売上げが落ち込み、来月の支払の目途が立ちません。金融機関への返済も滞りがちです。どうすればよいのか分からず、日々を過ごしております。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。資金繰りが行き詰まりつつある会社に残された選択肢は、事業の継続を前提とするものと、事業を終了させるものとに大別されます。前者には、返済の条件の見直し、私的な整理の枠組みの利用、民事再生の手続、事業の一部又は全部の譲渡が含まれます。後者には、通常の清算の手続、破産の手続が含まれます。いずれによるかは、事業の収益力、資産と負債の状況、時間の余裕、経営者の個人保証の状況によって判断いたします。重要なのは、選択の幅が残っているうちに検討を開始することです。本記事では、選択肢の全体像を整理いたします。
第1節 まず現状を把握いたします
1 資金繰りの見通し
最初に行うべきことは、今後の資金の出入りを日単位又は週単位で把握することです。いつ、いくらの支払があり、いつ、いくらの入金があるかを整理いたします。この作業により、いつまで持ちこたえることができるかが明らかとなります。
残された時間の長短は、選択できる方法を左右いたします。数か月の余裕がある場合には、事業の譲渡を含む幅広い検討が可能です。数週間しかない場合には、選択の幅は著しく狭まります。
2 資産と負債の把握
資産については、帳簿上の金額ではなく、処分した場合の金額を見積もります。負債については、簿外のものを含めて把握いたします。未払の租税及び社会保険料、未払の割増賃金、保証債務、リース債務は、見落とされやすい項目です。
3 事業の収益力
過大な借入れの返済を除いた場合に、事業そのものが利益を生む状態にあるかを確認いたします。事業に収益力がある場合には、その事業を残す方法を優先して検討することができます。
4 個人保証の状況
経営者が保証している債務の一覧を作成いたします。いずれの方法を選ぶかによって、保証の帰趨は大きく異なりますので、判断の重要な要素となります。
第2節 選択肢の全体像
表1 資金繰りが行き詰まりつつある場合の選択肢
| 区分 | 方法 | 適する場合 |
|---|---|---|
| 事業の継続 | 返済の条件の見直し | 事業に収益力があり、返済の負担のみが過大である場合 |
| 事業の継続 | 私的な整理の枠組みの利用 | 主要な債権者の協力が見込まれる場合 |
| 事業の継続 | 民事再生の手続 | 事業に収益力があるが、私的な調整が困難である場合 |
| 事業の継続 | 事業の一部又は全部の譲渡 | 事業に承継の価値があり、時間の余裕がある場合 |
| 事業の終了 | 通常の清算の手続 | 資産をもって債務を弁済することができる場合 |
| 事業の終了 | 破産の手続 | 資産をもって債務を弁済することができない場合 |
1 返済の条件の見直し
最初に検討すべき方法です。事業そのものは利益を生んでいるものの、借入れの返済の負担が過大であるという場合には、返済の期間の延長、当面の元本の返済の猶予により、資金繰りが改善することがあります。
協議にあたっては、資金繰りの見通し、今後の事業の計画、返済の計画を示す必要があります。金融機関が複数ある場合には、いずれの金融機関にも同様の説明を行い、条件の均衡を図ることが求められます。
2 私的な整理の枠組み
裁判所の手続によらず、主要な債権者との協議により債務の整理を行う方法です。中小企業の事業の再生に関する公的な支援の枠組み、及び事業の再生に関する指針が設けられており、これらを利用することができる場合があります。
この方法の利点は、取引先を巻き込まずに進めることができる点にあります。裁判所の手続による場合には、その事実が広く知られ、取引が停止する可能性がありますが、私的な整理においては、金融機関のみを対象とすることができます。
他方、原則として対象となる債権者の全員の同意を要しますので、一部の債権者が同意しない場合には成立いたしません。
3 民事再生の手続
裁判所の手続により、事業を継続しながら債務を整理する方法です。債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき等に、再生手続開始の申立てをすることができるとされております(民事再生法第21条第1項)。
この手続の利点は、対象となる債権者の全員の同意を要しない点にあります。再生計画は、法律に定める要件を満たす多数の同意及び裁判所の認可により効力を生じます。他方、手続が公開されますので、取引先及び従業員に影響が及びます。また、手続の遂行には相応の費用を要します。
4 事業の譲渡
事業に承継の価値がある場合には、これを他社に譲り渡す方法があります。事業が存続し、従業員の雇用が維持される点で、他の方法にはない利点があります。
もっとも、譲渡には相手方の探索、調査、契約の締結という過程を要しますので、時間の余裕が必要です。資金繰りが逼迫した段階では、この方法を選ぶことは困難となります。この点が、早期の検討が求められる最大の理由です。
なお、財務の状況が悪化している会社における事業の譲渡については、残存する債権者を害することを知って行われた場合に、譲受会社に対して債務の履行を請求することができる旨の規定が置かれております(会社法第23条の2第1項)。会社分割についても同様の規定があります(会社法第759条第4項等)。手続の設計にあたっては、この点の検討を要します。
5 通常の清算の手続
事業を終了させる場合において、資産をもって債務を弁済することができるときは、解散及び清算の手続によります。株主総会の特別決議により解散し、清算人が財産を換価して債務を弁済し、残余の財産を株主に分配いたします。
6 破産の手続
資産をもって債務を弁済することができない場合には、破産の手続によることになります。債務者が支払不能にあるときは、裁判所は破産手続開始の決定をするとされております(破産法第15条第1項)。法人については、債務超過も破産手続開始の原因とされております(破産法第16条第1項)。
清算の手続の途中で、資産をもって債務を弁済することができないことが明らかとなった場合には、清算人は破産手続開始の申立てをしなければならないとされております(会社法第484条第1項)。
第3節 経営者の個人保証の帰趨
いずれの方法を選ぶかにより、経営者が保証している債務の帰趨は異なります。事業が継続し、債務が弁済される場合には、保証の履行を求められることはありません。他方、会社の債務が弁済されない場合には、保証人としての責任を負うことになります。
経営者の保証に関しては、一定の要件のもとで、保証債務の整理について金融機関との協議による解決を図る枠組みが実務上設けられております。会社の債務の整理と併せて、保証債務の整理についても検討することが望まれます。
この検討は、会社の債務の整理の方針を定める段階で併せて行う必要があります。会社の手続が進行した後では、選択できる範囲が狭まることがあります。
第4節 やってはならないこと
資金繰りが逼迫した局面において、次の行為は避けなければなりません。
第一に、特定の債権者にのみ弁済を行うことです。後の手続において、その効力が否定される可能性があります。第二に、会社の資産を経営者又は親族に移転することです。同様に効力が否定される可能性があるほか、責任を問われる余地があります。第三に、返済の見込みのないまま新たな借入れを行うことです。第四に、従業員の賃金及び租税の支払を後回しにすることです。これらは、後の手続において優先的に取り扱われる性質のものです。
いずれも、後の手続における処理を困難にし、又は関係者の責任を生じさせる行為です。判断に迷う場面では、行動する前にご相談いただくことが望まれます。
第5節 早期の検討が選択の幅を決めます
本記事に掲げた選択肢のうち、事業の継続を前提とする方法は、いずれも時間の余裕を必要といたします。返済の条件の見直しには金融機関との協議の期間を、私的な整理には債権者との調整の期間を、事業の譲渡には相手方の探索の期間を要します。
資金繰りが完全に行き詰まった段階では、これらの方法を選ぶことができず、破産の手続によるほかないことになります。事業と従業員を残す可能性を確保するためには、余裕があるうちに検討を開始することが不可欠です。
第6節 弁護士に相談する意味
資金繰りの局面において弁護士が行う業務は、次の点にあります。第一に、資産、負債、資金繰りの見通しを把握し、残された時間を明らかにすることです。第二に、事業の収益力及び承継の可能性を踏まえて、選択肢を整理することです。第三に、選択した方法に応じて、金融機関との協議、私的な整理の申出、裁判所への申立て、事業の譲渡の手続を進めることです。第四に、経営者の個人保証について、併せて検討することです。
相談をためらう気持ちが生じることは、理解いたします。もっとも、時間の経過とともに選択の幅は狭まります。早い段階でご相談いただくことにより、残すことのできるものが増えます。
具体的な方針の決定は、事業の内容、資産及び負債の状況、債権者の対応等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 まだ支払は続けられています。相談するのは早すぎませんか。
早すぎることはありません。むしろ、支払を続けることができている段階の方が、選択できる方法は多くあります。事業の譲渡、返済の条件の見直しは、いずれも時間の余裕を必要といたします。
質問2 破産すると、すべてを失いますか。
会社の破産と、経営者個人の財産とは、別の問題です。もっとも、経営者が保証をしている場合には、その責任を負うことになります。保証債務の整理については、金融機関との協議による解決を図る枠組みが実務上設けられておりますので、併せて検討いたします。
質問3 従業員の賃金はどうなりますか。
賃金は、後の手続において優先的に取り扱われる性質のものです。また、一定の場合に未払の賃金の立替払に関する制度が設けられております。いずれにしても、賃金の支払を後回しにすることは避けるべきです。
質問4 取引先に知られずに進める方法はありますか。
私的な整理の枠組みによる場合には、金融機関のみを対象とすることができますので、取引先に知られずに進められる可能性があります。裁判所の手続による場合には、公開されます。
質問5 事業だけでも残す方法はありますか。
事業に承継の価値がある場合には、事業の一部又は全部を譲り渡す方法があります。時間の余裕が必要ですので、早期の検討が求められます。
質問6 何から始めればよいですか。
資金繰りの見通しを日単位又は週単位で整理すること、資産及び負債の一覧を作成すること、保証の一覧を作成することです。これらを持参してご相談いただけますと、検討が早く進みます。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、資金繰りが逼迫した会社の選択肢に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、直近3期分の計算書類、勘定科目の内訳明細書、資金繰り表、借入れ及び保証に関する書類、登記事項証明書、賃貸借契約書及びリース契約書をご用意いただけますと、検討が早く進みます。なお、税務に関する事項は税理士、登記の申請は司法書士の業務でございます。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
破産法 第15条第1項(支払不能)、第16条第1項(法人の債務超過)、第30条(破産手続開始の決定)
民事再生法 第21条第1項(再生手続開始の申立て)、第33条(再生手続開始の決定)
会社法 第23条の2第1項(残存する債権者の保護)、第309条第2項第11号(特別決議)、第471条(解散の事由)、第484条第1項(清算株式会社についての破産手続開始の申立て)、第499条第1項(債権者に対する公告等)、第759条第4項(詐害的な会社分割における残存債権者の保護)
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