株式が分散した会社を譲渡できる状態にするための集約の手順

  • 2026年8月18日
  • 2026年8月17日
  • M&A

会社の株式のうち、経営者が保有しているのは6割にとどまり、残りは親族及び元従業員に分かれております。買主候補からは全部の株式の取得を求められましたが、株主の一部とは長年連絡を取っておりません。誰から順に、どのような方法で株式を集めればよいのかが分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。株式の集約には、相対の売買から会社法上の組織法上の手続まで、複数の方法があります。いずれの方法を用いるかは、集約の対象となる株主の数、保有割合、所在の判明の状況、会社の財務状況、確保できる期間によって決まります。手順としては、株主の確定、相対の協議、会社法上の手続の順に検討するのが通例です。本記事では、各方法の要件と手順を整理いたします。

なお、本記事は、会社の株式を第三者に譲渡することができる状態を整えるという取引の側面を扱うものです。相続、遺言、贈与その他の家族間の承継に関する事項は、別の領域の問題であり、本記事の対象といたしません。

第1節 第1段階 株主の確定

1 株主名簿の確認

集約の作業は、現在の株主が誰であるかを確定させることから始まります。株式会社は、株主名簿を作成し、これを本店に備え置かなければならないとされています(会社法第121条、第125条第1項)。

もっとも、中小企業においては、株主名簿が作成されていない、又は作成されていても長期にわたって更新されていない例が少なくありません。この場合、次の資料を照合して株主を確定させる作業を行います。

表1 株主の確定に用いる資料

資料確認できる事項
株主名簿会社が認識している株主
法人税申告書の別表のうち株主に関する部分各事業年度における株主の記載
定款及び設立時の書類設立時の出資者
株式の払込みに関する記録実際に出資した者
株主総会議事録出席した株主及び議決権の数
配当に関する記録配当を受領した者
相続に関する書類相続による承継の状況
譲渡に関する書類過去の譲渡の経緯

2 名義株式の有無の確認

名義人と実際の出資者とが異なる株式(名義株式)が存在する場合、株式の帰属自体に争いが生ずる可能性があります。旧商法の下で発起人が7人以上必要とされていた時期に設立された会社では、親族又は知人が名義上の発起人となっている例があります。

名義株式であるか否かは、払込みを実際に行った者、配当の受領者、株主総会における議決権の行使の状況、当事者の認識といった事情を総合して判断されます。名義人が既に死亡している場合には、その相続人との間で確認を行う必要があります。

3 相続による共有の有無の確認

株主が死亡し、相続人が複数存在する場合、遺産分割が完了するまでは株式が共有に属することになります。この場合、共有者は権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文。ただし会社が同意した場合を除きます)。

4 所在の判明の状況の確認

株主の住所が古いまま更新されていない例が多く見られます。まず、株主名簿に記載された住所に通知を発送し、到達の有無を確認いたします。到達しない場合には、住民票の写し又は戸籍の附票の取得により所在を調査いたします。

第2節 第2段階 相対の協議による取得

1 誰が買主となるか

集約の方法として最も基本となるのは、相対の売買契約による取得です。買主となり得るのは、次の3者です。

表2 相対の売買における買主の類型

買主手続上の要件留意点
経営者個人譲渡制限株式であれば会社の承認を要します買主の資金調達が課題となります
対象会社(自己株式の取得)株主総会の決議及び分配可能額の規制を受けます手続が定められています
第三者(買主候補)譲渡制限株式であれば会社の承認を要します取引の相手方が直接に取得する構成です

2 経営者個人が取得する場合

経営者個人が買主となる場合、会社法上の自己株式の取得に関する手続は適用されません。譲渡制限株式であれば、譲渡等承認請求の手続を経る必要があります(会社法第136条以下)。

課題となるのは資金調達です。取得に要する資金を借入れにより調達する場合には、その返済の原資を確保する必要があります。

3 対象会社が自己株式として取得する場合

対象会社が自己の株式を取得する場合、会社法の定める手続に従う必要があります。

表3 自己株式の取得の手続

区分手続根拠条文
すべての株主に申込みの機会を与える場合株主総会の普通決議により、取得する株式の数、交付する金銭等の内容及び総額、取得することができる期間(1年以内)を定めます会社法第156条第1項
同上都度、1株当たりの対価、譲渡しの申込みの期日等を定めて株主に通知いたします会社法第157条第1項、第158条第1項
特定の株主から取得する場合株主総会の特別決議を要し、当該株主は議決権を行使することができません会社法第160条第1項、第4項、第309条第2項第2号
同上他の株主に対し、自己をも売主に加えることを請求できる旨を通知いたします(売主追加請求)会社法第160条第2項、第3項
同上定款により売主追加請求に関する規定を適用しない旨を定めることができます会社法第164条第1項
財源交付する金銭等の帳簿価額の総額は分配可能額を超えてはなりません会社法第461条第1項第3号

分配可能額は、剰余金の額(会社法第446条)を基礎とし、所定の金額を控除して算定されます(会社法第461条第2項)。これを超えて取得した場合、金銭等の交付を受けた者及び業務執行者等は会社に対して連帯して支払義務を負います(会社法第462条第1項)。

自己株式の取得は、会社の資金を用いる方法ですので、経営者個人の資金調達を要しないという利点があります。他方、分配可能額の規制、株主総会の特別決議、売主追加請求への対応という手続上の要件があります。

なお、株式の売買に伴う課税関係は、買主が誰であるか及び譲渡の形態によって異なります。税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

4 価格の考え方

相対の売買における価格は、当事者の協議によって定まります。非上場株式には市場価格がありませんので、価格の算定にあたっては、純資産を基礎とする方法、収益を基礎とする方法、類似する会社の指標を用いる方法といった複数の考え方が用いられます。

価格について協議が調わない場合、相対の売買は成立いたしません。この場合には、次に述べる会社法上の手続を検討することになります。

第3節 第3段階 会社法上の手続による集約

相対の協議によって集約ができない場合、会社法上の手続を用いることを検討いたします。いずれの手続も要件が定められており、反対する株主には価格の決定を求める手続が用意されています。

表4 会社法上の集約の手続の比較

手続主な要件反対株主の手続根拠条文
株式の併合株主総会の特別決議端数となる株式について買取請求及び価格の決定の申立て会社法第180条、第309条第2項第4号、第182条の4、第182条の5
特別支配株主の株式等売渡請求総株主の議決権の10分の9以上を有する株主であること、対象会社の承認売買価格の決定の申立て、差止請求会社法第179条、第179条の3、第179条の7、第179条の8
所在不明株主の株式の売却通知が5年以上継続して到達せず、5年間継続して配当を受領しないこと異議申述の手続会社法第197条、第198条
定款による相続人等に対する売渡請求定款の定め、株主総会の特別決議売買価格の決定の申立て会社法第174条から第177条まで

1 株式の併合

株式の併合とは、複数の株式を合わせてより少数の株式とすることです。株主総会の特別決議により、併合の割合、効力発生日、併合する株式の種類等を定めます(会社法第180条第2項、第309条第2項第4号)。取締役は、株主総会において株式の併合を必要とする理由を説明しなければなりません(会社法第180条第4項)。

併合の割合を大きく設定することにより、少数株主の保有する株式を1株未満の端数とすることができます。端数が生ずる場合、会社は端数の合計数に相当する株式を売却し、その代金を株主に交付いたします(会社法第235条)。

株式の併合により1株に満たない端数となる株式の株主は、会社に対し、端数となる株式の全部を公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法第182条の4第1項)。買取価格について協議が調わない場合には、裁判所に対して価格の決定の申立てをすることができます(会社法第182条の5第2項)。また、法令又は定款に違反する場合において株主が不利益を受けるおそれがあるときは、差止めを請求することができます(会社法第182条の3)。

2 特別支配株主の株式等売渡請求

総株主の議決権の10分の9以上を有する株主(特別支配株主)は、対象会社の他の株主の全員に対し、その有する株式の全部を売り渡すことを請求することができます(会社法第179条第1項)。この請求には対象会社の承認を要し、取締役会設置会社においては取締役会の決議によります(会社法第179条の3第1項、第3項)。

対象会社は、取得日の20日前までに、売渡株主に対して通知又は公告をしなければなりません(会社法第179条の4)。売渡株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第179条の8第1項)。また、一定の場合には差止めを請求することができます(会社法第179条の7)。

この手続は、株主総会の決議を要しない点で簡便ですが、10分の9以上という要件を満たす必要があります。要件を満たさない場合には、まず株式の併合等により保有割合を高めることが検討されます。

3 所在不明株主の株式の売却

株式会社は、株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達せず、かつ当該株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった場合には、当該株式を競売し、その代金を株主に交付することができます(会社法第197条第1項)。競売に代えて、市場価格のない株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却することができ、会社が買い取ることもできます(会社法第197条第2項、第3項)。

この手続を行うには、あらかじめ、当該株式の株主その他の利害関係人に対して異議を述べることができる旨等を公告し、かつ各別に催告しなければなりません(会社法第198条第1項)。公告及び催告の期間は3か月を下ることができません。

要件のうち「5年間継続して配当を受領しなかったこと」については、そもそも配当を行っていない会社の場合の取扱いに注意を要します。要件の充足を個別に確認する必要があります。

4 定款による相続人等に対する売渡請求

譲渡制限株式について、相続その他の一般承継により当該株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます(会社法第174条)。この請求をするには、その都度、株主総会の特別決議を要します(会社法第175条第1項、第309条第2項第3号)。

請求は、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内にしなければなりません(会社法第176条第1項ただし書)。売買価格は当事者の協議によって定めますが、協議が調わない場合には、請求があった日から20日以内に裁判所に対して価格の決定の申立てをすることができます(会社法第177条第2項)。この期間内に申立てがないときは、原則として請求は効力を失います(会社法第177条第5項)。

また、会社が自己株式を取得する場合ですので、分配可能額の規制を受けます(会社法第461条第1項第5号)。

なお、この定めは、相続が生じた場合に会社が主導して株式を取得するための制度です。定款に定めがない場合には、あらかじめ定款を変更する必要があります。

第4節 手順の組立てと期間

1 検討の順序

表5 集約の手順

順序作業目安となる期間
1株主の確定(資料の照合、所在の調査)1か月から3か月程度
2名義株式及び共有株式の整理事案により大きく異なります
3定款の確認及び必要な定款の変更株主総会の招集を要します
4相対の協議による取得相手方の数及び協議の状況によります
5会社法上の手続の選択及び実行手続により異なります
6株主名簿の整備及び登記事項の確認手続の完了後に行います

期間は事案により大きく異なります。株主の所在が判明しており、協議が円滑に進む場合には短期間で完了することもありますが、所在不明の株主が存在する場合には、会社法第197条の手続に3か月以上の公告及び催告の期間を要します。

2 譲渡の日程との関係

買主候補が現れてから集約に着手した場合、集約に要する期間が取引の日程を規定することになります。買主は、集約が完了する時期の見通しが立たなければ、決済の日程を確定することができません。

このため、譲渡を検討する段階で株主の確定を行い、集約に要する期間を見積もっておくことに意味があります。

3 費用

集約に要する費用としては、株式の取得の対価のほか、専門家の費用、公告に要する費用、裁判所の手続に要する費用が生じます。取得の対価は、株主の数及び保有株式数、価格の水準によって決まります。

4 資金の手当て

対象会社が自己株式として取得する場合には分配可能額の範囲内である必要があり、経営者個人が取得する場合には資金調達を要します。いずれの方法によるかは、会社の財務状況によって決まります。

第5節 弁護士に相談する意味

株式の集約において弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、資料の照合により現在の株主とその持株比率を確定させることです。第二に、名義株式、共有株式、所在不明の株主といった問題の有無を確認し、整理の方針を定めることです。第三に、定款の内容を確認し、必要な定款の変更を検討することです。第四に、相対の協議と会社法上の手続との組合せを設計し、要件の充足及び期間を管理することです。第五に、株主総会の招集、決議、通知、公告といった手続を法定の要件に従って実行することです。

会社法上の手続は、要件及び期間が条文により細かく定められており、これを欠くと手続の効力が争われることになります。とりわけ、株主総会の招集手続、通知及び公告の期間、価格の決定の申立ての期間については、厳格な管理を要します。

具体的な協議の進め方は、株主構成、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 少数株主が売却に応じない場合、強制的に取得できますか。

会社法には、株式の併合、特別支配株主の株式等売渡請求といった制度があり、要件を満たす場合には少数株主の同意がなくても株式を取得することができます。もっとも、反対する株主には価格の決定を求める手続が用意されており、価格について裁判所の判断を受けることになります。

質問2 株主名簿がありません。どうすればよいですか。

法人税申告書の別表のうち株主に関する部分、設立時の書類、払込みの記録、配当の記録といった資料を照合し、株主を確定させる作業から始めます。この作業には一定の期間を要しますので、早期の着手をお勧めいたします。

質問3 所在の分からない株主がいます。

まず、株主名簿の住所への通知、住民票の写し又は戸籍の附票による調査を行います。所在が判明しない場合には、会社法第197条の要件を満たすかを確認いたします。要件を満たす場合には、公告及び催告を経て株式を売却する手続を検討いたします。

質問4 集約にはどのくらいの費用がかかりますか。

株式の取得の対価が費用の中心となります。これに加えて、専門家の費用、公告に要する費用、裁判所の手続に要する費用が生じます。金額は株主の数、保有株式数、価格の水準、用いる手続によって大きく異なります。

質問5 買主候補が現れてから集約を始めても間に合いますか。

事案によります。相対の協議によって短期間で整理できる場合もありますが、会社法上の手続を要する場合には相当の期間を見込む必要があります。譲渡の検討を始めた段階で株主の確定を行っておくことをお勧めいたします。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、分散した株式の集約に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、定款、登記事項証明書、株主名簿、法人税申告書の別表のうち株主に関する部分、直近3期分の計算書類、株式の取得の経緯が分かる資料をご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

会社法 第106条(共有者による権利の行使)、第107条第1項第1号、第108条第1項第4号(譲渡制限株式)、第121条、第125条第1項(株主名簿)、第136条から第145条まで(譲渡等承認請求)、第156条から第160条まで、第164条(自己株式の取得)、第174条から第177条まで(相続人等に対する売渡請求)、第179条、第179条の3、第179条の4、第179条の7、第179条の8(特別支配株主の株式等売渡請求)、第180条、第182条の3、第182条の4、第182条の5(株式の併合)、第197条、第198条(所在不明株主の株式の競売及び売却)、第235条(1株に満たない端数の処理)、第309条第2項第2号から第4号まで(特別決議)、第446条、第461条第1項第3号及び第5号並びに第2項、第462条第1項(分配可能額による規制)

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