譲渡制限株式の承認の手続を契約の日程にどう組み込むか

  • 2026年8月21日
  • 2026年8月20日
  • M&A

株式譲渡契約書の案文では、契約の締結から2週間後を決済の日としております。しかし、当社の定款には株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定めがあります。この承認の手続をどの時点で行えばよいのか、日程が間に合うのかが分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。譲渡制限株式の譲渡においては、会社の承認を得なければ、譲渡を会社に対抗することができません。承認の手続には、請求から通知までの期間、承認機関の招集に要する期間が必要ですので、これらを契約の日程に組み込んでおく必要があります。承認の取得を決済の前提条件として明記し、承認が得られない場合の処理も定めておくことが求められます。本記事では、手続の流れと日程への組込みの方法を整理いたします。

第1節 譲渡制限株式とは何か

1 定款による定めです

株式会社は、その発行する全部又は一部の株式について、譲渡による取得について会社の承認を要する旨を定款で定めることができます(会社法第107条第1項第1号、第108条第1項第4号)。中小企業においては、株主の構成を維持する目的から、この定めが置かれているのが通例です。

まず行うべきことは、定款の確認です。承認を要する旨の定めがあるか、承認の機関をどこと定めているかを確認いたします。定款に別段の定めがない場合、承認の機関は、取締役会設置会社においては取締役会、それ以外の会社においては株主総会となります(会社法第139条第1項)。定款により、代表取締役を承認の機関とする定めが置かれていることもあります。

2 登記事項証明書との照合

株式の譲渡制限に関する規定は、登記事項となります。もっとも、登記の記載と現在の定款の内容とが一致していない例もありますので、双方を確認することが望まれます。定款の変更が行われたにもかかわらず登記が未了である場合、又は原始定款のまま変更が行われていない場合があります。

第2節 承認の手続の流れ

表1 譲渡等承認請求から名義書換えまでの流れ

手順内容根拠
1 譲渡等承認請求譲渡人又は取得者が、会社に対して承認を請求いたします会社法第136条、第137条
2 承認機関の決定取締役会又は株主総会において承認の可否を決定いたします会社法第139条第1項
3 結果の通知会社が請求者に対して決定の内容を通知いたします会社法第139条第2項
4 名義書換え株主名簿に取得者の氏名等を記載いたします会社法第133条

1 請求の主体と方式

承認の請求は、株式を譲渡しようとする株主が行うほか(会社法第136条)、株式を取得した者が行うこともできます(会社法第137条第1項)。もっとも、取得者が請求をする場合には、原則として株主名簿に記載された株主と共同して行う必要があります(会社法第137条第2項)。

実務上は、決済の前に譲渡人が請求を行う方法が用いられます。請求書には、譲渡する株式の数、譲受人の氏名又は名称を記載いたします。不承認の場合に会社又は指定買取人による買取りを求めるときは、その旨も併せて請求いたします(会社法第138条第1号ハ)。

2 通知をしない場合の効果

会社が、請求の日から2週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にはその期間)以内に、決定の内容を通知しなかった場合には、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。したがって、承認機関の招集が困難な場合であっても、期間の経過により手続を進めることができる場合があります。

もっとも、この規定に依拠して日程を組むことは適切ではありません。買主の側では、承認がされたことを明確な書面によって確認することを求めるのが通例です。

第3節 承認されなかった場合の手続

1 会社又は指定買取人による買取り

会社が承認をしない旨の決定をし、かつ請求者が買取りを求めていた場合には、会社は対象となる株式を買い取るか、指定買取人を指定しなければなりません。会社が買い取る場合には、買い取る旨及び買い取る株式の数を株主総会の決議によって定める必要があり、この決議は特別決議とされております(会社法第140条第1項及び第2項、第309条第2項第1号)。指定買取人の指定は、定款に別段の定めがない限り、取締役会設置会社においては取締役会の決議によります(会社法第140条第4項及び第5項)。

2 価格の決定

買取りの価格は、当事者間の協議によって定めます(会社法第144条第1項)。協議が調わない場合には、会社又は指定買取人から買取りの通知を受けた日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条第2項)。この期間は短いものですので、承認されない可能性がある場合には、あらかじめ手続を想定しておく必要があります。

3 承認がされない場合の契約上の処理

M&Aの局面においては、譲渡人が支配株主であることが多く、承認がされない事態は通常は生じません。もっとも、承認機関の構成員に譲渡人以外の者が含まれる場合、又は株主の構成が分散している場合には、承認が得られない可能性が残ります。この場合に備え、契約において次の定めを置くことが望まれます。

「本契約に基づく本件株式の譲渡は、決済日までに対象会社の承認が得られることを条件とする。決済日までに承認が得られない場合には、いずれの当事者も、相手方に対する書面による通知により、本契約を解除することができる。この場合、いずれの当事者も相手方に対して損害の賠償その他の請求をすることができない。」

第4節 日程への組込みの方法

1 所要期間の見積り

承認の手続に要する期間は、承認の機関によって異なります。取締役会の決議による場合には、招集の通知の期間を経て開催することになりますので、比較的短い期間で行うことができます。他方、株主総会の決議による場合には、招集の手続に一定の期間を要します。株主の全員の同意がある場合には招集の手続を省略することができる旨の規定がありますが、株主が分散している会社では現実的でないことがあります。

また、株主名簿及び定款の整備が未了である場合には、その作業に要する期間を併せて見込む必要があります。株主名簿が作成されていない会社、記載が実際の株主と一致していない会社では、承認の手続に先立って株主の確定の作業が必要となります。

2 前提条件としての明記

株式譲渡契約においては、決済を行うための前提条件を列挙する条項が置かれます。譲渡制限株式の譲渡については、次の事項を前提条件として明記いたします。第一に、承認機関による承認の決議がされ、その旨の議事録の写しが買主に交付されることです。第二に、株主名簿の名義書換えに必要な書類が交付されることです。第三に、株券を発行している会社においては、株券が交付されることです。

3 名義書換えの確認

株式の譲渡は、株主名簿の名義書換えを経なければ会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条第1項)。決済の日に名義書換えを行い、書換え後の株主名簿の写しを買主が受領する手順を、契約に定めておくことが望まれます。株券を発行する旨の定款の定めがある会社においては、株券の交付が譲渡の効力の要件となります(会社法第128条第1項)。株券が現に発行されているかを、早い段階で確認する必要があります。

第5節 弁護士に相談する意味

譲渡制限株式の承認の手続において弁護士が行う業務は、書式を作成することにとどまりません。第一に、定款、登記事項証明書、株主名簿を照合し、承認の機関及び現在の株主を確定させることです。第二に、承認に要する期間を見積もり、契約の日程に組み込むことです。第三に、承認が得られない可能性がある場合に、契約上の処理を定めることです。

株主名簿が整備されていない会社では、承認の手続の前提となる株主の確定に相当の期間を要することがあります。譲渡の検討を開始した段階で、この点を確認しておくことが望まれます。

具体的な手続の設計及び日程の組立ては、会社の機関の構成、株主の状況、案件の規模等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 承認を得ずに譲渡した場合、譲渡は無効になりますか。

会社に対する関係では、譲渡を対抗することができません。名義書換えを求めることもできませんので、譲受人は会社に対して株主としての権利を行使することができないことになります。当事者間における譲渡の効力については見解が分かれておりますので、承認を得た上で手続を進めることが必要です。

質問2 定款に承認を要する定めがあるかどうかは、どこで分かりますか。

定款及び登記事項証明書により確認いたします。登記事項証明書の「株式の譲渡制限に関する規定」の欄に記載があるかを確認し、あわせて現在の定款の内容と一致しているかを照合いたします。

質問3 全株式を譲渡する場合でも承認の手続は必要ですか。

必要です。譲渡する株式の数の多少にかかわらず、譲渡制限株式である以上、承認の手続を要します。譲渡人が全株式を保有している場合であっても、会社という別個の法人が承認を行う構成となります。

質問4 承認の議事録は誰が作成しますか。

対象会社が作成いたします。買主の側では、議事録の記載が会社法の要件を満たしているか、出席者及び議決の結果が正しく記載されているかを確認いたします。

質問5 株券が見当たりません。手続は進められますか。

株券を発行する旨の定款の定めがある会社であっても、現に株券が発行されていない場合があります。この場合には、定款を変更して株券を発行しない旨とする方法、又は株券の不所持若しくは喪失に関する手続を用いる方法が考えられます。いずれの方法によるかは、会社の状況によって異なります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、株式譲渡契約書及び譲渡制限株式の承認の手続に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
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ご相談の際に、定款、登記事項証明書、株主名簿、株式譲渡契約書の案文をご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、登記申請の代理は司法書士の業務でございます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

会社法 第107条第1項第1号及び第108条第1項第4号(譲渡制限に関する定款の定め)、第128条第1項(株券発行会社における譲渡の方法)、第130条第1項(株主名簿の名義書換えの対抗要件)、第133条(名義書換えの請求)、第136条及び第137条(譲渡等承認請求)、第138条(請求の方法)、第139条(承認の決定及び通知)、第140条(会社又は指定買取人による買取り)、第144条(売買価格の決定)、第145条第1号(承認のみなし)、第309条第2項第1号(特別決議)

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