イグジット(エグジット)とは、会社や事業などに投じた資金を回収し利益を確定することです。
英語のExit(イグジット・エグジット)が由来で、日本語では『出口』『出口戦略』と言われております。
本記事では、M&AやIPOといった会社のイグジット戦略の手法や種類、メリット・デメリット(注意点)などを解説します。
イグジットとは
イグジットとは、会社や事業などに投じた資金を回収し利益を確定することで、日本語では出口や出口戦略と言われております。
また、収穫を意味する『ハーベスティング』と言われることもあります。
元々は軍事用語と使用されておりましたが、ビジネスにおいてはファンドやベンチャーキャピタルなどの利益確定を目的にした考え方として広まりました。
その後、ファンドやベンチャーキャピタルに限らず、スタートアップが自ら立ち上げた会社や事業をイグジットすることもあれば、事業会社が既にある会社や事業を買収し、その企業を成長させた後にイグジットするケースも増えております。
イグジット手法は様々ありますが、代表的な手法で①IPO②M&A③バイアウトの3つが挙げられます。
また、近年『二段階イグジット』と言われる手法も注目されております。
なぜイグジット戦略が重要なのか
会社や事業を立ち上げるには資金調達が必要です。
資金調達の方法は、自ら用意するケースももちろんありますが、多くは金融機関からの融資や投資家からの投資など第三者から調達するケースが挙げられます。
特に、投資家から資金調達を募る際、投資家はその会社に資金を提供するか判断する際に「イグジット戦略」をどう考えているかを重要視します。
イグジット戦略を考えていない会社に投資した場合、仮にその会社の業績が当初はよかったとしても、その後経営がうまくいかず業績が落ち込むことは十分にありえますので、投資家からするとリスクが付きまとい続けると判断されてしまうことがあります。
そして、このリスクが付きまとうというのは投資家から資金調達する場合に限らず、自ら資金を用意する場合はそのリスクが自身に付きまといます。
中小企業庁の調査によりますと、創業して1年で約30%、3〜5年で40〜60%で廃業するというデータがあり、会社を存続させるのはそれ程難しいので、タイミングを見計らいイグジットし利益を確定させることは非常に重要と言えます。
イグジットし利益を確定した後、その利益を元に別の事業を立ち上げる連続起業家(シリアルアントレプレナー)もいれば、FIRE(Financial Independence Retire Early・早期に経済的自立すること)し趣味や好きなことに没頭する人生を歩む人もいます。
イグジット手法①:IPO
イグジットの手法一つ目はIPOです。
IPOとは
IPOとは、Initial(最初の) Public(公開の) Offering(売り物)の略で、日本語では新規公開株や新規上場株と言われ、未上場の会社が新規に株式を証券取引所に上場することです。
証券市場に株式を上場させることにより、株式価値を上昇させ売却し利益を得ることでイグジットする手法です。
帝国データバンクによりますと、2021年のIPO社数は125社と、2007年の121社以来の14年ぶりに100社を上回りました。
件数が増えた要因は様々ですが、その一つに東京証券取引所の市場再編が挙げられます。
東京証券取引所には、一部・二部・マザーズ・JASDAQ(スタンダード・グロース)などの市場がありますが、それぞれの市場区分が曖昧などといった理由で2022年4月にプライム・スタンダード・グロースの3市場へ再編する予定であり、駆け込み的に新規上場が増えたのではと考えられております。
IPOのメリット
IPOのメリットとしては以下3点が挙げられます。
- 上場することにより、株価が大きく上昇し多額の売却益を狙える
- 会社としての認知度や信頼度が上がり、人材の採用や取引先の新規開拓が行いやすくなる
- 株式を保有し続けることもでき、引き続き経営をすることができる
IPOをすると株価が上昇することが多いです。
近年では約80%のIPO銘柄が公募価格に対し初値が上回っており、公募価格に対し数倍の値上がりは珍しくなく中には10倍以上になった銘柄もあります。
株価が大きく上昇すればその分多額の売却益を狙うことができます。
また、上場するということは、今までは私的な会社だったのが公的な会社という側面が強くなり社会的責任が増します。
そのことから、会社の認知度や信頼度が上がり、優秀な人材を採用しやすくなったり取引先や顧客などの新規開拓がしやすくなったりとさらなる成長を目指せます。
IPOしたからといってすぐに自身の株式を売却する必要はなく、引き続き保有し経営を続けることもできます。
IPOのデメリット(注意点)
IPOのデメリット(注意点)としては以下3点が挙げられます。
- 上場するためには、財務内容や管理体制など高い審査基準をクリアする必要がある
- 上場するには多額な費用がかかり、上場準備時にかかる費用、上場時にかかる費用、上場した後にも費用がかかる
- 上場会社は適時会社情報の開示を求められるため、会社にとって出したくない情報でも開示しなければなりません
IPOするには高い審査基準をクリアする必要があります。
各市場により基準は異なりますが、2022年3月現在比較的上場しやすとされているマザーズですと、時価総額10億円以上・株主数200人以上・コーポレートガバナンス及び内部管理体制が適切に整備機能されているかなどの基準が設けられております。
(2022年4月より市場再編されマザーズという市場はなくなります)
また、上場するには、上場準備前・上場時・上場後にそれぞれ多額な費用がかかります。
上場準備時には監査法人、証券会社、コンサルティング会社、弁護士や税理士などの専門家への報酬が発生し、それぞれの報酬額を合わせると年額で数千万円はかかります。
上場時には、上場審査料や新規上場料がかかり、どの市場に上場するかにより金額は異なりますが数百万円から一千万円超かかります。
上場した後にも費用はかかり、年間数十万円から数百万円の上場料が発生します。
上場会社は、市場から適切な評価を受け資金調達を円滑に実行できるよう、適宜情報開示をする必要があります。
業績が悪いときももちろん開示しないといけないですし、今後の経営戦略など競合他社に知られたくないような情報もタイミングにより開示しなければなりません。
イグジット手法②:M&A
イグジットの手法二つ目はM&Aです。
M&Aとは
M&Aとは、Mergers(合併) and Acquisitions(買収)の略で、日本語では企業の合併・買収や資本業務提携などと言われますが、一言で言いますと会社の売買のことです。
会社を第三者へ高値で売却することに、売却益を得てイグジットする手法です。
第三者へ売却するM&Aは、会社ごと売却する株式譲渡や、事業の一部を譲渡する事業譲渡が代表的ですが、イグジットという観点から見ますと会社ごと売却する株式譲渡のことを指すことが多いです。
売却価格の考え方ですが、極論を言えば買い手との合意価格が売却価格ですが、相場という考え方はあります。
相場という考え方はいくつかありますが、代表的な考え方に『時価純資産+修正後営業利益の3〜5年分』があります。
時価純資産とは、例えば自社ビルなどの不動産を持っていた場合、決算書に記載の数値ではなくその不動産を今売却したらいくらで売却できるかといった『時価』に修正することです。
修正後営業利益とは、例えば減価償却費は実際には出費がない費用なので、決算書に記載の営業利益へ加算して考えます。
また、『時価純資産+修正後営業利益の3〜5年分』にプラスして営業権を上乗せすることも多いです。
営業権とは、決算書には記載されない無形財産のことで、例えばブランド・ノウハウ・特許権・顧客データ・取引先・優秀な人材などのことです。
無形である営業権を算出するのは困難ですが、インカムアプローチ(その会社が将来生み出すであろうキャッシュフローを評価すること)という考えを元に算出することはありますが、やはり最終的には買い手との合意価格となります。
営業権と似た言葉で『のれん』があり、厳密には異なる言葉ですが同様な意味合いで使用してもあまり差し支えはありません。
M&Aのメリット
M&Aのメリットとしては以下3点が挙げられます。
- 高値で売却できれば、多額な売却益を得ることができる
- IPOと比較すると、手間や時間がかからず容易に行うことができる
- 大手の傘下に入ることにより、資本面を気にせず事業の成長に専念できる
M&Aの際の売却価格は、最終的には買い手との合意価格であるため、買い手に魅力がある会社と判断されれば高値で売却することもできます。
IPOと比べますと、手間や時間がかからないという点もメリットです。
IPOをする際は、上場直前の2年間の会計監査が必要であり、会計監査の期間や上場審査なども鑑みますと少なくとも3年程度はかかります。
しかし、M&Aの場合は買い手との諸条件の合意が取れれば成立となり、早ければ1年も経たずに成立に至ることもあります。
ただし、そうは言っても買い手・売り手共に一大取引のため、1年から2年程度かかることが多いです。
また、大手の傘下に入り資金面を気にせずに引き続き経営に専念し、会社を成長させるという選択肢もあります。
経営者は、従業員への給与・税金・借入金の支払い・買掛金の支払いなどのキャッシュフローについて常に付きまとわれます。
もちろん、大手傘下に入ったからといって完全に切り離せるわけではありませんが、資金力が豊富な大手傘下に入ることにより会社を成長させることに専念できようになります。
M&Aのデメリット(注意点)
M&Aのデメリット(注意点)としては以下3点が挙げられます。
- 会社を第三者へ売却するので、経営権を手放すことになる
- 今まで築いてきた企業風土や経営理念が、買い手によっては変わる可能性がある
- 今まで共に歩んできた従業員の待遇やポジションなどが、買い手によっては変わる可能性がある
経営権を手放すことにはなるので、M&A後にやっぱ経営権を取り戻したいと思っても、買い手が承諾しなければ取り戻すことはできません。
また、今まで築いてきた企業風土や経営理念を買い手が変えてしまうこともあり、望んでいた会社ではなくなってしまうことがあります。
今まで共に歩んできた従業員についても同じことが言え、M&Aの契約条件で従業員は引き続き同じ待遇・ポジションとしたとしても、M&A後に経営状況を鑑みた結果変えられてしまうという可能性は十分あり、その際に従業員は不満を持ってしまうこともあります。
契約条件に、従業員みんなを今後もずっと守るような条件を盛り込むのは現実的ではありません。
イグジット手法③:バイアウト
イグジットの手法三つ目はバイアウトです。
バイアウトとは
バイアウトとは、会社を売却することによりイグジットする手法であり、売却するという点ではM&Aの一種と言えます。
特徴としては、バイアウトはその会社の経営陣や従業員が買収することで、経営陣が買収することをMBO(Management Buyout・マネジメントバイアウト)と言い、従業員が買収することをEBO(Employee Buyout・エンプロイーバイアウト)と言います。
ただし、LBO(Leveraged Buyout・レバレッッジドバイアウト)と言われる、第三者が金融機関等から資金調達し買収する手法もありますので、必ずしもバイアウト=その会社の経営陣・従業員が買収することではないので注意が必要です。
バイアウトのメリット
バイアウトのメリットとしては以下3点が挙げられます。
(ここでは、バイアウト=その会社の経営陣・従業員が買収するという前提で記します)
- よく知る経営陣や従業員が引き継ぐため、企業風土や経営理念も引き継いでもらいやすい
- 取引先や金融機関など、各関係者との関係性を引き続き保てやすくなる
- 自社内のやり取りで完結できるため、ノウハウや事業戦略などを外部へ出す必要がなく情報漏洩リスクが低い
第三者ではなく、自社にいる経営陣・従業員に引き継いでもらうため、今まで築いてきた企業風土や経営理念などの想いも引き継いでもらいやすいです。
また、既存の取引先や金融機関といった各関係者とも、元々会社にいる人が引き継いだということで理解が得られやすく、引き続き関係性を保てやすくなります。
IPOやM&Aと最も異なる点として、承継を自社内で完結できるため第三者へ情報を開示する必要がなく、情報が漏洩する可能性が低いと言えます。
バイアウトのデメリット(注意点)
バイアウトのデメリット(注意点)としては以下3点が挙げられます。
(ここでは、バイアウト=その会社の経営陣・従業員が買収するという前提で記します)
- 経営陣や従業員が買取資金を捻出できない場合、企業価値より下回った金額で売却することになる
- 構成員が変わらないため、企業の体制や体質が変わらないことがある
- よく知る経営陣や従業員であるといっても、企業風土や経営理念が変わる可能性がある
どんなにいい会社であり企業価値が高いとしても、経営陣や従業員がその買取資金を捻出できない場合は企業価値を下回った金額で売却せざるを得ないことがあります。
金融機関から買取資金の融資が得られないか、売却後も引き続き役員報酬などで資金を得られないかなど対策を講じる必要があります。
また、良くも悪くも構成員が変わらないため、仮に企業体制や体質などに問題があったとしても変わる可能性は低いです。
問題がなかったとしても、これまでの経営の延長線であり劇的な成長に発展しないこともあります。
一方、いくらよく知る経営陣や従業員であるとはいえ、経営権を渡したら思いもよらず自分とは違う経営をすることはあります。
イグジットに対する日本の現状
日本におけるイグジットの現状としては、IPOが主流と言われております。
経済産業省の調査によりますと、ベンチャーキャピタルの投資先企業のIPO及びM&Aの状況はIPOが約70%でM&Aが約30%となっており、イグジット手法にIPOを選択する傾向が高いと言えます。
なぜ日本ではイグジット手法でIPOを選択する傾向が高いのか、海外と比較すると傾向の違いが浮き彫りになっております。
イグジットに対する海外の現状と日本との違い
海外との比較で、アメリカを例に違いを見ますと、イグジット手法にIPOを選択する割合が約70%である日本と比べアメリカのIPOは約10%という点が顕著に異なっております。
(アメリカではイグジット手法でM&Aを選択する割合が約90%である)
理由としましては、アメリカより日本の方がIPOをしやすいため、スタートアップ企業もIPOを目指している傾向が高いという点が挙げられます。
日本とアメリカでは、M&A時の買収価格に大きな開きがあるという点も挙げられます。
アメリカでは、従業員の能力の高さや特許権などの財務情報には現れない無形財産に対しても高く評価し買収価格に含めるケースが多いため、買収価格が高くなりイグジット手法にM&Aを選択する会社が多いと言えます。
また、日本ではアメリカほどM&A文化が根付いていない点も挙げられ、未だにM&A=身売りやハゲタカファンドといったネガティブな印象を持っている人が多かったり、M&Aに慣れておらず買収後にどのように共に経営していけばいいかわからなかったりと、そのため買い手・売り手共に参加者がアメリカに比べ少ないと言えます。
ただし、アメリカと比べ少ないとは言いましても、日本でも徐々にM&A文化は浸透しつつあり成約件数は右肩上がりで増加傾向になっております。
二段階イグジットとは
二段階イグジットとは、株式の一部を残した状態でファンドや大手企業に株式を譲渡し、その譲渡先企業と共に自社を成長させ、その後にIPOやM&Aを行いより大きなリターンを目指すイグジット手法です。
ハイブリッド型イグジットなどと言われることもあります。
二段階イグジットは、売り手からすると企業価値を高めることによりさらに高いイグジットを目指せ、買い手としては買収先会社を成長させるために売り手がより力を入れてくれるといった、両者にとって得を目指せますので近年注目されている手法です。
まとめ
イグジットとは、会社や事業などに投じた資金を回収し利益を確定することで、会社や事業を経営するにあたりイグジット戦略を意識することは重要なことです。
イグジット戦略を意識することにより投資家からの資金調達ができたり、大手の傘下に入りさらなる成長ができたり、または利益確定後にその資金で新たな事業を始めることができるなど、様々な選択肢が広がります。
いつ・誰に・いくらで・どのようにイグジットするのが最適なのか、イグジット戦略を具体的計画し考えましょう。