後継者がいない会社を第三者へ譲渡できるかを判断する視点

  • 2026年8月17日
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  • M&A

経営者が70歳を超え、親族にも社内にも会社を引き継ぐ者がおりません。取引先や金融機関からは「まだ元気なうちに考えた方がよい」と言われるものの、自社のような規模の会社に買主が現れるとは思えないとお考えの方が多くいらっしゃいます。仲介会社に相談することも考えられますが、その前に、そもそも自社が譲渡の対象となり得るのかを知りたいというご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。会社が譲渡の対象となり得るかどうかは、規模や業種のみによって決まるものではありません。買主から見た評価の軸は複数あり、そのいずれかにおいて価値が認められれば、取引が成立する余地があります。他方で、事業の内容がどれほど良好であっても、株式の帰属が確定していない、必要な許認可が承継できないといった法的な障害があるために取引が進まない場合があります。本記事では、買主から見た評価の軸と、取引の妨げとなる法的な障害の双方を整理いたします。

なお、本記事は、会社の株式を第三者に譲渡することができるかという取引の側面を扱うものです。相続、遺言、贈与その他の家族間の承継に関する事項は、別の領域の問題であり、本記事の対象といたしません。

第1節 買主から見た評価の軸

1 評価は収益性のみによるものではありません

「赤字であるから買主は現れない」「規模が小さいから対象にならない」というご認識をお持ちの方が多くいらっしゃいます。もっとも、買主が対象会社に価値を認める理由は、収益性のみではありません。

表1 買主から見た評価の軸

評価の軸内容該当する場合の意味
収益性継続的に利益を計上していること最も分かりやすい価値の源泉です
取引先参入が容易でない取引先との関係があること買主が新規に獲得することが困難な資産です
許認可事業に必要な許認可を保有していること新規取得に時間又は要件を要する場合に価値を持ちます
人材熟練した従業員又は有資格者が在籍していること採用が困難な職種において価値を持ちます
設備特定の設備又は工場を保有していること新設に時間と費用を要する場合に価値を持ちます
不動産事業用の不動産を保有していること立地により価値を持つことがあります
地域特定の地域における事業基盤があること当該地域への進出を検討する買主にとって価値を持ちます
技術特定の加工技術、製法、ノウハウを有すること代替が困難であれば価値を持ちます
顧客の情報継続的な顧客との関係があること継続的な収益の基礎となります
繰越欠損金税務上の繰越欠損金があること取扱いは税務の判断によります

赤字であっても、上記のいずれかの軸において価値が認められれば、買主が現れる余地があります。逆に、利益を計上していても、経営者個人の属人的な能力に依存している事業については、買主から見た価値が限定的となることがあります。

2 属人性の程度

中小企業の譲渡において最も重要な検討事項の一つが、事業が経営者個人にどの程度依存しているかという点です。

表2 属人性の評価

区分属人性が高い状態属人性が低い状態
営業経営者個人の人的関係により受注しています会社としての取引関係が確立しています
技術経営者のみが技術を有しています複数の従業員が技術を有しています
許認可経営者個人が資格者として登録されています他の従業員が資格を有しています
与信経営者個人の信用により取引が成立しています会社の信用により取引が成立しています
意思決定すべての判断を経営者が行っています部門ごとに判断できる体制があります

属人性が高い場合、経営者が退いた後に事業が継続できるかという点が問題となります。この場合、譲渡の直後に経営者が完全に退くのではなく、一定期間は顧問等として関与する構成が採られることがあります。

3 規模と買主の類型

表3 対象会社の規模と想定される買主の類型

想定される買主特徴留意点
同業他社事業の内容を理解しており、判断が早い傾向にあります情報の開示に慎重を要します
隣接業種の会社事業の範囲の拡大を目的といたします事業の親和性が判断の要素となります
地域の会社地域における事業基盤の拡大を目的といたします地域の事情に通じています
投資を業とする法人収益性及び成長の見込みを重視いたします一定の規模を要件とすることがあります
個人の買主自ら経営することを目的といたします資金調達の方法が問題となります

近年は、個人が事業の承継を目的として会社を取得する例も見られます。規模が小さいことのみを理由として、買主が存在しないと判断することは適切ではありません。

第2節 取引の妨げとなる法的な障害

事業の内容が良好であっても、次の事項が整理されていないために取引が進まない場合があります。これらは、いずれも事前に整理することが可能な事項です。

1 株式の帰属が確定していない

表4 株式に関する障害の類型

類型内容取引への影響
名義株式名義人と実際の出資者とが異なる株式譲渡の相手方を特定できません
株式の分散親族又は元従業員に株式が分散している状態全部の株式を集めることができません
所在不明の株主連絡先が判明しない株主が存在する状態承認手続及び譲渡の実行に支障が生じます
相続による共有株式が複数の相続人の共有となっている状態権利行使者の指定を要します
株主名簿の不備株主名簿が作成されていない、又は記載が実際と異なる状態株主を確定できません
株券の不発行株券発行会社であるにもかかわらず株券が発行されていない状態譲渡の効力に疑義が生じます

株式会社は、株主名簿を作成し、これを本店に備え置かなければならないとされています(会社法第121条、第125条第1項)。株主名簿の記載と実際の株式の帰属とが一致していない場合、買主は誰から株式を取得すればよいのかを判断することができません。

株式が共有に属する場合には、共有者は権利を行使する者1人を定め、会社に対してその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文。ただし会社が同意した場合を除きます)。

株券発行会社においては、株券の交付が株式の譲渡の効力要件です(会社法第128条第1項)。株券が現に存在しない場合には、株券を発行するか、又は定款を変更して株券を発行しない旨を定めるという整理が必要となります。

2 議決権の割合が確保されていない

買主が対象会社の経営権を取得するためには、一定の議決権を確保する必要があります。株主総会の普通決議は議決権の過半数によりますが(会社法第309条第1項)、定款の変更、事業の全部の譲渡、組織再編といった重要な事項は特別決議によることとされ、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を要します(会社法第309条第2項)。

したがって、買主が取得できる議決権が3分の2に満たない場合、買主は取得後の会社運営において制約を受けることになります。この点はTM33において詳述いたします。

3 許認可の承継

事業に必要な許認可が、株式の譲渡によって当然に承継されるか否かは、業種によって異なります。株式の譲渡は法人格の変更を伴わないため、原則として許認可はそのまま存続いたします。もっとも、業種によっては、役員の変更等について届出を要し、又は要件を欠くこととなる場合があります。

たとえば、建設業においては、営業所ごとに一定の要件を満たす技術者を置くことが求められ、経営業務の管理を担う体制についても要件が定められています(建設業法第7条、第15条)。経営者が退いた後にこれらの要件を満たすことができるかを、事前に確認する必要があります。

また、事業譲渡又は会社分割の方法による場合には、業種によって認可を要することがあります。建設業においては、事業の譲渡し、合併及び分割について認可の制度が設けられています(建設業法第17条の2)。運送業、産業廃棄物処理業その他の業種についても、それぞれの根拠法令において承継に関する定めが置かれています。

4 経営者の個人保証

対象会社の借入れについて経営者が個人保証をしている場合、株式を譲渡しても保証は当然には消滅いたしません。保証契約は、経営者個人と金融機関との間の契約であるためです。金融機関との交渉により保証を解除していただく必要があります。この点はTM43及びTM44において詳述いたします。

5 役員貸付金及び役員借入金

対象会社と経営者個人との間に貸借がある場合、譲渡に際して清算する必要があります。会社が経営者から借り入れている場合(役員借入金)は、会社にとって債務ですので、譲渡代金の算定に影響いたします。会社が経営者に貸し付けている場合(役員貸付金)は、会社にとって債権ですが、回収の見込みが問題となります。

6 会社が保有する経営者個人のための資産

対象会社が、経営者個人が使用する自動車、不動産、保険といった資産を保有している場合、譲渡に際してその扱いを決める必要があります。買主が引き継ぐことを望まない資産については、譲渡の前に会社から切り離す整理を行います。

7 簿外債務及び労務の懸案

計上されていない債務、未払の割増賃金、社会保険の未加入といった事項は、デューデリジェンスにおいて指摘されるのが通例です。これらの事項が存在すること自体が取引を妨げるものではありませんが、事前に把握しておくことにより、交渉における予測可能性が高まります。

8 支配権の異動を理由とする契約の解除条項

主要な取引先との契約、賃貸借契約、金融機関との契約に、支配権の異動があった場合に相手方が契約を解除することができる旨の条項が置かれていることがあります。この条項があるからといって直ちに解除されるとは限りませんが、買主にとっては、取得後に主要な取引が失われる可能性を意味いたします。

譲渡を検討する段階で、主要な契約書を確認し、この種の条項の有無を把握しておく必要があります。条項がある場合には、決済の前に相手方の同意を得ておくか、又は同意を得られない場合の扱いを契約において定めるという処理を行います。

9 不動産及び賃借物件の状況

対象会社が事業に用いる不動産を、経営者個人又はその資産管理会社から賃借している例が多く見られます。この場合、譲渡の後に賃貸借を継続するのか、条件を変更するのか、あるいは不動産自体を対象会社に移転するのかを整理する必要があります。買主にとっては、事業の継続に不可欠な物件を確保できるかという点が判断の要素となります。

賃借している物件については、賃貸人の承諾を要する事項の有無、契約の残存期間、更新の可否を確認いたします。

第3節 自社の状況を確認する手順

表5 譲渡の可否を判断するための確認事項

順序確認事項確認する資料
1株主の構成と持株比率株主名簿、法人税申告書の別表、株式の取得の経緯に関する資料
2株式の帰属に疑義がある部分の有無出資の払込みの記録、名義に関する経緯
3定款の内容定款(譲渡制限、種類株式、承認機関の定め)
4会社法上の書類の整備株主総会議事録、取締役会議事録、登記事項証明書
5財務の状況直近3期分の計算書類、勘定科目内訳明細書、税務申告書
6借入れと保証の状況金銭消費貸借契約書、保証に関する書面、担保の設定状況
7許認可の状況許可証、要件を満たす者の在籍状況
8契約の状況主要な契約書、支配権の異動に関する条項の有無
9労務の状況就業規則、賃金規程、労働時間の記録、社会保険の加入状況
10不動産の状況登記事項証明書、賃貸借契約書

この確認を行うことにより、譲渡が可能かどうかの見通しと、事前に整理すべき事項が明らかになります。整理に要する期間は事項によって異なり、株式の集約に関する事項については相当の期間を要することがあります。

第4節 時期の考え方

1 準備に要する期間

譲渡を検討してから実際に決済に至るまでの期間は、事案によって大きく異なります。株式の帰属に問題がなく、買主候補が早期に現れる場合には短期間で進むこともありますが、株式の集約、許認可の整理、労務の是正といった事前の作業を要する場合には、相当の期間を見込む必要があります。

2 経営者の年齢と買主の判断

買主は、譲渡の後に事業が継続できるかという点を重視いたします。経営者が高齢である場合、引継ぎの期間を確保できるかが判断の要素となります。経営者の健康状態が悪化してからの譲渡は、引継ぎの期間を確保することが困難となり、買主の側の慎重な判断につながることがあります。

3 業績の推移

買主は、直近の業績のみならず、数期にわたる推移を見ます。業績が低下傾向にある局面よりも、安定している局面の方が、条件の協議が進みやすい傾向にあります。

第5節 弁護士に相談する意味

譲渡の可否の判断において弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、株式の帰属を確認し、名義株式、分散、所在不明の株主といった問題の有無を明らかにすることです。第二に、定款、議事録、株主名簿といった会社法上の書類の整備の状況を確認することです。第三に、許認可、契約、労務に関する法的な障害を洗い出すことです。第四に、これらの整理に要する期間を見積もり、譲渡の日程との関係を整理することです。

株式の帰属に関する問題は、発見が遅れるほど整理が困難となります。買主が現れてから問題が判明した場合、交渉の途中で日程が滞り、条件にも影響いたします。譲渡を検討し始めた段階で確認しておくことに意味があります。

なお、当事務所は、M&A仲介会社からのご紹介によるご依頼もお受けしており、仲介会社との間で良好な関係を築いております。買主候補の探索は仲介会社の業務であり、法的な障害の整理は弁護士の業務です。役割を分担して進めることが円滑です。

具体的な整理の手順及び交渉の進め方は、株主構成、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 赤字の会社でも買主は現れますか。

事案によります。収益性以外の評価の軸(取引先、許認可、人材、設備、不動産、技術等)において価値が認められる場合には、買主が現れる余地があります。他方、価値の源泉が見当たらない場合には、譲渡が困難となることもあります。まず、自社のどの部分が評価され得るかを整理いたします。

質問2 従業員が10名程度の会社です。対象になりますか。

規模が小さいことのみを理由として対象外となるものではありません。近年は、規模の小さい会社を対象とする取引も行われています。もっとも、譲渡代金の額に対する専門家の費用の割合が大きくなるという別の問題が生じますので、費用の見込みを事前に確認しておく必要があります。

質問3 株式の一部が親族に分散しています。譲渡できますか。

分散していること自体が譲渡を不可能とするものではありません。もっとも、買主が経営権を確保するためには一定の議決権を要しますので、集約が必要となる場合があります。集約の手順については、TM32において詳述いたします。

質問4 個人保証があるままでも譲渡できますか。

譲渡自体は可能ですが、保証は当然には消滅いたしません。株式譲渡契約において、保証の解除を決済の前提条件とする定めを置き、あわせて金融機関との協議を進めることが一般的です。

質問5 まだ譲渡を決めたわけではありませんが、相談してよいですか。

ご相談は可能です。むしろ、譲渡を決める前の段階で法的な障害の有無を確認しておくことに意味があります。整理に期間を要する事項が判明した場合には、早期に着手することができます。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、後継者が不在である会社の第三者への譲渡に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、定款、登記事項証明書、株主名簿、直近3期分の計算書類、借入れ及び保証に関する書面、許可証をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

会社法 第106条(共有者による権利の行使)、第107条第1項第1号、第108条第1項第4号(譲渡制限株式)、第121条、第125条第1項(株主名簿)、第128条第1項(株券発行会社における譲渡の効力)、第130条第1項(対抗要件)、第133条(名義書換え)、第136条から第145条まで(譲渡等承認請求)、第309条第1項及び第2項(株主総会の決議要件)

建設業法 第7条、第15条(許可の要件)、第17条の2(事業の譲渡し、合併及び分割の認可)

民法 第446条(保証債務)、第454条(連帯保証)

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