後継者に個人保証を引き継がせない方法

  • 2026年8月21日
  • 2026年8月20日
  • M&A

息子に会社を継がせることといたしました。もっとも、会社の借入れについては私が個人保証をしております。息子にも同じ保証を負わせることには抵抗があり、本人も不安を口にしております。保証を引き継がせずに済む方法はあるのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。後継者に保証を引き継がせないためには、金融機関との協議が不可欠です。協議にあたっては、会社の資産と経営者個人の資産とが明確に区分されていること、会社の財務の状況が良好であること、金融機関に対する情報の開示が適切に行われていることが重視されます。これらを満たすよう会社の状態を整えた上で、事業の承継の時期に合わせて協議を行うことになります。あわせて、前の経営者の保証を確実に解除することも重要です。本記事では、方法と手順を整理いたします。

第1節 個人保証の基本的な仕組み

1 保証は別個の契約です

会社の借入れについての個人保証は、金融機関と保証人となる個人との間の契約です。保証人は、主たる債務者である会社がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負います(民法第446条第1項)。

重要なのは、この契約が会社と金融機関との間の契約とは別個のものであるという点です。したがって、代表者が交代しても、保証契約は当然には変わりません。前の経営者の保証は、解除の合意がされない限り存続いたします。

2 経営者による保証の特則

事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約については、保証人となろうとする者が公正証書により保証をする意思を表示していなければ効力を生じないとされております(民法第465条の6第1項)。もっとも、主たる債務者が法人である場合の理事、取締役、執行役その他一定の者については、この規定は適用されません(民法第465条の9)。経営者による保証は、この例外に当たることが多いといえます。

3 情報の提供に関する定め

主たる債務者は、事業のために負担する債務についての保証を委託するときは、財産及び収支の状況、他に負担している債務の額及び履行の状況その他の事項に関する情報を提供しなければならないとされております(民法第465条の10第1項)。後継者に保証を求める場合には、この点も踏まえた対応が必要です。

第2節 保証を求められない状態を作る

表1 保証の解除の協議において重視される事項

事項整えるべき内容
会社と経営者の資産の区分役員貸付金及び役員借入金の精算、事業用資産の名義の整理、私的な支出の排除
財務の状況返済の原資を確保することができる収益の状況、資産と負債の均衡
情報の開示計算書類の適時の提出、資金繰りの見通しの説明、事業計画の提示
経営の体制意思決定の体制、内部の管理の体制

1 会社と経営者個人の資産の区分

最も重視される事項です。役員貸付金及び役員借入金が計上されている場合には、精算いたします。事業に用いている不動産、車両が経営者又はその親族の名義となっている場合には、会社が取得するか、賃貸借の契約を書面により明確にいたします。私的な支出が会社の経費として処理されている場合には、これを改めます。

これらの区分が明確でない状態では、金融機関は、会社の財産のみを引当てとすることに慎重となります。保証を求められない状態を作るための第一の作業です。

2 財務の状況の改善

会社の収益により借入れを返済することができる見通しがあること、資産と負債とが均衡していることが求められます。改善には期間を要しますので、事業の承継の時期から逆算して着手する必要があります。

3 情報の開示

計算書類を適時に提出すること、資金繰りの見通しを説明すること、事業計画を提示することが求められます。金融機関との日常的な関係の積み重ねが、協議の際の判断に影響いたします。

第3節 協議の進め方

1 保証の一覧を作成いたします

まず、いかなる債務についていかなる保証がされているかを一覧といたします。金融機関ごとの借入れ、リース契約、賃貸借契約、取引先との継続的な取引に関する保証、信用保証に関する求償権についての保証が対象となります。

保証は、金融機関からの借入れに限られません。事務所又は工場の賃貸借契約、リース契約、仕入先との取引についても、経営者が保証をしていることがあります。これらを漏れなく把握することが出発点となります。

2 実務上の指針を踏まえた協議

経営者による保証の取扱いについては、金融機関の実務上の指針が公表されております。この指針は法令ではありませんので、直ちに私法上の効力を有するものではありませんが、金融機関の判断の枠組みとして機能しております。

指針においては、会社と経営者個人の資産が明確に区分されていること、会社のみの資産及び収益力により返済が可能であること、金融機関に対して財務の情報が適時かつ適切に開示されていることが、保証を求めない場合の考慮要素として挙げられております。前節に述べた整理は、これに対応するものです。

3 事業の承継の時期に合わせた協議

事業の承継の時期は、保証の在り方を見直す機会となります。前の経営者の保証の解除と、後継者に保証を求めるか否かとを、併せて協議いたします。

この協議においては、次の3つの帰結があり得ます。第一に、いずれの保証も不要とする帰結です。第二に、後継者が保証をする帰結です。第三に、一定の期間は双方が保証をし、その後に前の経営者の保証を解除する帰結です。第三の帰結は避けることが望まれます。前の経営者が経営から離れた後も責任を負い続けることになるためです。

4 保証に代わる手当て

保証を求められない状態に至らない場合には、他の手当てを提案する方法があります。担保の提供、借入れの一部の返済、返済の期間の見直し、信用の保証に関する制度の利用が考えられます。保証の有無を二者択一として協議するのではなく、代替の手段を含めて協議いたします。

第4節 前の経営者の保証を確実に解除する

1 解除の合意を書面により確認いたします

後継者に保証を引き継がせるか否かにかかわらず、前の経営者の保証を解除することは重要です。解除については、金融機関から書面による確認を得る必要があります。口頭の説明にとどめますと、後に争いが生じます。

2 解除の時期を明確にいたします

代表取締役を退任した時点で自動的に解除されるものではありません。解除の時期を明確に定め、その時期までに手続が完了するよう管理いたします。株式の譲渡を伴う場合には、決済の前提条件として定めることが考えられます。

3 遺された保証への注意

主たる借入れについて解除の合意ができた場合であっても、リース契約、賃貸借契約、取引先との取引に関する保証が残っていることがあります。一覧に基づいて、一つずつ解除の状況を確認いたします。

第5節 弁護士に相談する意味

個人保証をめぐる問題において弁護士が行う業務は、次の点にあります。第一に、保証の一覧を作成し、範囲及び内容を把握することです。第二に、保証を求められない状態を作るために必要な整理を特定し、実施することです。第三に、金融機関との協議において、実務上の指針を踏まえた説明を組み立てることです。第四に、解除の合意を書面により確保し、時期を管理することです。

会社と経営者個人の資産の区分は、法律上の整理を要する作業です。役員貸付金の精算、事業用資産の名義の整理、賃貸借契約の締結は、いずれも手続及び書面を伴います。これらを整えることが、協議の前提となります。

具体的な協議の進め方は、会社の財務の状況、金融機関の対応、承継の方法等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 代表者を交代すれば、保証も自動的に移りませんか。

移りません。保証契約は金融機関と保証人との間の契約であり、代表者の交代によって当然に影響を受けるものではありません。前の経営者の保証は、解除の合意がされない限り存続いたします。

質問2 後継者が保証を拒むことはできますか。

保証をするか否かは本人の意思によりますので、拒むこと自体は可能です。もっとも、金融機関が保証を融資の条件としている場合には、融資の条件の見直しを求められることがあります。会社の状態を整えた上で協議することが重要です。

質問3 どの程度の財務の状況であれば、保証を求められませんか。

一律の基準を申し上げることはできません。会社のみの資産及び収益力により返済が可能であるかが判断されます。業種、借入れの残高、返済の計画により異なりますので、個別の協議を要します。

質問4 協議はいつ始めるべきですか。

事業の承継の時期から逆算して、遅くとも1年程度前には開始することが望まれます。会社と経営者個人の資産の区分、財務の状況の改善には期間を要しますので、それらの着手はさらに前になります。

質問5 保証以外の負担が残ることはありますか。

あります。リース契約、賃貸借契約、取引先との継続的な取引についての保証が残っていることがあります。また、会社に対する貸付金がある場合には、これも別途の整理を要します。一覧に基づく確認が必要です。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、会社の借入れの個人保証に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、金銭消費貸借契約書、保証契約書、リース契約書、賃貸借契約書、直近3期分の計算書類、勘定科目の内訳明細書、登記事項証明書をご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、税務に関する事項は税理士、登記の申請は司法書士の業務でございます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第446条(保証人の責任)、第458条の2(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)、第465条の6第1項(公正証書による保証意思の表示)、第465条の9(適用除外)、第465条の10第1項(契約締結時の情報の提供義務)

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