M&Aの仲介会社に相談いたしましたが、「この規模と業種では買手が見つかりにくい」と言われ、取り扱ってもらえませんでした。廃業するしかないのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。1社の仲介会社が取り扱わないことと、承継の方法が存在しないこととは異なります。仲介会社が取り扱わない理由の多くは、報酬の体系に見合う規模でないという事情によるものであり、事業そのものに承継の価値がないことを意味するものではありません。条件の見直し、事業の一部の切り出し、役員又は従業員への承継、取引先又は同業者への直接の打診、公的な支援機関の利用といった選択肢があります。本記事では、残された方法を整理いたします。
第1節 「買手が付かない」と言われる理由
1 規模が報酬の体系に見合わない場合
最も多い理由です。仲介会社の業務には、規模の大小にかかわらず一定の労力を要します。取引の金額が小さい場合には、報酬が業務の量に見合わないことになりますので、取扱いを控えることがあります。
この場合、事業そのものに承継の価値がないと判断されたわけではありません。取り扱う仲介会社が見つからないという事情にとどまりますので、他の経路を検討する余地があります。
2 条件が市場の状況と合致しない場合
希望する価格、譲渡の時期、従業員の処遇に関する条件が、市場の状況と合致しない場合があります。この場合には、条件を見直すことにより候補者が現れることがあります。
3 事業の内容に固有の事情がある場合
収益が安定していない、特定の取引先への依存が高い、経営者個人への依存が高い、許認可の要件を満たす人員を欠いている、簿外の負担が想定されるといった事情がある場合には、候補者が限られます。これらの事情は、時間をかけて改善することができるものもあります。
第2節 残された選択肢
表1 買手が見つかりにくいと言われた場合の選択肢
| 選択肢 | 内容 | 適する場合 |
|---|---|---|
| 条件の見直し | 価格、時期、従業員の処遇に関する条件を再検討いたします | 条件が市場の状況と合致していない場合 |
| 役員又は従業員への承継 | 社内の者が株式を取得いたします | 事業を理解する人員がいる場合 |
| 取引先又は同業者への打診 | 関係のある会社に直接に打診いたします | 事業に関心を持つ相手方が想定される場合 |
| 事業の一部の譲渡 | 収益性のある事業のみを切り出して譲渡いたします | 複数の事業を営んでいる場合 |
| 資産の個別の売却 | 不動産、設備、取引先との関係を個別に譲渡いたします | 会社全体の譲渡が困難な場合 |
| 公的な支援機関の利用 | 事業の引継ぎを支援する機関に相談いたします | 規模が小さく民間の仲介が困難な場合 |
| 収益性の改善の後の再検討 | 時間をかけて事業の状態を改善いたします | 時間の余裕がある場合 |
1 条件の見直し
まず、いかなる条件で譲渡を希望しているかを整理し直します。価格の水準、譲渡の時期、従業員の雇用の継続、屋号の存続、経営者の関与の期間、個人保証の解除といった条件のうち、譲れないものと譲り得るものを区分いたします。
とりわけ、価格の希望が市場の状況と合致していない場合には、候補者が現れません。廃業した場合の試算と比較することにより、受け入れることのできる水準を判断することができます。
2 役員又は従業員への承継
社内に事業を理解する者がいる場合には、その者への承継を検討いたします。外部の候補者を探索する必要がなく、事業の内容を既に把握しているという利点があります。
課題となるのは資金です。取得者が個人で資金を用意することが困難な場合には、受皿となる会社を設立して金融機関から借り入れる方法、代金を分割して支払う方法、役員退職慰労金と組み合わせる方法、会社による自己株式の取得を併用する方法があります。これらを組み合わせることにより、当初に用意すべき金額を抑えることができます。
3 取引先又は同業者への直接の打診
仲介会社を介さず、事業に関心を持つと想定される相手方に直接に打診する方法があります。取引先、同業者、近隣で同種の事業を営む会社が候補となります。既に関係があり、事業の内容を理解している相手方であれば、探索の手間を要しません。
もっとも、打診の方法には注意を要します。打診の事実が広く知られますと、従業員及び取引先に不安が生じます。秘密保持契約を締結した上で、限られた範囲で協議を行う必要があります。打診の順序、伝える内容の範囲、断られた場合の情報の管理をあらかじめ計画いたします。
4 事業の一部の譲渡
複数の事業を営んでいる場合、又は事業の中に収益性の高い部分がある場合には、その部分のみを切り出して譲渡する方法があります。会社の全体を譲り受けることには関心がない相手方であっても、特定の事業には関心を持つことがあります。
この場合には、事業譲渡による方法、又は会社分割を行った上でその株式を譲渡する方法によります。事業の全部又は重要な一部を譲渡する場合には、株主総会の特別決議を要します(会社法第467条第1項、第309条第2項第11号)。資産の移転、契約上の地位の移転、従業員の雇用の移転について、個別の手続を要します。
残った部分については、廃業の手続によることになります。譲渡による収入を、廃業に要する費用に充てることができる点に、この方法の意義があります。
5 資産の個別の売却
事業としての譲渡が困難な場合であっても、個別の資産に価値があることがあります。不動産、機械、車両、在庫、取引先との関係、商標、技術に関する情報が該当いたします。これらを個別に売却することにより、廃業に要する費用を賄うことができる場合があります。
とりわけ、機械及び設備については、処分に費用を要するものと売却により資金を得られるものとがあります。同業者にとっては価値のある設備が、廃棄物として処理されている例が見受けられます。
6 公的な支援機関の利用
各都道府県には、中小企業の事業の引継ぎを支援する公的な機関が設置されております。相談及び相手方の探索について、民間の仲介会社とは異なる費用の体系により支援を受けられる場合があります。規模が小さいために民間の仲介会社が取り扱わない案件について、利用を検討する余地があります。
7 時間をかけて改善する
時間の余裕がある場合には、事業の状態を改善した上で改めて検討する方法があります。経営者個人への依存を低減すること、特定の取引先への依存を分散すること、労働に関する是正を行うこと、株主を整理することは、いずれも承継の可能性を高めます。
もっとも、この方法は時間を要しますので、経営者の年齢及び健康の状態、資金繰りの見通しを踏まえて判断する必要があります。
第3節 判断の順序
実務上は、次の順序で検討することが考えられます。第一に、廃業した場合の収支を試算いたします。これが、譲渡の条件を判断する際の基準となります。第二に、社内に承継の候補者がいるかを確認いたします。第三に、取引先又は同業者のうち関心を持つ可能性のある相手方を列挙いたします。第四に、公的な支援機関に相談いたします。第五に、事業の一部の譲渡又は資産の個別の売却の可能性を検討いたします。
いずれの方法によっても承継の相手方が見つからない場合には、廃業の手続に移行いたします。この場合であっても、資産の個別の売却により、廃業に要する費用を軽減することができる場合があります。
第4節 弁護士に相談する意味
買手が見つかりにくいと言われた場合において弁護士が行う業務は、次の点にあります。第一に、廃業した場合の収支を試算し、譲渡の条件を判断する基準を示すことです。第二に、役員又は従業員への承継、事業の一部の譲渡、資産の個別の売却について、法律上の手続を設計することです。第三に、取引先又は同業者への打診にあたり、秘密保持の枠組みを整えることです。第四に、いずれの方法によっても承継ができない場合に、廃業の手続を進めることです。
1社の仲介会社が取り扱わないことをもって、承継の方法が存在しないと判断するのは早計です。他方、時間の経過とともに選択の幅は狭まりますので、速やかに次の検討に移ることが望まれます。
具体的な検討の進め方は、事業の内容、規模、財務の状況、経営者の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 仲介会社に断られたということは、価値がないということですか。
そのように解する必要はありません。仲介会社が取り扱わない理由の多くは、報酬の体系に見合う規模でないという事情によるものです。事業そのものの価値とは別の問題です。
質問2 取引先に直接打診しても差し支えありませんか。
差し支えありませんが、方法に注意を要します。打診の事実が広く知られますと、従業員及び取引先に不安が生じます。秘密保持契約を締結した上で、限られた範囲で協議を行う必要があります。
質問3 従業員に承継させたいのですが、資金がないと言われました。
受皿となる会社を設立して金融機関から借り入れる方法、代金を分割して支払う方法、役員退職慰労金と組み合わせる方法、会社による自己株式の取得を併用する方法があります。これらを組み合わせることにより、当初に用意すべき金額を抑えることができます。
質問4 事業の一部だけを譲渡することはできますか。
できます。事業譲渡による方法、又は会社分割を行った上でその株式を譲渡する方法によります。資産の移転、契約上の地位の移転、従業員の雇用の移転について個別の手続を要しますので、期間を見込む必要があります。
質問5 結局は廃業するしかない場合、早く決めるべきですか。
資金繰りに余裕があるうちに判断することが望まれます。資金繰りが逼迫した段階では、譲渡の探索も廃業の手続も困難となります。他方、廃業の手続を進めた後に譲渡に転じることは、従業員が退職した後では困難です。順序としては、承継の可能性の検討を先に行うことになります。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、廃業と譲渡のいずれを選ぶかの検討及び承継の方法に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、直近3期分の計算書類、登記事項証明書、定款、株主名簿、賃貸借契約書、就業規則、借入れ及び保証に関する書類、仲介会社とのやり取りの記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、税務に関する事項は税理士、登記の申請は司法書士の業務でございます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
会社法 第155条及び第156条(自己株式の取得)、第309条第2項第11号(特別決議)、第461条第1項(分配可能額による財源の規制)、第467条第1項(事業の譲渡等に係る株主総会の承認)、第471条(解散の事由)、第757条以下(吸収分割)
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