事業承継M&Aの基本的な手順・流れ・進め方を解説

  • 2018年10月7日
  • 2024年10月27日
  • M&A

事業承継M&Aでは、売主側(譲渡側)、買主側(買収側)、事業承継M&Aの仲介をする専門家が、互いに協力し合いながら進めていきます。では、事業承継M&Aの手順や流れは、どのようになっているのでしょうか?今回は、初めて事業承継M&Aを検討されている経営者様へ向けて、事業承継M&Aの手順・流れを解説していきます。

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事業承継M&Aとは

事業承継M&Aとは、対象会社の経営権などを後継者に引き継ぐためにM&Aを行うことを言います。例えば、近年は、中小企業などにおいては、後継者不足問題などもあり、家族や従業員などに、対象会社の事業承継をスムーズに進めることができない会社も多く存在しています。

このような場合に、他の企業に事業承継対象会社の経営権を移転、譲渡することによって、これまで対象会社が行ってきた事業を他の企業に承継させることを事業承継M&Aと言います。

事業承継M&Aをすることにより、これまで経営を行ってきた大事な対象会社の事業を信頼できる企業へ譲渡することができます。また、これにより、これまで長年培ってきた会社のノウハウを途絶えさせることなく、事業を存続・拡大させることが可能になります。

このような意味で、事業承継M&Aは、事業を継続させるうえで、とても有効な手段だと言えます。

事業承継M&Aの種類

事業承継M&Aにはいくつかの種類があります。具体的には、「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」「合併」という方法があります。まず、これらの事業承継M&Aの種類について、見ていきたいと思います。

株式譲渡

株式譲渡とは、対象会社の株式を、買主が買い取って、経営権を獲得するという買収スキームです。株式譲渡は一般的なM&Aでは多く採用されるスキームで、譲渡の手段には大株主から直接買い付ける「相対取引」や、上場企業の株式を証券取引所などで買う「市場買付け」に加え、不特定多数の株主から買い付ける「公開買付け(TOB)」などがあります。

通常の事業譲渡M&Aでは、双方の合意に基づいて事業承継が行わることから、株式譲渡による場合には、「相対取引」となることが一般的です。

株式譲渡のスキームでは、対象会社が中小企業であった場合、「株主の所在がわからない」「そもそも株主名簿が存在しない」などの問題が発生するケースがよく起こります。よって、売主としては、事業承継M&Aを決断した段階で、必要資料を揃えて事業譲渡M&Aに向けて準備をする必要があります。

事業譲渡

事業譲渡は、対象会社が保有し、有機的に機能する財産(事業)の一部、あるいは全てを買主に譲渡するという買収スキームです。単なる事業用財産や権利・義務の集合体を譲っただけでは事業譲渡にはあたりません。事業承継M&Aの手段として事業譲渡が行われる場合は、対象会社の社長が所有している権利の全てを買主に譲渡することになることが通例です。

事業譲渡の対価は、現金で支払われるのが通例で、対象会社の経営者は直接対価を手にしたまま引退が可能になります。しかし、一方で、事業譲渡のスキームは、個人財産の所有権や契約上の地位の移転手続きが面倒なため、手続き内容が複雑で時間やコストがかかる点が、選択する際のデメリットとなります。

また、事業承継をした買主には、登録免許税や不動産取得税などの税負担が重くのしかかり、さらに、課税対象資産に対して消費税も発生するという税負担の問題もあります。

会社分割

会社分割のスキームには「新設分割」「吸収分割」の2種類があります。新設分割は1〜2以上の会社が、対象会社の事業に関する権利義務の一部あるいは全てを、分割により新たに設立する会社に承継させる手法です。

一方で、吸収分割は事業に関する権利義務の一部あるいはすべてを、すでに存在する会社に切り渡すという方法によって組織再編をする手法を言います。

会社分割のスキームは、事業を包括的に承継するため、事業譲渡に比べ契約関係の移転に必要な手続きが簡便である点がメリットで、転籍させる従業員から個別に転籍に関する了承を得る必要もありません。

ただし、人事制度やシステムの統合などをスムーズに行わなければ、現場に混乱が生じ、その後の事業に支障をきたす恐れがある点は、デメリットと考えられます。

合併

合併とは、複数の会社をひとつにする組織再編行為によって、買収を行うスキームです。合併には2種類あり、合併当時会社の全てが解散して新会社を設立する「新設合併」と、1社のみ存続して、他の会社を吸収する「吸収合併」が存在します。

「対等合併」の名のもとに、合併のスキームを実施すれば不公平感がなくなり、それぞれの元の会社の対等なイメージを保つことが可能です。

しかし、経営統合の作業を早急に進める必要があるという関係上、合併する両社の従業員にかかる負担は大きくなり、最悪、本来業務が停滞する可能性がある点がデメリットとなります。

事業承継M&Aの流れ(全体把握)

事業承継M&Aのプロセスには、一般的に6~12ヶ月の期間を要します。もちろん、すぐに買主が見つかったような場合は、それよりも短い時間で事業承継M&Aが終了しますし、買主がなかなか見つからないような場合には事業承継M&Aが完了するまでに2~3年もの時間を要する場合もあります。

また、専門性の高い事業承継M&A仲介業者などに、事業承継M&Aのマネジメントを依頼すれば、事業承継M&Aを、入札方式(オークション方式)で進めることもできます。入札方式(オークション方式)によれば、並行して複数社の買主候補会社を募り、短期間に、確実に、売主にとっては、より有利な条件で、事業承継M&Aを成功させることができるというメリットもあります。

今回、これ以降に説明する事業承継M&Aのプロセスは、一般的な場合の事業承継M&Aの流れになります。

しかし、実際の事業承継M&Aのプロセスは個別具体的であり、事案によっては、一部の手続きを省略したり、一部の手続きを簡潔化できることもある一方で、反対に、一部の手続きを何度も繰り返したり、一部の手続きに特に多くの時間を要したりすることもあるため、必ずしもこのプロセス通りに進むものではありません。よって、随時、交渉の状況により、判断しながら、着実にプロセスを進めていくというものになります。

一般的な事業承継M&Aのプロセスは、「交渉準備フェーズ」→「マッチングフェーズ」→「監査・確認フェーズ」→「最終契約フェーズ」のとおりに進みます。

これ以降は、それぞれのフェーズについて詳細な内容を見ていきたいと思います。

交渉準備フェーズ

事業承継M&Aを行うためには、売主は、事業交渉M&Aを円滑に進めるための、事業交渉M&A専門家の選定、交渉相手となる買主候補会社を探したり、交渉を進めたりするための必要書類の作成などの準備作業が必要となります。まずは、これらの売主が交渉準備のために必要な事項について見ていくことにしたいと思います。

事業承継M&Aの専門家への相談・秘密保持契約書(NDA)の締結・仲介業務の依頼

まず、売主は、対象会社の事業承継M&Aを検討する場合、事業承継 M&Aの専門家に相談し、事業承継M&Aの実現可能性や事業承継M&Aを行った場合に想定される対象会社の企業価値(Valuation)がどの程度になるかを確認し、評価してもらう必要があります。

また、この過程で、対象会社の事業承継M&Aをどのように進めることが良いのか、対象会社の具体的問題点を踏まえて、どのような対策を講じることが必要かなど、事業承継M&A専門家に相談する必要があります。

売主は、それらの事業承継M&A専門家の意見を踏まえて、事業承継M&Aを本格的に検討し、事業承継M&Aの実施を決断することになります。

売主は、ここまでの段階で、仲介を依頼する事業承継M&Aの専門家との間で秘密保持契約書(NDA)を締結する必要があります。その理由は、対象会社の企業価値の評価や対策を検討するにあたって、事業承継M&Aの専門家に対して、売主及び対象会社の重要な情報を提供する必要がある一方、事業承継M&A専門家と言っても、必ずしも、特段公的資格を持っている者であるとは限らず、法定の守秘義務などを負っていないことも多いからです。

また、売主は、これと並行して、その事業承継M&Aの専門家との「相性」なども判断する必要があります。事業承継M&Aは、通常6~12ヶ月の期間がかかることが一般的であり、そのプロセス自体、長丁場になります。よって、売主としては、その事業承継M&Aの専門家との考え方などの「相性」が合うかどうかということも、事業承継M&Aを成功させるうえでは重要な要素です。売主としては、経済条件などと合わせて、事業承継M&A専門家との相性も考慮したうえで、事業承継M&A専門家を指名し、事業承継M&A仲介契約を締結することとなります。

事業承継M&Aの案件概要書(ノンネームシート又はティーザー)と会社概要書(IM)の作成

売主と事業承継M&A仲介契約を締結した事業承継M&A専門家は、対象会社の会社情報の開示を受け、会社情報を分析し、売主及び対象会社に対して対象会社の事業に関するインタビューを行います。そして、事業承継M&A専門家は、匿名の案件概要書(ノンネームシート又はティーザーと呼ばれる)、及び会社情報を詳細に説明した会社概要書(インフォメーション・メモランダム(IM)と呼ばれる)を作成します。この案件概要書と会社概要書は、事業承継M&A専門家が作成したあと、売主及び対象会社によるレビューを経て、完成します。

案件概要書は、事業承継M&Aの対象会社の簡単な事業概要・事業規模・簡単な業績などを匿名でまとめたもので、1ページ程度のものが多いです。そのため、その案件概要書を見ただけでは、事業承継M&Aの買主候補会社などからは、どの会社が事業承継M&Aを検討中なのかは全く分かりません。しかし、案件概要書は、事業承継M&Aの買主候補の会社が見れば、自分の会社がその対象会社の買主となり得る可能性があるか否か判断できる程度の記載がなされています。

次に、会社概要書(インフォメーション・メモランダム(IM)と呼ばれる)は、事業承継M&Aの対象会社を特定したうえで、対象会社の事業概要・事業規模・業績などがかなり詳細に記載された、数ページから数十ページの説明書のことです。

事業承継M&Aの買主候補の会社は、その会社概要書を閲覧することにより、対象会社の買収を本格的に検討するか否かの判断をすることができ、かつ、対象会社の買収価格も具体的に検討が可能となります。

ロングリスト(買主候補会社リスト)の作成

事業承継M&Aの専門家は、案件概要書及び会社概要書を作成しつつ、売主及び対象会社と協議をして、ロングリスト(買主候補会社のリスト)を作成します。そして、このロングリストを基にして具体的に、買主候補の会社として、コンタクトする会社をリストアップします。

売主及び対象会社は、この過程で、対象会社を売却したくない買主候補会社を排除し、対象会社の買収に関心がありそうな会社、対象会社の買収の可能性の高そうな会社に、買主候補の会社を絞っていきます。

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マッチングフェーズ

事業承継M&A専門家は、売主側の事業承継M&Aのための準備が整うと、買主候補会社と接触を試みて、事業承継M&Aのマッチングを開始します。適正に事業承継M&Aが進むためには、マッチングフェーズにもいくつかの段階がありますので、それぞれの段階について詳しく見ていきたいと思います。

事業承継M&Aの買主候補会社訪問と案件概要書(ノンネームシート又はティーザー)の開示

事業承継M&Aの専門家は、ロングリスト(買主候補会社のリスト)に従い、買主候補の会社を訪問したり、コンタクトしたりして、案件概要書を開示し、その買主候補会社の事業承継M&Aに対する関心の程度を確認します。

買主候補会社によっては、この段階で、「当該事業承継M&Aによる買収には関心が無い」との回答をすることも多くあります。

買主候補会社としても、事業承継M&Aへの関心はそれぞれの会社の経営状況など、個別具体的なものであることが多く、どのような事業承継M&Aにでも関心を示すわけではないため、案件概要書を検討した買主候補会社の数社から十社に一社程度が対象会社の買収に関心を示せば良い方であると言われています。

事業承継M&Aの秘密保持契約書(NDA)の締結と開示された会社概要書(IM)の検討

事業承継M&Aの専門家は、提示した案件概要書(ノンネームシート又はティーザー)を事業承継M&A買主候補会社に検討してもらったうえで、対象企業の買収に関心を示した買主候補の会社に対しては、秘密保持契約書(NDA)を締結してから、さらに会社概要書(IM)を開示し、買主候補の会社に、より詳細な事業承継M&Aによる買収の可能性について検討をしてもらうことになります。

このように、事業承継M&Aに興味を示した買主候補の会社と、さらなる交渉に進むためには、案件概要書や一般公開情報の内容を超えた、より具体的で詳細な情報を提示して理解をしてもらうことが必要です。そこで、秘密保持契約(NDA)を締結して、より詳細な内部情報を交換することになります。

秘密保持契約は売主と買主候補会社の間で直接交わされる場合と、事業承継M&A専門業者を介して間接的に交わされる場合があります。

事業承継M&Aではプロセス全体を通して(とりわけ後述のデューデリジェンス(DD)の過程で)、大量の対象会社の秘密情報が売主及び対象会社から買主候補会社へ開示されることになります。このため、秘密保持契約を締結するにあたっては、秘密情報の定義をこの段階で開示される情報に限定せず、広い範囲で定義しておくのが通例です。

トップ面談

事業承継M&Aの交渉開始から事業承継M&Aの基本的な方針・条件についての合意(基本合意)が締結されるまでの間に、経営者トップ同士のトップ面談が行われるのが通例です。

事業承継M&Aにおいては、トップ面談はできる限り早い時期に行うのがよいとされています。その理由は、事業承継M&Aの交渉を進める上では、トップダウンの意思決定が求められる場面が多く、トップ面談で売主、買主候補会社の経営トップ同士の互いの意思を確認しておくことで、交渉の流れがスムーズになると考えられるからです。

また、事業承継M&Aでは当事者間の信頼感(または不信感)のような感情的な要因によって事業承継M&A交渉がはかどることもあれば、逆にこじれてしまうこともあります。しかし、早い段階でトップ同士の信頼関係が築けていれば、長丁場を乗り切って事業承継M&Aの成就にいたる可能性が高まります(あるいは逆に、深入りする前に、その事業承継M&Aに見切りをつけることもしやすくなります)。

基本内容の精査

①事業承継M&Aの会社概要書(IM)の検討と買主候補会社の意向の確認

買主候補の会社は、事業承継M&A専門家を通じて提示される会社概要書(IM)の内容を検討することによって、具体的な対象会社の事業概要などを明確に知ることができるようになります。そして、それによって、対象会社の買収の関心の有無を具体的に判断することとなります。

事業承継M&A専門家は、対象会社の事業承継M&Aに興味を示した買主候補の会社による会社概要書の検討結果を踏まえ、それぞれの買主候補会社の対象会社買収の意向を確認し、次のステップに進む買主候補の会社を選定することになります。

なお、実際の交渉においては、事業承継M&Aの専門家は、買主候補の会社に対して、会社概要書(IM)を開示する時点で、買主候補会社の事業承継M&Aの担当者などと面談し、買主候補会社の対象会社の買収の具体的関心度を確認しつつ、売主の具体的な希望売却金額なども抽象的ながらそれとなく伝え、その後の事業承継M&Aの次のステップに進むかどうかを判断してもらうというような交渉方法を取るということもあります。

この事業承継M&A専門家が買主候補の会社を発掘し、それぞれの買主候補会社の担当者と面談し、買主候補会社の意向を表明してもらうというプロセスが、事業承継M&Aにおいて最も時間がかかるプロセスになります。このプロセスには、通常、2ヶ月か3ヶ月又は半年程度から1年程度にわたる時間がかかる場合もあります。

②事業承継M&Aのインフォメーション・パッケージ(IP)の検討と意向表明書(LOI)の提出

事業承継M&Aの専門家は、会社概要書(IM)を検討したうえで対象会社の買収に関心を示した買主候補会社に対して、交渉をさらに進めるために、対象会社の重要資料をまとめたインフォメーション・パッケージ(IP)を開示します。

そして、事業承継M&A専門家は、買主候補会社に対して、意向表明書(LOI)のフォーマットを提示し、買主候補会社に対して意向表明書の提出を促して、交渉の次の段階に進む交渉を行うことになります。

③事業承継M&Aの買主候補会社の意向表明書(LOI)の提出

対象会社の事業承継M&Aによる買収に具体的な関心を示して意向表明書(LOI)を提出した買主候補会社が、3~4社程度あった場合には、事業承継M&Aの専門家は、入札方式(オークション方式)を採用して、その3~4社を競わせることによって、売主にとってより良い条件の提示を求めることができます。

また、事業承継M&Aによる買主候補会社がそれ以上の多数になった場合は、これらの多数の会社すべてを次のステップに進ませることは、売主及び対象会社にとって手間がかかり、対象会社の本来業務に支障を生じさせる可能性があり、さらに、入札管理上、非効率的でもあることから、事業承継M&Aの専門家は、さらにそれぞれの買主候補会社に面談をし、意向表明書(LOI)に記載されている買収希望価格や買収希望条件などをベースに、買主候補会社に追加質問を行うなどして、買主候補会社の条件をより詳細に確認します。一方で、売主とも相談をして、次のステップに進むべき買主候補の会社を絞り込んでいく作業を行います。

その結果、事業承継M&Aの専門家は、買主候補会社を3~4社程度に絞り、入札方式(オークション)を行うのが効率的だと考えられます。

基本合意書の作成

①基本合意書の締結

ここまでの交渉で買主候補として残った買主候補会社に対しては、その後、対象会社に対するデューデリジェンス(DD)の機会が与えられます。

しかし一方で、このデューデリジェンス(DD)は、売主や対象会社にとっては、経済的にも、業務的にも、非常に負担の重いものであり、さらに対象会社の極めて詳細な情報を開示する以上、それなりに事業承継M&Aの実現可能性が高い買主候補会社に対して行うのが一般的です。

そこで、事業承継M&Aの専門家は、買主候補会社から意向表明書(LOI)が提出されたのち、売主が最も好ましいと考える買主候補会社を選定し、その買主候補会社との間で、基本合意書(LOI)を締結して、短期間の独占交渉権を与え、デューデリジェンス(DD)を実施するという手法をとることもあります。そして、買主候補会社1社ごとに交渉(独占交渉)し、その買主候補会社が対象会社の事業承継M&Aによる買収を断念した場合には、次に条件が好ましいと思われる買主候補会社と基本合意書(LOI)を締結し、独占交渉をしながら、デューデリジェンス(DD)(DD)の機会を与えるという手法で、売主にとって最も条件の良い買主候補会社を決めるという方法を取る方が効果的な場合もあります。

➁事業承継M&Aの基本合意書(LOI)の内容

売主は、デューデリジェンス(DD)において、買主候補会社が、対象会社の問題点を発見し、その結果、買収希望価格を引き下げられてしまうことを懸念します。このことから、デューデリジェンス(DD)の実施前に締結する基本合意書(LOI)の内容は、買主候補会社に、買収希望価格やその他の買収条件について明示してもらい、法的拘束力を有するものとすることが売主にとっては、好ましいことになります。

しかし、買主候補会社としては、その時点では、まだ対象会社のデューデリジェンス(DD)を実施しておらず、今後、対象会社の問題点がどの程度発見されるかも分からない段階において、法的拘束力のある基本合意書(LOI)を締結したくないというのが通常です。

事業承継M&Aの専門家は、このような状況も踏まえると、売主に有利な法的拘束力のある基本合意書(LOI)に応じた買主候補会社については、その後の交渉も最も優先して取り扱うことにするのが一般的なので、その買主候補会社による対象会社の買収可能性は高くなるものと思われます。

また、いずれの買主候補会社とも基本合意書(LOI)を締結することなく、入札方式(オークション方式)を採用することによって買収候補会社を競わせて、買主候補会社3-4社すべてに、並行して、デューデリジェンス(DD)の機会を与えるという手法を取ることもあります。

監査・確認フェーズ

ここまでは、売主が提供した資料や情報が正しいということを前提に話を進めてきましたが、買主候補の立場としては、事業承継M&Aを成立して、対象会社を買収するにあたっては、売主や対象会社の情報が本当に正しいのかどうか、虚偽の報告や間違いがないか、保有資産が実在するかなどを確認する必要があります。仮に、情報と事実が異なる場合には、買収監査や確認によって新たな事実が判明し、譲渡価格などの条件が変更になったり、最悪の場合、破談になってしまったりすることもあります。

具体的には、買主候補会社が各分野についてデューデリジェンス(DD)を行うことになります。

買主候補会社側が依頼したそれぞれの分野の専門家によって行われます。

デューデリジェンス(DD)の実施

最終条件交渉の方向性や最終契約締結後及び事業承継M&A実行後の対応を検討するために、法務・財務・税務・その他の各分野で売り手企業が抱えているリスクや問題点を抽出するのが、デューデリジェンス(DD)と呼ばれるプロセスです。

各分野のDDは、一般的には、その分野の専門家が担当します。売主の事業内容や事業承継M&Aのスケジュール、コストなどを勘案し、どの分野のDDをどの程度の深さで実施するかを決定し、事業承継M&A専門家の采配のもとでプロセスを進めていきます。

以降に、各DDで問題となりやすいポイントを簡単に整理して行こうと思います。

法務DD

株式・契約・労務・許認可・紛争などにかかわる、幅広い法律問題が対象となります。法律の専門家である弁護士(法律事務所)に委託して行われるのが通例です。

株式

株式発行の有効性、譲渡制限の有無、株券発行会社の株券発行状況、現在の正式な所有者、これまでの譲渡履歴などを確認します。

契約

対象会社が締結している各種契約について、事業承継M&Aに影響のある条項の有無をチェックします。とくに、チェンジ・オブ・コントロール条項(経営権・支配権の移動により契約が解約される旨の条項)、競合禁止条項、独占権付与条項、財務制限条項、期限利益喪失条項などが問題となることが多いです。

知的財産権など

対象会社が保有する知的財産権やライセンス契約の内容、知的財産権侵害や職務発明を巡る訴訟リスク・偶発債務(将来的に発生する可能性のある債務)の有無などが調査されます。

労務問題など

労使関係、労働法関連のコンプライアンス、偶発債務(例:未払い残業代、労使関係紛争)の有無などが調査されます。

許認可

対象会社の事業遂行に欠かせない許認可の取得・更新状況、事業承継M&A実行後に必要となる申請・届出の有無などが調査されます。

訴訟・紛争

係争中の訴訟・紛争の有無、レピュテーションリスク、取引先からのクレームの内容などの有無が調査されます。

財務DD

対象会社の企業価値の算定やシナジー効果の評価をより正確にするため、財務諸表などを精査します。財務の専門家である公認会計士に委託するのが一般的です。

売上高・原価・経費の水準や変動、売上債権・仕入債務の増減や回収期間の変動、回収困難な滞留債権や不良債権や資産の含み損益、簿外債務(例:退職給付引当金、債務保証損失引当金)の有無などが調査されます。

税務DD

対象会社の税務資料の分析をもとに追徴課税などの税務リスクを評価したり、想定される事業承継M&Aスキームごとに、租税コストを算定したりします。通例税務の専門家である税理士に委託して行います。

その他DD

対象会社の業種や事業・組織の実情に応じて、適宜さまざまなDDが行われます。例えば、工場を運営している企業であれば環境問題関係のリスク、業務システムの統合が重視される場合は、データ移行の可能性やシステム統合のコストなどが評価されます。

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最終契約フェーズ

事業承継M&Aのスキームの選択

事業承継M&Aの専門家は、売主と協議しつつ、買主の希望も勘案して、事業承継M&Aのスキームを最終的に決定する必要があります。

事業承継M&Aのスキームとしては、一般的に買主は、最初は、株式譲渡方式で行うものと考えるのが普通です。また、売主としても、対象会社の負債も一緒に買主が引き取ってくれれば、その後特段、作業が発生しないため好ましい、と漠然と考えているのが一般的です。

しかし、買主が、会社概要書(IM)のレビューやデューデリジェンス(DD)を踏まえ、その過程で発見された、対象会社の問題点によっては、対象会社の簿外債務の存在を嫌がるとか、対象会社に名義株主が多すぎる、適切な手続きを経ていない株主が多い、敵対的少数株主が存在するなどの理由で株式譲渡方式での買収は対応できないと主張する可能性があります。一方で、事業承継M&Aのクロージング手続きが複雑になり過ぎるため事業譲渡方式には対応できないと主張する場合もあります。事業承継M&Aの専門家は、これらの問題を解決するため、買主候補会社との交渉と並行して、売主とも協議をして、どの事業承継M&Aのスキームを選択するのかを考案する必要があります。事業承継M&Aのスキームの種類は、「2.事業承継M&Aの種類」で示した通りです。

最終条件交渉

事業承継M&Aの最終契約書のDRAFTの提示と交渉及び最終契約の締結(サイニング)

事業承継M&A専門家は、デューデリジェンス(DD)の期間中に、売主から買主候補会社に対する、株式譲渡契約書又は事業譲渡契約書などの最終契約書のDRAFTを提示し、買主候補会社に、デューデリジェンス(DD)を踏まえて、この最終契約書のDRAFTの内容でこの事業承継M&Aを受けるか否か、またその内容に修正の要望がある場合は、その最終契約書のDRAFTの修正案の提示を求めることになります。

この売主が提示する最終契約書のDRAFTは、勿論、売主にとって有利な内容となっていることが通常ですが、あまりにも売主に有利な一方的な内容だと、買主候補会社としては、その最終契約書のDRAFTの修正案を提示する際に、買主候補会社側で非常にたくさんの修正を行うことになります。そして、修正点が多ければ多いほど、最終契約書の交渉に時間がかかることになります。また、最終契約書のDRAFTが、あまりにも売主に有利な一方的な内容であると、買主候補会社がこの事業承継M&Aはそもそも条件が合わないのではないかと考え、事業承継M&Aを断念することもあります。よって、売主が提示する最終契約書のDRAFTは、最終契約書の落としどころを踏まえた内容とすべきだと考えられます。

事業承継M&A専門家は、このような最終契約書のDRAFTを踏まえた契約交渉を買主候補会社と行い、最終契約書のDRAFTの内容が合意できるものに達したら、契約締結日を設定し、最終契約を締結することとなります。

最終契約書の締結については、買主側の調整に基づき、調印式が開催されることも多く、売主及び買主の経営陣が顔を合わせ最終契約書に調印し、ようやく最終的な握手をすることとなります。

最終契約

事業承継M&Aのプレスリリース

最終契約の調印(サイニング)に合わせて、売主及び買主は、事業承継M&Aの発表(プレスリリース)を行うことが多いです。

もちろん、中小企業、零細企業の事業承継M&Aでは、発表(プレスリリース)を行わないこともありますが、最終契約書の締結の時期には、事業承継M&Aの情報が流出し、取引先や金融機関、従業員などがこの流出した情報によって事業承継M&Aについて知ることが多く、誤った情報が広まる可能性があり、これを避けるためには、発表(プレスリリース)を実施した方が良いと考えられます。また、売主側と買主側の良好な関係の維持の観点からも、売主や対象会社としては、最終契約書の締結が終わったら、積極的に発表(プレスリリース)をすることが多くなります。なお、発表(プレスリリース)といっても、上場企業のように、HP上にて開示するまでには至らず、関係者への説明をする程度で済ませるということも少なくありません。

事業承継M&A完了後に必要な対応

①事業承継M&Aの遵守条項(コベナンツ)の履行

事業承継M&Aのクロージングは、最終契約書の締結の1ヶ月後ぐらいに設定されることが多いですが、最終契約書の締結と期間を開けることなく、そのままクロージング手続きを行うこともあります。

売主及び買主は、この最終契約調印日からクロージング日までの1ヶ月程度の間に、それぞれ、最終契約書の遵守条項(コベナンツ)で約束した事項の履行を行う必要があります。

売主側で言えば、例えば、チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が入っている契約の契約先などからは、契約主体の変更の事前承諾を取得する必要な場合もあり、売主は、最終契約書の締結後、契約先などを回って、事業承継M&Aの挨拶を行うとともに、契約主体変更の事前承諾書を取得することとになります。

また、売主は、金融機関やその他の重要取引先に対しても、事業承継M&Aの合意がなされたことの挨拶に訪問し、同時に買主の担当者を紹介するなどして、事業承継M&A後の対象会社の事業の運営がスムーズに進むよう引き継ぎを行う必要もあります。

さらに、売主は、クロージング日までの期間に、対象会社の従業員に説明会を開催し、従業員に対して、買主や買主の経営方針、対象会社の今後の就労環境などの説明を行うなどして、事業承継M&Aが発表(プレスリリース)されたことによる従業員の動揺を抑え、離職者を可能な限り減らし、事業承継M&A後の対象会社の事業の運営が事業承継後もスムーズに進むように環境整備する必要があります。

➁事業承継M&Aのクロージング

買主は、事業承継M&Aのクロージング直前には、売主や対象会社に対して、最終契約書の表明保証(レプワラ)違反がないか、遵守条項(コベナンツ)が確実に履行されているかどうかの確認をし、一方で、売主から対象会社を買い取るための資金調達をするなどして、クロージングの準備を完了させます。

また、このクロージングの準備は、事業承継M&Aを担当した法律事務所や金融機関の会議室などで行われることが多く、売主及び買主の双方があらかじめクロージング書類を持ち寄り、クロージングの前日までに事業承継M&Aの専門家が、双方のクロージング書類に不足がないかを確認し、クロージング日に、売主及び買主のクロージング書類に不備が見つかった結果、クロージングが流れてしまうなどの不慮の事故が起きないように事前に調整を行うことになります。

そして、買主は、クロージング日において、最終契約書に規定されたクロージング書類と引き換えに、売主に対して、買収価格を振込送金することにより、クロージングを完了させ、無事、事業承継M&Aが完了することとなります。

まとめ

今回は、事業承継M&Aの基本的な手順・流れ・進め方を解説しました。事業承継M&Aでは、必要資料の作成や買主候補会社の検索、選定、交渉など、さまざまな段階を経て最終合意に至ります。これらの段階をスムーズにかつ有利に進めるためには、専門的な知見や経験が豊富な事業承継M&Aの専門家に相談、依頼する方が安心かつ有利です。

事業承継M&Aを考える売主や対象会社の皆さんは、事業承継M&Aは初めての経験となることがほとんどだと思われますので、さまざまな事業承継M&Aの経験をもち、豊富な知識を持っていて、かつ、法律の専門家でもある弁護士への相談、依頼をご検討ください。

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