当社の設立の当時、発起人の数を満たすために、親族及び知人の名義を借りて株式を引き受けたことになっております。出資金はすべて私が支出しており、配当も行っておりません。このまま会社を譲渡することはできるでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。名義株式を残したまま譲渡の手続を進めますと、買主の調査において必ず指摘され、譲渡の障害となります。名義人が権利を主張する余地が残るため、買主は株式の帰属が確定していないと判断いたします。その結果、譲渡そのものが見送られるか、価格の引下げ、決済の前提条件、補償の対象として処理されることになります。名義株式の整理には期間を要しますので、譲渡の検討を開始した段階で着手することが望まれます。本記事では、生じ得る事態と整理の方法を述べます。
第1節 名義株式とは何か
1 名義と出資者が異なる株式です
名義株式とは、株主名簿に記載された名義人と、実際に出資をした者とが異なる株式をいいます。設立の当時に発起人の数を満たすため、又は他の事情により、親族、従業員、知人の名義が用いられた例が多く見受けられます。
誰が株主であるかについては、実質的に出資をした者を株主と解する考え方が一般に採られております。もっとも、これは事実関係の認定を前提とするものであり、出資の事実を示す資料が存在しない場合には、その認定が容易ではありません。時間の経過とともに、資料の散逸及び関係者の記憶の希薄化が進みますので、早期の整理が求められます。
2 株主名簿の記載の意味
株式の譲渡は、株主名簿に記載しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条第1項)。株主名簿は、会社が株主として扱う者を定める意味を持つものであり、名義人が株主としての権利を行使することを会社が拒むためには、その者が株主でないことを会社の側で示す必要が生じ得ます。
第2節 名義株式を残したまま譲渡しようとすると何が起きるか
表1 名義株式が残っている場合に生じ得る事態
| 場面 | 生じ得る事態 |
|---|---|
| 買主による調査 | 株式の帰属が確定していないとして指摘を受けます |
| 価格の交渉 | 引下げの理由とされることがあります |
| 契約の交渉 | 解消を決済の前提条件とされることがあります |
| 決済の後 | 名義人又はその相続人が権利を主張する余地が残ります |
| 表明保証 | 株式の帰属に関する保証の違反として補償の対象となり得ます |
1 買主は必ず確認いたします
買主にとって、譲渡人が真の株主であることは、取引の前提です。株主名簿、法人税の申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書、過去の議事録、設立及び増資の当時の資料を照合し、記載が一致しない場合には、その原因の説明を求めます。
説明により名義株式の存在が明らかとなった場合、買主は、名義人が後に権利を主張する可能性を検討いたします。仮に名義人が権利を主張し、それが認められる場合には、買主が取得したはずの株式の一部が他人に帰属することになりますので、看過し得ない事項です。
2 条件への影響
実務上、名義株式の存在は、次のいずれかの方法により処理されます。第一に、決済までに解消することを前提条件とする方法です。第二に、解消しないまま譲渡する場合に、これに起因して生じた損害を売主が補償する旨を定める方法です。第三に、価格の引下げにより処理する方法です。
第二の方法によりますと、売主は譲渡の後も長期にわたり責任を負い続けることになります。補償の上限額及び請求期間の制限が、この事項については適用されない構成とされることもあります。売主にとっては、譲渡の前に解消しておくことの利益が大きいといえます。
3 名義人又は相続人による主張
名義人自身は、自らが出資をしていないことを認識しております。もっとも、その相続人は、事情を知らないまま株式を相続したものと考えることがあります。時間の経過により、事情を知る関係者が減少いたしますので、主張が生じる可能性は高まります。
第3節 名義株式であることを示す資料
1 出資の事実に関する資料
誰が出資をしたかを示す資料が中核となります。設立又は増資の当時の払込みに関する記録、預金の取引の記録、資金の出所を示す資料が該当いたします。名義人の預金から払込みがされている場合であっても、その資金が実質的な出資者から交付されたものであることを示すことができれば、名義株式であることの根拠となります。
2 株主としての扱いに関する資料
名義人が株主として扱われてこなかったことを示す資料も重要です。配当が支払われていないこと、株主総会の招集の通知が送付されていないこと、名義人が株主総会に出席していないこと、名義人が株主としての権利を行使したことがないことが該当いたします。
3 名義を借りた経緯に関する資料
名義を借りるに至った経緯を示す資料、当時の関係者の記憶、名義人自身の認識も、判断の資料となります。関係者が存命であるうちに、確認書として書面化しておくことが望まれます。
第4節 名義株式を解消する方法
1 名義人からの確認書の取得
最も簡明な方法です。名義人から、自らは出資をしておらず株主ではないこと、株式について何らの権利も有しないことを確認する旨の書面を取得いたします。名義人が存命であり、事情を認識しており、協力が得られる場合に採り得る方法です。
書面には、対象となる株式の数、名義の記載の経緯、権利を主張しない旨を明記いたします。買主に対して開示することを想定した内容といたします。
2 名義人からの株式の取得
名義人が権利を主張する場合、又は確認書の取得に応じない場合には、当該株式を買い取る方法によります。実質的には出資をしていない者から買い取ることになりますが、紛争を避けて帰属を確定させる方法として、実務上用いられます。
この場合、譲渡制限株式であれば会社の承認の手続を要します(会社法第136条以下)。また、価格の決定について協議を要します。相続人が多数に及ぶ場合には、全員との協議が必要となりますので、期間を要します。
3 名義人の所在が分からない場合
名義人又はその相続人の所在が分からない場合には、まず戸籍及び住民票の記載により所在を調査いたします。所在が判明しない場合には、会社法に定める所在の分からない株主に関する手続の利用、その他の方法の可否を検討いたします。いずれの方法によるかは、株式の数、株主の状況、譲渡までの期間により判断いたします。
4 解消しないまま進める場合
期間の制約により解消が間に合わない場合には、名義株式の存在及びその経緯を買主に開示し、開示別紙に記載した上で、補償の範囲及び責任の限度を交渉いたします。開示せずに譲渡することは、表明保証の違反として補償の請求を受ける結果となりますので、避けるべきです。
第5節 弁護士に相談する意味
名義株式の整理において弁護士が行う業務は、書面を作成することにとどまりません。第一に、資料の調査により、いずれの株式が名義株式であるかを特定することです。第二に、名義人又はその相続人の状況に応じて、確認書の取得、買取り、その他の手続のいずれによるかを判断することです。第三に、解消が間に合わない場合において、開示の方法及び契約における処理を設計することです。
名義株式の整理は、名義人との交渉を伴います。交渉の過程で、名義人が株主としての権利を主張し、又は買取りの価格について高額な要求をすることがあります。この場合の対応には、事実関係の裏付けと法律上の整理が必要となります。
具体的な調査及び交渉の進め方は、名義人の状況、資料の残存の程度、譲渡までの期間等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 名義を借りただけですから、私の株式であることは明らかではありませんか。
実質的に出資をした者を株主と解する考え方が一般に採られておりますが、これは事実関係の認定を前提とするものです。出資の事実を示す資料が存在しない場合には、認定は容易ではありません。買主は、この不確実さを理由として整理を求めることになります。
質問2 名義人は既に亡くなっております。どうすればよいですか。
相続人の全員を確定させた上で、確認書の取得又は買取りの交渉を行います。相続人が多数に及ぶ場合、相続人の中にさらに相続が発生している場合には、期間を要します。早期の着手が望まれます。
質問3 名義人が高額な買取りを求めてきました。
出資の事実に関する資料を確認し、名義株式であることを示すことができるかを検討いたします。そのうえで、交渉により解決する方法、法的な手続による方法のいずれによるかを判断いたします。
質問4 買主に伝えなければ分からないのではありませんか。
買主の調査においては、株主名簿と法人税の申告書に添付される明細書、議事録、設立の当時の資料が照合されますので、通常は判明いたします。開示せずに譲渡した場合には、表明保証の違反として補償の請求を受けることになります。
質問5 整理にはどのくらいの期間がかかりますか。
名義人が存命であり協力が得られる場合には、比較的短い期間で完了いたします。名義人が死亡し相続人が多数に及ぶ場合、所在が分からない場合には、1年を超える期間を要することがあります。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、名義株式の整理及びM&Aの前の株主の整理に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、定款、登記事項証明書、株主名簿、設立及び増資の当時の資料、法人税の申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書、過去の議事録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、税務に関する事項は税理士、登記の申請は司法書士の業務でございます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
会社法 第106条(共有者による権利の行使)、第121条(株主名簿)、第130条第1項(株主名簿の名義書換えの対抗要件)、第136条以下(譲渡制限株式の承認)、第197条(所在の知れない株主の株式の競売等)
関連するご案内
M&Aの前に社内の懸案をどう整理すべきかお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。
あわせてお読みください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

