後継者がおらず、会社を外部に譲り渡すことを検討し始めました。仲介会社に相談する前に、どのような資料を用意しておけばよいのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。最初に集めるべき資料は、会社の基本的な事項に関するもの、株式及び株主に関するもの、財務に関するもの、契約に関するもの、労働に関するもの、許認可に関するものに整理することができます。これらを揃えることにより、譲渡が可能な状態にあるか、整理を要する事項は何かを判断することができます。とりわけ、株式及び株主に関する資料は、整理に長い期間を要する事項を明らかにいたしますので、最初に確認すべきものです。本記事では、集めるべき資料を一覧として示します。
第1節 最初に集める資料の一覧
表1 譲渡の検討の初期に集める資料
| 区分 | 資料 | 確認する事項 |
|---|---|---|
| 会社の基本 | 登記事項証明書、定款、株主総会及び取締役会の議事録 | 機関の構成、譲渡制限の定め、役員の任期、決議の記録 |
| 株式及び株主 | 株主名簿、法人税の申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書、設立及び増資の当時の資料 | 現在の株主、名義株式の有無、相続の発生の有無 |
| 財務 | 直近3期分の計算書類、勘定科目の内訳明細書、法人税の申告書 | 収益の状況、資産及び負債、役員貸付金及び役員借入金 |
| 借入れ及び保証 | 金銭消費貸借契約書、返済の予定表、保証契約書、担保に関する書類 | 借入れの残高、個人保証の範囲、担保の状況 |
| 不動産及び資産 | 不動産の登記事項証明書、賃貸借契約書、リース契約書 | 名義、使用の関係、賃料の水準 |
| 契約 | 主要な取引先との契約書、取引の一覧 | 取引の条件、支配権の変動に関する条項の有無 |
| 労働 | 就業規則、退職金規程、労使協定、従業員の名簿、賃金台帳、出退勤の記録 | 労働条件、労働時間の管理、未払の有無 |
| 許認可 | 許認可に関する書類、届出の控え | 種類、有効期間、要件の充足 |
| 知的財産 | 商標その他の権利に関する登録の状況 | 名義が会社となっているか |
| 係争 | 紛争に関する書類、行政上の措置の履歴 | 係属中の紛争、過去の指導の状況 |
第2節 とりわけ重要な資料
1 株式及び株主に関する資料
最初に確認すべきものです。買主にとって、譲渡人が真の株主であることは取引の前提です。株主名簿が作成されていない場合、記載が更新されていない場合、名義株式が存在する場合、相続が発生したまま名義が変更されていない場合には、整理に長い期間を要します。
確認の方法としては、株主名簿、法人税の申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書、過去の議事録、設立及び増資の当時の資料を照合いたします。これらの記載が一致しない場合には、その原因を確認する必要があります。
2 定款及び登記事項証明書
株式の譲渡制限に関する定め、承認の機関、種類株式の有無、機関の構成を確認いたします。これらは譲渡の手続及び日程に直接に影響いたします。定款と登記事項証明書の記載が一致しない場合には、その原因を確認いたします。
3 勘定科目の内訳明細書
計算書類のみでは把握することができない事項が記載されております。役員貸付金及び役員借入金の残高、売掛金の相手方ごとの内訳、借入れの金融機関ごとの内訳が明らかとなります。譲渡の前に整理すべき事項を把握する上で、有用な資料です。
4 保証に関する書類
経営者が保証をしている債務の一覧を作成いたします。金融機関からの借入れのほか、リース契約、賃貸借契約、取引先との継続的な取引についての保証を含めます。保証の解除は譲渡の主要な目的の一つですので、早期の把握が必要です。
第3節 資料が揃わない場合
中小企業においては、資料が整備されていないことは珍しくありません。株主名簿が作成されていない、議事録が一部の期しかない、契約書が存在しないという状態が見受けられます。
この場合であっても、譲渡を諦める必要はありません。重要なのは、何が存在し、何が存在しないかを把握することです。存在しない資料については、当時の事実関係を確認した上で可能な範囲で整えるか、存在しない旨を買主に説明することになります。
なお、事実に反する内容の書面を作成することは、当然に避けなければなりません。
第4節 弁護士に相談する意味
資料の収集の段階において弁護士が行う業務は、次の点にあります。第一に、集めた資料を照合し、現在の株主、機関の構成、譲渡の手続を確定させることです。第二に、整理を要する事項を特定し、所要期間を見積もることです。第三に、譲渡が可能な状態にあるか、いかなる方法によるべきかを判断することです。
資料を集めること自体は、経営者が自ら行うことができます。もっとも、それらを照合し、法律上の意味を判断することには、専門的な知見を要します。資料が揃った段階でご相談いただくことにより、以後の方針を定めることができます。
具体的な検討は、会社の状況、株主の構成、業種等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 資料が揃っていませんが、相談してもよいですか。
差し支えありません。何が存在し、何が存在しないかを確認することも、検討の一部です。まずお持ちの資料でご相談いただき、追加すべきものを確認する方法があります。
質問2 株主名簿がありません。
法人税の申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書、過去の議事録、設立及び増資の当時の資料により、株主を確定させる作業を行います。この作業は期間を要しますので、早期の着手が望まれます。
質問3 資料を集めていることが従業員に知られませんか。
通常の業務の一環として説明することができる範囲の資料が多くを占めます。もっとも、限られた者のみが関与する体制を整えることが望まれます。
質問4 どのくらいの期間で集められますか。
会社の状況によります。書類が整備されている場合には数週間で足りますが、株主に関する資料の確認、契約書の整理を要する場合には、数か月を要することがあります。
質問5 資料を集めた後は何をしますか。
整理を要する事項を特定し、所要期間を見積もった上で、着手の順序を定めます。あわせて、譲渡の方法及び時期の方針を検討いたします。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、後継者がいない会社の譲渡の検討に関するご相談をお受けしております。
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- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、本記事の表1に掲げた資料のうちお手元にあるものをご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、税務に関する事項は税理士、登記の申請は司法書士の業務でございます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
会社法 第106条(共有者による権利の行使)、第107条第1項第1号(譲渡制限)、第121条(株主名簿)、第130条第1項(株主名簿の名義書換えの対抗要件)、第318条及び第371条(議事録の備置き及び閲覧)
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