M&A仲介会社の提案書を読みますと、成功報酬は取引金額に応じた料率により算定するとされておりますが、あわせて「ただし、最低手数料を下回る場合には最低手数料とする」という記載があります。当社は規模が大きくありませんので、算定された報酬よりも最低手数料の方が高くなりそうです。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。最低手数料の定めは、取引の規模が小さい場合に、料率による算定額にかかわらず一定額の報酬が発生する仕組みです。小規模な譲渡においては、報酬が譲渡代金に占める割合が相対的に大きくなりますので、手取り額に与える影響を署名の前に確認する必要があります。また、最低手数料が売主及び買主のそれぞれに課される構成であるか、着手金及び中間金と重複するかによっても、負担の総額は異なります。本記事では、確認すべき点を整理いたします。
第1節 最低手数料の定めの仕組み
1 料率による算定との関係
M&A仲介会社の成功報酬は、取引の金額に一定の料率を乗じて算定する方式が広く用いられております。この方式では、金額の区分ごとに料率が段階的に低くなる構成が採られるのが通例です。
この算定方式によりますと、取引の金額が小さい場合には報酬の額も小さくなります。しかし、仲介会社が行う業務の量は、取引の金額に比例して減少するものではありません。相手方の探索、資料の作成、面談の設定、条件の調整といった業務は、規模の大小にかかわらず一定の労力を要します。最低手数料の定めは、この点を踏まえて置かれるものです。
2 算定の基礎となる金額の定義
最低手数料そのものと並んで重要なのは、料率を乗じる基礎となる金額が何であるかという点です。譲渡代金の額を基礎とする定め方のほか、対象会社の負債を加えた額を基礎とする定め方、資産の総額を基礎とする定め方があります。基礎となる金額の定義が異なりますと、同一の取引であっても報酬の額は大きく異なります。
とりわけ、負債を含む金額を基礎とする定め方が用いられている場合には、譲渡代金が小さい取引であっても報酬が相当の額となることがあります。この点は、契約書の定義規定を確認する必要があります。
第2節 小規模な譲渡において生じる影響
表1 報酬に関して確認する事項
| 確認する事項 | 確認の要点 |
|---|---|
| 最低手数料の額 | 金額が明記されているか。消費税の扱いが明確か |
| 算定の基礎 | 譲渡代金か、負債を含む金額か、資産の総額か |
| 負担の主体 | 売主のみか。売主及び買主の双方から受領する構成か |
| 着手金及び中間金 | 成功報酬に充当されるか、別途の負担となるか |
| 実費の扱い | 報酬に含まれるか、別途の請求となるか |
| 不成立の場合 | 既に支払った金銭が返還されるか |
1 手取り額に対する割合
小規模な譲渡においては、最低手数料が譲渡代金に占める割合が相対的に大きくなります。売主が最終的に受け取る金額を検討する際には、仲介会社の報酬のほか、弁護士、公認会計士、税理士といった専門家への報酬、登記に要する費用、譲渡に伴う税の負担を併せて把握する必要があります。
譲渡の可否を判断する前提として、これらの費用を差し引いた後の金額を試算しておくことが重要です。試算をしないまま手続を進め、最終段階で手取り額が想定を下回ることが判明する例が見受けられます。
2 着手金及び中間金との関係
成功報酬のほかに、契約の締結時に着手金、基本合意の締結時に中間金を支払う構成が用いられることがあります。これらが成功報酬に充当されるか、別途の負担となるかは、契約の定めによります。充当されない構成である場合には、負担の総額は成功報酬の額を上回ります。
また、取引が成立しなかった場合に着手金及び中間金が返還されるかという点も、確認を要します。返還しない旨の定めが置かれているのが通例ですので、支払の前にその点を認識しておく必要があります。
3 双方から報酬を受領する構成
仲介の形態においては、仲介会社が売主及び買主の双方から報酬を受領することがあります。この場合、最低手数料もそれぞれに課されることになりますので、取引の全体において生じる報酬の総額は大きくなります。
双方から報酬を受領する構成においては、利益が相反する場面が生じ得ます。仲介会社が中立の立場で調整を行うのか、いずれか一方の代理人として交渉を行うのかという立場の違いを、契約書において確認することが重要です。
第3節 署名の前に確認し、交渉し得る事項
1 金額及び定義の明確化
最低手数料の額、算定の基礎となる金額の定義、消費税の扱いを、契約書において明確にすることを求めます。提案書には概要のみが記載され、契約書に詳細が定められている場合がありますので、両者の記載が一致しているかを確認いたします。
2 算定の基礎に関する交渉
負債を含む金額を基礎とする定めが置かれている場合には、譲渡代金の額を基礎とする方式への変更を申し入れることが考えられます。また、対象会社に役員借入金が計上されている場合には、これを算定の基礎から除外することを求める方法があります。
3 業務の範囲の確認
報酬の額の当否は、仲介会社が行う業務の範囲と併せて検討すべきものです。相手方の探索のみを行うのか、資料の作成、条件の調整、日程の管理までを行うのかによって、業務の量は異なります。契約書における業務の範囲に関する定めを確認いたします。
なお、契約書の作成、法律上の助言、交渉の代理は、弁護士の業務です。仲介会社の業務の範囲に含まれるものではありませんので、これらについては別途に弁護士に依頼する必要があります。この費用も、手取り額の試算に含めておく必要があります。
第4節 小規模な譲渡において採り得る他の方法
1 事業引継ぎに関する公的な支援
各都道府県には、中小企業の事業の引継ぎを支援する公的な機関が設置されております。相談及び相手方の探索について、民間の仲介会社とは異なる費用の体系により支援を受けられる場合があります。規模が小さい譲渡においては、こうした機関の利用を検討する余地があります。
2 相手方が既に定まっている場合
譲渡の相手方が既に定まっている場合、すなわち従業員、役員、取引先、同業者との間で譲渡の話が進んでいる場合には、相手方の探索を要しません。この場合には、仲介会社に依頼することなく、弁護士に契約書の作成及び手続の設計を依頼する方法があります。業務の範囲が限定されますので、費用の構造も異なります。
3 複数の提案の比較
1社の提案のみによって判断するのではなく、複数の仲介会社から提案を受け、報酬の体系を比較することが有用です。比較の際には、成功報酬の料率のみではなく、最低手数料の額、算定の基礎、着手金及び中間金の有無、業務の範囲を併せて比較いたします。
第5節 弁護士に相談する意味
仲介会社の報酬に関して弁護士が行う業務は、金額の当否を論じることにとどまりません。第一に、契約書における報酬の定めが、提案書の説明と一致しているかを検証することです。第二に、算定の基礎、負担の主体、着手金及び中間金の扱い、実費の範囲を明確にする修正を提示することです。第三に、テール条項、中途解約に関する条項と併せて、契約の全体において依頼者が負う負担の総量を把握することです。
報酬に関する定めは、署名の後に変更することが困難です。媒介契約又は仲介契約の案文を受け取った段階でご相談いただくことにより、選択できる範囲が広がります。
具体的な交渉の進め方は、契約の文言、案件の規模、相手方の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 最低手数料の定めは違法ではないのですか。
直ちに違法となるものではありません。事業者間の契約においては、報酬の額を当事者が自由に定めることができるのが原則です。もっとも、説明されていた内容と契約書の定めとが異なる場合には、その点が問題となる余地があります。
質問2 報酬の額を下げてもらうことはできますか。
署名の前であれば、交渉の余地があります。とりわけ算定の基礎となる金額の定義、役員借入金の扱い、着手金及び中間金の充当については、修正が受け入れられることがあります。署名の後は、変更は困難です。
質問3 取引が成立しなかった場合にも最低手数料は発生しますか。
成功報酬としての性質を有する定めであれば、取引が成立しない限り発生いたしません。もっとも、着手金及び中間金は、成立の有無にかかわらず返還されない定めとされているのが通例です。契約書の定めを確認する必要があります。
質問4 規模が小さいと、そもそも仲介会社に依頼できないのでしょうか。
そのようなことはありません。もっとも、報酬の体系が規模に見合うかは、個別に検討する必要があります。公的な支援機関の利用、相手方が既に定まっている場合の直接の交渉といった方法と比較して判断することが望まれます。
質問5 手取り額はどのように試算すればよいですか。
譲渡代金から、仲介会社の報酬、弁護士その他の専門家への報酬、登記に要する費用、譲渡に伴う税の負担を差し引いて試算いたします。税の負担につきましては、税理士にご確認ください。当事務所は税務申告の代理を行うものではありません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&A仲介会社との契約及び報酬に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、仲介会社の提案書、契約書の案文、直近3期分の計算書類をご用意いただけますと、検討が早く進みます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第521条第2項(契約の内容の自由)、第643条及び第656条(委任及び準委任)、第648条(受任者の報酬)
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