会社分割譲渡契約書の逐条解説|吸収分割契約書の法定記載事項と会社分割譲渡型M&Aにおける株式譲渡契約書の特則

会社分割を用いたM&Aには、大きく二つの型がございます。第一に、買主となる会社が対象事業を直接に承継する型でございまして、この場合に締結されるのが吸収分割契約書でございます。第二に、売主が会社分割によって対象事業を受け皿会社へ切り出したうえで、当該受け皿会社の株式を買主へ譲渡する型でございます。当事務所ではこれを会社分割譲渡型と呼んでおります。この場合には、吸収分割契約書又は新設分割計画書に加えて、株式譲渡契約書が締結されます。

いずれの型を採るかにより、契約書の構造も、注意すべき法的論点も大きく異なります。本稿では、第一部において吸収分割契約書の法定記載事項を逐条的に解説し、第二部以下において実務上必須の条項、会社分割に固有の法的論点及び会社分割譲渡型に固有の株式譲渡契約書の特則を解説いたします。

第一部 吸収分割契約書の法定記載事項

吸収分割契約において定めなければならない事項は、会社法第七百五十八条に列挙されております(承継会社が株式会社である場合)。これらは法定記載事項でございまして、これを欠く吸収分割契約は無効と解されております。同条は第一号から第八号までの八個の事項を定めております。

一 当事会社の商号及び住所(会社法第七百五十八条第一号)

吸収分割会社(切り出す側)及び吸収分割承継株式会社(受け取る側)の商号及び住所を記載いたします。

実務上の留意点でございますが、住所は登記上の本店所在地を、履歴事項全部証明書のとおりに記載いたします。契約締結後、効力発生日までの間に本店移転が予定されている場合には、その旨を注記しておくことが望ましいと存じます。

二 承継する権利義務に関する事項(同条第二号)

吸収分割契約の中核でございます。承継会社が分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項を定めます。

この条項は、通常、契約書本文では「別紙承継権利義務明細表記載のとおり」と定め、実際の内容を別紙に委ねます。この別紙の作成が、会社分割の実務における最大の作業でございます。

第一に、承継する資産を特定できる程度に記載する必要がございます。不動産については登記事項証明書の表示に従い、債権については債務者、発生原因及び金額により特定いたします。包括的に「対象事業に属する一切の資産」とのみ記載する例も見受けられますが、後に承継の有無が争われる原因となりますため、可能な限り個別に列挙すべきでございます。

第二に、承継されない資産及び債務を明示することが有用でございます。特に、簿外債務、偶発債務及び係争中の債務については、承継の対象から除外する旨を明記いたします。

第三に、許認可は原則として承継されません。会社分割は包括承継でございますが、行政法上の許認可は一身専属的な性質を有するため、個別法に承継の規定がない限り承継されないのが原則でございます。もっとも、建設業法は令和二年十月一日施行の改正により、事業の譲渡、合併及び分割について国土交通大臣又は都道府県知事の認可をあらかじめ受けることにより建設業の許可を承継することができる制度を新設いたしました(建設業法第十七条の二、第十七条の三)。他の業法についても個別に確認を要します。

三 分割会社の株式を承継させる場合の事項(同条第三号)

吸収分割により吸収分割会社又は吸収分割承継株式会社の株式を吸収分割承継株式会社に承継させるときの定めでございます。実務上、記載されない例が多うございます。

四 対価に関する事項(同条第四号)

承継会社が分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等について次の事項を定めます。

対価の種類定めるべき事項
承継会社の株式株式の数(種類株式発行会社にあっては種類及び種類ごとの数)又はその算定方法、並びに承継会社の資本金及び準備金の額に関する事項
承継会社の社債社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
承継会社の新株予約権新株予約権の内容及び数又はその算定方法
承継会社の新株予約権付社債ロ及びハに準じた事項
株式等以外の財産(金銭その他の財産)財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法

実務上の留意点でございます。対価を株式とするか金銭とするかは、税務上の取扱いを決定的に左右いたします。法人税法上の適格分割に該当するためには、原則として対価が承継会社の株式のみであること(金銭等不交付要件)を要します(法人税法第二条第十二号の十一)。適格分割に該当すれば資産は帳簿価額で引き継がれ譲渡損益は繰り延べられますが、非適格分割となりますと時価による譲渡があったものとして課税されます。この判断は必ず税理士と連携して行う必要がございます。

なお、会社分割においては、対価を交付しないことも可能でございます。いわゆる無対価分割でございまして、完全支配関係にあるグループ内の組織再編において用いられます。

また、吸収分割の対価は吸収分割会社そのものに交付されますため、合併や株式交換とは異なり、対価の割当てに関する事項を定める必要はございません。この点は、条文の構造を理解するうえで重要でございます。

五 新株予約権者に対する新株予約権の交付に関する事項(同条第五号)

吸収分割会社が新株予約権を発行している場合において、その新株予約権者に対して承継会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法を定めます。分割会社に新株予約権が存在しない場合には、記載を要しません。

六 新株予約権の割当てに関する事項(同条第六号)

前号の場合において、新株予約権者に対する承継会社の新株予約権の割当てに関する事項を定めます。

七 効力発生日(同条第七号)

吸収分割がその効力を生ずる日を定めます。

実務上の留意点でございます。吸収分割は、効力発生日に効力を生じます(会社法第七百五十九条第一項)。登記は効力発生要件ではございません。これに対し、新設分割は設立の登記により新設分割設立会社が成立した日に効力を生じます(同法第七百六十四条第一項)。この差異は、期中の損益の帰属や許認可の切替えの段取りに影響いたしますため、正確に理解しておく必要がございます。

なお、債権者異議手続に一箇月以上を要しますため、効力発生日は契約締結日から少なくとも一箇月半以上先に設定するのが通例でございます。

八 いわゆる分割型分割に関する事項(同条第八号)

吸収分割会社が効力発生日に次のいずれかの行為をするときは、その旨を定めます。

第一に、全部取得条項付種類株式の取得であって、取得対価が承継会社の株式のみであるものでございます。第二に、剰余金の配当であって、配当財産が承継会社の株式のみであるものでございます。

これがいわゆる分割型分割(人的分割)でございます。分社型分割(物的分割)では対価が分割会社に帰属いたしますが、分割型分割では対価が分割会社の株主に帰属いたします。事業承継の場面において、複数の事業を複数の後継者へ分けて承継させる場合に用いられます。

第二部 法定記載事項以外の重要条項

第一部の法定記載事項のみでは、当事者間の危険の分配は全く定まりません。実務上は、次の条項を必ず設けます。

一 表明保証

分割会社が、承継対象事業に関する事実関係について表明し保証する条項でございます。財務諸表の正確性、資産の権利関係、契約の有効性、労務の適法性、租税債務の完納、訴訟の不存在等を対象といたします。

会社分割は包括承継でございますため、承継の対象から除外したはずの債務が承継されてしまう危険が事業譲渡よりも類型的に高うございます。表明保証及びこれに対応する補償条項は、事業譲渡以上に慎重に設計する必要がございます。

二 誓約事項

契約締結日から効力発生日までの間、分割会社が承継対象事業を従前と同様の方法により運営し、重要な財産の処分、多額の借財、重要な使用人の雇用及び解雇等を行わない旨を定めます。

三 前提条件

効力発生日における承継の履行の前提条件を定めます。株主総会の承認決議、債権者異議手続の完了、労働契約承継法上の手続の完了、重要な契約の相手方からの支配権変更条項に基づく承諾の取得、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律上の届出の受理及び待機期間の経過等でございます。

四 競業避止義務

極めて重要な条項でございます。事業譲渡につきましては会社法第二十一条が譲渡会社の競業避止義務を法定しておりますが、会社分割にはこの規定の適用がございません。したがいまして、承継会社が分割会社の競業を制限したいのであれば、契約により明示的に定める必要がございます。この点を看過している契約書が実務上散見されます。

五 解除

効力発生日前における解除事由を定めます。効力発生後の解除は、既に生じた組織法上の効果を覆すこととなり認められませんため、解除権の行使期限を効力発生日の前日までとする旨を明記いたします。効力発生後の救済は、補償条項によることとなります。

第三部 会社分割に固有の法的論点

一 債権者異議手続

吸収分割につき異議を述べることができる債権者に対しては、官報による公告及び個別の催告を要します(会社法第七百八十九条。新設分割につき同法第八百十条)。定款に電子公告又は日刊新聞紙に掲載する方法による公告の定めがあり、これによる公告をしたときは個別の催告を省略することができますが、不法行為によって生じた債務の債権者に対しては個別の催告を省略することができません(同法第七百八十九条第三項ただし書)。

二 詐害的会社分割

優良事業のみを承継会社へ移転し、債務を分割会社に残置する会社分割は、残存債権者を害するものとして問題となります。

平成二十六年改正会社法は、この点につき明文の規定を設けました。分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合、残存債権者は、承継会社に対し、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができます(会社法第七百五十九条第四項。新設分割につき同法第七百六十四条第四項)。

改正前の事案につきましては、最高裁判所平成二十四年十月十二日第二小法廷判決(民集第六十六巻第十号三三一一頁)が、新設分割について民法第四百二十四条の詐害行為取消権の行使を認めております。

三 商号等の続用

承継会社が分割会社の商号を引き続き使用する場合、承継会社は分割会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う場合がございます。

最高裁判所平成二十年六月十日第三小法廷判決(裁判集民事第二百二十八号百九十五頁、判例時報第二千十四号百五十頁)は、預託金会員制ゴルフクラブの事業が会社分割により承継された事案において、承継会社がゴルフクラブの名称を引き続き使用しているときは、会社法第二十二条第一項の類推適用により、承継会社が預託金返還義務を負う旨を判示しております。承継会社の側では、商号又は名称の続用を避けるか、免責の登記又は通知(同条第二項)を行う必要がございます。

四 労働契約承継法上の手続

会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)に基づき、次の手続を要します。

第一に、労働者及び労働組合への通知でございます(同法第二条)。承継対象事業に主として従事する労働者であって承継されない者、及び主として従事していないにもかかわらず承継される者は、異議を申し出ることができます(同法第四条、第五条)。

第二に、労働者の理解と協力を得る努力義務でございます(同法第七条)。いわゆる七条措置と呼ばれます。

第三に、個別の労働者との協議でございます。商法等の一部を改正する法律(平成十二年法律第九十号)附則第五条第一項に基づくもので、いわゆる五条協議と呼ばれます。

最高裁判所平成二十二年七月十二日第二小法廷判決(民集第六十四巻第五号一三三三頁。日本アイ・ビー・エム事件)は、五条協議が全く行われなかったとき、又はその実質を欠くときは、当該労働者は労働契約承継の効力を争うことができる旨を判示しております。会社分割の実務において、五条協議の懈怠は最も重大な瑕疵の一つでございます。

第四部 会社分割譲渡型M&Aにおける株式譲渡契約書の特則

売主が会社分割により対象事業を受け皿会社へ切り出したうえ、当該受け皿会社の株式を買主へ譲渡する型を、当事務所では会社分割譲渡型と呼んでおります。不採算事業や簿外債務を売主側に残置することができるため、買主にとって有利な構造でございます。

この型において締結される株式譲渡契約書には、通常の株式譲渡契約書に加えて、次の特則を設ける必要がございます。

一 会社分割の実行そのものを前提条件とすること

クロージングの前提条件として、会社分割が有効に効力を生じていること、及び承継対象資産が受け皿会社に現に帰属していることを明記いたします。会社分割の効力発生と株式譲渡の実行との間には時間的な前後関係がございますため、この順序を契約上明確にしておかなければなりません。

二 承継漏れ及び承継過剰に関する手当て

承継すべき資産が承継されなかった場合、又は承継すべきでない債務が承継されてしまった場合の処理を定めます。具体的には、売主による追加の移転義務、及び承継過剰債務についての売主の補償義務を定めます。会社分割は包括承継でございますため、この危険は株式譲渡単独の案件よりも高うございます。

三 残存債権者による履行請求への対応

第三部の二に述べたとおり、会社分割が詐害的であると評価されますと、残存債権者は承継会社すなわち受け皿会社に対し、承継した財産の価額を限度として履行を請求することができます。買主は受け皿会社の株式を取得する者でございますから、この危険を負担することとなります。

したがいまして、売主に対し、会社分割が残存債権者を害するものでないことを表明保証させ、これに違反した場合の補償を定める必要がございます。実務上、この条項を欠いている会社分割譲渡型の株式譲渡契約書が相当数ございます。

四 受け皿会社の設立からの沿革に関する表明保証

受け皿会社が会社分割のために新たに設立された会社である場合、設立から株式譲渡までの間の一切の行為について、売主に表明保証させます。

五 税務上の取扱いに関する手当て

会社分割が適格分割に該当するか否か、及び株式譲渡が受け皿会社の適格性に影響を及ぼさないかにつき、専門家の確認を経たうえで、契約上の前提条件に組み込むことが望ましいと存じます。

おわりに

会社分割は、包括承継であることの利便性と引き換えに、事業譲渡には存在しない固有の危険を伴います。特に、競業避止義務が法定されていないこと、詐害的会社分割による残存債権者の履行請求権、及び労働契約承継法上の五条協議の懈怠の三点は、契約書の作成段階で必ず手当てすべき事項でございます。

会社分割を用いたM&A、会社分割譲渡型の事業承継につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所までご相談ください。

参照条文及び裁判例

  • 会社法第七百五十七条から第七百五十九条まで(吸収分割)
  • 会社法第七百六十二条から第七百六十四条まで(新設分割)
  • 会社法第七百八十九条、第八百十条(債権者異議手続)
  • 会社法第二十一条(事業を譲渡した会社の競業の禁止。会社分割には適用がございません)
  • 会社法第二十二条(譲渡会社の商号を続用した譲受会社の責任)
  • 法人税法第二条第十二号の十一(適格分割)
  • 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律
  • 商法等の一部を改正する法律(平成十二年法律第九十号)附則第五条
  • 建設業法第十七条の二、第十七条の三(令和二年十月一日施行)
  • 最高裁判所平成二十年六月十日第三小法廷判決(裁判集民事第二百二十八号百九十五頁)
  • 最高裁判所平成二十二年七月十二日第二小法廷判決(民集第六十四巻第五号一三三三頁)
  • 最高裁判所平成二十四年十月十二日第二小法廷判決(民集第六十六巻第十号三三一一頁)

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