M&Aは会社の買収や合併の手法のことです。M&Aにはいろいろな手法があり、企業の「果たしたい目的」や「ニーズ」「将来的なヴィジョン」によって適切な手法が異なります。株式交換はM&Aの手法の中の1つで、株式を使って組織の再編をする手法を指します。
発行済株式を他の会社に取得させることで会社が組織再編を行う方法が株式交換です。
たとえばA会社があったとします。このA会社の発行済株式をすべてB会社に取得させました。B会社は、A会社の発行済株式をすべて取得することにより、A会社の完全親会社になります。対してA会社はB会社の完全子会社になるのです。このように、会社間で親子関係を創設したいときに株式交換がよく使われます。
株式交換とは具体的にどのような手法なのか。株式交換のメリットやデメリット、手続きの流れなども含めてM&A弁護士が解説します。会社のM&Aを検討している人は、この記事で株式交換の基本部分をおさえることが可能です。
- 1 株式交換とはどのような手法か|株式移転との違いや使われる場面など
- 2 株式交換ではどのように親子会社関係を作るのか
- 3 株式交換はどのような場面でよく使われるのか
- 4 会社間の連結を強めたい
- 5 組織内のリソースの見直しや業務の効率化を行いたい
- 6 経営統合を行いたい
- 7 会社の買収
- 8 自社ブランドを守りたい
- 9 株式交換と株式移転はどこが違うのか
- 10 株式交換のメリットとデメリットとは
- 11 株式交換のメリット
- 12 株式交換のデメリット
- 13 株式交換の手続の流れ|契約の締結から株式交換の完了まで
- 14 株式交換の手続き①株式交換契約の締結と株式交換契約書の作成
- 15 株式交換の手続き②事前開示書類の備置
- 16 株式交換の手続き③株主総会や債権者保護手続きなどの諸手続き
- 17 株式交換の手続き④株式交換の効力発生と株式の交付
- 18 株式交換の手続き⑥株式交換登記申請や事後に必要な処置を行う
- 19 最後に
株式交換とはどのような手法か|株式移転との違いや使われる場面など
株式交換とは、発行済株式を既存の会社に取得させることにより「会社の完全親子関係を創設するM&Aの手法」です。会社法2条31号に定められる組織再編行為になります。
三十一 株式交換 株式会社がその発行済株式(株式会社が発行している株式をいう。以下同じ。)の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいう。 |
株式は会社の運営に欠かすことのできない重要な存在です。
株式を多く取得している人や会社は、経営において大きな力を持ちます。役員の選定や株主総会での多数決に関わりますので、株式を多く持っている人や会社は「会社の意思決定の中核になる存在」です。
株式交換では「この会社こそは」という親会社候補に会社の株式をゆだね、完全親会社になってもらうという流れになります。完全親会社は株式交換によって完全子会社の発行済株式のすべてを持つことになるわけですから、完全子会社に対して大きな影響力を持つのです。
会社運営を誰か(完全親会社、要するに親分)に指図されることは怖いことであり、メリットなどあるのだろうかと多くの経営者は首を傾げることでしょう。「完全親会社」という言葉から、どうしても「好き勝手されるのではないか」という印象があるからです。
株式交換には、しっかりとメリットが存在します。メリットがあるからこそ、M&Aの手法としてよく使われ、定着していると言えるのです。
具体的なメリットについては、「株式交換のメリットとデメリットとは」で解説します。メリットに触れる前に、もう少しだけ株式交換という手法について理解を深めましょう。
株式交換ではどのように親子会社関係を作るのか
株式交換では、完全親会社になる会社に完全子会社になる会社の株式をすべて取得させます。では、具体的に、どのようにして株式を取得させるのでしょう。
冒頭のA会社とB会社の例を思い出してください。A会社は株式交換によりB会社の完全子会社になり、B会社は株式交換によりA会社の完全親会社になります。
株式交換を決めた時点で、A会社とB会社にはそれぞれA会社株主とB会社株主がいました。株式交換では、たくさんのA会社株主が所持している発行済株式をどのようにB会社側に集中させるかが問題になります。
A会社とB会社は株式交換の手続きの中でA会社の株式を集めてB会社側に取得させる流れです。しかし、A会社の株主たちに「株式交換をしますので、株式を全部ください」とお願いしても、ほとんどのA会社株主は承諾しないことでしょう。B会社に「株式をください」と言われて丸ごと渡すということは、タダ取りされるようなものだからです。
そこで、株式交換の手続きでは、代価を準備します。完全子会社になるA会社に対して、完全親会社になるB会社が対価を準備して、渡すのです。対価は「株式」「現金」「社債」「新株予約権」などが使えます。基本的に株式を対価にするケースが多数派です。
A会社は完全親会社であるB会社に、株式をすべて渡します。B会社はA会社の株式をすべて取得するため、A会社の経営や意思決定に多大な影響を及ぼす存在になるのです。対してB会社側はA会社に対して、株式交換の対価を渡します。A会社株主はB会社に株式をタダ取りされることは嫌ですが、それなりの対価がもらえるなら納得するのではないでしょうか。
株式交換の多くでは対価として「株式」が使われます。B会社(完全親会社)の株式をA会社(完全子会社)の株主が対価として受け取り、A会社の株主は完全親会社であるB会社の株主になるのです。
株式交換では現金も対価にすることができ、現金対価の場合は、A会社(完全子会社)の株主はB会社に株式を譲渡、つまり普通に株式を売却したに等しいことになります。
株式交換でどのように株式をすべて渡し完全親子会社関係を作るのか、大まかに把握できたでしょうか。
株式交換はどのような場面でよく使われるのか
株式交換は完全親子会社関係を作るM&Aの手法です。具体的にどのような場面で使われる手続きなのでしょう。
株式交換は、以下のような目的でよく使われています。
1.会社間の連結を強めたい
2.組織内のリソースの見直しや業務の効率化を行いたい
3.経営統合を行いたい
4.会社の買収
5.自社ブランドを守りたい
株式交換は「組織の見直し」によく使われるという特徴があります。
会社間の連結を強めたい
株式交換の手続きは、すでに兄弟のような関係にある会社が「両社の結びつきを強めよう」という意図で使うケースも多くなっています。
兄弟会社の関係より完全親子会社関係の方が結びつきは当然ですが強いものになるのです。会社の関係性をあらためて見直し、結束を強めたい。このような場面において、株式交換はよく使われています。
組織内のリソースの見直しや業務の効率化を行いたい
株式交換は組織内のリソースや業務の効率化のために行われることがあります。
たとえば、A会社とB会社がそれぞれ独立していたとして、A会社とB会社の業務は密接に関係しており、やり取りも非常に密で頻繁でした。関係性の深い会社同士なので、2つの会社を完全親子関係の創設により、関係をワンセットにまとめてしまおうという意図で株式交換が使われることがあるのです。
A会社とB会社は株式交換により完全親子会社の関係を創設しました。今まで1つのプロジェクトに対してA会社とB会社はそれぞれ担当を立てていましたが、完全親子会社になったことにより、担当やプロジェクト、部署をスリム化できます。組織内のリソースや業務の効率化に繋がるのです。コスト削減にも繋がります。
経営統合を行いたい
株式交換は経営統合をしたい場合にもよく使われています。特に、平和的に経営統合を行いたい場合によく使われる手法が株式交換です。
A会社とB会社があったとします。A会社とB会社が吸収合併をすると、片方の会社が吸い込まれるかたちになるため、片方の会社だけが残るのです。権利義務などは、吸収合併の吸収を行う会社側に引き継がれます。A会社とB会社があったのに、片方が消えてしまうのです。
対して株式交換は違います。株式交換は株式が動くM&Aの手法なので、吸収合併などのように片方の会社が消滅することはありません。完全親会社と完全子会社は、それぞれ会社を維持できるのです。会社を維持しつつ、完全親会社と完全子会社の関係による平和なかたちでの経営統合が可能になります。
合併の場合は派閥争いや経営陣内での諍いが勃発するケースも少なくありません。株式交換の場合は平和的な経営統合を目指す場合によく使われます。
会社の買収
株式交換は会社買収のためにも使われます。会社買収という言葉から敵対的な印象を受けるかもしれません。現実は、必ずしもそうではないのです。
株式譲渡は、買収側に会社のオーナーなどが株式を譲渡する方法です。売り手側は現金を入手できますので、中小企業の経営者のリタイアや老後資金捻出、事業承継などにも使われます。株式譲渡と株式交換はともに「株式を相手に渡す」という性質があるため、状況によって使い分けることも可能です。
自社ブランドを守りたい
A会社とB会社で吸収合併を行うと、片方の会社が消えてしまいます。しかし、株式交換の場合は完全親子会社関係を株式によって創出することになるため、片方の会社が消滅することはありません。
吸収合併などでも会社の権利義務が引き継がれるわけですが、「会社が消えてしまう」ということに悲しみを覚える経営者は少なくありません。吸収合併によって引き継がれるということは、経営者が培った社風やブランドイメージも吸収合併の吸収側会社に飲み込まれてしまうということでもあるのです。
株式交換の場合は完全親子会社関係を創設しても、会社はしっかり残ります。会社のブランドイメージや社風なども「飲まれる」ことなく守ることが叶うのです。老舗などのブランドイメージや商品イメージを守りつつ会社を強化したいときに株式交換が使われることがあります。
株式交換と株式移転はどこが違うのか
株式交換と株式移転は似ているM&A手法としてよくクローズアップされます。名前も似ているため、間違って覚えられてしまう場合や、混同されてしまう場合も少なくありません。株式交換のメリットに進む前に、株式交換と株式移転の違いを明確にしておきましょう。
株式交換と株式移転は、会社法の条文を比較すると手続き的な違いが一発で分かります。株式交換は会社法2条31号の手続きであり、株式移転は会社法2条32号の手続きです。2つの条文を並べて比較してみましょう。
三十一 株式交換 株式会社がその発行済株式(株式会社が発行している株式をいう。以下同じ。)の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいう。 |
三十二 株式移転 一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう。 |
株式交換の条文には、株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させることだと書いてあります。株式移転の方は、株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることだと書かれていることが分かるはずです。株式交換と株式移転の手続き的な違いの鍵は「新しい会社に取得させるか否か」になります。
株式交換の場合は発行済み株式のすべてを既存の会社に取得させますが、株式移転の場合は新しい会社を作ってすべての発行済株式を取得させる点に違いがあるのです。株式交換の完全親会社は株式交換の時点で現存している会社ですが、株式移転は完全親会社を株式移転の手続きの中で創設して、その新しく作った完全親会社に株式のすべてを取得してもらうことになります。
株式交換と株式移転の手続きで迷ったら「新しい会社を創設するか」「創設する新しい会社が株式を取得して完全親会社になるか」というポイントを見て行くと、判断が付きやすくなるはずです。株式交換と株式移転は名前も手続きも似ていますが、間違えないように注意しましょう。
株式交換のメリットとデメリットとは
株式交換は株式の全取得を持って完全親会社と完全子会社の関係を創設する手続きです。経営統合や会社買収、会社の連結を強めるときなどによく使われるという話をしました。
これらの場面に株式交換が使われるということは、株式交換によって完全親子会社関係を創設することにそれなりのメリットがあるからこそに他なりません。メリットがなければ、他のM&Aの手法を使って目的達成を目指すはずです。
株式交換には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
株式交換のメリット
株式交換には6つのメリットがあります。
1.手続きが簡単である
2.簡易株式交換や略式株式交換が可能
3.現金の準備が不要である
4.完全子会社が独立性を保てる
5.統合や業務のスリム化が比較的平和である
6.子会社が親会社の経営に参加できる
株式交換は手続きが簡便である
親子会社関係の創出という言葉から、株式交換の手続きを難しく捉えがちかもしれません。実際は、株式交換の手続きは、M&Aの手法の中でも簡単です。
株式交換の手続きは、基本的に会社間の合意で問題ありません。その上で、株主総会の特別決議で可決されれば可能です。株主総会の特別決議は、議決数を持つ株主の過半数が出席し、出席した株主の議決数の3分の2以上で可決となります。特別決議が絡むため「手続き的に困難ではないか」と思うかもしれませんが、果たしてそうでしょうか。
たとえば、株式譲渡。株式譲渡でも株式交換のように、特定の人や会社に株式を集中させることができます。ただ、株式譲渡の場合は株主たちと個別に株式譲渡の契約を結ばなければいけません。これは、非常に困難なことです。
株主の中には株式譲渡に難色を示す株主もいるでしょう。個別に株主の承諾を得ることは、かなり大変なことなのです。その点、株式交換を使えば、株式を集中させて取得させることが簡便になります。株主総会で可決されればいいからです。少しくらい「譲渡は嫌だ」という株主がいても、可決すれば強制的に株式の集中と取得ができます。
株式交換は全株主の承諾が必要ないという点でメリットがあります。簡便な手続きで株式の集中・親会社の取得が可能なのです。
株式交換では簡易株式交換や略式株式交換が可能
株式交換では、特定の条件を満たした場合に手続きの簡略化が認められています。手続きの簡略化が認められていることにより、ケースによっては非常に簡易な株式交換が可能なのです。
簡易株式交換
株式交換を行っても完全親会社側への影響が極めて小さいと判断できるケースでおいて認められる簡易な株式交換を「簡易株式交換」と言います。
株式交換で完全親会社が完全子会社に渡す対価が純資産額の5分の1以下の場合に、完全親会社側が株主総会を省略可能なのです。ただし、対価が純資産額の5分の1以下でも、次のようなケースでは簡易株式交換を使うことはできません。
1.株式交換によって完全親会社側に損失が出てしまう
2.完全親会社側が譲渡制限株式を発行しており、譲渡制限株式を対価にする場合
3.完全親会社の株主の多く(6分の1以上)が株式交換をすることに反対である
完全親会社側の影響が小さいために株主総会を省略して行う株式交換が簡易株式交換になります。
略式株式交換
「略式株式交換」とは、株式交換の手続きにおいて完全子会社側への影響が小さい場合に株式交換の手続きを簡略化できるという制度です。親会社側が子会社の株式を90%以上持っている(特別支配会社関係)の場合に、子会社側が株主総会を省略可能になっています。
仮に株主総会を開いたとしても、親会社が90%以上の株式を所持していれば、株主交換が可決されるに決まっているのではないでしょうか。「無駄なことに時間とお金をかけなくていいよ」という制度的な配慮です。
株式交換は現金の準備が不要である
株式交換をするために多額の資金調達をする必要はありません。
株式交換の対価は現金の他に社債や株式などがあり、柔軟に選ぶことができます。必ずしも現金を準備する必要はありません。また、株式交換の対価では親会社の株式がよく使われるという特徴があるため、その点でも株式交換のために急いで現金調達する必要性は薄いと言えます。
株式譲渡の場合は、株主たちから株式を譲渡してもらうために多額の現金を調達する必要性があるのです。株式交換の場合は株式を対価にすることで、資金計画を練る必要がほとんどないというメリットがあります。
株式交換なら完全子会社が独立性を保てる
株式交換では基本的に株式が完全親会社側にすべて動くだけなので、完全子会社の法人自体が吸収されるわけではありません。完全子会社は完全子会社、1つの法人として残ります。会社としての組織や名前なども、完全子会社という1つの会社として独立性が保たれるのです。
株式交換では、完全親会社という完全なる大株主との間に完全親子会社関係が生じます。完全親子会社の場合、完全親会社は完全子会社の株式を集中して持った大株主であり、完全子会社の意思決定や経営に大きな影響力を持つ大親分的な存在になるのです。
株式が動いて完全親子会社関係ができ、完全親子会社間での結びつきが強くなりはしますが、吸収合併のように子会社が飲み込まれることはありません。完全子会社は完全親子会社関係のもと、会社としてのかたちと歴史、ブランド、独立性などを保持できるのです。
株式交換は統合や業務のスリム化が比較的平和である
株式交換は経営統合や業務のスリム化、組織再編などによく使われます。経営統合や業務のスリム化、組織再編などは他のM&A手法でも目的達成可能です。
たとえば、この記事でも何度か名前を出した吸収合併。吸収合併を使っても、2つの会社の組織再編や経営統合は可能なわけです。組織再編や経営統合、業務のスリム化などに2つの会社の経営陣や社員たちが全員心の底から納得しているなら、吸収合併でもいいかもしれません。
しかし、多くの場合、吸収合併の場合、吸収される側の会社の経営陣や社員たちは不安を持ちます。吸収合併する側の会社とされる側の会社の経営陣によって権力争いが起きたり、派閥に分かれて会社内が分裂してしまったりというケースが少なくありません。
吸収合併される側の会社の社員は会社が吸収されてしまうことに不安を持つでしょうし、吸収合併する側の社員との間に溝ができることもあるのです。吸収合併では、経営統合や業務のスリム化、組織再編などが叶っても、吸収合併後の会社に火種や禍根を残してしまう恐れがあります。
皆さんはAという家に住んでいました。Bという家に吸収合併されることになったため、A家は消滅。B家に住むことになりました。このような場面を想像してください。
この場合、A家の住人はB家に対して戸惑いや遠慮を持つのではないでしょうか。消滅するA家に対する想いもあることでしょう。双方の住人たちの心情は、非常に複雑です。複雑さの一因は吸収(飲み込まれること)ではないでしょうか。
株式交換は株式を完全親会社になる会社へと取得させる手続きですので、完全子会社は独立性を持って存続するという話をしました。A家の住人たちにとって、「残る」ということは安心感や心の平穏に繋がるのではないでしょうか。
吸収合併などのM&A手法で大きな反発や火種が予想される場合でも、株式交換なら経営統合や業務のスリム化、組織再編が平和的かつスムーズにできる可能性があるのです。
株式交換なら子会社が親会社の経営に参加できる
株式交換の場合は、子会社側が親会社の経営に参加することも可能です。株式交換とは「完全親子会社関係を作る手続きではないか」と首を傾げるかもしれません。そして、親会社側の経営に子会社が参加するということは、大親分に対して子会社が口出しするということですから、違和感を覚える経営者もいることでしょう。
ここで、再び株式交換の手続きを確認しておきます。株式交換は株式のすべてを親会社側に集約し、完全親子会社関係を作り出す手続きです。完全親会社は完全子会社の株式を集約して持った存在ですから、経営や意思決定に多大な影響を及ぼします。
ここで、そんな株式交換の対価を思い出してください。株式交換の対価の1つに、親会社の株式があります。対価として親会社の株式を受け取れば、親会社側の経営にも参加できます。株式交換の対価によっては、子会社側が親会社に対してきちんと意見できるということです。
株式交換のデメリット
株式交換はメリットのある手続きですが、デメリットが皆無というわけではありません。株式交換には具体的に4つのデメリットがあります。株式交換を行う際は、どのようにデメリット対策をするかが重要になるのです。
基本知識として株式交換の4つのデメリットをおさえておきましょう。
1.株式交換の手続きは要件の判断が難しい
2.親会社の経営に子会社が参加するリスク
3.不要な債務などを引き継いでしまうリスク
4.親会社の株価が下落する可能性がある
株式交換の手続きは要件の判断が難しい
株式交換の手続きは簡便ですが、要件の判断が難しいというデメリットはあります。
特別決議の可決要件や簡易株式交換、略式株式交換などの要件をチェックするためには、深い会社法の知識が必要になるのです。そのため、個人で手続きを進めようとしても、途中で詰まってしまうケースや、手続きミスをしてしまうケースが少なくありません。
個人で進めようとすると難しい手続きですが、M&A弁護士に相談して進めれば問題ありません。M&A弁護士と連携すれば、このデメリットは省くことが可能です。
親会社の経営に子会社が参加するリスク
株式交換の対価に親会社の株式を使った場合、子会社側が親会社の経営に口出しするリスクがあります。子会社側にとってはメリットですが、親会社側にとっては経営を脅かすデメリットになる可能性があるのです。
不要な債務などを引き継いでしまうリスク
株式交換によって負債や不要な資産を引き継いでしまう可能性があります。事業譲渡では、譲渡する事業を選別できました。選別した上で必要な部分だけ事業譲渡で受け継ぐことができるのです。しかし株式交換の場合は、事業譲渡のように選別できないというデメリットがあります。
M&A弁護士などに、事前にしっかりと会社を調査してもらうことがデメリット回避の鍵です。
株式交換により親会社の株価が下落する可能性がある
株式交換で新株予約権や株式を対価にしたときに起こる可能性のあるデメリットです。
新しい株式を発行した場合、発行済株式総数が増えてしまいます。発行済株式総数が増えると、1株あたりの利益が小さくなるため、株式の人気や株価が下がってしまう可能性があるのです。
株式交換によって絶対に親会社の株価や人気が下がるわけではありませんが、親会社側は気にしておきたいデメリットになります。
株式交換の手続の流れ|契約の締結から株式交換の完了まで
株式交換では既存の会社を完全親会社として完全子会社の株式を集約して取得させますので、手続きは完全親会社になる会社と完全子会社になる会社で連携して進めることになります。
株式交換の手続きの流れは、以下の5ステップです。
1.株式交換契約の締結と株式交換契約書の作成
2.事前開示書類の備置
3.株主総会や債権者保護手続きなどの諸手続き
4.株式交換の効力発生と株式の交付
5.株式交換登記申請や事後に必要な処置を行う
株式交換の手続き①株式交換契約の締結と株式交換契約書の作成
株式交換の契約を締結する時点で、株式交換の相手会社の調査や話し合いなどは終わらせておきます。
株式交換をする会社同士で契約の内容や契約書の内容なども、M&A弁護士を入れて検討を重ね、準備が終わった段階で株式交換契約書の作成を行います。
株式交換契約書の作成が終わったら、取締役会などで正式に株式交換契約を承認し、次の手続きへ駒を進める流れです。
株式交換契約書の内容
株式交換契約の際の株式交換契約書には以下のような事項を記載することになります。
1.株式交換によって株式をすべて取得すること
2.株式交換の当事者になる会社の商号・住所
3.株式交換比率
4.単元未満株をどのように取り扱うか
5.株式交換による資本金などの変動について
6.株主総会を開催するかどうか
7.株式交換契約の変更や中止の条件、効力条件について
8.善管注意義務について
9.協議事項
10.株式交換の効力発生日
11.株式交換の当事者となる会社の代表者の署名
株式交換比率の決定方法
株式交換契約の中でも特に重要なのが、「株式交換比率」です。会社側から見た場合は「合併比率」と呼びます。
株式交換比率とは、株式を交換する際にどのような比率で交換するかという数字です。株式交換は比率での交換が基本になります。
株式交換比率(合併比率)は会社の価値や株価などを参考にした上で、株主の資産に影響が出ないように決めることが原則です。株式交換比率の決め方によって株主の資産に大きな影響が出てしまうと、株式交換への賛同が得られないからになります。会社に対する印象もマイナスです。
株式交換比率(合併比率)には、主に3つの計算方法があります。
コストアプローチ
コストアプローチは、財務諸表などをもとに会社の価値を算出し、その価値をベースに株式交換比率を算出する方法です。財務諸表を作成したとき(直近の年度末)の時価で算出する簿価純資産法と、時価を使う時価純資産法があります。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、将来的な利益を検討して企業価値を算出し、株主交換比率に活かす方法です。
会社の利益から経費を差し引いたお金(会社が自由に使えるお金)5年分を現在価値に換算して計算する方法をDCF法(フリーキャッシュフロー法)と言い、株式の配当をベースに計算する方法を配当還元法といいます。
マーケットアプローチ
市場の取引価格を計算し、活かす方法がマーケットアプローチです。
マーケットアプローチには、類似企業比較法と類似取引比較法があります。類似企業比較法は同業種の類似会社を参考に計算する方法で、類似取引比較法は会社規模の似た同業種の会社の取引を参考にする方法です。
株式交換の手続き②事前開示書類の備置
株式交換を行うときは、事前に書類を備置開始日から株式交換の効力発生日の6ヶ月後まで本店に備置しなければいけません。株式交換について、利害関係人がきちんとチェックできるようにするためです。
備置が必要なのは、株式契約書類。この他に、交換対価の相当性や交換対価の参考事項、計算書類等に関する事項などの添付書類も必要になります。
株式交換の手続き③株主総会や債権者保護手続きなどの諸手続き
株式交換では、株主総会などの諸手続きが必要になります。この他に、手続きによって債権者などに損害が出ないように、セーフティ的な手続きなどもこなさなければいけません。
株式交換の効力発生日までに、段取りを組んで次のような手続きを進める必要があります。
1.株主総会の招集と株主総会の開催
2.簡易株式交換や略式株式交換の場合は承認
3.債権者保護手続き
4.株券の提供広告
5.株券や新株予約権の証券提出手続き
6.反対株主からの株式買取請求
7.金融商品取法上で必要な手続き
会社によって各手続きが変わってくる点に注意が必要です。
たとえば、株式交換は基本的に株式を親会社が取得する、つまり株主が変わるだけなので、債権者保護手続きをしなければならないケースは「対価として株式以外を交付するとき」や「新株予約権付社債を完全親会社が引き継ぐとき」などに限られます。
各手続きのスケジューリングや実行時の進め方については、M&A弁護士に相談し、ミスなく効率的に行いましょう。
株式交換の手続き④株式交換の効力発生と株式の交付
株式交換契約で定めた効力発生日に、株式交換の効力が生じ、対価の交付を行います。
株式交換の効力発生日は株式交換契約の際に株式交換契約書にまとめているはずです。株式交換の手続きを進める中でスケジューリングに問題ないか、確認するようにしましょう。
株式交換の手続き⑥株式交換登記申請や事後に必要な処置を行う
株式交換は基本的に株主が変わるだけという手続きです。株主が変わるだけの場合は、特に登記申請は必要ありません。しかし、株式交換の手続きの中で完全親会社側が新しく株式や新株予約権を発行した場合は、完全子会社側が新株予約権を処分した場合は登記申請の必要性が生じます。
株式交換にまつわる登記は、株式交換の効力発生日から2週間以内に申請する必要があるため、忘れないようにしましょう。
株式交換では株主が変わるだけという手続き上の特徴により、絶対に登記申請が必要というわけではない点に注意が必要になります。株式交換で登記申請が必要になるのは、株式などの登記事項に変更が生じた場合なのです。
株式交換後は、株式交換の効力発生日の6ヶ月後まで本店に事後開示書類を備置しなければいけません。事後開示書類には、株式交換の効力が生じた日や株式買取請求の手続の経過などを記載しておく必要があります。
株式交換後には株式交換無効の訴えを提起可能です。提起できるのは株式交換を承諾しなかった債権者になります。この他に株主なども提起可能です。
提起できる期間は株式交換の効力発生日から6カ月以内になります。事後開示書類を6カ月備置するのは、株式交換無効の訴えの資料にすると共に、手続きにミスや違法がないかチェックできる状況に置くためです。
最後に
株式交換は株式を親会社にすべて取得させることにより、完全親子会社関係を作り出す手続きです。経営統合や組織再編、業務のスリム化など、いろいろな目的で使われるM&A手法の1つになります。
株式交換にはデメリットもありますが、同時にメリットも多い手続きです。手続き的なミスとデメリット対策をしつつ活用するためにも、M&A弁護士と連携して、ニーズに合った計画を立てるところからスタートしましょう。