M&A仲介会社から媒介契約書の案文を渡されたところ、報酬の条項に「移動総資産に対してレーマン方式により算定する」と記載されておりました。譲渡代金の予定額から手数料を計算していたところ、実際にはそれよりもかなり大きな金額になるという説明を受けました。最低手数料の定めもあり、規模の小さい取引では譲渡代金に対する割合が非常に高くなるように見えます。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。M&A仲介会社の手数料は、料率そのものよりも、料率を乗ずる「算定の基礎」によって金額が大きく変わります。同じ料率であっても、株式の譲渡代金を基礎とするか、有利子負債を加えた金額を基礎とするか、負債の総額を加えた金額を基礎とするかによって、算定される金額は数倍に及ぶ差が生じ得ます。本記事では、報酬の種類、算定方式の読み方、最低手数料、契約終了後の報酬に関する定めの順に整理いたします。
なお、当事務所は、M&A仲介会社からのご紹介によるご依頼もお受けしており、仲介会社との間で良好な関係を築いております。本記事は、仲介会社の報酬が不当であるという趣旨のものではありません。仲介会社は、買主候補の探索、条件の調整、日程の管理という実務上不可欠な役割を担っており、その対価としての報酬には合理性があります。本記事の趣旨は、契約の当事者となる方が、報酬の算定の仕組みを理解した上で署名される状態を整えることにあります。
第1節 報酬の種類
1 4つの類型
表1 M&A仲介会社の報酬の類型
| 類型 | 発生の時期 | 一般的な性質 | 確認する点 |
|---|---|---|---|
| 相談料 | 正式な契約の締結前 | 無償とする例が多く見られます | 有償である場合の金額 |
| 着手金 | 媒介契約の締結時 | 成約の有無にかかわらず発生いたします | 返還の有無、金額の水準 |
| 月額報酬 | 契約期間中、毎月 | 継続的な業務の対価とされます | 上限の有無、成功報酬への充当の有無 |
| 中間金 | 基本合意書の締結時等 | 成功報酬の一部前払とされる例があります | 破談の場合の返還の有無 |
| 成功報酬 | 最終契約の締結時又は決済時 | 算定方式により金額が定まります | 算定の基礎、料率、発生時期 |
近年は、着手金及び月額報酬を設けず、成功報酬のみとする例も見られます。他方で、着手金を設ける代わりに成功報酬の料率を抑える構成もあります。総額として比較することが重要です。
2 成功報酬の発生時期
成功報酬の発生時期を「最終契約の締結時」とするか「決済の完了時」とするかは、実務上重要な差異を生じます。最終契約の締結時とされている場合、その後に前提条件が充足されず決済に至らなかったときであっても、報酬の支払義務が生じ得る書きぶりとなっていることがあります。
また、「最終契約の締結時に50パーセント、決済の完了時に50パーセント」というように分割して定める例もあります。この場合、決済に至らなかったときの前半部分の扱いを確認する必要があります。
第2節 算定の基礎による差異
1 レーマン方式の仕組み
レーマン方式とは、算定の基礎となる金額を段階に区分し、区分ごとに異なる料率を乗じて合算する方式です。一般的には次のような料率が用いられます。
表2 レーマン方式における一般的な料率の区分
| 算定の基礎となる金額の区分 | 料率 |
|---|---|
| 5億円以下の部分 | 5パーセント |
| 5億円を超え10億円以下の部分 | 4パーセント |
| 10億円を超え50億円以下の部分 | 3パーセント |
| 50億円を超え100億円以下の部分 | 2パーセント |
| 100億円を超える部分 | 1パーセント |
料率の区分は仲介会社によって異なります。上記は説明のための一般的な例であり、すべての仲介会社がこの区分を採用しているものではありません。
2 算定の基礎の4類型
金額の差を生むのは、料率ではなく算定の基礎です。
表3 算定の基礎の類型
| 類型 | 算定の基礎となる金額 | 売主から見た金額の大きさ |
|---|---|---|
| 株式価値基準 | 株式の譲渡代金の額 | 最も小さくなります |
| オーナー受取額基準 | 株式の譲渡代金に役員退職慰労金等を加えた額 | 株式価値基準よりやや大きくなります |
| 企業価値基準 | 株式の譲渡代金に有利子負債の額を加えた額 | 借入れが多い会社では大きくなります |
| 移動総資産基準 | 株式の譲渡代金に負債の総額を加えた額 | 最も大きくなります |
3 仮設例による比較
以下は説明のための仮設例です。実際の金額は個々の取引の条件によって異なります。
対象会社の貸借対照表上、資産の総額が8億円、負債の総額が6億円(うち金融機関からの借入れが4億円、買掛金その他の負債が2億円)、純資産が2億円であるとします。株式の譲渡代金を2億円とし、料率は表2の区分によるものといたします。
表4 算定の基礎による成功報酬の差異(仮設例)
| 類型 | 算定の基礎 | 成功報酬の額 | 譲渡代金に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 株式価値基準 | 2億円 | 1,000万円 | 5パーセント |
| 企業価値基準 | 2億円+4億円=6億円 | 5億円×5パーセント+1億円×4パーセント=2,900万円 | 14.5パーセント |
| 移動総資産基準 | 2億円+6億円=8億円 | 5億円×5パーセント+3億円×4パーセント=3,700万円 | 18.5パーセント |
同じ料率であっても、算定の基礎が異なることにより、成功報酬の額は1,000万円から3,700万円まで変動いたします。譲渡代金に対する割合で見れば、5パーセントから18.5パーセントまでの差が生じます。この差は、料率の交渉によって生ずる差よりもはるかに大きいものです。
したがって、媒介契約書の報酬条項を読む際には、まず算定の基礎がいずれの類型であるかを確認することが出発点となります。「レーマン方式により算定する」とだけ記載され、算定の基礎が明示されていない案文については、その定義を明確にしていただく必要があります。
4 買主側から見た場合
買主が仲介会社と契約する場合も、同様の構造が当てはまります。買主にとっては、支払う譲渡代金に加えて仲介手数料が投資額に上乗せされることになりますので、投資判断の前提として手数料の額を織り込む必要があります。移動総資産基準が用いられている場合、対象会社の負債の額が大きいほど手数料も大きくなります。
第3節 最低手数料
1 最低手数料の定め
多くの媒介契約書には、「前項により算定した金額が金○○万円に満たない場合には、金○○万円とする」という最低手数料の定めが置かれています。金額としては、500万円から2,500万円程度までの幅で定められている例が見られます。
最低手数料の定めそれ自体に問題があるものではありません。仲介会社の業務量は取引の規模に完全には比例せず、小規模な取引であっても一定の業務量を要するためです。
2 小規模な取引において生ずる問題
問題が生ずるのは、譲渡代金の額が最低手数料に比して小さい場合です。
譲渡代金が3,000万円、最低手数料が1,000万円であるとしますと、手数料は譲渡代金の33パーセントに相当いたします。売主と買主の双方が同一の仲介会社と契約している場合、双方が最低手数料を負担することになりますので、取引全体で2,000万円の手数料が発生することになります。
このため、譲渡代金の見込額が小さい案件については、媒介契約の締結の前に、最低手数料の水準と見込額との関係を確認しておく意味があります。
3 着手金及び中間金と最低手数料との関係
着手金及び中間金が成功報酬に充当されるか否かは、契約によって異なります。充当されない場合、これらは最低手数料とは別に発生することになります。案文の文言を確認いたします。
第4節 契約の終了後に発生する報酬
1 テール条項
媒介契約が終了した後であっても、一定の期間内に、仲介会社が紹介した相手方との間で取引が成立した場合には、報酬が発生する旨を定める条項が置かれることがあります。これをテール条項と申します。
テール条項それ自体には合理性があります。仲介会社が相手方を紹介した後に、当事者が仲介会社を外して直接に取引を成立させることを防ぐ趣旨です。確認すべきは、次の点です。
表5 テール条項において確認する事項
| 確認事項 | 望ましい状態 |
|---|---|
| 対象となる相手方 | 仲介会社が書面により紹介した相手方に限定されています |
| 相手方の特定方法 | 契約終了時に相手方の一覧が書面で確定されます |
| 期間 | 契約の終了から1年から2年程度までとされています |
| 対象となる取引 | 株式の譲渡等、当初の目的に沿う取引に限定されています |
| 報酬の額 | 通常の成功報酬と同一の算定方式によります |
期間が3年を超える定めや、対象となる相手方が「本件に関連して接触したすべての者」といった広範な定めについては、内容を確認する意味があります。
2 中途解約に関する定め
委任及び準委任の契約は、各当事者がいつでも解除することができるのが原則です(民法第651条第1項、第656条)。もっとも、相手方に不利な時期に解除したとき等には、やむを得ない事由があった場合を除き、損害を賠償しなければならないとされています(民法第651条第2項)。
媒介契約書には、これとは別に、中途解約の場合に一定の金額を支払う旨の定めが置かれていることがあります。この定めの効力については、金額の水準、業務の進捗、解約に至った経緯等を踏まえた検討を要します。
3 専任専属の定め
専任専属の媒介契約とは、当該仲介会社以外の者に業務を依頼しないこと、及び自ら発見した相手方とも当該仲介会社を通じて取引することを内容とする契約です。専任専属の範囲と期間は、報酬の額と並んで重要な条件です。この点はTM07において詳述いたします。
4 テール条項の期間の起算点
テール条項の期間は、「本契約の終了の日から2年間」と定められるのが通例です。もっとも、契約の終了の日がいつであるかが明確でない場合があります。契約期間の満了により終了する場合には明確ですが、中途解約による場合、解約の意思表示が到達した日か、予告期間の経過した日かによって、起算点が異なります。この点を契約書において明確にしておくことが望まれます。
第5節 報酬に関する紛争が生じやすい場面
1 破談となった案件について成功報酬を請求される場面
基本合意書の締結後、デューデリジェンスの結果を踏まえて取引が成立しなかった場合に、仲介会社から成功報酬の請求を受けることがあります。この場合、契約書における成功報酬の発生要件を確認することが出発点となります。「最終契約が締結されたとき」と定められているのであれば、最終契約に至っていない以上、成功報酬の発生要件は満たされていないことになります。
他方、「基本合意書が締結されたとき」に一定の金額が発生する定めが置かれている場合には、当該金額については発生要件が満たされていることになります。中間金の性質が成功報酬の一部前払であるのか、独立の報酬であるのかによっても結論が異なります。
2 契約の終了後に成約した場合
媒介契約の終了後に、当該仲介会社が紹介した相手方との間で取引が成立した場合、テール条項の適用の可否が問題となります。争点となりやすいのは、当該相手方が「仲介会社が紹介した相手方」に当たるかという点です。契約の終了時に相手方の一覧を書面で確定させていれば、この争点は生じません。
3 複数の仲介会社が関与した場合
売主が複数の仲介会社に依頼していた場合、又は買主側にも別の仲介会社が付いていた場合に、いずれの仲介会社の関与により取引が成立したのかが争点となることがあります。この場合も、契約書における報酬の発生要件の定め方が判断の出発点となります。
4 金額の妥当性を争う場合
報酬の額それ自体が高額であることのみを理由として、当然に減額が認められるものではありません。契約は当事者の合意により成立するものであり、合意された報酬の額は原則として有効です。もっとも、契約の締結の過程における説明の内容、算定の基礎に関する認識の相違、実際に提供された業務の内容といった事情が、個別の事案において検討の対象となることがあります。
第6節 署名の前に確認する事項
表6 媒介契約書の確認事項の一覧
| 区分 | 確認事項 |
|---|---|
| 報酬の種類 | 着手金、月額報酬、中間金、成功報酬のそれぞれの有無と金額 |
| 充当 | 着手金及び中間金が成功報酬に充当されるか |
| 算定の基礎 | 株式価値、オーナー受取額、企業価値、移動総資産のいずれか |
| 料率 | 区分ごとの料率 |
| 最低手数料 | 金額、譲渡代金の見込額との関係 |
| 発生時期 | 最終契約の締結時か、決済の完了時か |
| 破談の場合 | 既払の金員の返還の有無 |
| 専任の範囲 | 専任専属か、専任か、一般か |
| 契約期間 | 期間、自動更新の有無 |
| 中途解約 | 解約の可否、解約金の定め |
| テール条項 | 対象、期間、相手方の特定方法 |
| 消費税 | 表示された金額が税込みか税抜きか |
| 実費 | 交通費、資料作成費等の負担 |
1 総額での比較
複数の仲介会社から提案を受けている場合、料率のみを比較しても意味がありません。想定される譲渡代金の額を前提として、着手金、月額報酬、中間金、成功報酬の総額を試算し、比較することが実際的です。
2 媒介契約と基本合意書との関係
中間金の発生時期が「基本合意書の締結時」とされている場合、基本合意書への署名は、仲介会社に対する支払義務の発生時期でもあります。基本合意書の案文を検討する際には、媒介契約書の報酬条項を併せて確認する必要があります。
3 行政上の指針
中小企業のM&Aに関しては、国が策定した指針が公表されており、仲介会社の情報提供のあり方等について一定の考え方が示されています。もっとも、これは法令ではなく行政上の指針であり、直ちに私法上の義務を基礎付けるものではありません。この点には注意を要します。
4 手数料の負担者と税務上の取扱い
株式を譲渡するのが個人である場合、仲介手数料は個人が負担することになります。株式の譲渡に係る所得の計算において、譲渡のために直接要した費用が控除の対象となり得ますが、具体的な取扱いは費用の性質及び支出の時期によって異なります。手数料を対象会社が負担する構成とする例も見られますが、対象会社にとっての費用としての性質、株主が負担すべき費用を会社が負担することの当否といった点について、あらかじめ整理しておく必要があります。税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。
5 消費税及び実費の扱い
媒介契約書に記載された報酬の額が税込みであるか税抜きであるかによって、実際の負担額が変わります。また、買主候補の探索に要する交通費、資料の作成費、外部の専門家に対する費用の負担についても、契約書に定めが置かれているかを確認いたします。定めがない場合には、後日に請求を受けた際の根拠が不明確となります。
第7節 弁護士に相談する意味
媒介契約書は、M&Aの取引において最初に署名する契約書であることが多く、その後の取引の全体を規律いたします。弁護士が行う業務は、報酬の算定の仕組みを具体的な金額に置き換えて示し、専任の範囲、契約期間、テール条項、中途解約の定めを併せて整理することにあります。
既に媒介契約を締結された後であっても、報酬の発生時期、解約の可否、テール条項の適用範囲を確認することには意味があります。
具体的な交渉の進め方は、案件の規模、進捗の段階、当事者の関係等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 手数料の料率は交渉できますか。
契約の内容ですので、交渉の対象となり得ます。もっとも、料率よりも算定の基礎の方が金額への影響が大きいため、算定の基礎について協議することの方が実際的である場合があります。
質問2 着手金を支払いましたが、成約しませんでした。返還されますか。
契約の定めによります。着手金は業務の着手に対する対価とされ、返還しない旨が定められているのが通例です。契約書の文言を確認いたします。
質問3 移動総資産基準は不当ではないのですか。
不当であると一概に申し上げることはできません。仲介会社の業務量は、対象会社の負債の内容によっても左右されるためです。重要であるのは、その算定の基礎により具体的にいくらの報酬が発生するのかを、署名の前に把握することです。
質問4 売主と買主の双方が同じ仲介会社に手数料を支払うのは問題ですか。
売主と買主の双方から報酬を受ける形態それ自体が直ちに違法となるものではありません。もっとも、いずれの側にも十分な情報が提供されていたかという点は、後に問題となることがあります。この点はM&Aトラブルに関する記事において詳述いたします。
質問5 既に署名した媒介契約を見直したいのですが。
契約期間、中途解約の定め、テール条項を確認した上で、採り得る選択肢を整理いたします。委任及び準委任の契約の解除に関する民法の規定と、契約上の定めとの関係を検討することになります。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&A仲介会社との媒介契約に関するご相談を、売主側及び買主側の双方からお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、媒介契約書又は財務助言契約書の案文、報酬に関する説明資料、直近3期分の計算書類、借入金の残高が分かる資料をご用意いただけますと、検討が早く進みます。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第643条(委任)、第644条(受任者の注意義務)、第645条(報告義務)、第648条(報酬)、第651条第1項及び第2項(委任の解除)、第656条(準委任)
その他 中小企業のM&Aに関する国の指針は法令ではなく行政上の指針です。
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