定款の定めが譲渡の可否に与える影響

  • 2026年8月21日
  • 2026年8月23日
  • M&A

会社の譲渡を検討するにあたり、定款を確認するよう弁護士から言われました。定款は設立の当時に作成したまま、ほとんど読み返したことがありません。定款の内容が譲渡に影響することがあるのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。定款の定めは、譲渡の可否そのものを左右するものではありませんが、譲渡の手続、所要期間、株式の集約の方法に大きく影響いたします。株式の譲渡制限に関する定め、承認の機関に関する定め、種類株式に関する定め、相続人等に対する売渡請求に関する定め、株主ごとに異なる取扱いを定める定め、決議の要件を加重する定めは、いずれも確認を要します。本記事では、確認すべき定めとその影響を整理いたします。

第1節 まず定款の現況を確認いたします

1 定款が存在するか

意外に多いのが、現在の定款がどこにあるか分からないという事態です。設立の当時の原始定款は公証人の認証を受けておりますので、その謄本を取得することができる場合があります。もっとも、その後に変更が行われている場合には、変更後の内容を確認する必要があります。

変更は株主総会の決議によって行われますので、過去の議事録を確認いたします。議事録が存在しない場合には、登記事項証明書の記載により、少なくとも登記事項に関する部分の変更を確認することができます。

2 登記事項証明書との照合

定款の定めのうち、株式の譲渡制限に関する規定、発行可能株式総数、公告の方法、機関の構成は登記事項です。定款と登記事項証明書の記載が一致しない場合には、いずれかが実態と異なっていることになりますので、原因を確認いたします。

第2節 譲渡に影響する定めの一覧

表1 確認すべき定款の定めと譲渡への影響

定め譲渡への影響
株式の譲渡制限承認の手続を要します。日程に組み込む必要があります
承認の機関取締役会か株主総会か。招集に要する期間が異なります
種類株式議決権、拒否権、内容の異なる株式の有無により手続が変わります
相続人等に対する売渡請求相続により分散した株式を会社が取得する手段となります
株主ごとに異なる取扱い議決権の数が持株数と一致しないことがあります
決議の要件の加重特別決議の成立に必要な議決権の割合が高くなります
株券の発行株券の交付が譲渡の効力の要件となります

1 株式の譲渡制限に関する定め

株式会社は、その発行する全部又は一部の株式について、譲渡による取得について会社の承認を要する旨を定款で定めることができます(会社法第107条第1項第1号、第108条第1項第4号)。中小企業においては、この定めが置かれているのが通例です。

この定めがある場合には、譲渡等承認請求から承認の決定及び通知に至る手続を、契約の日程に組み込む必要があります。会社が請求の日から2週間以内に通知をしなかった場合には承認をしたものとみなされますが(会社法第145条第1号)、この期間は定款によりこれを下回る期間を定めることができるとされております。

2 承認の機関に関する定め

定款に別段の定めがない場合、承認の機関は、取締役会設置会社においては取締役会、それ以外の会社においては株主総会となります(会社法第139条第1項)。定款により、代表取締役を承認の機関とする定めが置かれていることもあります。

承認の機関が株主総会である場合には、招集の手続に一定の期間を要します。株主が分散している会社では、この期間が日程に影響いたします。

3 種類株式に関する定め

会社は、内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができます(会社法第108条第1項)。剰余金の配当、残余財産の分配、議決権を行使することができる事項、譲渡制限、取得請求権、取得条項、全部取得条項、拒否権、役員の選任に関する事項について、異なる定めを置くことができます。

譲渡の局面で重要となるのは、議決権に関する定め及び拒否権に関する定めです。議決権を行使することができる事項が制限された株式が発行されている場合には、議決権の数と持株数とが一致いたしません。また、一定の事項について種類株主総会の決議を要する旨の定めがある場合には、その決議を経なければ手続を進めることができません。

買主は、取得する株式の内容及び議決権の状況を正確に把握することを求めますので、種類株式が発行されている場合には、その内容を整理して開示する必要があります。

4 相続人等に対する売渡請求に関する定め

会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます(会社法第174条)。この定めがある場合には、相続により分散した株式を会社が取得する手段となります。

もっとも、この請求を行うには株主総会の決議を要し、また請求をすることができる期間に制限があります。加えて、自己株式の取得に関する財源の規制が適用されます。手続には要件がありますので、定めの存在のみによって当然に用いることができるものではありません。

5 株主ごとに異なる取扱いを定める定め

公開会社でない株式会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会における議決権に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができるとされております(会社法第109条第2項)。この定めがある場合には、持株数と議決権の数とが一致いたしません。

この定めは、事業承継の場面で用いられることがあります。譲渡の局面においては、議決権の実際の分布を確認する必要がありますので、定めの有無を必ず確認いたします。

6 決議の要件を加重する定め

株主総会の決議の要件は、定款により加重することができます。特別決議について、議決権の3分の2という要件をより高い割合に加重する定めが置かれている場合には、株式の併合その他の手続に必要な議決権の割合が高くなります。

株式の集約の方法を検討する際には、この点を確認する必要があります。加重する定めがある場合には、想定していた方法を用いることができないことがあります。

7 株券の発行に関する定め

株券を発行する旨の定款の定めがある会社においては、株券の交付が譲渡の効力の要件となります(会社法第128条第1項)。もっとも、実際には株券が発行されていない会社が多く見受けられます。この場合には、定款を変更して株券を発行しない旨とする方法、株券を発行する方法、不所持又は喪失に関する手続を用いる方法を検討いたします。

第3節 定款を変更する場合

1 変更の手続

定款の変更は、株主総会の特別決議によります(会社法第466条、第309条第2項第11号)。株主が分散している会社では、決議の成立に必要な議決権を確保することができるかを確認する必要があります。

2 譲渡の前に変更すべき場合

株券を発行する旨の定めがあるにもかかわらず株券が発行されていない場合、法令の改正に対応した変更が行われていない場合、機関の構成が実態と一致していない場合には、譲渡の前に変更を検討いたします。

他方、譲渡制限に関する定めについては、譲渡の前に廃止する必要はありません。買主も、譲受けの後に譲渡制限を維持することを希望するのが通例です。

第4節 弁護士に相談する意味

定款の確認において弁護士が行う業務は、条文を読むことにとどまりません。第一に、定款、登記事項証明書、過去の議事録を照合し、現在有効な定款の内容を確定させることです。第二に、各定めが譲渡の手続、所要期間、株式の集約の方法にいかなる影響を及ぼすかを判断することです。第三に、変更を要する定めについて、手続を設計することです。

定款の確認は、譲渡の検討の初期に行うべき作業です。この段階で判明した事項が、その後の手続の設計を左右いたします。

具体的な検討及び手続の設計は、会社の機関の構成、株主の状況、株式の内容等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 定款が見当たりません。どうすればよいですか。

設立の当時の原始定款は公証人の認証を受けておりますので、その謄本を取得することができる場合があります。その後の変更については、株主総会の議事録及び登記事項証明書により確認いたします。

質問2 定款の譲渡制限を廃止すれば、手続が簡単になりますか。

承認の手続は不要となりますが、廃止には株主総会の特別決議を要し、また株式が自由に譲渡され得る状態となります。買主も譲受けの後に譲渡制限を維持することを希望するのが通例ですので、廃止することは通常はありません。

質問3 種類株式を発行していますが、譲渡できますか。

できます。もっとも、株式の内容、議決権の状況、種類株主総会の決議を要する事項を整理して開示する必要があります。買主は取得する株式の内容を正確に把握することを求めます。

質問4 定款と登記の記載が食い違っています。

いずれかが実態と異なっていることになりますので、過去の議事録により経緯を確認いたします。是正を要する場合には、決議及び登記の手続を行います。なお、登記の申請は司法書士の業務でございます。

質問5 定款の確認は、いつ行うべきですか。

譲渡の検討の初期に行うことが望まれます。定款の定めにより、株式の集約の方法及び手続の日程が変わりますので、方針を定める前に確認する必要があります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&Aの前の定款及び株式の整理に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、定款、登記事項証明書、株主名簿、過去の株主総会及び取締役会の議事録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、登記の申請は司法書士、税務に関する事項は税理士の業務でございます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

会社法 第107条第1項第1号(譲渡制限)、第108条第1項(種類株式)、第109条第2項(株主ごとの異なる取扱い)、第128条第1項(株券発行会社における譲渡の方法)、第139条第1項(承認の機関)、第145条第1号(承認のみなし)、第174条(相続人等に対する売渡請求の定款の定め)、第309条第2項(特別決議)、第466条(定款の変更)

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