会社の借入れについての個人保証を外してほしいと金融機関に申し入れましたが、明確な回答が得られません。どのような点を満たせば応じてもらえるのか、基準が分からず困っております。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。金融機関が保証の解除を検討する際に見る事項は、大きく3つに整理することができます。会社の資産と経営者個人の資産とが明確に区分されていること、会社のみの資産及び収益力により返済が可能であること、財務に関する情報が適時かつ適切に開示されていることです。これらは金融機関の実務上の指針において考慮要素として挙げられているものであり、協議にあたっては、これらに対応する形で説明を組み立てることになります。本記事では、それぞれについて具体的に確認される事項を整理いたします。
第1節 3つの柱
表1 保証の解除の協議において確認される事項
| 柱 | 確認される事項 |
|---|---|
| 資産の区分 | 役員貸付金及び役員借入金、事業用資産の名義、私的な支出の有無、役員報酬の水準、取引の適正性 |
| 返済の能力 | 収益の状況、資産と負債の均衡、資金繰りの見通し、借入れの残高と返済の計画 |
| 情報の開示 | 計算書類の適時の提出、資金繰り表の作成、事業計画の提示、変化の際の速やかな報告 |
1 なぜこの3つなのか
個人保証が求められる理由は、2つあります。第一に、会社の資産のみでは返済が確保されないという事情です。第二に、会社の資産が経営者個人の判断により流出する可能性があるという事情です。
資産の区分は第二の懸念に、返済の能力は第一の懸念に、それぞれ対応いたします。情報の開示は、これら2つの状態が維持されていることを金融機関が継続して確認することができるようにするものです。3つの柱は、保証を求める理由をそれぞれ解消するものとして位置付けられます。
第2節 資産の区分について確認される事項
1 役員貸付金及び役員借入金
会社と経営者との間の金銭の貸借の有無及び金額が確認されます。役員貸付金が計上されている場合には、会社の資産が経営者個人に流出していることを示すものと評価されます。精算が求められることになります。
役員借入金についても、金額及び返済の予定が確認されます。会社の資金が不足した際に経営者が私財を投じたという事情は、必ずしも否定的に評価されるものではありませんが、その処理を明確にしておく必要があります。
2 事業用資産の名義
事業に用いている不動産、車両、機械の名義が確認されます。経営者又はその親族の名義となっている場合には、賃貸借の契約書があるか、賃料が相当な水準であるか、実際に支払われているかが確認されます。
契約書が存在せず、賃料の支払もないという状態は、会社と個人との区分が不明確であることを示すものと評価されます。契約書の作成及び賃料の適正化が必要となります。
3 私的な支出
会社の経費として処理されている支出のうち、事業との関連が明確でないものがないかが確認されます。交際費、車両の費用、通信の費用、保険料について、私的な部分が含まれていないかが見られます。
4 役員報酬の水準
役員報酬の水準が、会社の収益の状況に照らして相当であるかが確認されます。報酬の額が過大である場合には、実質的に会社の資産が個人に移転しているものと評価される余地があります。他方、報酬を著しく低く抑え、その分を貸付金として処理している場合も、区分が不明確であるものと評価されます。
5 外部による確認
資産の区分が保たれていることについて、外部の専門家による確認を受けている場合には、その旨を説明することができます。会計に関する確認は、公認会計士又は税理士の業務でございます。
第3節 返済の能力について確認される事項
1 収益の状況
会社の収益により借入れを返済することができる見通しがあるかが確認されます。単年度の結果ではなく、複数の期にわたる推移が見られます。一時的な要因による変動と、構造的な変化とが区別されます。
2 資産と負債の均衡
資産が負債を上回っているか、その差がいかなる水準にあるかが確認されます。この際、帳簿上の金額ではなく、実質的な価値により評価される場合があります。回収の見込みの乏しい売掛金、価値の乏しい在庫、含み損を有する資産については、修正が行われます。
3 資金繰りの見通し
今後の資金の出入りの見通しが確認されます。売上げの季節による変動、大口の支払の予定、設備の更新の必要性を踏まえた見通しを示す必要があります。
4 借入れの構成
借入れの残高、返済の期間、金融機関ごとの構成が確認されます。短期の借入れを繰り返し更新している状態、複数の金融機関からの借入れが整理されていない状態は、否定的に評価される要素となります。借入れの構成を整理することにより、協議が進みやすくなることがあります。
第4節 情報の開示について確認される事項
1 計算書類の提出
決算の後、速やかに計算書類を提出しているかが確認されます。提出が遅れがちである場合、求められて初めて提出する場合には、開示の姿勢が不十分であると評価されます。
2 期中の情報
年に一度の決算の書類のみではなく、期中の試算表、資金繰り表を提出しているかが確認されます。定期的な報告を行うことにより、会社の状況を継続して把握することができる状態となります。
3 変化の際の報告
主要な取引先の変動、大口の受注又は失注、設備の投資、役員の異動といった重要な変化について、速やかに報告しているかが確認されます。不利な情報についても報告する姿勢が、信頼の基礎となります。
4 事業計画
今後の事業の方針及び計画を示すことができるかが確認されます。計画の内容が実現可能なものであること、前の期の計画と実績との差異について説明することができることが重要です。
第5節 保証に代わる手当て
3つの柱をすべて満たす状態に至らない場合であっても、保証に代わる手当てを提案することにより、協議が進むことがあります。次のような方法があります。
第一に、担保を提供する方法です。第二に、借入れの一部を返済し、残高を減らす方法です。第三に、返済の期間を見直し、毎期の返済の額を収益の水準に対応させる方法です。第四に、信用の保証に関する制度を利用する方法です。第五に、保証の範囲を限定する方法です。保証をするか否かの二者択一ではなく、保証の額の上限を定める方法、保証の対象となる債務を特定する方法があります。
第五の方法は、しばしば見過ごされます。保証の全部の解除が困難である場合であっても、範囲を限定することにより、負担を軽減することができる場合があります。
第6節 弁護士に相談する意味
個人保証の解除の協議において弁護士が行う業務は、次の点にあります。第一に、保証の一覧を作成し、範囲及び内容を把握することです。第二に、3つの柱に照らして現在の状態を確認し、整備を要する事項を特定することです。第三に、資産の区分に関する整理を、契約及び手続として実施することです。第四に、協議において示すべき説明を組み立て、合意の内容を書面により確保することです。
資産の区分に関する整理は、法律上の手続を伴います。役員貸付金の精算、事業用資産の名義の整理、賃貸借契約の締結、利益が相反する取引に関する承認の手続は、いずれも書面及び決議を要します。これらを整えないまま協議のみを重ねても、進展は望みにくいといえます。
具体的な協議の進め方は、会社の財務の状況、金融機関の対応、借入れの構成等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 基準を満たせば、必ず解除されるのですか。
そうとは限りません。指針は法令ではありませんので、これに従うことが法律上義務付けられるものではありません。もっとも、判断の枠組みとして機能しておりますので、これに沿った説明を行うことには意味があります。
質問2 役員貸付金が多額で、すぐには精算できません。
精算の計画を示すことが考えられます。返済の方法、期間、原資を明らかにした計画を提示し、その履行の状況を報告することにより、区分の改善に向けた姿勢を示すことができます。
質問3 どの程度の期間で整備できますか。
会社の状況によります。役員貸付金の精算、事業用資産の名義の整理には、資金及び手続を要しますので、1年程度を要することがあります。財務の状況の改善には、さらに期間を要することがあります。
質問4 保証を外すと、融資を打ち切られませんか。
保証の解除と融資の継続とは別の問題です。もっとも、金融機関の判断に影響し得ますので、協議にあたっては、今後の取引の方針を併せて確認することが望まれます。
質問5 保証の額に上限を設けることはできますか。
協議により可能な場合があります。保証の全部の解除が困難である場合であっても、上限を定める方法、対象となる債務を特定する方法により、負担を軽減することができることがあります。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、会社の借入れの個人保証に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、金銭消費貸借契約書、保証契約書、直近3期分の計算書類、勘定科目の内訳明細書、資金繰り表、事業計画、登記事項証明書をご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、税務及び会計に関する事項は税理士又は公認会計士、登記の申請は司法書士の業務でございます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第446条(保証人の責任)、第458条の2(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)、第465条の2(個人根保証契約における極度額)、第465条の10第1項(契約締結時の情報の提供義務)
会社法 第356条第1項及び第365条第1項(利益相反取引の承認)、第361条第1項(取締役の報酬等)
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