会社の株式のうち、経営者が保有しているのは58パーセントであり、残りは複数の親族が保有しております。買主候補からは「3分の2を確保できないのであれば、価格を見直したい」と言われました。過半数を保有しているのだから経営権はあるはずだとお考えであったところ、なぜ3分の2という数字が問題になるのかが分からないというご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。過半数と3分の2との違いは、株主総会の決議要件の違いに由来いたします。過半数があれば取締役の選任を通じて日常の経営を行うことができますが、定款の変更、事業の全部の譲渡、組織再編といった会社の基礎に関わる事項は、特別決議によることとされており、単独では決議することができません。買主にとっては、取得後にこれらの行為を行えないことが制約となります。本記事では、この障害の内容と、3分の2を確保するための方法を整理いたします。
なお、本記事は、議決権の割合が取引に及ぼす影響という取引の側面を扱うものです。相続、遺言、贈与その他の家族間の承継に関する事項は、別の領域の問題であり、本記事の対象といたしません。
第1節 議決権の割合ごとの意味
1 決議要件の整理
表1 株主総会の決議要件
| 決議 | 定足数 | 可決の要件 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 普通決議 | 議決権の過半数を有する株主の出席(定款で軽減又は排除が可能な場合があります) | 出席した株主の議決権の過半数 | 会社法第309条第1項 |
| 特別決議 | 議決権の過半数を有する株主の出席(定款で3分の1以上まで軽減が可能です) | 出席した株主の議決権の3分の2以上 | 会社法第309条第2項 |
| 特殊な決議 | 会社法第309条第3項及び第4項に定める加重された要件 | 同左 | 会社法第309条第3項、第4項 |
特別決議の要件は「出席した株主の議決権の3分の2以上」ですので、他の株主が欠席した場合には、3分の2に満たない議決権でも可決できることがあります。もっとも、取引の場面において他の株主の出欠を前提とした設計を行うことは適切ではありません。全株主が出席することを前提として検討いたします。
2 割合ごとに単独で行える事項
表2 保有する議決権の割合と単独で行える事項
| 割合 | 単独で行える主な事項 |
|---|---|
| 3分の2以上 | 特別決議事項(定款の変更、事業の全部の譲渡、株式の併合、募集株式の有利発行、組織再編、解散、監査役の解任等) |
| 過半数 | 普通決議事項(取締役の選任及び解任、計算書類の承認、剰余金の配当、役員報酬の決定等) |
| 3分の1超 | 単独では可決できませんが、特別決議を阻止することができます |
| 3分の1以下 | 決議の可否に対する影響は限定的です |
3 特別決議を要する主な事項
表3 特別決議を要する主な事項
| 事項 | 根拠条文 |
|---|---|
| 定款の変更 | 会社法第466条、第309条第2項第11号 |
| 事業の全部又は重要な一部の譲渡 | 会社法第467条第1項、第309条第2項第11号 |
| 他の会社の事業の全部の譲受け | 会社法第467条第1項第3号 |
| 株式の併合 | 会社法第180条第2項、第309条第2項第4号 |
| 募集株式の発行における有利発行 | 会社法第199条第2項、第201条第1項、第309条第2項第5号 |
| 特定の株主からの自己株式の取得 | 会社法第160条第1項、第309条第2項第2号 |
| 相続人等に対する売渡請求 | 会社法第175条第1項、第309条第2項第3号 |
| 譲渡等承認請求における会社による買取りの決定 | 会社法第140条第2項、第309条第2項第1号 |
| 合併、会社分割、株式交換、株式移転 | 会社法第783条、第795条、第804条、第309条第2項第12号 |
| 会社の解散 | 会社法第471条第3号、第309条第2項第11号 |
| 監査役の解任 | 会社法第339条第1項、第343条第4項、第309条第2項第7号 |
第2節 M&Aにおいて生ずる具体的な障害
1 買主が取得後に行おうとする行為への制約
買主は、対象会社を取得した後に、次のような行為を検討することがあります。これらは特別決議を要する事項です。
- 商号の変更、目的の変更、機関設計の変更(定款の変更)
- 買主のグループ会社との合併
- 事業の一部を分社化するための会社分割
- 買主の完全子会社とするための株式交換
- 不採算の事業の譲渡
3分の2を確保できない場合、買主はこれらの行為を単独で行うことができません。取得後の事業の再編を予定している買主にとっては、重大な制約となります。
2 残存する少数株主の権利
3分の2を確保できないということは、3分の1を超える議決権を有する少数株主が残るということを意味する場合があります。この場合、当該株主は特別決議を単独で阻止することができます。
さらに、議決権の割合が小さい株主であっても、会社法上、次の権利が認められています。
表4 少数株主に認められる主な権利
| 割合 | 権利 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 1株 | 計算書類及びその附属明細書の閲覧謄写の請求 | 会社法第442条第3項 |
| 1株 | 株主総会の決議の取消しの訴え | 会社法第831条第1項 |
| 100分の1以上又は300個以上 | 議案の提案 | 会社法第303条、第305条 |
| 100分の3以上 | 会計帳簿及びこれに関する資料の閲覧謄写の請求 | 会社法第433条第1項 |
| 100分の3以上 | 株主総会の招集の請求 | 会社法第297条第1項 |
| 100分の3以上 | 業務執行に関する検査役の選任の申立て | 会社法第358条第1項 |
権利の要件のうち、総株主の議決権に対する割合と発行済株式に対する割合のいずれによるか、及び保有期間の要件については、条文ごとに定めが異なります。
3 条件への影響
3分の2を確保できない場合、買主は次のいずれかの対応を採ることになります。
第一に、価格その他の条件を見直すことです。取得後の制約が生ずる分だけ、対象会社の価値を低く評価することになります。
第二に、集約が完了することを取引の前提条件とすることです。この場合、集約が完了するまで決済が行われません。
第三に、株主間契約の締結を求めることです。残る株主との間で、議決権の行使、株式の譲渡の制限、将来の買取りについて取決めを行います。もっとも、株主間契約は当事者を拘束するにとどまり、会社法上の権利そのものを消滅させるものではありません。
第四に、取引を見送ることです。
4 譲渡制限株式の承認手続への影響
対象会社が譲渡制限株式を発行している場合、株式の譲渡には会社の承認を要します。承認をするか否かの決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によります(会社法第139条第1項)。定款に別段の定めがある場合を除き、取締役会設置会社であれば取締役会の決議によりますので、株主総会の決議要件が直接に問題となるとは限りません。もっとも、取締役の選任に必要な議決権を確保していることが前提となります。
第3節 3分の2を確保するための方法
1 株式の取得による方法
不足する議決権に相当する株式を、相対の売買により取得する方法です。買主となり得るのは、経営者個人、対象会社(自己株式の取得)、買主候補です。対象会社が自己株式として取得する場合、当該株式については議決権が認められませんので(会社法第308条第2項)、他の株主の議決権の割合が相対的に上昇いたします。この点は、集約の効果を検討する上で重要です。
自己株式の取得には、株主総会の決議及び分配可能額の規制が及びます(会社法第156条以下、第461条第1項第3号)。特定の株主から取得する場合には特別決議を要し(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)、この決議を行うためには既に3分の2の議決権が必要となる場合があります。もっとも、当該特定の株主は議決権を行使することができませんので(会社法第160条第4項)、この点を踏まえた検討を要します。
2 種類株式の活用
会社法第108条は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権を行使することができる事項その他について、内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができる旨を定めています。議決権制限株式を用いることにより、議決権の割合を調整することが考えられます。
種類株式を発行するためには、定款の変更を要し、これには特別決議が必要です(会社法第466条、第309条第2項第11号)。したがって、既に3分の2を確保していない状態から種類株式を導入することには、手続上の制約があります。
3 公開会社でない株式会社における属人的定め
公開会社でない株式会社は、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます(会社法第109条第2項)。この定めを設ける定款の変更については、加重された決議要件が定められています(会社法第309条第4項)。
4 会社法上の集約の手続
株式の併合(会社法第180条以下)、特別支配株主の株式等売渡請求(会社法第179条以下)については、TM32において詳述いたします。いずれも一定の議決権又は保有割合を前提とする手続ですので、現在の状況において用いることができるかを個別に確認する必要があります。
第4節 弁護士に相談する意味
議決権の割合に関して弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、株主名簿その他の資料を照合し、現在の議決権の割合を正確に算定することです。自己株式、種類株式、属人的定めがある場合には、算定が単純ではありません。第二に、買主が取得後に行おうとする行為を確認し、必要となる決議要件を特定することです。第三に、不足する議決権を確保するための方法を検討し、要件及び期間を整理することです。第四に、集約ができない場合の代替の設計(株主間契約、前提条件の定め方)を検討することです。
議決権の割合は、単に持株比率を計算すれば足りるものではありません。自己株式には議決権がなく(会社法第308条第2項)、相互保有株式についても議決権が制限される場合があります(会社法第308条第1項)。正確な算定が出発点となります。
具体的な協議の進め方は、株主構成、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 過半数を持っていれば経営権はあるのではないですか。
取締役の選任は普通決議によりますので、過半数があれば役員を選任することができます。その意味で経営権はあります。もっとも、定款の変更、事業の全部の譲渡、組織再編といった特別決議事項については、単独では決議することができません。
質問2 3分の2に少し足りない場合でも問題になりますか。
特別決議は「出席した株主の議決権の3分の2以上」を要件としますので、他の株主が欠席すれば可決できる場合があります。もっとも、買主は他の株主の出欠を前提とした設計を許容しないのが通例です。
質問3 自己株式を取得すれば割合は上がりますか。
会社が有する自己株式については議決権が認められませんので(会社法第308条第2項)、他の株主の議決権の割合は相対的に上昇いたします。もっとも、自己株式の取得には株主総会の決議及び分配可能額の規制が及びます。
質問4 種類株式を発行すれば解決しますか。
種類株式の発行には定款の変更を要し、これには特別決議が必要です。3分の2を確保していない状態からこの手続を進めることには制約があります。現在の状況において採り得る方法を個別に検討する必要があります。
質問5 3分の2を確保できないまま譲渡することはできますか。
買主が許容する場合には可能です。もっとも、取得後の制約が条件に反映されることになります。株主間契約による手当てを含め、採り得る設計を検討いたします。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、議決権の割合と株式の集約に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、定款、登記事項証明書、株主名簿、法人税申告書の別表のうち株主に関する部分、直近3期分の計算書類をご用意いただけますと、検討が早く進みます。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
会社法 第108条(種類株式)、第109条第2項(株主ごとの異なる取扱い)、第139条第1項(譲渡等承認の決定)、第140条第2項(会社による買取りの決定)、第156条から第160条まで(自己株式の取得)、第175条第1項(相続人等に対する売渡請求)、第179条以下(特別支配株主の株式等売渡請求)、第180条第2項(株式の併合)、第199条第2項、第201条第1項(募集株式の発行)、第297条第1項、第303条、第305条、第308条第1項及び第2項(議決権)、第339条第1項、第343条第4項(監査役の解任)、第358条第1項、第433条第1項、第442条第3項、第466条(定款の変更)、第467条第1項(事業譲渡等)、第471条第3号(解散)、第461条第1項第3号(分配可能額)、第309条第1項から第4項まで(決議要件)、第783条、第795条、第804条(組織再編の承認)、第831条第1項(決議取消しの訴え)
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