表明保証条項の逐条解説

  • 2025年8月22日
  • 2025年8月25日
  • M&A

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株式譲渡契約書の表明保証条項は、M&Aなどの取引において、売主が対象資産や会社の法的・実務的状態について一定の事実を明示し、取引リスクを管理する重要な条項です。
本記事では、弁護士法人M&A総合法律事務所の株式譲渡契約書をベースに、各表明保証条項の意図・構成・法的意味を逐条にわたり丁寧に解説します。

株式譲渡契約書のフォーマットにつきましては、下記記事をご覧ください。

株式譲渡契約書のフォーマット

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なお、詳細な解説につきましては、弊所書籍「事業承継M&Aの実務」をご覧ください。

目次

売主の表明保証

■■■別紙1■■■■■■■■■■

(別紙1)

【売主の表明保証】

第1 売主に関する表明保証

別紙1 解説

別紙1は、売主の表明保証である。

表明保証について

表明保証とは、第6条及び第7条のところで説明したように、もともとは英米法上の概念であるが、今日では、日本における契約においても、株式譲渡契約書などのM&A契約書でなくとも、一般的に使用されてきているものであり、契約当事者による対象会社などに関する一定の事実の確認であり、この事実関係を表明することにより、株式譲渡契約書により、表明保証違反があった場合、取引実行の前提条件として機能したり、賠償・補償条項により損害賠償義務・補償義務が発生したり、契約解除事由として機能したりする規定である。

売主の表明保証について

また、売主の表明保証は、主として、①売主に関する表明保証、②対象株式に関する表明保証、③対象会社に関する表明保証、の3つに大きく分類される。

もちろん、表明保証は、この株式譲渡契約の前提としてあるべき事実関係を確認するものであることから、表明保証の内容としては、これら①②③に限定されるものではなく、事業承継M&Aのストラクチャー(取引構造)によっては、例えば、会社分割を伴う事業承継M&Aの場合はその会社分割に関して前提としてあるべき事実関係など、これらの①②③以外の表明保証類型も必要となることがある。

■■■別紙1第1■■■■■■■■■■

第1 売主に関する表明保証

1.       売主は、本契約を締結する完全な意思能力・行為能力を有している。

2.       売主は、本契約を締結・履行するために必要な権限・権能を有しており、必要な手続を完了している。

3.       本契約は、売主により適法かつ有効に締結され、法的拘束力を有し、強制執行が可能である。

4.       売主による本契約の締結及び履行は、(i)売主が当事者となっている契約書等、又は(ii)売主に適用される法律等に違反・抵触しない。

5.       売主に対して倒産手続の開始・申立はなく、その開始原因も存在しない。売主は、債務超過、支払不能又は支払停止の状態になく、また、そのおそれもない。

6.       売主は、本契約の締結にあたり、債権者又は第三者に対する、詐害意図、財産の隠匿等の処分意思又はその他不法な意図を有さない。

7.       売主は、反社会的勢力に属したことはなく、また、反社会的勢力との間で、いかなる合意又はこれに類する関係(書面であるか否かを問わない)を有していない。

別紙1第1 解説

売主に関する表明保証について

また、①売主に関する表明保証としては、売主が、株式譲渡契約書の当事者となる前提として必要な事実を表明することとなる。株式譲渡契約書の当事者となる前提として必要な事実が備わっていないのであれば、それは、株式譲渡取引を行う前提を欠くということとなるし、それにより相手方当事者に損害が発生するのであればそれを賠償・補償すべきということとなるし、そもそもそのような場合は、株式譲渡契約を解除すべきということとなるのである。

この①売主に関する表明保証を、以下、具体的に見てみることとする。

意思能力・行為能力に関する表明保証について

第1号は、売主に意思能力・行為能力が存在していることを表明保証している。

民法上、自然人(人)が、法律行為を行うためには、権利能力・意思能力・行為能力が必要である。自然人であれば、権利能力は、当然有している。意思能力とは、行為の結果を弁識し判断できる精神的な能力のことを言い、これがない場合は、法律行為は無効とされる。行為能力制度とは、行為の結果を弁識し判断できる精神的な能力に応じ、法律により、法律行為を行うことを制限する制度である。例えば、成年制度(20歳以下は行為能力を制限)や成年後見制度(成年後見が開始された場合、行為能力が制限)などが存在する。

このような場合、売主は、株式譲渡契約を締結する適切な権限を有していないこととなるため、本号において、そうではないことについて、表明保証を行うのである。

なお、株式譲渡契約書において、売主が、未成年者であることはまま存在する。そのような場合は、未成年者が株式譲渡契約書に押印するのみではなく、法定代理人(通常は両親2名とも)の同意が必要となるため、その同意書を別途取得するか、株式譲渡契約書にその者も法定代理人として押印して頂くこととなる。

また、事業承継M&Aでは、売主が、成年後見制度の適用を受けている成年被後見人であることも存在しうる。ただし、現在の成年後見制度においては、成年被後見人の財産の保全に主眼が置かれており、株式譲渡は、成年被後見人の財産を散逸しやすい現金に変える取引であるとか、成年後見人としては、必ずしも、その株式譲渡が適切な条件・価格なのか責任を持って判断することが困難などの理由で、成年後見人としては、その事業承継M&Aについて責任をもって対処できないということで、成年被後見人を売主とする事業承継M&Aはあまり行われていないものと思われる。

また、そうであるからこそ、事業承継M&Aは、売主が成年被後見人となってしまう前に実施しなければいけない取引ということで(すなわち、売主が認知症になる前でないとM&Aはできない)、必ずしも先送りすることができない課題であるものと思われる。

その他、売主が自然人ではなく、法人の場合も同様に、権利能力・意思能力・行為能力が存在することを表明保証する必要があるが、それは、別紙2の第1号の解説を参照されたい。

契約締結の権限・権能に関する表明保証について

第2号は、売主に、株式譲渡契約締結の権限・権能があること及び必要な手続きを完了していることを、表明保証している。売主が自然人の場合、権利能力・意思能力・行為能力がありさえすれば、通常、株式譲渡契約締結の権限・権能は存在し、必要な手続きはそれ自体存在しないので、あまり重要な規定ではないと言えるが、売主が法人の場合は、重要な規定となる。

法的拘束力及び強制執行可能性に関する表明保証について

第3号は、法的拘束力及び強制執行可能性に関する表明保証である。

すなわち、権利能力・意思能力・行為能力を有する自然人が契約書に署名押印したのであれば、売主が本契約を適法かつ有効に締結したとなるのが通常であるが、違法な契約であればそうはならないし、契約締結過程に瑕疵があってもそうはならない。また、売主が本契約を適法かつ有効に締結したのであれば、通常は、法的拘束力及び強制執行可能性のいずれも存在するが、法的拘束力及び強制執行可能性が欠ける場合もある。

ただ、株式譲渡契約という重要な契約を締結し、株式譲渡という重要な取引を実行するのであるから、売主が本契約を適法かつ有効に締結したということや、法的拘束力及び強制執行可能性が存在することは当然の前提であるため表明保証が求められることとなる。

法令違反・契約違反の不存在に関する表明保証について

第4号は、法令違反・契約違反の不存在の規定である。

株式譲渡契約について、法律違反が存在する場合、その重要性の程度に応じ、株式譲渡契約の全部又は一部が無効となるし、法律以外の政令・規則などの違反が存在する場合、株式譲渡契約の全部又は一部が無効となることもある。また、株式譲渡契約が、売主の締結するその他の規約に抵触する場合、株式譲渡契約が無効になることはないが、対象株式を第三者に譲渡する契約を締結していた場合や、対象株式を譲渡することを禁止する契約を締結していた場合など、株式譲渡の実行に何らかの支障が生ずる可能性がある。株式譲渡に際しては、このような事態を避ける必要があることから、この点に関する表明保証が求められることとなる。

その他、売主が法人の場合は、定款その他の内部規程違反の不存在に関する表明保証が求められる。株式譲渡契約が、定款その他の内部規程違反の場合、法人の株式譲渡契約書の締結が無効であるとの議論も過去存在し、特に事業承継M&Aの場合は、後日、本取引に不満を持った当事者が、これを主張し、株式譲渡契約の無効を争うという事態も発生しないとも限らないため、この点に関する表明保証が求められることとなる。

倒産手続・倒産原因の不存在及び詐害行為の不存在に関する表明保証について

第5号及び第6条は、それぞれ、倒産手続・倒産原因の不存在及び詐害行為の不存在に関する表明保証である。

ここで、倒産とは、法律用語ではないため、一般的に解釈する必要があるが、破産・民事再生・会社更生・特別清算その他国内外の類似の手続を意味するものと理解してよいものと思われる。

売主に倒産手続の開始・申立があり倒産手続きが継続していたり、債務超過、支払不能又は支払停止などの倒産の開始原因が存在している場合、倒産手続きの過程で、管財人から、この株式譲渡の取引が否認されるリスクが存在する可能性がある。

否認とは、倒産状態にある債務者が、会社の重要財産などを廉価で他社に売却するなどの詐害行為や、特定の他社にのみ優先して債務を弁済するなどの偏波弁済を行うなどの行為を行った場合、その行為の効力を否認し、取り消し、その取引の原状回復又は、その他社が取得した利益の返還を求めることができる制度である。

株式譲渡について、管財人からこのような取引の否認をされた場合の悪影響は甚大であり、株式譲渡契約においては、この点に関する表明保証が求められることとなるのである。

また、売主が倒産状態にあり、この株式譲渡の取引が、詐害意図、財産の隠匿等の処分意思又はその他不法な意図に基づく場合、管財人から、この株式譲渡の取引が否認されるリスクが存在する可能性があり、株式譲渡契約においては、この点に関する表明保証が求められることとなるのである。

また、売主が倒産状態でなかったとしても、債権者を害することを知って、株式譲渡・事業譲渡・会社分割を行った場合、債権者は、詐害行為取消権(民法424条[1]・会社法759条4項~7項[2]及び第764条4項~7項[3]並びに第23条の2[4])を行使することができ、その株式譲渡・事業譲渡・会社分割を取り消すことができ、その結果、債権者は、対象会社や対象事業を承継した買主や承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として、直接、債権を請求することができることとなるため、第6条は、売主によるこの株式譲渡という取引が、詐害行為にも該当せず、債権者から詐害行為取消権を行使され、株式譲渡契約が取り消されてしまうことがないことも表明保証させている。

反社会的勢力の排除に関する表明保証について

第7号は、反社会的勢力の排除に関する表明保証である。

ここで、反社会的勢力とは、そのままでは法律用語ではないため、明確な定義をも規定したほうが良いが、現在においては、反社会的勢力という用語もかなり一般化しつつあり、条文を短縮化する場合、そのまま反社会的勢力という用語を使用してしまっても許されることも多いであろう。

いずれにしろ、売主は、反社会的勢力に属したことも取引もないことの2点を、明快に、表明保証して頂く必要があろう。

民法424条(詐害行為取消権)

1 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。

2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

会社法759条(株式会社に権利義務を承継させる吸収分割の効力の発生等)

1 吸収分割承継株式会社は、効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い、吸収分割会社の権利義務を承継する。

2・3 略

4 第一項の規定にかかわらず、吸収分割会社が吸収分割承継株式会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って吸収分割をした場合には、残存債権者は、吸収分割承継株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、吸収分割承継株式会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。

5 前項の規定は、前条第8号に掲げる事項についての定めがある場合には、適用しない。

6 吸収分割承継株式会社が第四項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、吸収分割会社が残存債権者を害することを知って吸収分割をしたことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。効力発生日から二十年を経過したときも、同様とする。

7 吸収分割会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、吸収分割承継株式会社に対して第四項の規定による請求をする権利を行使することができない。

8 以下略

会社法764条(株式会社を設立する新設分割の効力の発生等)

1 新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する。

2・3 略

4 第一項の規定にかかわらず、新設分割会社が新設分割設立株式会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って新設分割をした場合には、残存債権者は、新設分割設立株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

5 前項の規定は、前条第1項第12号に掲げる事項についての定めがある場合には、適用しない。

6 新設分割設立株式会社が第四項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、新設分割会社が残存債権者を害することを知って新設分割をしたことを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。新設分割設立株式会社の成立の日から20年を経過したときも、同様とする。

7 新設分割会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、新設分割設立株式会社に対して第四項の規定による請求をする権利を行使することができない。

8 以下略

会社法23条の2(詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求)

1 譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。

2 譲受会社が前項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡したことを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。事業の譲渡の効力が生じた日から20年を経過したときも、同様とする。

3 譲渡会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、譲受会社に対して第一項の規定による請求をする権利を行使することができない。

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株式の表明保証

■■■別紙1第2■■■■■■■■■■

第2 株式に関する表明保証

1.       対象会社の発行済株式総数は普通株式___株であり、この他の発行済株式又は潜在的株式は存在せず、いずれも適法かつ有効に発行されている。

2.       本件株券は、いずれも対象会社により適法かつ有効に発行された本件株式を表章する真正な株券である。

3.       売主は、本契約に基づき譲渡対象とする本件株式の全部についての完全な権利者であり、対象会社の株主名簿に記載されている株主である。

4.       本契約に基づき譲渡対象とする本件株式に、質権、譲渡担保権等の担保権は設定されておらず、その他何らの負担も存しない。

5.       クロージング日において、対象会社において、買主に本件株式を譲渡するために必要な手続が全て完了している。

別紙1第2 解説

別紙1の第2項は、対象株式に関する表明保証である。

対象株式に関する表明保証について

本契約は、株式譲渡契約であり、取引の対象物は、対象株式であるため、対象株式について、一定の必要な前提事実が揃っていることが非常に重要となることから、株式譲渡契約書においては、対象株式に関する表明保証の規定を設けることが一般的である。

その具体的な、対象株式に関する表明保証であるが、最も重要なのは、対象株式が適法かつ有効に発行されていることである。

対象株式の有効性に関する表明保証について

第1号において、この対象株式が適法かつ有効に発行されていることの表明保証がなされている。対象株式が適法かつ有効に発行されたものではないのであれば、その対象株式は無効であり、この株式譲渡は成り立たない。

また、事業承継M&Aにおいては、対象株式は、対象会社の発行済み株式の全部であることが一般的であるが、全部ではなく一部であることもまま存在する。売主が少数株式をまとめきれない場合や、買主としては過半数又は3分の1超の株式を取得することができさえすれば、対象会社の経営を支配することができるため、それでよしとする場合も多い。

そういう意味で、対象株式の株式数は、第2条で明記されるものの、対象会社の発行済み株式総数数は何株なのか(すなわち、結果として、対象株式は、対象会社の株式の何%なのか)、を売主には表明保証して頂く必要がある。

また、新株予約権などの潜在株式についても、売主には表明保証して頂く必要がある。潜在株式は、法律用語ではないため、本来は定義が必要であるが、一般的には、新株予約権や、旧商法の時代における新株引受権、契約に基づき新株式を発行する義務を負っている場合のその権利、その他新株予約権類似の株式転換権のような権利全てを含む概念である。そのような潜在株式が存在する場合は、将来的に、対象株式の株式割合が変動する可能性があり、そのままでは、買主の目的(事業承継M&Aの目的)が達成されない可能性があるため、売主には潜在株主が存在しない旨を表明保証して頂く必要がある。

もし仮に、対象会社に潜在株主が存在するのであれば、その潜在株式数や権利内容などを特定し、表明保証して頂くとともに、株式譲渡に伴うその処理方法について、株式譲渡契約書の中に約束条項を規定する必要があるものと思われる。

対象株券の有効性に関する表明保証について

第2号は、株券の真正に関する表明保証である。

現行会社法上、株式会社は、原則として、株券不発行会社となっているが、株券発行会社としている会社も多く存在する。そのような株券発行会社においては、株式譲渡の有効要件として、売主から買主に対する株券の引き渡しが必要となる(会社法128条[1])。株券を引き渡さないと株式譲渡が実行できないのである。そうである以上、株券の真正は、株式譲渡において決定的に重要である。したがって、売主に対しては、株券の真正について表明保証して頂く必要がある。

対象株式の株主に関する表明保証について

第3号は、売主が対象株式全ての所有者であることを確認する表明保証である。株式譲渡を行う以上、当然の前提ではあるものの、表明保証とは、本件取引を実行する前提を規定するものであることから、当然、これも表明保証の対象となる。

なお、取引によっては、売主が対象会社の株式のすべてを保有していない場合、複数又は多数の少数株主が存在する場合、売主が少数株主などから対象株式を買い集めたのち、その買い集めた株式も含め売主が保有するすべての対象株式を買主に譲渡する取引を行うことがある。その場合、第3号の表明保証としては、売主が株式譲渡の実行の時点(クロージングの時点)までに対象株式すべてを買い集めることを前提に、クロージングの時点に限定して表明保証を行うということとなる。

対象株式の担保権等の負担の不存在に関する表明保証について

第4号は、担保権等の負担の不存在に関する表明保証である。

買主としては、対象会社の株式として、質権や譲渡担保権などの負担が存在しない、完全な株式を保有したいと考えることが通常である。対象株式に質権や譲渡担保権などの負担が付着している場合、買主は、その対象株式を最終的又は将来的に保有できなくなることも考えられるし、株主権を行使しようとする場合、自由に行使できないこととなる可能性も存在する。

したがって、株式譲渡契約書においては、売主に、対象株式に、質権や譲渡担保権などの負担が付着していないことを表明保証して頂く必要がある。

また、もし仮に、対象株式に質権や譲渡担保権などの負担が付着していた場合は、売主は、クロージングまでに、その負担を除去して頂く必要があり、株式譲渡契約書においても、そのような遵守条項などを規定する必要がある。

対象株式の株式譲渡の手続きの履行に関する表明保証について

第5号は、株式譲渡の手続きの履行に関する表明保証である。

事業承継M&Aにおいては、対象株式は、通常、譲渡制限株式であり、対象株式を買主に譲渡するためには、対象会社の取締役会又は株主総会の承認が必要である。

株式譲渡契約書には、売主の義務として、対象会社の取締役会又は株主総会の承認を、クロージングまでに取得する義務が約束条項として規定されているものの、株式譲渡の当然の前提事項であることもあり、売主には、重複になるものの、対象会社の取締役会又は株主総会の承認をクロージング時において取得完了していることを表明保証して頂いている。

また、第5号は、もし、対象会社において、株式譲渡の手続きとして、それ以外の手続きも必要な場合は、その手続きの履践完了していることを表明保証して頂いている。

会社法128条(株券発行会社の株式の譲渡)

1 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。

2 株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。

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対象会社の表明保証

■■■別紙1第3■■■■■■■■■■

第3 対象会社に関する表明保証

別紙1第3 解説

別紙1の第3部は、対象会社に関する表明保証である。

表明保証の中では最も重要であり、最も議論が多いのが、この対象会社に関する表明保証である。

対象会社に関する表明保証としては、対象会社の運営する事業について、特段の問題はない旨の表明保証が存在するが、事業承継M&Aの対象となる会社について、一切問題がないということは通常ありえず、何らかの問題は存在する。また、事業承継M&Aの過程において、買主は、対象会社のデューデリジェンス(DD)などを行い対象会社の調査を行うものの、事業承継M&Aの場合、対象会社の管理能力の不足などもあり、必ずしも、すべての問題を調査して発見することはできない。したがって、そのような場合においても、可及的に、対象会社に特段の問題がないことを確認するため、この対象会社に関する表明保証が規定される。

以下、本書においては、典型的な、対象会社に関する表明保証の各事項について検討を行う。

■■■別紙1第3第1号■■■■■■■■■■

1. 組織及び構成

対象会社は、日本法に準拠して適法かつ有効に設立され存続している株式会社であり、現在の事業を行うために必要な権限及び権能を有する。

第1号は、対象会社の組織及び構成に関する表明保証である。

事業承継M&Aにおいて、M&Aの対象となる対象会社の組織及び構成は、適法かつ有効に設立かつ存続している必要がある。すなわち、M&Aの取引の対象として、当然なのであるが、対象会社は、適法かつ有効に設立されている必要があり、また、存続している必要もある。また、対象会社は、その事業を行うために必要な権限及び権能を有していることも前提である。したがって、事業承継M&Aの株式譲渡契約書においては、売主に、対象会社の組織及び構成について、表明保証を行って頂いている。

■■■別紙1第3第2号■■■■■■■■■■

2. 財務諸表

(1) 対象会社から買主に提出された貸借対照表、損益計算書及びその他の財務書類は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づいて作成されたものであり、対象会社の財務状況及びその変化を、正確かつ公正に表示している。

(2) 対象会社には、①貸借対照表、損益計算書及びその他の財務書類に表示されている債務、②通常の業務の過程において発生する債務以外には、債務(偶発的債務及び潜在的債務を含む)は存在しない。対象会社は、保証債務及び保証類似債務を負担しておらず、第三者の債務を負担・保証・補填・担保していない。

(3) 対象会社は、直近決算期日以降、その資産・負債・財政状態・経営成績に、悪影響又は変動若しくはその原因となる事実は何ら生じていない。

第2号は、財務諸表に関する表明保証である。

事業承継M&Aで対象会社の企業価値を判断するための最も重要な資料は財務諸表である。

企業会計の基準に基づいていること

多くの財務デューデリジェンス(DD)において、直前3事業年度の財務諸表をベースに対象会社の企業価値を検討することが多い。

ただ、対象会社ごとに、財務諸表の作成に関する方針は異なっており、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準が存在しているため、全く異なっているわけではないものの、会社の実態ごとにある程度会計方針に幅が認められている。そうであるからこそ、事業承継M&Aにおいて、財務諸表をそのまま鵜呑みにすることはできず、財務デューデリジェンス(DD)により、財務会計上の実態を明らかにする作業が非常に重要である。

とはいえ、対象会社の財務諸表が、対象会社の会社の実態を表していることも間違いはなく、対象会社の財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の範囲を超えて粉飾決算になっていないのであれば、一次的には、対象会社の財務諸表を信頼し、企業価値を検討されるべきである。

そこで、売主には、対象会社の財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従った適切なものであることを表明保証して頂く必要がある。

なお、財務諸表の主たるものとしては、貸借対照表と損益計算書であることから、第1号の(1)では、財務状況及びその変化について、財務諸表が正確かつ公正に表示している旨を表明保証して頂いている。

簿外債務(簿外債務、偶発債務及び潜在債務)の不存在について

ただ、売主に財務諸表について表明保証をして頂いただけでは不足である。

すなわち、財務諸表に記載のない財務項目が存在するのである。すなわち、簿外の項目である。そもそも、財務諸表に記載することが求められていないものの、対象会社の企業価値を検討する際には非常に重要となる事項である。

例えば、致傷会社が他社の債務を連帯保証している場合や他社の債務について抵当権を設定している場合が挙げられる。

偶発債務及び潜在債務とは、現実にはまだ発生していないものの将来一定の条件が成立した場合に発生する可能性のある潜在的な債務のことを言い、典型的には、連帯保証の保証債務や、抵当権などの物上保証債務がある。その他にも、事業承継M&Aでよく議論になる偶発債務及び潜在債務としては、デリバティブ取引によるデリバティブ債務や、従業員の未払残業代による労働債務、土壌汚染などによる汚染土壌撤去費用など、訴訟紛争に基づく損害賠償債務などが存在する。

このような偶発債務及び潜在債務は、対象会社の企業価値に大きく影響を与えるものであることから、売主には、これらの不存在について表明保証して頂く必要がある。

後発事象の不存在について

以上の通り、財務諸表に関する表明保証の(1)と(2)において、特定の時点(基準日)の対象会社の財務状態については表明保証して頂いたことになるが、それ以降クロージングまでの期間については、特段、表明保証されていない。すなわち、基準日からクロージングまでの期間は相当な期間が経過しているものと思われ、特に、事業承継M&Aの対象となる会社は、中間決算や四半期決算を行うものではないことが多いため、最悪の場合、基準日からクロージングまでの期間は、1年近くの長期間になることがある。

すなわち、多くの会社は、3月決算であるところ、その場合、多くは、財務諸表が確定するのは、5月末くらいになる。すなわち、5月末くらいに最新の財務諸表が出てきた時点で、2か月遅れの情報になっているのである。そして、翌年5月末にならないと次の最新の財務諸表は出てこない。

したがって、事業承継M&Aの際の対象会社の財務諸表は、最悪の場合、1年くらい古いものである可能性があるのである。

その財務諸表の基準日以降、対象会社に大きな変動が生じていた場合、対象会社の企業価値は大きく変動してしまっている可能性があり、それが株式譲渡価格にも大きく影響を与える可能性がある。したがって、売主には、直前決算期以降、企業価値に悪影響を与える変動は存在していないことを表明保証して頂く必要がある。

なお、表明保証の時点は、株式譲渡契約書締結日とクロージング日であることから、直前決算期以降、株式譲渡契約書締結日とクロージング日までの間、企業価値に悪影響を与えるような事象が発生していないことの表明保証を得られるのであれば、買主としては、想定した対象会社の企業価値を確保できるということとなるのである。

■■■別紙1第3第3号■■■■■■■■■■

3. 資産の所有及び使用権限等

対象会社は、その事業を遂行するために使用している資産を適法に所有し、賃借し、又はその他の方法で使用する権利及び権限を有している。かかる資産には、質権、譲渡担保権等の担保権は設定されておらず、その他何らの負担も存しない。かかる資産については適切に保守と整備がなされており、良好な稼動状態にある。

第3号は、資産の所有及び使用権限等に関する表明保証である。

資産の所有及び使用権限等に関して

対象会社がその事業を運営するためには、事業に供している資産を適切に使用できることが前提であり、何らかの理由でその資産を適切に使用することができない場合、対象会社の事業の運営には支障が生ずることが一般的である。

この資産(その事業を遂行するために使用している資産)であるが、重要なものでは、不動産のみならず、生産設備・工作機械や店舗設備、原材料、仕掛品なども含まれる。

例えば、事業用建物が他人の土地にはみ出して建っており、土地所有者が建物収去明け渡しを請求される可能性が存在したり、建物が未登記であり、建物敷地が第三者に売却されてしまったりした場合、使用継続できなくなってしまう可能性もある。

また、事業承継M&Aの対象となる中小企業、零細企業では、対象会社が使用している土地・建物や工場などの不動産や設備や什器備品等の動産などについて、実際は、対象会社の所有ではなく、オーナー経営者やその親族の個人の所有であることもまま存在する。そのような場合は、対象会社がその不動産や動産を使用継続できる権限を有しているか明らかではなく、事業承継M&Aに際して、対象会社においては、クロージングまでに、それを使用継続することができるよう、併せて、買収するか又は賃貸借契約などを締結し、対象会社において、適法に、使用継続できるようにしてもらう必要がある。

そこで、売主に、これらの資産の所有及び使用権限等について問題ない旨の表明保証をして頂くことが必要となる。

質権や賃借権などの負担の不存在に関して

なお、事業の運営のためには適切に資産が使用できることが必要であれば良いところ、対象会社が所有している資産については、質権や賃借権などの負担が付着していなければ、対象会社が適切に使用できるはずであることから、対象会社がその資産について所有権又はその他の使用権を有していることが必要である。この点、使用権としては、典型的には、賃借権であるが、使用借権の場合もあり、リース(法的には賃貸借である)の場合もある。また、資産に対して、この使用権を妨げるような負担が付着している場合、対象会社はこの資産を事業の運営のために適切に使用できないこととなってしまうため、そのような負担が付着していないことについて、売主には表明保証をして頂く必要がある。

また、土地・建物や工場などの不動産に抵当権が設定されているなど、資産に対して、質権、抵当権、譲渡担保権等の担保権が設定されている場合、その担保の実行に伴い、いつ対象会社が所有権を失うことになるか分からず、対象会社によるその資産の安定的使用に悪影響が生ずることから、それらの負担が付着していないことも、売主には表明保証をしてもらう必要がある。

違法な使用に関して

資産の使用権原に関しては、その他、違法な使用に関しても注意をする必要がある。

例えば、建物が建築基準法に違反した違法建築である場合、最悪、行政から使用停止命令や撤去命令が出される可能性もある。また、工場の敷地が農地のままであり、農地転用許可が得られていない場合もあり、その場合、行政から農地への原状回復命令が出される可能性もある。

また、土地・建物や工場などの不動産について、原所有者が判然としないとか、相続などにより所有者が分散しているとか、登記移転費用を節約するために仮登記で済ましているとか、農地であり所有権移転登記ができないなどの理由で、所有権の移転登記が完了していない不動産が存在することがある。このような不動産については、対抗要件が取得できていないのであるから、第三者が出現した場合、使用継続できなくなってしまう可能性もある。

この場合、買主としては、売主に、これらの資産の所有及び使用権限等について問題ないようにしていただく対応を求めることが必要となる。

資産の稼働状況に関して

また、これらの資産について、事業の運営のためには、適切に運用できる状態でないと意味をなさない。そこで、売主には、これらの資産であるが、良好な状態であることについても表明保証をして頂く必要があろう。

■■■別紙1第3第4号■■■■■■■■■■

4. 契約の継続性

(1)対象会社は、その事業を継続するために必要な取引先等との契約を適法かつ有効に締結しており、契約継続・取引条件の維持に重大な影響を与える事由はなく、また、そのおそれもない。(2)対象会社が締結している取引先等との契約は、本契約に基づく取引が行われても、いずれかの解約若しくは変更又は期限の利益の喪失を招く結果とならない。(3)本契約に基づく取引は、事業継続において必要な取引先等との契約や条件の継続及び維持を妨げるものではない。(4)対象会社の契約において、事業領域の制限その他事業活動の重大な制約は存在せず、また、対象会社の競業避止義務は存在しない。

第4号は、契約の継続性に関する表明保証である。

契約継続・取引条件の維持に関して

企業において重要なのは、有機的組織としての事業であり、事業を構成する主要な要素としては、第3号の資産以外にこの契約が存在する。

対象会社が、事業承継M&Aの後、オーナーが変更になった後も、引き続き事業が継続できるのには、契約が果たす役割は大きい。すなわち、対象会社には、事業承継M&Aの前後通して、取引先などとの間の契約が有効に存在・継続しているからこそ、従前どおりの取引の継続が可能となり、事業の継続が可能となるのである。

そこで、事業承継M&Aの株式譲渡契約書においては、対象会社において、契約の継続性、すなわち、取引先等との契約が有効に存在しており、契約が継続され、かつ取引条件も維持されることについて、売主に表明保証して頂く必要がある。

また、特に、事業承継M&Aにおいては、対象会社が中小企業、零細企業であることもあり、契約書の整備が十分に行われていない。重要な取引先であるにも拘らず、そもそも契約書を作成していなかったり、簡単な覚書程度しか存在していないこともまま存在する。仕入れ先や販売先との契約書であっても、取引基本契約書は存在せず、注文書と請書のみで詳細な条件などは詰めずに取引が行われていることも多い。すなわち、事業承継M&Aの対象会社というのは、オーナー企業であり、オーナー属人的であり、事業承継M&Aを行うことでオーナーが抜けてしまったら十分な収益性を確保的ない可能性のある企業も多く存在するのである。

対象会社に契約書がほとんど存在していないような場合、対象会社が事業承継M&Aで株式譲渡されてしまったりすると、対象会社では、取引先等が従前と同様取引を継続してもらえるか明らかではなく不安であり、かつ、取引を継続してもらえるとしても、従前と取引条件は悪化させられたり、取引の更新と称して、更新料などを求められたり、買主は知らない会社であり信用力も不明ということで保証金を要求されたり、取引条件を変容させられてしまうことも多い。

しかし、そのように、事業承継M&Aにより取引先等との取引が継続できなかったり、取引条件を変容させられてしまったりするようでは、対象会社の企業価値を維持することは出来ず、事業承継M&Aにより対象会社の企業価値を毀損してしまうこととなる。また、買主としても、対象会社の事業を従前どおり運営することができることを前提として企業価値を評価しているにもかかわらず、そのような事態が生ずるようでは、対象会社の企業価値を維持することができず、株式譲渡価格にも悪影響を及ぼすこととなるのである。

したがって、事業承継M&Aの株式譲渡契約書においては、売主に、取引先等との契約継続・取引条件の維持について、表明保証をして頂く必要がある。

チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)に関して

また、取引先等との契約においては、ままチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)(契約書について、M&Aなどで株主や代表者(Control)が変更(Change)したときに、その契約が解除されることになるなどとする条項)が存在する。

すなわち、取引先との契約などにおいて、対象会社の株主や代表者といった支配権(Control)が変更(Change)したときに、その契約に解除事由が発生したり、事前又は事後に、契約の相手方に対して、通知又は届出を行わなければならないとする規定である。

銀行との契約(銀行取引約定)などにおいては、必ずこのチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が規定されており、事前又は事後に、通知又は届出を行う必要があるのである。

また、仕入先や販売先にとっても、安心して取引することができるかが重要であり、仕入先や販売先との取引基本契約書にも、このチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が規定されていることが多い。

M&Aでは、たいていこの支配権の変更を伴うため、チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)の問題が発生する。

これにより、重要な仕入先や取引先との契約が解除されることになると、対象会社の事業の根幹を揺るがすことになる。

ただ、現実のところ、日本においては、新しい対象会社の株主や代表者といった支配権(Control)が相当問題のある人物や会社だったり、当初より非常に小さく信用が無い会社だった利するなど例外的なことが無い限り、通常、このチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が発動され、契約が解除になってしまうようなことは多くはない。

ただ問題は、このチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)を根拠に、同意をするから契約金を増加させてほしいとか、条件を変更し有利にしてほしいとか、このチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)に基づく承諾を取りに行ったところで、ヤブヘビになり、不利な条件を押し付けられる可能性があるという問題がある。

そうであるからこそ、チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が規定されていたとしても、なし崩し的にM&Aを行い、そのまま何事もなかったかのように取引を継続することもある。また、海外企業などのように、M&Aを機会に本気で取引条件の変更を検討し始める会社もありその場合は大きな問題となる。

また、チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が規定されているのが、買主企業のライバル企業だったり、取引に利害関係がある場合のように、本当にM&Aを実行することができるかどうかわからないようなこともある。

いずれにしろ、M&Aのデューデリジェンス(DD)を行い、重要な契約書にチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が規定されていた場合は、契約の相手方の状況をよく分析し、コンタクトするかどうか、どのようにコンタクトするか考え、例えば、クロージング日までに、その取引先からM&A後も、従前と同じ条件で、継続して、取引を行い旨の確約書を入手することを条件にM&Aを実行することもある。

このように、事業承継M&Aにおいて、チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)の存在は非常に重要であり、対象会社の取引先との契約の中に、このチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が存在しなければそれでよいし、また、チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が存在したとしても、事業承継M&Aに伴い、それが発動されることなく、必要な取引先等が解約若しくは変更又は期限の利益の喪失を招くという事態にならなければ、それでよい。

そうであるからこそ、事業承継M&Aにおいては、株式譲渡契約書の中で、売主に、チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が発動されるなどして、必要な取引先等が解約若しくは変更又は期限の利益の喪失を招くという事態にならないことについて表明保証をして頂く必要がある。

事業領域・事業活動を制約する契約に関して

また、その他、第4号においては、対象会社の契約の中に事業領域・事業活動を制約する契約や、競業避止義務を課す契約が存在しないことも表明保証している。このような契約が存在する場合、対象会社の事業の運営の継続性を制約する可能性があることも勿論のこと、対象会社が将来展開する可能性のある事業の展開が制約されてしまう可能性もある。そのような場合、買主がそのような事業の展開を想定していた場合、対象会社の企業価値を毀損し、株式譲渡価格の前提が崩れてしまう可能性がある。また特に、対象会社が、将来的に、買主と合併する場合や、買主のグループ企業と経営統合するような場合、その事業領域・事業活動を制約する契約や、競業避止義務を課す契約が、買主や買主のグループ会社にまで適用されてしまうことになる可能性があり、その場合想定外の企業価値の毀損が生じる。

そこで、事業承継M&Aにおいては、売主にこのような事業領域・事業活動を制約する契約や、競業避止義務を課す契約が存在しないことについての表明保証をして頂くことがある。

■■■別紙1第3第5号■■■■■■■■■■

5. 知的財産権の侵害

対象会社は、その事業を遂行するに当たり、第三者の特許権、意匠権、商標権、著作権その他の知的財産権を侵害しておらず、また、第三者から侵害をしている旨の警告書その他の通知等を受領していない。

第5号は、知的財産権の侵害の不存在に関する表明保証である。

事業承継M&Aにおいては、対象会社の事業の競争力の源(みなもと)が、知的財産権になっている会社はそもそも多くはないものの、反対に、事業管理の杜撰さやコンプライアンス意識の低さから、他社の知的財産権を侵害してしまった状態となっている会社もまま存在する。

対象会社が、他社の知的財産権を侵害している状態となると、対象会社の企業価値を著しく毀損することとなる。

そこで、事業承継M&Aにおいては、株式譲渡契約書の中で、対象会社に知的財産権侵害の不存在につき、売主に表明保証して頂いている。

また、知的財産権を侵害しているか否かについては、一律明快ではなく、専門的判断が必要な場合もあり、知的財産権の侵害について、裁判になった場合、その訴訟対策に必要となる労力や手間暇は尋常ではない。

そこで、知的財産権の侵害が不存在であったとしても、知的財産権に関する紛争や紛争可能性があるのであれば、それは対象会社の企業価値を著しく毀損する可能性がある。

第17号の訴訟又は紛争の不存在に関する表明保証において、知的財産権の侵害に関する訴訟又は紛争の不存在に関する表明保証も含んでいるのであるが、それに加えて、事業承継M&Aにおいては、株式譲渡契約書において、第三者から知的財産権の侵害の警告書などを受領していないことについて、売主に表明保証して頂くことが多い。

なお、対象会社がその事業の運営に必要な知的財産権を適切に保有していなかった場合、それも対象会社の企業価値を著しく毀損することとなるものの、第3号の資産の所有及び使用権限等に関する表明保証の「資産」の中に知的財産権も含まれており、この点については、この株式譲渡契約書においては、第3号において、売主の表明保証がなされている。

■■■別紙1第3第6号■■■■■■■■■■

6. 情報システム

対象会社がその事業を行うにあたり稼働しているシステムは、良好な稼働状態にあり、対象会社は、これを維持するために必要な保守と整備を自ら行うために必要な人員を確保しており、又は、有効な契約に基づき第三者に委託している。

第6号は、情報システムに関する表明保証である。

近時、会社の事業の運営に関して、情報システムの重要性は飛躍的に増大しており、情報システムが、従前どおり、適切に稼働することが、事業承継M&Aにおいて、事業の企業価値を維持するために非常に重要となっている。

そこで、事業承継M&Aにおいては、株式譲渡契約書の中で、対象会社の事業に関する情報システムの稼働の維持継続に問題がない旨、売主に表明保証をして頂くことが多い。

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役員従業員の表明保証

■■■別紙1第3第7号■■■■■■■■■■

7.  役員

対象会社と役員との間には、契約・合意(ただし、任用契約として一般的に合意される内容を除く)は存在しない。対象会社と役員との間には、本件株式の譲渡を条件として対象会社に重大な支払義務を負わせる契約(口頭によるものも含む)も存在しない。

第7号は、役員に関する表明保証である。

特別役員報酬に関して

事業承継M&Aの対象会社は、中小企業、零細企業であることが多く、役員の報酬などについて明らかでない場合や、取締役会の決議が適切に行われていないことが多い。

そのような会社においては、どのような際に、どのような理由で、役員に対して、報酬や賞与が支給されることになっているのか不明であり、想定外の事由により役員に対して報酬や賞与が支給されるようでは、買主からすると、それは対象会社の企業価値の毀損原因であり、株式譲渡価格の前提を崩す事由である。

したがって、事業承継M&Aにおいては、株式譲渡契約書において、役員に対する報酬や賞与の支給その他の待遇などについて、想定外の事由が存在しないことについて、売主に表明保証して頂く必要がある。

特別退職慰労金に関して

また、事業承継M&Aにおいては、事業承継M&Aに伴い、役員が特別に収益を得られるようになっていることもある。すなわち、事業承継M&Aにより対象会社が売却され、対象会社の役員を入れ替える場合、その役員の辞任に伴い、多額の役員退職慰労金その他の金銭などがその役員などに支給されることとされていることがあるのである。いわゆるゴールデン・パラシュート(黄金のパラシュート(多額の役員退職慰労金)をもらって役員が会社を退職することにより会社の企業価値を毀損すること)である。

事業承継M&Aに伴い、対象会社からそのような想定外の役員退職慰労金等の資金の流出が行われるのであれば、買主からすると、それは対象会社の企業価値の毀損であり、株式譲渡価格の前提を崩す事由である。

そこで、事業承継M&Aにおいては、株式譲渡契約書において、その事業承継M&Aが原因で、役員に多額の役員退職慰労金等の支給が行われることがないことについて、売主に表明保証して頂く必要がある。

役員退職慰労金の支払義務に関して

なお、この点、役員の報酬や賞与、役員退職慰労金については、株主総会決議事項であることから、特に、役員退職慰労金については、役員との間で契約や合意(口約束を含む)が存在していたとしても、支給義務は存在しないのであるから、対象会社の企業価値の毀損にはならないのではないかとも思える。

しかし、対象会社と役員との間で契約や合意(口約束を含む)が存在していたのであれば、株主総会決議が存在しない結果、役員退職慰労金の支給義務はないとしても、少なくとも債務不履行にはなるのであり、対象会社からその役員に対する損害賠償責任は認められる可能性はある。

また、対象会社とその役員との間で契約や合意(口約束を含む)が存在していない場合であっても、実質的に、そのような約束が存在したと同視できるような場合や、諸般の事情を総合考慮して、役員退職慰労金を支給しないことが信義則に反するような場合は、役員退職慰労金相当額の支払いが求められることもある。

また、何よりも、役員退職慰労金請求訴訟が提起された場合は、裁判所が、裁判所が、対象会社に対して、大なり小なり役員退職慰労金を支給することを働きかけ、多くの事例では、対象会社が役員退職慰労金を支給する和解が成立しているようであるので、対象会社としては、株主総会決議が存在しないと言っても安心してはいられないということとなり、買主といても、対象会社の企業価値の毀損の可能性のリスクから解放されないということとなる。

■■■別紙1第3第8号■■■■■■■■■■

8. 従業員

(1)対象会社と従業員との間には、就業規則、給与規定、退職金規程以外に、契約又は合意(口頭によるものも含み、雇用契約として一般的に合意される内容を除く)は存在しない。対象会社と従業員との間には、本件株式の譲渡を条件として対象会社に重大な支払義務を負わせる契約(口頭によるものも含む)は存在しない。(2)対象会社が事業の遂行の観点から主要又は重要な従業員の中で、対象会社から退職又は他社への転籍を表明している者は存在しない。

第8号は、従業員に関する表明保証である。

従業員の労働条件に関して

この点、(1)については、従業員の労働条件に関する表明保証である。

事業承継M&Aの対象会社は、中小企業、零細企業であることが多く、従業員の労働条件について、必ずしも明らかになっていない場合も存在する。

ただ、最近では、多くの会社が、就業規則、給与規定、退職金規程くらいは作成し、かつ労働基準監督署に届出を行っているように見受けられる。

また、これ以外に、事業承継M&Aの対象会社である中小企業、零細企業においても、多くの会社が、従業員との間で雇用契約を締結している。

このような状況であれば、第7号の役員の場合とは異なり、どのような際に、どのような理由で、従業員に対して、どの程度の給与や賞与・退職金が支給されることになっているのかは明らかであり、想定外の事由により従業員に対して給与や賞与・退職金が支給されるかは、通常は明らかである。

従業員の特別な労働条件に関して

事業承継M&Aにおいて問題になるのは、就業規則、給与規定、退職金規程に規定されていない給与や賞与・退職金を支給する旨の合意が存在していた場合である。

すなわち、事業承継M&Aの対象会社である中小企業、零細企業では、特定の従業員との間で、ほかの従業員と異なった労働条件の合意をしているケースがまま存在する。また、就業規則、給与規定、退職金規程とは全く異なった給与や賞与・退職金の支給を約束している事例もまま存在する。

すなわち、中小企業、零細企業では、事業の運営が特定の従業員の力量に依存していたり、特定の従業員との力関係で、社長が場当たり的にボーナスの合意をしていたり、近似の人手不足の労働環境下において社長が特定の従業員の引き留めのためにほかの従業員とは異なった給与体系の合意をしていることが多いのである。

事業承継M&Aにおいて、買主は、デューデリジェンス(DD)の過程で、その通常と異なった労働条件について調査を行うのであるが、社長が場当たり的に特別な労働条件について合意していた場合などは、必ずしもすべてを解明できるとも限らない。

このような特別な労働条件は、買主の想定外の事由により従業員に対して給与や賞与・退職金が支給されるようでは、買主からすると、それは対象会社の企業価値の毀損であり、株式譲渡価格の前提を崩す事由である。

したがって、事業承継M&Aにおいては、株式譲渡契約書において、従業員に対する給与や賞与・退職金の支給その他の待遇などについて、想定外の事由が存在しないことについて、売主に表明保証して頂く必要がある。

従業員の退職金に関して

また、事業承継M&Aにおいては、事業承継M&Aに伴い、従業員が特別に収益を得られるようになっていることもある。すなわち、事業承継M&Aにより対象会社が売却され、対象会社の従業員を解雇などする場合、その従業員の解雇などに伴い、その従業員に対して多額の退職金その他の金銭などが支給されることとされていることがあるのである。いわゆるゴールデン・パラシュート(黄金のパラシュート(多額の退職金)をもらって従業員が会社を退職することにより会社の企業価値を毀損すること)である。

事業承継M&Aに伴い、対象会社からそのような想定外の退職金等の資金の流出が行われるのであれば、買主からすると、それは対象会社の企業価値の毀損であり、株式譲渡価格の前提を崩す事由である。

そこで、事業承継M&Aにおいては、株式譲渡契約書において、その事業承継M&Aが原因で、従業員に就業規則、給与規定、退職金規程で想定していない多額の退職金等の支給が行われることがないことについて、売主に表明保証して頂く必要がある。

重要な従業員(キーマン)に関して

次に、(2)については、重要な従業員(キーマン)に関する表明保証である。

事業承継M&Aの対象会社は中小企業、零細企業であり、その事業の運営は、従業員の中でも特定の者、すなわち、重要な従業員(キーマン)が大きな役割を占めていることが多い。中小企業、零細企業においては、事業の運営のノウハウやネットワークは、必ずしも社内で共有されておらず、重要な従業員(キーマン)に固有のものとなっていたり、暗黙知のままになっていることが多く、この重要な従業員(キーマン)が退職してしまうと、対象会社の事業の運営が円滑に進まなかったり、そもそもその事業が継続困難になったり、少なくとも重要な従業員(キーマン)の補充のため複数の従業員が必要になるなど大幅なコスト増要因になることが多く、すわわち、対象会社の企業価値を毀損することとなるのである。

この問題については、事業承継M&Aの実行後、買主主導で、その重要な従業員(キーマン)が保有するノウハウやネットワークを組織共有化する組織改革を行う必要があるものの、事業承継M&Aを、対象会社の企業価値を毀損することなく無事に完遂するためには、まずは、この重要な従業員(キーマン)が、対象会社を退職しないことが前提となる。

したがって、事業承継M&Aにおいては、株式譲渡契約書において、重要な従業員(キーマン)が対象会社を退職する予定ではないことについて、売主に表明保証して頂く必要がある。

■■■別紙1第3第9号■■■■■■■■■■

9.  労使紛争等の不存在

(1)対象会社には、重大な労働争議は存在せず、また、労働組合は存在しない。(2)従業員に関して、支払期限が到来した未払賃金・退職金その他の報酬、又は社会保険料は存在しない。(3)対象会社は、労働関連法規(労働基準法及び労働者災害補償保険法を含むがこれに限らない)を、遵守している。

第9号(1)は、労使紛争等の不存在に関する表明保証である。

■■■別紙1第3第10号■■■■■■■■■■

10. 年金及び保険等

対象会社は、社会保険料その他の保険料・年金掛金等について、期限までに適法に支払われている。対象会社は、加入する社会保険組合や年金基に積立不足など存在せず、保険料・年金掛金等について、特別掛金他の追加資金拠出義務が発生することもない。

第10号は、年金及び保険等に関する表明保証である。

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第三者責任の表明保証

■■■別紙1第3第11号■■■■■■■■■■

11. 製造物責任

対象会社が顧客に提供した製品に関して、瑕疵担保責任、瑕疵修補責任、製造物責任及びその他名称の如何を問わずこれらに類する責任並びにそれらの原因となるべき事由は、存在していない。

第11号は、製造物責任の不存在に関する表明保証である。

製造物責任の不存在に関する表明保証について

事業承継M&Aでは、対象会社が製造業である場合も多く、製造物に欠陥があり、その結果、第三者に損害を与えた場合、その責任は非常に大きなものとなる。また、対象会社が製造業でなくても、製品を仕入れ・販売している場合、その製品に欠陥があった場合、多くの取引先や消費者に損害を与えることとなる。

特に、対象会社が取り扱う製品が部品であり、最終製品の中の非常に小さなもの、重要性の乏しいもの、金額的に小さいものであったとしても、その製品に欠陥があり、最終的に、最終製品に欠陥が生じてしまった場合、その最終製品をひとつひとつ分解して対象会社の製品である部品を呼応関するわけにもゆかないことが多く、その最終製品を廃棄する必要が生じる可能性もあり、その場合の取引先の損害は著しく大きなものになる可能性がある。

すなわち、製造物責任は、対象会社の製品の欠陥の程度と比べて、非常に大きなものになる可能性があるのである。

そういう意味でも、事業承継M&Aにおいて、製造物責任の存否は、非常に重要である。

製造物に関する責任といっても、欠陥のある製品を提供したということで、一般的には、取引先に対する債務不履行責任・瑕疵担保責任・瑕疵収保責任などが発生することが多いものの、これらの責任は、「故意・過失」があった場合に直接の取引先に対して損害賠償責任を負うものである。これに対して、製造物責任法上の製造物責任のように、製造物の欠陥により他人に損害を与えた場合は、「無過失」の場合であっても損害賠償責任を負うとするものであり、不法行為責任や製造物責任法上の製造物責任は、直接の取引先のみならず、直接の取引関係のない最終消費者などに対しても責任を負うものとされており、対象会社が、仮に製品に欠陥を有していた場合の責任は、かなり広くかつ高額になる可能性があるのである。

したがって、事業承継M&Aにおいては、買主としては、売主に、製造物責任の不存在について、表明保証して頂く必要がある。

製造物責任を転嫁できているか否かについて

なお、対象会社に製造物責任が存在するからと言っても、必ずしも対象会社が最終的に責任を負うわけではない。

製造業や製造業でなくても、今日のバリューチェーンは複雑に繋がっている。

例えば、対象会社が、製造業者から欠陥製品を仕入れてそれを使用して中間製品を製造して取引先に卸している場合、対象会社としては結果として欠陥製品を製造しているわけであるため最終的に責任を負いかねないものの、その欠陥の原因は、川上の製造業者が製造した欠陥製品であり、対象会社がその川上の製造業者に対して製造物責任を転嫁できるような取引契約になっているのであれば、対象会社が取引先や最終消費者から製造物責任を追及されたとしても、その川上の製造業者に対して製造物責任を追及することにより、自己の責任を最小化することが可能である。

また、対象会社が取引先との取引契約の中で製造物責任を負担しない旨の契約になっているのであれば、対象会社は取引先に対して製造物責任を負わない結果、製造物責任法上の製造物責任や不法行為責任を追及される可能性は残るものの、自己の責任を最小化できていると評価することができる。

すなわち、全体としては、川下の取引先や最終消費者から製造物責任を追及されたとしても、川上の製造業者へ製造物責任を転嫁できる契約になっているのであれば、対象会社は実質的に製造物責任のリスクを負っていないものと評価することができるのである。

そのためには、このような川上の製造業者や川下の取引先や最終消費者との取引契約は、製造物責任に関する規定としては、全く同じ規定が入っている必要がある。すなわち、全く同じ規定が入っているからこそ、川下の取引先や最終消費者から製造物責任を、川上の製造業者へ転嫁できるのである。この川上の製造業者や川下の取引先や最終消費者との取引契約における製造物責任の規定が全くの「パラレル」になっており、製造物責任のリスクが全くの「パススルー」になっているケースは、事業承継M&Aにおける対象会社においては、ほとんど存在せず、すくなくとも他所なりとも異なっているか、大きく異なっている場合ばかりであり、そのような場合は、何らかの製造物責任(の一部)が対象会社に残ってしまうのである。

製造物責任保険に関して

また、対象会社に製造物責任が残ってしまった場合、対象会社としては、適切な製造物責任保険に加入している必要がある。

製造物責任保険では、通常、対象会社の想定される販売量や推定される製造物責任の損害額などに基づき保険会社のコンサルティングの下、適切な製造物責任が設計され、対象会社としてはそういう保険に加入していることが多い。また、保険契約上、保険期間を徒過してしまうとその期間に生じた損害は保険の対象にならないため、保険契約を失念することなく継続していく必要がある。実際には、保険会社がそのような契約更新を失念することなどありえないものと思われるが、対象会社としても、留意して保険を継続しておく必要がある。

■■■別紙1第3第12号■■■■■■■■■■

12. 保険

対象会社は、事業の遂行に必要な保険に加入しており、当該保険に係る保険料の支払その他の義務を、全て適切に履行している。

第12号は、保険の存在に関する表明保証である。

中小企業、零細企業の事業においては、非常に多くのリスクに取り囲まれており、最終的にヘッジできないリスクも存在する。そのようなリスクは、何らかの方法でカバーするか、又は損害保険などでカバーすることが一般的である。

また、中小企業、零細企業の事業において、今日では、保険会社から非常に幅広い保険商品が販売されており、通常、中小企業、零細企業の事業であれば加入しているような保険であれば、事業承継M&Aの対象会社においても加入していることが、通常期待されるところであり、事業承継M&Aの買主においても、当然、対象会社は、一般的な会社が加入している程度の保険には加入していることを前提として、事業承継M&Aに取り組んでいる。

他方、もし仮に、対象会社がそのような保険に加入しておらず、もし仮に何らかの保険事故が発生した場合、対象会社の企業価値は毀損し、事業承継M&Aの買主の想定する株式譲渡価格はその前提を失うこととなる。

そこで、事業承継M&Aにおいては、売主に、対象会社が必要な保険に加入していることに関する表明保証をして頂く必要がある。

なお、本号において、主として検討されるのは損害保険である。

事業承継M&Aにおいて、よく検出される保険は、火災保険、動産保険、賠償責任保険、製造物責任保険などである。

対象会社が事業に供する資産に付保する保険や対象会社が晒されている損害賠償責任の負担に対応するための保険などが存在する。対象会社においては、事業に供する資産に保険事故が生じても、損害賠償請求されるなどの保険事故が生じても、事業の円滑な運営は妨げられ、対象会社の企業価値が毀損されるのである。

いずれの保険も、通常、対象会社の事業において適切な保険に加入している必要があるものの、多くのケースでは、保険会社のコンサルティングの下、適切な保険商品が設計され、対象会社としてはそういう保険に加入していることが多く、事業承継M&Aの対象会社にも、その通常程度の保険に加入していることが期待される。

また、保険契約上、保険期間を徒過してしまうとその期間に生じた損害は保険の対象にならないため、保険契約を失念することなく継続していく必要がある。この点、保険会社の営業マンの営業は熾烈なところがあり、保険会社がそのような契約更新を失念することなどありえないものと思われるが、対象会社としても、留意して保険を継続しておく必要がある。

■■■別紙1第3第13号■■■■■■■■■■

13. 環境

対象会社は、環境問題に関する法令等の重大な違反はなく、行政機関等による調査手続、クレーム、及び損害賠償等の重大な責任も存在せず、それらが発生する原因となる事実も存在しない。

第13号は、環境問題の不存在に関する表明保証である。

環境問題の不存在に関する表明保証について

今日では、対象会社の事業に及ぼす環境問題のウェイトは大きく、対象会社に重要な環境問題が発覚した場合は、その金銭的負担の大きさから、事業承継M&Aが取り止め(ディールブレーク)になることもまま存在する。

すなわち、事業承継M&Aの対象会社としては、製造業であることも多く、そのような場合、製造の過程で産出される廃棄物や有害物質をどのように処理していたのか、取り扱っていたのかによっては、工場の敷地などの土壌汚染の可能性が高く、地下水などの水質汚濁も発生している可能性も存在する。特に、土壌汚染や水質汚濁が存在した場合、対象会社がその発生源であった場合などは、対象会社にその撤去義務が課されることとなるが、汚染物質撤去に係る費用がとかく多額になりがちである。

また、製造業や不動産業においては、工場や建物において、アスベストを使用していたり、PCBなどを使用するものを保管していたりすることもある。アスベストは、飛散防止の固定化費用や撤去費用も高額になり、また、PCBなどにおいては無害化処理費用が多額であるのみならず、自然環境に流出しないよう専門的な処理をして保管することが求められており、その保管費用も高額になる。

すなわち、対象会社に環境問題が存在していた場合、対象会社の企業価値を毀損する大きな原因になり、その大きさ故に、事後的に、売主から、損失を賠償又は補償してもらうだけでは、買主の損害が原状回復すらできない可能性もあり、事業承継M&Aが取り止め(ディールブレーク)になることもまま存在するのである。

したがって、事業承継M&Aにおいては、買主としては、売主に、対象会社に環境問題が存在しないことについて表明保証をして頂く必要がある。

環境デューデリジェンス(DD)について

なお、M&Aにおいて、このような、土壌汚染や水質汚濁などの可能性を認識した場合、専門の業者に依頼して環境調査をしてもらうことが多い。すなわち、そのような場合に、直ちに、全面的な環境調査を依頼することは、その環境調査自体、非常に費用も高額であることから、行わず、一次調査(書面調査・聞き取り調査など)を行い、その結果、環境汚染の可能性が高い場合、二次調査(初期的現地調査)を行い、その結果、環境汚染の可能性が高い場合、三次調査(採掘調査)を行うとするなど、段階的に調査を行うことが多い。

環境デューデリジェンス(DD)を実施しない場合

また、事業承継M&Aにおいては、環境問題の調査をそもそも行わないことも多い。対象会社の敷地において、事業承継M&A後においても、引き続き、対象会社が、同じ事業を継続するのであり、そうである以上、環境問題の存否に係らず、特段の問題もなく事業を継続することが可能であるからである。すなわち、一般の不動産取引のように、工場を売却し、そこを更地化して、マンションを建築するなどの取引とは異なり、環境問題があった場合、買主がマンションを建築できなくなってしまうというわけではないのである。

ただ、勿論、対象会社が、当面、事業を継続しようとしても、事業に行き詰まり廃業することはあり、その場合、環境問題を解決することなく、対象会社の敷地などを売却できなくなってしまうリスクは残ることとなる。

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公租公課の表明保証

■■■別紙1第3第14号■■■■■■■■■■

14. 公租公課

対象会社は、税務当局に対して適時必要な税務申告書を提出しており、公租公課は適時に全額支払われている。また、公租公課の更正決定、賦課決定その他対象会社が支払うべき金額を増加させる税務当局の処分の原因となる事由は存在しない。

第14号は、公租公課の未払の不存在に関する表明保証である。

公租公課を適時に支払っていることについて

公租公課とは、法人税や消費税などの国税や地方税などと、租税以外の公的な負担である健康保険料や社会保険料などを指すが、これらに限らない。

事業承継M&Aの対象会社において、未払の公租公課が存在していることがあり、そのような未払の公租公課が存在している場合、対象会社の企業価値を毀損することとなり、買主の想定する株式譲渡価格の前提を崩すこととなる。

したがって、事業承継M&Aにおいては、買主としては、売主に対して、対象会社に公租公課の未払の不存在に関する表明保証をして頂く必要がある。

公租公課の増加要因がないことについて

この点、対象会社において、税務当局に、過去、提出した税務申告書に基づく公租公課に未払がある場合、買主としては、損失について、売主に、賠償又は保証して頂くことを求めることになるが、そうではなく、過去、提出した税務申告書に虚偽などがあり、その結果、対象会社が潜在的に未払の公租公課を有している場合についても、買主としては、損失について、売主に、賠償又は保証して頂くことを求めることになる。

また、対象会社が税務申告書を提出し、公租公課を適時に支払ったとしても、その後、事業承継M&Aのクロージングまでに相当の期間が経過し、対象会社において、従前からの未払の公租公課が発生するような税務処理が継続していた場合、仮に、クロージング後に適切に税務申告書を提出し、公租公課を適時に支払ったら、対象会社が支払うべき金額が増加するのであり、そのような場合においても、買主としては、不足することとなる公租公課について、損失として、売主に、賠償又は保証して頂くことを求める必要がある。

固定資産税・都市計画税などの賦課税の不足について

また、公租公課には、法人税や消費税などのような申告税のほかに、固定資産税・都市計画税などの賦課税が存在する。法人税や消費税などの申告税について、公租公課の未払が発生しうるが、固定資産税・都市計画税などの賦課税にも、公租公課の未払が発生しうる。

すなわち、固定資産税・都市計画税については、固定資産の所有者に賦課される公租公課であり、市区町村が税額を計算し、納税義務者に納税額を通知し、納税者はそれに基づき税額を納付する。

基本的に、市区町村が通知した納税額を支払っていれば、公租公課の未払いは発生しないのであるが、この市区町村が通知した納税額が誤っていることがまま存在する。

市区町村が通知した納税額が、本来の納税額よりも高額になっているのであれば、それは、過払い固定資産税・都市計画税の問題となり、過払い固定資産税・都市計画税の還付の問題となるのであり、対象会社の企業価値を毀損するものではない。

他方、市区町村が通知した納税額が、本来の納税額よりも低額になっているのであれば、それは、公租公課の未払いであり、対象会社の企業価値を毀損することとなり、買主の想定する株式譲渡価格の前提を崩すこととなる。

市区町村も、通知した納税額が、過払い固定資産税・都市計画税の還付の問題となることは、担当者の責任問題となることもあり、可及的に避けたいため、固定資産税・都市計画税は、通知した納税額が高額になっていることは少なく、市区町村が過払い固定資産税・都市計画税の還付の問題となることを避けようとした結果なのか、必要以上に低額になっていることがままある。

例えば、建物の区分が真実は鉄筋コンクリートであるにも拘らず、木造となっていたり、事務所や居所であるにも拘らず、多数の来客があり償却の早い商業施設と分類されていたりすることがある。また、違法建築など、建築確認申請をしていない結果、固定資産税・都市計画税を全く課税されていない建物も存在する。また、改築後、大きな建物に建て替わっているのに、改築前の小さな建物のままの床面積のこともある。

償却資産税の未申告について

固定資産税の一種である償却資産税(土地や家屋だけではなく、機械や備品など、いわゆる償却資産に課される固定資産税)は、賦課税ではなく、申告税であるものの、そもそも、事業承継M&Aの対象会社によっては、申告すらしていないこともあり、潜在的な未払の公租公課となっていることがある。

このような場合は、対象会社に、潜在的ではあるものの、未払の公租公課が存在しているということとなるため、買主としては、株式譲渡価格から減額するか、及び/又は売主に、未払の公租公課の不存在に関する表明保証をして頂く必要がある。

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法令遵守の表明保証

■■■別紙1第3第15号■■■■■■■■■■

15. 法令の遵守

対象会社は、関連法令等を遵守しており、関係法令等に基づく関係官署からの指導、処分を受ける事由は存在しない。

第15号は、法令の遵守(コンプライアンス)に関する表明保証である。

ここでは、法令の遵守という表現で、表明保証の対象が必ずしも具体的に特定されていないものの、また、これまでのところで、具体的な法令の遵守に関する表明保証が規定されていたものも存在するが、ここでは、近時の法令の遵守(コンプライアンス)意識の高まりもあり、法令の遵守の全般に関して、売主に表明保証して頂くことが多くなっている。

また、対象会社の事業については、非常に多様であり、網羅的に表明保証を規定したつもりであっても、やはり漏れは存在することが多く、後日、事業承継M&Aに問題が生じ、買主としては、何らかの対応に迫られることが多いものの、表明保証にそのものズバリの規定が存在しないことが多く、本号の関連でも、これまでのところにおいて個別の具体的な法令の遵守に関する表明保証が規定されていたとしても、やはりそれ以外の分野の法令の遵守(コンプライアンス)が維持されていないことも多い。

本号は、そのような場合の包括的なキャッチオールな法令の遵守(コンプライアンス)に関する表明保証となっているのである。

他方、そのような包括的なキャッチオールな法令の遵守(コンプライアンス)に関する表明保証が規定されているのなら、個別の具体的な法令の遵守に関する表明保証は不要ではないかとも思われるものの、包括的なキャッチオールな表明保証は、そのものズバリの表明保証違反であればよいが、そうではない場合、包括的なキャッチオールな表明保証の範囲が必ずしも明らかではないこともあり、そのものズバリの表明保証違反ではない場合は、この表明保証違反を問えない可能性がある。したがって、包括的なキャッチオールな表明保証を規定したとしても、個別の具体的な表明保証も、可及的に、規定することが好ましい。

■■■別紙1第3第16号■■■■■■■■■■

16. 許認可届出等

対象会社は、実施している事業に必要な全ての許認可届出等について、有効に取得、保有しており、又は適切に届出等の手続きをしており、これらの許認可届出等の無効、取消事由は存在しない。

第16号は、許認可届出等に関する表明保証である。

事業承継M&Aの対象会社によっては、その事業の運営遂行のため、所轄当局の許認可を取得する必要がある場合も多い。

特に、事業承継M&Aの対象会社として多く存在する、建設会社などは建設業法に基づき建設業許可を取得する必要がある。また、医療法人や介護施設の場合も、医療法・健康保険法・医療保険法・介護保険法などの許認可を取得する必要があり、飲食店についても、保健所に対する届け出義務などが存在する。このように、対象会社の事業について、業法が存在する場合のみならず、そうでない事業においても、許認可を申請するべき局面は多く存在する。

また、そのような事業において、業法上の許認可が失効したり、無効になったり、取り消された場合、対象会社がその事業を継続できなくなることが一般的である。

対象会社において、許認可の不存在や許認可の取り消しなどがあった場合の企業価値の毀損は著しく、買主の想定する株式譲渡価格の前提を崩すこととなる。

したがって、事業承継M&Aにおいて、買主としては、売主に、対象会社の許認可に問題ない旨の表明保証をして頂く必要がある。

訴訟紛争の表明保証

■■■別紙1第3第17号■■■■■■■■■■

17. 訴訟又は紛争

対象会社には、訴訟その他の争訟は係属しておらず、また、対象会社の事業、資産又は財務状況に悪影響を及ぼす可能性のある紛争は存在せず、また、そのおそれもない。

第17号は、訴訟又は紛争の不存在に関する表明保証である。

事業承継M&Aにおいて、対象会社に、訴訟又は紛争が係属していた場合、その勝ち負けに係らず、対象会社の企業価値を毀損するものであることは明らかであり、買主としては、売主に、対象会社に訴訟又は紛争が不存在である旨の表明保証をして頂く必要がある。

反社会的勢力の表明保証

■■■別紙1第3第18号■■■■■■■■■■

18.  反社会的勢力

対象会社は、反社会的勢力に属したことはなく、また、反社会的勢力との間でいかなる契約又はこれに類する関係(書面であるか否かを問わない)も有していない。

第18号は、反社会的勢力の排除に関する表明保証である。

事業承継M&Aにおいても、対象会社が反社会的勢力に関係していたような場合、買収することができないのは当然のことであり、買主としては、売主に、対象会社が反社会的勢力に関係のない胸の表明保証をして頂く必要がある。

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財務状況の表明保証

■■■別紙1第3第19号■■■■■■■■■■

19. 倒産手続等の不存在

対象会社に対して倒産手続の開始・申立はなく、その開始原因も存在しない。対象会社は、債務超過、支払不能又は支払停止の状態になく、また、そのおそれもない。

第19号は、倒産手続等の不存在に関する表明保証である。

事業承継M&Aにおいて、買主としては、対象会社が倒産状態であるのであれば、買収の対象とはならないであろう。

事業承継M&Aにおいては、売主としては、倒産状態にある対象会社に手を焼き、又は対象会社の銀行対応や資金繰りに翻弄され、その将来性を見通せず、その経営に疲れ果て、対象会社を手放そうとするケースも多く、また、そのように追い詰められた経営者としては、対象会社がそのように倒産状態にあることや資金繰りが非常に厳しいことを隠蔽し、又は特に説明するなどせず、無事に買主を見つけて押し付け、あわよくばいくらかの譲渡対価を得ようと考えている売主は多数存在する。

そのような売主は、不注意な買主を探しているのであり、買主は、対象会社を買収したのちに、対象会社の窮状を知り、対象会社の経営に手を焼くこととなるのである。また、対象会社としては、資金繰りが厳しく、資金繰り破綻をする前に、事業承継M&Aを実行したいという意向を有することも多く、株式譲渡契約締結後、クロージングまでに、対象会社が経営破綻してしまう可能性もあるし、経営破綻直前まで追い詰められてしまうこともある。

筆者らに実際に相談のあったケースでは、売主から買主に対して、クロージング直前に、対象会社に対する資金支援を要請されたケースがある。

買主としては、その時点で、資金支援の要請に応じるか、この事業承継M&Aを中断する(ディールブレークさせる)か、を判断することとなるが、本号のような倒産状態の不存在に関する表明保証が規定されていない場合は、この事業承継M&Aを中断する(ディールブレークさせる)ことすらできないこととなる。

実際、このご相談のケースでは、買主としては、それまで長期間をかけて交渉し、ようやく対象会社を買収するということになったという、それまでのコスト(サンクコストであるが)を考慮し、この事業承継M&Aを実行することとなったのだが、もっと早い段階で、対象会社がそのような状況であることを認識し、交渉を中断することはできなかったのかとの思いである。

買主としては、このように、誤って、倒産状態又はそれに近い状態の対象会社を買収してしまうことのないよう、事前に、入念に、デューデリジェンス(DD)をするべきであるが、事業承継M&Aの買主としては、まだまだデューデリジェンス(DD)することなくM&Aを実行してしまうところもあり、また、M&A仲介業者の中には、デューデリジェンス(DD)を無用なコストとして、実施しないことを推奨しているところもあると聞く。

このような場合であっても、売主と買主が事業承継M&Aの交渉を行う間、それなりの交渉期間を経ることによって、又はクロージングまでそれなりの期間を経ることによって、対象会社のそのような状態を認識した場合、この表明保証によって、未然に、事業承継M&Aを中止することができるのである。

したがって、買主としては、少なくとも、売主に、倒産手続等の不存在に関する表明保証をして頂く必要がある。

■■■別紙1第3第20号■■■■■■■■■■

20. 財務状態等

対象会社の資産、負債、財務状態、事業収益性又は営業に悪影響を及ぼすと認められる事由は生じておらず、将来、かかる事由が生じることを合理的に推認させる事実も存在しない。

第20号は、財務状態等の悪化の不存在に関する表明保証である。

事業承継M&Aにおいては、すでに説明のあったとおり、買主としては、対象会社をデューデリジェンス(DD)し、その判断に基づいて、売主と株式譲渡契約書などを締結し、株式譲渡(クロージング)を実行するのであるが、買主が対象会社をデューデリジェンス(DD)してから、株式譲渡契約書等を締結する時点まで、一定の時間が経過することとなる。また、その後、株式譲渡(クロージング)を実行するまでの期間も、一定の時間が経過することとなる。

しかし、前述のとおり、事業承継M&Aにおいては、対象会社が倒産状態にある場合や、銀行対応や資金繰りに翻弄され、その将来性を見通せない状態にある場合も多数あり、買主が対象会社をデューデリジェンした後、対象会社の財務状態等が一層悪化するケースも多数ある。

買主としては、対象会社のデューデリジェンス(DD)に基づくその企業価値を判断しているのであり、対象会社の財務状況等が一層悪化したのであれば、それは対象会社の企業価値を毀損するものであり、買主の想定する株式譲渡価格の前提を崩すものである。

また、買主としては、株式譲渡(クロージング)を実行するまでの期間に、対象会社に財務状態等の悪化が生じた場合には、この事業承継M&Aを中止するという選択肢がなければならない。

したがって、事業承継M&Aにおいては、買主としては、売主に、対象会社に財務状態等の悪化の不存在に関する表明保証をして頂く必要がある。

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■■■別紙1第3第21号■■■■■■■■■■

21. 業務委託契約の不存在

対象会社は、本件株式の譲渡に関連して、委託売買手数料、代理人手数料、斡旋人手数料又はこれらに類するその他の報酬を支払う義務を第三者に対して負担しておらず、かつ、負担することに合意していない。

第21号は、業務委託契約の不存在に関する表明保証である。

業務委託契約とは

ここで業務委託契約とは、典型的には、すなわち、M&A仲介業者との仲介契約のことを言う。

事業承継M&Aにおいて、近時、多いのであるが、M&A仲介業者が、売主ではなく、対象会社と、M&A仲介契約を締結し、事業承継M&Aが実行されたのち、売主ではなく、対象会社から、成功報酬を得ることが多くなっている。

M&A仲介業者の仲介料とは、一般には、レーマン方式と呼ばれ、概要、下記のように、成功報酬の額が、M&A価格に応じて変動する料率表に基づいて計算される。

ここで、M&A価格とは、株式譲渡では株式譲渡価格、事業譲渡では事業譲渡価格、とされることが多いが、特に、対象会社が経営不振会社や債務超過会社などの場合、株式譲渡価格はとかく著しい低い価格である1円や100万円といった備忘価格となることもあるため、場合によっては、対象会社がM&Aされるということは、対象会社の事業を構成する総資産が譲渡されるのだということで、対象会社の総資産価格(正確には、株式価格と負債の合計額)がM&A価格とされ、これを基準に、成功報酬が計算されることとなる。

M&A価格料  率
取引総額の5億円以下の部分5.0%
取引総額の5億円超10億円以下の部分4.0%
取引総額の10億円超50億円以下の部分3.0%
取引総額の50億円超100億円以下の部分2.0%
取引総額の100億円超の部分1.0%

業務委託料の支払義務者について

しかし、事業承継M&Aの売主としては、会社ではなく個人である場合が多く、個人にとって、対象会社の譲渡価格の5.0%もの成功報酬は非常に高額であり、これの支払いを避けたいという意識が働くものと思われ、対象会社がM&A仲介業者に高額の成功報酬を支払わなければならないことを隠したうえで、又はそのことを特に知らせることなく、事業承継M&Aの実行(クロージング)に持ち込もうとするケースが多く、また、実際に実行(クロージング)しているケースも多く、買主としては、クロージング後に、M&A仲介業者から、対象会社に対して、高額の仲介料の請求が来て、驚き、トラブルに発展するケースが多く存在する。

すなわち、そのような売主側のM&A仲介業者の手数料というものは、本来、買主ではなく、売主が負担するべきものであるところ、対象会社がM&A仲介業者と仲介契約を締結し、対象会社が成功報酬を支払うこととされている場合は、事業承継M&Aの実行(クロージング)に伴い、対象会社が、売主から買主へとオーナーシップが移動することから、結果として、実質的に、買主が売主のM&A仲介業者の成功報酬を負担する事態が発生するのである。

なお、売主によっては、事業承継M&Aの実行(クロージング)前に、M&A仲介業者に成功報酬を支払う主体を対象会社から売主個人に変更する合意を、M&A仲介業者との間で行うケースも多く、また、買主が、対象会社をデューデリジェンス(DD)する過程で、M&A仲介業者との仲介契約の存在を認識し、売主に対して、M&A仲介業者に成功報酬を支払う主体を対象会社から売主個人に変更する合意をするよう要請し、それを前提として、事業承継M&Aの実行(クロージング)を行うケースも多い。

しかし、そのようなこともなく、対象会社が、対象会社の譲渡価格の5.0%もの成功報酬をM&A仲介業者に支払うということとなると、それは、対象会社の企業価値が5.0%毀損されるということであり、買主としては、予めそれを想定して株式譲渡価格を決定していたのならともかく、そうではないのであれば、買主の想定する株式譲渡価格の前提を崩すものである。

買主としては、もしそのような場合、クロージング後に、対象会社がM&A仲介業者に対して、売主の成功報酬を支払うこととなった場合、売主に対して、その損害の賠償又は補償を請求できるようにしておくことが必要となる。

したがって、事業承継M&Aにおいては、買主としては、売主に、対象会社における業務委託契約の不存在に関する表明保証をして頂く必要がある。

業務委託料の支払義務者を対象会社にする場合の問題点について

なお、事業承継M&Aにおいて、対象会社がM&A仲介業者と仲介契約を締結し、対象会社が成功報酬を支払うこととなることにより、売主としては、M&A仲介業者に対する成功報酬の支払いを免れることができて、一見、経済的利益を得た又は得をしたような感覚になるかもしれないが、いずれにしろ、前述のとおり、買主がこの事実を認識すれば、いずれ、株式譲渡価格が減額されるなり、M&A仲介業者に対する成功報酬は売主が負担することを求められるなど、この成功報酬は最終的には売主が負担することとなるのであるし、もし買主がこれを見逃し、買主が成功報酬の負担をすることとなったとしても、買主との間でトラブルになる可能性がある。

また、それよりも問題を深刻化するのは、筆者らに実際に相談のあったケースでは、売主としては、買主の反対にあうことなく、対象会社に、M&A仲介業者に対する成功報酬を負担させることができたのだが、対象会社とM&A仲介業者が仲介契約を締結することにより、売主とM&A仲介業者との間に契約関係がなかったため、売主からM&A仲介業者のコントロールが法的にはできない点、すなわち、事業承継M&Aの実行(クロージング)後、売主が、何らかの理由により、対象会社の責任を追及し、損害賠償請求をしようとしても、契約関係が存在しないということで、これに応じてもらえなかったり、情報開示や資料の提供すらも、契約関係が存在しないということで、これすら拒否される事態が生している。

情報開示の表明保証

■■■別紙1第3第22号■■■■■■■■■■

22. 情報開示の正確性・網羅性

売主が本件の交渉の過程及び買収監査の過程で買主に対して開示した情報はいずれも、真実かつ正確であり、かかる資料又は情報について誤解を生ぜしめ又は不正確にならしめるような事実の省略はなされていない。

第22号は、情報開示の正確性・網羅性に関する表明保証である。

情報開示の正確性に関する表明保証について

事業承継M&Aにおいては、一般的に、事業承継M&Aを実行する前提として、買主による対象会社に対するデューデリジェンス(DD)が行われ、その際に、売主から、対象会社に関する財務書類や契約書類その他の会社の資料や情報が開示される。

しかし、この売主から提示された会社の資料や情報が、真実・正確ではなかったり、重要な資料や情報が開示されていなかったりした場合、買主は、対象会社について、正確なデューデリジェンス(DD)を実行することができず、対象会社の企業価値に関して、正確な評価を行うことができず、対象会社の実体が開示された資料や情報よりも悪い場合、買主の想定する株式譲渡価格の前提が崩れることとなる。

筆者らに実際に相談のあったケースでは、売主が、この情報開示の正確性に関する表明保証を規定することに抵抗を示したケースでは、たいてい、後日、対象会社に関する重要な問題が発見されるに至っている。

また、買主が、この情報開示の正確性に関する表明保証を削除することを拒んだケースにおいては、売主が、後日、表明保証違反の責任を追及されることを恐れ、最終的に、渋々、対象会社に関する重要な問題を開示し、買主としては、無事、株式譲渡価格を調整したり、売主に対して、遵守条項において、特定の対応を約束させることができ、後日、その重要な問題を認識せずに、対象会社を買収することとなった場合に生じえた、社内の混乱を未然に防ぐことができたことが多い。

また、売主によっては、株式譲渡契約において、この情報開示の正確性に関する表明保証が規定されるなら、買主に対象会社を売却しないということで、この表明保証は不要としている他社に売却したケースも存在する。

すなわち、筆者らに実際に相談のあったケースでは、顧客は、そのM&Aにおいては、結局、他社に敗れ、対象会社を買収することができなかったのであるが、そのようなM&Aにおいては、事後的に、対象会社において、想定外の重要な問題が発見され、買主の担当者の責任問題が勃発するなど、近時よく報道される日本企業の外国企業に対するM&Aのような失敗に見舞われるであろうことから、そのM&Aで対象会社を買収できなくて良かったのではないかと思われる。

重要情報の網羅性に関する表明保証について

また、事業承継M&Aにおいては、売主から、本号の前半、すなわち、開示情報の正確性については表明保証可能であるが、本号の後半、すなわち、重要情報の網羅性については、表明保証できないと言われることがある。

売主によると、買主にとってどういうものが重要情報かが分からない、無いことの表明保証は酷であるなどと理由がつけられるのであるが、売主は、対象会社のオーナー経営者なのであるから、どういう情報が重要情報なのか分からないなどということは有り得ず、また、重要情報の非開示の不存在に関する表明保証を規定しなくてよいということになった場合、対象会社が重要な問題を抱えていたとしても、売主は、情報開示することに対するインセンティブを負うことはなく、事業承継M&Aにおいて、そのような重要情報は開示されないままとなってしまう。

しかし、買主としては、そのような前提でのデューデリジェンス(DD)では、対象会社の正確な企業価値を把握することはできず、対象会社の実体が開示された資料や情報よりも悪い場合、買主の想定する株式譲渡価格の前提が崩れることとなる。

したがって、事業承継M&Aにおいては、買主は、売主に、情報開示の正確性に関する表明保証をして頂く必要があるのである。

買主の表明保証

■■■別紙2■■■■■■■■■■

(別紙2)

【買主の表明保証】

1.       買主は、日本法に基づき適法かつ有効に設立され、かつ存続する株式会社であり、現在行っている事業を行うために必要な権限及び権能を有している。

2.       買主は、本契約を締結・履行するために必要な権限・権能を有しており、本契約の締結・履行はその目的の範囲内であり、本契約を締結・履行するために必要な内部手続を完了している。

3.       本契約は、買主により適法かつ有効に締結され、法的拘束力を有し、強制執行が可能である。

4.       買主による本契約の締結・履行は、(i)買主の定款、(ii)売主が当事者となっている契約書等、又は(iii)買主に適用される法律等に違反・抵触しない。

5.       買主に対して倒産手続の開始・申立はなく、その開始原因も存在しない。買主は、債務超過、支払不能又は支払停止の状態になく、また、そのおそれもない。

6.       買主は、本契約の締結にあたり、債権者又は第三者に対する、詐害意図、財産の隠匿等の処分意思又はその他不法な意図を有さない。

7.       買主は、反社会的勢力に属したことはなく、また、反社会的勢力との間で、いかなる合意又はこれに類する関係(書面であるか否かを問わない)を有していない。

別紙2 解説

別紙2は、買主の表明保証である。

買主に関する表明保証としては、別紙1の売主に関する表明保証と同様、買主が、株式譲渡契約書の当事者となる前提として必要な事実を表明保証することが求められる。

株式譲渡契約書の当事者となる前提として必要な事実が備わっていないのであれば、それは、株式譲渡取引を行う前提を欠くということとなるし、それにより相手方当事者に損害が発生するのであればそれを賠償・補償すべきということとなるし、そもそもそのような場合は、株式譲渡契約を解除すべきということとなるのである。

なお、買主に関する表明保証は、別紙1の売主に関する表明保証と同様のことを、買主という反対当事者の側から規定したものである。

ただ、事業承継M&Aの買主は、中堅企業・大企業であることも多く、売主がオーナー経営者個人であることが多いのに対して、買主は法人であることが一般的である。したがって、買主の表明保証は、買主が法人であることを前提に、売主の表明保証とはやや異なることに注意が必要である。すなわち、権利能力・意思能力・行為能力が存在していること、定款等の内部規則に違反していないこと、内部手続きが完了していること、などが表明保証されている。

 

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