会社分割とは「会社の有する権利義務の一部を新しい会社または設立済みの会社に分割(承継させる)会社法上の手続き」のことをいいます。M&Aの手法の1つです。
会社分割は会社法2条29号、30号に定められている手続きになります。会社分割には「新設分割」と「吸収分割」の2つの種類があり、会社の目的や事情、ケースに合わせて使い分けがなされているのです。
会社法2条 29 吸収分割 株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいう。 30 新設分割 一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいう。 |
今回の記事では、会社分割の基本的な知識について弁護士が徹底解説します。
会社分割を活用する上で知っておきたい基礎知識を集約しました。ポイントをおさえて、基本事項から確認していきましょう。
会社分割とは?
会社分割とは、分割会社が新設会社・承継会社に対して、分割する事業に関する権利義務、資産、組織・人材などを包括的に承継させる組織再編のスキームです。
分割会社となることができる会社は、株式会社と合同会社に限られます。
それに対して、新設会社・承継会社は、株式会社と合同会社に限らず、すべての形態の会社がなることができます。
会社法による分類
会社法に基づく会社分割の分類としては、新設分割と吸収分割があります。
新設分割は、新設会社を設立したうえで、分割会社から事業を分割して新設会社に承継させる形の会社分割方法です。
吸収分割は、分割会社から事業を分割し、すでに存在している承継会社に承継させる形の会社分割方法です。
どちらも、経営統合や事業分離といった組織再編行為や重点事業の分社化などを目的として行われます。
対価の受け取り方による分類
会社分割では、新設会社・承継会社は事業承継の対価として株式や金銭を支払います。
この対価を分割会社が受け取るのか、分割会社の株主が受け取るのかによる分類があります。
- 分割会社が対価を受け取る場合は、分社型分割(物的分割)
- 分割会社の株主が対価を受け取る場合は、分割型分割(人的分割)
このように表現します。
分社型分割(物的分割)で、新設会社・承継会社が対価として株式を分割会社に交付した場合は、双方の会社の資本関係が継続することになります。
株式の割合次第では、新設会社・承継会社は分割会社の子会社になります。
分割型分割(人的分割)では、新設会社・承継会社からの対価が株式か、金銭かに関わらず、新設会社・承継会社と分割会社の資本関係は解消されます。
会社分割の4分類
会社分割の分類としては、新設分割と吸収分割か、分社型分割(物的分割)と分割型分割(人的分割)のどちらであるかの組み合わせにより、次の4分類に分けることができます。
分社型分割 | 分割型分割 | |
新設分割 | 分割事業は新設会社が引き継ぐ 分割対価は分割会社が受け取る | 分割事業は新設会社が引き継ぐ 分割対価は分割会社の株主が受け取る |
吸収分割 | 分割事業は承継会社が引き継ぐ 分割対価は分割会社が受け取る | 分割事業は承継会社が引き継ぐ 分割対価は分割会社の株主が受け取る |
共同分割とは
会社分割には、共同分割という分割方法もあります。
新設分割・吸収分割は、分割会社1社と新設会社又は承継会社の1社との間で行われますが、分割会社が複数のケースもあります。
複数の分割会社の事業を新設会社又は承継会社の1社が受け継ぐパターンを共同分割と呼びます。
承継会社が新設会社の場合は共同新設分割、承継会社の場合は共同吸収分割になります。
会社分割を活用すべき3つの状況
会社分割は、経営統合や事業分離といった組織再編行為や重点事業の分社化などを目的に行いますが、特に、会社分割を検討すべきなのは次の3つの状況にある場合です。
事業形態の抜本的な改革を行うべき場合
経営の停滞、会社の業績の伸び悩みと言った経営上の問題を抱えており、その原因が会社の組織にあると考えられる場合は、人事の見直しや組織の再編成が必要です。
ただ、会社内だけでの組織再編にとどまっていては、十分ではないと考えられる場合は、事業形態の抜本的な改革として、会社分割を検討すべきです。
事業分野の強みと弱みが明確になり事業の選択と集中が必要な場合
経営を安定化し、より発展させるための経営の多角化は、有効な選択肢ということができますが、多角経営を進めると、業績が好調な事業とそうではない事業がはっきりしてきます。
このような場合は、業績が不調な事業を切り離して得た対価を業績が好調な事業に投資するといった事業の選択と集中も有効な選択肢です。
この場合、不調な事業を切り離すための手段として会社分割が用いられます。
事業拡大に伴い経営理念とかけ離れてきたために事業規模の見直しが必要な場合
経営を発展させるためには、事業規模を拡大していくことは常套手段と言えますが、会社の規模が肥大化したために、経営者が当初考えていた経営理念が会社の全体に行き渡らなくなり、思ったような経営ができなくなっていることがあります。
このような状況では、会社の理念に反する行動をする従業員が現れて、顧客に満足できるサービスを提供できなくなったり、無駄なコストが発生していたりして、経営の悪化に繋がりかねません。
このような場合は、会社の規模を統制しやすい規模まで再設計することも有効です。そのための手段として、会社分割が用いられます。
会社分割のメリットとデメリットとは
会社分割にはメリットとデメリットがあります。
事業譲渡との違いを把握した上で、メリットとデメリットも知って、自社に会社分割という手続きが合っているかを判断することが重要です。
会社分割と事業譲渡の違い
会社分割と事業譲渡の違いについては、こちらの記事で解説しています。
会社分割のメリット
会社分割には7つのメリットがあります。
分割会社のイメージダウン・士気低下を避けられる
事業譲渡や会社の売却等の場合、他の企業との競争で負けて取り込まれたといったマイナスのイメージが付くことがありますが、会社分割の場合は、不採算事業の切り離しが目的だとしても、組織再編の一環に過ぎないとして、イメージダウンは少ないと言えます。
会社分割なら、組織のスリム化後に従業員も心機一転して採算部門の事業に取り組めますし、取引先や顧客にマイナスのイメージを持たれることは少ないと言えます。
会社の事業や組織をスリム化できる
会社分割をすることで、会社内の組織や事業をスリム化することが可能です。多くの事業を抱えていると、会社内の組織が複雑化し、事務も煩雑になります。組織が大きくなったことにより、仕事の効率化にも影響が出て、収益性が下がる可能性があるのです。
会社分割によって事業や組織を整理し、スリム化によって業務などを効率化できれば、収益性においてもプラスに働くと考えられます。
事業に必要な契約などをまとめて移転できる
事業譲渡では契約関係を個別に移転する必要がありました。そのため、債権譲渡などの手続きを用いる必要があります。会社分割なら、契約などをまとめて移転することが可能です。事業譲渡よりも手続き的な負担が軽減できるというメリットがあるのです。
事業譲渡と比較すると短期間で手続きが完了する
会社分割は、事業譲渡のように個別の承継手続きではないため、事業譲渡の契約時の個々の手続きが必要ありません。
その分、手続きにかかる期間を短くすることができます。
従業員の承継が容易である
会社分割は、事業譲渡のように個別の承継手続きではないため、個々の従業員の引き継ぎも容易です。
事業譲渡では、移籍するすべての従業員と個別に交渉して労働契約を結ぶ必要があり、そのために、人材の流出リスクもありますが、会社分割は包括承継なので、個別交渉なしで従業員の引き継ぎが可能です。
現金を用意しなくてもできる
会社分割の大きなメリットは、現金を準備する必要がないところです。会社分割の対価を株式にすることができるので、会社分割を目的に大金を調達する必要がありません。株式を対価にすることで、より迅速かつ簡便に会社のスリム化や組織再編が可能なのです。
会社分割は税金の軽減措置がある
会社分割は事業譲渡のような消費税の課税がなく、登録免許税などの負担が軽減される措置も用意されています。会社再編や事業の移転を検討する場合に、税金負担が軽減される方法を選択することにはメリットがあるはずです。
会社分割のデメリット
会社分割には4つのデメリットがあります。
簿外債務や偶発債務の引き継ぎリスク
会社分割の最大のデメリットは、予想外の債務を引き継ぐリスクがあることです。
すでに説明した通り、事業譲渡では契約関係は基本的に引き継がれませんが、会社分割では契約関係を包括的に引き継ぐことになります。契約関係を引き継いだ結果、簿外債務や偶発債務といった予想外のマイナスを引き継いでしまう可能性があるのです。
一つの手続きで多く資産負債・権利義務を引き継ぐことができるところは会社分割の魅力ですが、引き継ぐことによって思わぬマイナスに繋がってしまうことがあります。
株主総会の特別決議や債権者保護手続が必要になる
会社分割の実施にあたっては、株主総会の特別決議が必要になります。
株主総会の特別決議では、議決権の半数以上の株主が出席し、そのうちの3分の2以上の株主の賛成が必要になるので、株主が多い場合や、親族以外の株主がいる場合などは、必要な賛成数が得られないこともあります。
また、債権者保護手続が必要になるため、債権者から申し立てがあった場合は、弁済等を行う必要があります。
手続きが複雑で手間がかかる
会社分割では、税務上の適格・非適格要件を確認しそれに応じた税務処理が必要になります。
また、会社分割の手続きも下記で紹介するように多岐にわたるため、一つ一つこなしていかなければならず、多くの時間と手間を要します。
分割された事業部門のモチベーション低下の懸念がある
新設会社・承継会社に分割された事業部門は、分割会社から切り捨てられたというマイナスのイメージを抱いてしまうことがあります。
特に不調の事業部門を分割して承継させていたケースではなおさらです。
そのために、分割された事業部門の社員の士気や社内の活力の低下などを招きかねません。
こうした事態を避けるためには、新設会社・承継会社にも優秀な経営陣を配置する必要があります。
会社分割の手続きの流れ
会社分割の手続きの流れは、次のページで詳しく解説しています。
新設分割と吸収分割の違い
新設分割と吸収分割では「相手会社」が異なる
吸収分割には相手会社が存在しますが、新設分割は会社設立を伴うため相手会社が基本的に存在しません。
相手会社が存在しないというのは、効力発生日まで、会社分割した後の事業の運営について準備をすることができないのです。会社が存在しないのですから。
ですので、新設分割の場合は、会社分割をしてからしか、許認可の取得の手続きなどを行うことができず、事業の開始が遅れてしまう可能性があります。ですので、許認可の取得が必要な場合は、まずはペーパーカンパニーを設立し、その会社において許認可の取得の手続きなどを進めておいて、会社分割の効力発生日に、事業を承継したらすぐに事業を開始することができるように準備するということが行われます。
新設分割と吸収分割では「効力発生日」が異なる
吸収分割では契約で定めた日が効力発生日になり、後から登記する流れでした。新設分割の場合は新しく会社を設立するという関係上、効力発生日は登記申請の日になります。
登記により効力発生となるので、土日祝日などを効力発生日にすることはできません。法務局が閉まっているからです。吸収分割の効力発生日を土日祝日に定めることが可能だった点と比較してみてください。
「略式分割」と「簡易分割」
略式分割とは、基本的に、90%以上の親子会社関係の場合、子会社において、株主総会の特別決議を経なくてもよいという制度です。90%以上の親子会社関係の場合、子会社において株主総会を開いても、会社分割がスムーズに可決されるに決まっているからです。結果が分かり切っているため、子会社においては、株主総会を開催しなくて良いということになります。
簡易分割とは、基本的に、分割会社の5分の1未満の小規模な事業の会社分割については、株主総会の特別決議を経なくてもよいという制度です。5分の1未満の小規模な事業の会社分割の場合、会社分割を容易にするため、株主総会を不要としたものであり、分割会社において、株主総会を開催しなくて良いということになります。
最後に
会社分割とは、会社の事業や権利義務の全部または一部をそのまま分割し承継させる手続きです。
M&Aの手法の1つとしてよく使われており、現金の準備がほぼ必要ないなどのメリットがあります。状況に合わせて効果的に使えば、さらにメリットが大きくなることでしょう。
会社分割の手続きには、深い法的な知識が必要になります。会社の規模によっても準備に必要な時間などが変わってくるのです。会社分割を計画している段階で弁護士にサポートしてもらい、手続き的なミスがないかなどを確認しながら進めていきましょう。