会社の代表取締役を息子に交代し、私は退任いたしました。会社の借入れについての個人保証も、当然に息子に移ったものと考えておりました。ところが、金融機関から私宛てに督促が届きました。なぜでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。保証契約は、金融機関と保証人となった個人との間の契約です。会社と金融機関との間の契約とは別個のものですので、会社の代表者が交代しても、保証契約は当然には変わりません。前の代表者の保証を消滅させるためには、金融機関との間で解除の合意をする必要があります。この点を理解せずに代表者の交代のみを行いますと、経営から離れた後も責任を負い続けることになります。本記事では、その理由と対応を整理いたします。
第1節 なぜ自動では変わらないのか
1 当事者が異なります
会社の借入れに関する契約は、会社と金融機関との間のものです。他方、保証契約は、保証人となる個人と金融機関との間のものです。この2つは、当事者を異にする別個の契約です。
保証人は、主たる債務者である会社がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負います(民法第446条第1項)。この責任は、保証人が金融機関に対して負うものであり、会社における地位とは切り離されております。
2 代表者としての地位とは連動いたしません
保証契約において、「代表取締役を退任したときは保証も終了する」という趣旨の定めが置かれていれば、その定めに従うことになります。しかし、そのような定めが置かれていることは、通常はありません。
したがって、代表取締役を退任し、株式を譲渡し、会社との関係が完全になくなった後であっても、保証契約は存続いたします。
3 根保証の場合の注意
一定の範囲に属する不特定の債務を保証する形の契約、いわゆる根保証がされている場合には、退任の後に会社が新たに負担した債務についても責任が及び得ます。個人が保証人となる根保証契約においては、極度額を定めなければその効力を生じないとされております(民法第465条の2)。極度額の定め、元本が確定する事由に関する定めを確認する必要があります。
第2節 解除するために必要なこと
表1 保証の解除に関する手順
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 保証の一覧の作成 | 金融機関、リース、賃貸借、取引先に関するものを漏れなく列挙いたします |
| 2 契約内容の確認 | 保証の範囲、極度額、元本の確定に関する定めを確認いたします |
| 3 金融機関との協議 | 解除の可否、条件、時期を協議いたします |
| 4 書面による確認 | 解除の合意を書面により取得いたします |
| 5 残る保証の確認 | 解除されていないものがないかを一覧により確認いたします |
1 保証の一覧を作成いたします
金融機関からの借入れに限られません。リース契約、事務所又は工場の賃貸借契約、仕入先との継続的な取引についても、経営者が保証をしていることがあります。これらを漏れなく把握することが出発点となります。
2 金融機関との協議
解除には金融機関の同意を要します。協議においては、会社と経営者個人の資産が明確に区分されていること、会社のみの資産及び収益力により返済が可能であること、財務の情報が適時かつ適切に開示されていることが重視されます。これらを整えた上で協議することになります。
新たな代表者が保証を引き受けることを条件として、前の代表者の保証を解除するという構成がとられることもあります。
3 書面による確認
解除については、金融機関から書面による確認を得る必要があります。口頭の説明にとどめますと、後に争いが生じます。解除の対象となる契約、解除の時期を明記した書面を取得いたします。
第3節 株式の譲渡を伴う場合
株式を譲渡して会社から離れる場合には、保証の解除を決済の前提条件として定めることが望まれます。決済の後に処理することといたしますと、実行の確保が困難となります。
買主にとっても、前の経営者の保証が残っている状態は望ましいものではありません。金融機関との協議は、譲渡の交渉と並行して進めることになります。
また、契約において、万一保証が残った場合に買主が負担する旨、すなわち前の経営者が保証の履行をした場合にその額を買主が補償する旨の定めを設ける方法があります。もっとも、この定めは、買主の資力に依存するものですので、保証そのものの解除に代わるものではありません。
第4節 弁護士に相談する意味
保証の解除において弁護士が行う業務は、次の点にあります。第一に、保証の一覧を作成し、範囲及び内容を把握することです。第二に、解除に向けて必要な整理を特定し、実施することです。第三に、金融機関との協議において説明を組み立てることです。第四に、解除の合意を書面により確保し、時期を管理することです。第五に、株式の譲渡を伴う場合に、契約における前提条件として定めることです。
代表者の交代のみを行い、保証の処理を怠ったために、経営から離れた後に督促を受けるという事例が見受けられます。交代の手続と併せて、保証の処理を必ず確認する必要があります。
具体的な協議の進め方は、会社の財務の状況、金融機関の対応、承継の方法等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 退任したのに責任を負うのは不当ではありませんか。
保証契約は金融機関と保証人との間の契約であり、会社における地位とは切り離されております。退任のみによって消滅するものではありません。解除の合意が必要です。
質問2 新しい代表者が保証すれば、私の保証は消えますか。
自動的には消えません。新たな保証と、従前の保証の解除とは別の事柄です。従前の保証について、解除の合意を書面により取得する必要があります。
質問3 株式も譲渡して会社と無関係になりました。
それでも保証契約は存続いたします。株式の譲渡と保証の解除とは別の事柄です。譲渡の際に、解除を前提条件として定めることが望まれます。
質問4 既に督促を受けています。どうすればよいですか。
保証契約の内容、対象となる債務、極度額及び元本の確定に関する定めを確認いたします。そのうえで、支払の要否、金額、他の関係者との関係を検討いたします。早期にご相談いただくことが望まれます。
質問5 保証以外に残るものはありますか。
会社に対する貸付金及び借入金、担保として提供している個人の資産、リース契約及び賃貸借契約についての保証が残っていることがあります。一覧に基づく確認が必要です。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、会社の借入れの個人保証に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
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- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、金銭消費貸借契約書、保証契約書、リース契約書、賃貸借契約書、督促に関する書面、登記事項証明書、直近3期分の計算書類をご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、税務に関する事項は税理士、登記の申請は司法書士の業務でございます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第446条(保証人の責任)、第447条(保証債務の範囲)、第458条の2(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)、第465条の2(個人根保証契約における極度額)、第465条の4(個人根保証契約における元本の確定事由)
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