株式が親族に分散している会社がそのままではM&Aをできない理由

  • 2026年8月17日
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  • M&A

会社の株式のうち、経営者が保有しているのは55パーセントにとどまり、残りは兄弟、いとこ、既に会社を離れた親族に分かれております。買主候補からは「全部の株式を取得したい」と言われたものの、親族の中には長年連絡を取っていない者もおります。経営には関与していない親族の同意が、なぜ取引の条件になるのかが分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。買主が全部の株式の取得を求めるのは、少数株主が残ることによって、取得後の会社運営に会社法上の制約が生ずるためです。制約は、株主総会の決議要件に関するものと、少数株主に与えられた権利に関するものとの2つに大別されます。分散していること自体が譲渡を不可能とするものではありませんが、買主から見た価値を減じ、条件の協議を難しくする要因となります。本記事では、その仕組みを整理いたします。

なお、本記事は、株式の分散が取引の妨げとなる仕組みを扱うものです。相続、遺言、贈与その他の家族間の承継に関する事項は、別の領域の問題であり、本記事の対象といたしません。

第1節 買主が全部の株式の取得を求める理由

1 議決権の割合と会社運営

株式会社の意思決定は、株主総会の決議によります。決議の要件は事項によって異なります。

表1 株主総会の決議要件と議決権の割合

決議の種類要件主な決議事項
普通決議議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数(会社法第309条第1項)取締役の選任及び解任、計算書類の承認、剰余金の配当
特別決議議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上(会社法第309条第2項)定款の変更、事業の全部の譲渡、募集株式の有利発行、組織再編、解散
特殊な決議会社法第309条第3項及び第4項に定める加重された要件全部の株式を譲渡制限株式とする定款の変更等

買主が過半数を取得すれば、取締役の選任を通じて経営権を掌握することができます。もっとも、3分の2に満たない場合には、定款の変更、組織再編、事業の譲渡といった重要な行為を単独で行うことができません。

2 少数株主に与えられた権利

一定の議決権又は株式数を有する株主には、会社法上、次の権利が与えられています。

表2 議決権又は株式数の割合に応じて認められる主な権利

割合権利根拠条文
1株計算書類及びその附属明細書の閲覧謄写の請求会社法第442条第3項
1株定款、株主名簿、株主総会議事録の閲覧謄写の請求会社法第31条第2項、第125条第2項、第318条第4項
1株株主総会の決議の取消しの訴え会社法第831条第1項
6か月前から1株取締役の違法行為の差止めの請求会社法第360条第1項
6か月前から1株責任追及等の訴え(株主代表訴訟)会社法第847条第1項
100分の1以上又は300個以上株主総会における議案の提案会社法第303条、第305条
100分の3以上会計帳簿及びこれに関する資料の閲覧謄写の請求会社法第433条第1項
100分の3以上株主総会の招集の請求会社法第297条第1項
100分の3以上業務執行に関する検査役の選任の申立て会社法第358条第1項
100分の10以上会社の解散の訴え会社法第833条第1項

なお、権利の要件のうち総株主の議決権に対する割合と発行済株式に対する割合のいずれによるか、及び保有期間の要件については、条文ごとに定めが異なります。また、公開会社でない株式会社については保有期間の要件が課されない場合があります(会社法第847条第2項等)。

買主から見れば、これらの権利を有する株主が残ることは、取得後の会社運営における不確実性を意味いたします。とりわけ、会計帳簿の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)は、買主が取得後に行う事業の再編の内容が少数株主に把握されることにつながります。

3 将来における株式の買取りの請求

少数株主が残った場合、将来において当該株主から株式の買取りを求められる可能性があります。会社に一般的な買取義務はありませんが、協議に応ずるための時間と費用を要することになります。また、株主が相続によって更に増加する可能性もあります。

4 配当及び剰余金の処分

少数株主が残る場合、剰余金の配当は持株比率に応じて行われることになります。買主が対象会社から資金を回収する方法にも影響が生じます。

第2節 分散が生ずる典型的な経緯

表3 株式の分散が生ずる経緯

経緯内容
設立時の出資旧商法の下で発起人が7人以上必要とされていた時期に、親族が名義上の発起人となった場合
相続創業者の死亡により、複数の相続人に株式が承継された場合
増資増資に際して親族が引き受けた場合
従業員への割当て従業員に株式を割り当て、退職後もそのまま保有されている場合
贈与過去に税務上の理由から親族に贈与した場合
名義の借用実際の出資者と名義人とが異なる場合

このうち、名義の借用による場合(名義株式)は、株式の帰属自体に争いが生ずる可能性があるため、特に注意を要します。名義株式の問題については、TM25において詳述いたします。

第3節 どの程度の分散が問題となるか

1 議決権の割合による整理

表4 経営者が保有する議決権の割合と取引への影響

割合会社法上の意味取引への影響
3分の2以上特別決議を単独で可決することができます買主が経営権を確保しやすい状態です
過半数から3分の2未満普通決議は可決できますが特別決議は単独ではできません定款の変更、組織再編に他の株主の賛成を要します
過半数以下普通決議も単独ではできません買主にとって単独での経営が困難となります

買主の多くは、少なくとも3分の2以上、可能であれば全部の株式の取得を求めます。これは、取得後の会社運営における制約を避けるためです。

2 残る株主の性質

分散の程度と併せて、残る株主がどのような立場にあるかも重要です。会社の経営に協力的な親族が少数の株式を保有している場合と、既に会社との関係が途絶えている者が保有している場合とでは、買主から見た評価が異なります。

また、株主の中に所在の分からない者がいる場合、そもそも協議を行うことができません。所在不明の株主については、会社法上、一定の要件の下で株式を競売し又は売却する制度が設けられています(会社法第197条)。この制度は、株主に対する通知が5年以上継続して到達せず、かつ当該株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったことを要件とするものであり、要件の充足を確認する必要があります。

3 種類株式及び属人的定めの有無

対象会社が種類株式を発行している場合(会社法第108条)、議決権の割合の計算が単純ではなくなります。また、公開会社でない株式会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権について株主ごとに異なる取扱いを定款で定めることができるとされています(会社法第109条第2項)。これらの定めがある場合には、定款の内容を確認する必要があります。

第4節 分散した状態で取引を進める場合の方法

1 買主が一部の株式の取得にとどめる場合

買主が過半数の取得にとどめ、少数株主が残ることを許容する場合があります。この場合、株主間契約を締結し、残る株主の権利行使について一定の取決めを行うことが考えられます。もっとも、株主間契約は当事者を拘束するにとどまり、会社法上の権利そのものを消滅させるものではありません。

2 譲渡の前に集約する場合

譲渡の前に、経営者又は対象会社が他の株主から株式を取得し、集約する方法です。集約の手法としては、相対の売買、対象会社による自己株式の取得(会社法第155条第3号、第156条以下。分配可能額の規制について第461条)といった方法があります。集約の手順については、TM32において詳述いたします。

3 組織法上の手続による方法

株式の併合(会社法第180条以下)、特別支配株主の株式等売渡請求(会社法第179条以下)といった会社法上の制度を用いる方法があります。いずれも要件が定められており、反対する株主には価格の決定を求める手続が用意されています(株式の併合について会社法第182条の4、第182条の5、株式等売渡請求について会社法第179条の8)。手続の選択及び進め方は、株主構成、保有割合、従前の経緯によって異なります。

4 全部の株式を取得できない場合の条件への影響

集約ができないまま取引を進める場合、買主は取得後の制約を織り込んで条件を検討することになります。その結果として、価格の水準、前提条件の内容、補償の範囲に影響が生ずることがあります。

第5節 弁護士に相談する意味

株式の分散に関して弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、株主名簿、法人税申告書の別表、株式の取得の経緯に関する資料を照合し、現在の株主とその持株比率を確定させることです。第二に、名義株式の有無、共有となっている株式の有無、所在の分からない株主の有無を確認することです。第三に、定款、種類株式、属人的定めの有無を確認し、議決権の実際の割合を算定することです。第四に、集約の可能性と、これに要する期間及び手続を整理することです。

株主の確定という作業は、一見すると形式的なものに見えますが、実際には最も時間を要する作業となることがあります。買主が現れてから着手した場合、交渉の途中で日程が滞ることになります。

具体的な集約の手順及び交渉の進め方は、株主構成、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 経営に関与していない親族の株式でも、買主は取得を求めるのですか。

多くの場合、求められます。経営に関与しているか否かにかかわらず、株主としての権利は会社法上認められているためです。計算書類の閲覧謄写の請求は1株でも行うことができます(会社法第442条第3項)。

質問2 過半数を持っていれば十分ではないのですか。

普通決議は単独で可決することができますが、定款の変更、事業の全部の譲渡、組織再編といった特別決議を要する事項については、単独では決議することができません(会社法第309条第2項)。買主が取得後に事業の再編を予定している場合、この点が制約となります。

質問3 連絡が取れない株主がいます。どうすればよいですか。

所在不明の株主については、会社法第197条に定める要件の下で株式を競売し又は売却する制度があります。要件は、通知が5年以上継続して到達しないこと及び5年間継続して剰余金の配当を受領しなかったことです。要件の充足を確認した上で、手続の可否を検討いたします。

質問4 集約にはどのくらいの期間がかかりますか。

株主の人数、所在の判明の状況、協議の進み方によって大きく異なります。相対の協議によって短期間で整理できる場合もあれば、会社法上の手続を要し、相当の期間を見込む必要がある場合もあります。

質問5 分散したままでも売却できますか。

買主が許容する場合には可能です。もっとも、買主が取得後に負う制約が条件に反映されることになります。まず、現在の株主構成を確定させ、集約の可能性を検討することが出発点となります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、株式が分散している会社の譲渡に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、定款、登記事項証明書、株主名簿、法人税申告書の別表のうち株主に関する部分、直近3期分の計算書類、株式の取得の経緯が分かる資料をご用意いただけますと、検討が早く進みます。

結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

会社法 第31条第2項(定款の閲覧等)、第106条(共有者による権利の行使)、第108条(種類株式)、第109条第2項(株主ごとの異なる取扱い)、第121条、第125条第1項及び第2項(株主名簿)、第155条第3号、第156条以下(自己株式の取得)、第179条以下(特別支配株主の株式等売渡請求)、第180条以下及び第182条の4、第182条の5(株式の併合)、第197条(所在不明株主の株式の競売及び売却)、第297条第1項(株主総会の招集の請求)、第303条、第305条(議案の提案)、第309条第1項から第4項まで(決議要件)、第318条第4項(議事録の閲覧等)、第358条第1項(検査役の選任)、第360条第1項(差止めの請求)、第433条第1項(会計帳簿の閲覧等)、第442条第3項(計算書類の閲覧等)、第461条(分配可能額)、第833条第1項(解散の訴え)、第847条(責任追及等の訴え)

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