M&A仲介会社から媒介契約書の案文を渡され、「専任専属」と記載された条項について説明を受けました。他の仲介会社に依頼できないことは理解したものの、自分の知り合いの経営者から「うちが買いたい」と言われた場合にどうなるのかが分かりません。契約期間は1年間で自動更新となっており、途中でやめられるのかも判然といたしません。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。専任専属の媒介契約は、依頼者が他の仲介会社に依頼しないという義務と、自ら発見した相手方との取引についても当該仲介会社を通じて行うという義務の、2つの要素から構成されるのが通例です。後者の要素があるために、知人からの直接の申出であっても報酬が発生する構成となっている例が多くあります。本記事では、専任の類型、確認すべき条項、契約期間の管理、解約の順に整理いたします。
なお、当事務所は、M&A仲介会社からのご紹介によるご依頼もお受けしており、仲介会社との間で良好な関係を築いております。専任専属の定めそれ自体は、仲介会社が相当の費用と時間を投じて買主候補を探索する前提として合理性を有するものです。本記事の趣旨は、契約の当事者となる方が拘束の範囲を理解した上で署名される状態を整えることにあります。
第1節 専任の類型
1 3つの類型
M&Aの媒介契約における専任の定めは、おおむね次の3類型に整理することができます。名称は仲介会社によって異なりますので、名称ではなく条項の内容によって判断いたします。
表1 専任の類型
| 類型 | 他の仲介会社への依頼 | 自ら発見した相手方との直接の取引 | 依頼者の負担 |
|---|---|---|---|
| 一般型 | 可能です | 可能です | 最も軽くなります |
| 専任型 | できません | 可能とされる例があります | 中間に位置します |
| 専任専属型 | できません | できません(仲介会社を通じます) | 最も重くなります |
2 専任専属型の実際の意味
専任専属型の条項は、次のような書きぶりとなっているのが通例です。
「甲は、本契約の有効期間中、本件に関し、乙以外の第三者に対して本件業務と同種又は類似の業務を依頼してはならない。甲が自ら本件取引の相手方を発見した場合においても、乙を通じて交渉を行うものとし、この場合においても第○条に定める報酬が発生するものとする。」
後段が重要です。依頼者自身が相手方を見つけた場合であっても、報酬の支払義務が生ずる構成となっています。中小企業の譲渡においては、同業者、取引先、金融機関からの紹介といった経路で相手方が現れることが少なくありません。専任専属型の契約の下では、これらの経路による取引についても報酬が発生することになります。
3 除外の定めを設ける方法
専任専属型であっても、契約の締結の時点で既に接触している相手方を除外することは、交渉の対象となり得ます。この場合、除外する相手方の名称を契約書の別紙に列挙し、当該相手方との取引については報酬を発生させない旨を定めることが考えられます。
除外の定めを設ける場合には、契約の締結時に相手方を書面で特定しておくことが重要です。後日になって「既に接触していた」と主張しても、その事実を証明することは容易ではありません。
第2節 署名の前に確認する条項
表2 専任専属の媒介契約における確認事項
| 区分 | 確認事項 | 確認しない場合に生じ得る不都合 |
|---|---|---|
| 専任の範囲 | 専任専属か、専任か、一般か | 拘束の程度を誤認したまま署名することになります |
| 業務の範囲 | 依頼する業務の内容が特定されているか | 期待した業務が行われない事態が生じます |
| 除外先 | 既に接触している相手方の除外の有無 | 自ら発見した相手方についても報酬が発生いたします |
| 対象となる取引 | 株式の譲渡に限るか、資本提携一般まで及ぶか | 想定外の取引についても拘束されます |
| 契約期間 | 期間の長さ、自動更新の有無 | 意図せず拘束が継続いたします |
| 中途解約 | 解約の可否、予告期間、解約金の有無 | 途中で終了させることが困難になります |
| 報告義務 | 仲介会社から依頼者への報告の頻度と内容 | 進捗が把握できない状態が続きます |
| 秘密保持 | 依頼者の情報の開示先の範囲 | 意図しない相手方に情報が伝わります |
| 報酬 | 算定の基礎、料率、最低手数料、発生時期 | 想定を超える金額が発生いたします |
| テール条項 | 契約終了後に報酬が発生する期間と対象 | 契約終了後も報酬の支払義務が残ります |
| 免責 | 仲介会社の責任を限定する条項の有無 | 損害が生じても請求が困難となります |
| 合意管轄 | 指定された裁判所 | 遠隔地での応訴を強いられます |
1 業務の範囲が特定されているか
「本件取引の成立に向けた助言及び仲介業務」といった抽象的な記載にとどまる案文があります。何を行い、何を行わないのかが特定されていませんと、後に「その業務は含まれていない」との説明を受けることになりかねません。
特に確認したいのは、企業概要書の作成、買主候補の探索とその範囲、条件の調整、日程の管理、契約書の作成の可否です。契約書の作成は法律事務に当たり得ますので、仲介会社が行う業務には含まれないのが通例です。この点を明確にしておくことは、後の役割分担の整理にも資します。
2 報告義務の定め
準委任の受任者は、委任者の請求があるときはいつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならないとされています(民法第645条、第656条)。もっとも、報告の頻度及び内容は法律に定められていません。
そこで、契約書において、月1回の書面による進捗の報告、打診した買主候補の数、検討を辞退した候補の数といった項目を定めておくことが考えられます。専任専属型の契約においては、依頼者が他の経路を用いることができない以上、進捗の把握は特に重要です。
3 秘密保持と情報の開示先
買主候補の探索のためには、対象会社の情報を第三者に開示する必要があります。開示の範囲、開示に先立つ依頼者の承諾の要否、匿名の状態で開示する情報の内容を確認いたします。従業員及び取引先に取引の検討が伝わることを避けたい場合には、この点が特に重要となります。
第3節 契約期間の管理
1 期間の長さ
契約期間は、6か月から1年程度までとされる例が多く見られます。専任専属型において期間が長い場合、その期間中は他の経路を用いることができません。仲介会社の業務が想定どおりに進んでいない場合であっても、期間の満了まで拘束が続くことになります。
2 自動更新の定め
「有効期間満了の1か月前までにいずれの当事者からも書面による申出がないときは、同一の条件でさらに6か月間更新されるものとし、以後も同様とする」という定めが置かれていることがあります。更新を望まない場合には、期日までに書面による申出を行う必要があります。契約の締結時に、更新拒絶の期限を手帳等に記録しておくことをお勧めいたします。
3 期間の途中で状況が変わった場合
譲渡の方針を撤回する場合、対象会社の業績が大きく変動した場合、経営者の健康上の事情が生じた場合など、期間の途中で前提が変わることがあります。このような場合に契約を終了させることができるかは、中途解約の定めによります。
第4節 解約とその後
1 委任及び準委任の解除に関する原則
委任の各当事者は、いつでもその解除をすることができるとされています(民法第651条第1項)。準委任にも準用されます(民法第656条)。もっとも、相手方に不利な時期に解除したとき、又は委任者が受任者の利益をも目的とする委任を解除したときは、やむを得ない事由があった場合を除き、相手方に生じた損害を賠償しなければならないとされています(民法第651条第2項)。
2 契約上の中途解約の定め
媒介契約書には、これとは別に、次のような定めが置かれることがあります。
- 中途解約には30日前の書面による予告を要する旨
- 中途解約の場合に一定の金額を支払う旨
- 中途解約の場合に既払の着手金及び月額報酬を返還しない旨
このうち、一定の金額の支払を定める条項については、金額の水準、業務の進捗の程度、解約に至った経緯を踏まえた検討を要します。
3 テール条項との関係
契約が終了しても、テール条項が定められている場合には、一定の期間内に仲介会社が紹介した相手方との間で取引が成立したときに報酬が発生いたします。解約を検討する際には、テール条項の対象となる相手方と期間を確認しておく必要があります。
契約の終了に際して、テール条項の対象となる相手方の一覧を書面で確定させておくことが、後の紛争の予防に資します。
4 契約の終了に際して確認しておく事項
表3 媒介契約の終了に際して確認する事項
| 確認事項 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 終了の日 | 期間満了によるか、中途解約によるか、その日付 |
| 紹介済みの相手方 | テール条項の対象となる相手方の一覧を書面で確定します |
| 既払の金員 | 着手金、月額報酬、中間金の返還の有無 |
| 開示済みの資料 | 対象会社の資料の返還又は廃棄 |
| 秘密保持義務 | 契約終了後の存続期間 |
| 対象会社の情報 | 買主候補に対して既に開示された情報の範囲 |
このうち特に重要であるのは、テール条項の対象となる相手方の一覧を書面で確定することです。これを行わないまま契約を終了させますと、後に別の経路で取引が成立した場合に、当該相手方が紹介済みの相手方であったか否かが争点となり得ます。
5 専任専属の契約と他の専門家への相談との関係
専任専属の定めは、同種の仲介業務を他の者に依頼することを禁ずるものです。これに対して、弁護士に対して契約書の検討を依頼すること、税理士に対して税務上の取扱いを確認すること、公認会計士に対して財務の分析を依頼することは、仲介業務とは性質を異にいたします。契約書の文言が広範に過ぎる場合には、専門家への相談が除外されることを明確にしておくことが望まれます。
第5節 弁護士に相談する意味
媒介契約書は、M&Aの取引において最初に署名する契約書であることが多く、その後の数か月から1年以上にわたって当事者の行動を規律いたします。弁護士が行う業務は、専任の範囲、契約期間、報酬、テール条項、解約の各条項を相互の関係において整理し、依頼者の実情に照らして必要な修正を検討することにあります。
既に媒介契約を締結された後であっても、拘束の範囲と残存期間を確認することには意味があります。解約を検討する場合には、契約上の定めと民法の規定との関係、既払の金員の扱い、テール条項の適用範囲を整理することになります。
具体的な交渉の進め方は、案件の進捗、当事者の関係、案件の規模等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 専任専属の契約でも、知人から直接に買いたいと言われた場合は自由に取引できますか。
専任専属型の条項が置かれている場合、仲介会社を通じて交渉することとされ、報酬も発生する構成となっているのが通例です。契約の締結前に既に接触していた相手方については、別紙に列挙して除外する定めを設けることを検討いたします。
質問2 複数の仲介会社に同時に依頼することはできますか。
一般型の契約であれば可能です。専任型及び専任専属型では、契約上できないこととされています。複数の仲介会社に依頼することには、買主候補の探索の幅が広がる利点がある一方、対象会社の情報が広く流通するという別の問題も生じます。いずれを選ぶかは事案によります。
質問3 契約期間の途中で解約すると、違約金を支払わなければなりませんか。
契約の定めによります。中途解約金の定めが置かれている場合には、その金額の水準と業務の進捗を踏まえた検討を要します。定めが置かれていない場合には、民法の規定に従って処理されることになります。
質問4 仲介会社が何も報告してくれません。
準委任の受任者は、委任者の請求があるときはいつでも処理の状況を報告する義務を負います(民法第645条、第656条)。まずは書面により報告を求めることが考えられます。契約書に報告に関する定めが置かれている場合には、その定めに基づいて求めることになります。
質問5 自動更新の期限を過ぎてしまいました。
更新後の契約期間について拘束が継続することになります。もっとも、中途解約の可否は別途検討の余地があります。契約書の全体を確認した上で、採り得る選択肢を整理いたします。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&Aの媒介契約に関するご相談を、売主側及び買主側の双方からお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、媒介契約書又は財務助言契約書の案文、報酬に関する説明資料、これまでの連絡の記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第643条(委任)、第644条(受任者の注意義務)、第645条(報告義務)、第648条(報酬)、第651条第1項及び第2項(委任の解除)、第656条(準委任)
弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
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