
M&Aの交渉が進み、売り手と買い手の間で主要な条件について認識が共有されると、「基本合意書」を締結することがあります。基本合意書は、その時点までに協議した譲渡条件や今後の手続を書面にし、本格的なデューデリジェンスや最終契約の交渉を進める基礎とする文書です。
基本合意書では、譲渡対価や取引方法などを暫定的な条件として記載する一方、秘密保持条項や独占交渉条項などには法的拘束力を持たせることがあります。ただし、基本合意書という名称だけで、法的拘束力の有無や範囲が決まるわけではありません。
内容を十分に確認せずに署名すると、確定していないと考えていた条件について責任を問われたり、独占交渉や秘密保持の義務に違反したりするおそれがあります。反対に、法的拘束力を持たせたつもりの条項が不明確で、相手方に履行を求めにくくなる場合もあります。
この記事では、基本合意書の位置づけ・意向表明書や最終契約書との違い・主な記載事項・法的拘束力・独占交渉条項・売り手・買い手が確認したい点を解説します。あわせて、基本合意書を含むM&A契約書の作成・チェックについて、弁護士法人M&A総合法律事務所が対応できる内容もご案内します。
M&Aの基本合意書の作成・チェックでお困りの方へ
当事務所では、M&Aを重点的に取り扱う弁護士が、基本合意書・最終契約書・関連契約書の検討・助言・交渉・作成に対応しています。費用やご依頼の範囲については、お問い合わせフォームからご相談ください。
基本合意書とは何か
基本合意書とは、M&Aの交渉において、当事者がその時点までに確認した主要条件と今後の進め方を文書にしたものです。一般に、本格的なデューデリジェンスの前に締結され、デューデリジェンスや最終契約の交渉を進める際の基準になります。
ただし、すべてのM&Aで基本合意書を締結するわけではありません。案件の規模・当事者間の関係・交渉方法・予定する日程などによっては、基本合意書を省略して最終契約の交渉へ進む場合もあります。
基本合意書が果たす役割
基本合意書には、譲渡の対象・取引方法・譲渡対価・デューデリジェンス・独占交渉・今後の日程などを記載します。口頭や電子メールによる協議内容を一つの文書にまとめることで、どの事項まで確認され、どの事項が今後の協議に残されているのかを明らかにできます。
また、買い手が費用をかけてデューデリジェンスを開始する前に、売り手が必要な情報開示や質問対応に協力することを確認したり、一定期間の独占交渉を定めたりする役割もあります。
MOU・LOIなど名称は案件によって異なる
基本合意書は、英語でMemorandum of Understandingと表記され、MOUと呼ばれることがあります。一方、日本のM&Aでは、Letter of Intent又はLOIという名称が、買い手が単独で提出する意向表明書を指す場合も、売り手と買い手が締結する基本合意書に近い文書を指す場合もあります。
そのほか、「基本合意契約書」「覚書」「確認書」などの名称が使われることもあります。書面の法的性質は名称だけでは決まらないため、当事者・署名の有無・各条項の文言・法的拘束力に関する定め・交渉経過などを確認する必要があります。
基本合意書を締結する時期
典型的なM&Aでは、秘密保持契約書の締結・売り手からの情報開示・トップ面談・買い手による意向表明書の提出・条件交渉などを経て、基本合意書を締結します。その後、買い手が本格的なデューデリジェンスを行い、調査結果を踏まえて最終契約の条件を協議します。
もっとも、意向表明書を省略する場合や、買い手の意向表明書と売り手の承諾書によって主要条件を確認する場合もあります。基本合意書を締結する時期や前後の手続は、案件ごとに異なります。
締結してもM&Aの成立が確約されるとは限らない
基本合意書に記載する譲渡対価や取引条件は、暫定的な内容又は一定の前提条件付きの内容とされることがあります。デューデリジェンスで未開示の債務や法令違反などが判明した場合は、譲渡対価や契約条件が再協議されることもあります。
このため、基本合意書を締結しただけで、最終契約の締結やM&Aの実行が確約されるとは限りません。基本合意書には、法的拘束力を持つ条項が設けられる場合があります。法的拘束力の範囲は、条項ごとに確認する必要があります。
基本合意書と他のM&A関連書面との違い
M&Aでは、交渉の段階に応じて複数の書面が作成されます。秘密保持契約書・意向表明書・基本合意書・最終契約書は、それぞれ作成する目的と法的効果が異なります。
秘密保持契約書との違い
秘密保持契約書は、M&Aの検討に伴って開示される秘密情報の取扱いを定める契約書です。通常は、重要な情報を開示する前に締結します。
秘密保持契約書では、第三者への開示を制限するだけでなく、秘密情報の定義・利用目的・情報を開示できる役職員・専門家・法令に基づく開示・情報の返還・廃棄・秘密保持義務の存続期間などを定めます。M&Aを検討又は交渉している事実自体を秘密情報に含める場合もあります。
基本合意書は、秘密情報の取扱いに限らず、譲渡の対象・取引方法・譲渡対価・独占交渉・デューデリジェンス・日程など、取引全体に関する事項を扱う点が異なります。
意向表明書との違い
意向表明書は、一般に、買い手候補が売り手に対し、買収の意思や希望する取引条件を提示する書面です。複数の買い手候補から意向表明書が提出された場合、売り手は、提示された対価・取引方法・資金調達・従業員の処遇・予定日程などを比較して交渉相手を選ぶことがあります。
これに対し、基本合意書は、一般に、売り手と買い手が、その時点までに確認した主要条件を当事者間の文書として取り交わすものです。ただし、LOIという名称が基本合意書に近い文書を指すこともあるため、名称だけを基準に区別することはできません。
最終契約書との違い
最終契約書は、デューデリジェンスや条件交渉を経た後に、当事者の権利義務を確定する契約書です。株式譲渡であれば株式譲渡契約書、事業譲渡であれば事業譲渡契約書など、採用する取引方法に応じた契約書を締結します。
最終契約書には、譲渡対価・クロージングの前提条件・表明保証・誓約事項・補償・解除・競業避止・準拠法・合意管轄などを定めます。最終契約を締結しても、許認可の取得・必要な社内承認・融資の実行その他の前提条件が満たされるまで、クロージング義務が発生しないこともあります。
基本合意書では、取引条件の全部又は一部に法的拘束力を持たせない場合がありますが、最終契約書では、原則として契約上の権利義務が定められます。この違いを踏まえて、基本合意書と最終契約書の内容を確認することが必要です。
M&Aで書面を取り交わす典型的な流れ
以下は、特定の売り手と買い手が個別に交渉する相対交渉によるM&Aの典型的な流れの一例です。入札手続を行う場合、予備的なデューデリジェンスを先に行う場合、基本合意書を締結しない場合などもあるため、すべての案件が同じ順序で進むわけではありません。
| 段階 | 主な書面・手続 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 交渉開始前後 | 秘密保持契約書 | 秘密情報の取扱いを定める |
| 条件提示 | 意向表明書 | 買い手が希望する条件を提示する |
| 主要条件の確認 | 基本合意書 | 主要条件と今後の手続を確認する |
| 調査 | デューデリジェンス | 財務・法務・税務・事業などを調査する |
| 条件確定 | 最終契約書 | 当事者の権利義務を確定する |
| 取引実行 | クロージング | 対価の支払いや株式・事業の移転を行う |
基本合意書を締結する目的
基本合意書を締結する目的は、当事者間で確認した主要条件を文書にし、デューデリジェンスや最終契約の交渉を進めるための前提を明らかにすることです。
主要な取引条件を確認する
基本合意書には、譲渡の対象・取引方法・譲渡対価の考え方・予定日程などを記載します。これまでの協議内容を文書にすることで、売り手と買い手の認識が一致している事項と、今後協議すべき事項を区別できます。
ただし、基本合意書に記載した取引条件が暫定的な内容である場合は、その旨を明記する必要があります。譲渡対価や取引方法について法的拘束力を持たせるのか、デューデリジェンス後の再協議を予定するのかも確認します。
デューデリジェンスの条件を定める
買い手がデューデリジェンスを行うためには、売り手から資料の開示や質問への回答を受ける必要があります。基本合意書では、調査の対象・期間・情報開示の方法・経営者面談や現地調査の有無などを定める場合があります。
売り手は、個人情報・営業秘密・競争上機微な情報・第三者との契約によって開示が制限される情報などを含め、どの範囲まで開示できるかを確認する必要があります。必要に応じて、閲覧者や閲覧場所を限定する方法も検討します。
独占交渉の条件を確認する
買い手は、デューデリジェンスや契約交渉に専門家費用や社内の人員を投入します。そのため、一定期間、売り手が第三者との交渉を行わないことを定める独占交渉条項が設けられることがあります。
売り手にとって、独占交渉条項は、一定期間ほかの買い手候補と交渉する機会を制限する条項です。対象となる行為・期間・例外・延長条件・違反時の効果を確認する必要があります。
社内承認や関係者への説明に利用する
主要条件が文書になっていれば、取締役会などの社内機関に対して、交渉の状況や予定する取引の内容を説明しやすくなります。買い手が融資を利用する場合は、金融機関との協議資料として参照されることもあります。
ただし、基本合意書を締結したことだけで、会社法上必要な機関決定や最終契約の承認が完了するわけではありません。必要な社内手続は、取引方法や会社の機関設計などに応じて別途確認します。
基本合意書を提示された方へ
基本合意書には、暫定的な取引条件と法的拘束力を持つ条項が混在することがあります。署名前に条項の意味や自社が負う義務を確認したい方は、当事務所のお問い合わせフォームからご相談ください。
基本合意書に記載する主な項目
基本合意書には法定の書式がなく、記載事項は案件によって異なります。代表的な項目は次のとおりです。
| 分類 | 主な記載事項 |
|---|---|
| 当事者・取引対象 | 当事者・対象会社・対象株式・対象事業・資産・負債 |
| 取引条件 | 取引方法・譲渡対価・算定の前提・価格調整・再協議 |
| 手続 | デューデリジェンス・最終契約・クロージングの日程 |
| 協力事項 | 資料開示・質問対応・経営者面談・現地調査 |
| 関係者への対応 | 役員・従業員の処遇・取引先への連絡・経営者保証への対応 |
| 交渉中の義務 | 独占交渉・秘密保持・公表・情報発信の制限 |
| 費用 | デューデリジェンス費用・専門家費用・交渉費用の負担 |
| 終了時の取扱い | 有効期間・終了・解除・資料の返還・廃棄・存続条項 |
| 一般条項 | 法的拘束力・最終契約締結義務の有無・準拠法・合意管轄 |
当事者・譲渡の対象・取引方法
基本合意書では、誰が売り手・買い手となるのか、何を譲渡するのか、どの取引方法を予定するのかを記載します。
株式譲渡の場合は、対象会社・対象株式の種類・数・割合・売り手となる株主などを確認します。事業譲渡の場合は、譲渡する事業・資産・負債・契約・知的財産権・従業員などの範囲を確認します。
取引方法によって、必要な手続・許認可・契約上の同意・税務上の取扱いが異なります。基本合意書の段階では予定であることを示し、調査結果を踏まえて変更できるようにする場合もあります。
譲渡対価と算定の前提
譲渡対価については、特定の金額・一定の価格帯・算定方法又は前提条件付きの金額として記載する方法があります。譲渡対価の基礎となる財務数値・ネットデット(有利子負債から現預金等を控除した金額)・運転資本・役員退職慰労金・含み損益などの取扱いを記載することもあります。
デューデリジェンスの結果によって再協議する場合は、どのような事情を再協議の対象とするのかを確認します。「調査結果により変更できる」とだけ定めると、変更できる範囲をめぐって見解が分かれることがあります。
日程とクロージング予定
デューデリジェンスの期間・最終契約の締結予定日・クロージング予定日などを記載します。必要な資料の準備・社内承認・金融機関との協議・許認可や契約相手の同意取得などを踏まえて日程を設定します。
当事者が上場会社である場合は、取引内容や重要性に応じて、適時開示の要否や公表時期も検討する必要があります。
デューデリジェンスへの協力
デューデリジェンスに関する条項では、調査分野・開示資料・質問対応・経営者面談・従業員への聞き取り・現地調査などの範囲を定めます。
売り手が無制限の情報開示義務を負うと解釈されないよう、合理的に可能な範囲・法令や既存契約に反しない範囲などの条件を設けることも検討します。買い手側では、必要な調査を行える内容になっているかを確認します。
役員・従業員の処遇と経営者保証
M&A後における役員の退任・留任や従業員の雇用条件のほか、事業の継続に重要な役員・従業員の継続勤務などについて、基本的な方針を記載することがあります。
対象会社の借入れについて売り手や経営者が保証をしている場合は、保証の解除・変更について金融機関と協議する必要があります。金融機関の承諾が必要となるため、買い手だけで保証解除を確定できるとは限りません。基本合意書では、対応主体・期限・対応内容を確認します。
独占交渉条項
独占交渉条項では、一定期間、売り手が第三者に対して勧誘・情報提供・交渉・契約締結などを行わないことを定めます。売り手の株主・役員・仲介会社など、誰の行為を対象とするかも問題になります。
既に接触している買い手候補への対応・第三者から提案を受けた場合の通知義務・法令又は取締役の義務との関係・延長条件などを具体的に定めることが重要です。
秘密保持・公表・関係者への連絡
既に秘密保持契約書を締結している場合は、基本合意書の秘密保持条項との優先関係や、秘密保持義務の存続期間を確認します。
また、M&Aの検討事実を従業員・取引先・金融機関・報道機関などへ伝える時期と方法を定めることがあります。上場会社の適時開示や法令に基づく開示など、相手方の事前承諾を得ることが困難な開示については、例外を設けることも検討します。
費用負担
デューデリジェンス費用・専門家費用(弁護士・公認会計士・税理士など)・交渉費用について、各当事者が自ら負担するのかを定めます。
独占交渉条項や秘密保持条項への違反があった場合、又は一定の理由で交渉が終了した場合に、費用負担の例外を設けることもあります。損害賠償を定める場合は、対象となる損害や金額の算定方法も検討します。
有効期間・終了・存続条項
基本合意書がいつまで有効であるか、どのような場合に終了できるかを定めます。最終契約の締結・一定の日付の到来・当事者の合意・一方当事者からの通知などを終了事由とする場合があります。
基本合意書が終了しても、秘密保持・費用負担・資料の返還・廃棄・損害賠償・準拠法・合意管轄などを存続させる場合があります。有効期間と各条項の存続期間を区別して確認する必要があります。
法的拘束力・準拠法・合意管轄
基本合意書では、法的拘束力を持たせる条項と持たせない条項を明示します。取引条件に法的拘束力を持たせない場合は、最終契約を締結する義務を負わないことも明記する方法があります。
また、紛争が生じた場合に適用する法律と、訴訟を提起する裁判所を定めることがあります。国境を越える取引では、準拠法や紛争解決方法の選択がとくに重要になります。
基本合意書の法的拘束力をどう考えるか
基本合意書について、「法的拘束力はない」と一律に説明することは正確ではありません。同じ基本合意書の中でも、条項によって法的拘束力の有無が異なる場合があります。
また、法的拘束力の有無は、書面の名称だけでなく、条項の文言・文書全体の構成・署名の方法・交渉経過・当事者の言動などを踏まえて判断される可能性があります。
法的拘束力を持たせないことが多い条項
デューデリジェンス後の再協議を予定している場合、次のような取引条件には法的拘束力を持たせないことがあります。
- 譲渡対価
- 取引方法
- 譲渡対象の範囲
- 役員・従業員の処遇
- 最終契約の締結日・クロージング日
- 最終契約に定める予定の条件
これらの条項に法的拘束力を持たせない場合は、「現時点の予定又は確認事項にすぎない」「最終契約を締結する義務を生じさせない」などの文言を設けることがあります。
ただし、取引条件に法的拘束力を持たせることも可能です。取引条件だから当然に法的拘束力がないと判断せず、基本合意書の文言を確認する必要があります。
法的拘束力を持たせることが多い条項
交渉中に履行を確保する必要がある次の条項には、法的拘束力を持たせることがあります。
- 独占交渉
- 秘密保持
- 公表・関係者への連絡
- デューデリジェンスへの協力
- 費用負担
- 有効期間・終了
- 損害賠償
- 準拠法・合意管轄
もっとも、これらの条項も、基本合意書に記載されているだけで当然に法的拘束力を持つわけではありません。条文上、法的義務として定められているかを確認します。
最終契約を締結する義務の有無を明記する
取引条件に法的拘束力を持たせない場合は、当事者が最終契約を締結する義務を負うかどうかを明記することが重要です。
たとえば、「最終契約が締結されるまでは、いずれの当事者も本件取引を実行する義務を負わない」と定める方法があります。一方で、誠実に協議する義務を定める場合は、その義務の内容や期間が問題になることがあります。
「法的拘束力なし」と記載しても責任が問題になる場合がある
取引条件に法的拘束力を持たせず、最終契約の締結義務を否定していても、交渉のどの段階でも理由なく自由に交渉を打ち切れるとは限りません。
交渉が進み、相手方に最終契約が締結されるとの合理的な期待を生じさせた後、正当な理由なく交渉を打ち切った場合などには、信義則上の義務違反として損害賠償責任が問題となることがあります。責任の有無は、交渉の進行状況・相手方への説明・交渉終了の理由・相手方が支出した費用など、個別の事情によって判断されます。
したがって、基本合意書に「法的拘束力を有しない」と記載するだけでなく、再協議の条件・交渉を終了できる場合・費用負担・独占交渉期間などを明確にすることが必要です。
基本合意書の法的拘束力に不安がある方へ
基本合意書は、条項の文言によって当事者が負う義務が変わります。相手方から提示された基本合意書の確認や、自社の立場を反映した基本合意書の作成については、当事務所にご相談ください。
独占交渉条項の意味と期間の考え方
独占交渉条項は、基本合意書の中でも当事者への影響が大きい条項です。買い手側では調査や契約交渉のための期間を確保できる一方、売り手側ではほかの買い手候補と交渉する機会が制限されます。
独占交渉条項とは
独占交渉条項とは、一定期間、売り手が買い手以外の第三者に対し、M&Aの提案・勧誘・情報提供・協議・交渉又は契約締結などを行わないことを定める条項です。
独占交渉の対象は、売り手本人の行為だけとは限りません。対象会社・役員・株主・従業員・仲介会社その他の代理人による行為を含める場合があります。どの関係者のどの行為を制限するのかを確認する必要があります。
対象となる行為を具体的に定める
「ほかの買い手と交渉してはならない」とだけ記載すると、第三者からの問い合わせへの回答・既に受け取った提案の検討・秘密保持契約の締結などが禁止されるかどうかが不明確になる場合があります。
独占交渉条項では、勧誘・提案の受領・情報提供・面談・条件交渉・契約締結など、禁止する行為を具体的に定めます。第三者から提案を受けた場合の通知義務を設けることもあります。
期間・延長条件を確認する
独占交渉期間に法律上の一律の決まりはありません。デューデリジェンス・社内承認・融資・最終契約の交渉などに必要な期間を見積もり、開始日と終了日を定めます。
期間が短すぎると、買い手が必要な調査を完了できない可能性があります。反対に、期間が長すぎると、売り手がほかの候補と交渉する機会を長期間失うことになります。延長できる場合は、当事者の書面による合意を必要とするのか、一定の条件を満たせば延長されるのかを確認します。
例外を設ける必要があるか確認する
売り手が会社である場合、上場会社が関与する案件や複数の買い手候補から提案を受ける案件などでは、取締役の義務や株主の利益との関係から、より有利な第三者提案があった場合の対応を検討することがあります。また、法令・裁判所・行政機関・金融商品取引所などから情報開示を求められる場合もあります。
すべての案件で同じ例外が必要になるわけではありません。売り手・対象会社の属性・交渉方法・取引の進行状況に応じて検討します。
違反した場合の効果
法的拘束力のある独占交渉条項に違反した場合は、債務不履行に基づく損害賠償などが問題となることがあります。ただし、請求できる内容や金額は、条項の文言・実際に生じた損害・違反行為と損害との因果関係などによって異なります。
違約金や損害賠償額の予定を定める場合は、その適用条件と金額を確認します。また、独占交渉条項に法的拘束力を持たせていない場合、その条項だけを根拠として責任を求めることは困難になる可能性があります。
売り手・買い手が基本合意書で確認したい点
基本合意書は、売り手と買い手の双方が署名することが多い文書ですが、それぞれの立場によって確認すべき事項が異なります。
売り手側が確認したい点
売り手側では、主に次の事項を確認します。
- 譲渡対価が確定額か・暫定額か・価格帯か
- 譲渡対価の算定に用いる前提
- デューデリジェンス後に再協議できる事項
- 独占交渉の対象者・対象行為・期間・延長条件
- 買い手が交渉を終了できる条件
- デューデリジェンスで開示する情報の範囲
- 役員・従業員の処遇に関する記載の法的効果
- 経営者保証の解除・変更に向けた対応
- 交渉終了時の費用・秘密情報・資料の取扱い
基本合意書に高い譲渡対価が記載されていても、暫定額であれば、デューデリジェンス後に再提示されることがあります。売り手は、譲渡対価が変更される条件や、変更の根拠となる事項を確認する必要があります。
また、独占交渉期間中はほかの買い手候補との交渉が制限されます。期間の長さだけでなく、買い手がデューデリジェンスや最終契約の交渉を進めない場合に、独占交渉を終了できるかも確認します。
買い手側が確認したい点
買い手側では、主に次の事項を確認します。
- 調査対象となる会社・事業・株式の範囲
- 売り手から受けられる情報開示と協力の内容
- 経営者面談・現地調査・追加質問の可否
- 独占交渉の対象者・対象行為・期間
- デューデリジェンス後に再協議できる条件
- 重大な問題が判明した場合に交渉を終了できるか
- 譲渡対価の前提と価格調整の考え方
- 最終契約の締結やクロージングに必要な前提条件
- 売り手・対象会社による交渉中の事業運営に関する約束
買い手は、必要なデューデリジェンスを行える内容になっているかを確認します。売り手が情報開示を拒んだ場合や、重大な問題が判明した場合に、譲渡対価の再協議又は交渉終了が可能かも重要です。
基本合意書の性格について認識を共有する
M&Aの経験が少ない当事者間では、基本合意書を締結した時点で取引が確定したと受け止める一方、相手方は単なる検討段階の文書と考えていることがあります。
このような認識の相違を減らすためには、法的拘束力を持たせる条項・暫定的な条件・デューデリジェンス後に再協議する事項・最終契約の締結義務の有無を明記する必要があります。
基本合意書をめぐって起こりやすいトラブル
基本合意書は最終契約前の文書ですが、その内容や交渉終了時の対応をめぐって紛争が生じることがあります。
デューデリジェンス後の譲渡対価の再交渉
基本合意書に暫定的な譲渡対価を記載した後、デューデリジェンスで判明した事項を理由に、買い手が譲渡対価の変更を求めることがあります。
取引条件に法的拘束力を持たせていない場合、譲渡対価の再交渉自体が直ちに契約違反となるわけではありません。一方、基本合意書に記載した前提と関係のない理由で大幅な変更を求める場合や、交渉経過からみて不当な対応が行われた場合には、紛争となることがあります。
譲渡対価の前提・再協議の対象となる事項・交渉を終了できる場合を可能な範囲で記載することが重要です。
独占交渉条項をめぐる争い
売り手が第三者と接触した場合、独占交渉条項に違反するかどうかが争われることがあります。提案を受領しただけなのか、情報提供や条件交渉を行ったのかによって評価が異なる場合があります。
独占交渉の対象行為・対象者・期間・例外・第三者提案を受けた場合の通知義務・違反時の効果を具体的に定める必要があります。
秘密保持義務違反・情報漏えい
M&Aでは、財務情報・顧客情報・技術情報・人事情報などが開示されます。M&Aの検討事実が外部に伝わるだけでも、従業員や取引先との関係に影響することがあります。
秘密情報の範囲・利用目的・情報を開示できる相手・情報管理の方法・法令に基づく開示・資料の返還・廃棄・義務の存続期間を明確にします。既存の秘密保持契約書がある場合は、基本合意書との関係も確認します。
交渉終了時の費用負担
デューデリジェンスや契約交渉には、弁護士・公認会計士・税理士などの専門家費用や社内の対応費用が生じます。最終契約に至らなかった場合に、相手方へ費用を請求できるかが問題になることがあります。
基本合意書では、原則として各当事者が自らの費用を負担するのか、相手方の契約違反などがある場合に例外を設けるのかを確認します。
法的拘束力に関する認識の相違
一方当事者は基本合意書のすべてに法的拘束力がないと考え、他方当事者は譲渡対価や最終契約の締結についても合意が成立したと考えている場合があります。
法的拘束力を持たせる条項と持たせない条項を明示し、最終契約を締結する義務の有無を記載することが重要です。書面全体で矛盾する表現がないかも確認します。
基本合意書の締結後に問題が生じた方へ
独占交渉条項・秘密保持義務・譲渡対価の再交渉・交渉終了時の費用などをめぐって問題が生じた場合は、契約書と交渉経過の確認が必要です。当事務所の対応内容は、M&Aトラブルに関する総合案内でもご案内しています。ご相談はお問い合わせフォームからお申し込みください。
中小M&Aガイドラインと基本合意
中小企業庁は、中小企業のM&Aに関わる当事者や支援機関に向けて、望ましい対応を示す「中小M&Aガイドライン」を公表しています。2024年8月30日には第3版が公表されました。
中小M&Aガイドラインは法令そのものではありませんが、中小企業のM&Aを進める際に確認したい手続や、仲介者・フィナンシャル・アドバイザーに求められる対応などを示した公的な指針です。
中小M&Aガイドライン第3版の概要
中小M&Aガイドライン第3版では、仲介者・フィナンシャル・アドバイザーが提供する業務と手数料に関する説明・不適切な譲り受け側への対応・広告・営業・利益相反・最終契約後のトラブルへの対応などに関する内容が追加・拡充されています。
詳細は、中小企業庁の中小M&Aガイドライン案内ページ及び経済産業省の第3版公表ページで確認できます。
基本合意の締結は原則として望ましいとされている
中小M&Aガイドラインでは、デューデリジェンスに進む前に、それまでの協議結果を確認し、買い手に独占交渉の機会を与えるなどの目的から、原則として基本合意を締結することが望ましいとされています。
ただし、基本合意書の締結が法律上義務付けられているわけではありません。入札手続などでは、買い手の意向表明書と売り手の承諾書によって主要条件を確認する方法も想定されています。案件に応じて、基本合意書を締結する必要性と内容を検討します。
基本合意書の作成・チェックの相談先
基本合意書には、譲渡対価や取引方法だけでなく、独占交渉・秘密保持・情報開示・費用負担・法的拘束力などの条項が含まれます。相談先によって、対応できる範囲が異なります。
M&A仲介会社・フィナンシャル・アドバイザー
M&A仲介会社やフィナンシャル・アドバイザーは、買い手候補の探索・条件調整・手続の進行などを支援します。基本合意書の参考案や過去の書式を提示する場合もあります。
ただし、個別の契約条項について法的判断を行い、売り手又は買い手の立場に応じた内容を作成・修正することは、弁護士へ相談することが適切な領域です。仲介会社は売り手と買い手の双方を支援することがあるため、利益相反の可能性についても確認します。
公認会計士・税理士
公認会計士や税理士は、財務・税務の観点から、譲渡対価の算定・財務デューデリジェンス・税負担・取引方法などを検討します。
基本合意書に記載する譲渡対価の前提や税務上の影響について助言を受けられる一方、独占交渉・秘密保持・損害賠償・法的拘束力などの条項は、法律上の観点から別途確認する必要があります。
弁護士
弁護士は、基本合意書の各条項が持つ法的効果を確認し、依頼者が負う義務や想定される問題を検討します。相手方から提示された基本合意書への修正案の作成・自社から提示する基本合意書の作成・相手方との契約交渉にも対応できます。
M&Aを取り扱う弁護士であれば、基本合意書だけでなく、デューデリジェンス・最終契約・クロージング・締結後の問題までを踏まえて条項を検討できます。
弁護士へ相談する時期
基本合意書に署名する前に相談すれば、法的拘束力の範囲や不利な条項を確認し、必要な修正案を相手方へ提示できます。
既に締結した後でも、条項の解釈・独占交渉義務や秘密保持義務への対応・相手方との協議・交渉終了に伴う問題について相談できます。ただし、締結後は修正できる範囲が限られるため、可能な限り署名前に確認することが重要です。
基本合意書に関するよくある質問
基本合意書の締結は必須ですか?
基本合意書の締結は法律上の義務ではありません。当事者間の関係・取引規模・交渉方法・日程などによっては、基本合意書を省略して最終契約の交渉へ進む場合もあります。
一方、中小M&Aガイドラインでは、デューデリジェンスに進む前に基本合意を締結することが原則として望ましいとされています。締結するかどうかは、独占交渉の必要性・デューデリジェンスの費用・範囲・確認済みの条件などを踏まえて判断します。
基本合意書と意向表明書は同じものですか?
一般に、意向表明書は買い手が希望条件を提示する文書、基本合意書は売り手と買い手が主要条件を確認する文書として使い分けられます。
ただし、Letter of Intent又はLOIという名称が基本合意書に近い文書を指す場合もあり、名称の使い方は統一されていません。文書の名称だけでなく、当事者・署名・条項内容・法的拘束力の定めを確認してください。
ひな形をそのまま使用しても問題ありませんか?
基本合意書のひな形は、一般的な記載事項を確認するための参考にはなります。しかし、株式譲渡と事業譲渡では必要な条項が異なり、売り手・買い手の立場によっても修正すべき内容が変わります。
また、独占交渉期間・情報開示・譲渡対価の前提・役員・従業員の処遇・経営者保証など、案件固有の事情を反映しなければならない事項があります。ひな形を使用する場合も、取引内容に合わせて確認・修正する必要があります。
基本合意書の締結後に条件を変更できますか?
法的拘束力を持たせていない取引条件については、デューデリジェンスの結果などを踏まえて再協議することがあります。ただし、いずれか一方が基本合意書の内容を当然に変更できるわけではありません。
独占交渉・秘密保持・費用負担など法的拘束力のある条項を変更する場合は、契約上の根拠がない限り、原則として相手方との合意が必要です。
基本合意書に違反するとどうなりますか?
法的拘束力のある独占交渉条項・秘密保持条項・費用負担条項などに違反した場合は、債務不履行に基づく損害賠償などが問題となることがあります。
一方、法的拘束力を持たせていない取引条件と異なる提案をしただけで、直ちに契約違反となるとは限りません。どの条項に法的拘束力があるか、どのような損害が生じたかによって判断が異なります。
基本合意書の作成・チェックの費用はどのくらいですか?
基本合意書の作成・チェックにかかる費用は、取引規模・取引方法・交渉状況・依頼範囲・基本合意書の内容などによって異なります。
当事務所では、時間に応じた費用体系のほか、中堅・中小企業のM&Aを対象とした基本合意書の作成などについて固定費用の体系を掲載しています。具体的な適用条件や業務範囲は、M&A契約書の作成・チェックの費用体系をご確認ください。費用やご依頼の範囲については、お問い合わせフォームからご相談いただけます。
当事務所によるM&A契約書の作成・チェック支援
弁護士法人M&A総合法律事務所では、基本合意書を含むM&A契約書の作成・チェックに対応しています。取引の状況と依頼者の立場を確認し、条項の法的効果や契約上のリスクを検討します。
基本合意書を含むM&A契約書の作成・チェック
当事務所では、秘密保持契約書・基本合意書・株式譲渡契約書・事業譲渡契約書・関連契約書について、検討・助言・交渉・作成に対応しています。
基本合意書では、法的拘束力の範囲・最終契約の締結義務・独占交渉・秘密保持・デューデリジェンスへの協力・費用負担・交渉終了時の対応などを確認します。
当事務所は、これまで400件以上のM&A案件に関与しています。基本合意書だけでなく、デューデリジェンス・最終契約・クロージングまでを踏まえて対応します。
M&A契約書の費用体系
当事務所では、M&A契約書の作成・チェックについて、時間に応じた費用体系と、中堅・中小企業のM&Aを対象とした固定費用の体系を掲載しています。
基本合意書の作成を含む各業務の費用・適用条件・別途費用が生じる業務などは、M&A契約書の作成・チェックの費用体系でご確認ください。料金は取引の内容やご依頼の範囲によって異なる場合があります。
基本合意書の作成・チェックをご検討中の方へ
相手方から基本合意書を提示された場合も、自社から提示する基本合意書を作成する場合も、署名前に各条項の法的効果を確認することが重要です。費用やご依頼の範囲については、お問い合わせフォームからご相談ください。
締結後のM&Aトラブルへの対応
当事務所では、基本合意書の作成・チェックだけでなく、締結後の条項解釈・譲渡対価の再交渉・独占交渉条項・秘密保持条項への違反・交渉終了時の損害賠償などに関するご相談にも対応しています。
対応内容は、M&Aトラブルに関する総合案内をご確認ください。弁護士費用については、弁護士費用一覧に掲載しています。
お問い合わせ
基本合意書を含むM&A契約書の作成・チェックや契約交渉のほか、締結後に生じた問題については、当事務所へご相談ください。M&Aを重点的に取り扱う弁護士が、取引の状況とご相談内容を確認したうえで対応します。

