株式譲渡契約書の逐条解説 売主の表明保証
弁護士法人M&A総合法律事務所のM&A契約書類のフォーマットはメガバンクや大手M&A会社においても、頻繁に使用されています。
ここに弁護士法人M&A総合法律事務所の株式譲渡契約書のフォーマットを掲載しています。
M&Aを検討中の経営者の皆様でしたらご自由にご利用いただいて問題ございません。
ただし、M&A案件は個別具体的であり、このまま使用すると事故が起きるものと思われ、実際のM&A案件の際には、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談頂くことを強くお勧めします。
また、このフォーマットは弁護士法人M&A総合法律事務所のフォーマットのうちもっとも簡潔化させたフォーマットですので、実際のM&A取引において、これより内容の薄いDRAFTが出てきた場合は、なにか重要な欠落があると考えてよいと思われますので、やはり、実際のM&A案件の際には、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談頂くことを強くお勧めします。
なお、詳細な解説につきましては、以下の弊所書籍「事業承継M&Aの実務」をご覧ください。
株式譲渡契約書の逐条解説 売主の表明保証
■■■別紙1■■■■■■■■■■
別紙1は、売主の表明保証である。 表明保証について表明保証とは、第6条及び第7条のところで説明したように、もともとは英米法上の概念であるが、今日では、日本における契約においても、株式譲渡契約書などのM&A契約書でなくとも、一般的に使用されてきているものであり、契約当事者による対象会社などに関する一定の事実の確認であり、この事実関係を表明することにより、株式譲渡契約書により、表明保証違反があった場合、取引実行の前提条件として機能したり、賠償・補償条項により損害賠償義務・補償義務が発生したり、契約解除事由として機能したりする規定である。 売主の表明保証についてまた、売主の表明保証は、主として、①売主に関する表明保証、②対象株式に関する表明保証、③対象会社に関する表明保証、の3つに大きく分類される。 もちろん、表明保証は、この株式譲渡契約の前提としてあるべき事実関係を確認するものであることから、表明保証の内容としては、これら①②③に限定されるものではなく、事業承継M&Aのストラクチャー(取引構造)によっては、例えば、会社分割を伴う事業承継M&Aの場合はその会社分割に関して前提としてあるべき事実関係など、これらの①②③以外の表明保証類型も必要となることがある。 ■■■別紙1第1■■■■■■■■■■
売主に関する表明保証についてまた、①売主に関する表明保証としては、売主が、株式譲渡契約書の当事者となる前提として必要な事実を表明することとなる。株式譲渡契約書の当事者となる前提として必要な事実が備わっていないのであれば、それは、株式譲渡取引を行う前提を欠くということとなるし、それにより相手方当事者に損害が発生するのであればそれを賠償・補償すべきということとなるし、そもそもそのような場合は、株式譲渡契約を解除すべきということとなるのである。 この①売主に関する表明保証を、以下、具体的に見てみることとする。 意思能力・行為能力に関する表明保証について第1号は、売主に意思能力・行為能力が存在していることを表明保証している。 民法上、自然人(人)が、法律行為を行うためには、権利能力・意思能力・行為能力が必要である。自然人であれば、権利能力は、当然有している。意思能力とは、行為の結果を弁識し判断できる精神的な能力のことを言い、これがない場合は、法律行為は無効とされる。行為能力制度とは、行為の結果を弁識し判断できる精神的な能力に応じ、法律により、法律行為を行うことを制限する制度である。例えば、成年制度(20歳以下は行為能力を制限)や成年後見制度(成年後見が開始された場合、行為能力が制限)などが存在する。 このような場合、売主は、株式譲渡契約を締結する適切な権限を有していないこととなるため、本号において、そうではないことについて、表明保証を行うのである。 なお、株式譲渡契約書において、売主が、未成年者であることはまま存在する。そのような場合は、未成年者が株式譲渡契約書に押印するのみではなく、法定代理人(通常は両親2名とも)の同意が必要となるため、その同意書を別途取得するか、株式譲渡契約書にその者も法定代理人として押印して頂くこととなる。 また、事業承継M&Aでは、売主が、成年後見制度の適用を受けている成年被後見人であることも存在しうる。ただし、現在の成年後見制度においては、成年被後見人の財産の保全に主眼が置かれており、株式譲渡は、成年被後見人の財産を散逸しやすい現金に変える取引であるとか、成年後見人としては、必ずしも、その株式譲渡が適切な条件・価格なのか責任を持って判断することが困難などの理由で、成年後見人としては、その事業承継M&Aについて責任をもって対処できないということで、成年被後見人を売主とする事業承継M&Aはあまり行われていないものと思われる。 また、そうであるからこそ、事業承継M&Aは、売主が成年被後見人となってしまう前に実施しなければいけない取引ということで(すなわち、売主が認知症になる前でないとM&Aはできない)、必ずしも先送りすることができない課題であるものと思われる。 その他、売主が自然人ではなく、法人の場合も同様に、権利能力・意思能力・行為能力が存在することを表明保証する必要があるが、それは、別紙2の第1号の解説を参照されたい。 契約締結の権限・権能に関する表明保証について第2号は、売主に、株式譲渡契約締結の権限・権能があること及び必要な手続きを完了していることを、表明保証している。売主が自然人の場合、権利能力・意思能力・行為能力がありさえすれば、通常、株式譲渡契約締結の権限・権能は存在し、必要な手続きはそれ自体存在しないので、あまり重要な規定ではないと言えるが、売主が法人の場合は、重要な規定となる。 法的拘束力及び強制執行可能性に関する表明保証について第3号は、法的拘束力及び強制執行可能性に関する表明保証である。 すなわち、権利能力・意思能力・行為能力を有する自然人が契約書に署名押印したのであれば、売主が本契約を適法かつ有効に締結したとなるのが通常であるが、違法な契約であればそうはならないし、契約締結過程に瑕疵があってもそうはならない。また、売主が本契約を適法かつ有効に締結したのであれば、通常は、法的拘束力及び強制執行可能性のいずれも存在するが、法的拘束力及び強制執行可能性が欠ける場合もある。 ただ、株式譲渡契約という重要な契約を締結し、株式譲渡という重要な取引を実行するのであるから、売主が本契約を適法かつ有効に締結したということや、法的拘束力及び強制執行可能性が存在することは当然の前提であるため表明保証が求められることとなる。 法令違反・契約違反の不存在に関する表明保証について第4号は、法令違反・契約違反の不存在の規定である。 株式譲渡契約について、法律違反が存在する場合、その重要性の程度に応じ、株式譲渡契約の全部又は一部が無効となるし、法律以外の政令・規則などの違反が存在する場合、株式譲渡契約の全部又は一部が無効となることもある。また、株式譲渡契約が、売主の締結するその他の規約に抵触する場合、株式譲渡契約が無効になることはないが、対象株式を第三者に譲渡する契約を締結していた場合や、対象株式を譲渡することを禁止する契約を締結していた場合など、株式譲渡の実行に何らかの支障が生ずる可能性がある。株式譲渡に際しては、このような事態を避ける必要があることから、この点に関する表明保証が求められることとなる。 その他、売主が法人の場合は、定款その他の内部規程違反の不存在に関する表明保証が求められる。株式譲渡契約が、定款その他の内部規程違反の場合、法人の株式譲渡契約書の締結が無効であるとの議論も過去存在し、特に事業承継M&Aの場合は、後日、本取引に不満を持った当事者が、これを主張し、株式譲渡契約の無効を争うという事態も発生しないとも限らないため、この点に関する表明保証が求められることとなる。 倒産手続・倒産原因の不存在及び詐害行為の不存在に関する表明保証について第5号及び第6条は、それぞれ、倒産手続・倒産原因の不存在及び詐害行為の不存在に関する表明保証である。 ここで、倒産とは、法律用語ではないため、一般的に解釈する必要があるが、破産・民事再生・会社更生・特別清算その他国内外の類似の手続を意味するものと理解してよいものと思われる。 売主に倒産手続の開始・申立があり倒産手続きが継続していたり、債務超過、支払不能又は支払停止などの倒産の開始原因が存在している場合、倒産手続きの過程で、管財人から、この株式譲渡の取引が否認されるリスクが存在する可能性がある。 否認とは、倒産状態にある債務者が、会社の重要財産などを廉価で他社に売却するなどの詐害行為や、特定の他社にのみ優先して債務を弁済するなどの偏波弁済を行うなどの行為を行った場合、その行為の効力を否認し、取り消し、その取引の原状回復又は、その他社が取得した利益の返還を求めることができる制度である。 株式譲渡について、管財人からこのような取引の否認をされた場合の悪影響は甚大であり、株式譲渡契約においては、この点に関する表明保証が求められることとなるのである。 また、売主が倒産状態にあり、この株式譲渡の取引が、詐害意図、財産の隠匿等の処分意思又はその他不法な意図に基づく場合、管財人から、この株式譲渡の取引が否認されるリスクが存在する可能性があり、株式譲渡契約においては、この点に関する表明保証が求められることとなるのである。 また、売主が倒産状態でなかったとしても、債権者を害することを知って、株式譲渡・事業譲渡・会社分割を行った場合、債権者は、詐害行為取消権(民法424条[1]・会社法759条4項~7項[2]及び第764条4項~7項[3]並びに第23条の2[4])を行使することができ、その株式譲渡・事業譲渡・会社分割を取り消すことができ、その結果、債権者は、対象会社や対象事業を承継した買主や承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として、直接、債権を請求することができることとなるため、第6条は、売主によるこの株式譲渡という取引が、詐害行為にも該当せず、債権者から詐害行為取消権を行使され、株式譲渡契約が取り消されてしまうことがないことも表明保証させている。 反社会的勢力の排除に関する表明保証について第7号は、反社会的勢力の排除に関する表明保証である。 ここで、反社会的勢力とは、そのままでは法律用語ではないため、明確な定義をも規定したほうが良いが、現在においては、反社会的勢力という用語もかなり一般化しつつあり、条文を短縮化する場合、そのまま反社会的勢力という用語を使用してしまっても許されることも多いであろう。 いずれにしろ、売主は、反社会的勢力に属したことも取引もないことの2点を、明快に、表明保証して頂く必要があろう。 民法424条(詐害行為取消権)1 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。 2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。 会社法759条(株式会社に権利義務を承継させる吸収分割の効力の発生等)1 吸収分割承継株式会社は、効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い、吸収分割会社の権利義務を承継する。 2・3 略 4 第一項の規定にかかわらず、吸収分割会社が吸収分割承継株式会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って吸収分割をした場合には、残存債権者は、吸収分割承継株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、吸収分割承継株式会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。 5 前項の規定は、前条第8号に掲げる事項についての定めがある場合には、適用しない。 6 吸収分割承継株式会社が第四項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、吸収分割会社が残存債権者を害することを知って吸収分割をしたことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。効力発生日から二十年を経過したときも、同様とする。 7 吸収分割会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、吸収分割承継株式会社に対して第四項の規定による請求をする権利を行使することができない。 8 以下略 会社法764条(株式会社を設立する新設分割の効力の発生等)1 新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する。 2・3 略 4 第一項の規定にかかわらず、新設分割会社が新設分割設立株式会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って新設分割をした場合には、残存債権者は、新設分割設立株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。 5 前項の規定は、前条第1項第12号に掲げる事項についての定めがある場合には、適用しない。 6 新設分割設立株式会社が第四項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、新設分割会社が残存債権者を害することを知って新設分割をしたことを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。新設分割設立株式会社の成立の日から20年を経過したときも、同様とする。 7 新設分割会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、新設分割設立株式会社に対して第四項の規定による請求をする権利を行使することができない。 8 以下略 会社法23条の2(詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求)1 譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。 2 譲受会社が前項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡したことを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。事業の譲渡の効力が生じた日から20年を経過したときも、同様とする。 3 譲渡会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、譲受会社に対して第一項の規定による請求をする権利を行使することができない。 |