
LOIとは、M&A(合併・買収)の初期段階で、買主が売主に対して買収の意向と希望条件を示すために差し入れる書面です。M&Aそのものを実行する最終契約書ではないものの、その後の交渉の前提を形づくる書面として、M&Aの交渉で広く用いられています。
もっとも、LOIという語は使う人によって指すものが変わります。意向表明書を指す場合もあれば、基本合意書と同じ意味で使われる場合もあるため、複数の記事を読み比べると説明が食い違って見えることがあります。
さらに「法的拘束力はあるのか」「署名したら断れなくなるのか」「独占交渉権を与えて問題はないのか」といった点は、書面を目の前にして初めて気になる部分です。
この記事では、LOIの意味と呼び名の対応関係を確かめたうえで、取り交わす目的・記載される項目・条項ごとの法的拘束力・独占交渉権の見方までを解説します。
LOIとは?Letter of Intentの意味
LOIは「Letter of Intent」の略称です。直訳すれば意向を示す書面であり、M&Aに限らず、不動産取引や国際取引・提携交渉など幅広い場面で使われます。
そのため、LOIという語だけでは何を指しているかが決まりません。相手方から届いた書面にLOIと書かれていても、それが買主の一方的な意向表明なのか、双方が署名して効力を持つ合意なのかは、中身を見なければ判断がつきません。
Letter of Intentの意味と読み方
Letter of Intentは「レターオブインテント」と読み、頭文字をとって「エルオーアイ」と呼ばれることもあります。日本語では意向表明書・買収意向書・基本合意書などと訳され、訳語が一つに定まっていない点が、この語の分かりにくさにつながっています。
もっとも、一方の当事者が単独で条件を示す場合もあれば、双方がその時点の了解事項を確認する場合もあり、書面の形は一つではありません。いずれにしても、契約を成立させるための書面ではなく、これから交渉を進めるための前提を書面にしたものです。
M&AにおけるLOIが指すもの
M&Aの場面でのLOIは、買主が売主に対して差し入れる書面を指すのが一般的です。買収価格の考え方・取引スキーム・今後の進め方・独占交渉権の有無といった、交渉の前提となる事項が記載されます。
差し入れる側が買主に偏るのは、この段階では売主が情報を開示する側であり、買主が条件を示す側という役割分担になっているためです。売主は複数の買主候補からLOIを受け取り、その内容を比べたうえで、どの候補と交渉を先に進めるかを決めていきます。
なお、当事者双方が署名して取り交わす形式をとる場合もあります。この形式になると、基本合意書やMOUと呼ばれるものと実質的に区別がつかなくなります。
M&A以外の分野で使われるLOI
不動産取引では、購入希望者が売主に対して購入条件の概要を伝える書面をLOIと呼ぶことがあります。国際取引や業務提携の場面でも、契約書の締結前に交渉の前提を書面化する目的で用いられます。
なお、貿易や海運の場面で使われるL/Iは Letter of Indemnity(補償状)の略であり、荷渡しなどに伴う損害を補償するための別の書面です。英語圏ではこれをLOIと略記する例もあります。頭文字だけを見ると紛らわしいため、書面の性質を確かめる際は正式名称まで見ておきましょう。
いずれの分野でも、最終的な契約書ではない点は共通しています。ただし記載される項目や、どの条項に拘束力を持たせるかは分野ごとに異なるため、他分野の解説をそのままM&Aに当てはめない方が安全です。
LOIと意向表明書・基本合意書・MOUの違い
同じ内容の書面が、案件によってLOI・意向表明書・基本合意書・MOUと異なる名前で呼ばれています。名前が違えば中身も違うと考えたくなりますが、日本のM&Aでは名称と中身が一対一で対応していません。
以下は本記事で用いる便宜的な区分であり、名称だけで法的性質が決まるものではありません。それぞれの書面の一般的な位置づけは、傾向として次のように分かれます。
| 書面 | 主な作成主体 | 使われる段階 | 記載の具体性 | 独占交渉権 | 法的拘束力 |
|---|---|---|---|---|---|
| LOI(Letter of Intent) | 買主から売主へ差し入れ/双方署名の場合もある | 初期交渉〜本格交渉の開始前 | 比較的高い | 記載されることが多い | 主要条件は非拘束が通常。独占交渉・秘密保持は拘束力を持たせる例が多い |
| 意向表明書 | 買主から売主へ差し入れ | 初期の打診段階 | 低い(概要のみ) | 通常は記載しない | 原則なし |
| 基本合意書 | 当事者双方で作成 | 主要条件が固まった段階 | 高い | 記載されることが多い | 主要条件は非拘束が通常。独占交渉・秘密保持は拘束力を持たせる例が多い |
| MOU(Memorandum of Understanding) | 当事者双方で作成 | 基本合意書と同時期または同義 | 高い | 記載されることがある | 主要条件は非拘束が通常。独占交渉・秘密保持は拘束力を持たせる例が多い |
| NBO(Non-Binding Offer) | 買主から売主へ差し入れ | 入札方式の一次提案 | 中程度 | 通常は記載しない | 取引条件は非拘束。個別条項は文言による |
| タームシート | 当事者双方または助言者 | 条件交渉の各段階 | 条件面のみ高い | 記載しないことが多い | 原則なし |
実際の案件で迷いやすいのは、自社の書面がこの表のどこに当てはまるかの判断です。分かれ目は名称ではなく、双方が署名しているか・独占交渉権が入っているか・拘束力の範囲が明示されているかにあります。
意向表明書として使われるLOI
買主が一方的に差し入れ、売主の署名を求めない形式のLOIは、意向表明書として扱われます。この場合の内容は、買主の企業概要・買収の目的・想定する価格帯・スキームの案といった水準にとどまります。
この形式では売主の署名がないため、書面に書かれた条件が双方の合意になっているわけではありません。記載事項や基本合意書との違いは意向表明書の記事で詳しく扱っています。
基本合意書・MOUとして使われるLOI
当事者双方が署名し、独占交渉権やデューデリジェンスの実施条件まで踏み込んだ書面は、基本合意書やMOUと呼ばれるものと実質的に同じです。日本のM&Aでは、この形式の書面にLOIという名前が付けられている例があります。
この形式になると、書面の一部に法的拘束力が生じる可能性が高まります。ただし、双方が署名していても、買収価格などの主要条件は拘束力を持たせない設計にできます。基本合意書としての位置づけや構成についてはM&Aにおける基本合意書の記事で扱っています。
NBO・タームシートとの関係
NBOは「Non-Binding Offer」の略で、取引条件を法的に確定させない買収提案という意味です。入札方式の案件で一次提案として提出されますが、名称と提出の段階は案件によって異なります。タームシートは、価格・スキーム・前提条件といった取引条件を一覧の形にした書面で、LOIとあわせて用いられる場合もあります。詳しくはタームシートの記事をご覧ください。
LOIとNDA・最終契約書との関係
LOIと同じ場面で出てくる書面に、NDAと最終契約書があります。三つは役割が異なり、結ばれる時期も通常は分かれています。
NDA(Non-Disclosure Agreement・秘密保持契約)は、売主が情報を開示する前提として結ぶ契約です。開示した情報の取扱いを定めることを主な目的としており、譲渡価格や取引スキームといった主要な取引条件を定める書面ではありません。内容はM&Aの秘密保持契約書の記事で扱っています。
最終契約書(DA・Definitive Agreement)は、株式譲渡契約書のように、最終的な取引条件と当事者の権利義務を定める契約です。デューデリジェンスと条件交渉を経て締結されます。内容はM&A最終契約書の記事で扱っています。
LOIはこの二つの間に置かれます。情報の扱いだけを定めるのでもなく、取引を成立させるのでもなく、これから進める交渉の前提を確かめるための書面です。
名称ではなく条項で判断する
ここまでの区分は一般的な傾向であり、案件ごとの運用は一致していません。LOIという表題でも中身は基本合意書と変わらない例があるように、表題と法的性質は必ずしも対応していません。
書面の法的性質は表題だけでは決まらず、個々の条項の文言・署名や承諾の方法・当事者の意思や交渉の経過を踏まえて判断されます。届いた書面を判断する際は、名称に引きずられず、拘束力の範囲を定める条項がどう書かれているかを先に確かめておきましょう。
LOIを取り交わす目的
LOIを差し入れるかどうか、受け取ってどう扱うかは、当事者の判断に委ねられています。そのため、何のために差し入れるのか・何のために受け取るのかは、買主の側と売主の側で分かれます。
同じLOIという表題でも、どの条項に分量が割かれているかは書面ごとに異なります。独占交渉権の条項だけが細かく書き込まれている書面と、価格の前提まで書き添えられている書面とでは、差し入れた側の関心の置き方が違います。
買主がLOIを差し入れる目的
LOIに独占交渉の条項を置く案件では、独占交渉権の確保が買主にとって重要な目的になります。デューデリジェンスでは法務・財務・税務の専門家に調査を依頼することになり、調査を終えた後で売主が他の候補を選べば、投じた費用と時間が戻りません。
もう一つは、想定する条件を先に示し、売主の了解を得たうえで調査に入ることです。価格帯やスキームの案を示さないまま調査を始めると、調査後の交渉で前提から議論することになります。
いずれの目的も、書面にしておくことで確かめやすくなります。独占交渉を求めるのであれば、対象となる行為と期間に加えて、解除できる場合や違反したときの取扱いまで条項に書いておくと、義務の有無と範囲を後から確認できます。
売主がLOIを受け取る目的
売主にとっては、デューデリジェンスに応じるだけの相手かどうかを見極めることが目的になります。調査では財務資料や顧客情報を開示し、社内の担当者が対応に時間を割くことになるため、どの候補にその負担をかけるかを選ぶ必要があります。
複数の買主候補がいる場合は、示された条件を候補どうしで比べられる点も、受け取る側の利点です。価格の水準に加えて、どこまで前提を書いているか・調査の範囲をどう考えているかを見比べると、その後の交渉の進めやすさにも見当がつきます。
双方に共通する目的
条件の前提を書面にしておかないと、買主と売主が異なる想定を抱えたまま交渉が進み、後になって食い違いが表面化します。想定していた価格帯・対象となる事業の範囲・従業員の処遇といった項目は、口頭のやり取りだけでは認識がそろいません。
書面にする過程そのものにも意味があります。文言をすり合わせるうちに、価格の前提や調査の範囲について当事者の理解が違っていたと分かる場合もあるためです。
M&AでLOIを取り交わすタイミング
LOIが登場するのは、秘密保持契約を結んで初期の情報開示が済んだ後、デューデリジェンス(買収監査と呼ばれることもあります)に入る前後の段階です。この前後を境に、売主が開示する情報の量と、買主が投じる費用が大きく増えます。
秘密保持契約の締結と初期情報の開示後
M&Aの交渉では、まず秘密保持契約を結び、売主が財務情報や事業内容を開示します。買主はその内容をもとに企業価値を検討し、条件感がおおむね一致した段階でLOIが差し入れられます。締結の前後を含めたM&A全体の進み方はM&Aのスケジュールの記事で扱っています。
トップ面談を経る場合と入札方式の場合
売主と買主の経営者が直接会うトップ面談を経て、LOIに進む場合もあります。価格や条件が折り合っていても、経営方針や従業員の処遇に対する考え方が大きく異なると、その先の交渉が続かないためです。
売主が複数の買主候補を同時に競わせる入札方式では、各候補から一次提案としてNBOやLOIが提出されます。この方式でのLOIは、条件を確定させる書面ではなく、候補を選別するための資料として用いられます。
LOIに記載される項目
LOIには法律で定められた様式がなく、記載する項目は案件ごとに選ばれます。それでも、後のデューデリジェンスや最終契約に影響する事項は、おおむね共通して盛り込まれます。
記載する項目が多いほど良い書面になるわけではありません。この段階で条件を決めすぎると、デューデリジェンスの結果を条件に反映しにくくなるため、確定させる部分と余地を残す部分を分けて考えることになります。
| 項目 | 書かれる内容 |
|---|---|
| 当事者と取引スキーム | 買主・売主それぞれの概要と、株式譲渡・事業譲渡・会社分割・第三者割当増資などの手法 |
| 買収価格とその前提 | 想定する金額と、その金額をどう置いたかの前提 |
| 対価の支払方法 | 現金で支払うのか買主の株式を交付するのか。分割払いや譲渡後の業績に応じた追加の対価を設けるか。支払の時期は最終契約で定める |
| デューデリジェンスの範囲 | 調査する範囲・方法・時期と、売主側の協力義務 |
| クロージングまでのスケジュール | 調査の実施日程・最終契約書の締結予定日・クロージングの予定日 |
| 独占交渉権 | 他の買主候補との交渉を止める期間と、延長や違反があった場合の取扱い |
| 秘密保持 | 先に結んだ秘密保持契約の効力が及ぶ範囲と、対象範囲・利用目的・存続期間を補う必要があるか |
| 費用負担 | デューデリジェンスの費用や専門家への報酬を誰が負担するか |
| 有効期限と法的拘束力の範囲 | 書面の効力が続く期間と、拘束力を持たせる条項の特定 |
調査範囲は広く取れば取るほど費用と時間がかかるため、どこまで調べるかを事前に決めておく意味があります。デューデリジェンスの内容はデューデリジェンスの記事で詳しく扱っています。
金額よりも前提の書き方
最終的な買収価格は、LOIに示した条件に加えて、デューデリジェンスで判明した事項とその後の交渉を踏まえて確定します。それでも、LOIの段階で想定する金額を示すのが通常です。一定の幅を持たせて記載する場合もあり、その際は上限と下限がそれぞれ何を意味するのかを書き添えておく必要があります。
ここで大切なのは、金額そのものよりも前提の書き方です。どの財務数値を基準にしたのか・どの範囲の負債を織り込んでいるのか・どのような場合に見直しがあり得るのかを添えておくと、調査後の条件変更を進めやすくなります。前提を書かずに金額だけを示すと、後の減額要求が根拠のない値下げに見えてしまいます。
期限と拘束力の範囲の定め方
期限を定めずに締結すると、独占交渉権などの条項がいつまで存続するのかをめぐって、後から争いが生じるおそれがあります。あわせて、どの条項に法的拘束力を持たせ、どの条項には持たせないのかを明示する条項を置きます。この条項の書き方が、後の争いの有無を大きく左右します。
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LOIの法的拘束力はどこまで及ぶのか
LOIで最初に確かめておきたいのが、法的拘束力の有無です。LOIは取引そのものを成立させる契約ではありませんが、書面全体に拘束力がないわけでもありません。拘束力は書面の単位ではなく条項の単位で決まり、同じ一通のLOIの中に、拘束力のある条項とない条項が混在しているのが通常です。
拘束力を持たせないのが通常の条項
買収価格・取引スキーム・スケジュール・実行の前提条件といった主要条件は、拘束力を持たせないのが通常です。これらはデューデリジェンスの結果を踏まえて変わり得る事項であり、この段階で確定させると調査の意味が失われます。
もっとも、拘束力がないことと、自由に変更してよいことは同じではありません。示した価格から大きく離れた条件を後から出せば、相手方は変更の理由を求めますし、交渉自体が続かなくなることもあります。
拘束力を持たせるのが通常の条項
独占交渉権と秘密保持義務は、拘束力を持たせる例が多く見られます。中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)にも同じ考え方が示されています。同ガイドラインは基本合意書について「基本的に法的拘束力がないものの、譲り受け側の独占的交渉権や秘密保持義務等については、法的拘束力を認めることが通常である」としています(中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」)。これらは将来の契約に向けた条件ではなく、締結した時点から効力を持つ約束として位置づけられるためです。費用負担・準拠法・合意管轄に拘束力を持たせるかは、書面の設計によって決まります。
開示した情報が外部に漏れた後で拘束力の有無を争っても情報は戻らないように、締結時点から効かせておかなければ意味がない条項が、拘束力を持たせる側に振り分けられます。
法的拘束力を否定する条項の書き方
LOIには、書面全体について拘束力を否定する条項が置かれることがあります。ところが同じ書面に独占交渉権や秘密保持義務が書かれていると、条項どうしが矛盾した状態になります。
この場合、後になって「独占交渉権にも拘束力がないはずだ」という主張と「秘密保持だけは効いている」という主張が対立します。書面全体を非拘束とするのであれば、例外として効力を持たせる条項を、条番号などで明確に特定しておくことになります。
拘束力がなくても責任が生じる場面
拘束力を持たない条項であっても、交渉の進め方によっては責任が問われる場合があります。最高裁判所は、契約準備段階における信義則上の注意義務違反を理由として損害賠償責任を認めた原審の判断を是認しています(最判昭和59年9月18日)。契約の成立を相手方に強く期待させておきながら、正当な理由なく交渉を打ち切った場合には、いわゆる契約締結上の過失として損害賠償責任が問われることがあります。
この責任は、契約が成立していないことを前提に、交渉過程での信義則違反を理由として認められるものです。したがって「まだ契約していないのだから何をしても自由」という理解は正確ではありません。
もっとも、賠償の対象になるのは、契約が成立すると信じたことによって被った損害(信頼利益)が中心です。取引が成立していれば得られたはずの利益(履行利益)まで当然に賠償されるわけではありません。
独占交渉権とLOI締結後の注意点
独占交渉権は、LOIに置かれる条項の中で、拘束力が認められやすい部分です。売主にとっては他の買主候補との交渉を止める約束であり、経営判断の自由を一定期間手放すことを意味します。そのため、期間の長さだけでなく、延長の扱い・解除できる場合・違反したときの帰結までを見たうえで応じるかを決めることになります。
期間を何から逆算するか
独占交渉期間の長さは、相場から決めるものではありません。デューデリジェンスの範囲に加えて、最終契約の交渉・社内の承認手続・資金調達・必要な許認可の取得に要する期間を踏まえて設定します。財務と法務に絞った調査であれば短く済み、労務・税務・環境・知的財産まで広げれば長くなります。
期間が短すぎると調査が終わらず、延長交渉をあらためて行うことになります。長すぎると、その間に事業環境が変わったり、他の買主候補が離れたりする不利益を売主が負います。
自動延長と解除の定め
期間の満了時に、当事者の一方が異議を述べなければ自動的に延長される、という条項が置かれることがあります。この形式では、売主が期限を意識していないうちに独占状態が続くため、延長できる回数や通算の上限を定めておくと、期間が際限なく伸びる事態を避けられます。
買主側の意思決定が進まず、調査も条件交渉も動かないまま時間が過ぎることもあります。期間の定めとは別に、一定の日までにデューデリジェンスが開始されない場合に売主から解除できる旨を置いておく方法があり、資料の請求や調査の着手といった客観的な進捗条件と組み合わせておきます。
違反があったときに何を請求できるか
独占交渉条項に基づく債務が認められても、差止めが認められるとは限りません。住友信託銀行と旧UFJグループの間で争われた事案では、第三者との交渉の差止めを求めて仮処分が申し立てられました。最高裁判所は、独占交渉条項に基づく債務はまだ消滅していないと判断しながらも、申立人が被る損害は事後の損害賠償によって償えないほどのものとはいえないなどとして、民事保全法23条2項の保全の必要性を欠くとしました(最決平成16年8月30日)。
違反を止められない場合に備えて、違反があったときに何を請求できるのかを条項に書き込んでおきます。違約金の定めを置く方法や、それまでに支出した費用の負担を定める方法が考えられます。独占交渉権と法的拘束力の関係はM&Aにおける基本合意書の記事でも扱っています。
締結後に起きやすい食い違い
LOIをめぐる問題は、締結の時点では表面化しません。デューデリジェンスや条件交渉が進んでから、調査後の価格引下げ要求・独占交渉期間中の停滞・開示した情報の目的外利用といった形で表に出てきます。
いずれも、締結の時点で条項の書き方を詰めておけば争点を小さくできるものです。価格の前提・解除できる場合・秘密保持の対象範囲と資料の返還を書いておかないと、交渉が終わってから取り決めようとしても、相手方が応じる理由がなくなっています。
署名の前に見ておく項目
M&A仲介者は売主と買主の双方と契約する形をとり、一方の当事者の側だけから条項の有利不利を検討する役割ではありません。受け取った書面は、自社の側からあらためて確かめておくことになります。
| 立場 | 署名の前に見る項目 |
|---|---|
| 売主 | 価格の前提・独占交渉権の期間と解除・開示する資料の範囲・従業員の処遇・拘束力を持つ条項の特定・不成立に終わった場合の費用負担 |
| 買主 | 独占交渉権の期間が調査に足りるか・売主の協力義務の範囲・調査結果を条件に反映できる書き方か・取引実行の前提条件・最終契約で求める表明保証の方向性 |
表明保証は、契約当事者が相手方に対し、一定の時点で特定の事実が真実かつ正確であることを表明し、保証する条項です。内容は表明保証の記事で、項目ごとの見方は基本合意書への署名を求められた方へのご案内で扱っています。
LOIについてよくある質問
以下の回答は一般的な取扱いを示すものです。個別の案件では、条項の書き方やそれまでの交渉の経過によって結論が変わる場合があります。
LOIと基本合意書は同じものですか?
案件によって異なります。買主が一方的に差し入れる形式であれば意向表明書に近く、双方が署名して独占交渉権まで定めていれば基本合意書と実質的に同じです。表題では決まらず、条項の文言や署名の方法、交渉の経過を踏まえて判断することになります。
LOIに署名したら断れなくなりますか?
買収価格やスキームといった主要条件を非拘束と明記したLOIであれば、デューデリジェンスの結果を踏まえて最終契約を締結しない判断ができるのが通常です。ただし、書面の文言によっては最終契約の締結に向けた義務が問題になる場合があり、独占交渉権や秘密保持義務は締結の時点から効力を持つ条項として定められていることがあります。署名の前に、拘束力を定める条項の書き方を確かめておきましょう。
LOIとNDAの違いは何ですか?
目的が異なります。NDAが定めるのは、受け取った情報を第三者に開示しないことや、利用できる範囲と期間です。LOIが示すのは、その情報をもとに買主が組み立てた条件と、これから進める交渉の前提です。順序としては、NDAを結んで初期の情報が開示された後にLOIが提出される進め方が典型ですが、案件によって順序や書面の組み合わせは異なります。
LOIを締結した後に価格が変わることはありますか?
あります。LOIの価格は一定の前提に基づく想定であり、デューデリジェンスで簿外債務や係争案件が判明すれば見直されます。だからこそ、金額とあわせて前提を書いておくことに意味があります。
LOIを取り交わさずに進めても問題ありませんか?
LOIや基本合意書の締結が、法令上M&Aの要件とされているわけではありません。もっとも、中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)は、基本合意をデューデリジェンスの前の工程として位置づけています。省略すると、独占的に交渉する根拠がなく、条件の前提も共有されないまま調査費用を投じることになるため、主要条件・独占交渉・調査の進め方を別の書面で確かめておくことになります。
M&A契約書の作成・チェックを弁護士に依頼する場合
LOIに書いた文言は、そのまま最終契約の交渉の前提として引き継がれます。この段階で置いた条項が、後の価格交渉や表明保証の範囲に影響するため、書面を受け取った時点で内容を確かめておく意味があります。当事務所では、次のような段階のご相談に対応しています。
- LOIのドラフトを受け取った段階
- 独占交渉期間中に交渉が止まっている段階
- デューデリジェンス後に減額を求められた段階
- 基本合意書から最終契約書までの作成とチェック
ご相談の際は、LOIのドラフトまたは締結済みの書面に加えて、先行して結んだ秘密保持契約があると、条項どうしの関係を踏まえた検討ができます。仲介会社やアドバイザーとの間で結んだ契約書も、手数料の発生時期や専任条項の内容がLOIの締結時期や独占交渉権の設定に関係するため、あわせてお持ちください。
各契約書の条項ごとの考え方はM&A契約書の逐条解説にまとめています。作成・チェックの費用体系はM&A契約書の作成・チェックの費用体系のページに掲載していますので、あわせてご確認ください。
本記事は、公開日時点の法令と裁判例をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の事案についての法的助言ではなく、実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載内容の適用によって生じた結果について、当事務所は責任を負いかねます。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページにまとめています。あわせてご覧ください。

