株主名簿が整っていない会社が譲渡の前に行う作業

  • 2026年8月22日
  • 2026年8月23日
  • M&A

当社には株主名簿がありません。設立から数十年が経ち、株主が誰であるかも正確には把握しておりません。会社を譲り渡すにあたり、まず何をすればよいのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。株主名簿が整っていない場合、まず資料を照合して現在の株主を確定させる作業を行い、そのうえで株主名簿を作成いたします。照合する資料は、定款、登記事項証明書、法人税の申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書、過去の株主総会の議事録、設立及び増資の当時の資料です。この作業により、名義株式の存在、相続の発生、所在の分からない株主が明らかとなります。いずれも整理に期間を要しますので、譲渡の検討の初期に着手することが望まれます。本記事では、作業の手順を整理いたします。

第1節 株主名簿の位置付け

1 作成の義務

株式会社は、株主名簿を作成し、株主の氏名又は名称及び住所、保有する株式の数その他の事項を記載しなければならないとされております(会社法第121条)。中小企業においては作成されていないことがありますが、法令上は求められるものです。

2 譲渡における意味

株式の譲渡は、株主名簿に記載しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条第1項)。買主は、譲渡人が真の株主であることを確認した上で株式を取得し、決済の日に名義書換えを行います。株主名簿が存在しなければ、この手続を行うことができません。

第2節 株主を確定させる作業

表1 照合する資料と確認する事項

資料確認する事項
定款発行可能株式総数、譲渡制限の定め、種類株式の有無
登記事項証明書発行済株式の総数、資本金の額、過去の増資の記録
同族会社等の判定に関する明細書各年度における株主の氏名及び保有の状況
株主総会の議事録出席した株主、議決権の数、決議の記録
設立の当時の資料発起人、引受けの状況、払込みの記録
増資の当時の資料募集の決議、引受けの状況、払込みの記録
配当に関する記録配当を受領していた者
株式の移動に関する書面譲渡の当事者、承認の記録

1 法人税の申告書に添付される明細書

最も有用な資料であることが多いといえます。同族会社等の判定に関する明細書には、各年度における株主の氏名及び保有の状況が記載されております。過去の分を遡って確認することにより、株主の変遷を追うことができます。

もっとも、この明細書は税務上の書類であり、記載が実際の株主と一致しない場合があります。他の資料と照合する必要があります。

2 設立及び増資の当時の資料

払込みに関する記録、引受けに関する書面により、当初の株主及び出資の実態を確認いたします。名義株式の有無を判断する上で、中核となる資料です。

3 議事録及び配当の記録

株主総会に出席していた者、配当を受領していた者を確認いたします。名義人が株主として扱われてこなかったことを示す資料となります。

第3節 作業により明らかとなる事項

1 名義株式

実際に出資をしていない者の名義が用いられている株式が判明することがあります。名義人又はその相続人から確認書を取得する方法、当該株式を買い取る方法により整理いたします。名義人が既に死亡している場合には、相続人の全員を確定させる必要がありますので、期間を要します。

2 相続が発生している株式

株主に相続が発生し、名義が変更されないまま残っていることがあります。この場合、当該株式は相続人の間で準共有の状態にあり、権利を行使する者を定めて会社に通知しなければ、原則として権利を行使することができません(会社法第106条)。遺産分割その他の方法により帰属を確定させる必要があります。

3 所在の分からない株主

株主名簿に記載された住所に連絡が取れない場合には、住民票の除票、戸籍の附票、戸籍の記載により所在を追跡いたします。判明しない場合には、会社法に定める所在の知れない株主の株式に関する手続、株式の併合その他の方法を検討いたします。

4 過去の手続の不備

過去の増資又は株式の譲渡について、必要な決議又は承認の手続を経ていないことが判明することがあります。この場合には、当該株式の帰属に疑義が生じ得ますので、事実関係を確認した上で対応を検討いたします。

第4節 株主名簿の作成

確定させた内容に基づき、株主名簿を作成いたします。記載する事項は、株主の氏名又は名称及び住所、保有する株式の数、株式を取得した日、株券を発行している場合には株券の番号です。

作成にあたっては、確定の根拠となった資料を併せて保存いたします。買主から株主の確定の経緯について説明を求められることがありますので、その際の資料となります。

なお、事実に反する内容の名簿を作成することは、当然に避けなければなりません。確定することができない部分がある場合には、その旨を把握した上で、買主に開示して協議することになります。

第5節 弁護士に相談する意味

株主名簿の整備において弁護士が行う業務は、次の点にあります。第一に、資料を照合し、現在の株主を確定させることです。第二に、名義株式、相続が発生している株式、所在の分からない株主について、整理の方法を判断することです。第三に、整理に要する期間を見積もり、譲渡の日程に組み込むことです。第四に、確定することができない部分について、開示及び契約における処理を設計することです。

この作業は、譲渡の検討において最初に行うべきものです。整理に長い期間を要する事項が判明することが多く、着手が遅れますと譲渡の日程に影響いたします。

具体的な作業の進め方は、資料の残存の程度、株主の数、経過した年数等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 株主名簿がないと、譲渡はできませんか。

できないわけではありませんが、株式の譲渡は株主名簿に記載しなければ会社その他の第三者に対抗することができませんので、決済までに整備する必要があります。買主も、株主の確定を取引の前提といたします。

質問2 どのくらいの期間がかかりますか。

資料が残っており株主が少数である場合には、数週間から数か月で足ります。名義株式の解消、相続が発生している株式の帰属の確定、所在の分からない株主への対応を要する場合には、1年を超えることがあります。

質問3 過去の資料が残っていません。

法人税の申告書に添付される明細書、登記事項証明書、金融機関の取引の記録により、可能な範囲で追跡いたします。確定することができない部分については、その旨を把握した上で、買主に開示して協議することになります。

質問4 自分で作成してもよいですか。

作成すること自体は可能です。もっとも、資料の照合及び法律上の判断を要しますので、専門家の関与のもとで行うことが望まれます。事実に反する内容の名簿を作成することは避けなければなりません。

質問5 株主が全員親族です。それでも整備が必要ですか。

必要です。親族間であっても、相続の発生により権利関係が複雑となることがあります。また、買主は株式の帰属が確定していることを取引の前提といたします。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&Aの前の株主の整理及び株式の集約に関するご相談をお受けしております。

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ご相談の際に、定款、登記事項証明書、法人税の申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書、過去の株主総会の議事録、設立及び増資の当時の資料をご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、税務に関する事項は税理士、登記の申請は司法書士の業務でございます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

会社法 第106条(共有者による権利の行使)、第121条(株主名簿)、第125条(株主名簿の備置き及び閲覧等)、第130条第1項(株主名簿の名義書換えの対抗要件)、第133条(名義書換えの請求)、第197条(所在の知れない株主の株式の競売等)

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