事業譲渡方式によっても遮断できない簿外債務!

(1) 事業譲渡方式により簿外債務・潜在債務・偶発債務の承継を遮断できる

事業承継M&Aを株式譲渡方式で行う場合、買主は、対象会社の法人格を承継することとなるため、対象会社が有する簿外債務・潜在債務・偶発債務を含む一切の債務を承継することとなる。

これに対して、事業承継M&Aを事業譲渡方式による場合、買主は、事業譲渡契約書において、債務を承継する旨を記載しないことにより、又は、債務を承継しない旨を明記することにより、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しないことができる。

なお、事業譲渡契約書においても、漫然と、対象事業の事業の譲渡を受ける旨規定した場合は、対象事業に関する債務(簿外債務・潜在債務・偶発債務を含む)を承継することとなろう。

⇒M&Aトラブル・表明保証違反・コベナンツ違反・M&Aの損害でお困りの方はこちら!

(2) 事業譲渡方式によっても遮断できない簿外債務がある

事業譲渡方式の場合、このように、買主は、法的には、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しないことができるのであるが、事実上、承継せざるを得ない債務も存在する。

 

 

以下、事業譲渡方式によっても事実上承継せざるを得ない債務のうち頻繁に問題となるものを検討するが、ここに列記する債務の他にも、事実上、承継せざるを得ない債務が存在することに注意されたい。

①     前受金問題

事業承継M&Aにおいて、特に問題となることが多いのが前受金問題である。

すなわち、学習塾事業や各種スクール事業において、その生徒から受講料を前受金として受領していた場合や、エステ事業において、顧客からコース料金などを前受金として受領していた場合である。

買主は、このような事業の譲渡を受ける際、事業譲渡契約書上、これら生徒や顧客に対するサービス提供義務(負債)を承継しないものとすれば、買収後、法的には、これらの生徒や顧客に対して、サービス提供を拒否することも可能ではあるものの、買主がその事業を継続するためには、その事業に対する生徒や顧客など消費者の信用を維持することが必須となる場合、買主は、やむを得ず、このサービス提供義務(負債)を、事実上、承継し、義務を履行せざるを得ない可能性がある。

このような場合、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なくサービス提供義務(債務)を承継せざるを得ないのである。

②     製造物責任問題

また、事業承継M&Aにおいて、製造物責任も問題となる。

すなわち、製造事業者が、その製造した製品に関して、消費者やユーザーから、製品に関してクレームを受けていたり、損害賠償請求をされていたりする場合がある。また、製造事業者が、消費者やユーザーに対して、製品に関して保証していることもる。

買主が、この製造事業を、事業譲渡方式により譲渡を受ける場合、事業譲渡契約書上、これらの消費者やユーザーに対する製造物責任やメンテナンス義務(負債)を承継しないこととすることによって、買収後、法的には、これらの消費者やユーザーに対する製造物責任やメンテナンス義務(負債)を拒否することや、保証の継続を拒否することも可能ではあるものの、買主がその事業を継続するためには、その事業に対する消費者やユーザーの信用を維持することが必須となる場合、買主は、やむを得ず、これらの消費者やユーザーに対して、製造物責任やメンテナンス義務(負債)を履行せざるを得ず、また保証も引き続き提供せざるを得ず、これらの義務を承継せざるを得ない可能性がある。

このような場合、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、製造物責任やメンテナンス義務(負債)を承継せざるを得ない、又は補償を引き続き提供せざるを得ないのである。

③     知的財産権問題・ライセンス問題

また、事業承継M&Aにおいて、知的財産権問題やライセンス問題もある。

すなわち、事業者が、製品やサービスに関して、特許や商標などの知的財産権を保有しているところ、他社から自分の特許や商標などの知的財産権を侵害しているとしてクレームを受けていたり、訴訟になっているようなケースがある。また、事業者が、製品やサービスに関して、他社から特許や商標などの知的財産権又は独占販売権・独占代理権のライセンスの供与を受けているところ、知的財産権などの用途違反などでライセンス契約に違反しているとして、又は製造量・販売量・使用量の虚偽申告に基づくライセンス料の未払が存在するとして、クレームを受けていたり、訴訟になっているようなケースがある。

買主が、この事業を、事業譲渡方式により譲渡を受ける場合、事業譲渡契約書上、これらの知的財産権者に対する知的財産権侵害やライセンス契約違反の損害賠償義務を承継しないこととすることによって、買収後、法的には、これらの知的財産権者に対する知的財産権侵害やライセンス契約違反の損害賠償を拒否することも可能ではあるものの、買主がその事業を継続するためには、その事業に対する知的財産権者との関係を維持することが必須となるような場合、買主は、やむを得ず、この知的財産権者に対して、損害賠償その他の経済的手当てをせざるを得ない可能性がある。

このような場合、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、損害賠償義務を承継せざるを得ないのである。

④     未払賃金問題

また、事業承継M&Aにおいて、事業譲渡方式や会社分割方式を採用したとしても、未払賃金の問題から完全に解放されるわけではない。

買主が、対象事業を、事業譲渡方式や会社分割方式により承継する場合、事業譲渡契約書や会社分割契約書・会社分割契約書上、従業員は承継するものの、従業員の未払賃金などについては承継しないこととすることによって、買収後、法的には、従業員の未払い賃金については、支給を拒否することも可能ではあるものの、買主がその事業を継続するためには、従業員の承継及び従業員の継続稼働が必須となるような場合、買主は、やむを得ず、従業員に対して、未払賃金の支給をせざる得ない場合がある。

買主が、対象事業を、事業譲渡方式や会社分割方式により承継する場合、事業譲渡契約書や会社分割契約書・会社分割契約書上、従業員は承継するものの、事業譲渡契約書や会社分割契約書・会社分割契約書上、売主において従業員をいったん解雇し、買主においてこれらの従業員を新規雇用する必要があるところ、対象従業員から転籍同意書を取得する必要がある。

買主としては、法的には、これらの対象従業員に対して、転籍同意書に押印して頂くために、対価を支払う必要はなく、売主の未払賃金を負担する法的な義務はないはずであるが、買主がその事業を継続するためには、対象従業員が必須となるような場合、買主は、やむを得ず、対象従業員に対して、転籍同意書を取得するために一定の約束を行ったり、売主の未払賃金を負担せざるを得ないことがある。

このような場合、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、損害賠償義務を承継せざるを得ないのである。

⑤     保証金問題

また、事業承継M&Aにおいて、保証金問題もある。

買主が、対象事業を、事業譲渡方式や会社分割方式により承継する場合、取引先などとの取引契約に関連して取引先から預託してもらう保証金(保証金返還債務)や取引先に預託した保証金(保証金返還請求権)について、事業譲渡契約書に、譲渡の対象となるか否か明記する必要があり、多くの場合、取引先に預託した保証金(保証金返還請求権)は、事業譲渡に伴い、買主に承継されるが、取引先から預託してもらう保証金(保証金返還債務)は、事業譲渡に伴い、買主に承継されないこととされる。また、事業譲渡契約書に、譲渡の対象となるか否か記載されない場合、取引先から預託してもらう保証金(保証金返還債務)や取引先に預託した保証金(保証金返還請求権)のいずれも、買主は承継しない。

このような場合、買主は、取引先から預託してもらう保証金(保証金返還債務)を承継しないのであるから、買主において、将来、取引先などとの取引が終了した際、買主は取引先に対して保証金を返還する義務はなく、本来は、売主が、取引先などに対して、保証金を返還する義務がある。しかし、取引先などとしては、保証金を返還してもらえないことについて、全く納得してもらえないことも多い。特に、売主から買主に対して、事業譲渡の際に、取引先などに何らの通知も行わず、なし崩し的に事業譲渡を行った場合、取引先などとしては、事業主が変更になったことについてすら認識していない場合もあり、そのような場合についても、取引先から預託してもらう保証金(保証金返還債務)を買主が承継していないと評価してしまってよいものか疑問がある。

また、買主としては、事業譲渡に伴い、取引先に預託した保証金(保証金返還請求権)を承継しない場合、厳密に考えると、事業譲渡の際に、売主から買主に対して取引の当事者が移転するに伴い、売主から取引先などに対して、保証金を返還し、買主から取引先などに対しては、再度、保証金を預託することが必要である。

事業譲渡においては、買主が、このように、取引先などから、再度、保証金を預託することが求められることは多い。

このような場合、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、取引終了時の保証金返還債務)や取引先に対する再度の保証金の預託義務を承継せざるを得ないケースがある。

⑥     抵当権・担保権問題

事業承継M&Aにおける対象会社においては、土地・建物や工場などの不動産に抵当権が設定されていたり、重要な生産設備に対して譲渡担保権が設定されていたり、工場及び重要な生産設備全体に工場抵当権が設定されていたりする。

そのような場合、抵当権・譲渡担保権・工場抵当権が実行されてしまう場合、買主は、それらの土地・建物や重要な生産設備を使用継続できなくなってしまう可能性がある。

買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、それを避けるために、また、抵当権・譲渡担保権・工場抵当権を解除するために、主債務を負担するなどの負担が発生することがある。

⑦     違法建築問題・市街化調整区域問題

事業承継M&Aにおける対象会社においては、建物が建築基準法に違反した違法建築である場合、行政から改善命令が出されたり、そうでなくても、行政から改善に向けた行政指導が行われ、最悪、行政から使用停止命令や撤去命令が出される可能性もある。

このような場合、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、これらの建物に関して、改修を行うために、費用の負担が生ずることとなる。

また、その建物を売却しようとしたり、賃貸しようとしていた場合においても、事実上、否応なく、それは困難となり、投下資本回収の機会も奪われることとなってしまうであろう。

また、市街化調整区域についても同様であり、市街化調整区域においては、建物の建築が禁止されているため、市街化調整区域に建築されている建物は、基本的に違法建築であり、市街化調整区域の設定がなされる前の建築された建物であっても、現状不適格となっており、建て替えは不可能であり、行政から改善命令が出されたり、そうでなくても、行政から改善に向けた行政指導が行われ、最悪、行政から使用停止命令や撤去命令が出される可能性もある。

このような場合、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、これらの建物に関して、改修を行うために、費用の負担が生ずることとなる。

また、その建物を売却しようとしたり、賃貸しようとしていた場合においても、事実上、否応なく、それは困難となり、投下資本回収の機会も奪われることとなってしまうであろう。

⑧     農地問題

また、事業承継M&Aにおける対象会社においては、工場の敷地などが農地のままであり、農地転用許可が得られていない場合もあり、その場合、行政から農地への原状回復命令が出される可能性もある。

このような場合、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、これらの工場の敷地などに関して、農地転用許可の取得について尽力する必要が生じ、費用の負担が生ずることとなる。

また、買主としては、農地転用許可の取得までは、対象となる工場の敷地などについて、適法な所有権を取得できず、登記もできず、第三者対抗要件も取得できないということとなることから、対象となる工場の敷地などについて、所有権を取得したとして登記を取得した第三者が出現した場合は、最終的に、買主は、工場の敷地などについて所有権を喪失してしまうこととなる。

⑨     仮登記・未登記問題・他人物使用の問題

また、事業承継M&Aにおける対象会社においては、土地・建物や工場などの不動産について、前所有者が判然としないとか、前所有者が相続などにより所有者が分散しているとか、所有権移転登記をせずに登記移転費用を節約するために仮登記で済ましているとか、農地であり所有権移転登記ができないなどの理由で、所有権の移転登記が完了していない不動産が存在することがある。

このような不動産については、適法な所有権を取得できず、登記もできず、第三者対抗要件も取得できないということとり、土地・建物や工場などの不動産について、所有権を取得したとして登記を取得した第三者が出現した場合は、最終的に、買主は、土地・建物や工場などの不動産について所有権を喪失してしまうこととなる。

また、事業承継M&Aにおける対象会社においては、事業用建物が他人の敷地にはみ出して建っていたり、建物が未登記であったりする場合もあり、この場合も、借地権登記や借地権の第三者対抗要件を取得することができず、敷地について、所有権を取得したとして登記を取得した第三者が出現した場合は、最終的に、買主は、敷地について借地権を喪失してしまうこととなる。

⇒M&Aトラブル・表明保証違反・コベナンツ違反・M&Aの損害を解決する方法を見る!

⑩     スタンド・アローン問題

また、事業承継M&Aの対象となる中小企業、零細企業においては、対象会社が使用している土地・建物や工場などの不動産や設備や什器備品等の重要な動産などについて、実際は、対象会社の所有ではなく、オーナー経営者やその親族の個人の所有であることもまま存在する。

そのような場合は、事業承継M&Aに際して、対象会社においては、それを使用継続することができるよう、併せて、買収するか又は賃貸借契約などを締結し、対象会社において、適法に、使用継続できるようにする必要がある。

このような場合、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、土地・建物や工場などの不動産や設備や什器備品等の重要な動産などについて、使用継続するために負担を承継せざるを得ないケースがある。

また、事業承継M&Aの対象となる中小企業、零細企業においては、経理業務・経営企画業務・総務業務・経営管理業務などを、親会社に無償又は廉価にて委託しているとか、オーナー経営者の親族に無償又は廉価にて委託している場合が存在する。また、親会社やオーナー経営者から、低利で、資金を借り入れている対象会社も多く存在する。

このような場合も、上記同様、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、経理業務・経営企画業務・総務業務・経営管理業務などについて、買主にて、必要な人員を確保したり、サービス会社などを手配したり、事業継続するために負担せざるを得ないケースや、買主において、資金についても、別途調達したり、利息が増加する分については、やむなく追加負担せざるを得ないケースがある。

⑪     環境問題

買主が、事業譲渡方式により事業の譲渡を受ける場合、事業譲渡契約書上、環境問題に関する損害賠償義務を承継しないこととしたとしても、買主が、事業譲渡に伴い、対象資産として、その問題の不動産を承継し、その不動産に環境問題などが存在していた場合、買主は、否応なく、土壌汚染等に基づく撤去費用などの簿外債務を承継することとなる。

⑫     リース債務問題

また、買主が、事業譲渡方式により事業の譲渡を受ける場合、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、買主が、事業譲渡に伴い、リース物件を継続的に使用することが必要である場合、買主としては、リース契約を承継せざるを得ず、それとの関連で、今後のリース料金の支払い義務はなおさら、事実上、否応なく、売主の過去のリース料金の未払も承継せざるを得ないケースがある。

⑬     許認可問題

また、買主が、事業譲渡方式や会社分割方式により事業を承継する場合、買主が、事業承継M&Aに伴い、業法上、許認可の必要な事業を承継する場合、買主としては、買主において、同許認可を新規取得する必要が生ずる。

しかし、買主において、許認可の新規取得に関して、許認可の取得手続きの負担が生ずることはもちろん、保証金預託義務などが発生することもあり、また、許認可によっては、会社の資本金や純資産などを一定の額以上に維持することや、一定の設備用件や人的要件の充足を要求するものもある。

また、その許認可の要件が過去に加重されていたり、その許認可の要件が加重されていたとしても、売主は経過規定によって従前の要件のままで事業を維持できていたりすることもある。このような場合、買主が、許認可を新規取得する場合は、加重された要件を満たす必要があり、買主において、追加負担が発生する可能性がある。

また、そもそも、業法によっては、事業譲渡や会社分割でも許認可を承継できるものもあるようだが、そのような業法は非常に少ないものと思われ、基本的に、事業承継M&Aにおいて、買主においては、事業譲渡や会社分割に際して、許認可を再取得する必要に迫られる。

この許認可の再取得であるが、再取得に必要な期間として、30日又は60日が必要になることがあり、買主は事業譲渡や会社分割により事業を承継したとしてもその期間、許認可を得るための時間が必要となるため、当面、事業を行うことができない。

なお、許認可によっては、買主が、事業譲渡や会社分割を受けた後、売主が事業の廃業を届けた後でないと、許認可の再取得の申請すらできず、許認可の再取得の申請を行ってから許認可の取得までに30日又は60日かかる場合も存在する。

この点、近時、業法によっては、許認可の取得に関して、標準処理期間を設定している場合もあり、そのような場合、たいていその標準処理期間内に許認可を取得することができるようである。しかし、その標準処理期間についても、事業譲渡や会社分割を行い、許認可の申請を行ってから、許認可の取得までに30日又は60日くらいに設定されていることが多い。

そのような場合は、買主としては、予め新会社を設立しておき、許認可の要請する人的要件や設備的要件を事前に満たして許認可を取得したうえで、売主から対象事業の譲渡を受けるか、事業譲渡や会社分割を受けた後、許認可の再取得の申請を行ってからその許認可の取得までに30日又は60日の間は事業を停止し、その後に事業を開始するかということとなる。

その他、買主においては、事業開始に伴い、業界団体に加入する義務が発生するなどした場合、追加負担が発生することもある。

また、例えば、建設会社などは建設業法に基づき建設業許可以外に、経営事項審査(経審)というものが存在し、建設業者の完成工事高、資格者の数、財務状況などあらゆる数字を基に、事業者ごとに評点が決定され、それにより公共工事の入札に参加する資格の有無が決定されてくるが、このような公的な資格も、事業譲渡方式や会社分割方式の場合には、原則として、買主に承継することはできないため、買主は、再度、一番下の評点からスタートして、実績を積みなおす必要に迫られる。

⑭     チェンジ・オブ・コントロール問題

取引先や賃貸人などとの取引契約や賃貸借契約などについて、チェンジ・オブ・コントロール問題が存在する。

買主が、この事業を、事業譲渡方式により譲渡を受ける場合、事業譲渡契約書上、これらの取引先や賃貸人などとの取引契約や賃貸借契約などを承継する必要があるところ、その取引先や賃貸人などから承継同意書を取得する必要がある。

買主としては、法的には、これらの取引先や賃貸人などに対して、承継同意書に押印して頂くために、対価を支払う必要はなく、売主の取引先や賃貸人などに対するに未払金を負担する法的な義務はないはずであるが、買主がその事業を継続するためには、その取引先や賃貸人などとの取引契約や賃貸借契約などを承継することが必須となるような場合、買主は、やむを得ず、この取引先や賃貸人などに対して、承継同意書の対価を支払ったり、売主の取引先や賃貸人などに対するに未払金を負担せざるを得ないことがある。また、取引先や賃貸人などとの取引契約や賃貸借契約などについて、契約の更新料を求められたり、保証金の預け入れを求められたり、当事者変更に伴う各種手数料や信用調査費用を求められたり、また、その取引契約や賃貸借契約などにおける契約条件の変更(悪化)を求められたりした場合、買主としては、なかなか断ることができず、買主は、やむを得ず、これを負担せざるを得ないことがある。

このような場合、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、損害賠償義務を承継せざるを得ないのである。

⑮     預け在庫・預け設備問題

また、事業譲渡に伴い、在庫や設備を承継するような場合は、預け在庫・預け設備問題が存在する。

買主が、この事業を、事業譲渡方式により譲渡を受ける場合、事業譲渡契約書上、取引先や倉庫業者・寄託先などに預け在庫・預け設備を有している場合、預け在庫・預け設備といえども、動産であることから、意思表示のみで、所有権は移転し、第三者対抗要件も、指図による占有移転で問題ないはずなのであるが、取引先や倉庫業者・寄託先などとしては、売主が取引先や倉庫業者・寄託先などに対して未払金があるような場合、預け在庫や預け設備の買主に対する出庫・返還や買主の使用を拒むことがあり、また未払金がなくても、取引先や倉庫業者・寄託先などが買主に対して、倉庫料や保管料の条件変更(値上げ)を要請したり、取引条件の変更(悪化)を要請することがある。

買主としては、法的には、これらの取引先や倉庫業者・寄託先などに対して、対価を支払う必要はなく、売主の取引先や倉庫業者・寄託先などに対するに未払金を負担する法的な義務はないはずであるが、買主がその事業を継続するためには、その預け在庫や預け設備などを承継することが必須となるような場合、買主は、やむを得ず、この取引先や倉庫業者・寄託先などに対して、対価を支払ったり、売主の取引先や倉庫業者・寄託先などに対するに未払金を負担せざるを得ないことがある。また、取引先や倉庫業者・寄託先などに対して、契約の更新料を求められたり、保証金の預け入れや積み増しを求められたり、当事者変更に伴う各種手数料や信用調査費用を求められたり、また、その契約条件の変更(悪化)を求められたりした場合、買主としては、なかなか断ることができず、買主は、やむを得ず、これを負担せざるを得ないことがある。

このような場合、買主としては、事業譲渡契約書において、簿外債務・潜在債務・偶発債務その他の一切の債務を承継しない旨明記したとしても、事実上、否応なく、損害賠償義務を承継せざるを得ないのである。

⑯     所有権留保問題

また、設備・備品など、購入先に対して、購入代金を全額支払っていない段階において、購入先の所有権留保がついているような場合や、そうでなくても、その購入先に、メンテナンスを業務委託しており、購入代金残額を支払わないとメンテナンスを継続してくれない場合、売主がその購入代金の残額を支払わない場合、買主が、事業譲渡契約書において、一切の簿外債務を承継しないと明記したとしても、否応なく、その購入代金残額を負担せざるを得なくなる。

⑰     商号続用責任問題

また、買主が、売主の商号や対象事業の名称などを引き続き使用する場合、商号続用責任(会社法22条)や広告責任(会社法23条)の規定に基づき、承継しないはずの債務(簿外債務・潜在債務・偶発債務を含む)を負担してしまうこともある。

(3) 会社分割方式によって簿外債務を遮断する方法

その他、会社分割方式によっても、事業譲渡方式の場合と同様、承継会社は、会社分割計画書(会社分割契約書)において、簿外債務を含む債務の一切を承継しない旨を明記することで、簿外債務を原則として承継しないことができる。これに対し、会社分割計画書(会社分割契約書)において、漫然と、対象事業の会社分割を行う旨規定した場合は、対象事業に関する債務(簿外債務を含む。)を承継することとなる。

すなわち、会社分割方式でも、会社分割計画書(会社分割契約書)の記載方法を間違わなければ、基本的に、簿外債務を承継することはないものと思われる。なお、一般の会社分割計画書(会社分割契約書)は負債を承継する前提で作成されているため、それらを参考に会社分割計画書(会社分割契約書)を作成する際には、事業譲渡契約と同様のレベルで承継対象権利義務を特に限定的に明記するなど、特に注意が必要と思われる。

(4) 会社分割方式によっても遮断できない簿外債務がある

ただし、会社分割方式においても、事業譲渡方式の場合と同様であり、学習塾事業や各種スクール事業において、その生徒から受講料の前受金を受領していた場合や、エステの顧客からコース料金などの前受金を受領していた場合、買主は、これらの生徒や顧客に対して、否応なく、サービス提供義務(債務)を履行せざるを得ないケースがある。

その他、会社分割方式においても、事業譲渡方式の場合と同様、上記の問題を含み、簿外債務の問題は存続するものがある。

①     労働契約承継法問題

また、会社分割には、労働契約承継法が適用されるため、承継対象事業に主として従事する従業員については、会社分割計画書(会社分割契約書)において、承継しないものとした場合であっても、当該従業員が労働者異議を出した場合は、承継会社は、否応なく承継せざるを得なくなり、その場合、これに伴って、退職給付債務、有給休暇引当金などの簿外債務を承継してしまうことなる。

なお、未払残業代は、分割法人において確定した債務であることから、会社分割計画書(会社分割契約書)に明記することにより、簿外債務を遮断することが可能である。

②      従業員の転籍問題

また、会社分割に伴い、従業員を承継する場合には、事業譲渡方式と異なり、従業員をいったん解雇して再雇用するわけではないため、従業員との雇用契約を承継することとなる。

そのため、その旨明記しない場合は、会社分割に伴い、従業員との雇用契約の承継することによって、退職給付債務、有給休暇引当金などの簿外債務を承継してしまうことになる。

また、この場合、従業員との雇用契約に伴って、雇用契約の一部である労働組合との労働協約なども承継することとなるため、想定外の簿外債務を承継する可能性もある。

これを避けるために、会社分割方式においても、事業譲渡方式と同様、従業員をいったん解雇して再雇用することもあるが、前述の労働契約承継法の問題は残ってしまう。

③     商号続用責任類推適用問題等

承継会社が、分割会社の商号や対象事業の名称などを引き続き使用する場合、商号続用責任(会社法22条)の類推適用や広告責任(会社法23条)に基づき、承継しないはずの債務(簿外債務を含む。)を負担してしまうこともある。

(5) 詐害行為取消権・否認権の問題

事業承継M&Aにおいて、買主が対象事業の簿外債務を承継しないように、事業譲渡方式や会社分割方式を採用したとしても、事業譲渡や会社分割には、詐害行為取消権(民法424条・会社法759条4項~7項及び764条4項~7項並びに23条の2)や否認権(破産法160条から165条など)という制度が存在する。

すなわち、債権者を害することを知って、事業譲渡・会社分割を行った場合、債権者は、その事業譲渡・会社分割を取り消すことができ、その結果、債権者は、対象会社や対象事業を承継した買主や承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として、直接、債権を請求することができることとなる。

したがって、事業承継M&Aにおいては、事業承継M&Aそれ自体が、売主の債権者に対する詐害行為に該当してしまい取りけりの対象とならないかについても留意が必要である。

(6) 事業譲渡方式・会社分割方式による簿外債務の遮断の実態

このように、事業譲渡方式や会社分割方式であれば、あらゆる簿外債務を承継しなくて良いかと言えば、必ずしもそうではなく、対象事業の具体的な内容を踏まえて、買主が、否応なく承継してしまう簿外債務が存在するか否かは、慎重に検討する必要がある。

⇒M&Aトラブル・表明保証違反・コベナンツ違反・M&Aの損害でお困りの方はこちら!

お問い合わせ・無料法律相談