テール条項により契約の終了後にも報酬が発生する仕組み

  • 2026年8月20日
  • 2026年8月20日
  • M&A

M&A仲介会社との契約を解約いたしました。ところが契約書を読み返しますと、「本契約の終了後2年以内に、本契約期間中に当社が紹介した相手方との間で取引が成立した場合には、成功報酬を支払う」という条項がありました。既に解約したにもかかわらず、報酬を支払わなければならないのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。このような条項はテール条項と呼ばれ、M&Aの仲介契約及び媒介契約に置かれることが多いものです。契約が終了した後も、一定の期間内に、契約期間中に仲介会社が紹介した相手方との間で取引が成立した場合に報酬が発生する旨を定めます。有効な条項として機能する場合がありますが、適用の範囲は条項の文言によって決まりますので、直ちに支払義務が生じると判断すべきではありません。本記事では、テール条項の仕組みと確認すべき点を整理いたします。

第1節 テール条項とは何か

1 条項が置かれる理由

M&Aの仲介会社は、相手方の探索、資料の作成、面談の設定、条件の調整といった業務を行います。これらの業務に要する費用は、契約の期間中に仲介会社が負担いたします。仲介会社の報酬は、取引が成立した場合の成功報酬を中心とする構成が一般的です。

このため、依頼者が仲介会社の紹介により相手方と知り合った後に契約を終了させ、その相手方と直接に取引を成立させた場合には、仲介会社は費用のみを負担することになります。テール条項は、このような事態を防ぐために置かれるものです。この限度において、条項には合理性が認められます。

2 条項の基本的な構造

テール条項は、通常、次の3つの要素から構成されます。

「本契約の終了後 ①2年 の間に、②本契約の期間中に甲が乙に対して紹介した相手方 との間で、③本件と同種の取引 が成立した場合には、乙は甲に対し、第○条に定める報酬を支払う。」

①が期間、②が対象となる相手方の範囲、③が対象となる取引の範囲です。この3つのいずれについても、条項の文言によって範囲が大きく異なります。

第2節 確認すべき3つの要素

表1 テール条項において確認する事項

要素確認の要点範囲が広くなる書き方の例
期間終了後何年間か。起算点はいつか期間の定めがない、又は長期にわたるもの
相手方の範囲紹介した相手方に限るか。名簿の交付があるか「甲が関与した一切の相手方」といった限定のない記載
相手方の関係者相手方の親会社、子会社、役員が含まれるか「相手方及びその関係者」と広く定めるもの
取引の範囲株式譲渡に限るか。事業譲渡、資本提携等を含むか「一切の資本提携又は業務提携」と広く定めるもの
報酬の額本来の成功報酬と同額か。減額されるか同額とするもの

1 期間

実務上は、契約の終了後1年から3年程度の期間が定められることが多いものです。もっとも、期間の定めが置かれていない条項も見受けられます。期間の定めがない場合には、条項の効力が争われる余地があります。

起算点についても確認を要します。契約の終了の日を起算点とするのが通例ですが、最後に相手方を紹介した日を起算点とする定め方もあり得ます。

2 対象となる相手方の範囲

最も重要な確認点です。「甲が紹介した相手方」と定められている場合には、紹介の事実が争点となります。そこで、誰が紹介した相手方であるかを明確にするため、契約の終了時に相手方の名簿を書面で確認する定めを置くことが望まれます。

「本契約の終了に際し、甲は乙に対し、本契約の期間中に甲が乙に紹介した相手方の名称を記載した書面を交付する。前項の定めは、当該書面に記載された相手方についてのみ適用する。」

この定めがない場合には、契約の終了後に相当の期間が経過してから、「その相手方は当社が紹介したものである」という主張がされることがあります。依頼者が自ら開拓した相手方、又は他の仲介会社から紹介を受けた相手方については、テール条項の対象とならないことを明確にしておく必要があります。

3 対象となる取引の範囲

当初の依頼が株式の譲渡であった場合に、その後に成立した取引が資本提携、業務提携、少数持分の取得にとどまるときに、テール条項が適用されるかという問題があります。条項に「一切の資本提携又は業務提携」と広く記載されている場合には、当初の依頼の範囲を超えて適用される可能性があります。

第3節 テール条項に基づく請求を受けた場合

1 事実関係の確認

請求を受けた場合には、まず次の事実を確認いたします。第一に、契約の終了の日と取引の成立の日との間隔が、条項に定められた期間の内にあるかという点です。第二に、取引の相手方が、条項に定める「紹介した相手方」に該当するかという点です。第三に、成立した取引が、条項に定める取引の範囲に含まれるかという点です。

これらのいずれかが満たされない場合には、条項の適用そのものがないことになります。仲介会社からの請求書に記載された内容をそのまま前提とするのではなく、契約書の文言に照らして一つずつ確認する必要があります。

2 紹介の事実が争われる場合

実務上、最も争いとなりやすいのは、当該相手方が仲介会社の紹介によるものかという点です。依頼者が従前から取引関係を有していた相手方、業界内で既に面識のあった相手方、他の経路から接触があった相手方については、紹介によるものとはいえない場合があります。

この点を明らかにするために、面談の記録、電子メールの往復、仲介会社から交付された資料、他の仲介会社との間の記録を確認いたします。相手方との最初の接触がいつ、いかなる経緯によるものであったかを示す資料が、判断の基礎となります。

3 条項の効力そのものを争う場合

期間が著しく長い場合、対象となる相手方の範囲に限定がない場合、報酬の額が業務の内容に照らして均衡を失する場合には、条項の効力又はその適用の範囲が争われる余地があります。もっとも、事業者間の契約においては、契約の内容を当事者が自由に定めることができるという原則が妥当いたしますので(民法第521条第2項)、条項が直ちに無効となるものではありません。個別の事情に応じた検討を要します。

第4節 署名の前に行う手当て

1 範囲を限定する修正の申入れ

媒介契約又は仲介契約に署名する前であれば、テール条項の範囲を限定する修正を申し入れることができます。具体的には、期間を短縮すること、対象を書面により特定された相手方に限ること、対象となる取引を当初の依頼の内容に対応するものに限ること、報酬の額を減額することが考えられます。

2 契約の解除に関する定めとの関係

仲介契約は、事務の委託を内容とする契約としての性質を有します。委任の規定によれば、各当事者はいつでも契約を解除することができるとされております(民法第651条第1項。準委任について同法第656条)。もっとも、契約において解除の要件、予告の期間、解除の場合の費用の精算を定めることは可能です。

したがって、契約書に中途解約に関する定めが置かれている場合には、その定めとテール条項との関係を併せて確認する必要があります。中途解約金とテール条項による報酬の双方を請求される構成となっていないかという点は、署名の前に確認しておくべき事項です。

3 中小M&Aガイドラインの位置付け

中小企業庁は、中小企業のM&Aに関する指針を公表しております。この指針には、仲介契約の内容の明確化、テール条項の期間及び対象の限定に関する考え方が示されております。指針は法令ではありませんので、直ちに私法上の効力を有するものではありませんが、契約の内容の相当性を検討する際の参考となる場合があります。

第5節 弁護士に相談する意味

テール条項をめぐる問題において弁護士が行う業務は、条項の文言を読むことにとどまりません。第一に、契約書の全体の構造の中で、テール条項、中途解約に関する条項、専任に関する条項がどのように連関しているかを把握することです。第二に、紹介の事実の有無について、資料に基づく主張を組み立てることです。第三に、署名の前の段階であれば、範囲を限定する修正を具体的な文言として提示することです。

請求を受けた後の対応と、署名の前の手当てとでは、採り得る手段が大きく異なります。媒介契約又は仲介契約の案文を受け取った段階でご相談いただくことにより、選択できる範囲が広がります。

具体的な反論の組み立て方及び交渉の進め方は、契約の文言、経緯、案件の規模等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 テール条項は無効ではないのですか。

直ちに無効となるものではありません。仲介会社が費用をかけて相手方を紹介した場合に、その成果のみを享受することを防ぐという目的には合理性があります。もっとも、期間、対象となる相手方及び取引の範囲が過度に広い場合には、その適用の範囲が争われる余地があります。

質問2 自分で見つけてきた相手方にも適用されますか。

条項の文言によります。「甲が紹介した相手方」と定められている場合には、依頼者が自ら開拓した相手方は対象外となります。この点を明確にするため、契約の終了時に相手方の名簿を書面で確認しておくことが望まれます。

質問3 仲介会社が2社ある場合、両方に報酬を支払うことになりますか。

各契約のテール条項の対象となる相手方が重複していなければ、二重の支払は生じません。同一の相手方について双方が紹介を主張する場合には、いずれが先に紹介したかが争点となります。契約ごとに紹介された相手方を書面で管理しておくことが重要です。

質問4 テール条項の期間中は、M&Aを進められないのですか。

そのようなことはありません。テール条項は、報酬の支払義務に関する定めであり、取引そのものを禁止するものではありません。条項の対象とならない相手方との取引には、影響はありません。

質問5 既に契約に署名してしまいました。今からできることはありますか。

あります。契約書の文言を確認し、対象となる相手方及び取引の範囲を明確にする覚書の作成を申し入れる方法があります。また、契約の終了時に相手方の名簿の交付を求めることにより、後の争いを避けることができます。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&A仲介会社との契約及び報酬に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、仲介会社との間の契約書、請求書、紹介を受けた相手方に関する記録、相手方との連絡の記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第521条第2項(契約の内容の自由)、第651条第1項(委任の解除)、第656条(準委任への準用)

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