当社は許認可を受けて事業を営んでおります。会社を譲り渡すにあたり、株式の譲渡による方法と事業の譲渡による方法があると聞きました。許認可がある場合には、いずれによるべきなのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。許認可を要する事業の承継においては、株式譲渡による方法が選択されることが多いといえます。株式譲渡によりますと法人格に変動がありませんので、許認可は原則として維持されるためです。他方、事業譲渡によりますと、許認可は原則として承継されず、譲受人が改めて取得する必要があります。もっとも、株式譲渡による場合であっても、常勤の役員又は有資格者の配置に関する要件を欠くことにより問題が生じることがあります。また、許認可の種類によっては、譲渡又は承継に関する制度が設けられているものがあります。本記事では、判断の枠組みを整理いたします。
第1節 なぜ許認可が方法の選択を左右するのか
1 許認可は法人に付与されます
事業に必要な許認可は、原則として、それを受けた法人又は個人に対して付与されるものです。株式譲渡によりますと、対象会社という法人はそのまま存続し、その株主が交代するにとどまりますので、許認可を受けている主体に変動はありません。したがって、許認可は原則として維持されます。
他方、事業譲渡によりますと、事業を構成する資産及び負債が譲受人に移転いたしますが、許認可という行政上の地位は、当然には移転いたしません。譲受人が自ら許認可を取得する必要があります。
2 取得に要する期間が事業の継続を左右いたします
許認可の取得には、要件の充足、申請、審査を経る必要があり、相当の期間を要します。この期間中に事業を継続することができない場合には、事業譲渡による方法は現実的でないことになります。
とりわけ、譲受人が新たに事業を開始する場合には、要件そのものを満たすまでに時間を要することがあります。一定の経験を有する者の配置、財産的な基礎、施設及び設備が要件とされている許認可においては、これらを整えることが前提となります。
第2節 方法ごとの取扱い
表1 許認可の取扱いの比較
| 方法 | 許認可の取扱い | 主な留意点 |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 原則として維持されます | 役員の変更の届出、有資格者の配置の要件、欠格に関する事由 |
| 事業譲渡 | 原則として承継されません | 譲受人による新たな取得。承継に関する制度がある場合はその利用 |
| 会社分割 | 許認可により取扱いが異なります | 個別の法令の定めを確認いたします |
| 合併 | 許認可により取扱いが異なります | 個別の法令の定めを確認いたします |
1 株式譲渡による場合の留意点
株式譲渡によりますと許認可は原則として維持されますが、次の点に留意を要します。
第一に、届出の義務です。多くの許認可においては、役員の変更、主たる事務所の変更について、行政庁への届出が求められます。株式譲渡に伴い役員が交代する場合には、所定の期間内に届出を行う必要があります。
第二に、人的な要件です。一定の経験を有する者、有資格者の配置が要件とされている許認可においては、その者が退任することにより要件を欠くことがあります。従前の経営者が退任する場合には、代わる者を確保する必要があります。要件を欠く状態が続きますと、許認可が取り消される可能性があります。
第三に、欠格に関する事由です。役員が一定の事由に該当する場合には許認可を受けることができないとされているものがあります。新たに就任する役員について、該当の有無を確認する必要があります。
第四に、支配権の変動に関する届出の義務が定められている許認可があります。個別の法令を確認する必要があります。
2 事業譲渡による場合の留意点
事業譲渡によりますと、許認可は原則として承継されません。譲受人が自ら許認可を取得する必要がありますので、次の点を確認いたします。
第一に、譲受人が要件を満たすことができるかです。一定の経験を有する者の配置、財産的な基礎、施設及び設備が要件とされている場合には、これらを整えることができるかを確認いたします。対象会社の従業員のうち要件を満たす者を承継することにより、要件を充足する方法が用いられます。
第二に、取得に要する期間です。申請から許認可までに要する期間を確認し、事業の継続に支障が生じないよう日程を設計いたします。譲受人が許認可を取得するまでの間、譲渡人が事業を継続する構成とすることも考えられます。
第三に、承継に関する制度の有無です。許認可の種類によっては、事業の譲渡に伴い地位を承継することを認める制度が設けられているものがあります。建設業、貨物自動車運送事業、産業廃棄物の処理に関する事業については、行政庁の認可又は承認を受けることにより地位を承継することができる制度が設けられております。この制度による場合には、あらかじめ申請を行い、認可又は承認を受けた上で譲渡の効力を生じさせる構成となります。
3 会社分割及び合併による場合
会社分割及び合併における許認可の取扱いは、個別の法令の定めによります。承継を認める定めが置かれているもの、改めて取得を要するもの、届出により足りるものがありますので、一律に論じることはできません。所管する行政庁への確認が必要です。
第3節 判断の手順
1 許認可の一覧を作成いたします
まず、事業に必要な許認可を漏れなく列挙いたします。主たる事業に関するもののほか、附随する業務に関するもの、施設に関するもの、届出により足りるものを含めます。それぞれについて、根拠となる法令、所管する行政庁、有効期間、更新の時期を整理いたします。
2 要件の充足の状況を確認いたします
各許認可について、現に要件を満たしているかを確認いたします。とりわけ、人的な要件については、要件を満たす者が誰であるか、その者が譲渡の後も在籍するかを確認いたします。従前の経営者が要件を満たす者である場合には、代わる者の確保が課題となります。
3 方法ごとの取扱いを行政庁に確認いたします
株式譲渡による場合、事業譲渡による場合のそれぞれについて、必要な手続を所管する行政庁に確認いたします。同種の許認可であっても、地域により運用が異なることがありますので、実際に所管する行政庁への確認が確実です。
4 日程に組み込みます
確認の結果に基づき、届出、申請、認可又は承認に要する期間を、譲渡の日程に組み込みます。事業譲渡による場合には、許認可の取得が決済の前提条件とされるのが通例です。
第4節 契約における手当て
1 前提条件としての定め
許認可に関する手続の完了を、決済の前提条件として定めます。株式譲渡による場合には、届出に必要な書類の準備、要件を満たす者の在籍の確認を、事業譲渡による場合には、許認可の取得又は承継の認可若しくは承認を、それぞれ条件といたします。
2 表明保証
売主が、事業に必要な許認可を有していること、その要件を現に満たしていること、取消しの原因となる事由がないことを保証する条項を設けます。買主にとっては、調査によって把握することができなかった事項に対する手当てとなります。
3 協力の義務
許認可に関する手続について、双方が協力する義務を定めます。とりわけ事業譲渡による場合には、譲受人が許認可を取得するために譲渡人の協力を要することがありますので、その範囲及び期間を明記いたします。
4 人員の継続に関する定め
要件を満たす者が従業員である場合には、その者の継続を確保する必要があります。雇用の条件、処遇、継続の期間について、あらかじめ協議しておくことが望まれます。契約において、当該者の在籍を決済の前提条件とする定めが置かれることもあります。
第5節 弁護士に相談する意味
許認可を要する事業の承継において弁護士が行う業務は、次の点にあります。第一に、事業に必要な許認可を漏れなく特定し、要件の充足の状況を確認することです。第二に、方法ごとの取扱いを整理し、いずれによるかの判断の材料を示すことです。第三に、必要な手続を譲渡の日程に組み込むことです。第四に、契約における前提条件、表明保証、協力の義務、人員の継続に関する定めを設けることです。
許認可の取扱いは、法令ごとに異なります。同種の事業であっても、複数の許認可が関係している場合には、それぞれについて確認を要します。方法の選択は、これらの確認を経た上で行うべきものです。
具体的な確認の進め方及び手続の設計は、業種、許認可の種類、行政庁の運用等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 株式譲渡であれば、許認可について何もしなくてよいのですか。
そのようなことはありません。役員の変更に関する届出、要件を満たす者の配置の確認、欠格に関する事由の確認が必要です。届出を怠りますと、行政上の措置の対象となることがあります。
質問2 事業譲渡でも許認可を引き継げる場合があるのですか。
あります。建設業、貨物自動車運送事業、産業廃棄物の処理に関する事業については、行政庁の認可又は承認を受けることにより地位を承継することができる制度が設けられております。あらかじめ申請を行う必要がありますので、日程に組み込む必要があります。
質問3 有資格者が私一人です。退任すると許認可はどうなりますか。
要件を欠くことになりますので、代わる者を確保する必要があります。確保することができない場合には、一定期間在籍を継続する構成、又は譲受人が要件を満たす者を配置する構成を検討いたします。
質問4 許認可の取得にはどのくらいの期間がかかりますか。
許認可の種類、行政庁、申請の内容により異なります。所管する行政庁に確認することが確実です。標準的な処理の期間が公表されている場合には、それが目安となります。
質問5 複数の許認可がある場合、どうすればよいですか。
それぞれについて取扱いを確認いたします。株式譲渡により維持されるものと、届出を要するものと、承継に関する認可を要するものとが混在することがあります。一覧を作成し、個別に確認する必要があります。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、許認可のある事業の承継に関するご相談を、譲渡人側及び譲受人側の双方からお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、許認可に関する書類、届出の控え、登記事項証明書、定款、直近3期分の計算書類、有資格者の配置に関する資料をご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、行政庁への許認可の申請の代理は行政書士、登記の申請は司法書士、税務に関する事項は税理士の業務でございます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
会社法 第309条第2項第11号(特別決議)、第467条第1項(事業の譲渡等に係る株主総会の承認)
民法 第539条の2(契約上の地位の移転)、第625条第1項(使用者の権利の譲渡の制限)
建設業法 第3条(建設業の許可)、第7条(許可の基準)
このほか、貨物自動車運送事業法及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律には、事業の譲渡及び譲受け等に伴う地位の承継に関する制度が設けられております。
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