるので、異議手続きを行う必要があります。

なお、株式移転の場合には、完全親会社になるべき会社はまだ設立されていないので、親会社側の債権者異議手続を考える必要はありません。

  • 債権者異議手続の方法

会社は、異議手続の対象となる債権者がいる場合は、組織再編をする旨や、1ヶ月以上の一定の期間内に異議を述べることができる旨などを官報で公告し、かつ、知れている債権者には個別に催告する必要があります。

なお、一定の場合には、官報公告と定款で定めた方法による公告の双方を行うことにより、債権者に対する個別催告が不要になることがあります。

株券等の提供公告

消滅会社等が株券発行会社で、合併・株式交換・株式移転を行う際には、株券を回収するために株券提供公告が必要になります。

株券提供公告を行う場合、会社は、組織再編の効力発生日の1ヶ月前までに株券を提出する必要がある旨を公告し、かつ、株主および登録株式質権者に対して通知をする必要があります。

ただし、株券発行会社であっても、株券の全部が発行されていない場合は、株券を回収する必要がないため、株券提供公告の手続きは不要です。

新株予約権証券も提供公告が必要になる場合があります。

消滅会社等の新株予約権について新株予約権証券が発行されている場合は、一定の場合に新株予約権証券提供公告を行います。

合併の場合は、消滅会社等のすべての新株予約権について、新株予約権証券提供公告をする必要があります。

会社分割・株式交換・株式移転の場合は、対価が交付される新株予約権について、新株予約権証券提供公告を行います。

新株予約権証券提供公告の手続きは、株券の場合と同様です。

会社は、新株予約権証券を提出する必要がある旨を、効力発生日の1ヶ月前までに公告し、かつ、新株予約権者および登録新株予約権質権者に対して通知をする必要があります。

登記

組織再編の手続きがすべて終了したら、当事会社は登記を申請します。

組織再編の効力は、新設合併・新設分割・株式移転の場合は、設立会社の設立登記を申請した日に発生します。

一方、吸収合併・吸収分割・株式交換の場合では、契約で定めた効力発生日に組織再編の効力が生じます。

組織再編に関する登記の他に、組織再編で資産を承継した場合には、不動産登記なども必要になります。

事後開示書類の備置

組織再編の効力が生じた日の後、当事会社は、法定の事項を記載した書面を作成し、本店に備え置く必要があります。

備え置く期間は、効力発生日から6ヶ月間となっています。

簡易組織再編について

簡易組織再編とは、株主に与える影響が比較的小さいときに、承認決議を省略できる制度です。

存続会社等が対価として交付する額が、存続会社等の純資産額の5分の1以下であれば、簡易組織再編として承認決議が不要になります。

ただし、組織再編で差損が計上される場合などの一定の場合は、簡易組織再編の手続きによることはできません。

会社分割の場合は、分割会社でも簡易組織再編を行うことができます。

会社分割で承継させる資産の帳簿価額の合計が、分割会社の総資産額の5分の1以下の場合には、分割会社で承認決議が省略できます。

略式組織再編について

略式組織再編とは、当事会社の一方が、もう一方の株式の90%以上を保有している会社(特別支配会社)の場合の組織再編を指します。

略式組織再編では、支配されている会社では必ず承認決議が成立するため、株主総会決議を省略できます。

略式組織再編をすることができるのは、吸収合併・吸収分割・株式交換の場合に限られます。

新設合併・新設分割・株式移転の場合には、設立会社はまだ設立されていないので、特別支配会社がないために、略式組織再編をすることはできません。

一定の場合には、略式組織再編ができないこともあります。

存続会社等が非公開会社で、対価として譲渡制限株式等を交付しようとする場合は、消滅会社等が存続会社等の特別支配会社であっても、存続会社等の承認決議を省略できません。

また、消滅会社等が種類株式発行会社でない公開会社である場合で、交付される対価に譲渡制限株式等が含まれるときは、存続会社等が消滅会社等の特別支配会社であっても、消滅会社等における承認決議を省略することができないことになります。

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労働者の異議申出手続

会社分割の際に労働契約が承継されると、労働者は勤務する会社が変わることになるので、会社は事前に労働者に対して通知をする必要があります。

分割会社は、以下の労働者に対して、法定事項を書面で通知しなければなりません。

  • 分割会社が雇用している労働者で、承継会社・設立会社に承継される事業に主として従事する者(承継事業主要従事労働者)
  • 分割会社が雇用している承継事業主要従事労働者以外の労働者で、吸収分割契約・新設分割計画に労働契約を承継する旨の定めがある者(指定承継労働者)

承継事業主要従事労働者の労働契約は、吸収分割契約・新設分割計画に労働契約を承継する旨の定めがあれば、承継会社や設立会社に承継されます。

吸収分割契約・新設分割計画に労働契約を承継する旨の定めがなかった場合、承継事業主要従事労働者は、一定の期間内に分割会社に対して異議を申し出ることができます。

承継事業主要従事労働者が異議を申し出ると、その労働契約は、会社分割の効力が発生したときに承継されることになります。

指定承継労働者も、一定の期間内に分割会社に対して異議を申し出ることができます。

指定承継労働者が異議を申し出ると、その労働契約は承継されないことになります。

公正取引委員会への届出等

一定の規模以上の会社が組織再編を行う場合は、独占禁止法により、公正取引委員会に対する届出が必要となります。

また、組織再編の際に株式が発行されるときは、金融商品取引法により、有価証券届出書または臨時報告書の提出が必要になる場合があります。

事業譲渡による経営統合の流れ

事業譲渡を行う際の流れを簡単に見ていきましょう。

取締役会の決議と事業譲渡契約の締結

事業譲渡に関する重要事項を決定するため、取締役会を開催する必要があります。

取締役会の決議を得たうえで、代表取締役は事業譲渡契約を締結します。

事業譲渡の承認決議

譲渡会社と譲受会社は、一定の場合に株主総会の特別決議による事業譲渡の承認が必要になります。

  • 譲渡会社

事業の全部を譲渡する場合、および、事業の重要な一部を譲渡する場合で、譲り渡す資産の帳簿価額が、譲渡会社の総資産の5分の1を超えるときは、事業譲渡の効力発生日の前日までに株主総会の承認を得る必要があります。

  • 譲受会社

事業の全部の譲受けをする場合で、対価として交付する資産の帳簿価額が、譲受会社の純資産額の5分の1を超えるときに株主総会の承認が必要になります。

反対株主の株式買取請求

会社は、事業譲渡の効力発生日の20日前までに、株主に対して通知または公告を行う必要があります。

事業譲渡に反対する株主は、事業譲渡の効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに、会社に対して株式の買い取りを請求することができます。

承継した資産の登記・登録

事業譲渡により承継した資産の登記や登録の手続きを行います。

許認可の再取得

事業譲渡により、許認可等を再取得しなければならなくなる場合があります。

公正取引委員会への届出等

組織再編の場合と同様に、一定の規模以上の会社が事業譲渡を行う場合は、公正取引委員会に対する届出が必要になったり、有価証券届出書または臨時報告書の提出が必要になったりする場合があります。

経営統合の事例

近年大きな話題になった経営統合の例として、Zホールディングス株式会社(ZHD)とLINE株式会社の統合があります。

ZHDは、もともとはヤフー株式会社として設立された会社で、インターネットのポータルサイトで大手の会社です。

もう一方のLINEはSNSで大きな強みを持っています。

この両社は、北米や中国の巨大IT企業に大きな差をつけられていることに強い危機感を持ち、AIを中心とした世界をリードするITサービス企業に成長することを目指して経営統合を実施しました。

ZHDとLINEは2021年3月1日をもって経営統合を完了しています。

この経営統合を実現するために、株式公開買付や、合併、会社分割、株式交換等の複雑なプロセスを踏んでいます。

最終的な経営統合の結果、ZHDグループは、グループ従業員数2.3万人を有する国内最大規模のインターネットサービス企業グループになりました。

ZHDグループは、AIを中心として事業を推進するために、統合後の5年間で5,000億円もの投資を計画しています。

また、AIの活用に携わる国内外のエンジニアを、5年間で5,000人増員することも予定しています。

ZHDグループは、2023年度には、売上収益2兆円、営業利益は過去最高となる2,250億円を目指すことを明らかにしています。

まとめ

この記事では、経営統合を実現するために利用される様々な手法を見てきました。

経営統合のためには、最適な手法を選択したうえで、複雑なプロセスを確実に進めていく必要がありますので、専門家を活用することをおすすめします。

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