M&A・会社法用語集

  • 2026年8月21日
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この用語集は、株式会社の合併及び買収並びに会社法に関する実務で用いられる用語について、定義、実務上の意義及び留意点を整理したものです。記載は令和8年8月時点の法令に基づいています。個別の事案における取扱いは事実関係によって異なりますので、実際の判断に当たっては弁護士にご相談ください。

1 第三者委員会

1 定義 会社の経営陣又は支配株主と利害関係を有しない者によって構成され、特定の取引又は事案について独立の立場から検討し、意見を述べる合議体をいいます。株式会社の合併及び買収の場面では、特別委員会という名称で設置されることも多く、会社法に直接の根拠規定が置かれているものではありません。

2 実務上の意義 経営陣が買収者の側に立つ取引や、支配株主と会社との間の取引では、取締役会の判断に構造的な利益相反が生じます。独立した委員に取引条件の妥当性及び手続の公正性を検討させることは、公正性を担保する措置として重視され、取締役が善良な管理者の注意をもって職務を行ったことを裏づける事情としても機能します。会社法第348条の2は、株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるときに、取締役会の決議によって業務執行を社外取締役に委託することを認めています。

3 留意点 委員会を設置したという事実だけでは足りません。委員の独立性、委員会に与えられた権限の範囲、会社からの情報提供の十分性、答申が取締役会の判断に実際に反映された経緯が問われます。委員会が独自に外部の助言者を選任できるか、取引の中止を勧告できるかを設置の当初に明確に定めておくことが望まれます。審議の経過は議事録として残してください。

2 競業避止義務

1 定義 一定の立場にある者が、会社の事業と競合する取引又は事業を行うことを制限される義務をいいます。取締役については会社法第356条第1項第1号が、事業譲渡における譲渡会社については会社法第21条が、それぞれ定めを置いています。

2 実務上の意義 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするときは、株主総会において重要な事実を開示して承認を受けなければならず、取締役会設置会社では取締役会の承認となります(会社法第356条第1項第1号、第365条第1項)。承認を欠いた場合、取締役又は第三者が得た利益の額が会社に生じた損害の額と推定されます(会社法第423条第2項)。事業譲渡では、譲渡会社は特約がない限り、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内において、20年間は同一の事業を行ってはなりません(会社法第21条第1項)。

3 留意点 会社法第21条の義務は当事者の合意によって加重することも軽減することもでき、特約による延長は30年を超えることができません(同条第2項)。不正の競争の目的をもって同一の事業を行うことは、期間や地域の制限なく禁じられます(同条第3項)。従業員との間の競業避止の特約は、職業選択の自由との関係から、期間、地域、職種の範囲及び代償措置の有無によっては、公の秩序に反するものとして効力を否定されることがあります。

3 合併

1 定義 2以上の会社が契約によって1つの会社に統合される組織法上の行為をいいます。存続する会社が消滅する会社の権利義務を承継する吸収合併(会社法第2条第27号)と、新たに設立する会社が消滅する会社の権利義務を承継する新設合併(同条第28号)とがあります。消滅する会社は清算手続を経ることなく解散します。

2 実務上の意義 権利義務が包括的に承継されるため、個々の契約について相手方の同意を得ることを原則として要しません。合併契約は、各当事会社の株主総会の特別決議による承認を受けることが原則です(会社法第783条第1項、第795条第1項、第309条第2項第12号)。あわせて債権者が異議を述べる手続を行う必要があります(会社法第789条、第799条)。

3 留意点 効力発生日の前日までにすべての手続を終える必要があります。反対する株主は株式買取請求をすることができます(会社法第785条、第797条)。法令又は定款に違反する場合等には差止請求が認められ(同法第784条の2、第796条の2)、効力発生後は合併の無効の訴えによることとなり、提訴期間は効力が生じた日から6か月です(同法第828条第1項第7号及び第8号)。許認可が承継されるかどうかは事業を規律する法律ごとに異なりますので、個別に確認してください。契約に支配権の変動に関する条項が置かれていないかの点検も必要です。

4 事業譲渡

1 定義 一定の事業の目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡し、譲受人がその事業を承継する取引上の行為をいいます。合併や会社分割と異なり組織法上の行為ではありませんので、個々の財産及び契約について移転の手続を個別に行う必要があります。

2 実務上の意義 事業の全部の譲渡及び事業の重要な一部の譲渡には、株主総会の特別決議による承認が必要です(会社法第467条第1項第1号及び第2号、第309条第2項第11号)。他の会社の事業の全部を譲り受ける会社の側にも、原則として特別決議が求められます(同法第467条第1項第3号)。承継の対象を選択することができますので、帳簿に計上されていない債務や偶発的な債務を引き継がない仕組みを作りやすいという特徴があります。

3 留意点 債務を移転して譲渡会社を免責するには債権者の承諾が必要であり(民法第472条第3項)、契約上の地位の移転には契約の相手方の承諾が必要です(民法第539条の2)。従業員については個別の同意に基づく転籍の手続をとります。譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うことがあります(会社法第22条第1項)。反対する株主には株式買取請求が認められます(同法第469条)。許認可は原則として承継されず、取得し直す必要があります。

5 秘密保持契約書

1 定義 交渉の過程で開示される情報について、目的外の使用の禁止及び第三者への開示の禁止を定める契約書をいいます。

2 実務上の意義 交渉の初期の段階で締結されます。秘密情報の範囲、秘密情報から除かれる情報、情報を利用することができる目的、開示することができる範囲、有効期間、交渉が終了した場合の返還又は廃棄の方法を定めます。開示することができる範囲には、役員及び従業員のほか、弁護士、公認会計士、税理士その他の助言者を含めるのが通例です。

3 留意点 除外事由を広く定めすぎると保護が及ばなくなります。法令の規定又は裁判所若しくは行政機関の命令に基づく開示は例外として扱いますが、可能な範囲で事前に通知する義務を課しておきます。従業員の引抜きの禁止や、交渉を行っている事実そのものの秘匿を定めることもあります。不正競争防止法第2条第6項の営業秘密として保護を受けるためには秘密として管理されていることが必要であり、契約を締結しただけでは足りず、実際の管理の体制が問われます。違反による損害の立証は容易ではありませんので、差止めや違約金の定めを検討してください。

6 最終契約書

1 定義 取引の実行を法的に義務づける拘束力のある契約書をいいます。株式譲渡契約書、合併契約書、吸収分割契約書、事業譲渡契約書など、選択した手法に応じた種類の契約書が用いられます。

2 実務上の意義 取引の目的物と対価、実行の日、実行の前提条件、表明及び保証、誓約、補償、解除、準拠法及び紛争解決の方法を定めます。デュー・ディリジェンスによって判明した事項を、価格の調整によって処理するか、実行の前提条件として是正を求めるか、個別の補償の対象として手当てするかを決めることが、交渉の中心になります。

3 留意点 契約を締結した日と取引を実行する日とが異なる場合には、その間の事業の運営に関する誓約が重要になります。表明及び保証をいつの時点のものとするか、実行の日にも繰り返すかどうかを明確にしてください。補償の上限額、請求することができる最低額、請求することができる期間、公租公課に関する特則の要否も、あわせて検討します。

7 意向表明書

1 定義 買収を検討する者が、売主に対し、取引の枠組み、想定する価格の水準、今後の予定その他の条件を記載して差し入れる書面をいいます。

2 実務上の意義 入札の手続では、一次意向表明書及び二次意向表明書という形で段階的に提出を求めることがあります。買主にとっては検討の真剣さを示す手段となり、売主にとっては候補者を絞り込むための資料となります。

3 留意点 原則として法的な拘束力を持たせず、その旨を書面に明記します。もっとも、秘密の保持、独占的に交渉する権利、費用の負担、準拠法については拘束力を持たせる例が多く、どの条項に拘束力があるかを明示することが必要です。価格の水準を示すときは、その前提となる事実と、デュー・ディリジェンスの結果によって見直す余地があることを明記してください。交渉が相当程度進んだ後に合理的な理由なく打ち切った場合には、契約の締結に至る過程における信義則上の義務の違反として、損害賠償の責任を問われることがあります。

8 株式譲渡

1 定義 株主が有する株式を他人に移転することをいいます。株主は原則として自由に株式を譲渡することができます(会社法第127条)。もっとも、定款によって、譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨を定めることができます(同法第107条第1項第1号、第108条第1項第4号)。

2 実務上の意義 中小規模の会社の合併及び買収では最も多く用いられる手法です。会社の法人格に変動が生じませんので、許認可、契約関係、従業員の雇用がそのまま維持されるという利点があります。他方で、帳簿に計上されていない債務や偶発的な債務も、会社に帰属したまま引き継がれます。

3 留意点 譲渡制限が付されている株式では、譲渡等承認請求を行い、承認機関の決定を得る必要があります(会社法第136条以下、第139条第1項)。請求の日から2週間以内に通知をしないときは、承認したものとみなされます(同法第145条第1号)。会社が承認しない場合には、会社又は指定買取人が買い取ることとなり、価格について協議が調わないときは裁判所に価格の決定を申し立てることができます(同法第144条)。株券を発行していない会社では、株主名簿の名義書換えが会社その他の第三者に対する対抗要件です(同法第130条第1項)。株券発行会社では株券の交付が効力要件です(同法第128条第1項)。

9 株式交換

1 定義 株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいいます(会社法第2条第31号)。完全親子会社の関係を作り出すための組織法上の行為です。

2 実務上の意義 少数株主が保有する株式を含めて、対象会社の株式の全部を親会社に集約することができます。対価として親会社の株式を交付すれば、現金を用意することなく完全子会社化を実現できます。対象会社は法人格を維持しますので、許認可や契約関係への影響を抑えることができます。

3 留意点 株式交換契約は、原則として両当事会社の株主総会の特別決議による承認を要します(会社法第783条第1項、第795条第1項、第309条第2項第12号)。反対する株主には株式買取請求が認められます(同法第785条、第797条)。対価が完全親会社となる会社の株式以外である場合など一定の場合には、債権者が異議を述べる手続が必要です(同法第789条第1項第3号、第799条第1項第3号)。なお、対象会社を完全子会社とせず子会社とするにとどめる手法として、自社の株式を対価とする株式交付の制度が設けられています(同法第774条の2以下)。

10 株式移転

1 定義 1又は2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいいます(会社法第2条第32号)。既存の会社が新設の会社の完全子会社となります。

2 実務上の意義 持株会社を頂点とする企業集団の体制を作るための手法として用いられます。複数の会社が共同で株式移転を行えば、それらの会社が共通の完全親会社の下に並ぶ体制を作ることができ、経営統合の手法として選択されます。

3 留意点 株式移転計画は、株主総会の特別決議による承認を要します(会社法第804条第1項、第309条第2項第12号)。反対する株主には株式買取請求が認められ(同法第806条)、新株予約権を有する者には買取請求が認められる場合があります(同法第808条)。新たに設立される会社が完全子会社となる会社の新株予約権付社債を承継する場合等には、債権者が異議を述べる手続が必要です(同法第810条第1項第3号)。設立される会社の定款、機関設計、役員の選定をあらかじめ計画に定める必要があります。

11 会社分割

1 定義 株式会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、他の会社に承継させることをいいます。既存の会社に承継させる吸収分割(会社法第2条第29号)と、新たに設立する会社に承継させる新設分割(同条第30号)とがあります。

2 実務上の意義 承継の対象を分割契約又は分割計画に定めることによって、事業の一部を切り出して移転することができます。個々の債務の移転について債権者の承諾を得ることなく承継させることができる点で、事業譲渡と大きく異なります。不振の事業の切離しや、共同で行う事業の統合にも用いられます。

3 留意点 原則として株主総会の特別決議による承認を要し(会社法第783条第1項、第795条第1項、第804条第1項)、債権者が異議を述べる手続が必要です(同法第789条、第799条、第810条)。承継されない債権者を害することを知って分割をした場合には、残された債権者が承継会社等に対して債務の履行を請求することができます(同法第759条第4項、第764条第4項)。労働者との関係では、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律に基づき、労働者への通知及び協議の手続を経る必要があり、これを怠ると承継の効力が争われることがあります。許認可の承継の可否は事業を規律する法律ごとに異なります。

12 クロージング

1 定義 最終契約書に定められた前提条件が満たされたことを確認したうえで、対価の支払、株券又は財産の引渡し、役員の交代その他の実行に必要な行為を一括して行うことをいいます。取引を実行する日を実行日と呼びます。

2 実務上の意義 この日をもって支配権が移転しますので、当事者にとって最も重要な区切りとなります。実行すべき行為とその順序を記載した一覧表をあらかじめ作成し、当日の進行を管理する方法が一般的です。

3 留意点 前提条件の充足を確認する資料、株主総会又は取締役会の議事録、株主名簿、辞任届、印章及び通帳その他の重要な物の引渡しについて、受領を確認する書面を作成してください。許認可に関する届出、登記の申請、金融機関への通知など、実行の後に速やかに行うべき手続を漏らさないよう、担当者と期限を定めておくことが必要です。実行の日を月末や期首に合わせると、決算及び税務の処理が簡明になります。

13 コベナンツ

1 定義 契約の当事者が、一定の行為を行うこと又は行わないことを約束する条項をいいます。誓約条項ともいいます。取引を実行する前の期間に関するものと、実行した後の期間に関するものとがあります。

2 実務上の意義 契約の締結から実行までの間、対象会社の事業が通常どおり運営され、価値が損なわれないことを確保するために用いられます。重要な財産の処分、多額の借入れ、役員の変更、配当の実施などを、買主の事前の書面による承諾がなければ行わないと定めるのが通例です。実行の後については、競業の禁止、従業員の引抜きの禁止、一定期間の役員の継続、必要な協力の提供などを定めます。

3 留意点 違反があった場合の効果を明確にしてください。実行の前提条件とするのか、補償の対象とするのか、解除の事由とするのかによって、当事者の負担は大きく異なります。買主の承諾を要する事項を広く定めすぎると、支配権が移転する前に買主が対象会社の経営に関与しているものと評価され、独占禁止法上の問題を生じるおそれがありますので、範囲は必要な限度にとどめてください。

14 前提条件

1 定義 取引を実行する義務が生じるための条件をいいます。条件が満たされない場合、その条件によって保護される当事者は、取引を実行する義務を負いません。

2 実務上の意義 表明及び保証が実行の日においても真実かつ正確であること、誓約が履行されていること、必要な許認可及び届出が完了していること、株主総会の承認が得られていること、重大な悪影響を及ぼす事象が生じていないこと、主要な取引先から支配権の変動に関する承諾が得られていることなどが定められます。

3 留意点 条件が客観的に判定できる形で書かれているかを確認してください。判定が主観的な表現にとどまると、実行の可否をめぐって争いが生じます。条件が満たされない場合に、直ちに解除できるのか、一定の期間内の是正を待つのかを定めておきます。実行までの期間が長期にわたる場合には、一定の日までに実行できないときは解除することができる旨の定めを置くのが通例です。条件の放棄を一方的に行うことができるかどうかも明記してください。

15 補償

1 定義 契約に定めた事由が生じた場合に、一方の当事者が相手方に生じた損失を金銭によって塡補することを約する条項をいいます。

2 実務上の意義 表明及び保証の違反、誓約の違反、デュー・ディリジェンスで判明した個別の問題について、損失を分配する仕組みとして機能します。民法の債務不履行による損害賠償の規定(民法第415条)によるよりも、要件と範囲を明確に定めることができる点に意義があります。

3 留意点 請求することができる期間、上限の額、1件当たりの最低額、累計の最低額を定めるのが通例です。公租公課、労働、環境、訴訟に関する事項については、期間を長く定め、又は上限を設けない特別の補償とする例があります。賠償の範囲に、逸失利益、間接的な損害、第三者からの請求に係る費用を含めるかどうかを明示してください。対価の一部を一定期間預託しておく方法や、補償の履行を担保する保証を求める方法も検討されます。対象会社が被った損失を株式の価値の減少としてどのように評価するかについても、あらかじめ考え方を定めておくことが望まれます。

16 表明保証

1 定義 契約の当事者が、一定の時点における事実が真実かつ正確であることを相手方に対して表明し、その内容を保証する条項をいいます。民法に明文の規定はなく、当事者の合意に基づく契約上の制度です。

2 実務上の意義 売主は、株式の保有、会社の設立及び存続、計算書類の正確性、資産の権利関係、契約関係、労務、公租公課、訴訟、法令の遵守などについて表明及び保証を行います。デュー・ディリジェンスによって調査しきれない事項について、事後的に判明した問題の負担を売主に帰属させる機能を持ちます。

3 留意点 知っている事実に限る旨の限定、重要性による限定、開示された事項を除く旨の限定によって、範囲は大きく変わります。開示のための別紙の記載内容は、契約の一部として厳密に確認してください。買主が違反の事実を知っていた場合に補償を請求できるかどうかは争いがありますので、契約に明記しておくべきです。基準の時点を契約の締結日とするか実行の日にも繰り返すかによって、当事者の負担は大きく異なります。

17 特別目的会社

1 定義 特定の目的のためにのみ設立され、その目的の範囲でしか事業を行わない会社をいいます。資産の流動化に関する法律に基づく特定目的会社のほか、買収のためにのみ設立される株式会社や合同会社も、この名称で呼ばれます。

2 実務上の意義 買収資金を金融機関から借り入れて株式を取得する手法では、買収のための会社を設立し、その会社が借入れを行い、株式を取得したうえで対象会社と合併することがあります。譲渡人の信用リスクから資産を切り離す仕組みとしても用いられます。

3 留意点 買収のための会社に借入れをさせ、対象会社の資産を担保に供する場合には、対象会社の取締役が善良な管理者の注意を尽くしたといえるかが問題となります。対象会社の利益にどのように資するのかを検討し、その過程を記録に残してください。合併によって借入れの負担を対象会社に移す場合には、債権者が異議を述べる手続を適正に行う必要があります。少数株主が残る対象会社では、少数株主の利益との関係で慎重な検討が求められます。

18 営業秘密

1 定義 秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいいます(不正競争防止法第2条第6項)。秘密として管理されていること、事業活動に有用であること、公然と知られていないことの3つの要件をすべて満たす必要があります。

2 実務上の意義 顧客名簿、仕入価格、製造の手順、設計の図面などが該当し得ます。合併及び買収の場面では、対象会社の価値の相当部分がこれらの情報によって支えられていることがありますので、その保護の状況を確認することが重要です。不正な取得、使用又は開示に対しては、差止め及び損害賠償の請求が認められ、悪質な場合には刑事の罰則も定められています(同法第21条)。

3 留意点 秘密として管理されているといえるためには、情報に接することができる者を限定し、その情報が秘密であることを従業員が認識できる措置がとられている必要があります。表示、施錠、権限の設定、就業規則及び誓約書による管理の状況を、資料によって確認してください。退職した従業員が持ち出した場合に備え、在職中及び退職時の誓約書の取得状況も点検します。他社から移ってきた従業員が前の勤務先の情報を持ち込むことは、自社が責任を問われる原因となりますので、明確に禁じてください。

19 株式買取請求権

1 定義 株主が、会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる権利をいいます。会社の基礎に重大な変更をもたらす行為に反対する株主に、投下した資本を回収する機会を保障する制度です。

2 実務上の意義 定款の変更によって株式に譲渡の制限を設ける場合(会社法第116条第1項第1号)、事業譲渡等をする場合(同法第469条)、合併、会社分割、株式交換、株式移転をする場合(同法第785条、第797条、第806条)などに認められます。多数決によって不利益を受ける株主を保護する、重要な救済手段として機能します。

3 留意点 請求をするには、原則として、株主総会に先立って反対する旨を会社に通知し、かつ株主総会において反対することが必要です。請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に行わなければなりません(会社法第785条第5項等)。価格について協議が調わないときは、効力発生日から30日以内に裁判所に価格の決定を申し立てることができます(同法第786条第2項、第117条第2項)。期間を経過すると権利を失いますので、日程の管理が極めて重要です。

20 瑕疵担保責任(契約不適合責任)

1 定義 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない場合に、売主が負う責任をいいます。令和2年4月1日に施行された民法の改正により、瑕疵担保責任という用語は契約不適合責任という枠組みに改められました。

2 実務上の意義 買主は、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができ(民法第562条)、追完がされないときは代金の減額を請求することができます(同法第563条)。あわせて損害賠償の請求及び契約の解除をすることもできます(同法第564条)。事業の譲渡や不動産の取得を伴う取引では、この責任の範囲が重要な交渉の対象となります。

3 留意点 種類又は品質に関する不適合については、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければ、権利を行使することができなくなります(民法第566条)。商人の間の売買では、買主は受領後遅滞なく検査し、不適合を発見したときは直ちに通知しなければなりません(商法第526条)。これらの規定は任意規定ですので、契約によって期間や範囲を変更することができます。株式の譲渡では、株式そのものの不適合と対象会社の資産の状態とは区別されますので、対象会社の状態については表明及び保証と補償によって手当てする必要があります。

21 チェンジ・オブ・コントロール条項

1 定義 契約の当事者について支配権に変動が生じた場合に、相手方が契約を解除し、又は事前の承諾を要求することができる旨を定める条項をいいます。支配権の変動に関する条項ともいいます。

2 実務上の意義 株式譲渡の手法では対象会社の契約関係がそのまま維持されますが、この条項が置かれている契約については、支配権の変動それ自体が解除の事由となります。基幹となる取引先との継続的な売買契約、賃貸借契約、金融機関との融資契約、販売代理店契約、業務提携契約、システムの利用に関する契約などに置かれていることが多く、取引の実行にとって重大な障害となり得ます。

3 留意点 デュー・ディリジェンスの段階で、契約書の全部について、この条項の有無、発動する要件、必要な手続を洗い出してください。重要な契約については、取引の実行の前に相手方から書面による承諾を得ることを、実行の前提条件として定めるのが通例です。承諾を求める時期と方法は、情報が外部に漏れることによる影響を考慮して、慎重に決める必要があります。合併や会社分割の場合にも同様の条項が適用され得ますので、包括承継だから問題がないと考えることはできません。

22 基本合意書

1 定義 取引の基本的な枠組み、今後の進め方、当事者の役割について、交渉の途中の段階で確認するために作成される書面をいいます。

2 実務上の意義 デュー・ディリジェンスに着手する前に、対価の算定の考え方、想定する日程、独占的に交渉する権利、費用の負担、秘密の保持について合意しておくことによって、その後の交渉を円滑に進めることができます。売主が複数の候補者との交渉を並行して行うことを制限する機能も持ちます。

3 留意点 どの条項に法的な拘束力があるかを明記してください。取引の実行そのものについては拘束力を否定するのが通例です。独占的に交渉する権利については、期間を定め、期間の経過によって当然に効力を失うものとします。拘束力がない旨を記載していても、交渉が相当程度進んだ後に合理的な理由なく打ち切った場合には、契約の締結に至る過程における信義則上の義務の違反として責任を問われることがあります。

23 デュー・ディリジェンス

1 定義 買収の対象となる会社について、その実態、価値及び危険を把握するために行う調査をいいます。調査の対象に応じて、法務に関する調査、財務に関する調査、税務に関する調査、事業に関する調査、人事及び労務に関する調査、環境に関する調査などに分かれます。

2 実務上の意義 法務に関する調査では、会社の設立及び機関の運営、株式の帰属、資産の権利関係、契約関係、人事及び労務、公租公課、許認可、訴訟その他の紛争、法令の遵守の状況を確認します。判明した問題は、取引を中止する理由となることもあれば、対価の減額、実行の前提条件としての是正の要求、個別の補償の対象として処理されることもあります。

3 留意点 限られた期間と費用の中で行いますので、対象の範囲と深度をあらかじめ決め、重要性の高い事項に資源を集中してください。株主名簿と株主総会及び取締役会の議事録は、株式の帰属と機関の運営の適法性を確認する基本の資料ですので、必ず原本によって確認します。中小規模の会社では、資料が整っていないことも多く、聴取りと現地の確認によって補う必要があります。調査によって判明しなかった事項は、表明及び保証と補償によって手当てするという役割の分担を意識してください。

24 レター・オブ・インテント

1 定義 買収を検討する者が、交渉の初期の段階で、取引の基本的な条件と今後の予定を記載して差し入れる書面をいいます。意向表明書と同じ意味で用いられることが多く、基本合意書に近い内容を含むこともあります。

2 実務上の意義 売主に対して検討の状況と条件の見通しを示し、交渉を次の段階に進める契機となります。入札の手続では、候補者を比較し、絞り込むための資料として用いられます。

3 留意点 名称によって法的な性質が決まるものではありません。記載された内容に照らして、拘束力の有無が判断されます。したがって、拘束力を持たせない意図であれば、その旨を明確に記載してください。価格を記載する場合には、その前提となる事実、資金の調達の方法、社内で必要な承認の状況をあわせて記載し、後の交渉で条件を変更する余地を明示しておくことが望まれます。

25 株主間契約

1 定義 複数の株主の間で、株式の取扱い、会社の運営、株主の権利の行使について取り決める契約をいいます。会社法に定めのない事項についても、当事者の合意によって定めることができます。

2 実務上の意義 合弁事業や、投資を受け入れる場面で用いられます。取締役の指名に関する権利、一定の重要な事項について事前の承諾を要する旨の定め、議決権の行使に関する合意、株式の譲渡の制限、他の株主が譲渡する場合に先に買い取ることができる権利、支配株主が譲渡する場合に同一の条件で自らの株式も買い取らせることができる権利、支配株主が譲渡する場合に他の株主にも譲渡を強制することができる権利などを定めます。

3 留意点 契約は当事者の間でのみ効力を有しますので、違反があっても会社の行為の効力が当然に否定されるわけではありません。実効性を確保するためには、定款の定め、種類株式の活用、違約金の定めを組み合わせることが有効です。合意の内容が株主平等の原則や会社法の強行規定に反しないかを確認してください。当事者が変動する場合に備え、株式を譲り受ける者に契約上の地位を承継させる仕組みを定めておくことも必要です。

26 種類株式

1 定義 剰余金の配当、残余財産の分配、議決権の行使その他の権利の内容が異なる2以上の種類の株式をいいます。会社法第108条第1項は、内容の異なる定めを設けることができる事項として9つの類型を掲げています。

2 実務上の意義 剰余金の配当について優先的な取扱いを受ける代わりに議決権を持たない株式、一定の事項について種類株主総会の決議を必要とする株式、会社が取得することができる株式、株主が会社に取得を請求することができる株式などが用いられます。事業の承継の場面では、議決権を後継者に集中させつつ、他の相続人には経済的な利益を与えるという設計に用いられます。

3 留意点 種類株式を発行するには、定款にその内容及び発行可能種類株式総数を定める必要があります(会社法第108条第2項)。ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある一定の行為には、種類株主総会の決議が必要です(同法第322条第1項)。既存の株式を種類株式に変更するには、株主全員の同意を要する場合がありますので、手続の検討を慎重に行ってください。登記も必要です。設計が複雑になるほど、将来の資本政策の柔軟性が失われることにも留意が必要です。

27 新株予約権

1 定義 これを有する者が会社に対して行使することにより、その会社の株式の交付を受けることができる権利をいいます(会社法第2条第21号)。

2 実務上の意義 資金の調達の手段として、また役員及び従業員に対する動機づけの手段として用いられます。合併及び買収の場面では、対象会社が発行している新株予約権の取扱いが重要になります。すべてが行使された場合の株式の数を前提として、対価及び持株の比率を検討する必要があります。

3 留意点 発行の手続は、募集事項の決定(会社法第238条)と、公開会社であるかどうかによる決定機関の区別(同法第240条、第238条第2項)に従います。特に有利な条件で発行する場合には、株主総会の特別決議と取締役による理由の説明が必要です(同法第238条第3項、第239条、第309条第2項第6号)。著しく不公正な方法による発行に対しては、株主が差止めを請求することができます(同法第247条)。買収の場面では、行使の条件、支配権の変動が生じた場合の取扱い、会社が取得することができる事由の定めを確認し、実行の前までに買い取り、又は消滅させる手当てをするのが通例です。新株予約権を有する者は、組織再編に際して買取請求をすることができる場合があります(同法第787条、第808条)。

28 自己株式の取得

1 定義 株式会社が自ら発行した株式を株主から取得することをいいます。会社法第155条は、取得することができる場合を限定的に列挙しています。

2 実務上の意義 少数株主の株式を整理する手段、事業の承継に際して分散した株式を集約する手段、株主に投下した資本を回収する機会を与える手段として用いられます。株主との合意によって取得する場合には、あらかじめ株主総会の決議によって、取得する株式の数、対価の内容及び総額、取得することができる期間を定めます(会社法第156条第1項)。

3 留意点 特定の株主から取得する場合には、株主総会の特別決議が必要であり、他の株主は自己をその特定の株主に加えることを請求することができます(会社法第160条第1項及び第3項、第309条第2項第2号)。取得の対価の総額は、分配可能額を超えることができません(同法第461条第1項)。これに違反した場合、業務執行者及び株主は会社に対して支払の義務を負います(同法第462条第1項)。取得した株式には議決権がなく(同法第308条第2項)、消却するには取締役会の決議等が必要です(同法第178条)。手続の要件が細かく定められていますので、順序を誤らないよう、日程表を作成して進めてください。

29 全部取得条項付種類株式

1 定義 株主総会の決議によって、その全部を会社が取得することができる旨の定めが設けられた種類株式をいいます(会社法第108条第1項第7号、第171条)。

2 実務上の意義 少数株主を会社から退出させる手法として用いられてきました。発行する株式の全部を全部取得条項付種類株式に変更したうえで、これを会社が取得し、対価として交付する株式に1に満たない端数が生じるように設計することによって、支配株主のみを残す結果を導きます。

3 留意点 取得には株主総会の特別決議が必要であり、取得の対価及びその割当てに関する事項、取得する日を定めます(会社法第171条第1項、第309条第2項第3号)。取締役は、取得を必要とする理由を株主総会において説明しなければなりません(同法第171条第3項)。反対する株主は、取得の日の20日前の日から前日までの間に、裁判所に対して価格の決定の申立てをすることができます(同法第172条第1項)。法令又は定款に違反する場合には差止請求が認められます(同法第171条の3)。事前及び事後の開示の手続も必要です(同法第171条の2、第173条の2)。手続の瑕疵は決議の取消しの原因となりますので、通知の時期と方法を厳格に管理してください。

30 株式併合

1 定義 2以上の株式を合わせて、それより少数の株式とすることをいいます(会社法第180条第1項)。1株当たりの価値が高まる一方、保有する株式の数は減少します。

2 実務上の意義 1単位に満たない端数が生じるように併合の割合を定めることによって、少数株主を退出させる手法として用いられます。全部取得条項付種類株式による方法に比べて手続が簡明であることから、現在はこちらが選択されることが多くなっています。上場している会社では、投資単位を調整する目的でも用いられます。

3 留意点 株式の併合には株主総会の特別決議が必要であり、取締役は併合を必要とする理由を説明しなければなりません(会社法第180条第2項及び第4項、第309条第2項第4号)。事前及び事後の開示の手続が必要であり(同法第182条の2、第182条の6)、法令又は定款に違反する場合等には差止請求が認められます(同法第182条の3)。1株に満たない端数となる株式の株主は、会社に対して公正な価格での買取りを請求することができ、協議が調わないときは裁判所に価格の決定を申し立てることができます(同法第182条の4、第182条の5)。端数の処理は裁判所の許可を得た任意売却等の方法によります(同法第235条)。

31 特別支配株主の株式等売渡請求

1 定義 株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する株主が、他の株主の全員に対し、その有する株式の全部を自己に売り渡すことを請求することができる制度をいいます(会社法第179条第1項)。

2 実務上の意義 株主総会の決議を経ることなく、対象会社の取締役会の承認によって手続を進めることができますので(会社法第179条の3第1項及び第3項)、公開買付けによって多数の株式を取得した後の手続として広く用いられます。新株予約権についても、あわせて売渡しを請求することができます(同法第179条第2項)。

3 留意点 対象会社は、取得日の20日前までに株主に対して通知又は公告をしなければなりません(会社法第179条の4)。売り渡す株主は、著しく不当な対価であるなど一定の場合には差止めを請求することができ(同法第179条の7)、取得日の20日前の日から前日までの間に裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(同法第179条の8第1項)。取得日から6か月以内に売渡しの無効の訴えを提起することも認められています(同法第846条の2)。議決権の割合は総株主の議決権を基準としますので、自己株式や議決権のない株式の取扱いを誤らないよう確認してください。

32 簡易組織再編

1 定義 組織再編に際して、一方の当事会社に生じる影響が小さい場合に、その会社の株主総会の決議を要しないものとする制度をいいます。

2 実務上の意義 吸収合併、吸収分割又は株式交換において、存続会社等が交付する対価の額が、その会社の純資産額の5分の1を超えない場合には、株主総会の承認を要しません(会社法第796条第2項)。吸収分割をする会社の側では、承継させる資産の帳簿価額の合計額が総資産額の5分の1を超えない場合に、株主総会の承認を要しません(同法第784条第2項)。事業の全部の譲受けについても同様の定めがあります(同法第468条第2項)。手続に要する期間と費用を大きく減らすことができます。

3 留意点 割合の基準は定款によって引き下げることができます。存続会社が交付する対価の額が承継する純資産額に満たないなど差損が生じる場合には、株主総会の承認が必要です(会社法第796条第2項ただし書、第795条第2項)。また、一定数の株主が反対する旨を通知したときは、株主総会の承認を要することとなります(同法第796条第3項)。株主総会を要しない場合であっても、債権者が異議を述べる手続、事前及び事後の開示の手続は省略されません。要件の判定を誤ると組織再編の効力が争われますので、計算の根拠を書面に残してください。

33 略式組織再編

1 定義 一方の当事会社が他方の当事会社の総株主の議決権の10分の9以上を有している場合に、支配されている側の会社の株主総会の決議を要しないものとする制度をいいます。

2 実務上の意義 10分の9以上を保有する会社を特別支配会社といいます(会社法第468条第1項)。株主総会を開催しても結論が変わらないことから、手続の省略が認められています。事業譲渡等(同法第468条第1項)、吸収合併、吸収分割及び株式交換における消滅会社等(同法第784条第1項)並びに存続会社等(同法第796条第1項)について定めがあります。完全子会社に近い会社を整理する場面で、期間を短縮する手段として有用です。

3 留意点 対価が譲渡制限株式である場合など一定の場合には、この制度を用いることができません(会社法第784条第1項ただし書)。株主総会が開催されない場合でも、反対する株主には株式買取請求が認められ、事前の反対の通知は不要とされています(同法第785条第2項第2号)。また、法令又は定款に違反する場合のほか、対価が著しく不当である場合にも差止請求が認められます(同法第784条の2第2号、第796条の2第2号)。議決権の割合の判定に際しては、自己株式及び議決権のない株式の取扱いを確認してください。

34 債権者保護手続

1 定義 組織再編等によって影響を受ける債権者に対し、異議を述べる機会を与える手続をいいます。会社法第789条、第799条及び第810条に定めがあります。

2 実務上の意義 合併では、消滅する会社の債権者は債務者が入れ替わり、存続する会社の債権者は責任財産の内容が変わりますので、いずれについても異議を述べる機会が与えられます。会社分割、資本金の額の減少、株式交換及び株式移転の一部の場合にも必要です。債権者が異議を述べたときは、会社は弁済し、相当の担保を提供し、又は信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません(会社法第789条第5項)。

3 留意点 官報に公告し、かつ、知れている債権者には各別に催告する必要があります。異議を述べることができる期間は1か月を下ることができません(会社法第789条第2項)。定款の定めに従い、官報に加えて日刊新聞紙に掲載する方法又は電子公告による方法で公告をしたときは、各別の催告を省略することができます(同条第3項)。ただし、会社分割において承継されない債権者に対する催告は省略できない場合があります。知れている債権者の把握が不十分であると、手続の瑕疵として組織再編の効力が争われますので、帳簿と契約書によって網羅的に確認してください。

35 反対株主の株式買取請求権

1 定義 組織再編に反対する株主が、会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる権利をいいます(会社法第785条、第797条、第806条)。

2 実務上の意義 多数決によって組織再編が行われる場合に、反対する株主に投下した資本を回収する機会を保障するとともに、組織再編によって生じるはずであった価値の増加分を適切に分配する機能を持ちます。公正な価格とは、組織再編が行われなかったとしたならば有していたであろう価格にとどまらず、組織再編によって企業価値の増加が生じる場合には、その増加分が適切に分配されたとした場合の価格を意味すると解されています。

3 留意点 株主総会の決議を要する場合には、原則として、株主総会に先立って反対する旨を会社に通知し、かつ株主総会において議案に反対することが必要です(会社法第785条第2項第1号)。略式の手続によって株主総会が開催されない場合には、事前の反対の通知は不要です(同項第2号)。請求は効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に行い、会社の承諾がなければ撤回することができません(同条第5項及び第7項)。価格の協議が調わない場合には、効力発生日から30日以内に裁判所に価格の決定を申し立てる必要があります(同法第786条第2項)。株券発行会社では株券の提出も求められます。期間を1日でも徒過すると権利を失いますので、日程の管理を最優先にしてください。

36 取締役の善管注意義務

1 定義 取締役が、会社との委任の関係に基づき、善良な管理者の注意をもって職務を行う義務をいいます。会社と取締役との関係は委任に関する規定に従い(会社法第330条)、受任者は善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います(民法第644条)。あわせて、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実に職務を行う義務も定められています(会社法第355条)。

2 実務上の意義 この義務に違反して会社に損害を与えた場合、取締役は任務を怠ったものとして損害を賠償する責任を負います(会社法第423条第1項)。株主が会社に代わって責任を追及する訴えを提起することもできます(同法第847条)。合併及び買収の場面では、買収の価格の決定、手続の設計、情報の開示のいずれについても、この義務に適合していたかが検証の対象となります。

3 留意点 経営に関する判断については、判断の前提となった事実の認識に不注意な誤りがなく、その事実に基づく判断の過程及び内容に著しく不合理な点がない限り、義務の違反とはならないと解されています。したがって、必要な情報を収集し、専門家の助言を得て、取締役会において十分に審議し、その経過を議事録に記録することが重要です。利益相反の状況にある場合には、独立した委員会の設置など、判断の公正さを担保する措置を講じてください。

37 利益相反取引

1 定義 取締役が自己又は第三者のために会社と取引をすること、及び会社が取締役の債務を保証するなど、取締役以外の者との間で会社と取締役との利益が相反する取引をすることをいいます(会社法第356条第1項第2号及び第3号)。

2 実務上の意義 中小規模の会社では、経営者からの借入れ、経営者への貸付け、経営者が所有する不動産の賃借、経営者の債務の保証など、この類型に当たる取引が広く行われています。デュー・ディリジェンスにおいて、必要な承認を得ていない取引が発見されることは少なくありません。

3 留意点 取引をするには、重要な事実を開示して株主総会の承認を受けなければならず、取締役会設置会社では取締役会の承認となります(会社法第356条第1項、第365条第1項)。取締役会設置会社では、取引の後、遅滞なく重要な事実を取締役会に報告する必要があります(同法第365条第2項)。承認の決議において、当該取締役は議決に加わることができません(同法第369条第2項)。この取引によって会社に損害が生じたときは、関与した取締役の任務懈怠が推定されます(同法第423条第3項)。自己のために直接取引をした取締役の責任は、注意を怠らなかったことを証明しても免れることができず、免除の対象にもなりません(同法第428条)。過去の取引については、事後の承認及び取締役会への報告によって整えることが行われます。

38 事業承継

1 定義 会社の経営、株式その他の財産及び知的資産を、後継者に引き継ぐことをいいます。親族に承継させる場合、役員又は従業員に承継させる場合、外部の会社に承継させる場合に分かれます。

2 実務上の意義 後継者が安定して経営を行うためには、議決権の相当部分を後継者に集約する必要があります。他方、株式が相続財産の大部分を占める場合には、他の相続人の遺留分との調整が問題となります。中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律は、推定相続人の全員の合意、経済産業大臣の確認及び家庭裁判所の許可を経ることにより、後継者が取得した株式を遺留分を算定するための財産の価額から除外し、又はその価額を合意の時における価額に固定することを認めています。

3 留意点 遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法第1046条第1項)。遺言、生前の贈与、種類株式、株主間契約、持株会社の設立を組み合わせて、早期に設計を始めることが重要です。株式の一部が所在の分からない株主に帰属している場合には、同法の特例により、会社法第197条の期間の要件が5年から1年に短縮される認定を受けられることがあります。経営者による個人保証の取扱い、退職慰労金の支給、事業用の不動産が個人の所有となっている場合の整理も、あわせて検討してください。

39 持株会社

1 定義 他の会社の事業活動を支配することを主たる事業とする会社をいいます。自らも事業を行う事業持株会社と、株式の保有と傘下の会社の管理のみを行う純粋持株会社とがあります。

2 実務上の意義 株式移転又は会社分割によって設立され、企業集団の統括、資本政策の柔軟化、事業ごとの責任の明確化に用いられます。事業の承継の場面では、事業会社の株式を持株会社に集約し、後継者が持株会社の株式を保有することによって、支配を安定させる手法として選択されます。

3 留意点 子会社の株式の取得価額の合計額が総資産の額の2分の1を超える会社は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律にいう持株会社に当たります。事業支配力が過度に集中することとなる会社を設立し、又はそのような会社になることは禁止されており、一定の規模を超える場合には公正取引委員会に対する届出又は報告が必要です(同法第9条)。設立の手続では、債権者が異議を述べる手続、許認可の承継、金融機関との融資契約に置かれた条項の確認が必要になります。持株会社自体には収益がありませんので、子会社からの配当及び経営管理の対価によって費用を賄う設計を、あらかじめ検討してください。

40 アーンアウト条項

1 定義 取引の対価の一部について、実行した後の一定の期間における業績その他の指標の達成の状況に応じて、追加的に支払うことを定める条項をいいます。

2 実務上の意義 売主と買主との間で対象会社の将来の収益に関する見通しが大きく異なる場合に、その差を埋める手段として用いられます。売主にとっては将来の成長が実現した場合に対価の上積みを受けられ、買主にとっては見通しが実現しなかった場合の負担を抑えることができます。

3 留意点 指標の定義、算定の方法、算定の基礎となる会計の方針、算定に用いる資料の開示、算定の結果に争いがある場合の解決の方法を、詳細に定めてください。実行の後の事業の運営は買主が行いますので、買主が指標の達成を妨げるような行為をしないことを誓約させ、対象会社の会計方針の継続、事業の分離や統合を行う場合の調整の方法を定めることが重要です。支払の期間が長くなるほど因果関係の判定が難しくなりますので、通常は1年から3年程度とされます。会計上及び税務上の取扱いについては、あらかじめ専門家の確認を得てください。

41 ロックアップ条項

1 定義 対象会社の経営者又は中核となる従業員が、取引を実行した後の一定の期間、対象会社にとどまり職務を継続することを約する条項をいいます。

2 実務上の意義 中小規模の会社では、経営者個人の信用と技能に事業が依存していることが多く、取引の実行と同時に離脱されると、買収の目的が達せられません。引継ぎの期間を確保し、取引先及び従業員との関係を維持するために設けられます。追加的な対価の支払と連動させ、一定の期間の在職を条件とする例もあります。

3 留意点 労働に関する法令の下では、就労そのものを強制することはできませんので、実効性は経済的な仕組みによって確保します。役員としての委任契約又は雇用契約を別に締結し、期間、職務の内容、報酬、退任した場合の効果を明確に定めてください。競業を避ける義務及び従業員の引抜きを禁止する定めと組み合わせることが通例です。なお、証券市場において既存の株主が一定の期間株式の売却を控えることも同じ名称で呼ばれますが、意味が異なりますので注意してください。

この用語集の記載は一般的な説明であり、個別の事案についての法的な助言ではありません。実際の取引においては、事実関係及び最新の法令を確認のうえ、弁護士にご相談ください。

最終更新日 令和8年8月20日

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