第三者割当増資の手続の流れとメリットとデメリット!

  • 2020年6月15日
  • 2024年8月18日
  • M&A

会社を経営していると人員や設備を補充しなければならなかったり、反対に経営が悪化して資金繰りが苦しくなった場合など、資金調達をしなければならないケースがあるでしょう。

会社の資金を調達するための手段としては、大別すると借り入れと増資の二通りの方法があります。

その内の増資には、融資と異なり返済義務がないことや、自己資本比率が増加することなどのメリットがあるのです。

増資の種類を大別すると、株式割当増資、公募増資、第三者割当増資の三通りの方法があります。

今回は、その内の第三者割当増資とは何かや、メリットやデメリット、手続きの流れなどについて詳しく解説していきます。

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増資という資金調達方法

第三者割当増資について説明する前に、他の増資の募集方法である株式割当増資、公募増資との違いについて確認していきます。

株式割当増資、公募増資、第三者割当増資の違いは、誰から増資を受け入れるかによっての違いです。

株主割当増資とは、既存で株式を保有している人に増資する株式を割り当てる増資方法です。

基本的には株式の持ち分に応じて割り当てられますが、引き受けるかどうかは株主の判断で決まります。

株主割当増資では、自社への新株の割り当てはできません。

また、時価よりも安価で株式を譲渡するため、その差額は自社が負担することになります。

そのため、新株を多く発行すればするほど自社の負担分も増えるため、大きな資金調達には不向きです。

公募増資は、一般投資家などの不特定多数にも新株の増資を募集する方法です。

公募増資の特徴は、既存株主以外の新しい株主が増えることと、大規模な資金調達が可能なことになります。

そのため、上場企業の増資方法は一般的には公募増資になります。

そして、株式を公開していない中小企業の場合の増資方法は、必然的に第三者割当増資になるのです。

第三者割当増資とは

増資の方法の内の一つである第三者割当増資とは、特定の第三者に対し新株を引き受ける権利を付与することで発行した新株を割り当て資金を調達する方法です。

ここでいう第三者とは、取引先、仕入先、ベンチャーキャピタル、役職員などの付き合いのある企業や個人などの一般的に友好的な相手であることが多いようです。

このように、内々で友好的な相手と行われることから、縁故募集(縁故者割当増資)とも呼ばれることもあります。

第三者割当増資は主に上場していない非公開会社が利用する資金調達方法のため、不特定多数の企業や個人に株式を募集して購入してもらうわけにはいきません。

また、第三者割当増資により新株を購入した企業や個人が、株式の数によっては増資した会社に対して大きな権利を持つ可能性があります。

そのため、第三者割当増資の第三者は、今後も業務提携などにより安定した関係を続けていきたい相手を選択するのが良いでしょう。

第三者割当増資をすることにより企業の活動を円滑に進められる一方で、既存の株主への影響も考えておかなければなりません。

増資により多くの株式を発行することにより、1株当たりの価値を下げてしまう可能性があります。

また、新株を適正価格よりも低い価格で発行する場合は、株主総会の特別決議での承認が必要です。

第三者割当増資は、このようなケースも考慮しながら行う必要があります。

第三者割当増資の目的とは?

企業が第三者割当増資を行うのは、以下のような目的があります。

資金調達のため

第三者割当増資により新株を発行して一定の相手に新株を割り当てることにより、スムーズに資金調達ができます。

主に非上場の中小企業が、会社の経営不振や会社再建のための資金調達方法としてよく使われる方法でもあります。

また、借り入れによる資金調達と異なり返済しないで事業に必要な資金を増やすことができることが、大きなメリットです。

第三者である会社や人との関係強化のため

第三者割当増資による新株を一定の企業に割り当てることにより、取引先などの関連する会社や人との連携強化を図ることができます。

なぜなら、取引先などの相手に新株を割り当てることは、一定の議決権を与えることになるからです。

とくに、保有する株式が多ければ多いほど議決権が増えるため、第三者割当増資を行う会社に対する権限が強くなります。

第三者割当増資を行うことで一定の会社や人に経営に参画してもらい、取引先などの相手との関係性を強固のものにする目的にも利用できます。

M&Aの実施のため

議決権株式を過半数を超えて保有している会社や個人は、役員の選任や解任などを普通決議により独断で行うことができます。

また、剰余金の処分や配当等の事項の決定も可能になります。

さらに、3分の2以上保有すれば、定款の変更や会社のM&Aや解散なども独断で行えるようになります。

即ち、第三者割当増資を行い特定の会社や人に株式を多く持たせることことにより、実質的に経営権を譲渡しM&Aを実施することもできるのです。

但し、譲渡側の経営者が引き続き経営に参加したい場合は、第三者割当増資によりどのくらい保有させるのかを留意する必要があります。

M&Aを促進する上で、近年ではベンチャーキャピタルによる第三者割当増資の引受けなどもニュースなどで話題になっています。

第三者割当増資によるM&Aは、一般的には会社の譲渡や売却をすることが目的ではありません。

むしろ、第三者割当増資によるM&Aは、事業提携や資本業務提携などを目的とすることが多いです。

そして、新株で得た資金により資金調達をして、経営の立て直しを図ることができるのです。

例えば、資本金1,000万円、株価10万円、発行済株式数100株の会社が、第三者割当増資を行い新しい株主に新株を引き受けてもらったとします。

また、第三者割当増資による新しい株主の持ち株は、増資資金2,000万円、株価10万円、株式数200株だったとします。

この場合、増資後の会社の株式の構成は、資本金3,000万円、発行済株式数300株になり、株主の構成は既存の株主が33.3%、新しい株主が66.7%になります。

このケースは一番単純ですが、M&Aを目的とした第三者割当増資はこのように行われるのです。 

第三者割当増資を行うことのメリット

第三者割当増資を行うメリットは以下になります。

返済の義務が生じないこと

第三者割当増資は銀行や公的機関などからの融資ではなく、あくまでも第三者に株式を購入してもらうことにより資金調達を行うため、返済の必要がありません。

但し、株主には配当金を支払う必要がありますが、これも業績を上げてから株主へ還元すればよいため、借り入れのように毎月の返済に追われる必要もないのです。

また、返済の義務のない資金を得ることにより、会社の財務状況を安定させることもできます。

比較的容易に資金調達ができること

第三者割当増資を行う会社は未上場会社が多いのですが、株式を公開していないため公募増資での資金調達は基本的に不可能です。

しかし、第三者割当増資であれば、新株の引受先を決めることにより未上場会社であっても比較的容易に資金調達ができるます。

また、公募増資などの他の調達手段と比べて第三者割当増資に必要な手続きは少ないため、短期間で資金調達ができるのも特徴の一つです。

具体的には、他の増資のための調達手段であれば、募集株式の申し込みから株式発行までの手続きに最低2週間かかります。

しかし、第三者割当増資の場合は、総数引受契約を用いることにより1日ほどの期間で資金調達ができるのです。

ここでいう総数引受契約とは、株主を誰にどれだけいくらで割り当てるのかを取締役会や株主総会の特別決議で決定し、出資者をあらかじめ決めておく契約のことをいいます。

信用力が向上すること

会社の信用力の基準となる指標の一つとして、資本金が挙げられます。

資本金が多い企業は財務基盤が安定していると見られ、取引先や金融機関にとっても倒産のリスクが低い企業と考えられます。

そのため、第三者割当増資を行うことにより資本金が増加すれば企業価値が上がり、取引や資金調達がしやすくなるのです。

また、資本金の増加により信用力が向上するため、金融機関から多額の融資も受けやすくなります。

このように、資金調達が可能になれば今まで以上に事業資金を投入できるため、事業規模の拡大も図れます。

さらに、第三者割当増資を行うことで、引受先がリスクを背負ってまで出資する価値の会社だと認識されるため、信用力は格段と上がる可能性もあるのです。

特に、引受先が世間に信用が高い企業や人の場合、発行会社もそれに伴い信用されやすくなります。

引受先が常に利益を経常している企業の場合は、発行会社も利益を経常する見込みと判断されやすくなるのです。

引受先との関係性が向上すること

第三者割当増資の引受先は、取引先や社内の役員などの会社と関係性の高い企業や個人であることが多いです。

そのため、お互いに協力して業績の向上を目指すことになり、これまで以上に良好で安定した信頼関係を構築することができます。

また、引受人がより多くの配当金を受け取ったり、会社売却時の持ち株数に応じた譲渡所得を受けとるためには、増資を行った会社の事業拡大が必要です。

したがって、新株の引受先は、発行会社に対して最大の協力をする可能性が高くなります。

事業の拡大がしやすくなること

第三者割当増資を行うことで、財務状況の改善や運転資金を確保することや業務提携などが果たせるようになり、企業価値が向上します。

企業価値が向上することにより、さらに資金調達能力を上げることができます。

そのため、新しい事業を始めたり、これまでの事業の多角化や拡大することができるようになるのです。

M&Aをスムーズに行えること

M&Aによる会社や事業のすべてや一部を譲渡には、お互いの意見の相違や軋轢から大きなトラブルに発展する可能性も多くあります。

しかし、第三者割当増資によるM&Aは、もともと友好的な取引先などに新株を引き受けてもらう方法により行われます。

そのため、比較的にトラブルになることも少なく、緩やかにM&Aが実施できることが多いのが特徴です。

また、M&Aを目的とした第三者割当増資は、引受先の企業が新株を購入することにより増資されて会社の経営権が交代する仕組みになっています。

あくまでも新株の購入であって既存株式の譲渡による経営権の交代ではないため、税金は発生しないことになります。

株式を引き受けてもらう相手を選べること

同じ増資であっても株式の引受先を選べない公募増資の場合は、発行先の会社の経営に対して批判的な株主に新株を引き受けてもらう可能性もあります。

また、将来的に敵対する関係になる株主に対して、新株の付与をするケースもあるかもしれません。

一方、第三者割当増資では、発行先の会社が友好的な取引先などを選んで株式を引き受けてもらうため、トラブルに発展するケースは自然と少なくなります。

資金面の基盤が強化されること

第三者割当増資により獲得した資金は、返済不要の資金であり増資のため資金面の基盤を強化することができます。

資金面の基盤の安定は、新規事業の展開や役員や従業員の報酬を増加させることにもつながります。

役員や従業員の報酬を増やすことで、一人一人のモチベーションアップが図れます。

敵対的な買収の防衛策になること

経営陣の意向を無視した敵対的な買収が行われると、場合によっては経営陣は会社から締め出される可能性があります。

これを防ぐため、敵対的な買収が行われる前のタイミングで、第三者割当増資により友好的な株主に新株を引き受けてもらいます。

この方法により、敵対的な買収を行おうとしていた株主の持ち株比率を、強制的に下げることができるのです。

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第三者割当増資を行うことのデメリット

第三者割当増資を行うデメリットは以下になります。

既存株主の持ち株比率が低下すること

第三者割当増資を行うことにより新株を発行することで、総株数が増えてしまいます。

この増資が原因で、以前から発行会社の支配権を持っていた既存株主の持株比率が低下してしまう可能性があるのです。

このように、新株を発行することで発行済株式数が増加し、1株あたりの株価が低下することを株式の希薄化といいます。

株式の希薄化は既存株主の利益が減少する恐れがあるため、希薄化を嫌がる既存株主が株式を手放すことで株価に悪影響を及ぼす可能性もあります。

また、以前から支配権を持ってあた既存株主の持ち株比率が低下することにより、発行会社に対する権限が弱くなります。

そのため、株主総会決議での承認が、得にくくなることも考えられるのです。

そして、既存株主の意向による会社経営が実施できなく可能性もあるため、既存株主からの反発を受ける恐れもあります。

さらに、既存株主が経営陣の場合は、経営陣の持ち株比率が低下するため、会社の主要な意思決定が滞ることも起こり得ます。

第三者割当増資を行う時は、既存株主の持ち株比率がどのように変化するかを注意しておくことが大切なことなのです。

納税額が増えること

第三者割当増資を実施して資本金が増えた場合、納税額が増える可能性があります。

消費税の場合は設立後2年以内かつ資本金1,000万円未満に当てはまる企業は免税事業者となり、納税する必要がありません。

しかし、第三者割当増資により資本金が1,000万円を超えた場合は、翌年度からは消費税を支払う必要があります。

また、資本金が1億円を超えると、法人住民税の均等割で支払う税額が増えます。

このように、資本金が1,000万円と1億円で納税額が増加するため、これを超えないように第三者割当増資を行うこともポイントです。

さらに、資本金が増加した場合に登記の変更にかかる税金である登録免許税は、増加する資本金の7/1000になります。(3万円を下回った場合でも最低3万円)

手間とコストがかかること

第三者割当増資を実施するためには、募集事項の決定、内容の公示、割り当ての決定、株式の発行、登記の変更などを行う必要があります。

それぞれを行うことに多大な手間がかかるのはもちろんのこと、時間的なコストや金額的にもコストがかかるのです。

このような手続きに対し弁護士などを依頼した場合は、さらにコストがかかります。

その中でも第三者割当増資によって資本金が増加すると、会社法第915条の規定に基づいて必ず変更登記をする必要があります。

変更登記を行うには必要な書類を作成して法務局に申請するため、一定の手間がかかります。

また、変更登記には増資金額の1,000分の7(最低でも3万円)の登録免許税のがかかり、司法書士などに依頼した場合はその報酬も必要です。

さらに、第三者割当増資後にも、内部管理コストなどが発生します。

これは第三者割当増資により株主が増えることにより、株主総会の招集通知の送付先なども増えることに伴うコストです。

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第三者割当増資を行うための手順

第三者割当増資を行うためには、どのような手順で行えばよいのかについて解説していきます。

募集事項の決定

まず初めに行うことは、第三者割当増資の募集事項を決定することです。

募集事項は、公開会社では原則として取締役会でその内容が決定され、非公開会社では株主総会の特別決議でその内容が決定します。

基本的には、以下の事項が決定されます。

  • 募集株式の数
  • 募集株式の払込金額および金額の算定方法
  • 払込(給付)の期日または払込(給付)の期間
  • 金銭以外の財産を出資を受ける場合のみ、現物出資で出資される財産の内容およびその金額
  • 株式を発行する場合は増加する資本金および資本準備金に関する事項
  • 募集事項の通知

募集事項が決定した後は会社法第203条1項の規定に基づいて、以下の内容を含めて引き受け先に対して通知を行います。

  • 株式会社の商号(会社名)
  • 募集事項
  • 金銭の払込が必要な場合、払込の取扱い場所
  • 上記3つの項目以外に法務省令で定める事項

また、公開会社は会社法201条の規定に基づいて、株主に対し払込期日の二週間前までに募集事項を通知または公告をしなければならないとされています。

さらに、上場会社などで期日までに金融商品取引法に定められている有価証券届出書を提出した場合は、通知または公告は必要ありません。

新株募集の申し込み

第三者割当増資の募集株式の引受けを申し込む場合は、氏名または名称や住所や引受株式数を申込書に記載して申込期日までに提する必要があります。

割当増資の決議

新株募集の申し込みが完了したら、第三者割当増資を実施を行う発行会社は割当増資の決議を行います。

割当増資の決議では、募集株式を割り当てる相手と新たに発行し割り当てる株式数を取締役会または株式総会の特別決議で決定します。

出資金の払い込み

割当増資の決議に第三者割当増資の割当を受けた出資者は、定められた期日までに指定された方法にて全額の払い込みを行います。

株式の発行

出資金の払い込みが行われたら、第三者割当増資を行う発行会社は引き受け先に対し株式の発行、交付を行います。

登記変更手続き

株式の発行後、資本金額や発行株式数の登記変更の手続きが終了したら第三者割当増資の手続きは完了となります。

なお、登記変更の期限は、払込期日又は払込期間の末日から2週間以内です。

まとめ

このように、主に中小企業の資金調達方法の一つとして、第三者割当増資という方法があります。

第三者割当増資は、基本的に友好的な相手に新株を割り当てることによりスムーズに資金調達が行えるなどのメリットが多数あります。

一方、既存株主の持ち株比率が低下するなどのデメリットもありますので、既存株主の反発が起こらないように進めることが大切です。

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