医療法人のM&Aと非営利性の問題
医療法人のM&Aにおいて最も留意すべき特殊性の1つに、「医療法人の非営利性」が挙げられます。
医療法人のM&Aにおいては、医療水準の確保等政策的な理由により「非営利性」が厳格に要求されることから、株式会社等一般企業のM&Aの場合と比較して、より多くの制限を受けます。したがって、医療法人のM&Aにおいては、この「医療法人の非営利性」との観点に、特に留意する必要があります。
以下では、医療法人のM&Aの場面において「医療法人の非営利性」が問題となる代表的な事例として、①営利法人が医療法人の社員(オーナー、すなわち株式会社における「株主」に該当する概念)になることができるか、②医療法人と一定の利害関係のある営利法人の役職員が、医療法人の「理事」(株式会社における「役員」に該当する概念)を兼務することができるか、及び③医療法人と一定の利害関係のある営利法人の役職員が、医療法人の「社員」(オーナー)を兼務することができるか、の3点についてご説明いたします。
営利法人が医療法人の社員(オーナー)になることができるか
まず、①営利法人が医療法人の社員(オーナー)になることができるかについて、営利法人は、医療法人に対する「出資」を行うことはできますが、「医療の非営利性」の観点から医療法人の「社員」になることはできないとされています。そして、これに関連して、平成19年4月1 日以前に設立した持分の定めのある社団医療法人について(※)、医療法人の「社員」が医療法人に対し出資を行った場合には(医療法人の社員は必ずしも医療法人に対し出資を行う必要はないため出資を行っていない社員も存在します)、自らが行った出資の払い戻し請求をして、任意に医療法人から「退社」することが可能ですが、他方で、医療法人に対し出資を行った営利法人は、上記のとおり、医療法人の「社員」になることができず、それゆえ「退社」との概念があてはまらないことから、医療法人に対して出資の払い戻し請求をすることができない(医療法人解散時のみ払い戻しを受けることが可能)、というのが厚生労働省の見解です。(※平成19年に施行された改正医療法により、平成19年4月1日以降、持分の定めのある社団医療法人を設立することができなくなりました。)
医療法人と一定の利害関係のある営利法人の役職員が医療法人の「理事」を兼務することができるか
次に、②医療法人と一定の利害関係のある営利法人の役職員が、医療法人の「理事」(株式会社における「役員」に該当する概念です。)を兼務することができるかについては、通達上、限られた例外的な場合を除き、原則として禁止されています(平20年3月30日厚生労働省医政局総務課長「医療法人の役員と営利法人の役職員の兼務について」)。
医療法人と一定の利害関係のある営利法人の役職員が医療法人の「社員」を兼務することができるか
他方、③医療法人と一定の利害関係のある営利法人の役職員が、医療法人の「社員」を兼務することができるかについては、法令及び通達上、何らの制限も存していません。しかし、「医療の非営利性」の観点から、厚生労働省としては消極的な立場にあります。
以上のように、医療法人のM&Aには、株式会社等一般企業のM&Aにはない特殊性があります。したがって、医療法人のM&Aを検討される場合には、十分に留意の上、医療法人のM&Aの実績をもつ専門家に相談されることをお勧めします。